特許第5655375号(P5655375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5655375ガラスセラミックス組成物、発光ダイオード素子用基板および発光装置。
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  • 特許5655375-ガラスセラミックス組成物、発光ダイオード素子用基板および発光装置。 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655375
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス組成物、発光ダイオード素子用基板および発光装置。
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/111 20060101AFI20141225BHJP
   C03C 8/20 20060101ALI20141225BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20141225BHJP
   H01L 33/48 20100101ALI20141225BHJP
【FI】
   C04B35/10 D
   C03C8/20
   C04B35/00 J
   H01L33/00 400
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-123835(P2010-123835)
(22)【出願日】2010年5月31日
(65)【公開番号】特開2011-246329(P2011-246329A)
(43)【公開日】2011年12月8日
【審査請求日】2013年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今北 健二
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/128354(WO,A1)
【文献】 特開2007−129191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 〜14/00
C04B 35/00 〜35/22
C04B 35/42 〜35/51
C04B 35/622〜35/63
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオード素子を搭載するための基板の製造に用いられるガラスセラミックス組成物であって、30〜45質量%のホウケイ酸系ガラス粉末と、40〜60質量%のアルミナ粉末、および10〜25質量%のチタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムの粉末を含むことを特徴とするガラスセラミックス組成物。
【請求項2】
前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを40〜65質量%、Bを8〜20質量%、Alを3〜12質量%、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上を合計で9〜28質量%、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上を合計で0.5〜8質量%含有し、該ホウケイ酸系ガラス粉末中の質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaO+SrO+BaOの含有量)の2倍」+「(LiO+NaO+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜145の範囲内であることを特徴とする請求項記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のガラスセラミックス組成物を成形または焼成してなるものであることを特徴とする発光ダイオード素子用基板。
【請求項4】
発光ダイオード素子用基板と、前記発光ダイオード素子用基板に搭載された発光ダイオード素子とを具備する発光装置であって、
前記発光ダイオード素子用基板が、請求項3記載のものであることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
