(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子を製造する方法として、光学素子成形素材を加熱して軟化させ、成形型でプレスする方法が用いられている。例えば、球状に予備成形した光学素子成形素材を成形型内に保持した後に、400〜800℃程度に加熱して光学素子成形素材を軟化させる。又は、予め加熱した光学素子成形素材を成形型内に保持する。その後、軟化した光学素子成形素材を成形型で加圧して光学素子形状に成形し、冷却硬化させて、光学素子として取り出す。
【0003】
得られた光学素子は、そのままでは、内部に歪が生じていたり、屈折率がバラついていたりして、製品としての精度を確保し難い場合がある。このため、光学素子を再度加熱し、その後徐冷することで(アニール処理)、歪を除いたり、屈折率分布を減らしたりして、光学素子製品とする。
【0004】
このような工程を経て得られた光学素子は、製品の特性上、高い外観品質が求められ、数ミクロン程度のゴミでも無視できない。そのため、光学素子成形素材においても、同等程度以上の外観品質が必要とされる。
【0005】
ここで、光学素子成形素材を弱い洗浄液で洗浄すると、研磨剤や汚れが残る可能性がある。一方、光学素子成形素材を強い洗浄液で洗浄すると、研磨剤や汚れは除去できるが、洗浄液によるエッチングのキズが発生する可能性がある。しかも、近年は高屈折率や低分散の光学ガラスが増えると共に、洗浄時にキズが付きやすいガラスが多くなっている。
【0006】
その結果、キズおよび汚れが無く、高性能の光学素子成形素材の入手が困難な場合がある。キズがある光学素子成形素材を加熱軟化させてプレス加工すると、光学素子製品の外観不良の原因となる。
【0007】
そこで、プレス成形前に前処理をすることで、キズおよび汚れが無い光学素子成形素材を得る技術が開示されている。例えば、減圧下においてガラス転移点以上に加熱してから、アルカリ洗浄する技術が開示されている(特許文献1参照)。また、特殊な雰囲気(水素濃度:0〜0.1容量%、H
2O濃度:0〜0.1容量%)下で熱処理する技術が開示されている(特許文献2参照)。さらに、酸洗浄してから、減圧下または乾燥雰囲気下で熱処理する技術が開示されている(特許文献3参照)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る光学素子の製造方法について、
図1の工程に従って説明する。以下、予備成形(ステップS11)〜芯取り(ステップS16)を順に説明する。
【0016】
(1)予備成形(ステップS11)
光学素子成形素材は、球状、円筒形状等の成形に適した形状に予備成形される。また、その後に、必要に応じて、研磨される。
なお、光学素子成形素材は、ガラス、例えば、P
2O
5を基本成分とするリン酸塩系ガラスを構成材料とする。リン酸塩系ガラスは、脆く、化学的耐久性が弱いため、洗浄工程において前工程のキズを顕在化させたり、洗浄時の洗剤や水により表面が変質したりする。一方、弱い洗浄にすると表面に汚れが残ってしまう。
【0017】
(2)アルカリ洗浄(ステップS12)
アルカリを含む洗浄液を用いて光学素子成形素材が洗浄される。光学素子成形素材の汚れ(研磨されたものは研磨剤も)を除去するためである。汚れ等の除去のために、この洗浄液は、pH10以上の強アルカリ性とすることが好ましい。
この洗浄液には、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を主成分とした混合液を用いることができる。
【0018】
光学素子成形素材を洗浄液に浸漬し、超音波をかけて洗浄を行う。アルカリの洗浄液によって、光学素子成形素材を洗浄し、汚れ等を除去することができる。また、超音波を併用することで、処理時間の短縮を図ることができる。
【0019】
