特許第5655128号(P5655128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5655128
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】水回収方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20060101AFI20141218BHJP
   C02F 1/469 20060101ALI20141218BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20141218BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20141218BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20141218BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C02F1/46 101Z
   C02F1/46 103
   C02F1/42 C
   C02F1/42 A
   C02F1/42 B
   B01D61/44 520
   B01D61/58
   C02F5/00 610C
   C02F5/00 620B
【請求項の数】20
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-221425(P2013-221425)
(22)【出願日】2013年10月24日
【審査請求日】2013年11月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】松本 千誉
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】織田 信博
【審査官】 小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−075259(JP,A)
【文献】 国際公開第99/007641(WO,A1)
【文献】 特開平06−262172(JP,A)
【文献】 特開2010−119963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00− 1/78
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を処理して処理水を生産水として回収する方法において、
該排水を軟化装置で処理して該排水中の硬度成分を除去する軟化工程と、
該軟化工程で得られた軟化処理水を、高温高圧電解装置にて、100℃以上であって、該軟化処理水の臨界温度以下の温度において、該軟化処理水が液相を維持する圧力下、直流電流を供給して電気分解することにより、該軟化処理水中の被酸化性物質を分解する高温高圧電解工程と、
該高温高圧電解工程で得られた電解処理水を触媒分解装置を経ることなく電気透析装置で処理する工程とを備え、
該電気透析工程は上流側の脱塩用電気透析装置と下流側の酸・アルカリ製造用電気透析装置のみから構成されるものであり、
該高温高圧電解工程で得られた電解処理水を該脱塩用電気透析装置で処理して、該電解処理水からイオン類を除去した脱塩水よりなる生産水と塩分濃縮液とを得る脱塩電気透析工程と、
該脱塩電気透析工程で得られた塩分濃縮液を更に該酸・アルカリ製造用電気透析装置で処理して脱塩水と酸溶液とアルカリ溶液とを得る酸・アルカリ製造電気透析工程と、
を備えることを特徴とする水回収方法。
【請求項2】
請求項1において、前記排水は閉鎖系空間で生じたものであることを特徴とする水回収方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記高温高圧電解工程において、導電性ダイヤモンド電極を備える高温高圧電解装置を用い、200℃以上、5MPa以上の高温高圧下で電気分解することを特徴とする水回収方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置は、円筒状の配管型容器内に、被処理水の流れ方向に延在するようにかつ該容器と絶縁して陽極が設けられてなり、該容器を陰極として電気分解が行われることを特徴とする水回収方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置に、前記軟化処理水が一過式で通液されることを特徴とする水回収方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置に、複数個の反応容器を直列に連結してなる反応容器群が1列、或いは2列以上並列に設けられていることを特徴とする水回収方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置における昇圧は、該電解装置の入口側に設けられた高圧ポンプによる送液と該電解装置の出口側に設けられた背圧バルブの調整によって行われることを特徴とする水回収方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置に流入する前記軟化処理水と前記電解処理水とを高圧条件下で熱交換することによって、前記軟化処理水を加熱する熱交換工程を有することを特徴とする水回収方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記酸・アルカリ製造電気透析工程で得られた酸溶液とアルカリ溶液を用いて前記軟化装置を再生する再生工程を備えることを特徴とする水回収方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記酸・アルカリ製造電気透析工程で得られた脱塩水の一部又は全部を、前記脱塩電気透析工程において、前記電解処理水と共に処理することを特徴とする水回収方法。
【請求項11】
排水を処理して処理水を生産水として回収する装置において、
該排水中の硬度成分を除去する軟化装置と、
該軟化装置の軟化処理水を、100℃以上であって、該軟化処理水の臨界温度以下の温度において、該軟化処理水が液相を維持する圧力下、直流電流を供給して電気分解することにより、該軟化処理水中の被酸化性物質を分解する高温高圧電解装置と、
該高温高圧電解装置で得られた電解処理水が触媒分解装置を経ることなく導入される電気透析装置であって、上流側の脱塩用電気透析装置と下流側の酸・アルカリ製造用電気透析装置のみから構成される電気透析装置とを備え、
