【実施例】
【0127】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
なお、相転移温度の測定は温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡及び示差走査熱量計(DSC)を併用して行った。また、化合物の構造は核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外共鳴スペクトル(IR)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)等により確認した。各化合物の比抵抗値は、各化合物を測定用セルに入れ、電圧(DC)1V印加時の抵抗値を測定して得た。
【0129】
以下の略語を用いた。
THF:テトラヒドロフラン
(実施例1) シス-1-エチル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサン(I-A)の製造
【0130】
【化45】
【0131】
(実施例1-1) 4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシルカルバルデヒドの製造
塩化メトキシメチルトリフェニルホスホニウム(170 g)をTHF(700 ml)中、懸濁している中に、t-ブトキシカリウム(58 g)を、内温5〜10℃に保ちながら少しずつ加えた後、そのままの温度で30分間撹拌した。4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサノン(100 g)のTHF(200 ml)溶液を、内温5〜10℃に保ちながら滴下して加えた後、そのままの温度で30分間撹拌し、さらに室温で30分間撹拌を続けた。反応液を氷水とヘキサンの混合物に滴下して、反応を終了させた。析出した固体を濾別した後、固体をヘキサンで洗浄した。有機相を合わせ、50%メタノール水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を留去し、減圧乾燥することにより、淡黄色液体(114 g)を得た。得られた液体をTHF(570 ml)中、攪拌している中に、10%塩酸水溶液(200 ml)を加えた後、60℃で4時間撹拌した。ヘキサンを加えた後、有機相を分離した。有機相を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を留去し、減圧乾燥することにより、微黄色液体の目的物(104 g)を得た。
(実施例1-2) 1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンの製造
臭化メチルトリフェニルホスホニウム(173 g)をTHF(700 ml)中、懸濁している中に、t-ブトキシかリム(57 g)を、内温5〜10℃に保ちながら少しずつ加えた後、そのままの温度で30分間撹拌した。(実施例1-1)で得られた4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシルカルバルデヒド(104 g)のTHF(200 ml)溶液を、内温5〜10℃に保ちながら滴下して加えた後、そのままの温度で30分間撹拌し、さらに室温で30分間撹拌を続けた。反応液を氷水とヘキサンの混合物に滴下して、反応を終了させた。析出した固体を濾別した後、固体をヘキサンで洗浄した。有機相を合わせ、50%メタノール水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を留去し、カラム(シリカゲル/ヘキサン)で精製することにより、無色透明液体の目的物(99 g)を得た。
(実施例1-3) シス-1-エチル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサン(I-A)の製造
(実施例1-2)で得られた1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサン(99 g)のエタノール/酢酸エチル混合溶液(250 ml/250 ml)に、5%パラジウム炭素(50%含水品、5 g)を加えた後、水素圧下(0.5 MPa)、室温で4時間攪拌した。触媒を濾別し、溶媒を留去し、1-エチル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンのシス/トランス比8/2の混合物を得た。得られた混合物を再結晶(ジクロロメタン+アセトン)し、結晶側にシス/トランス比5/95の混合物、母液側にシス/トランス比9/1の混合物を得た。得られた母液を、カラム(シリカゲル+アルミナ/ヘキサン)を用いて精製し、さらに減圧蒸留することにより、無色の液体(20 g)を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl
3) δ 0.96 (t,CH
3, 6H), 0.84-1.46 (m,CH+CH
2, 21H), 1.54-1.96 (m, CH, 5H)、GC-MS(EI) 236(M
+)
また、化合物(I-A)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の高い値を示した。
(実施例2) シス,トランス-ビス(4-プロピルシクロヘキシルメチル)エタン(I-B)の製造
【0132】
【化46】
【0133】
(実施例2-1) 4-プロピルシクロヘキシルカルバルデヒドの製造
(実施例1-1)における4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサノンに代えて、4-プロピルシクロヘキサノンを用いることにより、目的物を得た。
(実施例2-2) 1-(トランス-4-プロピルシクロヘキシルメチル)-2-(4-プロピルシクロヘキシルメチル)エテンの製造
(実施例1-2)における4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシルカルバルデヒドに代えて、(実施例2-1)で得られた4-プロピルシクロヘキシルカルバルデヒドを用い、臭化メチルトリフェニルホスホニウムに代えて、臭化(トランス-4-プロピルシクロヘキシルメチル)トリフェニルホスホニウムを用いることにより目的物を得た。
(実施例2-3) シス,トランス-ビス(4-プロピルシクロヘキシルメチル)エタン(I-B)の製造