超音波の強度が適宜に調節される。超音波の強度が大きすぎると、光学素子成形素材がチッピングを起こしたり、エッチングされすぎたりする。そのため、事前のオフラインテスト(製造条件決定用のテスト)で、ガラス素材に合わせて超音波の強度および時間(洗浄時間)を変えて、光学素子成形素材へのキズが少なく、かつ汚れが落ちるような条件を探索する。
【0020】
このアルカリ洗浄によって、光学素子成形素材の汚れ(例えば、人間の皮脂による汚れ)は除去されるが、光学素子成形素材にキズが発生する可能性がある。特に、リン酸塩系ガラスの光学素子成形素材はアルカリ洗浄に弱く、キズが発生する可能性が大きい。特に、アルカリ洗浄時(後述の酸洗浄時でも)に超音波を30秒程度以上印加すると、キズが発生する可能性がより高くなる。後述の熱処理によって洗浄時のキズを修復する。
【0021】
このキズは、幅約1μm、深さ数十〜数百nm程度の光学素子成形素材上の微細な凹みである。多数のキズの集合による乱反射により、光学素子成形素材の表面が目視上白く見える。このキズは、光学素子成形素材上の微細な欠陥が強アルカリ(あるいは、強酸)で浸食され、拡大されたものと考えられる。
【0022】
ここで、酸洗浄をアルカリ洗浄と併用しても良い。即ち、アルカリ洗浄後、あるいはアルカリ洗浄の前に、強酸を含む洗浄液を用いて光学素子成形素材を洗浄しても良い。この場合、強酸の洗浄液中に光学素子成形素材を浸漬し、超音波をかけて洗浄を行う。酸洗浄の場合、洗浄液をpH4以下の強酸性とすることが好ましい。
また、アルカリ洗浄を行わず、酸洗浄のみを用いても良い。
酸洗浄の場合でも洗浄時にキズが発生する可能性がある。この場合も、熱処理によってキズを修復することができる。
【0023】
(3)通常洗浄(ステップS13)
次に、通常洗浄として、例えば、中性洗剤、純水、IPA(isopropyl alcohol:イソプロピルアルコール)によって、多段式洗浄装置で光学素子成形素材を順に洗浄する。通常洗浄は、光学素子成形素材からアルカリ洗浄液の成分を除去するためのものである。
【0024】
純水での洗浄は、中性洗剤での洗浄後に中性洗剤を除去するためである(いわゆる、すすぎ洗い)。
純水での洗浄後にIPAで洗浄するのは、光学素子成形素材を乾燥ムラなく乾かすためである。純水洗浄の直後に光学素子成形素材を乾燥させると、乾燥ムラに起因するシミが光学素子成形素材に残る可能性がある。このため、純水での洗浄後にIPAで洗浄し、その後に光学素子成形素材を乾燥させる。
【0025】
(4)熱処理(ステップS14)
熱処理工程について説明する。熱処理工程は、アルカリ洗浄(あるいは酸洗浄)により光学素子成形素材に生じたキズを修復するためのものである。光学素子成形素材を適切な圧力(気圧)、温度条件で所定時間保持することで、軟化された光学素子成形素材自体の表面張力により、光学素子成形素材の微細なキズが修復される(キズのへこみが解消される)。即ち、洗浄された光学素子成形素材を減圧下で熱処理することで、アルカリ性または酸性の溶液による浸食によって光学素子成形素材上に生じたキズが修復される。
【0026】
例えば、圧力が50Pa以下に減圧した状態でガラスの屈伏点(At)−30℃の温度以上の温度で、1分以上熱処理する。
ここで、圧力は10Pa以下とすることがより好ましく、5Pa以下とすることがさらに好ましい。また、熱処理時間は10分以上とする事がより好ましく、30分以上とする事がさらに好ましい。
【0027】
温度が高すぎると、アルカリ洗浄時のキズが短時間で修復するものの、光学素子成形素材が自重で変形して同軸度が失われ、成形性が悪化してしまう。一方、温度が低すぎると、キズが修復しないか、または修復に長時間を要する。このため、事前にアルカリ洗浄工程で汚れが十分に落ちる洗浄をしたときの光学素子成形素材のキズの強度と、量産で許容される自重変形量となる温度で前工程のキズが修復される処理時間を調査し、熱処理の温度と時間を決める。
【0028】