該上流側の脱塩用電気透析装置は、高温高圧電解装置で得られた電解処理水を処理して、該電解処理水からイオン類を除去した脱塩水よりなる生産水と、塩分濃縮液とを得る装置であり、
該下流側の酸・アルカリ製造用電気透析装置は、該脱塩用電気透析装置で得られた塩分濃縮液を処理して脱塩水と酸溶液とアルカリ溶液とを得る装置である
ことを特徴とする水回収装置。
【請求項12】
請求項11において、前記排水は閉鎖系空間で生じたものであることを特徴とする水回収装置。
【請求項13】
請求項11又は12において、前記高温高圧電解装置は、導電性ダイヤモンド電極を備え、200℃以上、5MPa以上の高温高圧下で電気分解が行われることを特徴とする水回収装置。
【請求項14】
請求項11ないし13のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置は、円筒状の配管型容器内に、被処理水の流れ方向に延在するようにかつ該容器と絶縁して陽極が設けられてなり、該容器を陰極として電気分解が行われることを特徴とする水回収装置。
【請求項15】
請求項11ないし14のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置に、前記軟化処理水が一過式で通液されることを特徴とする水回収装置。
【請求項16】
請求項11ないし15のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置に、複数個の反応容器を直列に連結してなる反応容器群が1列、或いは2列以上並列に設けられていることを特徴とする水回収装置。
【請求項17】
請求項11ないし16のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置における昇圧は、該電解装置の入口側に設けられた高圧ポンプによる送液と該電解装置の出口側に設けられた背圧バルブの調整によって行われることを特徴とする水回収装置。
【請求項18】
請求項11ないし17のいずれか1項において、前記高温高圧電解装置に流入する前記軟化処理水と前記電解処理水とを高圧条件下で熱交換することによって、前記軟化処理水を加熱する熱交換器を有することを特徴とする水回収装置。
【請求項19】
請求項11ないし18のいずれか1項において、前記酸・アルカリ製造用電気透析装置で得られた酸溶液とアルカリ溶液をそれぞれ前記軟化装置へ送給する配管を備え、該酸溶液とアルカリ溶液を用いて前記軟化装置が再生されることを特徴とする水回収装置。
【請求項20】
請求項11ないし19のいずれか1項において、前記酸・アルカリ製造用電気透析装置で得られた脱塩水の一部又は全部を、前記脱塩用電気透析装置の入口側へ返送する手段を備えることを特徴とする水回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケール成分、有機物、無機イオン等を含む排水、特に、閉鎖系空間で生じた人体排出水、生活排水などの排水を処理して水を回収する水回収方法及び装置に関するものである。詳しくは、本発明は、核シェルター、災害避難所、宇宙ステーション又は月・火星ミッションの有人宇宙船、月面基地などの閉鎖系空間で生じる排水を、この閉鎖系空間内において、簡易な構成の装置で効率的に処理する水回収方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核シェルター、災害避難所、宇宙ステーション又は月・火星ミッションの有人宇宙船、月面基地などの閉鎖系空間で発生した尿などの人体排出水や生活排水をこの閉鎖系空間内で処理して水回収を図る場合、
(1) 宇宙空間などでは重力が微少であるため、重力による気液分離、固液分離は困難である。
(2) 閉鎖系空間であるため、放出ガス種や放出量に制限がある。
(3) 高い水回収率が要求され、また消費電力や設置スペースを小さくする必要がある。
といった制約がある。
【0003】
このような制約に対して、膜蒸留法(特許文献1)が提案されているが、膜蒸留法では以下のような問題がある。即ち、被処理排出物には揮発性のものもあり、このような排出物は蒸留や膜蒸留では除去し得ない;硬度成分を含む排水を蒸発させるとスケール障害が起こる;排出物には通常たんぱく質などの有機物が含まれているので、ファウリングが起こり膜蒸留性能を低下させる;基本的な操作は蒸発なのでエネルギー消費量が大きい。
【0004】
また、膜蒸留の前処理として膜式活性汚泥処理を行う方法(特許文献2)も提案されているが、この方法では運転条件が適正値を外れると微生物が失活し易く、一旦微生物が失活してしまうと元に戻らない;活性汚泥は有機物の1/3〜1/2を汚泥としてしまうため、貴重な水を含んだ汚泥が廃棄物となる;などの問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するものとして、硬度成分粗取り装置、軟化装置、電解装置、触媒分解装置、及び電気透析装置から構成される水回収装置(特許文献3)が提案されている。
しかし、この水回収装置でも、電解装置の電流効率が低く、消費電力が大きい点に関して更なる改善が必要である;電解装置で酸素/水素の混合ガスが生成し、また、後段の電気透析装置への負荷となる次亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸等の塩素酸化物が生成するため、その対処のための手段を設置する必要がある;電解装置における電気分解で除去しきれなかった有機物や生成した過塩素酸等の酸化物質を処理するために、電解装置の後段に触媒分解装置を設ける必要があり、設置スペースやメンテナンス等を考慮するとより簡易な構成とすることが望まれる;電気透析装置においては、直接酸やアルカリを製造するため、システム全体の水回収率も低い水準となる;といった課題が残されている。
【0006】
一方、高温高圧下の電気分解によって、有機物や還元性物質を含有する水を処理すること(特許文献4)は公知であるが、閉鎖空間での水回収に適用することや尿素の分解についての示唆はなく、更には、閉鎖系空間内での水回収に際しての前段での処理や後段での処理に対する影響など、システムとして構築した際に生じる課題については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−095526号公報
【特許文献2】特開2010−119963号公報
【特許文献3】特開2013−075259号公報
