(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
テレビ放送業務の一環に中継業務があり、このとき中継現場の映像をテレビ局まで無線伝送するためのFPU(Field Pickup Unit)の変調方式の一種として、シングルキャリアQAM方式が近年、広く採用されるようになり、ARIB STD−B11「テレビジョン放送番組素材伝送用可搬型マイクロ波帯デジタル無線伝送システム」として規格化されている。
【0003】
ところで、この伝送方式は、主として固定無線中継に使用されているが、この場合、伝送回線を確立するため、中継現場(送信点)および受信点では、電波を送出する方向および電波の到来する方向にアンテナを正確に向けるというアンテナ方向調整が必要になる(例えば特許文献1等を参照)。
そこで、以下
図3により、FPUのアンテナ方向の調整のために従来から用いられている方法について説明する。
【0004】
図3において、まず、送信ベースバンド部31と送信高周波部32及び送信アンテナ33は中継現場に設置され、次に、受信アンテナ1と受信高周波部2、受信ベースバンド部37及び受信信号レベル表示器38は、テレビ放送局などの中継受信側に設置されている。
そして、中継現場では、送信ベースバンド部31と送信高周波部32において生成された伝送信号が送信アンテナ33により電波として送出される。
【0005】
この結果、送信アンテナ33から放射された電波が伝送路34を経由してテレビ放送局などの中継受信側にある受信アンテナ1に到達することになる。
ところが、このとき伝送路34では、建物等による伝播経路の遮断や大気、降雨により電波レベルの減衰が生じる。
【0006】
そこで、受信アンテナ1により受信された信号は、受信高周波部2に入力され、ここでアナログ検波器により受信信号レベルを検出して自動利得制御が施され、最適レベルになるように増幅された上で最終的に受信ベースバンド部37に供給され、ここで復調された上で中継放送用の信号として用いられる。
【0007】
このとき、アンテナの方向調整のため、受信高周波部2から得られた受信信号を受信信号レベル表示器38に供給する。
そして、この受信信号レベル表示器38により受信信号のレベルをメータ指針の振れや、スピーカから発せられる音の大きさや音色などに変換し、受信信号のレベルがオペレータに認識できるようにしておく。
【0008】
そこで、中継現場のオペレータと中継受信側のオペレータは、相互に連絡をとり、受信信号レベル表示器38に表示される受信信号のレベルを見ながら、送信アンテナ33と受信アンテナ1の方向を上下左右に微妙に動かし、受信信号レベルが最大になる方向を探索することにより送信アンテナ33と受信アンテナ1の方向を調整するのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術は、アンテナの方向調整に或る程度以上のレベルの受信信号を要する点に配慮がされておらず、初期段階では方向調整が極めて困難であるという問題がある。
ここで、従来のFPUにおけるアンテナ方向調整では、受信信号レベルを受信高周波部のアナログ検波器により検出していた。
【0011】
しかし、この場合、受信信号レベルが低くなると、受信高周波部の初段増幅器の雑音に受信信号が埋もれてしまい、精度の良い検出が困難であり、このため、従来技術では、精度の良い検出を行うためには、検波器の精度にも依存するが、例えば7dB以上のC/Nが必要であった。
【0012】
例えば、受信信号レベルが−90dBm程度でC/Nが約7dBとなる場合には、受信信号が−90dBmを下回るようなレベルを検出することは、従来技術では困難で、この結果、例え送信信号が中継受信側のアンテナに到達していたとしても、それが僅かなレベルの受信信号であった場合、中継受信側では受信信号を捕らえることができず、結局、従来技術ではアンテナ方向調整ができなかった。
【0013】
