特許第5656697号(P5656697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5656697
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20141225BHJP
   C30B 19/04 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   C30B29/38 C
   C30B19/04
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-50415(P2011-50415)
(22)【出願日】2011年3月8日
(65)【公開番号】特開2012-167001(P2012-167001A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年10月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-159973(P2010-159973)
(32)【優先日】2010年7月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-12770(P2011-12770)
(32)【優先日】2011年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】福山 博之
(72)【発明者】
【氏名】安達 正芳
(72)【発明者】
【氏名】田中 明和
(72)【発明者】
【氏名】前田 一夫
【審査官】 伊藤 光貴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/030718(WO,A1)
【文献】 特開2008−266067(JP,A)
【文献】 特開2006−306638(JP,A)
【文献】 特開2005−104829(JP,A)
【文献】 特開2006−213586(JP,A)
【文献】 特開2007−039292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga−Al合金融液にN原子を含有するガスを導入し、該Ga−Al合金融液中の種結晶基板上に窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させる窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶基板が、窒化サファイア基板であることを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化サファイア基板を900℃以上1500℃以下の温度でアニール処理することを特徴とする請求項2記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項4】
前記窒化サファイア基板に形成された窒素極性の窒化アルミニウム膜上に、Al極性の窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項2又は3記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項5】
前記Ga−Al合金融液にNガスを注入しながら、窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項6】
前記Ga−Al合金融液の温度を1000℃以上1500℃以下とし、窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項7】
前記Ga−Al合金融液のGaとAlとのモル比が98:2〜40:60の範囲であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項8】
窒化サファイア基板に形成された窒素極性の窒化アルミニウム膜上に、Al極性の窒化アルミニウム結晶がエピタキシャル成長されてなる結晶基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相成長法(LPE)によりAlNをエピタキシャル成長させる窒化アルミニウム結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外発光素子は、蛍光灯の代替、高密度DVD、生化学用レーザ、光触媒による公害物質の分解、He−Cdレーザ、水銀灯の代替など、次世代の光源として幅広く注目されている。この紫外発光素子は、ワイドギャップ半導体と呼ばれるAlGaN系窒化物半導体からなり、表1に示すようなサファイア、4H−SiC、GaNなどの異種基板上に積層される。
【0003】
しかし、サファイアは、AlGaNとの格子不整合が大きいため、多数の貫通転位が存在してしまい、非発光再結合中心となって内部量子効率を著しく低下させてしまう。また、4H−SiC及びGaNは、格子整合性は高いが、高価である。また、4H−SiC及びGaNは、それぞれ波長380nm及び365nm以下の紫外線を吸収してしまう。
【0004】
これに対して、AlNは、AlGaNと格子定数が近く、200nmの紫外領域まで透明であるため、発光した紫外線を吸収することなく、紫外光を効率よく外部へ取り出すことができる。つまり、AlN単結晶を基板として用いてAlGaN系発光素子を準ホモエピタキシャル成長させることにより、結晶の欠陥密度を低く抑えた紫外光発光素子を作製することができる。
【0005】
【表1】
【0006】