【特許文献4】特許第3746300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、スケール成分、有機物、無機イオン等を含む排水、特に、核シェルター、災害避難所、宇宙ステーション又は月・火星ミッションの有人宇宙船、月面基地などの閉鎖系空間で生じた人体排出水、生活排水などの排水を、スケール発生による目詰まり、有機物によるファウリング等を懸念することなく、また、蒸発のような多量のエネルギーを消費することなく、簡易な構成の装置により効率的に処理する水回収方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、宇宙ステーション等の閉鎖系空間で発生した生活排水又は人体排出水等の排水を、軟化装置で処理して硬度成分を十分除去した後、高温高圧下での電気分解で有機物やアンモニアなどの被酸化性物質を分解し、その後電気透析装置でイオン類を除去して生産水と塩分濃縮液を得ること、すなわち、排水中の有機物や尿素、アンモニアなどの被酸化性物質を分解するに当たり、高温高圧下での電気分解を行うことで、以下の作用機構で上記課題を解決することができることを見出した。
高温高圧下での電気分解であれば、排水中の被酸化性物質を、後段の電気透析装置で直接除去することができる炭酸や有機酸、硝酸等のイオンに変換することができる。
この高温高圧下での電気分解で、排水中の有機物の一部は炭酸ガスに、アンモニアや硝酸の一部は分解されて窒素ガスとなる。そのため、特許文献3における電解装置の後段の触媒分解装置を不要とすることが可能となる。また、高圧下では、その圧力によって、電気分解で発生するガスが水に溶解し、気泡による電極面への被分解物接触妨害を抑制することができる。また、高温で処理することによって熱分解の効果を利用するとともに物質移動速度を高めることで、電気分解効率を高めることもできる。更には、水の電気分解で生じた水素と酸素のガスを、再度水に戻す反応を引き起こすことができるため、爆発性の高い水素/酸素の混合ガスから、酸素濃度を低減させることができ、副生ガスを、爆発限界値を下回る安全性の高いものとすることができる上に、水回収率を高いものとすることができる。また、電気分解での酸化物の生成が抑制されることから、電解装置の後段にある電気透析装置への負荷を低減することもできる。
更に、電解処理水を脱塩用電気透析装置で処理して、高温高圧下での電気分解で有機物やアンモニアが部分分解して生じた有機酸や硝酸イオン、残留したアンモニア、その他の無機イオンなどを、酸やアルカリを製造する前に除去して生産水と高濃度の塩分濃縮液とに分けることにより、生産水の回収効率を高めることができる。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 排水を処理して処理水を生産水として回収する方法において、該排水を軟化装置で処理して該排水中の硬度成分を除去する軟化工程と、該軟化工程で得られた軟化処理水を、高温高圧電解装置にて、100℃以上であって、該軟化処理水の臨界温度以下の温度において、該軟化処理水が液相を維持する圧力下、直流電流を供給して電気分解することにより、該軟化処理水中の被酸化性物質を分解する高温高圧電解工程と、該高温高圧電解工程で得られた電解処理水を触媒分解装置を経ることなく電気透析装置で処理する工程とを備え、該電気透析工程は上流側の脱塩用電気透析装置と下流側の酸・アルカリ製造用電気透析装置のみから構成されるものであり、該高温高圧電解工程で得られた電解処理水を脱塩用電気透析装置で処理して、該電解処理水からイオン類を除去した脱塩水よりなる生産水と塩分濃縮液とを得る脱塩電気透析工程と、該脱塩電気透析工程で得られた塩分濃縮液を更に酸・アルカリ製造用電気透析装置で処理して脱塩水と酸溶液とアルカリ溶液とを得る酸・アルカリ製造電気透析工程と、を備えることを特徴とする水回収方法。
【0012】
[2] [1]において、前記排水は閉鎖系空間で生じたものであることを特徴とする水回収方法。
【0014】
] [1]又は2]において、前記高温高圧電解工程において、導電性ダイヤモンド電極を備える高温高圧電解装置を用い、200℃以上、5MPa以上の高温高圧下で電気分解することを特徴とする水回収方法。
【0015】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置は、円筒状の配管型容器内に、被処理水の流れ方向に延在するようにかつ該容器と絶縁して陽極が設けられてなり、該容器を陰極として電気分解が行われることを特徴とする水回収方法。
【0016】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置に、前記軟化処理水が一過式で通液されることを特徴とする水回収方法。
【0017】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置に、複数個の反応容器を直列に連結してなる反応容器群が1列、或いは2列以上並列に設けられていることを特徴とする水回収方法。
【0018】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置における昇圧は、該電解装置の入口側に設けられた高圧ポンプによる送液と該電解装置の出口側に設けられた背圧バルブの調整によって行われることを特徴とする水回収方法。
【0019】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置に流入する前記軟化処理水と前記電解処理水とを高圧条件下で熱交換することによって、前記軟化処理水を加熱する熱交換工程を有することを特徴とする水回収方法。
【0020】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記酸・アルカリ製造電気透析工程で得られた酸溶液とアルカリ溶液を用いて前記軟化装置を再生する再生工程を備えることを特徴とする水回収方法。
【0021】
10] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記酸・アルカリ製造電気透析工程で得られた脱塩水の一部又は全部を、前記脱塩電気透析工程において、前記電解処理水と共に処理することを特徴とする水回収方法。
【0022】