この熱処理と、この後の成形において、光学素子成形素材が加熱されること自体は同様であるが、成形工程の場合、金型と光学素子成型素材が接触しているため熱処理よりも短い時間・低い温度でも金型と反応してしまい、得られる光学素子がヤケたり、金型と張り付いてしまったりして外観品質が悪くなってしまうので、キズを修復するような温度・時間で加熱処理ができず、前者ではキズが修復され、後者ではキズが修復され難い。
【0029】
即ち、処理温度が高すぎると、薄いキズ(アルカリ洗浄時または酸洗浄時に発生したキズ)は修復されたものの、光学素子成形素材には、設置治具(後述の治具10a、10b、10c)との接触部に治具痕がついたり、自重変形したりしてしまう。それを加熱軟化させてプレス加工しても治具痕が残ったり、変形のため軸対象に成形できなかったりして、光学素子の光学面に不具合が発生する。一方、処理温度が低すぎると、薄いキズは修復されない。
【0030】
a)熱処理時の温度は成形時の温度以上も可能。
成形時は、プレス成形に適する程度に光学素子成形素材を軟化すれば足りる。熱処理時の温度は成形時の温度より高くして、光学素子成形素材をより軟化することで、表面張力によるキズの修復が可能となる。
【0031】
b)熱処理の処理時間は成形の処理時間より長い。
成形時は、プレス成形に適する程度の処理時間であれば足りる。熱処理はバッチ処理のため大量に処理できるための処理時間を成形の処理時間より長くすることが容易であり、粘性が高くても表面張力によるキズの修復が可能となる。
【0032】
c)熱処理時は成形時より空間的に開放されている。
成形、熱処理のいずれも減圧下で光学素子成形素材を加熱することから、その成分の一部が揮発する可能性がある。一般に、成形において、光学素子成形素材は成形型内に閉じ込められ(閉鎖状態)、揮発した成分が光学素子成形素材上に戻ったり、金型表面で結晶化したりして、新たなキズや点状欠点の原因となる。加えて、光学素子成形素材は金型に接触しているため、低温であっても接触部で反応して光学素子成形素材がヤケたり、金型と張り付いてしまったりして外観品質が悪くなってしまう。これに対して、熱処理においてはある程度広い空間を確保し(開放状態)、減圧条件下にしているため、揮発成分が光学素子成形素材上に戻り難くすることで、揮発した成分の戻りによるキズの再発生が生じ難くなる。
【0033】
後述のように、熱処理時において、光学素子成形素材は治具10a〜10cによって保持されるが、光学素子成形素材の光学面形状付与面が治具10a〜10cによって閉鎖されないようにされる。具体的には、貫通孔20a〜20cが光学素子成形素材の下面に配置され、下側の光学面形状付与面が開放された状態とされる。また、貫通孔20a〜20cの下側の開口22a〜22cが開放されていることが好ましい。
【0034】
熱処理において、光学素子成形素材の光学面形状付与面(成形型の光学面が転写される面)が他の物、例えば、治具に接触しないことが好ましい。軟化されている光学素子成形素材の光学面形状付与面の変形が防止される。以下に、光学素子成形素材を保持する治具10a、10b、10cを示す。
【0035】
図2の(A)、(B)はそれぞれ、熱処理において、光学素子成形素材30aを保持する治具10aを表す斜視図および断面図である。治具10aは、略円状の開口21a、22aを備える貫通孔20aを有する。上側の開口21aの径は、下側の開口22aの径より大きく、開口21a、22a間に倒立した略円錐台形状の空間を形成する。
【0036】
光学素子成形素材30aは、上面31a、下面32aを備える略円筒形状を有し、下面32aのエッジが貫通孔20aの内面上に保持される。境界33aは、光学素子成形素材30aの光学面形状付与面とその外周部(光学素子形状形成面の周囲)とを区分する。後述の芯取りにおいて、この境界33aにそって、光学素子成形素材30aの外周部が除去される。なお、後述の境界33b、33cも同様である。
【0037】
光学素子成形素材30aの下面32aは下に凸であるが、下に凹、平板状でも良い。