前記発光ダイオード素子用基板が、前記発光ダイオード素子の搭載部を囲む側壁部を有することを特徴とする請求項4記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス組成物、発光ダイオード素子用基板および発光装置に係り、特に発光ダイオード素子を搭載する基板の製造に用いられるガラスセラミックス組成物、このガラスセラミックス組成物からなる発光ダイオード素子用基板ならびにこの発光ダイオード素子用基板を有する発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(以下、LEDと記す。)素子の高輝度化、高効率化に伴い、携帯電話や大型液晶TV等のバックライトあるいは一般照明などに、LED素子を用いた発光装置が使われるようになっている。それに伴い、LED素子周辺の部材についてもより高性能なものが求められるようになっている。例えば、LED素子を搭載するための基板としては、従来から樹脂材料からなるものが使用されているが、LED素子の高輝度化に伴う熱や光により劣化しやすく、セラミックスのような無機材料からなるものの使用が検討されている。
【0003】
セラミックス基板としては、例えば、配線基板に使用されるアルミナ基板や窒化アルミニウム基板が挙げられる。セラミックス基板は、樹脂基板に比べて熱や光に対する耐久性が高いことから、LED素子搭載用基板として有望であるが、樹脂基板に比べて反射率が低くLED素子からの光が基板の後方へ漏れるため、前方の光度が低下するという問題がある。また、セラミックス基板は、一般に難焼結性であることから1500℃を超える高温焼成が必要となり、プロセスコストが高くなるという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、低温同時焼成セラミックス(以下、LTCCと記す。)基板の使用が検討されている。LTCC基板は、一般にガラスとアルミナ等のセラミックスフィラーとの複合物からなり、ガラスの低温流動性によって焼結するため、従来のセラミックスよりも低い850〜950℃程度の温度で焼成することができる。したがって、配線導体となるAg導体と同時に焼成することができ、従来のセラミックス基板に比べてコストを低減することができる。また、ガラスとセラミックスフィラーとの界面で光が拡散反射するため、セラミックス基板よりも高い反射率を得ることができる。さらに、無機物からなるため、熱や光に対して十分な耐久性を有する。
【0005】
近年、LED素子の性能の向上とともに、さらに高い反射率を有するLTCC基板が求められており、LTCC基板の反射率を高めるために、アルミナよりも高い屈折率を有するセラミックスフィラー(高屈折率フィラー)を含有させる方法が検討されている。そして、Si−B−Al−Ca系のガラスに対して、アルミナ粉末とともにジルコニア粉末やチタニア粉末等の高屈折率フィラーを配合し、反射率を向上させたLTCC基板が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。ジルコニア粉末等の高屈折率フィラーは、アルミナ粉末に比べてガラスとの屈折率差が大きいため、ガラス−セラミックス界面での拡散反射がより大きくなる結果、基板の反射率が向上する。
【0006】
しかしながら、ジルコニア粉末を含有する従来からのLTCC基板では、10%程度(厚さ300μm)とかなり大きな光透過率を有するため、この透過光により、例えばキャビティ(凹部)を有するLED装置において、白色光の色度の角度依存性が大きくなるという問題があった。すなわち、キャビティ(凹部)を有するLED装置では、LED素子を含む発光部から発せられた光が、この発光部を囲むように形成された側壁部(枠体)を透過して基板の側面方向に出射するという横漏れが生じる。そして、側方に出射した透過光と発光部の前方に出射した光とでは、蛍光体を含む封止層を通る光路長が異なるため、観察角度ごとに白色光の色度が異なるという問題があった。
【0007】
また、チタニア粉末を含有するLTCC基板では、ジルコニア粉末を含有するLTCC基板に比べて光透過率は小さいが、焼結性が低下して焼結不足になりやすく、緻密な基板を得ることができなかった。LTCC基板は、LED素子用基板とするために切れ目を入れて割ったり、あるいは切断したりすることにより所定の大きさに加工されるが、焼結が不十分で空隙率が高い基板では、所定の位置で分割したり切断したりの加工がしにくいばかりでなく、基板自体に割れや欠けが生じやすかった。特許文献2のLTCCでは、チタニア粉末の含有量を10質量%以下に限定することで、焼結不足による抗折強度等の低下を抑制しているが、10質量%以下の配合では高い反射率および十分な低透過率を得ることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 2009/128354 A1