現在、HVPE法(ハイドライド気相成長法)、液相成長法、昇華再結晶法などの方法によりAlNのバルク単結晶の作製が試行されている。例えば、特許文献1には、III族窒化物結晶の液相成長法において、フラックスへの窒素の溶解量を増加させるために圧力を印加し、ナトリウム等のアルカリ金属をフラックスに添加することが開示されている。また、特許文献2には、Al融液に窒素原子を含有するガスを注入して、AlN微結晶を製造する方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2の技術を用いてAlN結晶を製造する場合、高い成長温度が必要となり、コスト及び結晶品質に関して満足するものが得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−224600号公報
【特許文献2】特開平11−189498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、安価で良質な窒化アルミニウム結晶の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件発明者らは、鋭意検討を行った結果、液相成長法におけるフラックスとしてGa−Al合金融液を用いることにより、低温でのAlNの結晶成長が可能であり、基板表面の結晶性を引き継ぎかつAl極性を有する良好なAlN結晶が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法は、Ga−Al合金融液にN原子を含有するガスを導入し、該Ga−Al合金融液中の種結晶基板上に窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させることを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る結晶基板は、窒化サファイア基板に形成された窒素極性の窒化アルミニウム膜上に、Al極性の窒化アルミニウム結晶がエピタキシャル成長されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良質なAlN結晶を低温で成長させることができ、製造コストを低減させることが可能となる。また、本発明によれば、窒素極性を有する窒化サファイア基板上にAl極性を持つAlN結晶を成長させることが可能となる。このため、現在用いられているAl極性を有する基板に対して最適化されたMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法の成長条件を用いて、LED(Light Emitting Diode)やLD(Laser diode)デバイスに必要な多重量子井戸構造を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】GaN及びGaN+Gaの窒素雰囲気中の重量変化の温度依存性を示すグラフである。
図2】GaとAlとの二元合金状態図である。
図3】AlN結晶製造装置の構成例を示す図である。
図4】X線回折の測定結果を示すグラフである。
図5】エピタキシャル成長後のシード基板断面を示すSEM観察写真である。
図6】サファイア窒化層とLPE層の断面を示すTEM観察写真である。
図7】サファイア窒化層とLPE層の断面を示す2波条件下(それぞれ,逆格子ベクトル(a)g=[0002]、(b)g=[10−10]及び(c)g=[10−12]の回折線を用いた。)明視野像TEM観察写真である。
図8】サファイア窒化層とLPE層のCBED図形及びシミュレーションパターンを併せて示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.本発明の概要
2.窒化アルミニウム結晶の製造方法
3.実施例
【0016】
<1.本発明の概要>
本件発明者らは、窒素雰囲気下におけるGaNの示差熱重量測定結果を報告している(清水圭一、平成14年東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻修士論文)。
【0017】
図1は、GaN及びGaN+Gaの窒素雰囲気中の重量変化の温度依存性を示すグラフである。示差熱重量測定は、N(太陽東洋酸素社製、純度99.99995vol%)雰囲気下において行った。試料には、GaN粉末(昭和化学社製、純度99mass%)及びGaN+Ga(ニラコ社製、純度99.9999mass%)を用い、温度1075Kから5K/minの昇温速度で測定を行った。
【0018】
図1に示す測定結果より分かるように、1300K前後の温度においてGaNの急激な重量減少が起こる。この重量減少は、GaN試料が金属Gaと窒素ガスに分解したことを示し、また、急激な分解反応は、GaN試料のみの場合(a)よりもGa+GaN試料の場合(b)の方が50K程度低い温度で起こる。
【0019】
また、図2は、GaとAlとの二元合金状態図である(H.Okamoto, Desk Handbook: Phase Diagrams for Binary Alloys, Asm International(2000) p31を参照。)。図2から分かるように、GaとAlとの混合物のフラックスを使用することで、フラックスの液相線温度は、Alの融点(660℃)以下になる。
【0020】
本件発明者らは、このような知見に基づき、液相成長法におけるフラックスとしてGa−Al合金融液を用いることで、低温でのAlNの結晶成長が可能であり、基板表面の結晶性を引き継いだ良好なAlN結晶が得られることを見出した。
【0021】
すなわち、本実施の形態の具体例として示す窒化アルミニウム結晶の製造方法は、Ga−Al合金融液にN原子を含有するガスを導入し、Ga−Al合金融液中の種結晶基板上に窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させる。これにより、低温でのAlNの結晶成長が可能となり、特別な耐熱設備を備えた高価な炉が不要となるため、製造コストを低減させることが可能となる。また、基板表面の良好な結晶性を引き継ぎかつ窒素極性の基板の上にAl極性を有する良好なAlN結晶を成長させることができる。
