(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットは、第1のターゲット部と、第2のターゲット部とを具備する。
上記第1のターゲット部は、エロージョン領域を形成する。
上記第2のターゲット部は、上記第1のターゲット部で被覆される第1の領域と、非エロージョン領域を形成する第2の領域とを有する。上記第2のターゲット部は、上記第1のターゲット部と摩擦撹拌接合により一体化される。
【0011】
上記スパッタリングターゲットにおいては、エロージョン領域に第1のターゲット部と第2のターゲット部との境界領域が存在しないため、パーティクルや異常放電の発生を抑えて安定したスパッタ成膜が可能となる。また、第1のターゲット部と第2のターゲット部とが摩擦撹拌接合により一体化されているため、両ターゲット部間の材料組織的な一体化を実現することができ、ターゲット表面の外観が損なわれることはない。さらに、エロージョン領域のみを選択的に再生することができるため、ターゲット材料の利用効率を向上させることができるとともに、第2のターゲット部を共通に使用し続けることで、スパッタリングターゲットのリサイクル効果を高めることができる。
【0012】
ここで、「エロージョン領域」は、スパッタリングターゲットの使用前および使用後を問わず、未だ平坦であって使用時に浸食される領域と、使用により実際に浸食された凹凸領域との両方を含む。
【0013】
上記第1のターゲット部と上記第2のターゲット部とは、同種のターゲット材料で形成されてもよいし、異種のターゲット材料で形成されてもよい。
両ターゲット部が同種のターゲット材料で形成されている場合、両ターゲット部の良好な接合状態を容易に得ることができる。一方、両ターゲット部が異種のターゲット材料で形成されている場合、第1のターゲット部と比較して、成膜に寄与しない第2のターゲット部を材料的あるいはプロセス的に低コストで製作することができる。
【0014】
両ターゲット部が同種の材料で形成される場合、第1のターゲット部は、第2のターゲット部よりも高純度の材料で形成されてもよい。
これにより、要求される高品質な薄膜形成を確保しつつ、第2のターゲット部を比較的低コストで製作することができる。
【0015】
上記第1のターゲット部は、結晶調質されていてもよい。これにより、形成される薄膜の高品質化を図ることができる。第1のターゲット部の調質は、第2のターゲット部との摩擦撹拌接合工程で同時に実現することができ、撹拌条件を最適化することで、エロージョン領域に要求される微細かつ均一な結晶組織に第1のターゲット部を調質することができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、ターゲット表面のエロージョン領域に開口部を形成する工程を含む。
上記開口部に、スパッタされるべきターゲット材料が充填される。
上記ターゲット材料と上記ターゲットの非エロージョン領域とが、摩擦撹拌接合により一体化される。
【0017】
上記製造方法においては、ターゲットのエロージョン領域にターゲット材料を充填した後、当該ターゲット材料と上記ターゲットの非エロージョン領域とを摩擦撹拌接合により一体化することで、スパッタリングターゲットが製造される。したがって、エロージョン領域のみを選択的に再生することができるため、ターゲット材料の利用効率を向上させることができるとともに、第2のターゲット部を共通に使用し続けることで、スパッタリングターゲットのリサイクル効果を高めることができる。また、エロージョン領域に第1のターゲット部と第2のターゲット部との境界領域が存在しないため、パーティクルや異常放電の発生を抑えて安定したスパッタ成膜が可能となる。
【0018】
上記開口部を形成する工程は、上記ターゲット表面のエロージョン領域を切除する工程を含んでもよい。
これにより、回収された使用済みのスパッタリングターゲットを容易に再生することができる。また、スパッタリングターゲットのリサイクルの促進を図ることができる。
【0019】
上記ターゲット材料と上記非エロージョン領域とを摩擦撹拌接合する工程では、上記ターゲット材料と上記非エロージョン領域との境界部を含む、上記ターゲット材料の充填領域の全域が摩擦撹拌されてもよい。
これにより、エロージョン領域内のターゲット材料の材料組織を均一化し、スパッタ時の安定放電を実現して、高品質な薄膜を形成することができる。また、撹拌条件を最適化することによって、接合時に上記ターゲット材料の結晶組織の調質を同時に行うことができる。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットを模式的に示す外観斜視図である。本実施形態のスパッタリングターゲット10は、正方形あるいは長方形の板状に形成されているが、図示する矩形状に限られず、円形、長円形、楕円形等の他の形状で形成されてもよい。
【0022】
スパッタリングターゲット10は、被スパッタ面を形成する表面11aと、バッキングプレート20に接合される裏面11bとを有する。被スパッタ面11aは、図示しない真空チャンバ内において形成されるプロセスガスのプラズマ中のイオンによってスパッタされる。バッキングプレート20は、スパッタリングターゲット10を図示しないスパッタリングカソードへ接続し、真空チャンバ内に保持するための、適宜の形状を有する金属板で形成されている。バッキングプレート20の内部には冷却水の循環経路が形成されており、スパッタ作用によるスパッタリングターゲット10の発熱を抑制する。スパッタリングターゲット10およびバッキングプレート20は、ターゲット組立体として一体的に取り扱われてもよい。
