(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態の説明を行う。なお、本発明に係る車両用窓ガラスは、車両の前方に取り付けられるフロントガラスでもよいし、車両の側部に取り付けられるサイドガラスでもよい。また、後部に取り付けられるリアガラスでもよい。
【0013】
図2は、本発明に係る車両用窓ガラス及びアンテナの分解図である。
図2に示した車両用窓ガラスは、車外側に配置される第1のガラス板であるガラス板11と車内側に配置される第2のガラス板であるガラス板12とを合わせて形成された合わせガラスである。
図2は、本発明に係る車両用窓ガラスとアンテナの構成要素を、ガラス板11(又は、ガラス板12)の面に対する法線方向に分離して示している。
図2の車両用窓ガラスは、導電膜13がガラス板11とガラス板12との間に配置される積層構造を有し、電極16Aと16Bから構成される一対の電極16が、ガラス板12を挟んで導電膜13の配置位置に対して反対側に配置されている。導電膜13には、スロット23が形成される。スロット23は、導電膜13の上縁13aに接している。すなわち、スロット23は、その一端が導電膜13の外周縁である上縁13aで開放したものである。ガラス板11と、スロット23が形成された導電膜13と、ガラス板12と、一対の電極16がこの順番で積層され、アンテナを形成している。導電膜13は、ガラス板11とガラス板12との間に層状に配置され、ガラス板12は、導電膜13と電極16との間に層状に配置される。
このように、導電膜と導電膜に形成されたスロットと一対の電極とでアンテナを構成できるため、車体フランジと導電膜との間のスロットに関係なく所定の周波数で
共振させることができる。
【0014】
ガラス板11と導電膜13との間には、中間膜14Aが配置され、導電膜13とガラス板12との間には、中間膜14Bが配置される。ガラス板11と導電膜13は、中間膜14Aによって接合され、導電膜13とガラス板12は、中間膜14Bによって接合される。中間膜14A,14Bは、例えば、熱可塑性のポリビニルブチラールである。中間膜14A,14Bの比誘電率εrは、合わせガラスの一般的な中間膜の比誘電率である2.8以上3.0以下が適用できる。
【0015】
ガラス板11,12は、透明な板状の誘電体である。また、ガラス板11,12のいずれか一方が半透明でもよいし、ガラス板11,12の両方が半透明でもよい。スロット23が形成された導電膜13に、誘電体であるガラス板12と一対の電極16とで構成される給電構造を設置してアンテナを形成している。
【0016】
導電膜13は、外部から到来する熱線を反射することができる導電性の熱線反射膜である。導電膜13は、透明又は半透明である。
図2に記載された導電膜13は、ポリエチレンテレフタラートの表面に形成された導電性の膜であるが、ガラス板の表面に形成された導電性の膜でもよい。導電膜13には、導電膜13の上縁13aを開放端とするスロット23が形成されている。
【0017】
電極16Aと16Bから構成される電極16は、ガラス板12の車内側の面、すなわち導電膜13に対向している面に対して反対側の面に配置される。電極16は、ガラス板12の車内側の面に露出して配置される。一対の電極16は、一対の電極16を法線方向に導電膜13に投影すると、スロット23の長手方向に対して直交する方向であって且つ導電膜13の膜面に平行な方向にスロット23を挟むようにガラス板12の面上に配置される。つまり、電極16Aは、ガラス板12と中間膜14Bとを介して、導電膜上に投影される部分である第1の結合部21と容量的に結合される。また、電極16Bは、ガラス板12と中間膜14Bとを介して、導電膜上に投影される部分である第2の結合部22と容量的に結合される。第1の結合部21は、スロット23によって区画された導電膜13の一方の側に位置し、第2の結合部22はスロット23を挟んだもう一方の側に位置する。
【0018】
本態様のアンテナは、ガラス板11とガラス板12との間に導電膜13が配置される積層構造を有し、電極16Aと16Bから構成される一対の電極16が、ガラス板12を挟んで導電膜13の配置位置に対して反対側に配置されており、一端が開放端であるスロット23が導電膜13に形成されたものある。そして、電極16Aの導電膜13への投影部である第1の結合部21と、電極16Bの導電膜13への投影部である第2の結合部22とが、スロット23を挟んで位置し、電極16Aと第1の結合部21とが容量的に結合可能な距離だけ離間し、電極16Bと第2の結合部22とが容量的に結合可能な距離だけ離間するように、一対の電極16が設けられる。
【0019】
なお、「スロット23を挟む」とは、後述の
図13に示されるように、一対の電極16のうちいずれか一方の電極がスロット23と重複する位置に配置されることを含み、スロット23と重複した電極の一部が、スロット23に対してもう一方の電極が位置する側と反対側の導電膜13に重複していればよい。