【特許文献2】特開2007−129191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、特に透過率が低く、かつ十分な反射率や緻密さを有する焼結体(LED素子用基板)が得られるガラスセラミックス組成物を提供することを目的としている。また、本発明は、光学特性や生産性に優れる発光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ホウケイ酸系ガラス粉末と、高屈折率フィラーとしてチタン化合物の粉末を含有するガラスセラミックス組成物を用いることで、透過率が低くかつ十分な反射率や緻密さを有するLED素子用基板が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明のガラスセラミックス組成物は、発光ダイオード素子を搭載するための基板の製造に用いられるガラスセラミックス組成物であって、30〜45質量%のホウケイ酸系ガラス粉末と、40〜60質量%のアルミナ粉末、および10〜25質量%のチタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムの粉末を含むことを特徴とする。
【0013】
前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを40〜65質量%、Bを8〜20質量%、Alを3〜12質量%、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上の合計を9〜28質量%、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上を合計で0.5〜8質量%含有し、該ホウケイ酸系ガラス粉末中の質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaO+SrO+BaOの含有量)の2倍」+「(LiO+NaO+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜145の範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明の発光装置は、発光ダイオード素子用基板と、前記発光ダイオード素子用基板に搭載された発光ダイオード素子とを具備する発光装置であって、前記発光ダイオード素子用基板が、請求項1または2記載のガラスセラミックス組成物を成形および焼成してなるものであることを特徴とする。本発明の発光装置において、前記発光ダイオード素子用基板は、前記発光ダイオード素子の搭載部を囲む側壁部を有することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可視光領域の光に対する反射率が高いうえに透過率が低く、かつ十分な緻密さを有する焼結体が得られるガラスセラミックス組成物を提供することができる。また、本発明によれば、このようなガラスセラミックス組成物を成形および焼成してなるLED素子用基板を用いることにより、光学特性や生産性に優れる発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のLEDパッケージ(発光装置)の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0018】
本発明の実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、LED素子を搭載するためのLED素子用基板の製造に用いられるものであって、30〜45質量%のホウケイ酸系ガラス粉末と、40〜60質量%のアルミナ粉末、および10〜25質量%のチタン化合物の粉末を含有する。
【0019】
このホウケイ酸系ガラス粉末は、酸化物換算で、SiOを40〜65質量%、Bを8〜20質量%、Alを3〜12質量%、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上の合計を9〜28質量%、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上を合計で0.5〜8質量%含有することが好ましい。そして、このホウケイ酸系ガラス粉末中の質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaO+SrO+BaOの含有量)の2倍」+「(LiO+NaO+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜145の範囲内であることが好ましい。
【0020】
このようなガラスセラミックス組成物によれば、反射率を向上させる高屈折率のセラミックスフィラーとして、チタン化合物の粉末が含有されているため、可視光領域の光に対する反射率が高いうえに、透過率が非常に低い焼結体(LTCC基板)を得ることができる。また、このガラスセラミックス組成物は、良好な焼結性を有し、900℃程度の温度で焼成することにより、空隙率が小さく緻密な焼結体を得ることができる。さらに、ガラス相の結晶化が抑制されるため、反りが抑制され形状安定性が良好な焼結体を得ることができる。
【0021】
