(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水質パラメータの測定は、紙原料からパルプを製造する原料系、前記パルプを調成し抄紙する調成・抄紙系、前記調成・抄紙系から白水を回収する回収系、及び前記回収系で回収した白水の一部に対し排水処理を行う排水系からなる群より選ばれる1種以上の系において行う請求項1記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る方法が実施される製紙系10のブロック図である。製紙系10は、原料系20、調成・抄紙系30、回収系40、薬注系50、及び制御系60を備える。
【0015】
原料系20は、紙原料からパルプを製造する。本実施形態における原料系20は、化学パルプタンク21、再生パルプタンク22及びブロークタンク23を有し、化学パルプタンク21には針葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の化学パルプ、再生パルプタンク22には脱墨パルプ(DIP)等の再生パルプ、ブロークタンク23にはブロークパルプがそれぞれ紙原料として収容されている。化学パルプタンク21、再生パルプタンク22の上流には、各々の紙原料を製造し供給する装置が設けられていてもよい。即ち、化学パルプタンク21の上流には、木材チップを蒸解する蒸解釜、パルプを漂白する装置、異物を除去するスクリーン等が設けられてよく、再生パルプタンク22の上流には、古紙を溶解するパルパ、インクを除去するフローテータ、パルプを漂白する装置、異物を除去するスクリーン等が設けられてよい。なお、ブロークタンク23には、調成・抄紙系30で生じた又は他の系で生じたブロークパルプが供給される。
【0016】
化学パルプタンク21、再生パルプタンク22及びブロークタンク23に収容されたパルプは適切な比率でミキシングチェスト24へと供給され、このミキシングチェスト24で混合される。混合されたパルプはマシンチェスト25で粘剤等の抄紙薬品が添加された後、種箱26へと移送される。なお、化学パルプタンク21、再生パルプタンク22、ブロークタンク23、ミキシングチェスト24、マシンチェスト25及び種箱26は、本発明の原料系20を構成する。
【0017】
調成・抄紙系30はパルプを調成し抄紙する。種箱26に収容されたパルプは、後述の白水サイロ38からの白水とともに、ポンプ31によってスクリーン32、クリーナ33へと順次供給され、ここで異物を除去された後、インレット34へと供給される。インレット34は、ワイヤーパート35のワイヤに、パルプを適正な濃度、速度、角度で供給することで、フロック及び流れ縞を抑制する。供給されたパルプは、ワイヤーパート35、プレスパート36で水を脱水され、その後、図示しないドライヤーパートで乾燥された後、適宜の処理をされて紙へと製造される。
【0018】
ワイヤーパート35及びプレスパート36には、ワイヤやフェルトを清浄にするため、水タンク37からの水が散水される。ワイヤーパート35及びプレスパート36でパルプから脱水された水や、散水後の水は、白水として白水サイロ38に受容される。白水サイロ38に受容された白水は、その一部がポンプ31へと供給され、残りがシールピット41へと供給される。なお、ポンプ31から白水サイロ38までの各要素は、本発明の調成・抄紙系30を構成する。
【0019】
回収系40は調成・抄紙系から白水を回収する。供給された白水は、シールピット41を経て回収装置42へと移送され、回収装置42でろ過されて固液分離される。ろ液は、回収水タンク43へと回収され、貯留される。ろ液の一部は更にろ過され、一次処理水タンク44から水タンク37へと戻され又は外部へと排出され、また他の部分は化学パルプタンク21、再生パルプタンク22及びブロークタンク23へと戻され、各々再利用される。シールピット41、回収装置42及び回収水タンク43は本発明の回収系40を構成する。一次処理水タンク44は、回収系で回収した白水の一部に対し排水処理を行う排水系を構成する。
【0020】