【0020】
本態様のアンテナは、電極16Aと第1の結合部21との静電結合及び電極16Bと第2の結合部22との静電結合によりアンテナの短縮効果があり、一般的なノッチアンテナなどで必要とされるスロットの長さより、スロット23の長さを短くできる。そのため、スロット23を小さくでき、導電膜を形成させない部分を小さくできる。この短縮効果を考慮して、スロット23はアンテナが受信すべき周波数帯の電波の受信に適した形状と寸法によって形成される。スロット23は、すなわち、スロット23の形状と寸法は、アンテナが受信すべき周波数帯の電波を受信するために必要なアンテナ利得の要求値を満たすように設定されていればよい。
【0021】
例えば、アンテナが受信すべき周波数帯が地上デジタルテレビ放送帯470〜710MHzの場合、地上デジタルテレビ放送帯470〜710MHzの電波の受信に適するようにスロット23は形成される。
【0022】
また、アンテナが受信すべき周波数帯の電波の受信に適した位置であれば、アンテナのガラス上の配置位置は、特に限定されない。例えば、本態様のアンテナは、車両用窓ガラスの取り付け部位である車体開口端の近傍に配置される。
図10に示されるように、ルーフ側の車体開口端41の近傍に配置されると、アンテナ利得向上の点で、好適である。また、ピラー側の車体開口端42又は44に近づくように、
図10に示す位置から右方又は左方に移動した位置に配置されてもよい。また、シャーシー側車体開口端43の近傍に配置されてもよい。
図10の場合、スロット23の長手方向は、車体開口端41又は43の辺に直交する方向に一致する。
【0023】
図2において、本態様のアンテナは、ガラス板11とガラス板12との間に導電膜13が配置される積層構造を有し、信号線側の電極16Aと、アース線側の電極16Bと、電極16Aにガラス板12を介して静電結合された第1の結合部21と、電極16Bにガラス板12を介して静電結合された第2の結合部22と、第1の結合部21と第2の結合部22に挟まれたスロット23とを備える2極タイプのアンテナである。電極16Aがアース線側の電極で、電極16Bが信号線側の電極でもよい。電極16Aは、車体側に搭載された信号処理装置(例えば、アンプなど)に結線された信号線に導通可能に接続される。電極16Bは、車体側のグランド部位に結線された接地線に導通可能に接続される。車体側のグランド部位として、例えば、ボディーアース、電極16Aに接続される信号線が結線される信号処理装置のグランドなどが挙げられる。
【0024】
アンテナによって受信された電波の受信信号は、一対の電極16に通電可能に接続された導電性部材を介して、車両に搭載された信号処理装置に伝達される。この導電性部材として、AV線や同軸ケーブルなどの給電線が用いられるとよい。
【0025】
アンテナに電極16A,16Bを介して給電するための給電線として、同軸ケーブルを用いる場合には、同軸ケーブルの内部導体を電極16Aに電気的に接続し、同軸ケーブルの外部導体を電極16Bに接続すればよい。また、信号処理装置に接続されている導線等の導電性部材と電極16A,16Bとを電気的に接続するためのコネクタを、電極16A,16Bに実装する構成を採用してもよい。このようなコネクタによって、同軸ケーブルの内部導体を電極16Aに取り付けることが容易になるとともに、同軸ケーブルの外部導体を電極16Bに取り付けることが容易になる。さらに、電極16A,16Bに突起状の導電性部材を設置し、窓ガラス12が取り付けられる車体のフランジにその突起状の導電性部材が接触、嵌合するような構成としてもよい。
【0026】
また、電極16A,16Bは、銀ペースト等の、導電性金属を含有するペーストを窓ガラス板12の車内側表面にプリントし、焼付けて形成される。しかし、この形成方法に限定されず、銅等の導電性物質からなる、線状体又は箔状体を、ガラス板12の車内側表面に形成してもよく、ガラス板12に接着剤等により貼付してもよい。
【0027】
電極16Aと16Bの形状、及び各電極の間隔は、上記の導電性部材又はコネクタの実装面の形状や、それらの実装面の間隔を考慮して決めるとよい。例えば、正方形、略正方形、長方形、略長方形などの方形状や多角形状が実装上好ましい。なお、円、略円、楕円、略楕円などの円状でもよい。
【0028】
また、
図8に示されるように、電極16相当する電極49が形成された誘電体基板48をガラス板12の車内側表面に取り付けてもよい。
