【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、コバルトで骨格置換したモルデナイト型及びアナルサイム型ゼオライ
トの合成方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、コバルト錯体を含むアルミ
ノシリケートゲルを水熱反応に供することにより所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記の技術背景において、骨格を形成するAl原子及び/又はSiの原子の一部がコバルト原子で置換された、吸着分離剤、固体触媒などとして好適な、コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトを提供することを
可能とするものである。また、本発明は、コバルト錯体を含むアルミノシリケートを水熱反応させることにより、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルト原子で置換されたコバルト置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法を提供することを
課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(
1)コバルト錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、モルデナイト型ゼオライト、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が4配位構造のコバルトで置換され、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有し、640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有
し、骨格にCo原子を含むことで青色をしている骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造することを特徴とするコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(
2)2−(2−アミノエチル)グリシン(1)のコバルト錯体(2)を含むアルミノシリケートゲルを用いる、前記(
1)に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(1)H
2NCH
2CH
2NHCH
2COOH
(2)[(H
2NCH
2CH
2NHCH
2COO)
2Co]
+
(
3)生成した結晶が、Na
4.2Co
0.30Al
4.4Si
43.3O
96もしくはNa
5.6Co
0.45Al
6.5Si
41.0O
96、又はNa
13.5Co
1.1Al
14.0Si
32.9O
96である、前記(
1)に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【0013】
本発明者らは、従来の水熱合成法を拡張し、Co原子の価数が1価であるコバルト金属錯体を、ゼオライトを結晶化させるための構造規定剤として用いることを試み、様々な合成条件を検討し、合成と分析・解析を行っていく過程で、本発明を開発するに至った。
【0014】
本発明
で合成される、骨格置換モルデナイト、又は同アナルサイム型ゼオライト
は、モルデナイト型ゼオライトの骨格構造、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換され、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、上記モルデナイト型ゼオライトのSi/Al比が5.0〜20.0であること、また、上記アナルサイム型ゼオライトのSi/Al比が2.0〜2.5であること、更に、上記骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子がCo原子に置換されたこと、を好ましい実施の態様としている。
【0016】
また、本発明は、上記コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法であって、コバルト錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、モルデナイト型ゼオライト、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造の骨格の一部がコバルトで置換された骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造することを特徴とするものである。
【0017】
本発明では、2−(2−アミノエチル)グリシン(1)のコバルト錯体(2)を含むアルミノシリケートゲルを用いること[(1):H
2NCH
2CH
2NHCH
2COOH、(2):[(H
2NCH
2CH
2NHCH
2COO)
2Co]
+]、また、得られた生成物が、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有すること、更に、生成した結晶が、Na
4.2Co
0.30Al
4.4Si
43.3O
96、又はNa
13.5Co
1.1Al
14.0Si
32.9O
96であること、を好ましい実施の態様としている。
【0018】
すなわち、本発明は、
合成物として、好適には、Si/Al比が5.0〜20.0の高シリカモルデナイト及びSi/Al比が2.0〜2.5のアナルサイムを構成する骨格の一部がコバルトで置換され、X線回折によって単相構造であることを特徴とする骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト、及び、上記2−(2−アミノエチル)グリシン(H
2NCH
2CH
2NHCH
2COOH)のコバルト錯体([(H
2NCH