しかも、FPU方式の場合、高いアンテナ利得を得るため、狭い指向角のアンテナを使用することが多い。このため、まだ送受間のアンテナの方向調整がなされていない、アンテナ方向調整の初期段階では、当然のことながら受信信号レベルは非常に低く、−90dBmを下回ることも珍しくない。
【0014】
本発明の目的は、受信信号のレベルがかなり低くても受信信号の存在が検出できるようにしたシングルキャリア受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、シングルキャリア信号を伝送する伝送装置の送信装置において、伝送信号のフレーム構成が振幅及び位相が既知であるプリアンブル信号とデータを伝送するデータ信号から構成された信号を伝送する。
上記伝送信号を受信する伝送装置の受信装置においては、前記シングルキャリア信号から変換された受信サンプルの系列における所定時間間隔のN
P (N
P は2以上の整数)個のサンプルを保持及び出力する記憶手段と、前記記憶手段による前記N
P 個のサンプル列と、前記既知プリアンブル信号における該所定時間間隔のN
P 個の信号列とを、並びに従って複素共役乗算する複素乗算手段と、前記複素乗算手段によるN
P 個の複素共役乗算結果のそれぞれに対して、対応する重み係数を乗算する乗算手段と乗算手段と、前記乗算手段によるN
P 個の演算結果を加算する積分手段とを設け、前記記憶手段が出力する前記N
P 個のサンプル列を、該所定時間間隔に相当する1サンプルずつずらしながら、前記複素乗算手段、前記乗算手段及び前記積分手段を動作させ、前記積分手段による積分結果に基づいて受信信号レベルを推定する受信装置を提供する。
【0016】
この受信装置においてS/Nを改善するために、前記記憶手段は、前記所定時間間隔で、前記保持及び出力するN
P 個のサンプルを1サンプル分シフトするシフトレジスタであり、前記重み係数は、少なくとも一部が低域通過フィルタのインパルス応答の中央部に相当するN
P 個の係数からなり、重み係数を乗算した乗算結果をK(Kは2以上の整数)組に分割し、前記積分手段は、各組のそれぞれにおいて局所的に加算してするものであり、更に各組の積分結果を絶対値二乗演算する電力化手段と、各組の絶対値二乗結果を加算する加算手段と、を備え、前記加算手段による結果に基づいて受信信号レベルを推定するような構成とする。
【0017】
この受信装置において更にS/Nを改善するために、前記重み係数は、前記低域通過フィルタのインパルス応答の中央部を前記K個或いはK−1個分、連結した略N
P 個からなる係数列であって、遅延時間が互いに異なるB(Bは2以上の整数)組の前記係数列を有し、前記乗算手段は、前記N
P 個の複素共役乗算結果と、前記対応する重み係数との乗算を、前記B組毎に行い、前記電力化手段は、前記B組毎に前記積分結果を絶対値二乗演算し、前記加算手段は前記B組から得られる絶対値二乗結果を加算し、前記加算手段による加算結果に基づいて受信信号レベルを推定するような構成とする。
【0018】
更に、上記推定した受信信号レベルに基づき受信アンテナの方向調整用信号を生成し、該生成した方向調整用信号を用いて受信アンテナの方向調整を行うことを特徴とする受信装置のアンテナ方向調整方法及びその装置を提供するものである。
【0019】
なお後述する発明を実施するための形態に対して、線型時不変(LTI)系の前提において数学的な等価を保って変形させたものも、本発明に含まれうる。例えば、N
P 個の係数に0の値を有するものが含まれるために、或いはN
P 個の係数に同じ値が含まれ乗算と加算の順番を交換可能であるために、複素共役乗算結果がN
P 個より少なくてよい場合であっても、N