11] 排水を処理して処理水を生産水として回収する装置において、該排水中の硬度成分を除去する軟化装置と、該軟化装置の軟化処理水を、100℃以上であって、該軟化処理水の臨界温度以下の温度において、該軟化処理水が液相を維持する圧力下、直流電流を供給して電気分解することにより、該軟化処理水中の被酸化性物質を分解する高温高圧電解装置と、該高温高圧電解装置で得られた電解処理水が触媒分解装置を経ることなく導入される電気透析装置であって、上流側の脱塩用電気透析装置と下流側の酸・アルカリ製造用電気透析装置のみから構成される電気透析装置とを備え、該上流側の脱塩用電気透析装置は、高温高圧電解装置で得られた電解処理水を処理して、該電解処理水からイオン類を除去した脱塩水よりなる生産水と、塩分濃縮液とを得る装置であり、該下流側の酸・アルカリ製造用電気透析装置は、該脱塩用電気透析装置で得られた塩分濃縮液を処理して脱塩水と酸溶液とアルカリ溶液とを得る装置であることを特徴とする水回収装置。
【0023】
12] [11]において、前記排水は閉鎖系空間で生じたものであることを特徴とする水回収装置。
【0025】
13] [11又は12]において、前記高温高圧電解装置は、導電性ダイヤモンド電極を備え、200℃以上、5MPa以上の高温高圧下で電気分解が行われることを特徴とする水回収装置。
【0026】
14] [11]ないし[13]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置は、円筒状の配管型容器内に、被処理水の流れ方向に延在するようにかつ該容器と絶縁して陽極が設けられてなり、該容器を陰極として電気分解が行われることを特徴とする水回収装置。
【0027】
15] [11]ないし[14]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置に、前記軟化処理水が一過式で通液されることを特徴とする水回収装置。
【0028】
16] [11]ないし[15]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置に、複数個の反応容器を直列に連結してなる反応容器群が1列、或いは2列以上並列に設けられていることを特徴とする水回収装置。
【0029】
17] [11]ないし[16]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置における昇圧は、該電解装置の入口側に設けられた高圧ポンプによる送液と該電解装置の出口側に設けられた背圧バルブの調整によって行われることを特徴とする水回収装置。
【0030】
18] [11]ないし[17]のいずれかにおいて、前記高温高圧電解装置に流入する前記軟化処理水と前記電解処理水とを高圧条件下で熱交換することによって、前記軟化処理水を加熱する熱交換器を有することを特徴とする水回収装置。
【0031】
19] [11]ないし[18]のいずれかにおいて、前記酸・アルカリ製造用電気透析装置で得られた酸溶液とアルカリ溶液をそれぞれ前記軟化装置へ送給する配管を備え、該酸溶液とアルカリ溶液を用いて前記軟化装置が再生されることを特徴とする水回収装置。
【0032】
20] [11]ないし[19]のいずれかにおいて、前記酸・アルカリ製造用電気透析装置で得られた脱塩水の一部又は全部を、前記脱塩用電気透析装置の入口側へ返送する手段を備えることを特徴とする水回収装置。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、スケール成分、有機物、無機イオン等を含む排水を、スケール発生による目詰まり、有機物によるファウリング等を懸念することなく、また、蒸発のような多量のエネルギーを消費することなく、簡易な構成の装置により、効率的に処理して処理水を回収、再利用することが可能となる。このため、例えば宇宙ステーションや宇宙船等の宇宙空間において、人間の生命維持に不可欠な水を再利用することができ、宇宙での人間の長期滞在が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の水回収装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
図2】本発明で用いる脱塩用電気透析装置の構成とイオン移動を説明する模式的な断面図である。
図3】本発明で用いる酸・アルカリ製造用電気透析装置の構成とイオン移動を説明する模式的な断面図である。
図4】実験例1の結果を示すグラフである。
図5】実験例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、図面を参照して本発明の水回収方法及び装置の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施形態に限定されるものではない。
なお、以下においては、本発明を、主として、閉鎖系空間で発生した排水を処理して再利用するための水回収方法及び装置に適用した場合を例示して説明するが、本発明は、閉鎖系空間内で生じた排水の処理、回収に限らず、スケール成分、有機物、無機イオン等を含む様々な排水の処理、回収に適用することができる。
【0036】
図1は本発明の水回収装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
本発明においては、図1に示されるように、被処理水であるスケール成分、有機物、無機イオン等を含む排水、例えば閉鎖系空間内で生じた排水を、まず軟化装置1に導入して該排水中の硬度成分を除去し、軟化処理水を、高温高圧電解装置2にて高温高圧下に電気分解することにより、該軟化処理水中の被酸化性物質を分解除去し、電解処理水を脱塩用電気透析装置3で処理して該電解処理水からイオン類を除去した脱塩水よりなる生産水と、塩分濃縮液とを得る。
好ましくは更に、脱塩用電気透析装置3で得られた塩分濃縮液を酸・アルカリ製造用電気透析装置4で処理して脱塩水と酸溶液とアルカリ溶液とを得、得られた酸溶液とアルカリ溶液は、軟化装置1の再生に利用する。また、酸・アルカリ製造用電気透析装置4で得られた脱塩水の一部又は全部を、脱塩用電気透析装置3の入口側に返送して高温高圧電解装置2からの電解処理水と共にこの脱塩用電気透析装置3で処理する。
【0037】
<被処理水>
本発明において処理対象となる被処理水は、スケール成分、有機物、無機イオン等を含む排水であって、例えば、核シェルター、災害避難所、宇宙ステーション又は月・火星ミッションの有人宇宙船、月面基地などの閉鎖系空間で発生した人体排出水や生活排水などの排水が挙げられる。特に、本発明が好適に適用される閉鎖系空間としては、シェルター、宇宙ステーションや宇宙船等の宇宙空間が挙げられ、特に宇宙空間において本発明を有効に適用することができる。
【0038】
