(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
化石資源の枯渇が懸念されるようになり、再生可能資源であるバイオマスへの希求が高まってきている。
植物由来のバイオマスは、セルロース繊維を組織構造の主成分として有しており、そのセルロース繊維の強度は極めて高く、従来からの繊維やロープなどの分野だけでなく、一般工業材料としての利用可能性を十分に秘めている(非特許文献1参照)。
このセルロース繊維を高分子材料の繊維強化材料として利用し、高分子材料の強度向上のみならず、バイオマスの利用率の向上にも役立てようとする取り組みが、自動車産業や家電・IT機器産業などで進んでいる。これらの産業に用いられる成形体や部材の多くには、静電気によるトラブルを回避するために、帯電防止性能が要求されている。
【0003】
高分子材料の帯電防止については多くの技術が開示されている。帯電とは、物体が電気を帯びる現象である。別の物体から電子を奪った場合には負に帯電し、逆の場合は正に帯電する。帯電したまま動かずにいる電気を静電気という。静電気はほこりの吸着、繊維製品や頭髪などの傷み、また放電による電子機器の破損、火災や爆発の危険など悪影響が大きいので、積極的な除去を必要とする。
【0004】
導電性の低い物品は、帯電すると静電気を生じるが、すぐに放電すれば静電気を帯びた状態を解消することができる。したがって、導電性を高めることによって部材が静電気を帯びるのを防ぐことができる。
【0005】
帯電防止性を各種成形体・部材に付与することによって、静電気によるトラブルを未然に防ぐことが可能であるが、導電性物質による静電気を流す方向を間違うと新たなトラブルを招く場合がある。電子機器部品を入れたプラスチックバッグの場合、バッグ表面層には静電防止性能が要求されるが、プラスチック内層にはプラスチック本来の機能である絶縁性が要求される。この二つの要求を同時に満たすことにより、バッグ内の電子機器部品への電気の流入による破損を防ぐことができる。
【0006】
高分子材料表面に帯電防止性を付与する技術としては、帯電防止剤を用いるものとして、1)金属粉、カーボンブラック等の導電性物質を混入する方法、および、2)界面活性剤の一種である帯電防止剤を塗布又は混入する方法があり、また帯電防止剤を用いないものとして、3)プラズマ処理等により表面を親水化する方法等がある。
【0007】
帯電しやすい合成樹脂成形体では、安価で比較的効果が高い1)または2)の方法が多く用いられている。たとえば、1)および2)を組み合わせた方法として、熱可塑性樹脂を主体とする合成樹脂部材に、第四級アンモニウム塩系帯電防止剤とハロゲン化アルカリ金属塩を混練する技術が開示されている(特許文献1参照)。また、合成ゴムに導電性酸化亜鉛とカチオン系帯電防止剤を混練する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【0008】
ここで、1)の方法は、導電性物質同士が高分子材料内で接触している必要があるため、粉体の導電性物質であれば大量に混入させる必要があり、コストアップのみならず合成樹脂成形体本来の機械的および化学的物性を損なう場合がある。さらに、表面層だけに導電性物質を偏在させることが難しい。
また、2)の方法は、空気中の水分を吸着することで電荷の拡散漏洩を早めることを原理としているが、高分子材料表面に塗布した場合には、表面を拭き取る、または、洗浄すると効果がなくなってしまう場合がある。また、高分子材料に混入する場合には、高分子材料との相溶性が悪いと均一に混ざらず、逆に相溶性が良いと表面に浸出しにくく、水分吸着力が発揮されない場合がある。
【0009】
3)の方法については、合成樹脂プレートの表面をグロー放電プラズマ処理し、つづいて導電性塗料を塗布・乾燥・硬化し導電層を形成する方法が開示されている(特許文献3参照)。しかし、3)の方法は特殊な処理装置を用いた煩雑な処理を必要とし、汎用的に用いることは難しい。
【0010】
高分子材料にバイオマスを導入したバイオマスコンポジットにおいても、帯電防止性や導電性を向上させる技術が開発されている。