P 個などと一般化して表現している。また、重み係数は有限インパルス応答に相当するものであり、ポリフェーズ分解により乗算回数を削減可能である。このような表現は、上記の等価な変形を発明に含むことを妨げない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アンテナの方向調整の初期段階において、受信信号のCN比が−10dB程度であっても、つまり受信信号レベルが−107dBm程度であっても、信号の存在が検出できるようになる。
従って、本発明によれば、アンテナの方向を変えながら受信信号レベルが最大になる方向を探すことができ、この結果、容易にアンテナ方向を調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明によるシングルキャリア受信装置について、
図1に示す実施の形態により詳細に説明する。
まず、具体的な実施形態について説明する前に、シングルキャリア方式における送信信号の信号フォーマットについて説明すると、
図2に示すように、送信信号は、受信部での等化処理を容易にするためのN
P 個のサンプルからなるプリアンブル信号P(t)の期間と、N
D 個のサンプルからなるデータ信号D(t)を伝送するための期間とでフレームが構成されている。ここで、tはサンプル番号であり、N
P 、N
D はそれぞれ2以上の整数である。
【0023】
そして、プリアンブル信号P(t)は、プリアンブル期間の間、振幅、位相が既知の信号列で生成される。
このときの既知の信号列の生成方法としては、既知の擬似ランダム信号(PN)などを用い、BPSKやQPSKなどの変調方式を用いた信号(シンボル)とすることが多い。
【0024】
次に、データ期間の信号D(t)はBPSK方式から64QAM方式など、伝送レートに応じた変調方式を用いてデータを伝送する。1フレームの長さは例えば19200シンボルであり、N
P やN
D はオーバーサンプル比に拠って、該当するシンボルと同数或いは2倍、4倍等になる。
そして、このようにフレーミングされた信号を繰り返し伝送する。
【0025】
<実施例1>
図1は、本発明の実施例1に係るシングルキャリア受信装置のブロック図である。
既に説明したように、中継現場の送信アンテナから電波として送出された信号は受信アンテナ1で受信され、受信高周波部2により周波数変換されてベースバンド信号(或いは中間周波数信号)に変換される。
【0026】
このベースバンド信号はA/D3に入力され、シンボルレートに対して所定のオーバーサンプル比の時間間隔で標本化及び量子化し、受信サンプリング系列Rin(t)を得る。
そして、得られた受信サンプリング系列Rin(t)は直交検波器4に入力され、ここで実数信号からIQ(In-phase/Quadrature)複素信号への変換処理が施され、受信複素サンプリング系列Z(t)として出力される。ここで、上記に示したように、tはサンプル番号である。
【0027】
この直交検波処理はデジタル信号処理で行ってもよいが、アナログの直交ミキサを用いて行い、IQの夫々にA/D変換器を用いてサンプリングすることにより実現してもよい。
得られた受信複素サンプリング系列Z(t)は複素乗算部5に入力される。
【0028】
この複素乗算部5は、
図4に示すように、プリアンブル期間のサンプル数N
P と同程度の長さを有するシフトレジスタなどの記憶素子41と、N
P 個の複素乗算器42とを備える。記憶素子41は、受信複素サンプリング系列Z(t)を入力し、サンプル番号tが1増す都度、各段から出力される値Z(t,m)が右に1つずれるようになっている。なお、mは0からNP−1までの整数である。
N
P 個の複素乗算器42は、次の式(1)に示すように、シフトレジスタ41の各段の値Z(t,m)と、送信側で予め規定されたプリアンブル信号P(m)の複素共役信号P
* (m)とを、それらの並びに従って複素乗算し、サンプル番号tが1増す都度、N
P 個の複素乗算信号M(t,m)を得る。
【0030】
ここで、プリアンブル信号がBPSK変調されている場合には、複素乗算処理はZ(t,m)の符号を反転/非反転する処理により簡易に実現できる。
