【実施例】
【0037】
<3.実施例>
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
先ず、c面サファイア基板を窒素分圧0.9atm/CO分圧0.1atmで1時間保持した後、窒素分圧1.0atmで5時間保持し、窒化サファイア基板を得た。c軸配向したAlN結晶について、チルト成分(結晶試料面に垂直な方向の結晶面の揺らぎ)の結晶性はAlN結晶(002)面のX線回折ロッキングカーブの半値幅で表し、ツィスト成分(結晶試料面内における回転方向の揺らぎ)の結晶性はAlN結晶(102)面のロッキングカーブの半値幅で表す。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は、83arcsecであり、AlN結晶(102)面ツィストは、407arcsecであった。
【0039】
次に、ガリウムとアルミニウムのモル比率が70:30のGa−Al合金融液からなるフラックスをアルゴンガス中で昇温させた。アルミニウムの融点に達した後、フラックス中に0.1MPaの窒素ガスを20cc/minの流速で吹き込んだ。そして、坩堝内のフラックスの温度を1300℃に保ち、常圧で上記窒化アルミニウム基板をフラックス中に浸漬させた。29時間経過した後、窒化アルミニウム基板をフラックス中に浸漬したまま室温まで徐冷を行い、窒化アルミニウム結晶を生成させた。
【0040】
図4は、X線回折の測定結果を示すグラフである。AlN(002)面とサファイア(006)面のc面ピークが観察されたが、GaN及び金属Gaに起因するピークは観察されなかった。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は288arcsec、(102)面ツィストの半値幅は670arcsecであった。
【0041】
また、
図5は、エピタキシャル成長後のシード基板断面を示すSEM観察写真である。AlN結晶の膜厚は2μmであり、窒化サファイア基板上の窒化膜の品質を受け継いだ配向性の高い良好なAlN結晶を1μm以上エピタキシャル成長させることができた。
【0042】
図6は、窒化サファイア基板とエピタキシャル成長させたAlN結晶との断面を透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)で観察した写真である。窒化サファイア基板上には、基板を窒化したことによって形成されたAlN膜、更にその上にエピタキシャル成長したAlN膜が観察された。
【0043】
これらのAlN膜について、CBED(Convergent-beam electron diffraction)法により極性を判定したところ、サファイア基板を窒化したことによって形成されたAlN膜は窒素極性を有するが、その上にエピタキシャル成長したAlN膜はAl極性であることが確認された。すなわち、窒化サファイア基板のAlN膜とエピタキシャル成長したAlN膜との界面において極性が反転することが分かった。
【0044】
[実施例2]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が36arcsec、(102)面ツィストの半値幅が461arcsecである窒化サファイア基板を用い、この窒化アルミニウム基板をフラックス中に常圧で5時間浸漬させた以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は79arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は576arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は0.7μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0045】
[実施例3]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が36arcsec、(102)面ツィストの半値幅が461arcsecである窒化サファイア基板を用い、この窒化アルミニウム基板をガリウムとアルミニウムのモル比率が60:40のフラックス中に常圧で5時間浸漬させた以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は50arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は544arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は1.0μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0046】
[実施例4]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が54arcsec、(102)面ツィストの半値幅が439arcsecである窒化サファイア基板を用い、この窒化アルミニウム基板をガリウムとアルミニウムのモル比率が50:50のフラックス中に常圧で5時間浸漬させた以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は68arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は698arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は0.3μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0047】