以上の製紙系10のうち水が流通する部分が本発明の一実施形態に係る水系を構成し、種々の原因を介してスライムの形成されるおそれが大きい部分である。そこで、製紙系10では、薬注系50の薬注装置51から酸化性殺菌剤を水系へと添加し、スライムを抑制する。酸化性殺菌剤の添加箇所は、特に限定されないが、スライムが形成されやすい部分、又は水系全体のスライムを抑制するために効率的な部分であることが好ましく、単数であっても複数であってもよい。具体的に
図1では、薬注装置51から、添加管53を通じて調成・抄紙系30の白水サイロ38へ、添加管55を通じて原料系の希釈液となる回収水タンク43の回収水タンクへと酸化性殺菌剤が添加される。
【0021】
図2に示す実施形態では、一次処理水タンク44から導出された水がウェットブロークタンク45へと導入され、シールピット41からの水の一部は、塗工された紙のうち、断紙して欠点が生じた紙(損紙)を貯留するCB(コートブローク)タンク46へと導入される。CBタンク46から導出されるスラリー、及びウェットブロークタンク45から導出されるスラリーは、ブロークタンク23へと移送される。薬注装置51からの酸化性殺菌剤は、添加管53を通じて白水サイロ38へ、添加管55を通じて一次処理水タンク44へと添加される。
【0022】
酸化性殺菌剤としては、特に限定されないが、水中で次亜塩素酸及び/又は次亜臭素酸を生じる化合物が好ましく、例えば塩素、二酸化塩素、高度さらし粉、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸アンモニウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜臭素酸、次亜臭素酸ナトリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜臭素酸カルシウム、次亜臭素酸アンモニウム、次亜臭素酸マグネシウム、クロル化及び/又はブロム化ヒダントイン類、クロル化及び/又はブロム化イソシアヌル酸及びそのナトリウム塩やカリウム塩等が挙げられる。また、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、臭化カルシウム等の無機臭化物と塩素、二酸化塩素、オゾン等の酸化性化合物とを同時に作用させ次亜臭素酸を発生させるものであってもよい。また、このような無機殺菌剤の他、有機殺菌剤を用いてもよい。有機殺菌剤としては、例えば、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン等が挙げられる。これらの酸化性殺菌剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。薬注装置51は、用いる酸化性殺菌剤の種類に応じて、適切な設備であればよい。
【0023】
製紙系10の水系において、微生物のみならず、pH低下、温度上昇等によってもスライム形成が促進され、また、カルシウムの析出等によるピッチや欠陥の発生、白水の気泡等による断紙といった障害が生じ得る。このため、本発明の方法は、製紙系10の稼動と並行して、水質に関わる2以上の水質パラメータを測定し、その測定値に基づいて水処理を行う工程を有する。これにより、紙品質低下の原因となり得る異変を早期に把握し、それに基づき適切な水処理を行うことで、紙品質低下を予防又は高度に抑制することができる。なお、測定は、連続的に行ってもよく、間欠的に行ってもよい。
【0024】
水質パラメータは、特に限定されず、本発明の方法を実施する水系の事情に応じて適宜選択されてよいが、酸化還元電位、グルコース量、有機酸量、pH、カルシウムイオン量、電気伝導率、濁度、カチオン要求量、温度、発泡の程度、COD、BOD、溶存酸素量、デンプン量、残留塩素量、及び呼吸速度からなる群より選ばれる2種以上であることが好ましい。
【0025】
酸化還元電位は、水系内の嫌気性又は好気性の状態を反映するパラメータであり、低い程、スライムが形成されやすい。酸化還元電位の測定値が低い程、殺菌(例えば酸化性殺菌剤の添加)又は静菌(例えば、水系の冷却)の処理レベルを増やし、測定値が高い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。
【0026】
具体的に、
図1では、ブロークタンク23及び種箱26に酸化還元電位を測定するORP計63,65が設けられていて、これらORP計63,65は測定値を制御系60の制御装置61に送信する。制御装置61は、受信した測定値に基づいて薬注系50を制御し、薬注装置51から白水サイロ38、回収水タンク43への酸化性殺菌剤の添加量を調節する。