【0023】
スパッタリングターゲット10の表面11aは、エロージョン領域12と非エロージョン領域13とを有する。エロージョン領域12は、イオンによるスパッタ作用によってターゲット表面が浸食される領域を意味し、非エロージョン領域13は、エロージョン領域12と比較して浸食されにくい領域を意味する。エロージョン領域12と非エロージョン領域13とに明確な境界がない場合もあるが、ここでは、主な浸食領域をエロージョン領域という。本実施形態において「エロージョン領域」には、スパッタリングターゲットの使用前および使用後を問わず、未だ平坦であって使用時に浸食される領域と、使用により実際に浸食された凹凸領域との両方が含まれる。
【0024】
エロージョン領域12は、スパッタリング装置の仕様によって異なる形状を呈する。本実施形態では、エロージョン領域12はターゲット表面11aに環状に形成される。このような形状のエロージョン領域12は、マグネトロン型スパッタリング装置用のスパッタリングターゲットに多く見られる。この場合、エロージョン領域12の大きさ、形状等は、バッキングプレート20の裏面側に配置される、図示しないマグネットユニットの配置形態によって決まることが多い。図示の例では、スパッタリングターゲット10の中央部と周縁部とにそれぞれマグネットが配置され、これらマグネットの間に形成される磁場によって高密度なプラズマが環状に形成されることで、図示する形態のエロージョン領域12が形成される。なお、図示の例ではエロージョン領域12の外周側および内周側の各コーナー部をほぼ直角に描いているが、これに限られず、各コーナー部は丸みを帯びた湾曲形状を有していてもよい。
【0025】
本実施形態に係るスパッタリングターゲット10においては、エロージョン領域12を形成する第1のターゲット部と非エロージョン領域13を形成する第2のターゲット部との接合体で形成される。
図2(A)〜(C)は、スパッタリングターゲット10の製造方法を説明する主要な工程の概略断面図である。
【0026】
まず、
図2(A)に示すように、表面に環状の開口部131が形成された第2のターゲット部130を作製する。開口部131は、第2のターゲット部130の表面のエロージョン領域に形成され、後述するように第2のターゲット部120で被覆される領域(第1の領域)を形成する。第2のターゲット部130は、金型成形により開口部131と同時に成形されてもよいし、板材の成形後、別工程で開口部131が形成されてもよい。
【0027】
開口部131は、第2のターゲット部130の厚みよりも小さい深さ寸法で形成される。図示の例では、開口部131の断面は矩形状となるように形成されるが、これに限られず、例えば底部が湾曲した曲面形状に形成されてもよい。開口部131が形成されないターゲット部130の表面領域(第2の領域)は、非エロージョン領域13を形成する。
【0028】
次に、
図2(B)に示すように、開口部131の内部に、第1のターゲット部120を充填する。第1のターゲット部120は、あらかじめ開口部131の形状に対応して形成された環状のブロック体で構成され、開口部131に嵌め込まれる。第1のターゲット部120は、開口部131の深さと同等以上の厚みを有し、その表面は、必要に応じて、第2のターゲット部130の表面に整列するように平坦化される。
【0029】
続いて、
図2(C)に示すように、第1のターゲット部120と第2のターゲット部130とが接合され、一体化される。本実施形態では、接合方法として、摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)法が採用される。摩擦撹拌接合とは、回転ツール100と被接合材料(第1、第2のターゲット部120、130)間で発生する摩擦熱および加工熱により被接合材料を軟化、撹拌させながら、被接合材料同士を固相接合する技術をいう。回転ツール100は、各ターゲット部120、130へ侵入する回転子101を先端部に有し、当該回転子101を回転させながら図中矢印方向へ移動することで、両ターゲット部120、130を相互に接合する。
【0030】
回転ツール100の回転子101は、開口部131の深さ(第1のターゲット部120の厚み)よりも大きな長さ寸法を有しており、回転子101の先端部は開口部131の底部よりも更に深く侵入することが可能である。回転ツール100は、第1のターゲット部120と第2のターゲット部130の境界部近傍の非エロージョン領域と、上記境界部を含むエロージョン領域の全域とを走査するように移動させられる。これにより、
図2(D)に示すように、回転ツール100によって形成された接合部Jを有するスパッタリングターゲット10が作製される。接合工程後、必要に応じて、スパッタリングターゲット10の表面11aの平坦化処理が実施されてもよい。
【0031】
以上のようにして製造されるスパッタリングターゲット10は、
図2(D)に示すように、接合部J上の表面領域がエロージョン領域12とされ、接合部Jの境界領域近傍と接合部Jの非形成領域が非エロージョン領域13とされる。すなわち、接合部Jの主要領域は第1のターゲット部120によって構成され、接合部Jの境界領域近傍は両ターゲット部120、130の混合領域とされる。
【0032】
本実施形態のスパッタリングターゲット10においては、エロージョン領域12に第1のターゲット部120と第2のターゲット部130との境界領域が存在しないため、使用時におけるパーティクルや異常放電の発生を抑えて安定したスパッタ成膜が可能となる。