図8は、誘電体基板48がガラス板12に取り付けられた合わせガラスの断面図である。誘電体基板48の一例として、FR4を基材とするガラスエポキシ基板が挙げられるが、インピーダンスを調整すれば、他の材質の基板が用いられてもよい。誘電体基板48は、例えばアクリルフォームテープ47によってガラス板12の表面に貼付される。電極49は、誘電体基板48の上面に形成された上側電極49Aと、誘電体基板48の下面に形成された下側電極49Bとから構成される。上側電極49Aと下側電極49Bとは、複数のスルーホール48aを介して導通している。電極49は、誘電体基板48に2つ設けられており、
図2などに示す電極16A、16Bに相当する電極16を形成している。
図8に示される給電構造によれば、前述したコネクタを予め上側電極49Aに取り付けておくことにより、誘電体基板48をガラス板12に貼着するだけで、コネクタをガラス板に実装することができ、作業を簡略化することができる。
【0029】
なお、
図8に示されるように、合わせガラスは、車体開口端41等に取り付けられる場合、接着剤46(又は、パッキン)によって、車体フレーム45のフランジ部に取り付けられる。
【0030】
図3Aは、本発明の第1の実施形態である車両用窓ガラス100の正面図である。
図3Aは、車内側に配置されるガラス板12の面を車内側から対向して見たときの図である。
図3Aは、車両用窓ガラス100の全体図である。
図3Aの場合、アンテナ20が車両用窓ガラス100の右上側に配置されている。
図3Bは、アンテナ20の配置場所の拡大図である。
【0031】
導電膜13の縁(13a〜13d)は、ガラス板12の縁(12a〜12d)から内側に距離xd1だけオフセットされている。このようなオフセットを設けることによって、ガラス板11と12の合わせ面からの浸水等によって導電膜13が腐食することを防ぐことができる。
【0032】
また、
図3Cに示されるように、スロット23に近接して、スロット23に非接続の独立スロット24が導電膜13の外周縁に接することなく導電膜13内で閉じて形成されていてもよい。また、独立スロットをスロット23と同様に一端を開放端として形成させてもよい。独立スロット24を設けることによって、独立スロット24を設けない場合に比べて、アンテナ20の広帯域化を図ることができる。
【0033】
図4A−4Fは、
図3Aに示したA−Aにおける車両用窓ガラス100の断面図である。
図4A−4Fは、本発明に係る車両用窓ガラス及びノッチアンテナが有する積層形態のバリエーションを示したものである。
図4A−4Fは、ガラス板11、導電膜13がガラス板11と誘電体(すなわち、ガラス板12又は誘電体基板32)との間に配置される積層構造を有する形態であって、一対の電極16がその誘電体を挟んで導電膜13の反対側に配置されているものを示している。導電膜13は、ガラス板と誘電体との間の接着層に接している。
【0034】
図4A−4Dの場合、ガラス板11とガラス板12の間に、導電膜13と中間膜14(又は、中間膜14A,14B)が配置されている。
図4Aは、ガラス板12のガラス板11に対向している対向面に、導電膜13が蒸着処理されることによって、ガラス板12に導電膜13がコーティングされた形態である。
図4Bは、ガラス板11のガラス板12に対向している対向面に接した中間膜14Aとガラス板12のガラス板11と対向した対向面に接する中間膜14Bとの間に、フィルム状の導電膜13が挟まれた形態である。フィルム状の導電膜13は、フィルムに導電膜13が蒸着処理されることによって導電膜13がコーティングされた形態であってもよい。
図4Cは、
図4Bの形態において、導電膜13がガラス板12に対してオフセットしていない形態である。
図4Dは、窓ガラス11の窓ガラス12に対向している対向面に、導電膜13が蒸着処理されることによって、ガラス板11に導電膜13がコーティングされた形態である。
【0035】
また、
図4E,4Fに示されるように、本発明に係る車両用窓ガラスは、合わせガラスでなくてもよい。
図4E,4Fの場合、ガラス板11と誘電体基板32の間に、導電膜13が配置されている。
図4Eは、ガラス板11の誘電体基板32に対向している対向面に、導電膜13が蒸着処理されることによって、ガラス板11に導電膜13がコーティングされた形態である。導体膜13と誘電体基板32は、接着剤38によって接着される。
図4Fは、ガラス板11の誘電体基板32に対向している対向面に、導電膜13が接着剤38Aによって接着された形態である。導体膜13と誘電体基板32は、接着剤38Bによって接着される。誘電体基板32は樹脂からなる樹脂基板であり、一対の電極が設けられている。樹脂基板は、一対の電極がプリントされたプリント基板であってもよい。
【0036】
図5Aは、本発明の第2の実施形態である車両用窓ガラス200の正面図とB−B断面図である。
図5Aは、車内側に配置されるガラス板12の面を車内側から対向して見たときの正面図である。
図3Aと同様の部分については、その説明を省略又は簡略する。
【0037】
図5Aに示されるように、電極16A,16Bを車外側から見えなくするために、一対の電極16と(
