(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5656212
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】グラフェン膜を有する基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/16 20060101AFI20141225BHJP
C01B 31/02 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
H01L29/16
C01B31/02 101F
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-6702(P2010-6702)
(22)【出願日】2010年1月15日
(65)【公開番号】特開2011-146562(P2011-146562A)
(43)【公開日】2011年7月28日
【審査請求日】2012年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(72)【発明者】
【氏名】中尾 基
(72)【発明者】
【氏名】芹川 泰介
【審査官】
早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−182173(JP,A)
【文献】
特開2009−143761(JP,A)
【文献】
特開2009−200177(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0181502(US,A1)
【文献】
特表2013−504192(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/122928(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/023934(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/16−29/167
H01L 29/786
H01L 27/12
C01B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層上の金属炭化物膜を酸化処理する工程を有する、絶縁層上にグラフェン膜と金属酸化物膜が順次積層されてなる基板の製造方法。
【請求項2】
金属炭化物膜がSiC膜であり、金属酸化物膜がSiO2膜であることを特徴とする請求項1記載の基板の製造方法。
【請求項3】
絶縁層が、Si基板上にSiO2層が形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の基板の製造方法。
【請求項4】
絶縁層が、石英基板であることを特徴とする請求項1又は2記載の基板の製造方法。
【請求項5】
絶縁層上の金属炭化物膜を酸化処理する工程と、前記工程により表面に形成された金属酸化物膜を除去する工程とを有する、絶縁層とその表面に積層されたグラフェン膜とからなる基板の製造方法。
【請求項6】
金属炭化物膜がSiC膜であり、金属酸化物膜がSiO2膜であることを特徴とする請求項5記載の基板の製造方法。
【請求項7】
絶縁層が、Si基板上にSiO2層が形成されたものであることを特徴とする請求項5又は6記載の基板の製造方法。
【請求項8】
絶縁層が、石英基板であることを特徴とする請求項5又は6記載の基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス等への応用が可能な、SiO
2基板上やSi基板上にグラフェン膜を有する基板
の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素材料であるカーボンナノチューブ、フラーレン及びグラフェンに関して、特に近年、活発に次世代電子デバイス材料として研究開発がなされている。環状の立体構造を有するカーボンナノチューブ及びフラーレンは、能動箇所(主にトランジスタ部分)としての適用は構造上困難である一方、グラフェンは、平面型構造を有しており、シリコンプロセスで用いられているプレーナー技術が、そのまま適用できることもあり、能動箇所への導入が可能である。グラフェンは、電子移動度及び電子有効質量などの特性においてもかなり優れており、次世代デバイスとしても非常に期待されている。
【0003】
グラフェンは、緊密に詰め込まれた単層の炭素原子であり、ハニカム状に6方晶パターンで並び、2次元シート(グラフェン膜)を形成している。グラフェン膜は、カーボンナノチューブを広げたような形態を示している。グラフェン膜は、グラファイト膜の究極の形態であり、炭素原子1層からなるグラファイト膜である。グラフェン膜の厚さは、量子化学的計算により求められた炭素原子の電子雲の広がりから、約0.15nmと見積もられており、厚さが1nm以下なので、電界効果が作用し、電界効果トランジスタを製造することが可能であると言われている。例えば、グラフェン膜は、キャリア移動度がSiの1000倍位あり、高速素子として、ポストSiの有望新素材として期待されている。
【0004】
グラフェン膜の製法としては、SiC基板を用いた真空−超高温加熱(〜1600℃以上)による作製法(SiC膜の高温真空処理により脱Siする方法)(例えば、特許文献1参照)か、グラファイト膜を剥離する方法(例えば、特許文献2参照)が一般的であった。しかしながら、従来のSiC基板を用いる方法では、超高温プロセスを要するので、実用化は非常に困難な状況である。また、グラファイト膜を剥離する方法は、グラファイト基板(例えば、HOPG基板)を用いて、テープによりグラフェン層を剥ぎ取り、それを所望の基板上に転写することにより、グラフェン基板を作製方法であるが、半導体デバイス等の用途を考慮すると、生産性に大きな問題点がある。従って、グラフェン膜又はそれを有する基板の、革新的な工業的作製方法の開発が切に望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−335532号公報