このとき受信装置において、送信側のクロック周波数とキャリア周波数が正確に再生できている場合であって、シフトレジスタ41に入力されるタイミングが受信サンプル系列Z(t)のプリアンブル期間と一致している場合、複素乗算信号M(t,m)は全て同位相の信号となる。
【0031】
しかし、本発明においては、低C/Nでの受信信号電力推定を目的としているため、C/Nが低い領域での正しいキャリア再生処理は困難で、キャリア周波数がずれる可能性が高い。そして、このような場合、複素乗算信号M(t)はNPサンプル期間内で一定の位相ずれが生じ、
図5に示すように回転する。
このときの回転量は、キャリア周波数ずれ量をΔfとすると、プリアンブル期間の複素受信サンプリング系列Z(t)は、次の式(2)で表される。
【0033】
ここで、fCLK は受信クロック周波数、θは固定位相、N(t)は雑音信号を示している。
従って、回転が生じた場合の式(1)で示した複素乗算信号M(t,m)は、次の式(3)で表される。
【0035】
ただし、このとき、次の式(4)の通りにした。
【0037】
ところで、一般的な相関処理では、M(t,m)を積分範囲N
P で積分処理するが、このような回転が生じた信号の場合、そのまま積分処理すると、逆位相の信号同士で相殺してしまい、その結果は0に近い値となり、相関結果から受信信号レベルを推定することは困難となってしまう。
【0038】
このため、この実施形態では、複素乗算信号M(t,m)を重み係数乗算部6に入力し、回転が生じている場合であっても高精度に受信信号レベルを推定可能とする。
ここで、この重み係数乗算部6では、
図6、式(5)及び式(6)に示すように、N
P 個の複素乗算器61が複素乗算信号M(t,m)と重み係数W(m)との乗算を、mが0からN
P −1の範囲で行い、積分器7にてそれらの加算を行う。
【0040】
この重み係数W(m)の例を
図7に示す。本例の重み係数W(m)は実数であり、理想型低域フィルタのインパルス応答を、その最大振幅位置を中心にプリアンブル期間と同じ有限長さ分(つまりN
P サンプル分)、切り出したものとして図示してあるが、低域通過フィルタとして機能するものであればよい。このフィルタ動作について
図8を用いて詳細に説明する。
【0041】
図8は縦軸をシフトレジスタ位置mとした時の、各サンプル時間tにおける複素乗算信号M(t,m)の値(実部)を並べて図示している。
図8の例では、サンプル時刻t=t'+0の時にシフトレジスタ41に入力されるタイミングが受信サンプル系列Z(t)のプリアンブル期間と一致しており、
図5に示したように複素乗算信号M(t'+0,m)は位相回転がほぼ一定の信号となっている。t=t'+0以外のサンプル時刻ではシフトレジスタ41の内容とプリアンブル信号P(m)が無相関であるため、位相はランダムとなっている。
【0042】
これらに関して、各サンプリング時刻tにおける複素乗算信号M(t,m)の周波数特性を考えてみると、
図9に示すように、サンプリング時刻t=t'+0の時の複素乗算信号M(t,m)の周波数特性は、回転数に一致する直流付近の周波数位置にピークを有し(
図9の実線)、t=t'+0以外の時刻の信号は低い周波数から高い周波数までほぼフラットな周波数特性を有している(
図9の点線)。また、このような低域通過フィルタの周波数特性の信号に対して、重み係数乗算部6と積分器7により形成される周波数特性(
図9の鎖線)により低周波数エネルギーが大きい時刻の信号、即ちプリアンブル信号が到着した時刻(t=t'+0)の信号のみ、積分器7の出力レベルが大きくなる。また、それ以外の時刻tでは低域通過フィルタにより抑圧されてしまい、積分器7の出力レベルは小さくなる。
【0043】
