特許第5655827号(P5655827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5655827可視光応答型酸化チタン微粒子分散液、その製造方法及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655827
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】可視光応答型酸化チタン微粒子分散液、その製造方法及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20141225BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J37/08
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-189409(P2012-189409)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2013-126654(P2013-126654A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2012年8月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-248399(P2011-248399)
(32)【優先日】2011年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】古舘 学
(72)【発明者】
【氏名】井上 友博
(72)【発明者】
【氏名】栄口 吉次
(72)【発明者】
【氏名】天野 正
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/137337(WO,A1)
【文献】 特開2011−136297(JP,A)
【文献】 特開2011−136879(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/125690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散媒中に、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を含有した酸化チタン微粒子が分散されていると共に、銅成分が含有されている可視光応答型酸化チタン微粒子分散液であって、前記バナジウム成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/V)で100〜10,000であり、前記ペルオキソチタン成分の含有量が、酸化チタンに対して0.05〜2質量%であり、前記スズ成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Sn)で10〜1,000であり、前記銅成分の金属銅換算での含有量が、酸化チタンに対して0.01〜1質量%であることを特徴とする可視光応答型酸化チタン微粒子分散液。
【請求項2】
前記可視光応答型酸化チタン微粒子の分散径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で5〜30nmであることを特徴とする請求項1に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液。
【請求項3】
更にバインダーを添加したことを特徴とする請求項1又は2に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液。
【請求項4】
バインダーがケイ素化合物系バインダーであることを特徴とする請求項に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の酸化チタン微粒子分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材。
【請求項6】
(1)原料チタン化合物、バナジウム化合物、スズ化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、バナジウム化合物とスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液を製造する工程、
(2)前記バナジウム化合物とスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液を高圧下、80〜250℃で加熱し、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を含有した酸化チタン微粒子分散液を得る工程、及び
(3)前記酸化チタン微粒子分散液に銅化合物を混合する工程
を有する可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法であって、前記バナジウム成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/V)で100〜10,000であり、前記ペルオキソチタン成分の含有量が、酸化チタンに対して0.05〜2質量%であり、前記スズ成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Sn)で10〜1,000であり、前記銅成分の金属銅換算での含有量が、酸化チタンに対して0.01〜1質量%であるように配合されることを特徴とする請求項1又は2に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記工程(3)の後に、バインダーを添加することを特徴とする請求項に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
バインダーがケイ素化合物系バインダーであることを特徴とする請求項に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項のいずれか1項に記載の酸化チタン微粒子分散液の製造方法によって得られる酸化チタン微粒子分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答型酸化チタン微粒子分散液、その製造方法及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材に関し、更に詳細には、室内冷暗所に長期放置しても酸化チタン微粒子の分散安定性に優れ、また、可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる可視光応答型酸化チタン微粒子分散液、その製造方法及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、種々の用途、例えば、顔料、紫外線遮蔽剤、触媒、光触媒、触媒担体、吸着剤、イオン交換剤、充填剤、補強剤、セラミックス用原料、ペロブスカイト型複合酸化物等の複合酸化物の前駆体及び磁気テープの下塗り剤等に使用されている。
【0003】
中でも光触媒性酸化チタン微粒子は、400nm以下の紫外光を含む光線の照射下で光触媒作用を有する物質である。光触媒作用とは、400nm以下の紫外光励起によって生成し表面に拡散してきた正孔と電子がその表面に吸着している分子と共に酸化還元反応を行う作用である。この酸化還元反応により、酸化チタン表面に吸着した有機物は分解される。