図5Aにおいて、紙面奥側の)ガラス板11との間に、ガラス板の面に形成される隠蔽膜18を設けてもよい。隠蔽膜18は黒色セラミックス膜等の焼成体であるセラミックスが挙げられる。この場合、窓ガラスの車外側から見ると、隠蔽膜18により隠蔽膜18上に設けられている電極16A,16Bの部分が車外から見えなくなり、デザインの優れた窓ガラスとなる。
【0038】
図5B,5Cは、
図5Aに示したB−Bにおける車両用窓ガラス100の断面図である。
図5B,5Cは、本発明に係る車両用窓ガラス及びアンテナが有する積層形態のバリエーションを示したものである。
図5B,5Cは、ガラス板11、導電膜13がガラス板11と誘電体(すなわち、ガラス板12)との間に配置される積層構造を有する形態であって、一対の電極16がその誘電体を挟んで導電膜13の反対側に配置されているものを示している。
【0039】
図5B,5Cの場合、ガラス板11とガラス板12の間に、導電膜13と中間膜14が配置されている。
図5Bは、ガラス板11のガラス板12に対向している対向面に、導電膜13が蒸着処理されることによって、ガラス板11に導電膜13がコーティングされた形態である。ガラス板12に形成された隠蔽膜18が、ガラス板12と電極16との間に配置されている。
図5Cは、ガラス板12のガラス板11に対向している対向面に、導電膜13が蒸着処理されることによって、ガラス板12に導電膜13がコーティングされた形態である。ガラス板11に形成された隠蔽膜18が、ガラス板11と導体膜13との間に配置されている。
【0040】
隠蔽膜18は、ガラス板12の外縁から距離xd3の内側領域に形成されている。ガラス板12の外縁と導電膜13との距離xd1(又は、xd2)を距離xd3より短くすることによって、導電膜13の外周縁を隠蔽膜18によって隠すことができ、導電膜の外周縁を目立たなくし意匠性が向上する。また、熱線を導電膜13と隠蔽膜18とで隙間なく遮蔽することが可能となる。
【0041】
車両に対する窓ガラスの取り付け角度は、水平面(地平面)に対し、15〜90°、特には、30〜90°が好ましい。
【実施例1】
【0042】
縦横300mmの正方形の厚さ3.1mmのガラス基板を窓ガラスと想定して、実験を行った。このガラス基板の車外側の面と仮定した片面に、電極間距離を5mm離した一対の電極を形成し、車内側の面と仮定したもう一方の片面に、アンテナのスロットが形成された銅箔を導体膜と仮定して形成した。電極の大きさは、縦横15mmの正方形である。銅箔の大きさは、縦250mm、横300mmである。ルーフ側縁部と仮定したガラス基板の縁部から銅箔の縁部までのオフセット距離は、50mmに設定した。アンテナのスロットの一端が銅箔のルーフ側縁部で開放するように、スロットを銅箔に形成した。車体やデフォッガはないものと仮定する。
【0043】
このように実際に製作されたアンテナと、これと同寸法の数値計算上のアンテナとについて、周波数100〜1100MHzにおいて5Hz毎に、リターンロス特性(反射特性)S11を測定した。また、
図3B,3Cのそれぞれの形態のノッチアンテナについて、測定を行った。数値計算の場合、FDTD法(Finite-Difference Time-Domain method)に基づく電磁界シミュレーションで数値計算を行い、リターンロス特性(反射係数)S11を計算した。S11は、零に近いほどリターンロスが大きくアンテナ利得が小さくなり、マイナスの値が大きくなるほどリターンロスが小さくアンテナ利得が大きくなる。
【0044】
図3Bの形態におけるS11の測定時の寸法は、スロット23の長手方向の長さは83mm、スロット23の幅は3mmである。
【0045】
図3Cの形態におけるS11の測定時の寸法は、スロット23の長手方向の長さ及び幅は、
図3Bの形態の場合と同一である。また、スロット23の長手方向に平行な独立スロット24の長手方向の長さは165mm、独立スロット24の幅は3mmである。スロット23と独立スロット24との長手方向に直交する方向での離間距離は10mmである。銅箔のルーフ側縁部と独立スロット24と最短距離は41.5mmである。
【0046】
図6A,6Bは、
図3B,3CのS11のシミュレーション結果と実験結果を示す。
図6Aは、
図3Bの場合の結果を示し、
図6Bは、
図3Cの場合の結果を示す、
図6A,6Bにおいて、実線はシミュレーション上での計算値、点線は実験値を示す。
【0047】
図6Aに示されるように、
図3Bのアンテナは、350〜400MHz付近に共振点を有しており、導電膜がアンテナとして機能することがわかる。
【0048】
また、
図6Bに示されるように、独立スロット24を設けることによって、300〜350MHz付近と、550〜600MHz付近に2つの共振点が生じるので、独立スロットが無い場合に比べて、広帯域化を図ることができる。