【特許文献2】特開2008−120660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、Si基板や石英基板等をベースとした材料・プロセスを用いることによって、高品質なグラフェン膜を有する基板
の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、特許請求の範囲の請求項1〜8に記載の本発明の各態様によって達成される。
【0008】
請求項1に記載の態様は、絶縁層上の金属炭化物膜を酸化処理する
工程を有する、絶縁層上にグラフェン膜と金属酸化物膜が順次積層されてなる基板
の製造方法である。
【0009】
請求項2に記載の態様は、金属炭化物膜がSiC膜であり、金属酸化物膜がSiO
2膜であることを特徴とする請求項1記載の基板
の製造方法である。
【0010】
請求項3に記載の態様は、絶縁層が、Si基板上にSiO
2層が形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の基板
の製造方法である。
【0011】
請求項4に記載の態様は、絶縁層が、石英基板であることを特徴とする請求項1又は2記載の基板
の製造方法である。
【0012】
請求項5に記載の態様は、
絶縁層上の金属炭化物膜を酸化処理する工程と、前記工程により表面に形成された金属酸化物膜を除去する
工程とを有する、絶縁層とその表面に積層されたグラフェン膜とからなる基板
の製造方法である。
【0013】
請求項6に記載の態様は、金属炭化物膜がSiC膜であり、金属酸化物膜がSiO
2膜であることを特徴とする請求項5記載の基板
の製造方法である。
【0014】
請求項7に記載の態様は、絶縁層が、Si基板上にSiO
2層が形成されたものであることを特徴とする請求項5又は6記載の基板
の製造方法である。
【0015】
そして、請求項8に記載の態様は、絶縁層が、石英基板であることを特徴とする請求項5又は6記載の基板
の製造方法である。
【0016】
なお、本明細書では、層と膜について、比較的厚いものを層と称し、比較的薄いものを膜と称するが厳密な意味で区別されるものではなく、また、発明の性質上特に区別する必要もない場合には同義に用いている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、安価で品質の良いグラフェン膜を製造でき、その結果、絶縁層等の表面にグラフェン膜を有する基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明において、グラフェン膜が形成される態様を示す図である。
【
図2】本発明において、グラフェン膜が形成される他の態様を示す図である。
【
図3】本発明において、グラフェン膜が形成されたことを示すラマンシフトの図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の基板は、絶縁層上の金属炭化物膜を酸化処理することによって得られる。そして、その構成は、絶縁層上にグラフェン膜と金属酸化物膜が順次積層されているものである。例えば、絶縁層上の膜がSiC膜の場合には、これを酸化処理することによって得られ、絶縁層上に形成されたグラフェン膜と更にその上に形成されたシリコン酸化膜(SiO
2膜)とからなる構成を有する。
【0020】
本発明によると、絶縁層、例えば、SiO
2基板やSi基板等の絶縁層の表面の金属炭化物膜、例えば、SiC膜を酸化処理することによって、絶縁層上にグラフェン膜を製造することができる。本発明者は、市販のSOI基板(Si膜/SiO
2膜/Si基板)を利用して、SiO
2膜の上のSi膜を炭化することにより、絶縁層埋込型SiC基板(SiC膜/SiO
2膜/Si基板)を作製すると、そのSiC膜上にグラフェン膜が形成されることを知見し既に特許出願した(特願2009−107196)。本発明は、かかる発明を更に展開させる過程で知見したものであり、前記SiO
2膜の上に形成されたSiC膜を酸化処理すると、SiC膜がSiO
2膜に変成する過程で生成される過剰C原子によりグラフェン膜を成長させることができる。この結果、酸化により形成された上部のSiO
2膜と、基板にあたる下部のSiO
2膜の間に、グラフェン膜が形成される。そして、前記で形成されたグラフェン層の上部のSiO
2膜は、フッ酸等で除去することにより、グラフェン面を利用することができる。
【0021】
本発明における絶縁層とは、少なくとも層表面に絶縁性の金属酸化物膜を有する層を意味する。中でも、絶縁層が、Si基板上にSiO
2層が形成されたものや石英基板が特に好ましい。また、絶縁層上で金属炭化物膜を形成する金属としては、例えば、Si、Ti、Zr、W等の金属の膜が挙げられるが、好ましいのは、SiC膜である。酸化処理の温度は、SiCの場合は、適用温度は1100〜1405℃である。酸化処理においては、空気等の酸化ガス雰囲気下、昇温速度が10℃/秒以上の急速加熱を行うのが好ましい。
【0022】
絶縁層上に形成されたSiC膜は、単結晶薄膜であっても、アモルファス又は多結晶の薄膜であってもよい。そして、絶縁層上に形成されたSiC膜の膜厚は、特に制限されないが、20nm以下であるものが好ましい。極薄単結晶SiC−on−Insulator基板、および極薄アモルファスSiC/SiO
2/Si基板を、急速加熱法を用いて酸化処理することにより、酸化濃縮技術を用いた高品質なグラフェン膜が形成される。
【0023】
絶縁層上に形成されたグラフェン膜の上部のSiO