【0022】
<2.窒化アルミニウム結晶の製造方法>
次に、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の製造方法について説明する。
【0023】
図3は、AlN結晶製造装置の構成例を示す図である。このAlN結晶製造装置は、ガス導入管1と、坩堝2と、坩堝2内のシード基板3及びGa−Al合金融液4を加熱するヒータ5と、ガス排出管6と、熱電対7とを備える。
【0024】
ガス導入管1は、上下に可動し、坩堝2内のGa−Al合金融液4中に先端が挿入可能となっている。すなわち、Ga−Al合金融液4を窒素含有ガスでバブリング可能となっている。坩堝2は、耐高温性のものが用いられ、例えばアルミナ、ジルコニアなどのセラミックを用いることができる。
【0025】
シード基板3は、AlN結晶と格子不整合率が小さい格子整合基板であり、例えば、AlN薄膜を表面に形成した窒化サファイア基板、SiC基板、GaN基板などが用いられる。この中でも、窒化サファイア基板を用いることにより、表面の良好な結晶性を引き継いだAlNをホモエピタキシャル成長させることができる。窒化サファイア基板は、例えば、特開2005−104829号公報、特開2006−213586号公報、特開2007−39292号公報などに開示されている方法により得ることができる。具体的には、例えばc面サファイア基板を窒素分圧0.9atm/CO分圧0.1atmで1時間保持した後、窒素分圧1.0atmで5時間保持することにより、AlN薄膜の結晶性が優れた窒化サファイア基板を得ることができる。この窒化サファイア基板は、表面のAlN膜がc軸配向単結晶膜でありかつ窒素で終端された窒素極性を有する。
【0026】
また、シード基板3に窒化サファイア基板を用いる場合は、予め900℃以上1500℃以下の温度で、窒化サファイア基板のアニール処理を行うことが望ましい。アニール処理を行うことで、AlN薄膜に回転ドメインが存在した場合であっても、ドメインの再配列が促され、c軸配向したシングルドメインとなる。
【0027】
Ga−Al合金融液4は、GaとAlとのモル比率が99:1〜1:99の範囲のものを用いることができる。この中でも、低温成長及び結晶性の観点から、GaとAlとのモル比率が98:2〜40:60の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは98:2〜50:50の範囲のものである。
【0028】
窒素含有ガスとしては、N、NHなどを用いることができるが、安全性の観点からNを用いることが好ましい。また、窒素含有ガスの窒素分圧は、通常0.01MPa以上1MPa以下である。
【0029】
続いて、AlN結晶の製造方法について説明する。先ず、Ga及びAlが化合物を形成しない雰囲気(例えば、アルゴンガス)中で昇温を開始し、Alの融点に達した後、Ga−Al合金融液4中に窒素含有ガスを注入する。そして、坩堝2内のGa−Al合金融液4の温度を1000℃以上1500℃以下に保ち、シード基板3をGa−Al合金融液4中に浸漬し、シード基板3上にAlN結晶を生成させる。
【0030】
シード基板3に窒化サファイア基板を用いる場合には、窒化サファイア基板をGa−Al合金融液4中に浸漬する直前に、融液4直上で保持することで、窒化サファイア基板のアニール処理をAlN結晶製造装置内で実施することができる。アニール処理時の基板温度は、基板が融液4直上で保持されているため、融液4と同等である。
【0031】
ここで、Ga−Al合金融液4の温度を1000℃以上とすることにより、注入された窒素と融液中のガリウム及びアルミニウムのそれぞれとが化合して生成されたGaN及びAlNの微結晶のうち、GaN微結晶は解離し、ガリウムと窒素に分解される。このため、AlN結晶成長が阻害されることはない。なお、AlN結晶の融点は2000℃以上であり、1500℃以下では安定である。
【0032】
また、AlN結晶は、1気圧の常圧条件でも成長させることができ、窒素の溶解度が小さい場合には加圧してもよい。
【0033】
所定時間が経過した後、シード基板3をGa−Al合金融液4から取り出して、徐冷を行う。又は、アルミニウム単体の融点660℃まで、シード基板3をGa−Al合金融液4中に浸漬したまま徐冷を行い、徐冷中もAlN結晶を生成させてもよい。
【0034】
以上説明したように、低融点かつ高沸点であるガリウムとアルミニウムを液相成長法のフラックスに用い、フラックス中に窒素ガスを注入することにより、窒化アルミニウムの融点より遙かに低い温度で、AlN結晶を液相成長させることができる。
【0035】
また、このAlN結晶製造方法によれば、これらのガス精製、排ガス処理等にかかる設備が不要となり、また、加圧反応容器が不要となり、装置構成がシンプルとなるため、コスト削減を図ることができる。また、ガリウムは、リサイクルが容易な元素として知られ、フラックスをリサイクルすることで、省エネルギー及び環境保全にも貢献する。
【0036】
また、このAlN結晶製造方法は、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法で使用されている高価な有機金属ガスや、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法で使用されている塩素ガス又は塩化水素ガスを原料とする必要がないので安全である。
【実施例】
【0037】
<3.実施例>
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