以下、ガラスセラミックス組成物について具体的に説明する。ガラスセラミックス組成物におけるホウケイ酸系ガラス粉末の含有量(割合)は、30〜45質量%である。ホウケイ酸系ガラス粉末の含有量が30質量%未満であると、焼成不足になり緻密な焼結体(LTCC基板)を得ることが困難になる。より緻密な焼結体を得る観点から、33質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましい。
【0022】
一方、ホウケイ酸系ガラス粉末の含有量が45質量%を超える場合には、抗折強度の高い焼結体を得ることが困難になる。より抗折強度の高い焼結体を得る観点から、ホウケイ酸系ガラス粉末の含有量は、40質量%以下が好ましい。
【0023】
ホウケイ酸系ガラス粉末の50%粒径(D50)は、0.5〜5μmが好ましい。D50が0.5μm以上の場合、工業的に製造しやすく、また凝集しにくくなるために取り扱いが容易となり、ガラスセラミックス組成物中にも分散しやすくなる。D50は、0.8μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましい。一方、D50が5μm以下の場合、焼成により緻密な焼結体を得やすくなる。D50は、4μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。なお、本明細書におけるD50は、レーザ回折散乱法で測定された値である。
【0024】
アルミナ粉末は、焼結体の抗折強度を向上させるために添加される成分であり、ガラスセラミックス組成物中に40〜60質量%の割合で含有される。アルミナ粉末の含有量が40質量%未満であると、抗折強度の高い焼結体を得ることが困難になる。より抗折強度の高い焼結体を得る観点から、41質量%以上が好ましく、42質量%以上がより好ましい。一方、アルミナ粉末の含有量が60質量%を超えると、焼成不足になり緻密な焼結体を得ることが困難になるばかりでなく、焼結体表面の平滑性が低下するおそれがある。より緻密で表面の平滑な焼結体を得る観点から、55質量%以下が好ましく、52質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
アルミナ粉末のD50は0.3〜5μmであることが好ましい。D50が0.3μm未満では十分な抗折強度を達成することが困難になる。より抗折強度の高い焼結体を得る観点から、D50は0.6μm以上が好ましく、1.5μm以上がさらに好ましい。一方、D50が5μmを超えると焼結体表面の平滑性が低下するか、あるいは焼成により緻密な焼結体を得ることが困難になる。より緻密で表面の平滑な焼結体を得る観点から、D50は4μm以下が好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
【0026】
チタン化合物の粉末は、焼結体の反射率を高め、かつ透過率を低減するために添加されるものであり、ガラスセラミックス組成物中に10〜25質量%の割合で含有される。ここで、チタン化合物はチタンを含む少なくとも3種類の原子から構成される化合物のことであり、例えば、チタン酸ストロンチウムやチタン酸バリウムが挙げられる。チタン酸ストロンチウムやチタン酸バリウムは1.95を超える高い屈折率を有する(ホウケイ酸系ガラスの屈折率は1.5〜1.6)ので、これらの粉末を添加することで、焼結体の反射率を向上させることができる。
【0027】
チタン化合物粉末の含有量が10質量%未満の場合には、実用上十分な反射率、具体的には80%以上の反射率を有する焼結体を得ることが困難になる。なお、本発明における反射率は波長460nmにおけるものである。より反射率の高い焼結体を得る観点から、チタン化合物粉末の含有量は、11質量%以上が好ましく、12質量%上がさらに好ましい。
【0028】
一方、チタン化合物粉末の含有量が25質量%を超える場合には、緻密な焼結体を得ることが困難になる。より緻密な焼結体を得る観点から、チタン化合物粉末の含有量は23質量%以下が好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
チタン化合物粉末のD50は、0.2〜2.0μmであることが好ましい。D50が0.2μm以上の場合、光の波長(本発明では460nm)に対してチタン化合物粉末の大きさが過度に小さくはならないため、高い反射率を得ることができる。より高い反射率を得る観点から、D50は、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましい。一方、D50が2.0μm以下の場合、光の波長に対してチタン化合物粉末の大きさが過度に大きくはならないため、高い反射率を得ることができる。より高い反射率を得る観点から、D50は、1.5μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましい。
【0030】