例えば、合成繊維に比べて、含水量が高いために帯電防止効果を発現できるという天然繊維の特性を利用し、天然繊維と木質粒を混合した木質粒繊維樹脂複合板の製造方法が開示されている(特許文献4参照)。しかし、含水量の高い天然繊維を用いることが必須であるとともに、プロセスオイルの浸透、樹脂とのブレンド、さらに脱油という手間のかかる工程を必要とする。
また、例えば、木粉等の木質系充填剤の表面に、予め真空蒸着法又はスパッタリング法等により、金属又は導電性の無機化合物の薄膜を形成し、導電性を付与する技術が開示されている(特許文献5)。しかし、真空蒸着やスパッタリングという方法は特殊な装置を用いた煩雑な処理を必要とし汎用性に問題がある。
また、例えば、木材や竹等のバイオマス原料を加熱処理し、油性溶液を除去し、乾燥した後、さらに、グラファイト組織形成処理温度で高温焼成する技術が開示されている(特許文献6参照)。バイオマス原料をグラファイト化することで導電性が得られるとされている。この技術は、導電性を有する第三成分の添加や被覆を必要としない点で優れているといえるが、高温焼成する工程が煩雑であり、また、製造時のバイオマス原料のロスも大きいと思われる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、竹由来のバイオマス粉末を高分子材料に配合して成形したものを例にとり、図を参照して、以下に説明する。
【0021】
本実施の形態例に係る高分子複合材料用帯電防止剤は、体積抵抗率(単位:Ω・cm)と表面抵抗率(単位:Ω/□)の比(体積抵抗率/表面抵抗率)が10
2以上である。
本実施の形態例に係る高分子複合材料用帯電防止剤は、例えば竹由来のバイオマス粉末(以下、これを竹粉末という。)を含有したマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤である。
【0022】
竹粉末は、竹を粉砕することにより得られる。
竹は、広義には、イネ目イネ科タケ亜科のうち、木本のように茎が木質化する種の総称である。日本に生育する竹は600種あるといわれており、そのうちの代表的なものとして、マダケ、モウソウチク(孟宗竹)、ハチク等が挙げられる。本実施の形態において用いる竹の種類を限定するものではない。また、本実施の形態において、竹とは幹、枝、葉、および根からなる総体的なものを意味するが、とりわけ、セルロース繊維成分が豊富な維管束鞘を大量に含む幹部が好適である。
竹は、その主要な構成成分として、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンからなる。ヘミセルロースはセルロースとリグニン、あるいはセルロース同士を結合させる接着剤の役割を担っている。
【0023】
竹粉末は、長軸径が100〜1000μmの範囲にある成分が少なくとも30%以上含有すれば、なんら問題なく使用可能であるが、このましくは、高分子材料と溶融混合を行うために、竹粉末の水分含有量が5%以下であることが好ましい。バイオマスから過剰の水分を取り去るには、乾燥器を使って熱風を当てながら、数時間、加熱する方法が通常とられるが、親水性のバイオマスから水分を5%以下にするのは、疎水性の高分子材料に比べて時間とエネルギーを必要とする。
乾燥した竹粉末を得るための好適な方法として、過熱水蒸気を用いた方法がある。170℃の逆転温度以上で300℃以下の温度範囲の過熱水蒸気は、乾燥空気よりも急速に竹に熱を供給し水分を取り去る。同時に、最も低温で分解するヘミセルロース成分を分解するため、この温度範囲で過熱水蒸気処理された竹は容易に破砕・粉砕され、本発明で用いる長軸径が100〜1000μmの範囲に竹粉末を得ることができる。
ここで長軸径とは、竹粉末粒子の最大径、すなわち、粒の外側輪郭線上の任意の2点を、その間の長さが最大になるように選んだ時の長さをいい、繊維状粒子の場合、長軸方向の長さ、すなわち繊維長をいう。長軸径が所定の範囲内にある粉末の質量比率は、倍率を調整可能な顕微鏡観察で得られた1cm×1cm画像中の繊維について直接測定し、繊維長と質量が実質的に比例関係にあることに基づいて、繊維長の累積頻度%を測定して、これを質量%と置き換える方法により得る。