【0049】
また、
図7に、
図3Bのアンテナ(例1)と、
図3Bとスロットの形状が同じ導電膜において、静電結合なしにスロットに直接給電するノッチアンテナ(例2)と、静電結合なしにスロットに直接給電するノッチアンテナにおいて、350〜400MHz付近で共振するようにスロットの長さを275mmに調整したノッチアンテナ(例3)とを比較した結果を示す。これらはシミュレーション結果である。この結果より、例2のノッチアンテナは、
図3Bのアンテナ(例1)と同形状のスロットを有していても、スロットの長さが短いため、高周波側で共振している。共振周波数を低周波側にシフトさせるためにスロットを長くすると、例3のように275mmの長さが必要となる。そのため、
図3Bのアンテナのスロットは短く形成できることがわかる。また、給電構造を静電結合で構成することにより、静電結合なしにスロットに直接給電するノッチアンテナと比較して、共振点でリターンロスを小さくできるため、アンテナ利得を向上させることができる。
【0050】
このように、上述の構成によれば、車体フランジと導電膜との間のスロットを用いずに導電膜を利用したアンテナを構成できる。よって、車体フランジを利用しないため、ガラス板の車体フランジへの設置精度が要求されない。そして、導電膜にスロットを設けて直接給電する場合に比べてスロットの長さを短くでき、導電膜がない領域を小さくできる。また、ガラス板に孔を開ける必要もなく、ガラス板の外周縁の外側を迂回する給電用導体を設ける必要もないため、導電膜を利用したアンテナを簡易な構成で実現することができる。
【実施例2】
【0051】
実施例2では、独立スロットを追加することによる本発明のアンテナの広帯域化の効果について説明する。
【0052】
図9は、
図3Bの形態のアンテナに独立スロット24(24A,24B)を追加したアンテナの代表図である。独立スロット24A,24Bは、一端を開放端として形成された無給電スロットである。独立スロット24A,24Bの開放端は、スロット23の開放端が接する導電膜13の上縁13aに接している。独立スロット24Aは、スロット23との間に電極16Aが位置するように形成されていて、独立スロット24Bは、スロット23との間に電極16Bが位置するように形成されている。
【0053】
実施例2では、合わせガラスの内層に導電膜13が設けられた
図9の形態のアンテナを想定して、FDTD法に基づく数値計算を、周波数200〜500MHzにおいて0.6MHz毎に行った。また、合わせガラスのガラスサイズが変更されることを想定し、W1,W2,H7,H10が互いに異なる3通りのガラスサイズについて数値計算した。この数値計算では、アンテナが形成された合わせガラスの取り付け部位である車体フレームを導体50としてモデル化し、ガラス周辺の境界条件を無限とした。
【0054】
図9の層構成は、
図4Bの形態とした。導体50は、電極16A,16Bと同一の層に形成されているとした。
図3B及び
図9における各部の寸法(単位:mm)及び定数は、以下のとおりである。
【0055】
[実施例2−1:第1のガラスサイズ]
H1:70
H2,H3:170
H4,H5:10
H6:376
H7:356
H8:90
H9:40
H10:506
H11:50
W1:960
W2:880
W3:10
W4,W5,W6:3
W7.W8:40
W9,W10:100
W40:5
W41,H42,W43,H44:20
【0056】
[実施例2−2:第2のガラスサイズ(実施例2−1に対する変更箇所のみ表示)]
H7:470
H10:620
W1:1200
W2:1100
【0057】
[実施例2−3:第3のガラスサイズ(実施例2−1に対する変更箇所のみ表示)]
H7:604
H10:734
W1:1440
W2:1360
【0058】
[実施例2−1,2−2,2−3共通の寸法及び定数]
ガラス板11,12の厚さ:2.0
ガラス板11,12の比誘電率:7.0
中間膜14A,14Bの厚さ:0.381
導電膜13のシート抵抗:2.0[Ω/□(ohm/square)]
導電膜13の厚さ:0.01
導体50及び電極16A,16Bの厚さ:0.01
【0059】
【表1】
【0060】
表1は、200〜500MHzの周波数範囲において、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio)=3.0以下の比帯域(fractional bandwidth)を数値計算した結果を示す。表1の比帯域は、演算式
比帯域=F
w/{(F
H−F
L)/2} ・・・(1)
F
w:VSWR<3.0の帯域幅
F
H:VSWR<3.0の周波数の最大値
F
L:VSWR<3.0の周波数の最小値
で表される。
【0061】
表1に示されるように、ガラスサイズにかかわらず、独立スロット24A,24Bを追加することによって、比帯域の値が大きくなる。つまり、独立スロットを追加することによって、アンテナの広帯域化が可能になる。