これらの閉鎖系空間から排出される排水は、主として空調関係の凝縮水や人体から排出される汗や尿などであり、Mg、Ca等のスケール成分、たんぱく質や尿素等の有機物、Na、K、Cl、SO、PO、NH、NO等の無機イオンが含まれている。
【0039】
なお、閉鎖系空間において発生する尿や各種の生活排水はそれぞれ水質が異なるため、本発明により水回収するに当たり、必要に応じてそれぞれの水種を単独で処理しても良いし、それらを予め混合して処理しても良い。また、処理工程の途中から特定の水種の被処理水を合流させることも可能である。これらの処理方法は処理効率を考慮して決めることが望ましい。
【0040】
一般的に前記被処理水のうち、スケール成分は尿に最も多く含まれるため、軟化装置1による硬度成分の除去は尿のみを処理対象とし、次工程の高温高圧電解装置2において、他の被処理水を合流させて処理してもよく、このようにすることにより、各工程における被処理水量を無駄に増やすことなく、効率的に処理することができる。
【0041】
<軟化処理>
本発明においては、閉鎖系空間で生じた上記のような排水からまず硬度成分を除去する。この軟化処理には、Na型の強酸性カチオン交換樹脂もしくは弱酸性カチオン交換樹脂を用いることができ、以下のイオン交換反応で硬度成分が除去される。
CaX、MgX + R−Na → R=Ca、R=Mg + NaX
ここで、Xは陰イオンを、Rはイオン交換樹脂交換基を示す。
【0042】
通常、軟化装置1としては、Na型強酸性カチオン交換樹脂もしくは弱酸性カチオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂塔が用いられる。その処理条件には特に制限はないが、通常、処理温度は20〜40℃、通液SV(空間速度)は5〜20hr−1である。
【0043】
この軟化処理により、被処理水中の2価のMg、Ca等のスケール成分が除去されるため、後段の高温高圧電解装置2において、スケールの発生が抑制され、電流が効率良く流れるようになる。
【0044】
<高温高圧下における電気分解>
上記の軟化処理で被処理水中の硬度成分を除去した軟化処理水は、次いで高温高圧電解装置2で電気分解することにより、排水中に含まれている有機物、尿素、アンモニアなどの被酸化性物質が分解除去される。排水中に含まれるこれらの被酸化性物質のうち具体的なTOC濃度は100〜20000mg/L程度であり、尿を対象とする場合は1000〜10000mg/L、通常5000〜7000mg/L程度である。
【0045】
高温高圧電解装置2に適用される反応容器としては、次のようなものが好ましい。
一端側に被処理水の入口、他端側に電解処理水の出口を設けた配管などの円筒形の容器(円筒状配管型容器)の内部に、陽極を、被処理水(軟化処理水)の流れと平行方向に、かつ容器と絶縁するように離隔して設置し、配管自体を陰極として、陽極、陰極間に直流電源を接続する。円筒形の容器は、角筒形等の他の形状の容器に比べて内圧に対して強度を保持しやすく、反応容器の肉厚を薄くすることができ、装置の小型化が可能となる。また、電極を被処理水の流れに対して平行に設置することで、発生した気泡を処理水とともに容器外へ押し出すことが可能となり、電極への気泡付着を抑制し、反応効率を高めることができる。
【0046】
高温高圧電解装置の陰極(即ち、反応容器の内壁)の構成材料としては、例えばハステロイ、インコロイ等のニッケル基合金;チタン基合金;炭素鋼、ステンレス鋼等の鋼材等を用いることができる。また、白金等の金属で被覆されたものであってもよい。
また、陰極は導電性ダイヤモンド電極からなるものであってもよく、導電性ダイヤモンド電極であれば、化学的安定性に優れ、電流効率が高く、電解効率の面で好ましい。この場合、ニオブ、タングステン、ステンレス、モリブデン、白金、イリジウム等の金属からなる基材に導電性ダイヤモンドの被覆層を形成したものとすることができる。
【0047】
陽極は、陽極と陰極となる反応容器内壁との距離が均等となるように設けられることが好ましい。この距離にばらつきがある場合には、距離が短い部分に局部的に過大な電流が流れ、その部分の陽極の劣化が促進されることとなり好ましくない。本発明では、円筒状配管型容器内に、平板状、円柱形状又は円筒形状の陽極を、その中心軸が反応容器の内壁の中心軸と実質的に一致するように設けることが好ましい。
【0048】
陽極は、1枚又は複数枚の平板状のものをそのまま設置してもよいし、メッシュ又は網を円筒形状に形成したものでもよいし、板を円筒形状に形成したものでもよいし、棒状体であってもよい。
陽極としては、少なくともその表面が、ルテニウム、イリジウム、白金、パラジウム、ロジウム、錫若しくはこれらの酸化物又はフェライトであるものが好ましい。陽極そのものがこれらの物質で構成されていてもよいし、陽極の基材の表面がこれらの物質で被覆されていてもよい。
陽極を構成するルテニウム、イリジウム、白金、パラジウム、ロジウム、錫は、金属元素そのものであってもよいし、酸化物であってもよい。また、これらの金属の合金も好適に用いられる。合金としては、例えば、白金−イリジウム、ルテニウム−錫、ルテニウム−チタンなどが挙げられる。上記した金属等は、耐食性に優れており、陽極として用いる場合に優れた不溶性を示す。
【0049】
陽極もまた陰極と同様の理由から導電性ダイヤモンド電極からなるものであってもよく、この場合、陽極全体が導電性ダイヤモンドから構成されるものであってもよく、シリコン、ニオブ、タングステン、ステンレス、モリブデン、白金、イリジウム等の金属、或いは、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化モリブデン、炭化タングステン等の非金属等からなる基材に導電性ダイヤモンドの被覆層を形成したものであってもよい。TOCの分解は特に陽極で起こるため、陽極に導電性ダイヤモンド電極を用いることにより、TOCを効率的に分解することができる。
【0050】
本発明において、高温高圧下とは、100℃以上であって、被処理水の臨界温度以下の温度において、該被処理水が液相を維持する圧力であり、通常100〜374℃、好ましくは200〜250℃で、通常2〜20MPa、好ましくは5〜10MPaである。特に、電気分解時の温度が200℃以上であると、たんぱく質や尿素の分解効率が向上する。
【0051】
また、高温高圧下での電解条件は、被処理水の水質や用いる電極の種類、反応容器の構成等によっても異なるが、通常供給する直流電流は2〜30A、好ましくは5〜20A程度であり、電流密度は0.1〜500A/dm、好ましくは1〜50A/dmであり、電解時間は通常0.5〜30hr、好ましくは5〜20hrである。従って、被処理水を円筒状配管型容器の一端側から他端側へ通液して電気分解を行う一過式通液型の反応容器にあっては、被処理水の反応容器内の滞在時間が上記の好適な電解時間となるように流速を調節することが好ましい。