この光触媒作用を持った酸化チタン微粒子を基材表面に塗布し、光触媒薄膜を形成すると、励起光を照射することで、吸着した有害有機物を分解させることができることから、基材表面の清浄化、脱臭、抗菌等の用途に多用されている。光触媒活性を高めるために、光触媒粒子と分解対象物質との接触面積を広くとることが、また、塗布対象基材の意匠性を維持するために、膜の透明性が要求されている。これらの要求を満たすためには、酸化チタン分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径が50nm以下であることが必要である。
【0004】
更に、酸化チタンは、太陽光等に含まれる比較的波長の短い紫外領域の光(波長10〜400nm)の照射下では良好な光触媒作用を示すものの、蛍光灯のように可視領域の光(波長400〜800nm)が大部分を占める光源で照らされた室内空間では、十分な光触媒作用を発現しにくい場合がある。近年では、可視光応答型光触媒として、酸化タングステン光触媒体(特開2009−148700号公報:特許文献1)が注目されているが、タングステンは希少元素であるため、汎用元素であるチタンを利用した光触媒の可視光活性向上が望まれている。
【0005】
酸化チタン微粒子の一般的な製造方法としては、工業的にはイルメナイト鉱、ルチル鉱を原料とした硫酸法、塩素法(酸化チタン、技報堂出版:非特許文献1)、その他、加水分解−焼成法、有機溶媒中での反応、固相法(光触媒標準研究法、東京図書:非特許文献2)などが挙げられる。この酸化チタン微粒子を基材表面に塗布し、かつ塗布対象基材の意匠性を維持するために塗布液中への超微分散処理が行われる。一般的な微分散処理方法としては、例えば、合成した酸化チタン微粉末を有機分散剤等の分散助剤を用い、湿式分散機により分散媒中に分散する方法(特開平01−003020号公報:特許文献2、特開平06−279725号公報:特許文献3、特開平07−247119号公報:特許文献4、特開2004−182558号公報:特許文献5)や、酸化チタンの表面処理により分散媒中に安定に分散する方法(特開2005−170687号公報:特許文献6、特開2009−179497号公報:特許文献7)などが挙げられる。しかし、これらの製法の問題点は、平均粒子径50nm以下の超微粒子が凝集を起こし易いため、一次粒子まで分散するためには多大な労力を必要とし、場合によっては一次粒子まで分散することが不可能な点と、分散安定性を増すために無機成分や有機成分による粒子表面の処理や界面活性剤などの分散助剤添加などが行われ、光触媒表面がこれらにより被覆されてしまうために、光触媒活性発現の阻害要因となる点である。
【0006】
また、水酸化チタンを過酸化水素で溶解したペルオキソチタン酸溶液を水熱処理することで、長期安定なアナターゼ型酸化チタン分散液を製造する方法(特開平10−67516号公報:特許文献8)や、ルチル型酸化チタンゾルの製造方法(特開平02−255532号公報:特許文献9)、酸化チタンゾルの製造方法(特開平10−182152号公報:特許文献10)が開示されている。これら酸化チタン微粒子分散液は表面処理や分散助剤を使用せずとも平均粒子径50nm以下で分散しており、基材にコーティングすることで得られる光触媒性コーティング膜は優れた透明性や紫外光照射下での活性を示すが、十分な可視光活性は得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−148700号公報
【特許文献2】特開平01−003020号公報
【特許文献3】特開平06−279725号公報
【特許文献4】特開平07−247119号公報
【特許文献5】特開2004−182558公報
【特許文献6】特開2005−170687号公報
【特許文献7】特開2009−179497号公報
【特許文献8】特開平10−67516号公報
【特許文献9】特開平02−255532号公報
【特許文献10】特開平10−182152号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】酸化チタン、技報堂出版
【非特許文献2】光触媒標準研究法、東京図書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、光触媒活性発現の阻害要因となる有機分散剤や界面活性剤の添加や、酸化チタン粒子の表面処理をせずとも酸化チタン微粒子の長期分散安定性に優れ、また、可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる可視光応答型酸化チタン微粒子分散液、その製造方法及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、水性分散媒中に、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を含有した酸化チタン微粒子が分散されていると共に、銅成分が含有されている可視光応答型酸化チタン微粒子分散液が有用であり、この分散液を得るために、原料チタン化合物、バナジウム化合物、スズ化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒からバナジウム化合物及びスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液を製造し、これを高圧下に水熱反応させ、次いでこれに銅化合物を混合することで、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分、スズ成分を含有した酸化チタン微粒子が分散されていると共に、銅成分が含有されている酸化チタン微粒子分散液が得られ、この酸化チタン微粒子分散液が、室内冷暗所に長期放置しても酸化チタン微粒子の分散安定性に優れ、また、可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができることを知見し、本発明をなすに至った。
また、各種部材表面に酸化チタン微粒子分散液を塗布し易くすると共に該微粒子を接着し易いようにするためにはバインダー成分の添加が好ましく、該バインダー成分として、一般的には、光触媒活性の影響を受け難い、無機系化合物、シリコーン樹脂、テフロン(登録商標)樹脂などの使用が考えられるが、本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液には、酸化チタン微粒子の分散安定性、光触媒活性の発現、光触媒薄膜の透明性及び耐久性の観点から、ケイ素系化合物の使用が好ましいことも分かった。
【0011】
従って、本発明は、下記可視光応答型酸化チタン微粒子分散液、その製造方法及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材を提供する。
〔1〕
水性分散媒中に、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を含有した酸化チタン微粒子が分散されていると共に、銅成分が含有されている可視光応答型酸化チタン微粒子分散液であって、前記バナジウム成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/V)で100〜10,000であり、前記ペルオキソチタン成分の含有量が、酸化チタンに対して0.05〜2質量%であり、前記スズ成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Sn)で10〜1,000であり、前記銅成分の金属銅換算での含有量が、酸化チタンに対して0.01〜1質量%であることを特徴とする可視光応答型酸化チタン微粒子分散液。