次に、本発明のガラスセラミックス組成物に配合されるホウケイ酸系ガラス粉末の各成分について説明する。
【0031】
SiOは、ガラスの結晶化を抑制して安定性を向上させる成分である。ホウケイ酸系ガラス粉末におけるSiOの含有量(含有割合)は40質量%以上である。40質量%未満の場合、焼成時に結晶が析出して焼結体が反りやすくなるおそれがある。より安定性に優れたものとする観点から、SiOの含有量は47質量%以上が好ましい。
【0032】
一方、ホウケイ酸系ガラス粉末におけるSiOの含有量は65質量%以下とする。65質量%を超えると、ガラスの溶解性が低下するために均質なガラスを安価に生産することが難しく、またガラスの焼結性も低下するため緻密な焼結体を得られないおそれがある。より生産性、焼結性に優れたものとする観点から、SiOの含有量は62質量%以下が好ましい。
【0033】
は、ガラスの焼結性を向上させる成分である。ホウケイ酸系ガラス粉末におけるBの含有量は8質量%以上とする。8質量%未満ではガラスの焼結性が不十分となり、緻密な焼結体を得ることが困難になる。より焼結性に優れたガラスを得る観点から、Bの含有量は、9質量%以上がより好ましく、9.5質量%以上がさらに好ましい。一方、ホウケイ酸系ガラス粉末におけるBの含有量は20質量%以下とする。20質量%を超えると、溶解時にガラスが分相しやすくなり、焼結体を安定して量産することができないおそれがある。安定的な量産の観点から、Bの含有量は、19質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。
【0034】
Alはガラスの分相を抑制して安定性を向上させる成分であり必須成分である。ホウケイ酸系ガラス粉末におけるAlの含有量は3質量%以上である。Alの含有量が3質量%未満の場合、ガラスが分相しやすくなるために焼結体を安定して量産することができないおそれがある。より分相しにくいものとする観点から、Alの含有量は、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましい。
【0035】
一方、ホウケイ酸系ガラス粉末におけるAlの含有量は12質量%以下とする。Alの含有量が8質量%を超える場合、焼成時にアノーサイト(SiO−Al−CaO)に代表される結晶が析出して焼結体が反りやすくなるおそれがある。より結晶の析出が少ないものとする観点から、Alの含有量は、11質量%以下が好ましく、10.5質量%以下がより好ましい。
【0036】
CaOはガラスの溶融温度を低下させるとともに、焼結性を向上させる成分である。ホウケイ酸系ガラス粉末におけるCaOの含有量は9質量%以上である。CaOの含有量が9質量%未満の場合、ガラスの焼結性が低下するために緻密な焼結体が得られないおそれがある。より緻密な焼結体を得る観点から、CaOの含有量は、10質量%以上が好ましく、11質量%以上がより好ましい。
【0037】
一方、CaOの含有量は28質量%以下とする。CaOの含有量が28質量%を超えると、焼成時にアノーサイトに代表される結晶が析出するために焼結体が反りやすくなるおそれがある。より結晶の析出が少ないものとする観点から、CaOの含有量は、27質量%以下が好ましく、26質量%以下がより好ましい。
【0038】
ホウケイ酸系ガラス粉末には、CaOとともに、SrOとBaOから選ばれる少なくとも1種を含有させることができる。SrO、BaOは、CaOと同様に溶融温度を低下させるとともに、焼結性を向上させる成分である。CaO、SrO、およびBaO(以下、ROと記す。)の含有量の合計は、ホウケイ酸系ガラス粉末中、9質量%以上28質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは10質量%以上27質量%以下であり、さらに好ましくは11質量%以上26質量%以下である。
【0039】
また、ホウケイ酸系ガラス粉末には、CaO、SrOおよびBaOとともに、MgOやZnOを含有させることができる。MgOやZnOは、CaO等と同様に焼結性を向上させる成分である。しかし、MgOやZnOはCaO等よりも、結晶化を促進する傾向が強い。MgO、ZnOの含有量は、ホウケイ酸系ガラス粉末中、それぞれ10質量%以下が好ましい。
【0040】
NaOおよびKOは、いずれもガラスの焼結性を向上させる成分である。NaOおよび/またはKOとともに、必要に応じてLiOを使用することもできる。
【0041】
NaO、KO、およびLiO(以下、ROと記す。)のホウケイ酸系ガラス粉末における含有量の合計は、0.5質量%以上とする。ROの含有量の合計が0.5質量%未満では、ガラスの焼結性が低下するために緻密な焼結体が得られないおそれがある。より緻密な焼結体を得る観点から、ROの含有量の合計は、1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましい。また、ROの含有量の合計は、8質量%以下とする。ROの含有量の合計が8質量%を超えると、結晶化が生じやすく、また焼結体の耐酸性が悪化するおそれがある。ROの含有量の合計は7.0質量%以下がより好ましく、6.5質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