(実施例1-3)における1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンに代えて、(実施例2-2)で得られた1-(トランス-4-プロピルシクロヘキシルメチル)-2-(4-プロピルシクロヘキシルメチル)エテンを用いることにより目的物を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl
3) δ 0.96 (t,CH
3, 6H), 0.80-1.46 (m,CH+CH
2, 27H), 1.54-1.96 (m, CH, 5H)、GC-MS(EI) 250(M
+)
また、化合物(I-B)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の高い値を示した。
(実施例3) シス-1-プロピル-4-トリルシクロヘキサン(I-C)の製造
【0134】
【化47】
【0135】
(実施例3-1) 1-ヒドロキシ-4-プロピル-1-トリルシクロヘキサンの製造
(以下、窒素雰囲気下で行う。)マグネシウム末(20 g)をTHF(100 ml)中、激しく攪拌している中に、4-ブロモトルエン(134 g)のTHF溶液(540 ml)を自発的に還流する速度で、滴下して加えた。滴下後、室温で1時間攪拌し続けた後、4-プロピルシクロヘキサノン(100 g)のTHF溶液(200 ml)を滴下して加えた。滴下後、室温で1時間攪拌し続けた後、濃塩酸と氷の混合物に滴下して加えて反応を停止させた。反応液の有機相を分離し、水層からトルエンで抽出した。有機相を集めた後、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、微黄色の液体(164 g)を得た。
(実施例3-2) 1-トリル-4-プロピルシクロヘキセンの製造
(実施例3-1)で得られた1-ヒドロキシ-4-プロピル-1-トリルシクロヘキサン(164 g)のトルエン溶液(640 ml)に、4-トルエンスルホン酸一水和物(8 g)を加えた後、留去する水分を除去しながら4時間加熱還流した。室温まで冷却した後、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム(シリカゲル/トルエン)を用いて精製することにより、微黄色の液体(118 g)を得た。
(実施例3-3) シス-1-プロピル-4-トリルシクロヘキサン(I-C)の製造
(実施例1-3)における1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンに代えて、(実施例3-2)で得られた1-トリル-4-プロピルシクロヘキセンを用いることにより目的物を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl
3) δ 0.96 (t,CH
3, 3H), 1.16-1.50 (m,CH+CH
2, 12H), 1.90-2.20 (m, CH, 2H), 2.34 (s, CH
3, 3H), 6.96 (d, ArH, 2H), 7.02 (d, ArH, 2H)、GC-MS(EI) 216(M
+)
また、化合物(I-C)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の高い値を示した。
(実施例4) シス-1-[2-(4-フルオロフェニル)エチル]-4-プロピルシクロヘキサン(I-D)の製造
【0136】
【化48】
【0137】
(実施例4-1) (4-プロピルシクロヘキシル)アセトアルデヒドの製造
(実施例1-1)における4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサノンに代えて、(実施例2-1)で得られた4-プロピルシクロヘキシルカルバルデヒドを用いることにより、目的物を得た。
(実施例4-2) 1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-プロピルシクロヘキシル)エタノールの製造
(実施例3-1)における4-ブロモトルエンに代えて、1-ブロモ-4-フルオロベンゼンを、4-プロピルシクロヘキサノンに代えて、(実施例4-1)で得られた(4-プロピルシクロヘキシル)アセトアルデヒドを用いることにより目的物を得た。
(実施例4-3) 1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-プロピルシクロヘキシル)エテンの製造
(実施例3-2)における1-ヒドロキシ-4-プロピル-1-トリルシクロヘキサンに代えて、(実施例4-2)で得られた1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-プロピルシクロヘキシル)エタノールを用いることにより目的物を得た。
(実施例4-4) シス-1-[2-(4-フルオロフェニル)エチル]-4-プロピルシクロヘキサン(I-D)の製造
(実施例1-3)における1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンに代えて、(実施例4-3)で得られた1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-プロピルシクロヘキシル)エテンを用いることにより目的物を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl
3) δ 0.96 (t,CH
3, 3H), 1.08-1.50 (m,CH+CH
2, 15H), 1.90-1.98 (m, CH, 1H), 2.54 (t, CH
2, 2H), 6.86-6.90 (dm, ArH, 2H), 7.08-7.12 (dm, ArH, 2H)、GC-MS(EI) 248(M
+)
また、化合物(I-D)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の高い値を示した。
(実施例5) シス-1-(3,4-ジフルオロフェノキシメチル)-4-プロピルシクロヘキサン(I-E)の製造
【0138】
【化49】
【0139】
(実施例5-1) 4-プロピルシクロヘキシルメタノールの製造