なお、高温高圧電解装置における具体的な線速は0.1〜50m/hr、好ましくは1〜20m/hrである。低温低圧での電気分解の場合には、電極に気泡が溜まるため、この気泡を取り除くために線速を大きくする必要があったが、高温高圧下での電気分解では、このような気泡の発生が抑制されるため、線速を大きくする必要はなく、装置の小型化を図ることができる。
【0052】
このような高温高圧条件下での電気分解により、以下の反応で有機物や尿素、アンモニア等を分解するが、その際、本発明では上記の高温高圧条件で電気分解を行うために、電気分解時における酸素ガスや水素ガスの発生を抑制するとともに、過塩素酸等の酸化物質の生成を抑制することができる。また、酸素と水素から水を生成する条件に設定することで、水回収率を向上させることができる。
有機物→(酸化)→有機酸、CO
尿素→NH+CO2−
2NH+3HClO→N+3HO+3HCl
上記の反応で生じた次亜塩素酸を利用して、たんぱく質等の有機物や尿素を分解し、後段の脱塩用電気透析装置3で除去可能な有機酸、アンモニア等のイオンに変換することができる。このように、本発明によれば、高温高圧電解装置2において、後段の電気透析装置3や、後述の電気再生式脱イオン装置では除去し得ない尿素を、高温高圧下の電気分解でアンモニアと炭酸に分解除去することができる。なお、上記反応式中、HClOは被処理水(排水)に含まれる塩素イオンの電解反応(2Cl+HO→HClO+HCl+2e)により発生したものである。
【0053】
通常の電気分解では、無機イオンが酸化され、ClOやClO等の過塩素酸が生成するが、本発明では、高温高圧条件で処理することにより、これらの酸化物質の生成が抑えられ、更に後段の脱塩用電気透析装置3の負荷となるClOやClO等の過塩素酸の生成を抑制することができるため、前述の特許文献3のように、高温高圧電解装置2の後段に当該過塩素酸等を分解するための触媒分解装置を設置する必要がなくなり、電解処理水を、他の水処理手段を経ることなく、脱塩用電気透析装置3に直接供給することが可能となる。
【0054】
このような高温高圧下の電気分解においては、電解処理水を高圧条件下で被処理水と熱交換することにより、加温エネルギーの削減を図ることができる。従って、高温高圧電解装置2に流入する軟化処理水と、高温高圧電解装置2から流出する電解処理水とをその高圧条件を維持して熱交換させる熱交換器を設けることが好ましい。
【0055】
また、高温高圧電解装置2の被処理水の昇圧においては、ガスを用いた昇圧などが考えられるが、閉鎖系空間内では設備、スペースなどが限られているため、ポンプを用いて昇圧することで目的の圧力を設定することによって装置の小型化、省スペース化が達成される。この場合、電気分解時の圧力は、被処理水を昇圧して高温高圧電解装置2に送液する高圧ポンプと高温高圧電解装置2の処理水出口に設けた背圧バルブの調整により制御することができる。
【0056】
本発明において、高温高圧電解装置2は、被処理水を一過式で通液して処理するものであることが、循環式の場合に比べて設備コストや消費電力を抑えることができ、好ましい。即ち、循環式では、高圧を維持して循環する場合には、タンクを高圧仕様にする必要があり、また、圧を開放して循環する場合には、昇圧を繰り返す必要があり、通液ポンプの消費電力が過大となるが、一過式であればこのような問題が解消される。また、高温高圧電解装置2は、前述の円筒状配管型の反応容器を複数個直列に連結して設置したものであってもよく、また、反応容器を複数個直列に連結した反応容器群を複数列並列に設置したものであってもよく、このようにして反応容器を複数個設けることにより、高温高圧電解装置2の処理水量、有機物等の分解量を高めることができる。また、各反応容器の入り口の有機物濃度に合わせ、各反応容器の電流条件を最適化することで、電流効率の向上、印加電圧の低減を図ることができ、消費電力を抑えることができる。
【0057】
<脱塩処理>
本発明においては、特許文献3におけるような触媒分解装置を設けずに、高温高圧電解装置2の後段に、電解処理水からイオン類を除去して生産水(脱塩処理水)と塩分濃縮液とに分離する脱塩用電気透析装置3を設置する。これにより、被処理水中に含まれる塩分とともに、前段の高温高圧電解装置2で生成する有機酸やCOガス、アンモニア、硝酸等のイオン類を除去することができる。
【0058】
この脱塩用電気透析装置は、図2に示すように、陽極と陰極の間に、それぞれ電極室及びバイポーラ膜BPMを介して濃縮室、アニオン交換膜AM、脱塩室、カチオン交換膜CM、濃縮室………………の繰り返し単位が、両極側が濃縮室となるように設けられた2室型の電気透析装置である。脱塩用電気透析装置3では、脱塩室内を通過する被処理水中の塩類(XY)を構成する陰イオンX及び陽イオンYがそれぞれアニオン交換膜AM、カチオン交換膜CMを透過して濃縮室内に濃縮されることにより、脱塩室からは塩分が除去された脱塩水が得られ、一方、濃縮室からは、塩分濃縮液が得られる。脱塩室からの生産水はそのまま飲料用として用いることが可能である。また、濃縮室からの塩分濃縮液は後段の酸・アルカリ製造用電気透析装置4に供給することで、被処理水中の成分の有効利用が可能となる。なお、脱塩用電気透析装置に供給される被処理水(電解処理水)の導電率は1000〜5000mS/m、特に2000〜3000mS/mの範囲にあり、脱塩により生産水として許容される水質は導電率として100mS/m以下であり、好ましくは10mS/m以下、より好ましくは5mS/m以下である。
【0059】
このような脱塩用電気透析装置3における電気透析処理の処理条件は特に制限はないが、処理温度は20〜40℃、圧力は0〜0.1MPa、線速は1〜100m/hr程度、流速は装置のサイズにより異なるが1〜100mL/min程度とすることが好ましい。
【0060】
なお、この脱塩用電気透析装置3は、高温高圧電解装置2と同様、一過式で通液処理されることが、循環方式の場合に比べて、水回収率を維持しつつ消費電力を下げることができ好ましい。
【0061】
<酸・アルカリ製造>