【実施例3】
【0062】
実施例3では、本発明のアンテナ全体の上下方向での設置位置の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0063】
図10は、
図3Bの形態のアンテナが形成された合わせガラスの正面図(車内視)である。
図10は、合わせガラスが車体開口部に取り付けられた状態を示す。
【0064】
実施例3では、自動車のフロントガラス用の合わせガラスを使って実際に製作された
図10の形態の平面アンテナについて、ルーフ側の車体開口端41と導電膜13の上縁13aとの距離L7を変化させたときのアンテナ利得を、実車を使って測定した。
【0065】
アンテナ利得は、ガラスアンテナが形成された自動車用窓ガラスを、ターンテーブル上の自動車の窓枠に組みつけて実測した。なお、自動車用窓ガラスのアンテナ部分は水平面に対して約16°傾いた状態となった。給電部(
図8の給電構造を採用)には、同軸ケーブルに接続されるコネクタを取り付けた。
【0066】
アンテナ利得の測定は、ターンテーブルの中心に、ガラスアンテナが形成された自動車用窓ガラスを組みつけた自動車の車両中心をセットして、自動車を360°回転させて行った。アンテナ利得のデータは、水平偏波と垂直偏波の2つの場合について、回転角度1°毎に、250〜450MHzにおいて5MHz毎に測定した。電波の発信位置とスロット23との仰角は水平方向(地面と平行な面を仰角=0°、天頂方向を仰角=90°とする場合、仰角=0°の方向)で測定した。アンテナ利得は、半波長ダイポールアンテナを基準とし、半波長ダイポールアンテナが0dBとなるように標準化した。
【0067】
図10の層構成は、
図4Bの形態とする。実施例2での各部の寸法及び定数は、合わせガラスの外形寸法を除き、実施例2と同じである。
【0068】
【表2】
【0069】
表2は、距離L7を変化させたときの、代表周波数330MHzにおける360°全周分のアンテナ利得の実測データの相加平均値(単位:dBd)を示す。表2に示されるように、距離L7を変えても、アンテナ利得に大きな変化は生じない。つまり、導電膜13の上縁13aを車体開口端41に近づけることができる結果、スロット23を窓ガラスの上縁12aに近づけることができるので、窓ガラスの視界が向上する。
【実施例4】
【0070】
実施例4では、本発明のアンテナ全体の左右方向での設置位置の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0071】
実施例4では、実施例3と同じ
図10の形態の平面アンテナについて、導電膜13のAピラー側左縁13dとスロット23の中心線との距離L5を変化させたときのアンテナ利得を、実車を使って測定した。距離L7を15mmとして、その他の各部の寸法及び定数、並びにアンテナ利得の測定条件は、実施例3と同じである。
【0072】
図11は、代表周波数330MHzの波長λ
0で規格化した距離L5を変化させたときの、330MHzにおける360°全周分のアンテナ利得の実測データの相加平均値(単位:dBd)を示す。
図11に示されるように、導電膜13の左縁13dと右縁13bと間の中心線までの長さを最大値として、距離L5が0.1λ
0以上、より好ましくは0.4λ
0以上であると、アンテナ利得向上の点で有利である。
【実施例5】
【0073】
実施例5では、本発明のアンテナの電極16(16A,16B)の上下方向での位置の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0074】
実施例5では、実施例3と同じ
図10の形態の平面アンテナについて、距離L7を15mmとして、電極16の端子位置Lyを上下方向に変化させたときのアンテナ利得を、実車を使って測定した。実施例5での各部の寸法及び定数、並びにアンテナ利得の測定条件は、実施例3と同じである。
【0075】
端子位置Lyは、
図3Bの符号を引用して、演算式
Ly=(H11+H44(又は、H42))/H1 ・・・(2)
H11+H44(又は、H42):スロット23の下端と電極16の上端との距離
H1:スロット23のスロット長(アンテナ長)
で表される。
【0076】
図12は、端子位置Lyを変化させたときの、代表周波数330MHzにおける360°全周分のアンテナ利得の実測データの相加平均値(単位:dBd)を示す。
図12に示されるように、端子位置Lyが0.4以上1.2以下、より好ましくは0.5以上1.1以下であると、アンテナ利得向上の点で有利である。すなわち、電極16A,16Bが導電膜13の上縁13aに近いほど、アンテナ利得向上の点で有利である。
【実施例6】
【0077】