(実施例2-1)で得られた4-プロピルシクロヘキシルカルバルデヒド(80 g)のエタノール溶液(400 ml)を激しく攪拌している中に、水素化ホウ素ナトリウム(8 g)を少量ずつ溶媒が穏やかに還流する速度で加えた。その混合物を1時間加熱還流した後、水を加えた。室温まで放冷した後、反応液が半量になるまで溶媒を減圧留去した。3 M塩酸を加えた後、酢酸エチルで抽出し、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去することにより、微黄色の液体(64 g)を得た。
(実施例5-2) 1-ブロモメチル-4-プロピルシクロヘキサンの製造
(実施例5-1)で得られた4-プロピルシクロヘキシルメタノール(64 g)のジクロロメタン(240 ml)溶液に、水冷下、メタンスルホニルクロリド(52 g)を滴下して加えた後、さらにその温度を保ったままピリジン(38 g)を滴下して加えた。続けて4-ジメチルアミノピリジン(5.9 g)を加えた後、室温で8時間攪拌を続けた。反応液に水を加えて反応を停止させた後、有機相を分離し、水層からジクロロメタンで抽出した(2回)。集めた有機相を3 M塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、薄黄色の固体(95 g)を得た。得られた固体をアセトン(400 ml)に溶解し、臭化リチウム(52 g)を加えた後、4時間加熱還流した。反応液を減圧濃縮した後、酢酸エチルを加え、さらに水を加えて析出した塩を溶解させた。有機相を分離し、水層から酢酸エチルで抽出し、集めた有機相を3 M塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、減圧蒸留することにより、微黄色の液体(72 g)を得た。
(実施例5-3) シス-1-(3,4-ジフルオロフェノキシメチル)-4-プロピルシクロヘキサン(I-E)の製造
(実施例5-2)で得られた1-ブロモメチル-4-プロピルシクロヘキサン(72 g)、3,4-ジフルオロフェノール(32 g)、無水炭酸カリウム(51 g)のN,N-ジメチルホルムアミド(360 ml)混合液を6時間加熱還流した後、室温まで冷却し、水を滴下して加えて反応を停止させた。トルエンで抽出し(3回)、集めた有機相を、3 M塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、そのままの溶液をカラム(シリカゲル+アルミナ、トルエン)を用いて精製し、1-(3,4-ジフルオロフェノキシメチル)-4-プロピルシクロヘキサンのシス/トランス比8/2の混合物を得た。得られた混合物を再結晶(アセトン+メタノール)し、結晶側にシス/トランス比5/95の混合物、母液側にシス/トランス比9/1の混合物を得た。得られた母液を、カラム(シリカゲル+アルミナ/ヘキサン)を用いて精製し、さらに減圧蒸留することにより、無色の液体(17 g)を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl
3) δ 0.96 (t,CH
3, 3H), 1.04-1.50 (m,CH+CH
2, 13H), 1.90-1.98 (m, CH, 1H), 3.86-3.98 (m, CH
2O, 2H), 6.42-6.54 (m, ArH, 2H), 6.80-6.84 (m, ArH, 1H)、GC-MS(EI) 268(M
+)
また、化合物(I-E)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の高い値を示した。
(実施例6)
(実施例1)で得られた化合物(I-A)を用いて、組成物(M-0)
【0140】
【化50】
【0141】
を調製した。組成物(M-0)を-40℃で1晩放置したところ、析出は見られず液体状態を維持していた。また、組成物(M-0)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の高い値を示した。
(参考例1)
(実施例1)で得られた化合物(I-A)を用いて、組成物(M-1)
【0142】
【化51】
【0143】
を調製した。組成物(M-1)を-40℃で1晩放置したところ、析出は見られず液体状態を維持していた。また、組成物(M-1)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の高い値を示した。
【0144】
またこの組成物(M-1)を用いて、タッチパネルを作成したところ、表示ムラ等の不具合を起こすことなく良好な特性を示した。
(参考例2)
(実施例5)で得られた化合物(I-E)を用いて、組成物(M-2)
【0145】
【化52】
【0146】
を調製した。組成物(M-2)を-40℃で1晩放置したところ、析出は見られず液体状態を維持していた。また、組成物(M-2)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の高い値を示した。
【0147】
またこの組成物(M-1)を用いて、タッチパネルを作成したところ、表示ムラ等の不具合を起こすことなく良好な特性を示した。
(参考比較例1)
(参考例1)における化合物(I-A)に代えて、化合物(I-A)を含まない組成物(M-3)
【0148】
【化53】
【0149】
を調製した。組成物(M-3)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
12Ωm以上の値を示した。しかし組成物(M-3)を-40℃で1晩放置したところ、液晶状態を示した。このため、タッチパネルに使用すると低温域で液晶へ相転移することに伴う、粘度上昇が起こり、表示不良等の問題を惹き起こすため使用することができない。
【0150】
このことから、本願特許の化合物(I-A)は低温において液体状態を維持するため、絶縁性液体用の化合物として有用である。
(参考比較例2)
(参考例2)における化合物(I-E)に代えて、類似の化合物(J-E)
【0151】
【化54】
【0152】
を用いて組成物(M-4)
【0153】
【化55】
【0154】
を調製した。この組成物(M-4)を-40℃で1晩放置したところ、析出は見られず液体状態を示した。しかし、組成物(M-4)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×10
10Ωmを示し、十分な絶縁性を示さなかった。このことから、本願特許の化合物(I-E)は高比抵抗値を維持することから絶縁性液体用の化合物として有用である。