前記可視光応答型酸化チタン微粒子の分散径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で5〜30nmであることを特徴とする〔1〕に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液。

更にバインダーを添加したことを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液。

バインダーがケイ素化合物系バインダーであることを特徴とする〔〕に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液。

〔1〕〜〔〕のいずれかに記載の酸化チタン微粒子分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材。

(1)原料チタン化合物、バナジウム化合物、スズ化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、バナジウム化合物とスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液を製造する工程、
(2)前記バナジウム化合物とスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液を高圧下、80〜250℃で加熱し、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を含有した酸化チタン微粒子分散液を得る工程、及び
(3)前記酸化チタン微粒子分散液に銅化合物を混合する工程
を有する可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法であって、前記バナジウム成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/V)で100〜10,000であり、前記ペルオキソチタン成分の含有量が、酸化チタンに対して0.05〜2質量%であり、前記スズ成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Sn)で10〜1,000であり、前記銅成分の金属銅換算での含有量が、酸化チタンに対して0.01〜1質量%であるように配合されることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法。

前記工程(3)の後に、バインダーを添加することを特徴とする〔〕に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法。

バインダーがケイ素化合物系バインダーであることを特徴とする〔〕に記載の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法。

〕〜〔〕のいずれかに記載の酸化チタン微粒子分散液の製造方法によって得られる酸化チタン微粒子分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、室内冷暗所に長期放置しても酸化チタン微粒子の分散安定性に優れ、また、可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現する透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる可視光応答型酸化チタン微粒子分散液、その製造方法及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
<可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法>
本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の製造方法は、
(1)原料チタン化合物、バナジウム化合物、スズ化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、バナジウム化合物とスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液を製造する工程、
(2)上記工程(1)で得られたバナジウム化合物とスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液を高圧下、80〜250℃で加熱し、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を含有した酸化チタン微粒子分散液を得る工程、及び
(3)上記工程(2)で得られた酸化チタン微粒子分散液に銅化合物を混合する工程
を有する製造方法により製造することができる。
【0014】
・工程(1):
工程(1)では、原料チタン化合物、バナジウム化合物、スズ化合物、塩基性物質及び過酸化水素を水性分散媒中で反応させることにより、バナジウム化合物、スズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液を製造する。
反応方法としては、水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とした後にバナジウム化合物及びスズ化合物を添加して、バナジウム、スズ含有ペルオキソチタン酸とする方法でも、水性分散媒中の原料チタン化合物にバナジウム化合物及びスズ化合物を添加した後に塩基性物質を添加してバナジウム、スズ含有水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してバナジウム、スズ含有ペルオキソチタン酸とする方法でもよい。
【0015】
ここで、原料チタン化合物としては、例えば、チタンの塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタン等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
水性分散媒は、上記原料チタン化合物を水溶液にするためのもので、水性溶媒が使用される。水性溶媒としては、水、及び水と任意の割合で混合される親水性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。水としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、純水等が好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましい。この場合、親水性有機溶媒の混合割合は、水性分散媒中0〜50質量%であることが好ましい。中でも、生産性、コスト等の点から純水が最も好ましい。
【0017】
このような原料チタン化合物と水性分散媒とから形成される原料チタン化合物水溶液の濃度は、60質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。尚、濃度の下限は適宜選定されるが、1質量%以上であることが好ましい。
【0018】
塩基性物質は、原料チタン化合物をスムーズに水酸化チタンにすると共に、後述するペルオキソチタン成分を水性分散媒中で安定化させるためのもので、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等のアミン化合物が挙げられ、原料チタン化合物水溶液のpHを7以上、特にpH7〜10になるような量で添加、使用される。
塩基性物質は、上記水性分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして使用してもよい。