図2では、シールピット41、ウェットブロークタンク45及びCBタンク46に酸化還元電位を測定するORP計63A,65A,67が設けられており、制御装置61は薬注装置51から白水サイロ38、一次処理水タンク44への酸化性殺菌剤の添加量を調節する。なお、制御装置61は、例えば、添加管53,55に設けられている弁(図示せず)の開度や開時間長を増減する。ただし、添加量の調節は、このような自動制御に限られず、人為的な制御であってもよい。
【0027】
グルコースはデンプンの微生物による分解産物であるため、グルコース量は、微生物の繁殖程度を反映する。グルコース量の測定値が高い程、殺菌又は静菌の処理レベルを増やし、測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。グルコース(デンプン分解物で微生物の栄養源)量の増加により、微生物が増殖して溶存酸素を減少させ、ORP値が低下する。グルコース量だけの測定であると、微生物によりグルコースが消費され尽くされて低い値の場合等には、微生物汚染が把握できないが、ORP値の測定も併せて行うことで、かかる場合等でも微生物汚染を把握することができる。
【0028】
有機酸もデンプンの微生物による分解産物であるため、有機酸量は、微生物の繁殖程度を反映する。有機酸量の測定値が高い程、殺菌又は静菌の処理レベルを増やし、測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。なお、有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、吉草酸等の1種以上が挙げられる。嫌気状態下で微生物がデンプンを分解すると有機酸を生成し、この有機酸がカルシウムと結合することで有機酸塩が生成するため、有機酸の量とともにORP値を測定することで、この機構による有機酸塩ピッチ発生を予測することができる。また、グルコース量及び有機酸の量の増加が微生物によるデンプンの分解を示すため、両者を測定することで、有機酸由来の有機酸塩ピッチ発生を予測することができる。
【0029】
pHは、有機酸の生成を含む様々な要因で変動するが、薬剤(例えば殺菌剤)の効能はpHに依存する場合が多い。このため、用いる薬剤に応じてpHが所定の好ましい範囲に収まるよう、塩基の添加等によりpHを調節することが好ましい。なお、本発明におけるpH測定値は、各時点におけるpHの測定値自体を指し、例えば特開2010−100945号公報に開示されるようなpHの経時的変化量とは明確に異なる。pHの測定値に基づくことで、pH依存性を有するORP測定値を適切に補正することもできる。例えば、酸化剤の添加されている系ではORP測定値が真のORP値より高くなるが、pH測定値に基づいてORP測定値を補正することで真のORP値を算出し、適切な薬注制御を行うことができる。また、pHの低下から有機酸の生成が推測され、ORP値から嫌気状態であると判断されれば有機酸塩の発生を予測することができる。あるいは、デンプン分解後に生成する有機酸によりpHが低下するため、pHとともにグルコース量又は有機酸量を測定することで、カルシウムイオンが増加し炭酸カルシウム欠点の発生を予測することができる。
【0030】
カルシウムイオンは、pH低下に伴うパルプ中の炭酸カルシウムの溶解によって増加し、製紙系10を構成する装置へピッチが付着する要因として考えられる。このため、カルシウムイオン量の測定値が高い程、殺菌又は静菌の処理レベルを増やし、測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。カルシウムイオン量とともにORP値を測定することで、嫌気状態下での脂肪酸とカルシウムイオンとの結合によるカルシウム塩欠点を予測することができる。デンプン分解物のグルコースが増加すると、微生物によるデンプンの分解を示すことから、カルシウムイオン量とともにグルコース量を測定することで、デンプン分解後の炭酸カルシウム欠点の発生を予測することができる。カルシウムイオン量とともに有機酸量又はpHを測定することで、有機酸によるpH低下を介してカルシウムイオン量が増加し、炭酸カルシウム欠点の発生を予測することができる。