なお、長軸径が所定の範囲内にある粉末の質量比率の概略値は、篩い分け法により簡便に得ることもできる。
【0024】
竹粉末は、平均アスペクト比が5〜100の範囲にあることが好ましく、10〜80の範囲であることがより好ましい。竹粉末の平均アスペクト比が100を超える場合、高分子材料との溶融成形の際に、その溶融流動性を阻害するおそれがある。また、平均アスペクト比が5未満の場合、得られる成形体の繊維強化が発現しないばかりでなく、帯電防止性能も高くない場合がある。
ここでアスペクト比は、長軸径/短軸径の比として表わされる。長軸径/短軸径の比は、繊維長/繊維径の比といってもよい。アスペクト比が大きいということは、より細長い繊維状の形態であることを意味している。平均アスペクト比が所定の範囲内にある粉末の質量比率は、上記した長軸径が所定の範囲内にある粉末の質量比率の測定方法に準じて測定する。
【0025】
一般に、竹中の維管束鞘に多く含まれるセルロース成分は繊維状の形態をとる。そのため、分級操作により得られる長軸径の大きいバイオマス粉末は、セルロース由来の繊維状成分をより多く含んでおり、アスペクト比が大きい。アスペクト比が大きいバイオマス粉末である竹粉末は、高分子材料とともに溶融成形された際に、強化繊維としての機能を発現することができる。さらに、繊維同志の接触が起こり易く、結果として帯電防止性能をより向上させることができる。
【0026】
ここで、竹粉末の製造方法について説明する。
竹粉末の製造方法は、竹を170〜250℃の加熱水蒸気を用いて加熱処理した後、目的の長軸径分布になるまで粉砕することによって実施される。
【0027】
加熱水蒸気処理とは、170〜250℃に加熱された水蒸気を竹に接触させることである。170℃未満では、竹の水蒸気処理効果が小さく、処理に長時間を要する。さらに、後段で述べるように170℃は逆転移温度であるため、その温度以上では乾燥処理も同時に実施可能である。一方、250℃を超える温度では、竹の分解が必要以上に進行しやすく、セルロース成分の炭化が起こりやすくなってしまい、竹粉末を高分子材料に配合して成形したときの成形体の強度への寄与が低下してしまうので好ましくない。加熱水蒸気処理温度としては、より好ましくは190〜240℃、さらに好ましくは、200〜230℃の範囲である。
【0028】
ここで、170〜250℃に加熱された水蒸気とは、飽和圧力から常圧の範囲にある水蒸気である。このような加熱水蒸気として、加圧飽和水蒸気と常圧過熱水蒸気とがある。常圧過熱水蒸気とは、定容積状態で加熱して得られる加圧飽和水蒸気と異なり、膨張できる状態で100℃の水蒸気をさらに加熱して得られる、標準気圧下で100℃以上の水蒸気をいう。
【0029】
加熱処理後の竹由来のバイオマスは、易分解性のヘミセルロース成分が優先的に分解され、部分的に揮発・除去されているため、セルロース繊維とリグニン構造間の接着組織を解かれたバイオマス組織は、容易に粉砕することができる。破砕および粉砕は、適宜、一般公知の破砕・粉砕装置を用いて行うことができる。また、このとき、粗粉砕後に微粉砕を行う2段粉砕処理を行ってもよい。好適に用いられる破砕・粉砕装置を例示すれば、例えば、ハンマーミル、カッターミル、ピンミル、クラッシャーミル、ボールミル、ロッドミル、バーミル、ディスクミル、ブレードミル、振動ミル、およびこれらの方法を2種以上組み合わせた複合粉砕方法である。
【0030】
粉砕された竹粉末は、そのままでも使用できるが、より高度な帯電防止特性を発現させるために、分級操作によって、粒度分布を制御することも好適に行われる。分級操作に用いる方法としては、一般公知の分級方法が何ら制限なく使用できる。好適に用いられる分級方法を例示すれば、例えば、篩分級、気流式分級、渦遠心式分級、静電分離型分級などであり、これらに超音波や縦および横振動などの負荷を様々に組み合わせた分級方法がある。具体的には、振動ふるい装置、サイクロン、風力分級装置、および回転ドラム型静電分離装置などが好適な分級装置である。これらの装置を用いて、帯電防止剤の主剤としての竹粉末が作製される。
【0031】