2膜は、フッ酸(フッ化水素水溶液)等で容易に除去することができる。フッ酸等による除去の方法は特に制限されないが、例えば、フッ酸が5重量%程度以下のものを用いるのが好ましい。
【0024】
本発明者の先の発明(特願2009−107196)によると、例えば、SiO
2膜の上のSi膜を炭化することにより、Si膜がSiC膜となり更にその上にグラフェン膜が形成される。ここでは、SiO
2は炭素と反応しない物質であり、炭素の拡散を防止する。かかる物質の層上に形成されたSi膜は炭素と反応し、グラフェン生成触媒として働く。従って、Si膜を炭化水素ガスにより炭化することでSiC膜が生成するが、その際、その上に更にグラフェン膜が形成されるものである。そして、前記のようにして得られたグラフェン膜
を用いて、絶縁層の表面にグラフェン膜を有するSiC膜が形成されてなる基板を製造することができる。
【0025】
本発明の基板は、例えば、絶縁層であるSiO
2膜の上のSiC膜を酸化することにより、SiC膜がSiO
2膜となり、下層のSiO
2膜と新たに形成されたSiO
2膜の間に、グラフェン膜が形成されることによって得られる。また、本発明の基板は、本発明者の先の発明で得られた、絶縁層であるSiO
2膜上にSiC膜が形成され更にその上にグラフェン膜が形成されたものを用い、これを酸化処理することによっても得られる。
【0026】
後者の場合、SiC膜上に形成されたグラフェン膜の大部分は、本発明プロセスの酸化処理工程によりCO
2等として除去され、SiO
2膜とSiO
2膜間には新たなグラフェン膜が形成されると考えられる。このことは、ラマン分析において、酸化処理が進行するにつれグラフェンピークが一度減少し、再度増大するということから推察できる。但し、一部の酸化処理前のグラフェン膜は、そのままSiO
2膜界面に滞在している可能性も否定できない。本発明の基板においては、前記のいずれの過程を経て形成されたグラフェン膜であってもかまわない。即ち、本発明において、絶縁層上の金属炭化物膜とは、表面にグラフェン膜が形成されている金属炭化物膜であってもよい。
【0027】
本発明の好ましい態様によると、先ず、市販SOI(Silicon-on-Insulator)基板の表面Siを薄層化し、その極薄Si層を炭化水素源を用いて炭化処理することにより、極薄SiC層を形成する(表面にグラフェン膜が形成されていてもよい)。その後、形成された極薄SiC層を酸化することにより、炭素を酸化濃縮し、絶縁層(SOIの場合は、埋め込みSiO
2膜)上にグラフェン膜を形成させる。以下、実施例により本発明を詳述する。
【実施例1】
【0028】
市販SOI(Silicon-on-Insulator)基板の表面Siを薄層化し、その極薄Si層を、エチレンを炭化水素源として炭化処理することにより、極薄SiC層に変性した。
【0029】
具体的には、5nm−表面Si層/埋め込み酸化膜/Si基板(極薄SOI基板)を用いて、大気圧雰囲気で水素10slmとプロパン20ccmを流し、基板温度1350℃で15秒処理することにより、表面に単結晶SiC層を形成した。
【0030】
上記で形成された単結晶SiC層/埋め込み酸化膜/Si基板を大気圧酸素雰囲気(酸素流量:10slm)において、1200℃で30分間酸化処理を行った。このとき形成された表面SiO
2膜は約10nm程度であった。この結果、SiO
2膜/グラフェン膜/埋め込み酸化膜/Si基板が形成された(
図1参照)。
【実施例2】
【0031】
実施例1で得られたSiO
2膜/グラフェン膜/埋め込み酸化膜/Si基板を、5重量%の希フッ酸に1分間浸漬し、表面のSiO
2膜を除去することでグラフェン膜/埋め込み酸化膜/Si基板が得られた。
【実施例3】
【0032】
極薄アモルファスSi/石英基板を、急速加熱法を用いてエチレンガスで炭化処理することにより、表面にSiC層を形成させた。
【0033】
具体的には、20nm厚アモルファスSi/石英基板を用いて、大気圧雰囲気で水素10slmとプロパン20ccmを流し、基板温度1350℃で15秒処理することにより、SiC層を形成した。
【0034】
上記で形成されたSiC層/石英基板を、大気圧酸素雰囲気(酸素流量:10slm)において、1200℃で5分〜30分間酸化処理を行った。この結果、SiO
2膜/グラフェン膜/石英基板が得られた(
図2参照)。
【実施例4】
【0035】
実施例3で得られた
SiO
2膜/グラフェン膜/石英基板を、5重量%の希フッ酸に1分間浸漬し、表面のSiO
2膜を除去することでグラフェン膜/石英基板が得られた。
【実施例5】
【0036】
グラフェン膜/埋め込み酸化膜/Si基板のラマン分光分析結果を、
図3に示した。具体的には、実施例1と同様に、5nm−表面Si層/100nm−埋め込み酸化膜/Si基板(極薄SOI基板)を用いて、大気圧雰囲気で水素10slmと炭化水素ガス(プロパン)20ccmを流し、基板温度1350℃で15秒処理し、その後、大気圧雰囲気で酸素10slmを流し、基板温度1200℃で5分、および30分間の酸化処理を行った後、5重量%の希フッ酸に1分間浸漬することで、グラフェン膜/埋め込み酸化膜/Si基板を作製した。
【0037】
図3から、5分間の酸化処理と比較して、30分間酸化処理したサンプルの方がグラフェン膜作製を示す2700cm
−1近傍のピークが大きくなっていることが分かる。なお、0.5分(30秒)間の酸化処理サンプルでは、2700cm
−1近傍のピークは観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、革新的な技術でグラフェン膜を作製することができ、従来不可能であったSiプロセスへの組み込みが可能となり、グラフェン膜自身を用いた能動素子に加えて、配線材料への適用、太陽電池用途等向け透明導電膜の適用等、多くのデバイスアプリケーションが期待できる。