【0031】
電気伝導率は、水系におけるイオン性物質の量を反映し、ポリマー等の薬品の紙製品への定着効率等に影響する要因として考えられる。このため、電気伝導率の測定値が高い程、殺菌又は静菌の処理レベルを増やし、測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。なお、
図1及び2には示していないが、ORP計63,65に併設して電気伝導率を測定する器具が設けられている。嫌気状態下で電気伝導率が上昇した場合は、デンプンの分解が予想される。繊維に付着したデンプンが分解され、繊維とデンプンの間に含有されていたピッチ分の放出が発生する。このため、電気伝導率とともにORP値を測定することで、かかるピッチを予測することができる。電気伝導率とともにグルコース量、有機酸量又はpH、カルシウムイオン量を測定することで、デンプン分解後に生成する有機酸によるpHの低下に伴い、イオン状物質が増加し、炭酸カルシウム欠点や無機物欠点が発生することを予測することができる。
【0032】
濁度は、濁りを与える成分(例えば、アニオントラッシュ成分)の量を反映し、薬剤(例えば殺菌剤)の効能等に影響を与える。このため、濁度の測定値が高い程、殺菌又は静菌、凝結(例えば凝結剤の添加)の処理レベルを増やし、測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。嫌気状態下で濁度が上昇した場合は、デンプンの分解が予想される。繊維に付着したデンプンが分解され、繊維とデンプンの間に含有されていたピッチ分の放出が発生する。このため、濁りとともにORP値を測定することで、かかるピッチを予測することができる。微生物によるデンプン分解でグルコース量及び濁度が上昇するため、濁度とともにグルコース量を測定することで、デンプンの分解を介した微生物繁殖によるスライム欠点の予測が可能となる。同様に、濁度とともに有機酸量を測定することで、デンプンの分解による微生物繁殖を介したスライム欠点の予測が可能となる。濁度とともにpHを測定することで、繊維に付着したデンプンが分解され、繊維とデンプンの間に含有されていたピッチ分の放出が発生することによるピッチ欠点の発生を予測することができる。濁度とともにカルシウムイオン量又は電気伝導率を測定することで、デンプン分解による有機酸生成を介したカルシウム等の無機物欠点の発生を予測することができる。
【0033】
カチオン要求量は、アニオントラッシュの可能性を反映し、薬剤(例えば殺菌剤)の効能等に影響を与える。このため、カチオン要求量の測定値が高い程、殺菌又は静菌、凝結(例えば凝結剤の添加)の処理レベルを増やし、測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。嫌気状態下でカチオン要求量が上昇した場合は、デンプンの分解が予想される。繊維に付着したデンプンが分解され、繊維とデンプンの間に含有されていたピッチ分の放出が発生する。このため、カチオン要求量とともにORP値を測定することで、かかるピッチを予測することができる。グルコース量、有機酸量の増加時にカチオン要求量が上昇した場合は、デンプンの分解が予想されるため、カチオン要求量とともにグルコース量、有機酸量又はpHを測定することで、ピッチ欠点の発生を予測することができる。カチオン要求量とともにカルシウムイオン量、電気伝導率又は濁度を測定することで、デンプン分解による有機酸生成を介したカルシウム等の無機物欠点の発生を予測することができる。
【0034】
温度は、微生物の繁殖を含む様々な要因で変動するが、薬剤(例えば殺菌剤、消泡剤)の効能は温度に依存する場合が多い。このため、用いる薬剤に応じて温度が所定の好ましい範囲に収まるよう、温度を調節することが好ましい。還元剤混入等によりORP値が低下するとき等でも、温度を併せて測定することで、微生物繁殖を予測することができる。過酸化水素混入によりグルコース量が変動するとき等でも、温度を併せて測定することで、微生物繁殖を予測することができる。
【0035】