光学素子成形素材30aの下面32aのエッジのみが治具10aに接触し、上面31a、下面32a内の光学面形状付与面が治具10aに接触しないようになっている。
【0038】
図3の(A)、(B)はそれぞれ、熱処理において、光学素子成形素材30bを保持する治具10bを表す斜視図および断面図である。治具10bは、略円状の開口21b、22b、エッジ部23bを備える貫通孔20bを有する。上側の開口21bの径は、下側の開口22bの径より大きく、エッジ部23bの径は開口22bの径と略同一である。開口21b、エッジ部23b間に倒立した円錐台形状の空間が形成される。エッジ部23b、開口22b間に略円柱形状の空間が形成される。
【0039】
光学素子成形素材30bは、上面31b、下面32bを備える略球形または略回転楕円形状を有し、下に凸の下面32bがエッジ部23b上に保持される。
光学素子成形素材30bの下面32bの一部のみが治具10bに接触し、上面31b、下面32b内の光学面形状付与面が治具10bに接触しないようになっている。
【0040】
図4の(A)、(B)はそれぞれ、熱処理において、光学素子成形素材30cを保持する治具10cを表す斜視図および断面図である。治具10cは、略円状の開口21b、22bを備える貫通孔20bを有する。上側の開口21cの径は、下側の開口22cの径と略同一である。開口21c、開口22c間に略円柱形状の空間が形成される。
【0041】
光学素子成形素材30cは、上面31c、下面32cを備える略円柱形状を有し、下面32cのエッジが治具10cの上面上に保持される。
光学素子成形素材30cの下面32cのエッジのみが治具10bに接触し、上面31c、下面32c内の光学面形状付与面が治具10cに接触しないようになっている。
【0042】
(5)成形(ステップS15)
例えば、
図5に示す成形型40を用いて光学素子成形素材30が成形される。成形型40は、上型41、下型42、内胴43、外胴44を備える。
成形型40の内部に光学素子成形素材30を収容し、光学素子用成形型を予め所定の温度まで熱して予備加熱を行っておく。その後、上型41及び下型42をさらに加熱させると、その内部に収容されている光学素子成形素材30も加熱され、軟化する(
図5(A))。
【0043】
光学素子成形素材30は、変形が容易な屈伏点以上に加熱されるが、温度を上げると光学素子成形素材と金型が反応したり、揮発物が出てきたりして、外観不良の原因となる。一方、温度が低いと成形させるのに時間がかかったり、金型と擦れてキズができたりしてしまう。そのため、成形するときの温度は硝材によって異なるが、一般的には、「屈伏点(At)−30℃」と軟化点の間の温度に設定する。
【0044】
上型41及び下型42が加熱され、光学素子成形素材30がプレス成形するのに十分な温度となったところで、上型41と下型42との距離を狭めて、成形型の内部に収容された光学素子成形素材30に圧力をかけて変形させプレス成形を行う(
図5(B))。
【0045】
このプレス工程では、成形型40の上下から圧力をかけることで光学素子成形素材30のプレス成形を行い、これにより光学素子成形素材には上型41及び下型42の光学形成面が転写され、光学素子形状が付与される。
このようにプレス工程で光学素子成形素材30に光学素子形状を付与した後、光学素子成形素材30を冷却、固化する。
【0046】
(6)芯取り(ステップS16)
冷却、固化して得られた光学素子は、アニール工程に付されて歪み等が除去される。その後、前述の境界33a〜33cを境界とする外周部(光学素子形状形成面の周囲)を研削等により除去し、所望の径を有する光学素子形状に加工される。
【0047】
(比較例)
図6は、本発明の比較例に係る光学素子の製造方法を示すフローチャートである。
図1のフローチャートからステップS12、S14のアルカリ洗浄および熱処理が除外されている。比較例に係る光学素子の製造方法では、アルカリ洗浄(あるいは酸洗浄)を行わないことから、光学素子成形素材の汚れの除去が不十分となり、最終的に製造される光学素子にもこの汚れの影響が出易くなる。