低域通過フィルタの特性は、ベースバンド部や高周波部のシンセサイザの周波数偏差によって生じる最大のプリアンブル回転成分を通過域幅とし、その間の利得は一定であることが望ましい。通過域幅が狭いと周波数偏差が大きい場合には、回転したプリアンブル信号の周波数は高くなり、フィルタの通過域を逸脱してしまい、プリアンブル信号として検出されなくなる。また、通過域幅が広いと混入する雑音成分が多くなりS/Nが低下してしまうため、適切な周波数特性にする必要がある。
【0044】
以上説明したように、本発明は複素乗算器5の出力結果に対して、重み係数を更に乗じることで、フィルタを形成していることが一般的な相関器と大きく異なる点である。
また、この重み係数乗算部6は、一般的な相関器の入力側に低域通過フィルタをして挿入しても、プリアンブルパターンで周波数拡散された受信信号自体に低域通過フィルタを適用したことになり、プリアンブル信号の持つ広帯域の情報を失わせるだけで全く意味をなさない。また、相関器の出力側に挿入しても、前述したように回転信号の積分結果はすでに0に近い値となっており、これもまた意味をなさない。このように一般的な相関器とは異なる構成となっている。
【0045】
次に、積分器7の出力結果は絶対値器8にて絶対値二乗演算を行い、絶対値(電力)信号A(t)を出力する。
絶対値信号A(t)はフィルタ部9に入力し、フィルタ部9ではフィルタ係数F(n)と絶対値信号A(t)との畳み込み演算を行い、フィルタ結果C(t)を出力する。これは、クロック再生(シンボル同期)ができていない状態で、その影響を軽減するためであり、以下に説明する。
【0046】
アンテナ方向調整の初期段階ではC/Nが低く、正しいキャリア再生が困難であることは上述したが、同様に正しいクロック再生も困難である。クロック再生が正しく実現できている場合には、
図8で説明したように、あるサンプル時刻tのみにプリアンブル成分が表れ、それ以外の時刻はデータ成分となる。しかし、クロック再生が正しく行われず、サンプリングクロック位相がずれている場合には、
図10に示すように、プリアンブル成分はA(t)が最大となる時刻tと、その前後のサンプルにも表れ、サンプル時刻が離れるにつれてプリアンブル成分は少なくなる。
【0047】
このように、プリアンブルの信号エネルギーはある時刻tのみに集中するのではなく、プリアンブルの信号エネルギーは時間的な広がりを持ってしまう。そのため、最大値とその両隣の信号を加算することで、拡散したプリアンブルの信号エネルギーを集積してサンプリングクロック位相のずれを補償する。この両隣の信号を加算することはフィルタ部9において、フィルタ係数F(n)を3タップの矩形信号として絶対値信号A(t)との畳み込み演算を行えばよい。
【0048】
ところで、以上は、伝搬路(伝送路)のモデルとして、単純な加法性白色雑音モデル(AWGN)を想定した場合のものであるが、実際の伝搬路では複数の反射波が存在するマルチパス環境である場合が想定される。
このような環境下で、複数存在するマルチパスのエネルギーの総和を算出するためには、所定の時間幅Wを有する矩形信号をフィルタ係数F(n)としても良い。このときの窓幅Wとしては、予め想定されるマルチパスの最長遅延時間をLとすると、窓幅WはL以上であることが望ましい。
【0049】
しかし、窓幅Wを必要以上に長く設定すると、窓幅W内の雑音成分が多くなり、S/Nが劣化してしまうため、窓幅Wは適切な値に設計する必要がある。
また、受信機側でマルチパス遅延時間を逐次算出できる場合には、窓幅Wを受信環境に応じて適応的に制御しても良い。
【0050】
フィルタ部9の出力信号C(t)は最大値検出部10に入力され、最大値検出部10では、1フレーム期間内のC(t)の最大値を検索し、最大値信号MAXをフレーム周期で出力する。
そして、この最大値MAXは最大値平均部11にて平均化され、ここで擾乱成分が除去される。
このときの平均化の時定数については、アンテナの方向調整制御に素早く追従できる程度に短く、例えば数百msec以内に短く設計することが望ましい。
【0051】