泡や泡が核となって生じた凝集物が製品に混入すると、製品の欠陥とみなされる。このため、発泡の程度の測定値が高い程、消泡(例えば、消泡剤の添加)の処理レベルを増やし、測定値が低い程、消泡(例えば、消泡剤の添加)の処理レベルを減らす。なお、発泡の程度は典型的には白水サイロ38における発泡を測定する。pH上昇により、発泡量が増加し泡粕欠点が発生する。このため、pHとともに発泡を測定することで、消泡剤添加を最適化することができ、過剰添加による欠点の発生も抑制できる。発泡量とともにカルシウムイオン量を測定することで、無機物欠点を予測することができる。気泡の多い系において発泡量だけでは填料の未定着分の把握が困難であるが、発泡量とともに電気伝導率を測定することで、填料の未定着を把握することができる。濁度とともに発泡量を測定することで、消泡剤添加を最適化でき、薬品過剰添加による欠点の発生も抑制できる。気泡を多く含む系では、内添薬品の定着不良を正確に判断できないが、発泡量とともにカチオン要求量又は温度を測定することで、微生物繁殖を予測することができる。
【0036】
COD及びBODは、脱墨パルプ(DIP)の使用量等に依存して水系の嫌気性を反映するものであり、排水系の負荷程度に影響を与える。COD又はBODの測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを増やし、測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。また、ポリマーやデンプンの紙への定着効率が悪化すると、COD又はBODが上昇する傾向があるため、COD又はBODの測定値に基づいて、ポリマーやデンプンの紙への定着効率の推移を把握することができる。嫌気状態下でのCOD及びBODの上昇は、デンプン分解や薬品の定着阻害を示唆する。このため、COD及びBOD値とともにORP値、グルコース量、又は有機酸量を測定することで、薬品由来の欠点の発生を予想することができる。COD又はBODとともにpHを測定することで、薬品の歩留まり向上と過剰薬品由来の欠点の抑制が可能である。カルシウムイオンの増加により、薬品のアニオン基が閉鎖され、その効果の低下を招くが、填料の多い系においてカルシウムイオン量又は電気伝導率とともにCOD又はBOD量を測定すること、薬品未定着を予測することができる。また、酸性系の電気伝導率が高い系では、電気伝導率だけでは薬品の未定着分の把握が困難であるが、COD又はBODを測定することで、薬品の未定着を予測することもできる。高濃度パルプ等の濁度測定が困難な系においても、濁度とともにCOD又はBODを測定することで、薬品の未定着を予測することもできる。
【0037】
溶存酸素量は、微生物による酸素消費量を反映する。溶存酸素量の測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを増やし、測定値が高い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。グルコースの増加と溶存酸素の減少は、嫌気状態下での微生物によるデンプン分解を示すため、溶存酸素とともにグルコース量を測定することで、デンプンの分解による微生物繁殖が予想され、スライム欠点の予測が可能となる。水中に気泡を巻き込みやすい系において、溶存酸素だけでは微生物の繁殖が予測困難であるが、有機酸量、pH、カルシウムイオン量、電気伝導率、又は濁度を併せて測定することで、微生物の繁殖を予測することができる。温度とともに発泡量を測定することで、消泡剤添加を最適化でき、薬品過剰による欠点の発生も抑制できる。
【0038】
デンプンは紙の構成成分の一つであるが、微生物の分泌する酵素により分解されるため、デンプン量は微生物の繁殖の程度を反映したものである。デンプン量の測定値が低い程、殺菌又は静菌の処理レベルを増やし、測定値が高い程、殺菌又は静菌の処理レベルを減らす。デンプン量だけの測定であると、微生物によりデンプン及びグルコースが消費され尽くされたとき、微生物汚染の把握が困難であるが、ORP値をともに測定することで、かかる場合での微生物汚染も予測することができる。グルコース量とともにデンプン量を測定することで、過酸化水素混入によりグルコース量が変動する場合にも、微生物繁殖を予測することができる。有機酸量又はpHとともにデンプン量を測定することで、pH調整剤を添加する系においても微生物繁殖を予測することができる。カルシウムイオン量、電気伝導率とともにデンプン量を測定することで、微生物由来のスライム欠点を予測することができる。溶存酸素とともにデンプン量を測定することで、薬品由来欠点の発生を予測することができる。