2CH
2NHCH
2COO)
2Co]
+)を含むアルミノシリケートゲルを水熱法により処理することを特徴とするコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法を提供することを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、例えば、リン酸緩衝液に、塩化コバルト6水塩と、2−(2−アミノエチル)グリシンを加え、加熱により、水を蒸発させ、Co−2−(2−アミノエチル)グリシン錯体と合成する。この場合、上述のリン酸緩衝液に代えて、炭酸緩衝液を用いることができ、また、上述の塩化コバルト6水塩に代えて、塩化コバルト無水塩、硝酸コバルト6水塩などのコバルト塩が用いられる。
【0020】
更に、上述の2−(2−アミノエチル)グリシンに代えて、−1価の3座配位子である1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)や4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシノール(PAR)が用いられるが、EDMA(ethylenediaminemonoacetic acid)が好適に用いられる。
【0021】
次に、例えば、ステンレス製オートクレーブに、純水、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウムを入れ、加熱、溶解する、次いで、これに、上述のCo−錯体と、シリカ源を加え、出発ゲルとする。出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置に装着し、例えば、毎分30回転程度で回転させながら、温度〜165℃程度の自生圧力下で、〜144時間程度、加熱し、合成する。生成した結晶は、pHが9以下になるまで洗浄、濾過し、〜110℃程度で〜16時間程度、乾燥する。生成した結晶は、均一な青色を呈している。
【0022】
本発明では、好適には、EDMAのコバルト(III)錯体が用いられる。コバルト(III)錯体は、置換不活性であり、安定性が高く、また、EDMAは、錯体を形成するときにキレート構造をとり、全体的に1価の陽イオンになると予想され、EDMA−Co錯体は、テンプレート分子として相応しいと考えられる。
【0023】
EDMA−Co(III)錯体存在下でゼオライトを合成する場合、合成条件としては、例えば、ゲルの組成範囲は、Na/Si比を0.1〜1.0、Si/Al比を3〜35の範囲とし、H
2O/Si比を30に固定し、錯体の濃度をAlの5%とする。そして、例えば、ゲルの総量を10gとし、25cm
3のオートクレーブに入れ、165℃、30rpmで回転させながら、自生圧力下で144時間水熱合成を行う。生成したゼオライトは、濾過、洗浄後、XRDで同定した後、各種の測定に供する。
【0024】
pHと錯体形成の関係を調べた結果、pH8から10の間で最も効率良く錯体を合成できることが分かった。構造は、EDMA:コバルトの比が、2:1の割合で結合しており、八面体を形成していると考えられる。EDMA−Co錯体生成の反応式は、
Co
2+ + 2H EDMA → [Co
3+(EDMA)
2]
+ + 2H
+ ・・・
で表される。
【0025】
本発明では、EDMA−Co錯体を添加することによって、青色に着色したMOR型のゼオライト、及び、濃青色に着色したANA型のゼオライトが合成される。また、本発明では、例えば、Al(OH)
3、SiO
2、NaOHを含む出発ゲルを使用し、EDMA−Co錯体を添加することにより所定のSi/Al比のゼオライトを合成することができる。
【0026】
本発明のコバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトは、置換されたCo原子が、弱い固体酸点となり、酸化触媒として優れた触媒作用を有する。従来、イオン変換法で、ゼオライト細孔内にCoイオンを導入したものが数多く報告されているが、イオン交換法でCoイオンを導入したゼオライトは、触媒反応中に、容易にCoイオンが抜けてしまうという欠点があった。これに対し、本発明の骨格置換ゼオライトでは、触媒反応中に、Coイオンが抜けてしまうという問題がない。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)従来技術では知られていなかったコバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。
(2)本発明により、合成した骨格にCo原子を含有するコバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトは、粉末X線回折(XRD)により単相構造であることが証明されたものである。
(3)本発明により、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部をコバルトイオンに置換した、吸着分離剤、触媒として有用な、モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。
(4)本発明により、骨格構造を構成する原子のうち、Al原子及び/又はSi原子の一部がCo原子に入れ替わった、深い青色を呈し、焼成後の試料も、若干、色は薄くなるものの、青色をしている、骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成することができる。
(5)Si/Al比が5.0〜20.0の高シリカモルデナイト、又はSi/Al比が2.0〜2.5のアナルサイムを構成する骨格の一部をコバルトで置換することができる。
(6)コバルト原子の価数が1価であるコバルト金属錯体を、ゼオライトを結晶化させるための構造規定剤として用いて、水熱法により処理する、新しいコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの合成法を提供することができる。