従って、この実施形態によれば、低いC/Nでも受信信号レベルに応じた信号レベルが出力されることになり、この結果、アンテナの方向調整の初期段階での微弱な受信信号も容易に捉えることができる。なお、フレーム同期が確立していれば、フレーム同期タイミングの近傍のtでのみ、上述の動作を行えばよい。
【0052】
最大値平均部11の出力信号は受信電力変換部12に入力され、ここで入力値に対応した受信電力レベルに変換して出力する。そこで、次に、この変換の詳細について
図11を用いて説明する。
通常、受信装置では、受信条件で大きく変化する受信信号のレベルを自動利得制御(Automatic Gain Control:AGC)回路により一定のレベルになるような制御を行った後に、各種の信号処理を実施する方式が用いられている。
【0053】
そして、このことは、この実施形態でも例外ではない。
そうすると、この場合、A/D3に入力される信号Rin(t)の電力も一定に保たれていることになり、この結果、最大値平均部11の出力信号は、
図11の破線で示してある理想特性のようにはならず、実線で示すように、C/Nが高くなると、つまり受信信号レベルが大きくなると、最大値平均部11の出力信号レベルは或る一定値に漸近してしまう。
また、C/Nが低い領域では、信号成分より雑音成分が支配的となり、C/Nが低くなると、つまり受信信号レベルが小さくなっても、最大値平均部11の出力信号レベルは或る一定値に漸近してしまう。
【0054】
そこで、受信電力変換部12では、最大値平均部11の出力レベルに、
図11の実線で示したように、その逆特性である補正特性を乗じることで、受信レベルを破線で示す理想特性になるように変換し、変換した受信レベルを方向調整信号Aとして出力する。このとき
図11に示されているように、受信レベル信号の値をdB単位に変換しているが、アンテナの方向調整が容易になる任意の単位系の値に変換しても良い。
【0055】
以上に説明した処理により、低いC/Nでも受信信号レベルに応じた信号レベルが受信電力変換部12から出力でき、受信アンテナの方向調整の初期段階においても微弱な受信信号を捉えることができるようになる。
こうして受信電力変換部12から出力された方向調整信号Aは、受信信号レベル表示器13に入力される。
【0056】
そして、この受信信号レベル表示器13では、アンテナ方向の調整がオペレータにより実施しやすいように、方向調整信号Aのレベルをメータ指針の振れやモニタ面での波形、色など視覚的な情報に変換して表示し、オペレータに認知できるようにする。
このとき、音階、音量等の聴覚的な情報に変換しても良い。
【0057】
そこで、この実施形態によれば、方向調整信号Aのレベルがオペレータに容易に認識でき、しかもこのとき、上記したように、受信信号のC/Nが−10dB程度でも受信信号のレベルが正確に検出でき、この結果、この実施形態によれば、C/Nが−10dB程度の受信信号レベルで、受信検波レベルを用いる従来技術によっては受信信号の存在すら検出できない受信アンテナの方向調整の初期段階においても、容易に受信信号レベルが検出できる。
【0058】
従って、この実施形態によれば、オペレータは、算出した方向調整信号Aを用いることにより、受信信号レベルが最大になる方向を、受信アンテナの方向を変えながら容易に探しだすことができる。
【0059】
<実施例2>
次に、第二の実施例について
図12を用いて説明する。第二の実施例は
図1に示す第一の実施例において、積分器7を局所積分器7aに置き換え、絶対値器8を局所絶対値器8aに置き換えた構成であり、それ以外は第一の実施例と同様の構成である。以下の説明において、第一の実施例と同一の符号を付した処理については説明を割愛する。
【0060】
第一の実施例において、
図7に示すように低域通過フィルタを構成する重み係数W(m)は、中心m=N
P/2から離れるにつれて、その値が小さくなる。この端の係数は通過帯域端のリンギングの低下に寄与するが、本発明では通過帯域端のリンギング特性よりも、むしろ端の係数の値が小さいことによるS/N改善度の低下の方が問題となる。従って、第二の実施例では、