【0019】
バナジウム化合物は、光触媒薄膜の可視光応答性を高めるためのもので、例えば、バナジウムの金属、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
このようなバナジウム化合物は、酸化チタンとのモル比(Ti/V)で100〜10,000含有されていることが好ましく、より好ましくは500〜10,000、更に好ましくは1,000〜5,000である。上記モル比が、100未満の場合、酸化チタン結晶の含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがある。
尚、上記バナジウム成分の存在状態は、少なくともその一部は酸化チタン微粒子内部にドープ若しくは酸化チタン微粒子表面に吸着されていることが好ましく、他の部分は分散液中に溶解及び/又は分散していることが好ましい。
【0020】
スズ化合物は、光触媒薄膜の可視光応答性を高めるためのもので、例えば、スズの金属、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
このようなスズ化合物は、酸化チタンとのモル比(Ti/Sn)で10〜1,000含有されていることが好ましく、より好ましくは10〜500、更に好ましくは20〜100である。上記モル比が、10未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、1,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがある。
尚、上記スズ成分の存在状態は、少なくともその一部は酸化チタン微粒子内部にドープ若しくは酸化チタン微粒子表面に吸着されていることが好ましく、他の部分は分散液中に溶解及び/又は分散していることが好ましい。
【0021】
過酸化水素は、上記原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン、つまりTi−O−O−Ti結合を含む酸化チタン化合物に変換させるためのものであり、通常、過酸化水素水の形態で使用される。
過酸化水素の添加量は、Ti、V及びSnの合計モル数の1.5〜10倍モルとすることが好ましい。また、この過酸化水素を添加して原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン酸にする反応における反応温度は、5〜60℃とすることが好ましく、反応時間は、30分〜24時間とすることが好ましい。
【0022】
こうして得られるバナジウム化合物及びスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液は、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよい。
ここでいう、アルカリ性物質としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、酸性物質としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸、過酸化水素等の無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸が挙げられる。
この場合、得られたバナジウム化合物及びスズ化合物を含有したペルオキソチタン酸溶液のpHは、1〜7、特に4〜7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
【0023】
・工程(2):
工程(2)では、上記工程(1)で得られたバナジウム及びスズ含有ペルオキソチタン酸溶液を高圧下、80〜250℃、好ましくは100〜250℃の温度において水熱反応に供する。反応温度は、反応効率と反応の制御性の観点から80〜250℃が適切であり、その結果、バナジウム、スズ含有ペルオキソチタン酸はペルオキソチタン、バナジウム及びスズ含有酸化チタン微粒子に変換されていく。
この場合、圧力は、0.01〜4.5MPa程度、特に0.15〜4.5MPa程度の高圧であることが好ましく、反応時間は、1分〜24時間であることが好ましい。
この工程(2)により、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を含有する酸化チタン微粒子分散液が得られる。
尚、ここで、ペルオキソチタン成分とは、Ti−O−O−Ti結合を含む酸化チタン化合物を意味し、ペルオキソチタン酸及びTi(VI)と過酸化水素との反応によって生成するペルオキソチタン錯体を包含するものである。
また、バナジウム成分とは、金属バナジウムを含むバナジウム系化合物を意味し、上述のバナジウム化合物を包含するものである。
また、スズ成分とは、金属スズを含むスズ系化合物を意味し、上述のスズ化合物を包含するものである。
【0024】
・工程(3):
工程(3)では、上記工程(2)で得られた酸化チタン微粒子分散液に銅化合物を混合する。
混合方法としては、酸化チタン微粒子分散液に銅化合物を混合して撹拌機で撹拌する方法でも、超音波分散機で分散させる方法でもよい。混合時の温度は20〜250℃、時間は、1分〜3時間であることが好ましい。
更には、20〜60℃、1分〜1時間であることが取り扱いの容易さの点で好ましい。
【0025】
ここで、銅化合物は、光触媒薄膜の分解活性を高めるためのものであり、例えば、銅の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化銅、銅テトラアンミン錯体等の錯体が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
銅化合物は、上記水性分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして使用してもよい。
銅化合物は、金属銅換算で、酸化チタン微粒子に対して0.01〜1質量%含有されていることが好ましく、特には0.1〜1質量%が好ましい。上記含有量が、0.01質量%未満の場合又は1質量%超過の場合、光触媒薄膜の分解活性が十分に発揮されないことがあり、また十分に混合・分散せずに光触媒薄膜の透明性が落ちることがある。
尚、上記銅成分の存在状態は、分散液中に分散及び/又は溶解していることが好ましい。
【0026】
このように上記工程(1)〜(3)によって、水性分散媒中に、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を含有した酸化チタン微粒子が分散されていると共に、銅成分が含有されている可視光応答型酸化チタン微粒子分散液が得られるが、該分散液中の酸化チタン微粒子は、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)(以下、「平均粒子径」とする。)が5〜30nmであることが好ましく、より好ましくは5〜20nm、更に好ましくは5〜15nmである。
また、分散液中の酸化チタン微粒子の濃度は、所要の厚さの光触媒薄膜の作製し易さの点で、該分散液中、0.01〜20質量%が好ましく、特に0.5〜10質量%が好ましい。
【0027】
更に、該分散液に含有されるペルオキソチタン成分は、酸化チタンを良好に分散させる作用を有しており、ペルオキソチタン成分の濃度は、酸化チタン微粒子に対して0.05〜2質量%であり、好ましくは0.05〜1質量%である。該濃度が0.05質量%未満の場合、酸化チタン微粒子が凝集し易くなることがあり、2質量%超過の場合、該分散液から得られる光触媒薄膜の光触媒効果が不十分となることがある。