帯電防止剤の性能は導電率でおおむね評価することができる。例えば金属粉末や無機粉末であれば、展性や可塑性を若干でも持っていれば、加熱圧縮によって容易に導電率を測定することができる。しかし、例えば竹粉末の場合、可塑性を持たないので、導電率を適切に、再現性よく測定することは非常に難しい。このため、竹粉末を高分子材料に配合して得る成形体の表面抵抗率や体積抵抗率を測定することで、帯電防止性能を評価することができる。
【0032】
なお、竹粉末自体帯電防止性能を有するものであるが、高分子材料に配合して成形体とすることで、高分子材料製品を製造する際のいわゆるマスターバッチ型の着色剤のようにして用いることができ、好適である。
本実施の形態例に係るマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤は、例えば、竹粉末と、高分子材料および必要に応じて硬化剤を混合した組成物を分解あるいは硬化反応が進行しない条件で溶融成形して、あるいは溶融成形した後、加熱や水蒸気、光照射などの刺激により硬化させることで得ることができる。
【0033】
高分子複合材料用帯電防止剤に配合される高分子材料は、複合化が可能な高分子材料であれば、なんら制限なく用いることが可能である。とりわけ、熱可塑性樹脂は、溶融成形により、より意匠性の高い工業用製品部材を製造することが可能であるため、より好適に用いることができる。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、竹粉末と複合化が可能なものあれば何ら制限無く用いることが可能である。好適に用いられる熱可塑性樹脂を例示すると、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類;ポリスチレンやアクリロニトニル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトニル−スチレン(AS)樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)樹脂などのスチレン系樹脂類;ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などの芳香族ポリエステル類;ポリ乳酸やポリカプロラクトン、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリテトラメチルグリコリド、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル類等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、成型性の容易さの観点から、ポリオレフィン類が特に好適である。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
熱可塑性樹脂以外にも、熱可塑性である熱硬化性樹脂のプレポリマーを用いることができる。代表的な熱硬化性樹脂のプレポリマーとしては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シラン架橋ポリエチレン、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、架橋ゴムなどのプレポリマーである。これらの熱硬化性樹脂のプレポリマーの中でも、本発明に係る竹粉末との複合化の容易さなどから、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂などのプレポリマーが好適である。
【0036】
竹粉末と高分子材料の質量比(竹粉末:高分子材料)は、10:90〜80:20とすることが好適であり、10:90〜60:40とすることがより好適であり、20:80〜55:45とすることがさらに好適である。
竹粉末の質量割合が10%未満では帯電防止性能が効果的に発現しないおそれがある。一方、80%を超える割合では、後述する帯電防止性部材の機械的強度の低下をまねくおそれがある。
【0037】
竹粉末と熱可塑性樹脂を配合し溶融成形する方法は、竹粉末を熱可塑性樹脂中に均一に分散させることのできる方法であれば、公知の方法を何ら制限無く利用することができる。