実施例6では、本発明のアンテナの電極16(16A,16B)の左右方向での位置の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0078】
実施例6では、正方形の合わせガラスの内層に導電膜13が設けられた
図3Bの形態のアンテナを想定して、FDTD法に基づく数値計算を、周波数250〜450MHzにおいて0.6MHz毎に行った。また、電極16Aと16Bとの間の最短間隔W40(
図3B参照)を10mmに固定したまま、
図13に示されるように、電極16(16A,16B)が全体として右方向に移動する場合を想定した数値計算を行った。この数値計算では、アンテナが形成された合わせガラスの取り付け部位である車体フレームは無いものとしてモデル化し、ガラス周辺の境界条件を有限(周囲が自由空間)とした。
【0079】
実施例6で想定した合わせガラスの形状は、縦横300mmの正方形とした。スロット23の中心線の位置は、正方形の合わせガラスの一辺の二等分線上とした。実施例6で想定した層構成は、
図8の合わせガラス及び給電構造の層構成とした。実施例6での各部の寸法(単位:mm)及び定数は、
図3A,3Bの符号を引用して、以下に示す。
誘電体基板48の厚さ:0.4
誘電体基板48の比誘電率:4.0
アクリルフォームテープ47の厚さ:0.4
アクリルフォームテープ47の比誘電率:3.0
電極49Aの厚さ:0.01
H1:70
H21:300
H23:30
H24:10
W5:3
W21:300
W23,W24:10
W40:10
W41,H42,W43,H44:20
【0080】
図14は、面積比Srを変化させたときの、250〜450MHzの周波数範囲において、VSWR=3.0以下の比帯域を数値計算した結果を示す。
図13に示されるように、スロット23に対して電極16Aの左側領域を16Alとし、スロット23に対して電極16Aの右側領域を16Arとしたとき(スロット23と重複している面積は含まない)、
図14の横軸の面積比Srは、演算式
Sr=領域16Alの面積/(領域16Alの面積+領域16Arの面積)
・・・(3)
で表される。
図14の縦軸の比帯域は、上述の演算式(1)に従って演算された値である。
図14に示されるように、面積比Srが0.5以上、より好ましくは0.6以上であると、アンテナの広帯域化の点で有利である。すなわち、電極16A,16Bがスロット23に重複せずにスロット23の両側に配置されると、アンテナの広帯域化の点で有利である。
【実施例7】
【0081】
実施例7では、本発明のアンテナの電極16(16A,16B)のサイズ(面積)の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0082】
実施例7では、実施例6と同じ
図3Bの形態のアンテナを想定して、FDTD法に基づく数値計算を、周波数250〜450MHzにおいて0.6MHz毎に行った。また、電極16それぞれの形状を正方形に維持したまま、スロット23の幅W5が3.0mm,7.5mmの2通りの場合について、FDTD法に基づく数値計算を行った。実施例7での各部の寸法及び定数は、実施例6と同じである。
【0083】
図15は、電極16の面積に応じて変化するインピーダンスZcを変化させたときの、250〜450MHzの周波数範囲において、VSWR=3.0以下の比帯域を数値計算した結果を示す。電極16の面積に比例する電極16の静電容量をCとするとき、
図15の横軸のインピーダンスZc(=−1/2πFcC)は、演算式(1)の分母(すなわち、W5=3.0mmの場合、中心周波数Fc=337MHzであり、W5=7.5mmの場合,中心周波数Fc=355MHz)における計算値とする。
図15の縦軸の比帯域は、上述の演算式(1)に従って演算された値である。
図15に示されるように、−400≦Zc≦−80、より好ましくは−300≦Zc≦−100であることが、アンテナの広帯域化の点で有利である。
【実施例8】
【0084】
実施例8では、本発明のアンテナの電極(16A,16B)のサイズ(面積)の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0085】
実施例8では、実施例3と同じ
図10の形態の平面アンテナについて、スロット23のアンテナ長H1を70mmに固定し且つ電極16それぞれの形状を正方形に維持したまま、正方形の各電極16の一辺の長さW41と、電極16Aと16Bとの間の最短間隔W40とを変化させたときのアンテナ利得を、実車を使って測定した。実施例8での各部の寸法及び定数、並びにアンテナ利得の測定条件は、実施例3と同じである。実施例8でのアンテナ利得は、
図8の給電構造を実際に製作して測定した。
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