【0033】
また、第1のターゲット部120と第2のターゲット部130とが摩擦撹拌接合により一体化されているため、両ターゲット部120、130間の材料組織的な一体化を実現することができ、ターゲット表面の外観が損なわれることはない。
【0034】
さらに、エロージョン領域12のみを選択的に再生することができるため、ターゲット材料の利用効率を向上させることができる。また、第2のターゲット部130が共通に使用され続けることで、スパッタリングターゲット10のリサイクル効果を高めることができる。
【0035】
第1のターゲット部120と第2のターゲット部130とは、同種のターゲット材料で形成されてもよいし、異種のターゲット材料で形成されてもよい。ターゲット材料としては、Al、Cu、Ag、Au、Cr、Ta、Mo、Ti、Nbなどの各種金属材料およびこれらの合金あるいは化合物などを用いることができる。特に、Al、Cu、Ag、Auなどのような軟化温度が比較的低い金属は、摩擦撹拌接合が容易であるという利点がある。
【0036】
第1および第2のターゲット部120、130がそれぞれ同種のターゲット材料で形成されている場合、両ターゲット部120、130の良好な接合状態を容易に得ることができる。
【0037】
この場合、第1のターゲット部120は、第2のターゲット部130よりも高純度の材料で形成されてもよい。例えば、第1のターゲット部120のターゲット材料には5N以上(99.999%以上)の純度の材料が用いられ、第2のターゲット部130のターゲット材料には4N以下の純度の材料が用いられる。これにより、要求される高品質な薄膜形成を確保しつつ、第2のターゲット部を比較的低コストで製作することができる。
【0038】
一方、第1および第2のターゲット部120、130が異種のターゲット材料で形成されている場合、第1のターゲット部120と比較して、成膜に寄与しない第2のターゲット部130を材料的あるいはプロセス的に低コストで製作することができる。
【0039】
さらに、第1のターゲット部120と第2のターゲット部130との接合工程と同時に、第1のターゲット部120を摩擦撹拌作用によって結晶調質することができる。これにより、形成される薄膜の高品質化を図ることができる。特に本実施形態においては、第1のターゲット部120の充填領域の全域が摩擦撹拌されることにより、エロージョン領域12内のターゲット材料の材料組織を均一化し、スパッタ時の安定放電を実現して、高品質な薄膜を形成することができる。また、撹拌条件を最適化することによって、接合時に上記ターゲット材料の結晶組織の調質を同時に行うことができる。
【0040】
第1のターゲット部120の調質は、第2のターゲット部との摩擦撹拌接合工程で同時に実現することができ、撹拌条件を最適化することで、エロージョン領域に要求される微細かつ均一な結晶組織に第1のターゲット部を調質することができる。例えば、回転子101の軸径を20mm、回転速度を1500rpm、移動速度を0.008m/sとすることで、Al材料の第1のターゲット部120を平均結晶粒径60μmに調質することができる。
【0041】
そして、本実施形態によれば、実質的に成膜に寄与する領域にのみ高精度に結晶制御された材料を用いてスパッタリングターゲットを製造することができる。これにより、ターゲット全体が同等の結晶状態となるように製造される従来のスパッタリングターゲットに比べて、材料コストを大幅に削減することができる。
【0042】
また、上記スパッタリングターゲットの製造方法によれば、使用済みのスパッタリングターゲットを容易に再生することができるという利点がある。例えば、
図3に使用済みスパッタリングターゲット1の一例を示す。図示するスパッタリングターゲット1は、エロージョン領域12が凸状に浸食されている。本実施形態では、このような使用済みスパッタリングターゲット1を上述のような工程を経て再生することができる。
【0043】
すなわち、
図3に示すスパッタリングターゲット1のエロージョン領域を切除することで、ターゲット表面に開口部131(
図2(A))が形成される。開口部131の形成には、ボール盤などを用いた機械加工、レーザ光を用いた溶断、薬液を用いた化学エッチングなどが利用可能である。なお、開口部131の形成に先立って、ターゲット表面を平坦化する目的で研削処理が実施されてもよい。
【0044】
開口部131の形成後は、
図2(B)および(C)を参照して説明したターゲット材の充填工程および摩擦撹拌接合工程を実施することで、
図1および
図2(D)に示した構成のスパッタリングターゲット10を製造することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、スパッタリングターゲットの再利用が容易であるため、経済性を高めることができる。また、エロージョン領域にのみ高精度に結晶制御されたターゲット材料が用いられるため、高品質な薄膜形成を確保しながら、材料コストの大幅な削減を図ることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0047】
例えば以上の実施形態では、スパッタリングターゲット10とバッキングプレート20とが別部材で構成された例を説明したが、これに限られず、バッキングプレートと一体的なスパッタリングターゲットにも本発明は適用可能である。
【0048】
また、第1のターゲット部120および第2のターゲット部130は、鋳造体で形成される例に限られず、スパッタ材料粉末の焼結体で形成されてもよい。