【0039】
残留塩素量は、微生物の繁殖を抑制する殺菌剤の量を反映する。残留塩素量が低下すると、微生物の繁殖が予想されるため、殺菌又は静菌の処理レベルを増やす。酸化剤混入によりORP値が高くなり、微生物繁殖の予測が困難である場合にも、残留塩素量を併せて測定することで、微生物繁殖の予測が可能である。過酸化水素混入によりグルコース量が変動する場合でも、残留塩素量を併せて測定することで、微生物繁殖の予測が可能である。pH調整剤を添加する系でも、有機酸量又はpHとともに、残留塩素量を測定することで、微生物繁殖の予測が可能である。填料の多い系において、カルシウムイオン量の測定だけでは微生物繁殖の把握が困難であるが、残留塩素量を併せて測定することで微生物繁殖の予測が可能である。工業用水が混入する系では、電気伝導率上昇の把握が困難であるが、電気伝導率とともに残留塩素量を測定することで、微生物繁殖を予測することができる。高濃度パルプ等の濁度測定が困難である場合にも、濁度とともに残留塩素量を測定することで、微生物繁殖を予測することができる。気泡を多く含む系では溶存酸素量だけの測定では、微生物繁殖の予測が困難であるが、残留塩素量を併せて測定することで、微生物繁殖を予測することができる。デンプンを添加する系では、デンプン量だけの測定では微生物繁殖の予測が困難であるが、残留塩素量を併せて測定することで、微生物繁殖を予測することができる。
【0040】
呼吸速度は、微生物の量を反映する。呼吸速度が上昇すると、微生物の繁殖が予想されるため、殺菌又は静菌の処理レベルを増やす。酸化剤、還元剤が添加されORP値が変動する場合でも、ORP値とともに呼吸速度を測定することで、微生物繁殖を予測することができる。過酸化水素混入によりグルコース量が変動する場合でも、呼吸速度を併せて測定することで、微生物繁殖の予測が可能である。pH調整剤を添加する系でも、有機酸量又はpHとともに、呼吸速度を測定することで、微生物繁殖の予測が可能である。水中に気泡が混入する系では、呼吸速度の測定精度が低下し得るが、カルシウムイオン量を測定することで、微生物繁殖を予測することができる。工業用水が混入する系では、電気伝導率上昇の把握が困難であるが、電気伝導率とともに呼吸速度を測定することで、微生物繁殖を予測することができる。高濃度パルプ等の濁度測定が困難である場合にも、濁度とともに呼吸速度を測定することで、微生物繁殖を予測することができる。気泡を多く含む系では溶存酸素量だけの測定では、微生物繁殖の予測が困難であるが、呼吸速度を併せて測定することで、微生物繁殖を予測することができる。デンプンを添加する系では、デンプン量だけの測定では微生物繁殖の予測が困難であるが、呼吸速度を併せて測定することで、微生物繁殖を予測することができる。
【0041】
なお、各水質パラメータの測定及び水処理は、従来周知の方法に従って行えばよいため、詳細な説明を省略する。
【0042】
水質パラメータの測定を行う箇所は、特に限定されないが、原料系、調成・抄紙系、回収系、及び排水系からなる群より選ばれる1種以上の系において行うことが好ましく、より好ましくは2種以上の系である。これにより、水系全体の水質が把握されるため、紙品質低下をより確実に抑制することができる。ただし、これに限られず、測定箇所は単数であってもよく、また同系内での複数個所であってもよい。
【0043】
水質パラメータの測定値は、特に限定されないが、サーバを通じたインターネットにより遠隔地で閲覧でき、受信した測定値に基づく遠隔制御を行ってもよい。また、遠隔地では、測定値、水処理の態様(例えば、殺菌剤の添加量)、結果(例えば、断紙の有無)を出力する手段があってよい。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
図1に示す製紙系10を用いて、実施例及び比較例に係るスライム抑制方法を実施した。なお、実施例及び比較例は、以下の条件について共通であり、酸化還元電位及び電気伝導率の測定及び酸化性殺菌剤の添加のタイミングにおいて異なっていた。
紙原料:LBKP、DIP及びブロークパルプ
酸化性殺菌剤:1.3質量%臭化アンモニウム水溶液及び2.0質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加直前に混合した液