このような各成分を含むホウケイ酸系ガラスにおいては、各成分の質量%表記での含有量から計算される「(Bの含有量)の3倍」+「(ROの含有量の合計)の2倍」+「(ROの含有量の合計)の10倍」の値が、105〜145の値となっている。
【0043】
本発明者は、B、RO、ROの各成分がガラスの焼結性に与える影響を実験的に調べた結果、これらの成分の影響度の比率がおよそB:RO:RO=3:2:10であることを突き止め、「(Bの含有量)の3倍」+「(ROの含有量の合計)の2倍」+「(ROの含有量の合計)の10倍」(以下、3BO+2RO+10ROと示す。)の値を焼結性の高さの指標に用いることが可能であることを見出した。本発明のガラス組成は、従来の非晶質LTCC用のガラス組成よりも3BO+2RO+10ROの値が大きく、焼結性が改善されているものである。
【0044】
本発明のホウケイ酸系ガラスにおいて、3BO+2RO+10ROの値は、105以上であることが好ましい。3BO+2RO+10ROの大きさが105未満になると、焼結不足になり強度が低下する。より好ましくは110以上であり、さらに好ましくは112以上である。一方、3BO+2RO+10ROの値が145を超えると、焼成時にガラスが結晶化しやすくなる、あるいは溶解時にガラスが分相しやすくなる。3BO+2RO+10ROの値は、より好ましくは140以下であり、さらに好ましくは135以下である。
【0045】
ホウケイ酸系ガラス粉末は、通常、溶融法によって上記組成を有するガラスを製造した後、このガラスを粉砕することによって製造することができる。粉砕方法は、特に限定されるものではなく、乾式粉砕でもよいし湿式粉砕でもよい。湿式粉砕の場合には溶媒として水を用いることが好ましい。また、粉砕にはロールミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を適宜用いることができる。ガラスは粉砕後、必要に応じて乾燥し、分級してもよい。
【0046】
本発明のガラスセラミックス組成物は、ホウケイ酸系ガラス粉末、アルミナ粉末、およびチタン化合物粉末、必要に応じてその他の成分を所定の質量割合で配合し、混合することによって調製することができる。ガラスセラミックス組成物は、通常、グリーンシート化して使用される。すなわち、ガラスセラミックス組成物、ポリビニルブチラールやアクリル樹脂等の樹脂、必要に応じてフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル等の可塑剤等を配合、混合する。次に、この混合物にトルエン、キシレン、ブタノール等の溶剤を添加してスラリーとし、このスラリーをドクターブレード法等によって、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム上にシート状に成形する。さらに、シート状に成形されたものを乾燥させて溶剤を除去することによりグリーンシートとする。
【0047】
グリーンシートには必要に応じて、Agペースト等を用いたスクリーン印刷等によって配線パターンや貫通導体であるビア等が形成される。また、配線パターンの焼成により形成される配線導体等を保護するためのオーバーコートガラスをスクリーン印刷等によって形成してもよい。
【0048】
グリーンシートは、焼成後、所望の形状に加工することによってLED素子用基板とすることができる。ここで、LED素子用基板は、1枚のグリーンシートを焼成したものとしてもよいし、複数枚のグリーンシートを重ねて焼成したものとしてもよい。焼成は、通常、850〜950℃で20〜60分間保持して行われる。より好ましい焼成温度は860〜940℃である。Agの融点が960℃程度であることから、950℃以下で焼成することで、焼成時のAgの軟化を抑制し、配線パターンやビア等の形状を維持しやすくなる。LED素子用基板には、必要に応じて配線導体の保護等のためのメッキを行うことができる。
【0049】
また、LED素子用基板は、実用上十分な光学特性とする観点から、後述する測定方法によって求められる反射率(厚さ300μm)が80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましい。また、後述する測定方法によって求められる透過率(厚さ300μm)が5%未満であることが好ましく、4%未満であることがより好ましい。さらに、ガスバリア性や抗折強度を高めるとともに、分割や切断の加工性を良好にする観点から、後述する方法によって求められる空隙率が10%以下であることが好ましい。