[実施例5]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が43arcsec、(102)面ツィストの半値幅が443arcsecである窒化サファイア基板を用い、この窒化アルミニウム基板をガリウムとアルミニウムのモル比率が40:60のフラックス中に常圧で5時間浸漬させた以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は374arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は896arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は1.2μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0048】
[実施例6]
ガリウムとアルミニウムのモル比率が98:2のフラックスをアルゴンガス中で昇温させた。アルミニウムの融点に達した後、炉内に0.1MPaの窒素ガスを20cc/minの流速で吹き込んだ。そして、坩堝内のフラックスの温度を1200℃に保ち、常圧でAlN結晶(002)面チルトの半値幅が57arcsecc、(102)面ツィストの半値幅が392arcsecである窒化アルミニウム基板をフラックス中に浸漬させた。6時間経過した後、窒化アルミニウム基板をフラックス中から取り出して徐冷を行い、窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は238arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は417arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は1.2μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に実施例1〜6の実験条件及びAlN結晶膜の評価の一覧を示す。これらの結果より、フラックスとしてGaとAlとのモル比が98:2〜40:60のGa−Al合金融液を用いることにより、低温でのAlNの結晶成長が可能であり、基板表面の結晶性を引き継ぎかつ窒素極性の基板の上にAl極性を有する良好なAlN結晶が得られることが分かった。特に、GaとAlとのモル比が98:2〜50:50の範囲のフラックスによれば、AlN結晶(002)面チルトの半値幅が300arcsec以下の優れたAlN結晶を得ることができた。また、フラックスに窒素ガスを注入(バブリング)することにより、常圧でも優れたAlN結晶が得られることが分かった。
【0051】
[実施例7]
次に、エピタキシャル成長したAlN膜の評価として、転位解析及び極性判定を行った。転位の観察及び極性判定の試料には、フラックスとしてGaとAlとのモル比が60:40のGa−Al合金融液を用い、1300℃で5h、窒化サファイア基板上に成長させたAlN膜を用いた。このAlN膜の結晶性をX線ロッキングカーブ測定により評価した結果、X線ロッキングカーブの半値幅は、0002回折で50arcsec、10−12回折で590arcsecであった。
【0052】
AlNのらせん及び刃状転位のバーガーズベクトルは、それぞれbs=[0001]、be=1/3[11−20]と表される。回折面の逆格子ベクトルをgとすると、g・b
s=0、及びg・b
e=0のとき、それぞれらせん及び刃状転位のコントラストが現れない像が得られる。本実施例では、g=[0002]回折線を励起するように電子線の入射角を試料の[11−20]方向から僅かに傾け、2波条件下で明視野像を取得した。同様にg=[10−10]及びg=[10−12]回折線の2波条件下明視野像も取得し、これらの像を比較することで転位種を決定した。
【0053】
また、CBED法によるAlN膜の極性判定では、電子線は試料の[11−20]方向から入射した。極性は、シミュレーションにより得られたパターンと比較することで判定した。
【0054】
図7(a)にg=[0002]、
図7(b)にg=[10−10]及び
図7(c)にg=[10−12]の回折線を用いた2波条件下明視野像を示す。
図7(b)及び
図7(c)に見えている貫通転位線が
図7(a)の像では完全に消失している。この比較から、
図7の視野内に見えている転位はすべて刃状転位であり、らせん転位は刃状転位に比べ極端に少ないことが分かった。これはXRCの半値幅から推測される結果と一致した。
【0055】
また、
図8に実験で得られたCBED図形とシミュレーションパターンとを併せて示す。
図8(a)はサファイア窒化法により得られたAlN層、
図8(b)はLPE(液相エピタキシ)によって成長したAlN層の像である。この結果、サファイア窒化層は、窒素極性であるのに対し、LPE層では、極性が反転しAl極性となっていることが分かった。
【0056】
[実施例8]
窒化アルミニウム基板をガリウムとアルミニウムのモル比率が60:40のフラックスに浸漬する前に、Ga−Al合金融液の直上3cmの位置に2時間保持した以外は、実施例3と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。Ga−Al合金融液の直上に保持した窒化アルミニウム基板の温度は、1300℃であった。
【0057】
窒化アルミニウム基板上に成長したAlN結晶の(002)面チルトの半値幅は208arcsecであり、(102)面ツィストの半値幅は668arcsecであった。また、AlN結晶の膜厚は1.0μmであった。また、エピタキシャル成長したAlN膜の極性を判定した結果Al極性であり、実施例3に見られたようなc軸を軸とする約1度ずれた回転ドメインは存在しなかった。アニール効果により、窒化アルミニウム基板のAlN薄膜がシングルドメイン化したものと思われる。