図13に示すように重み係数W(m)の端(
図13の破線部分)を取り除き、中央付近の有効な重み係数をK組(Kは2以上の整数)結合して、同じ長さの新たな重み係数W'(m)を定義し、W'(m)を重み係数乗算器6の重み係数とすることで、S/Nの改善を図る。以下にS/Nの改善手法について説明する。
【0061】
重み係数乗算部6からの出力は、局所積分器7aに入力される。局所積分器7aでは
図14に示すように重み係数W'(m)のブロックごとに加算を行い、加算結果を出力する。局所積分器7aの出力の位相はそれぞれ異なるため、それらを複素領域でコヒーレント加算すると、異なる位相による相殺が発生してしまうため、コヒーレント加算することはできない。そのため、局所積分器7aからの加算結果は局所絶対値器8aに入力され、局所絶対値器8aでは各加算結果に対して絶対値二乗演算を行った後にそれらをノンコヒーレント加算する。ノンコヒーレント加算はコヒーレント加算には劣るが、S/N改善効果が得られる。これらの処理により、
図15に示すように低C/N環境下であっても、第一の実施例と比較してノイズフロアを低減させることが可能となる。
【0062】
<実施例3>
次に、第三の実施例について説明する。第三の実施例は、第一の実施例あるいは第二の実施例において、更にS/Nの向上を図ったアンテナ方向調整方式を提供するものである。
【0063】
図16は、
図12に示す第二の実施例に対して、第三の実施例を適用した構成を示している。第一の実施例に対して第三の実施例を適用する場合には、局所積分器7aを積分器7に、局所絶対値器8aを絶対値器8に置き換えた構成となり、それ以外は同様の構成である。また、
図16において、第一の実施例あるいは第二の実施例と同一の符号を付した処理については説明を割愛する。
【0064】
第三の実施例は重み係数乗算部6、局所積分器7a及び局所絶対値器8aをB(Bは2以上の整数)組用意し、複素乗算部5の出力を各組の重み係数乗算部6に接続する。ここで、b段目(bは1からBの整数)の重み係数乗算部6の重み係数をW'b(m)とすると、
図17に示すように、各段の重み係数W'b(m)のピーク位置がそれ以外の重み係数ピーク位置と重ならないようにする。更には、各段の重み係数W'b(m)が互いに直交するような係数とすれば、尚良い有効な重み係数となる。
これらの各段の重み係数乗算部6の出力は、局所積分器7a、局所絶対値器8aを経由して、加算器14にてノンコヒーレント加算する。これらの処理により、
図18に示すように、第一の実施例あるいは第二の実施例よりも低C/N環境下でのS/Nを改善することが可能となる。
【0065】
これは、例えば
図17の重み係数W'0(m)に着目すると、W'0(m)の値が小さな値である位置mではプリアンブルの信号エネルギーを有効に活用してS/Nを向上させることができない。そのため、他の段の重み係数W'1(m),W'2(m)ではW'0(m)の値が小さくなる位置mにそれぞれ大きな値の係数を配置させて、プリアンブルの信号エネルギーを十分に活用することでS/Nの向上を可能としている。各段の重み係数乗算部6は、これら重み係数W'0(m)、W'1(m)、W'2(m)により、フィルタとして見たときの群遅延時間が互いに異なっていることになる。なお、重み係数W'0(m)には有効な重み係数列が丁度3組(K組)収まり、W'1(m)やW'2(m)は2組(K−1組)とし両側を0の係数で埋めているが、検出値が位置mに依存しないよう、加算器14で加算される前にスケールを適宜調整することが望ましい。
【0066】
本例においては、各段の重み係数乗算部6を、重み係数ピーク位置を異ならせて構成したが、通過帯域を異ならせた構成としてもよい。
以上の説明より、この第二あるいは第三の実施形態によれば、第一の実施形態よりも更に低いC/Nの環境下であっても、高精度な方向調整信号Aを算出することが可能となる。