添加箇所:ブロークタンク23、白水サイロ38
【0045】
つまり、比較例では、1時間に一度の頻度で定期的に酸化性殺菌剤を添加し、実施例では、15分に一度の頻度で酸化還元電位及び電気伝導率を測定し、その測定値の増減に応じて、酸化性殺菌剤の添加量を調節した。比較例における種箱26での酸化還元電位及び電気伝導率の推移を
図3に、実施例における種箱26での酸化還元電位及び電気伝導率の推移を
図4に示す。
【0046】
図3に示されるように、比較例では、DIPの配合量が増加したとき等において、酸化還元電位が急激に低下し、電気伝導率が急激に上昇し、それに伴い断紙が頻発した。これに対し、実施例では、
図4に示されるように、DIPの配合量の変化にかかわらず、酸化還元電位及び電気伝導率がほぼ一定の推移をたどり、断紙が全く観察されなかった。また、実施例では比較例に比べて、酸化性殺菌剤の使用量が20%小さかった。
【0047】
<実施例2>
図2に示す製紙系10Aを用いて、実施例及び比較例に係るスライム抑制方法を実施した。なお、実施例及び比較例は、以下の条件について共通であり、酸化還元電位及び電気伝導率の測定及び酸化性殺菌剤の添加のタイミングにおいて異なっていた。
紙原料:LBKP、DIP及びブロークパルプ
酸化性殺菌剤:1.3質量%臭化アンモニウム水溶液及び2.0質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加直前に混合した液
添加箇所:白水サイロ38、一次処理水タンク44
【0048】
つまり、比較例では、4時間に一度の頻度で定期的に酸化性殺菌剤を添加し、実施例では、4時間に一度の頻度での添加に加え、ウェットブロークタンク45での酸化還元電位及び電気伝導率の測定値の増減に応じて、酸化性殺菌剤の添加量を調節した。比較例におけるシールピット41、ウェットブロークタンク45及びCBタンク46での酸化還元電位及び電気伝導率の推移を
図5に、実施例におけるシールピット41、ウェットブロークタンク45及びCBタンク46での酸化還元電位、及びウェットブロークタンク45での電気伝導率の推移を
図6に示す。
【0049】
比較例では、ウェットブロークタンク45にコートブロークが大量に貯留されて腐敗しやすく、それに伴い、
図5に示されるように、酸化還元電位及び電気伝導率が急激に変化し、紙に欠点が生じていた。これに対し、実施例では、
図6に示されるように、酸化還元電位及び電気伝導率がほぼ一定の推移をたどり、紙の欠点が全く観察されなかった。
【0050】
<実施例3>
図2に示す製紙系を用いて、実施例及び比較例に係るスライム抑制方法を実施した。なお、実施例及び比較例は、以下の条件について共通であり、酸化還元電位、電気伝導率、泡の高さ及びブローク濁度のうち2つの測定、及び酸化性殺菌剤の添加のタイミングにおいて異なっていた。
紙原料:LBKP、DIP及びブロークパルプ
酸化性殺菌剤:1.3質量%臭化アンモニウム水溶液及び2.0質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加直前に混合した液
添加箇所:ウェットブロークタンク45、CBタンク46
【0051】
まず4日間に亘り実施例を行い、その後に4日間に亘り比較例を行った。比較例では、4時間に一度の頻度で定期的に酸化性殺菌剤を添加し、実施例では、4時間に一度の頻度での添加に加え、CBタンク46での酸化還元電位(ORP計67の測定値)、シールピット41での電気伝導率、シールピット41での泡の高さ、及びブロークタンク23での濁度の測定値の増減に応じて、酸化性殺菌剤の添加量を調節した。具体的には、閾値を、酸化還元電位につき250mV、電気伝導率につき150mS/m、泡高さにつき8cm、ブローク濁度につき300NTUとし、測定した2つの双方が閾値を越えたとき(電気伝導率、泡高さ、ブローク濁度については上記閾値を上回った場合、酸化還元電位については上記閾値を下回った場合)のみ、双方が閾値を越えなくなるまで酸化性殺菌剤の添加量を増やした。
図7〜12において、(A)は実施例、(B)は比較例における各水質パラメータの推移を示す。その結果、比較例では4日間で26回の断紙が生じたのに対し、実施例では4日間で8回の断紙しか起こらなかった。