尚、上記ペルオキソチタン成分の存在状態は、少なくともその一部は酸化チタン微粒子内部若しくは酸化チタン微粒子表面に存在していることが好ましく、他の部分は分散液中に溶解及び/又は分散していることが好ましい。
このようにして得られる可視光応答型酸化チタン微粒子分散液は、室内冷暗所に長期放置しても酸化チタン微粒子の分散安定性に優れるものである。
尚、ここでいう冷暗所とは、10〜25℃程度の冷所であって、かつ直射日光や室内照明の直接光が当たらない暗所を指し、具体的には、冷蔵庫、薬品庫、地下収納庫等が挙げられる。
本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液は、このような室内冷暗所で、特に6ヶ月程度放置しても、酸化チタン微粒子の平均粒子径が製造当初から3割超過で増加することを抑制し得るものであり、酸化チタン微粒子の分散安定性が極めて優れたものである。
【0028】
<光触媒薄膜を表面に有する部材>
本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液は、各種部材の表面に光触媒膜を形成させるために使用することができる。
ここで、各種部材は、特に制限されないが、部材の材料としては、例えば、有機材料、無機材料が挙げられ、無機材料には、例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。これらは、それぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
【0029】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料、天然ゴム等の天然材料、又は上記合成樹脂材料と天然材料との半合成材料が挙げられる。
これらは、フィルム、シート、繊維材料、繊維製品、その他の成型品、積層体等の所要の形状、構成に製品化されていてもよい。
【0030】
非金属無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック、石材等が挙げられる。これらは、タイル、硝子、ミラー、壁、意匠材等の様々な形に製品化されていてもよい。
【0031】
金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられる。これらは、上記金属無機材料のメッキが施されていてもよいし、上記有機材料が塗布されていてもよいし、上記有機材料又は非金属無機材料の表面に施すメッキであってもよい。
【0032】
本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液は、上記各種部材の中でも、特に、PET等の高分子フィルム上に透明な光触媒薄膜を作製するのに有用である。
【0033】
各種部材表面への光触媒膜の形成方法としては、上記可視光応答型酸化チタン微粒子分散液を、例えば、上記部材表面に、スプレーコート、ディップコート等の公知の塗布方法により塗布した後、遠赤外線乾燥、IH乾燥、熱風乾燥等の公知の乾燥方法により乾燥させればよく、光触媒膜の厚さも種々選定され得るが、通常、50nm〜10μmの範囲が好ましい。
尚、上記可視光応答型酸化チタン微粒子分散液に、上記各種部材表面に該分散液を塗布し易くすると共に該微粒子を接着し易いようにする目的で、バインダー、特にはケイ素化合物系バインダーを配合比(ケイ素化合物と酸化チタンの質量比)1:99〜99:1、より好ましくは10:90〜90:10、更に好ましくは30:70〜70:30の範囲で添加して使用してもよい。
ここで、ケイ素化合物系バインダーとは、固体状又は液体状のケイ素化合物を水性分散媒中に含んでなるケイ素化合物の、コロイド分散液、溶液又はエマルジョンであって、具体的には、コロイダルシリカ;シリケート等のケイ酸塩類溶液;シラン、シロキサン加水分解物エマルジョン;シリコーン樹脂エマルジョン;シリコーン−アクリル樹脂共重合体、シリコーン−ウレタン樹脂共重合体等のシリコーン樹脂と他の樹脂との共重合体のエマルジョン等を挙げることができる。
このようにして形成される光触媒膜は、透明であり、従来のように紫外領域の光(10〜400nm)において良好な光触媒作用を与えるばかりでなく、従来の光触媒では十分な光触媒作用を得ることができなかった、可視領域の光(400〜800nm)のみでも優れた光触媒作用が得られるものであり、該光触媒膜が形成された各種部材は、酸化チタンの光触媒作用により表面に吸着した有機物を分解することから、該部材表面の清浄化、脱臭、抗菌等の効果を発揮することができるものである。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、本発明における各種の測定は次のようにして行った。
【0035】
(1)分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径(D50
分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置(商品名“ナノトラック粒度分析計UPA−EX”、日機装(株))を用いて測定した。
【0036】
(2)可視光応答型酸化チタン微粒子分散液の安定性
酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子の分散安定性は、上記粒度分布測定装置により、製造当日の平均粒子径と室内冷暗所に6ヶ月間放置したあとの平均粒子径を次の基準で比較し、評価した。
【0037】
良好(○と表示) ・・・ 差が+30%以下。
やや不良(△と表示)・・・ 差が+30%を超え、+50%以下。
不良(×と表示) ・・・ 差が+50%を超える、若しくは粒子が容器底部に沈澱。
【0038】
(3)酸化チタン微粒子に含有されるペルオキソチタン成分の存在
酸化チタン微粒子に含有されるペルオキソチタン成分の存在は、ペルオキソ基中のO−O結合の存在の有無によって確認した。具体的には、得られた酸化チタン微粒子分散液を室温で自然乾燥することで得た酸化チタン微粒子の粉末を、赤外分光光度計(商品名“SYSTEM2000”、PerkinElmer社)で測定し、900cm-1付近のO−O結合のピークの有無を確認した。
【0039】
(4)酸化チタン微粒子分散液に含有されるペルオキソチタン成分濃度
酸化チタン微粒子分散液中のペルオキソチタン成分濃度は、過酸化水素吸光光度法によって測定した。具体的には酸化チタン微粒子分散液を硫酸酸性としてペルオキソチタン成分と反応、呈色させた後、紫外可視近赤外分光光度計(商品名“LAMBDA 950”、Perkin Elmer社)を用いて410nmの波長の強度を測定し、Ti標準液との相対強度から算出した。
【0040】
(5)光触媒薄膜の透明性
基材であるガラス板のHAZE値(%)を測定する。次に、分散液を該ガラス上に塗布、乾燥することで光触媒薄膜を作製し、該薄膜を作製した状態のガラス板のHAZE値を測定する。その差から光触媒薄膜のHAZE値を求める。HAZE値の測定はHAZEメーター(商品名“デジタルヘイズメーターNDH−200”、日本電色工業(株))を用いた。光触媒薄膜の透明性を求められたHAZE値の差から次の基準で評価した。
【0041】
良好(○と表示) ・・・ 差が+1%以下。
やや不良(△と表示)・・・ 差が+1%を超え、+3%以下。
不良(×と表示) ・・・ 差が+3%を超える。
【0042】
(6)光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能試験(LED照射下)