先ず、c面サファイア基板を窒素分圧0.9atm/CO分圧0.1atmで1時間保持した後、窒素分圧1.0atmで5時間保持し、窒化サファイア基板を得た。c軸配向したAlN結晶について、チルト成分(結晶試料面に垂直な方向の結晶面の揺らぎ)の結晶性はAlN結晶(002)面のX線回折ロッキングカーブの半値幅で表し、ツィスト成分(結晶試料面内における回転方向の揺らぎ)の結晶性はAlN結晶(102)面のロッキングカーブの半値幅で表す。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は、83arcsecであり、AlN結晶(102)面ツィストは、407arcsecであった。
【0039】
次に、ガリウムとアルミニウムのモル比率が70:30のGa−Al合金融液からなるフラックスをアルゴンガス中で昇温させた。アルミニウムの融点に達した後、フラックス中に0.1MPaの窒素ガスを20cc/minの流速で吹き込んだ。そして、坩堝内のフラックスの温度を1300℃に保ち、常圧で上記窒化アルミニウム基板をフラックス中に浸漬させた。29時間経過した後、窒化アルミニウム基板をフラックス中に浸漬したまま室温まで徐冷を行い、窒化アルミニウム結晶を生成させた。
【0040】
図4は、X線回折の測定結果を示すグラフである。AlN(002)面とサファイア(006)面のc面ピークが観察されたが、GaN及び金属Gaに起因するピークは観察されなかった。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は288arcsec、(102)面ツィストの半値幅は670arcsecであった。
【0041】
また、図5は、エピタキシャル成長後のシード基板断面を示すSEM観察写真である。AlN結晶の膜厚は2μmであり、窒化サファイア基板上の窒化膜の品質を受け継いだ配向性の高い良好なAlN結晶を1μm以上エピタキシャル成長させることができた。
【0042】
図6は、窒化サファイア基板とエピタキシャル成長させたAlN結晶との断面を透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)で観察した写真である。窒化サファイア基板上には、基板を窒化したことによって形成されたAlN膜、更にその上にエピタキシャル成長したAlN膜が観察された。
【0043】
これらのAlN膜について、CBED(Convergent-beam electron diffraction)法により極性を判定したところ、サファイア基板を窒化したことによって形成されたAlN膜は窒素極性を有するが、その上にエピタキシャル成長したAlN膜はAl極性であることが確認された。すなわち、窒化サファイア基板のAlN膜とエピタキシャル成長したAlN膜との界面において極性が反転することが分かった。
【0044】
[実施例2]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が36arcsec、(102)面ツィストの半値幅が461arcsecである窒化サファイア基板を用い、この窒化アルミニウム基板をフラックス中に常圧で5時間浸漬させた以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は79arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は576arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は0.7μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0045】
[実施例3]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が36arcsec、(102)面ツィストの半値幅が461arcsecである窒化サファイア基板を用い、この窒化アルミニウム基板をガリウムとアルミニウムのモル比率が60:40のフラックス中に常圧で5時間浸漬させた以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は50arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は544arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は1.0μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0046】
[実施例4]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が54arcsec、(102)面ツィストの半値幅が439arcsecである窒化サファイア基板を用い、この窒化アルミニウム基板をガリウムとアルミニウムのモル比率が50:50のフラックス中に常圧で5時間浸漬させた以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は68arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は698arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は0.3μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0047】
[実施例5]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が43arcsec、(102)面ツィストの半値幅が443arcsecである窒化サファイア基板を用い、この窒化アルミニウム基板をガリウムとアルミニウムのモル比率が40:60のフラックス中に常圧で5時間浸漬させた以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は374arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は896arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は1.2μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0048】