例えば、熱可塑性樹脂を熱溶融させて、竹粉末にせん断応力をかけながら練り込む溶融混練法、熱可塑性樹脂を溶剤に溶解し、竹粉末を加えて分散させた後に、溶剤を気化除去する溶液混合法、熱したロール上で熱可塑性樹脂を柔らかくし、その上に竹粉末を添加し、熱ロールによって圧着しながら練り込むカレンダー成型法などがある。これらの複合化の方法の中でも、効率性と汎用性の点で溶融混練法が最も好適である。
【0038】
溶融混練法としては、具体的には、射出成型機を用いた射出成型法、押出成形機を用いた押出成形法、ブロー成型機を用いたブロー成形法等があり、さらに押出成形法によって作製したシート状の成形体を原料に、真空成型機を用いた真空成型法や圧縮成型機を用いた圧縮成型法による深絞り成形が好適に用いられる。これらの成形法の中でも、汎用性と拡張性等の点から、射出成型法と押出成形法がより好適に用いられる。
【0039】
射出成形とは、加熱溶融させた材料を金型キャビティー内に射出注入し、冷却・固化させる事によって、成形品を得る方法であり、スプルーおよびランナーと呼ばれる部分を通って、成形体の金型キャビティー内に溶融した竹粉末含有樹脂溶融物が充填される。ここで、竹粉末は溶融しないので、溶融流動性を必要とする射出成型を実施する際には、流動性に優れた熱可塑性樹脂が選択される。
【0040】
押出成形とは、加熱されたシリンダーの中でスクリューの回転に伴うせん断応力と発熱により溶融・混合した材料をダイスの押出口から一定速度で押し出しながら冷却固化させる成形法である。射出成型のような高い流動性は必要としないので、押出口から押し出された後、変形しないような粘性の高い高分子量の熱可塑性樹脂が選択される。さらに、押出成形においては、スクリューによる混練が効果的に行われる。スクリューの形状および回転方向は様々にあり、用途目的に応じて選択可能である。成形体の製造においては、より混練度を高めるために、二軸同方向回転スクリューによる混練がより好適な方法である。
【0041】
例えば、射出成型機を用いて本実施の形態例に係るマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤を成形する場合、高い溶融流動性が要求され、また、金型内に充填する前にスクリーンを通してサイズの大きい不融物を濾取するため、竹粉末の長軸径が比較的小さい方に多く分布している方が成形性には有効である。一方、押出成形機を用いて本実施の形態例に係るマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤を成形する場合、長い繊維状の成分を含む竹粉末は、溶融した熱可塑性樹脂の中で配向して流動する。そのため、結果として配向した繊維状の竹粉末を含むコンポジットが得られ、繊維強化による機械的物性の向上が発現しやすく好適な製造方法の態様である。
【0042】
上記のような配向した繊維状の竹粉末を含む本実施の形態例に係るマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤を得るうえで、高分子材料の溶融流動性は重要であり、高分子材料のメルトフローレートが1〜60g/10分の範囲であることが好ましい態様である。メルトフローレートが1g/10分未満では粘性が高すぎ、例えば複雑な成形が困難となる恐れがあり、60g/10分を超える範囲で、溶融粘性が低すぎて、体積抵抗率と表面抵抗率の比が小さくなるおそれがある。
以上説明した本実施の形態例に係るマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤の製造方法は、後述する本実施の形態例に係る帯電防止性部材の製造方法にも適用することができる。
【0043】
本実施の形態例に係る高分子複合材料用帯電防止剤は、上記したように、体積抵抗率(単位:Ω・cm)と表面抵抗率(単位:Ω/□)の比が10
2以上である。
【0044】