本発明では、脱塩用電気透析装置3の濃縮室から排出される塩分濃縮液から酸溶液とアルカリ溶液を製造する酸・アルカリ製造用電気透析装置4を設け。酸・アルカリ製造用電気透析装置4は、3室式の電気透析装置であり、図3に示すように、陽極と陰極の間に、それぞれ電極室及びバイポーラ膜BPMを介して、酸室、アニオン交換膜AM、脱塩室、カチオン交換膜CM、アルカリ室、………………………の繰り返し単位が、陽極側が酸室、陰極側がアルカリ室となるように設けられたものであり、図3の通り、被処理水中の陰イオンX及び陽イオンYがそれぞれアニオン膜AM又はカチオン膜CMを透過して酸室又はアルカリ室に移動し、脱塩室から脱塩水が得られると共に、酸室から酸溶液が、アルカリ室からアルカリ溶液が得られる。即ち、酸・アルカリ製造用電気透析装置4は、脱塩室に隣接する室が、陰イオンX及び陽イオンYが濃縮される濃縮室ではなく、陰イオンのみが濃縮され水中からHが生成する酸室と、陽イオンのみが濃縮され、水中からOHが生成するアルカリ室である点において、脱塩用電気透析装置3とは異なる構造とされている。
【0062】
酸・アルカリ製造用電気透析装置4で得られた脱塩水は、その一部を生産水として回収してもよい。また、この脱塩水の一部又は全部を前段の脱塩用電気透析装置3の入口側に返送し、電解処理水と共に脱塩処理することにより、水回収率を高めることができる。
なお、脱塩水の一部又は全部を前段の脱塩用電気透析装置3の入口に返送する場合には、酸・アルカリ製造用電気透析装置4において得られる脱塩水の水質が電解処理水と同程度の水質となるように処理すれば良い。
【0063】
一方、酸・アルカリ製造用電気透析装置4で得られた酸溶液、アルカリ溶液は、前段の軟化装置1の再生に利用することができる。即ち、酸溶液は、軟化装置1のNa型強酸性カチオン交換樹脂もしくは弱酸性カチオン交換樹脂の再生剤として利用することができ、アルカリ溶液は強酸性カチオン交換樹脂もしくは弱酸性カチオン交換樹脂のNa形化剤として利用することができる。
【0064】
このような酸・アルカリ製造用電気透析装置4における電気透析処理の処理条件は特に制限はないが、処理温度は20〜40℃、圧力は0〜0.1MPa、流速は50〜100m/hr程度、流速は装置のサイズにより異なるが1〜100mL/min程度とすることが好ましい。
【0065】
なお、この酸・アルカリ製造用電気透析装置4もまた、高温高圧電解装置2と同様一過式で通液処理してもよいが、循環方式とすることにより、酸、アルカリの回収率を高くすることができる。
【0066】
本発明においては、前述の通り、高温高圧下での電気分解を行うことにより、電気透析装置の負荷となる塩素酸化物を大幅に低減させることができる上に、上記のように、脱塩のための電気透析装置3と、酸・アルカリ製造のための電気透析装置4とで2段の電気透析を行うことにより、無機イオンの濃度を著しく低減して、前段の脱塩用電気透析装置3から清澄な脱塩水を生産水として得ることができる。即ち、電気透析装置による電気透析を1段で処理する場合と2段で処理する場合とでは、生産水(脱塩水)と膜を隔して隣り合う水溶液(濃縮液)の濃度が異なり、1段で処理する場合は、1段の電気透析装置のみで塩類を高度に除去しようとするため、濃度の濃い酸溶液又はアルカリ溶液となるが、2段で処理する場合は、後段の電気透析装置でもイオン除去を行うため、比較的濃度の薄い濃縮液となる。このため、2段の場合、脱塩室内の脱塩水と膜隔を隔てた濃縮室内の濃縮液との濃度差が小さく、この結果、清澄な生産水を得ることができる。
【0067】
<その他>
脱塩用電気透析装置3から得られた生産水は、そのままで十分に清澄なものとなるが、より水質を向上させることを目的として、逆浸透膜や電気再生式脱イオン装置により処理してもよい。その場合、逆浸透膜分離装置や電気再生式脱イオン装置による処理で排出される濃縮液は、脱塩用電気透析装置3の入口側へ返送して循環処理することができる。
なお、循環式の装置とは、当該装置の流出水を当該装置の入口側へ返送して再度当該装置で処理する方式の装置をさし、一過式の装置とは、当該装置の流出水を当該装置及びその上流側へ返送することなく、後段の装置へ送給する装置をさす。いずれの方式の装置にあっても、装置間にタンクを設けてもよく、配管により送液するようにしてもよい。
【実施例】
【0068】
以下に実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、以下の実施例及び比較例においては、各装置間にタンクを設置し、循環する場合は各装置の前段にあるタンクを介して水を循環させている。
【0069】
[実験例1]
尿素、タンパク質、糖類等の有機物をTOC濃度で6500mg/L含む合成排水を被処理水として用い、下記仕様の電解装置により、250℃、7MPaの高温高圧下、或いは70℃、大気圧の低温常圧下で、バッチ循環式にて電気分解を行った。電流値は1.2Aとした。
【0070】
<電解装置>
反応容器:一端側に被処理水の流入口、他端側に処理水の流出口を有する円筒状配管型反応容器(内径8mm、長さ140mm)
陽極:反応容器の中心に、同軸状に設けられた幅6mm、長さ120mmの板状導電性ダイヤモンド電極
陰極:反応器内壁を兼ねる導電性チタン配管
【0071】
所定の電解処理時間毎に、反応容器内の電解処理水を採取してTOC濃度を調べ、各電解条件における投入電流量(被処理水1L当たりの電流量)と、電解処理水のTOC濃度との関係を図4に示した。
【0072】
図4より、同じ投入電流量であっても、高温高圧条件で電気分解を行うことにより、TOCの分解を効率良く行うことができることが分かる。なお、電流密度は、TOC分解率/消費電力の観点からは、低いほど単位電流量あたりのTOC分解量が多く、印加電圧を低くすることができるため好ましく、装置の小型化の観点からは、電流密度が高いほど好ましいが、高温高圧電気分解の場合には、電流密度を上げても、TOC分解効率を維持することができるため、装置の小型化が可能となる。
【0073】
[実験例2]
実験例1において、電解処理時の圧力を7MPaで一定とし、電解温度を100℃、150℃、200℃又は250℃に変化させて1時間電気分解を行った(投入電流量20Ahr/L)こと以外は、同様にして被処理水の電気分解を行い、電解処理水のTOC濃度から、電気分解によるTOC分解率を調べ、結果を図5に示した。
【0074】
図5より、電気分解時の温度の増加に伴いTOCの分解率は向上し、特に200℃以上になると、分解効率が顕著に良くなることがわかる。そのため、尿中のたんぱく質や尿素などのTOC成分を効率的に分解するためには、200℃以上の高温条件で電解処理を行うことが好ましいと言える。
【0075】
[実施例1]
図1に示す水回収装置を用いて、表1−1に示す水質の被処理水を処理した。各装置の仕様、処理条件は次の通りである。
【0076】
<軟化装置>