[実施例6]
ガリウムとアルミニウムのモル比率が98:2のフラックスをアルゴンガス中で昇温させた。アルミニウムの融点に達した後、炉内に0.1MPaの窒素ガスを20cc/minの流速で吹き込んだ。そして、坩堝内のフラックスの温度を1200℃に保ち、常圧でAlN結晶(002)面チルトの半値幅が57arcsecc、(102)面ツィストの半値幅が392arcsecである窒化アルミニウム基板をフラックス中に浸漬させた。6時間経過した後、窒化アルミニウム基板をフラックス中から取り出して徐冷を行い、窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は238arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は417arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は1.2μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に実施例1〜6の実験条件及びAlN結晶膜の評価の一覧を示す。これらの結果より、フラックスとしてGaとAlとのモル比が98:2〜40:60のGa−Al合金融液を用いることにより、低温でのAlNの結晶成長が可能であり、基板表面の結晶性を引き継ぎかつ窒素極性の基板の上にAl極性を有する良好なAlN結晶が得られることが分かった。特に、GaとAlとのモル比が98:2〜50:50の範囲のフラックスによれば、AlN結晶(002)面チルトの半値幅が300arcsec以下の優れたAlN結晶を得ることができた。また、フラックスに窒素ガスを注入(バブリング)することにより、常圧でも優れたAlN結晶が得られることが分かった。
【0051】
[実施例7]
次に、エピタキシャル成長したAlN膜の評価として、転位解析及び極性判定を行った。転位の観察及び極性判定の試料には、フラックスとしてGaとAlとのモル比が60:40のGa−Al合金融液を用い、1300℃で5h、窒化サファイア基板上に成長させたAlN膜を用いた。このAlN膜の結晶性をX線ロッキングカーブ測定により評価した結果、X線ロッキングカーブの半値幅は、0002回折で50arcsec、10−12回折で590arcsecであった。
【0052】
AlNのらせん及び刃状転位のバーガーズベクトルは、それぞれbs=[0001]、be=1/3[11−20]と表される。回折面の逆格子ベクトルをgとすると、g・b=0、及びg・b=0のとき、それぞれらせん及び刃状転位のコントラストが現れない像が得られる。本実施例では、g=[0002]回折線を励起するように電子線の入射角を試料の[11−20]方向から僅かに傾け、2波条件下で明視野像を取得した。同様にg=[10−10]及びg=[10−12]回折線の2波条件下明視野像も取得し、これらの像を比較することで転位種を決定した。
【0053】
また、CBED法によるAlN膜の極性判定では、電子線は試料の[11−20]方向から入射した。極性は、シミュレーションにより得られたパターンと比較することで判定した。
【0054】
図7(a)にg=[0002]、図7(b)にg=[10−10]及び図7(c)にg=[10−12]の回折線を用いた2波条件下明視野像を示す。図7(b)及び図7(c)に見えている貫通転位線が図7(a)の像では完全に消失している。この比較から、図7の視野内に見えている転位はすべて刃状転位であり、らせん転位は刃状転位に比べ極端に少ないことが分かった。これはXRCの半値幅から推測される結果と一致した。
【0055】
また、図8に実験で得られたCBED図形とシミュレーションパターンとを併せて示す。図8(a)はサファイア窒化法により得られたAlN層、図8(b)はLPE(液相エピタキシ)によって成長したAlN層の像である。この結果、サファイア窒化層は、窒素極性であるのに対し、LPE層では、極性が反転しAl極性となっていることが分かった。
【0056】
[実施例8]
窒化アルミニウム基板をガリウムとアルミニウムのモル比率が60:40のフラックスに浸漬する前に、Ga−Al合金融液の直上3cmの位置に2時間保持した以外は、実施例3と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。Ga−Al合金融液の直上に保持した窒化アルミニウム基板の温度は、1300℃であった。
【0057】
窒化アルミニウム基板上に成長したAlN結晶の(002)面チルトの半値幅は208arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は668arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は1.0μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であり、実施例3に見られたようなc軸を軸とする約1度ずれた回転ドメインは存在しなかった。アニール効果により、窒化アルミニウム基板のAlN薄膜がシングルドメイン化したものと思われる。
【符号の説明】
【0058】
1 ガス導入管、 2 坩堝、 3 シード基板、 4 Ga−Al溶融液、 5 ヒータ、 6 ガス排出管、 7 熱電対
図1
図2
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図6
図7
図8