帯電防止の性能は、通常、電気の通しやすさの指標である体積抵抗率や表面抵抗率と、帯びた電気量が半分になる時間を示す半減期の2種類で評価される。体積抵抗率や表面抵抗率は数値が低いほど帯電防止性が高く、半減期は時間が短いほど帯電防止性が高いことを示す。体積抵抗率は、単位体積当たりの抵抗で、物質に固有の物理量である。一方、表面抵抗率は、単位面積当たりの抵抗で、シート抵抗あるいは単に表面抵抗とも呼ばれる。
表面抵抗および体積抵抗率は、JIS-K-6911-5.13に準拠して測定する。
【0045】
竹粉末を高分子材料に配合する量を増やすにつれて、成形体の表面抵抗率が低減される。
一方、体積抵抗率は、表面抵抗率と同様に竹粉末を高分子材料に配合する量を増やすにつれて低減するが、表面抵抗率に比べてその低減率が小さい。
【0046】
このような表面抵抗率と体積抵抗率の挙動の違いは、竹粉末が成形体の表面層に偏在していることに起因するものと考えられる。この竹粉末の偏在により、成形体の表面層が高い導電性を示し、内層が絶縁性をもった層を形成する。このような多層構造は、溶融成形時の熱流動性に層分布が生じるためであると考えられる。
【0047】
この作用効果は、体積抵抗率(単位:Ω・cm)と表面抵抗率(単位:Ω/□)の比が10
2以上であると、好適に発現される。体積抵抗率(単位:Ω・cm)と表面抵抗率(単位:Ω/□)の比は、10
3以上であるとより好適である。
また、高分子複合材料用帯電防止剤は、表面抵抗率が10
10〜10
13(単位:Ω/□)であると、好適に上記の作用効果を得ることができ、5×10
12(単位:Ω/□)以下であるとさらに好適に上記の作用効果を得ることができる。
なお、高分子複合材料用帯電防止剤に添加されるバイオマス粉末は、竹粉末に限定するものではない。
【0048】
つぎに、本実施の形態例に係る帯電防止性部材について説明する。
本実施の形態例に係る帯電防止性部材は、上記の高分子複合材料用帯電防止剤を含む高分子複合材料を成形してなる。
【0049】
帯電防止性部材は、帯電防止性を有することが望ましい用途に用いられる部材を広く指す。電子部品の収容容器は帯電防止性部材であることが必須といってよい。ただし、これに限らず、家電・IT機器類の各種部品や自動車内装品等も帯電防止性部材であることが好適である。上記のマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤をそのまま成形し、あるいは、さらに必要に応じて高分子材料を加えて、これを成形することにより、帯電防止性部材を好適に得ることができる。
【0050】
本実施の形態例に係る帯電防止性部材は、先に説明したマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤の製造方法と同様の方法により製造することができる。
このとき、竹粉末と高分子材料の質量比(竹粉末:高分子材料)を、10:90〜80:20とすることが好適であり、10:90〜60:40とすることがより好適であり、20:80〜55:45とすることがさらに好適である。
竹粉末の質量割合が10%未満では帯電防止性能が効果的に発現しないおそれがある。一方、80%を超える割合では、帯電防止性部材の機械的強度の低下をまねくおそれがある。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明の範囲を制限するものではない。
【0052】
(竹粉末の製造例)
孟宗竹(直径約12cm、長さ約40cm、重量約1kg)を以下の仕様の直本工業社製過熱水蒸気処理装置に入れ、220℃で120分間、過熱水蒸気処理を行った。なお比較のために、過熱水蒸気処理をしていない孟宗竹(上記寸法)についても、同じ装置を用いて破砕・微粉砕試験を試みたが、孟宗竹の強度が大きいため、粉砕不可であった。
処理した孟宗竹を取り出し、下記の粗粉砕装置を用いて7000rpmで破砕した後、微粉砕装置を用いて7000rpmで粉砕を行った。さらに、下記の篩装置を用いて、140メッシュ(目開き106μm)と235メッシュ(目開き63μm)の篩を用いて分級処理することによって235〜140メッシュ間成分の竹粉末を作製した。
過熱水蒸気処理装置の仕様:
蒸気発生部: ヒーター容量 6.3kW
換算蒸発量 9.45kg/h