【0050】
またさらに、LED素子用基板は、焼成時(製造時)の反りを抑制する観点から、ガラス相の結晶化率が体積比で60%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。ここで、結晶化率とは、ガラス相における結晶質領域の存在割合(体積割合)を指す。結晶化率は、例えば、作製したLED素子用基板のX線回折を測定し、アルミナ粒子(あるいはジルコニア粒子)による回折ピーク強度と、ガラス相から析出した結晶による回折ピーク強度の比率を評価することによって求めることができる。あるいは、作製したLED素子基板の断面を、電子顕微鏡で観察し、析出した結晶と、非晶質領域の面積比を評価することによっても結晶化率を求めることが可能である。
【0051】
このようなLED素子用基板は、LEDパッケージ(発光装置)の製造に好適に用いることができる。LEDパッケージは、少なくとも上記したLED素子用基板と、このLED素子用基板に搭載されたLED素子とを具備するものである。このようなLEDパッケージは、例えば携帯電話や大型液晶TV等のバックライトに好適に用いることができる。
【0052】
図1は、上記したLED素子用基板を有するLEDパッケージの一例を示す断面図である。LEDパッケージ1は、LED素子用基板2と、その略中央部に設けられる搭載部21に搭載され、接着剤3を介して固定されたLED素子4を有している。LED素子用基板2は、例えば、略平板状の本体部2aと、その端部に搭載部21を囲むように設けられた側壁部(枠体)2bを備えており、側壁部(枠体)2bに囲まれたキャビティ(凹部)の略中央部に搭載部21が設けられている。
【0053】
なお、本体部2aや側壁部(枠体)2bの形状、厚さ(高さ)、大きさ等は特に制限されない。また、LED素子用基板2は、平板状の本体部2aのみからなり、側壁部(枠体)2bを持たないものでもよい。
【0054】
LED素子用基板2は、搭載部21の周辺に一対の接続端子22を有している。これらの接続端子22の上には、例えば接続端子22を保護するために、あるいは後述するボンディングワイヤとの接続を容易にするために、金メッキ等のメッキ層の形成が可能である。そして、これらの接続端子22に、LED素子4の図示しない一対の電極がボンディングワイヤ5を介して電気的に接続されている。
【0055】
LED素子用基板2の内部には、一対の接続端子22と電気的に接続するように通電用ビア23が厚さ方向に貫通して設けられており、この通電用ビア23と電気的に接続するように一対の外部電極端子24が設けられている。また、搭載部21の直下には、サーマルビア25が貫通して設けられている。さらに、LED素子4や接続端子22を覆うようにして、例えば蛍光体を含有する樹脂からなるモールド封止層6が設けられることによって、LEDパッケージ1が構成されている。
【0056】
このようなLEDパッケージ1によれば、前記ガラスセラミックス組成物からなり、緻密で実用上十分高い光反射率と極めて低い光透過率を有するLED素子用基板2を備えているので、発光色度の角度依存性が小さいなど、優れた光学特性を有する。
【実施例】
【0057】
以下、具体的実施例について記載する。
【0058】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
表1のガラス組成の欄に質量%で示す組成となるように原料を調合・混合し、この混合物を白金ルツボに入れて1500〜1600℃で60分間溶融後、溶融ガラスを冷却してガラスブロックを得た。このガラスブロックをアルミナ製ボールミルにより水を溶媒として20〜60時間粉砕し、ホウケイ酸系ガラス粉末を得た。得られたガラス粉末のD50を、島津製作所社製のレーザ回折式粒度分布測定装置(SALD2100)を用いて測定したところ、いずれも2.0μmであった。なお、表1のガラス組成の欄には、これらの組成における「3BO+2RO+10RO」の値も示した。
【0059】
次いで、実施例1〜4においては、得られたホウケイ酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とチタン酸ストロンチウム粉末またはチタン酸バリウム粉末を、比較例1〜3においてはホウケイ酸系ガラス粉末とアルミナ粉末およびチタニア粉末またはジルコニア粉末を、それぞれ表1の基板組成の欄に示す質量割合となるように混合して混合物を得た。なお、アルミナ粉末は、昭和電工社製のAL47−H(D50=2.1μm)を用いた。また、チタン酸ストロンチウム粉末は、共立マテリアル社製のSTH100(D50=1.3μm)を使用し、チタン酸バリウム粉末は共立マテリアル社製のBT−HP9DX(D50=0.8μm)を使用した。さらに、チタニア粉末は東洋チタニウム社製のHT1311(D50=0.6μm)を使用し、ジルコニア粉末は、部分安定化ジルコニア粉末である第一稀元素化学工業社製のHSY−3F−J(D50=0.56μm)を用いた。