【0048】
以上のように、アルカリ洗浄により汚れを落とし、熱処理でアルカリ洗浄時のキズを修復した光学素子成形素材を成形工程で加熱軟化してプレス成形し光学素子を得る。即ち、強アルカリで洗浄した後、光学素子成形素材の外周部を把持して、減圧下でガラス屈伏点以上の温度で熱処理する。この結果、汚れやキズ、治具痕が無く、清浄な光学素子成形素材を提供することが可能となる。汚れやキズが無く、清浄な光学素子成形素材が供給されるため、加熱軟化させてプレス加工して出来上がった光学素子の外観品質が向上し、歩留を改善できる。
【実施例1】
【0049】
以下、本発明の実施例を説明する。
リン酸系ガラス(At(屈服点)528℃、軟化点565℃)を用いた両凸形状の光学素子成形素材をpH13.8の強アルカリ洗剤に浸漬し、超音波を加えて2分間洗浄した。さらに、中性洗剤、純水、IPAを用いた多段式洗浄装置で通常通りの洗浄を行った
【0050】
その後、1Paの減圧下で、530℃(屈伏点(At)+2℃)、30分間の熱処理を行い、成形工程で540℃(屈伏点(At)+12℃)に加熱軟化させて1.5分間プレスを行った。
製造された光学素子の外観の良否を目視で検査した。その結果、表1のように、比較例に係る処理方法に比べて、外観良品の歩留が約7%上昇した。しかも、光学素子成形素材に付着していたゴミが金型(成形型)に付着する頻度が減ったため、金型(成形型)をメンテナンスする頻度も減り、作業性も改善された。
【実施例2】
【0051】
リン酸系ガラス(At(屈服点)528℃、軟化点565℃)を用いた片側凸片側凹形状の光学素子成形素材を実施例1と同様に、pH13.8の強アルカリ洗剤に浸漬し、超音波を加えて2分間洗浄した。さらに、中性洗剤、純水、IPAを用いた多段式洗浄装置で通常通りの洗浄を行った
【0052】
その後、1Paの減圧下で、550℃(屈伏点(At)+22℃、軟化点−15℃)、1分間の熱処理を行い、成形工程で540℃(屈伏点(At)+12℃)に加熱軟化させて1.5分間プレスを行った。
【実施例3】
【0053】
リン酸系ガラス(At(屈服点)528℃、軟化点565℃)を用いた両凹形状の光学素子成形素材を実施例1と同様に、pH13.8の強アルカリ洗剤に浸漬し、超音波を加えて2分間洗浄した。さらに、中性洗剤、純水、IPAを用いた多段式洗浄装置で通常通りの洗浄を行った
【0054】
その後、1Paの減圧下で、520℃(屈伏点(At)−8℃)、120分間の熱処理を行い、成形工程で540℃(屈伏点(At)+12℃)に加熱軟化させて1.5分間プレスを行った。
【0055】
それぞれの実施例で製造された光学素子の外観の良否を目視で検査した。その結果、表1のように、比較例1〜3に係る処理方法に比べて、外観良品の歩留が約5〜9%上昇した。しかも、光学素子成形素材に付着していたゴミが金型(成形型)に付着する頻度が減ったため、金型(成形型)をメンテナンスする頻度も減り、作業性も改善された。なお、比較例1〜3はそれぞれ、実施例1〜3と同一形状の光学素子に対して、アルカリ洗浄工程および熱処理工程を省略し、通常洗浄後に成形した場合に対応する。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から、At(屈服点)に対して−8℃〜22℃と、広い温度範囲で熱処理が有効であることが判る。この温度範囲は、これらの実施例1〜3での成形時の温度(屈伏点(At)+12℃)より高温、低温の双方を含む。熱処理の温度に対応して、熱処理の時間を調節することで、アルカリ洗浄時のキズを修復し、歩留まりを向上することが可能である。即ち、比較的低い温度で熱処理した場合、熱処理の時間を長くすることで、キズの修復が可能となる。これに対して、比較的高い温度で熱処理した場合、熱処理の時間が短くても、キズの修復が可能である。
なお、アルカリ洗浄を行い、熱処理を行わない場合での歩留は、5%以下と、極めて低くなる。