Na型強酸性カチオン交換樹脂塔
温度:25℃
通液SV:10hr−1
<高温高圧電解装置>
実験例1で用いたものと同様(ただし、一過式連続通液処理とする。)
温度:250℃
圧力:7MPa
電流密度:10A/dm
通液線速:4m/hr
<脱塩用電気透析装置>
図2に示す構成の一過式通液型脱塩用電気透析装置
温度:室温
圧力:0.1MPa
電流密度:1A/dm
流速:2.5mL/min
<酸・アルカリ製造用電気透析装置>
図3に示す構成の循環式通液型酸・アルカリ製造用電気透析装置
温度:室温
圧力:0.1MPa
電流密度:1A/dm
流速:50mL/min
濃縮液:酸室からの酸溶液はその全量を酸室の入口側へ循環し、アルカリ室からの
アルカリ溶液はその全量をアルカリ室の入口側へ循環する。
脱塩水:全量を脱塩用電気透析装置に返送する。
【0077】
軟化処理水、高温高圧電解処理水、生産水(脱塩用電気透析装置の脱塩水)の水質を調べ、結果を表1−1に示した。
また、消費電力(9L/日処理したときのシステム消費電力)と、水回収率(被処理水に対する生産水の割合)を表3に示した。なお、電解処理水のTOC濃度は1mg/L以下、生産水は導電率2mS/m以下、脱塩水(酸・アルカリ製造用電気透析装置の処理水)は導電率2000mS/m以下となるように処理した。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、高温高圧電解装置及び脱塩用電気透析装置をそれぞれ循環式通液型とし、高温高圧電解装置においては、電解処理水のTOC濃度が所定値(1mg/L)以下になるまで循環し、脱塩用電気透析装置においては、生産水の水質が所定値(2mS/m)以下になるまで循環したこと以外は同様にして、表1−2に示す水質の被処理水を処理した。
得られた軟化処理水、高温高圧電解処理水、生産水(脱塩用電気透析装置の脱塩水)の水質を調べ、結果を表1−2に示した。
また、消費電力と、水回収率(被処理水に対する生産水の割合)を表3に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
[比較例1]
特許文献3に記載される軟化装置→電解装置→触媒分解装置→酸・アルカリ製造用電気透析装置よりなる水回収装置で、表2−1に示す水質の被処理水の処理を行った。装置の仕様、処理条件は次の通りである。
【0081】
<軟化装置>
Na型強酸性カチオン交換樹脂塔
温度:25℃
通液SV:10hr−1
<電解装置>
実験例1で用いたものと同様(ただし、一過式連続通液処理とする。)
温度:70℃
圧力:0.1MPa
電流密度:2A/dm
通液線速:10m/hr
<触媒分解装置>
Pt触媒を用いた触媒分解装置
温度:室温
通水SV:10hr−1
<酸・アルカリ製造用電気透析装置>
図3に示す構成の循環式通液型酸・アルカリ製造用電気透析装置
温度:室温
圧力:0.1MPa
電流密度:1A/dm
流速:50mL/min
脱塩水:生産水である脱塩水の水質が所定値(2mS/m)以下になるまで
循環する。
【0082】
得られた軟化処理水、電解処理水、触媒分解処理水、生産水(酸・アルカリ製造用電気透析装置の脱塩水)の水質を調べ、結果を表2−1に示した。
また、消費電力と、水回収率(被処理水に対する生産水の割合)を表3に示した。なお、電解処理水のTOC濃度は1mg/L以下、生産水は導電率2mS/m以下となるように処理した。
【0083】
[比較例2]
比較例1において、電解装置を循環式通液型とし、電解装置においては、線速を150m/hrとし、電解処理水のTOC濃度が所定値(1mg/L)以下になるまで循環したこと以外は同様にして、表2−2に示す水質の被処理水を処理した。
得られた軟化処理水、電解処理水、触媒分解処理水、生産水(酸・アルカリ製造用電気透析装置の脱塩水)の水質を調べ、結果を表2−2に示した。
また、消費電力と、水回収率(被処理水に対する生産水の割合)を表3に示した。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
実施例1,2及び比較例1,2の結果より次のことが分かる。
実施例1,2の本発明法においては、電解装置の電解条件を高温高圧とすることによって後段の電気透析装置への負荷となる遊離塩素、塩素酸、過塩素酸を低減させることができるとともに、異なる2段の電気透析を行うことで、無機イオンの濃度を極めて低減させることができた。
特に、高温高圧電解装置及び脱塩用電気透析装置において循環を行わずに一過式で処理を行った実施例1では、生産水の水質も循環を行った実施例2に比べて良好であり、また、水回収率は同等であるが、消費電力量は低い結果が得られた。
比較例1,2の従来法においても、生産水のTOC濃度は許容範囲にまで低減できるが、生産水の水質は実施例1,2よりも低く、また、実施例1,2では、これらの比較例1,2に比べて消費電力量や水回収率の面で格段によい結果を示し、本発明法が宇宙空間等の閉鎖空間系で用いる場合において非常に有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上のように、本発明の水回収方法及び装置によれば、小型で簡易な構成の装置により生活排水や人体排出水から不純物を取り除いて再利用することができるため、本発明は特に、宇宙ステーションの生命維持装置に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 軟化装置
2 高温高圧電解装置
3 脱塩用電気透析装置
4 酸・アルカリ製造用電気透析装置
AM アニオン交換膜
CM カチオン交換膜
BPM バイポーラ膜
【要約】
【課題】スケール成分、有機物、無機イオン等を含む排水、特に、核シェルター、災害避難所、宇宙ステーション又は月・火星ミッションの有人宇宙船、月面基地などの閉鎖系空間で生じた人体排出水、生活排水などの排水を、簡易な構成の装置により効率的に処理して水回収する。
【解決手段】人体排出水などの被処理水から軟化装置1で硬度成分を除去した後、高温高圧電解装置2で、高温高圧下での電気分解により有機物、尿素、アンモニアなどを分解除去し、電解処理水を脱塩用電気透析装置3で脱塩処理して生産水を得るとともに塩分濃縮液を得る。更に、塩分濃縮液を酸・アルカリ製造用電気透析装置4で処理して脱塩水と酸溶液とアルカリ溶液を製造する。酸溶液は軟化装置1の再生剤として、アルカリ溶液は軟化装置1のNa形化剤として利用する。脱塩水は脱塩用電気透析装置3で処理する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5