表3は、水平偏波の場合に、最短間隔W40及び一辺の長さW41を変化させたときの、代表周波数330MHzにおける360°全周分のアンテナ利得の実測データの相加平均値(単位:dBd)を示す。表4は、垂直偏波の場合に、最短間隔W40及び一辺の長さW41を変化させたときの、330MHzにおける360°全周分のアンテナ利得の実測データの相加平均値(単位:dBd)を示す。表5は、一辺の長さW41が16,20,24mmのときのZcを示す。表3,4,5に示されるように、電極16の面積を変更するとZcが変化し、
図15に示すグラフのピーク値に近い値に調整されると、アンテナ利得が向上する点で有利である。
【実施例9】
【0090】
実施例9では、本発明のアンテナのアンテナ長H1の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0091】
実施例9では、正方形の合わせガラスを使って実際に製作された
図3Bの形態の平面アンテナについて、スロット23のアンテナ長H1を変化させたときのアンテナ利得を測定した。実施例9での各部の寸法及び定数は、実施例6と同じである。アンテナ利得の測定条件は、
図3Bの形態のアンテナが形成された正方形の合わせガラスを発泡スチロールの台上に垂直に設置して測定した点を除いて、実施例3と同じである。
【0092】
図16は、アンテナ長H1を変化させたときの、代表周波数380MHzにおける360°全周分のアンテナ利得の実測データの相加平均値(単位:dBd)を示す。
図16に示されるように、アンテナ長H1が63mm以上84mm以下、より好ましくは67mm以上80mm以下であると、アンテナ利得向上の点で有利である。
【実施例10】
【0093】
実施例10では、本発明のアンテナのアンテナ幅W5の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0094】
実施例10では、実施例9と同じ
図3Bの形態の平面アンテナについて、スロット23のアンテナ幅W5を変化させたときのアンテナ利得を測定した。実施例10での各部の寸法及び定数は、実施例6と同じである。アンテナ利得の測定条件は、実施例9と同じである。
【0095】
図17は、アンテナ幅W5を変化させたときの、代表周波数380MHzにおける360°全周分のアンテナ利得の実測データの相加平均値(単位:dBd)を示す。
図17に示されるように、アンテナ幅W5が1mm以上10mm以下、より好ましくは2mm以上9mm以下であると、アンテナ利得向上の点で有利である。
【実施例11】
【0096】
実施例11では、本発明のアンテナのスロット23の形態の違いによるアンテナ利得の変化について説明する。
【0097】
実施例11では、正方形の合わせガラスを使って実際に製作された
図18A−18Dの形態の平面アンテナのアンテナ利得を測定した。複数の細線スロットから構成されるスロット23のバリエーションが図示されている。
図18B−18Dの各図において、複数の細線スロットのスロット幅をW11としている。
図18Aは、スロット23Aのアンテナ幅W5を誇張した、
図3Bの形態と同じスロット構成を示す。
図18Bは、2本の細線スロット23B1,23B2が、
図18Aのアンテナ幅W5と同じピッチで配置されたスロット構成を示す。
図18Cは、
図18Aのアンテナ幅W5の間に、4本の細線スロット23C1−23C4が等間隔に配置されたスロット構成を示す。
図18Dは、細線スロット23D1と細線スロット23D2を貫通する貫通スロット23D3で接続したU字のスロット構成を示す。実施例11での各部の寸法及び定数は、アンテナ幅W5を除いて、実施例6と同じである。アンテナ利得の測定条件は、実施例9と同じである。
【0098】
【表6】
【0099】
表6は、細線スロットの幅W11と本数を変化させたときの、代表周波数380MHzにおける360°全周分のアンテナ利得の実測データの相加平均値(単位:dB)を、
図18Aの場合の相加平均値との相対差として表した値を示す。表6に示されるように、アンテナ利得を確保したまま、細線のスロット幅W11を狭くできる。そのため、実施例10(
図17)で示したアンテナ利得向上に必要なアンテナ幅W5を得るために、幅W11が細い細線スロットを複数設けることで、同等の特性を得ることができる。細い細線スロットを用いることによって、太いスロット23を設けるよりも搭乗者に目立たなくすることができ意匠性が向上するとともに、レーザー加工で容易に細線スロットを形成させることができるため生産性が向上する。
【0100】
本出願を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2009年7月9日出願の日本特許出願(特願2009-163099)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。