最高使用圧力 0.11MPa
処理槽: ヒーター容量 8kW
庫内寸法 W590xD385xH555 mm
粉砕装置の仕様:
粗破砕 : 奈良機械製作所製 HM−5型
微粉砕 : 奈良機械製作所製 自由粉砕機M-2型
水分測定装置の仕様: 島津製作所製水分計MOC-120H
篩装置の仕様: アズワン株式会社製ミニふるい振とう機 MVS−I
【0053】
<竹粉末の長軸径分布および平均アスペクト比の測定>
長軸径の測定および平均アスペクト比の測定を、下記の光学顕微鏡を用いて行った。光学顕微鏡の倍率は、竹粉末の長軸径のサイズに合わせて変化させた。
光学顕微鏡: キーエンス社製VH-5000型
図1の顕微鏡写真から、235(目開き63μm)〜140メッシュ(目開き106μm)間成分は、そのほとんどがウィスカー状の短繊維であることがわかった。
図2に示した長軸径分布観測結果から、235〜140メッシュ間成分は、長軸径が100μm以下の成分は1.6質量%であり、長軸径が100〜1000μmの範囲の成分は98.4質量%であった。
光学顕微鏡観察により測定した235〜140メッシュ間成分の平均アスペクト比は12.3であった。
【0054】
(マスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤の製造実施例1〜3)
竹粉末の製造例で得られた竹粉末(235〜140メッシュ間成分、アスペクト比12.3)とポリプロピレン(表1中、PPと表記 日本ポリプロピレン株式会社製ノバテックPP FY-6、メルトフローレート2.5g/10分)を、竹粉末:ポリプロピレン=10:90、30:70、50:50(質量比)で混合し、これを井本製作所製ベント付2軸混練押出機160B型(同方向回転2軸スクリュー、スクリュー直径:15mm、L/D:25、ベント口数:1)を用いて溶融混練し、ストランド状の竹粉末コンポジットを作製した。ポリプロピレンとの複合化の溶融混練条件は、ホッパー下温度80℃、バレル内温度190℃、ダイス温度190℃、スクリュー回転数15rpmで行った。
【0055】
押出機を用いて製造したマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤は、井元製作所製熱プレス装置IMC-180Cを用いて、190℃で3分間、予備加熱を行った後に、12MPaの圧力で5分間加圧した。得られた厚さ約0.6mmのシートから、100mm×100mmのシートサンプルを切り出し、表面抵抗率および体積抵抗率測定サンプルとした。
【0056】
<マスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤の表面抵抗率および体積抵抗率測定>
表面抵抗率および体積抵抗率測定は、三菱化学社製ハイレスターUP(型番MCP-HT450)を用いて、JIS-K-6911に準拠して、プローブとしてUR−100(主電極φ50mm、ガード内径φ53.2mm)、印加電圧1000v、印加時間60秒、試験温度23℃の条件で行った。測定は、サンプル毎に3回以上行い、その平均値を求めた。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果から明らかなように、製造実施例1〜3のマスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤は、体積抵抗率/表面抵抗率が10
3よりも大きく、また、表面抵抗率が10
13Ω/□以下となり、ポリプロピレンに比べて帯電防止性能が格段に向上したことがわかる。
【0059】
図3および
図4は、マスターバッチ様の高分子複合材料用帯電防止剤製造実施例1で作製したシートサンプルを液体窒素で十分冷却させた後、割り、その割断面を、キーエンス社製デジタルマイクロスコープVK-100/X200を用いて形状測定モードで(レーザー波長658mm、出力0.95mW、パルス幅1ns)で観察した結果である。
図3はシート断面全体図(x400)であり、
図4は表層付近の拡大図(x1000)である。顕微鏡観察の結果、竹粉末の繊維成分がシートの表層付近に偏在している状況が明らかである。