分散液を塗布、乾燥することで作製した光触媒薄膜の活性を、アセトアルデヒドガスの分解反応により評価した。評価はバッチ式ガス分解性能評価法により行った。
具体的には、容積5Lの石英ガラス窓付きステンレス製セル内にA4サイズのPETフィルム上に50mgの光触媒薄膜を形成した評価用サンプルを設置したのち、該セルを湿度50%に調湿した濃度5ppmのアセトアルデヒドガスで満たし、該セル上部に設置したLED(商品名“TH−211×200SW”、シーシーエス(株)、分光分布:400〜800nm)で照度30,000LUXになるように光を照射した。薄膜上の光触媒によりアセトアルデヒドガスが分解すると、該セル中のアセトアルデヒドガス濃度が低下する。そこで、その濃度を測定することで、アセトアルデヒドガス分解量を求めることができる。アセトアルデヒドガス濃度は光音響マルチガスモニタ(商品名“INNOVA1412”、LumaSense社製)を用いて測定し、12時間照射後の残存アセトアルデヒドガス濃度を比較することで評価した。
【0043】
[実施例1]
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に硫酸バナジル(IV)をTi/V(モル比)が2,000、塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が20となるように添加し、これを純水で10倍に希釈した後、この水溶液に10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することによりバナジウム、スズを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは8であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後のバナジウム、スズを含有する水酸化チタン沈殿物に過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が2.5以上となるように30質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明のバナジウム、スズ含有ペルオキソチタン酸溶液(a)(固形分濃度1質量%)を得た。
【0044】
容積500mLのオートクレーブに、ペルオキソチタン酸溶液(a)400mLを仕込み、これを120℃、0.2MPaの条件下、240分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン微粒子分散液(A)を得た。
【0045】
酸化チタン微粒子分散液(A)を室温で乾燥して得た粉末を、赤外分光光度計で測定したところ、900cm-1付近にペルオキソ基中のO−O結合のピークが確認できた。
【0046】
酸化チタン微粒子分散液(A)に硫酸を添加し、ペルオキソチタン成分をオレンジ色に呈色させ、この色の吸収を紫外可視近赤外分光光度計によって測定し、別にTi標準溶液で作製しておいた検量線からペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ、0.32%であった。
【0047】
硫酸銅(II)を純水で溶解し、1質量%の硫酸銅水溶液(i)を得た。
【0048】
酸化チタン微粒子分散液(A)に硫酸銅水溶液(i)を酸化チタンに対して金属銅成分が0.10質量%となるように添加し、撹拌機で混合することにより、本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液(α)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は11nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は12nmであった(良好:○)。
【0049】
酸化チタン微粒子分散液(α)にシリカ系のバインダー(コロイダルシリカ、商品名:スノーテックス20、日産化学工業(株)製)をTiO2/SiO2質量比1.5で添加し、評価用コーティング液を作製した。
【0050】
評価用コーティング液をガラス板上にディップコーターで塗布、乾燥させ、膜厚が150nmの光触媒薄膜を形成し、評価用サンプルを得た。HAZEメーターでHAZE値を測定したところ、基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差は0.5%(良好:○)であった。
【0051】
評価用コーティング液を#7のワイヤーバーコーターによってA4サイズのPETフィルムに50mgの光触媒薄膜を形成するよう塗工し、アセトアルデヒドガス分解性能評価用サンプルを得た。この光触媒薄膜のガス分解率をバッチ式ガス分解性能評価法により測定したところ、LED照射12時間後のガス分解率は58%であった。
【0052】
[実施例2]
60質量%の硫酸チタニル(IV)水溶液にオキシ三塩化バナジウム(V)をTi/V(モル比)が200、スズ酸カリウム(IV)をTi/Sn(モル比)が20となるように添加し、これを純水で10倍に希釈した後、この水溶液に10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することによりバナジウム、スズを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは8.5であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後のバナジウム、スズを含有する水酸化チタン沈殿物に過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が3以上となるように30質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明のバナジウム、スズ含有ペルオキソチタン酸溶液(b)(固形分濃度1質量%)を得た。
【0053】
容積500mLのオートクレーブに、ペルオキソチタン酸溶液(b)400mLを仕込み、これを180℃、1.1MPaの条件下、180分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン微粒子分散液(B)を得た。
【0054】
酸化チタン微粒子分散液(B)を室温で乾燥して得た粉末を、赤外分光光度計で測定したところ、900cm-1付近にペルオキソ基中のO−O結合のピークが確認できた。
【0055】
酸化チタン微粒子分散液(B)に硫酸を添加し、ペルオキソチタン成分をオレンジ色に呈色させ、この色の吸収を紫外可視近赤外分光光度計によって測定し、別にTi標準溶液で作製しておいた検量線からペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ、0.26%であった。
【0056】
酸化チタン微粒子分散液(B)に硫酸銅水溶液(i)を酸化チタンに対して金属銅成分が0.10質量%となるように添加し、撹拌機で混合することにより、本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液(β)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は10nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は12nmであった(良好:○)。
【0057】
以下、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(β)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.5%(良好:○)、ガス分解率は33%であった。