【0060】
次に、この混合物50gに、有機溶剤(トルエン、キシレン、2−プロパノール、2−ブタノールを質量比4:2:2:1で混合したもの)15g、可塑剤(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)2.5g、樹脂(デンカ社製ポリビニルブチラールPVK#3000K)5gおよび分散剤(ビックケミー社製DISPERBYK180)をそれぞれ混合してスラリーとした。このスラリーをPETフィルム上にドクターブレード法を用いて塗布し、乾燥して厚さが0.2mmのグリーンシートを作製した。
【0061】
次に、このようなグリーンシートからなる焼結体について、以下に示す方法によって空隙率、反射率および透過率をそれぞれ測定した。測定結果を表1に併せて示す。
【0062】
(空隙率)
材料組成から理論的に計算される焼結体(基板)の密度と、実際に製造された基板について測定された密度の値とから、実際の基板においては空隙の存在によりどれだけ軽くなっているかを計算し、空隙率を求めた。すなわち、一辺が40mm程度の正方形のグリーンシートを6枚積層したものについて、875℃で30分保持する焼成を行い、厚みが840μm程度の焼結体を得た。この焼結体の密度を、ザルトリウス社のデジタル比重計(LA230S+YDK01)によって測定した。そして、この密度と、材料組成から理論的に計算される焼結密度を比較することにより、空隙率を求めた。空隙率は10%以下とすることが好ましい。
【0063】
(反射率および透過率)
反射率および透過率は以下の方法で測定した。すなわち、一辺が30mm程度の正方形のグリーンシートを1枚としたもの、2枚積層したもの、3枚積層したものについて、それぞれ875℃で30分間保持する焼成を行い、厚さが140μm、280μm、420μm程度の3種類の焼結体を得た。これらの焼結体の反射率および透過率を、オーシャンオプティクス社の分光器USB2000と小型積分球ISP−RFを用いて測定し、厚さに関して線形補完することで、厚さ300μmの焼結体の反射率(単位:%)および透過率(単位:%)を算出した。反射率および透過率は波長460nmにおけるものとし、反射率測定のリファレンスとしては硫酸バリウムを使用した。
【0064】
(結晶化率)
空隙率の測定に使用したサンプルの一部を研磨し、日立製作所社の電子顕微鏡S−3000Hによって観察し、結晶化率を評価した。実施例1〜3のLTCC中のガラス相の結晶化率は、いずれも体積比率で20%以下であった。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から明らかなように、特定組成のホウケイ酸系ガラス粉末、アルミナ粉末、およびチタン化合物(チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸バリウム)粉末を所定の範囲内で含有するガラスセラミックス組成物からなる実施例1〜4の焼結体(基板)では、実用上十分高い80%以上の反射率が得られ、かつ透過率が5%未満と非常に低いことがわかる。したがって、LED素子用基板として実施例1〜4のガラスセラミックス組成物からなる焼結体を用いた場合には、側壁部から横方向に漏れる光量が非常に少なくなるので、色度の角度依存性が小さく、光学特性に優れた発光装置を提供することができる。また、実施例1〜4の焼結体は、空隙率が小さく、緻密性も十分であることがわかる。
【0067】
なお、チタン化合物(チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸バリウム)粉末は、若干光(可視光)を吸収するため、反射率と透過率を合わせた光取り出し率が100%にはならず、比較例2,3のものに比べて若干明るさが減少するが、色度の角度依存性が少ない良好な光を得ることができる。
【0068】
一方、実施例1と同一組成のホウケイ酸系ガラス粉末を用い、チタン化合物粉末の代わりにチタニア粉末を含有するガラスセラミックス組成物からなる比較例1の焼結体では、高い反射率が得られ透過率も低いものの、空隙率が大きくなっており、緻密性が十分でないことがわかる。また、実施例1と同一組成のホウケイ酸系ガラス粉末を用い、チタン化合物粉末の代わりにジルコニア粉末を含有するガラスセラミックス組成物からなる比較例2および比較例3の焼結体では、85%以上の反射率が得られ、かつ空隙率が小さく緻密性も十分であるが、透過率が10%以上と高いことがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1…LEDパッケージ(発光装置)、2…LED素子用基板、2a…本体部、2b…側壁部(枠体)、4…LED素子、5…ボンディングワイヤ、6…モールド封止層、22…接続端子。
図1