【0058】
[実施例3]
塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が500となるように添加した以外は実施例1と同様にして、本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液(γ)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は15nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は17nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ0.12%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(γ)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.7%(良好:○)、ガス分解率は28%であった。
【0059】
[実施例4]
酸化チタン微粒子分散液(A)に硫酸銅水溶液(i)を0.5質量%となるように添加した以外は実施例1と同様にして、本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液(δ)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は11nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は12nmであった(良好:○)。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(δ)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.4%(良好:○)、ガス分解率は48%であった。
【0060】
[実施例5]
水熱処理時間を150分間とした以外は実施例1と同様にして、本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液(ε)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は9nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は11nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ1.20%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(ε)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.4%(良好:○)、ガス分解率は40%であった。
【0061】
[比較例1]
塩化スズ(IV)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(ζ)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は27nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は30nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ0.09%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(ζ)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は1.0%(良好:○)、ガス分解率は3%であった。
【0062】
[比較例2]
オキシ三塩化バナジウム(V)を添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(η)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は12nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は14nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ0.29%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(η)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.5%(良好:○)、ガス分解率は0%であった。
【0063】
[比較例3]
オキシ三塩化バナジウム(V)をTi/V(モル比)が10となるように添加した以外は実施例2と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(θ)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は3nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は3nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ0.30%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(θ)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.2%(良好:○)、ガス分解率は0%であった。
【0064】
[比較例4]
オキシ三塩化バナジウム(V)をTi/V(モル比)が50,000となるように添加した以外は実施例2と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(ι)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は12nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は14nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ0.31%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(ι)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.5%(良好:○)、ガス分解率は1%であった。
【0065】
[比較例5]
塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が1となるように添加した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(κ)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は4nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は4nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ1.05%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(κ)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.3%(良好:○)、ガス分解率は6%であった。
【0066】
[比較例6]
塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が5,000となるように添加した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(λ)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は25nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は29nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ0.05%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(λ)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.7%(良好:○)、ガス分解率は4%であった。
【0067】
[比較例7]
硫酸銅水溶液(i)を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(μ)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は11nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は12nmであった(良好:○)。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(μ)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.5%(良好:○)、ガス分解率は2%であった。
【0068】
[比較例8]
酸化チタン微粒子分散液(A)に硫酸銅水溶液(i)を酸化チタンに対して金属銅成分が0.001質量%となるように添加したこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(ν)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は11nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は13nmであった(良好:○)。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(ν)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.3%(良好:○)、ガス分解率は8%であった。
【0069】
[比較例9]
酸化チタン微粒子分散液(A)に硫酸銅水溶液(i)を酸化チタンに対して金属銅成分が5.0質量%となるように添加したこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(ξ)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は15nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は7nmであった(良好:○)。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(ξ)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は7.2%(不良:×)、ガス分解率は0%であった。
【0070】
[比較例10]
水熱処理時間を720分間としたこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(ο)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は85nmであり、3日間室内冷暗所に放置したところ、酸化チタン微粒子は容器の底に沈澱していた(不良:×)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認されず、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ0.01%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(ο)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は5.1%(不良:×)、ガス分解率は22%であった。
【0071】
[比較例11]
水熱処理時間を60分間としたこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散液(π)を得た。得られた分散液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は10nmであった。また、6ヶ月間室内冷暗所に放置した酸化チタン微粒子分散液の平均粒子径は11nmであった(良好:○)。
尚、途中、水熱処理後であって硫酸銅水溶液(i)添加前の酸化チタン微粒子分散液中の酸化チタン微粒子にペルオキソ基の存在が確認され、ペルオキソチタン成分の濃度を求めたところ3.50%であった。
また、実施例1と同様に、酸化チタン微粒子分散液(π)から、評価用コーティング液を作製し、該評価用コーティング液を用いて、光触媒薄膜の透明性(基材のガラス板と光触媒コートガラス板のHAZE値の差)、光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能(ガス分解率)を測定したところ、それぞれHAZE値の差は0.4%(良好:○)、ガス分解率は0%であった。
【0072】
表1に、実施例1〜5、比較例1〜11の酸化チタン微粒子の反応条件、平均粒子径、ペルオキソチタン成分有無、ペルオキソチタン成分濃度、分散液の安定性、光触媒薄膜の透明性、及びアセトアルデヒドガス分解試験におけるLED照射12時間後のアセトアルデヒドガス分解率をまとめて示す。
【0073】
比較例1、5、6の結果から分かるように、スズを添加しない、添加量が少なすぎる又は多すぎると十分な可視光活性が得られない。
【0074】
比較例2、3、4の結果から分かるように、バナジウムを添加しない、添加量が少なすぎる又は多すぎると十分な可視光活性が得られない。
【0075】
比較例7、8、9の結果から分かるように、銅を添加しない、添加量が少なすぎる又は多すぎると十分な可視光活性が得られない。
【0076】
比較例10の結果から分かるように、ペルオキソチタン成分を少なくしすぎると酸化チタン分散液中の酸化チタン微粒子の分散状態が悪化し、分散液の安定性及び光触媒膜の透明性が確保できない。
【0077】
比較例11の結果から分かるように、ペルオキソチタン成分を残しすぎると十分な可視光活性が得られない。
【0078】
実施例1〜5の結果から分かるように、ペルオキソチタン成分、バナジウム成分及びスズ成分を所定量含有した酸化チタン微粒子分散液に銅化合物を所定量添加することにより、可視領域の光のみ発光するLED照射下でもアセトアルデヒドガスの分解(即ち、光触媒活性)が良好になることが分かる。
【0079】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の可視光応答型酸化チタン微粒子分散液は、ガラス、金属等の無機物質、及び高分子フィルム(PETフィルム等)等の有機物質からなる種々の基材に施与して光触媒薄膜を作製するのに有用であり、特に高分子フィルム上に透明な光触媒薄膜を作製するのに有用である。