【文献】
LAMBETH,R.H. 他,“Proximity field nanopatterning of azopolymer thin films”,NANOTECHNOLOGY,2010年 3月26日,Volume 21,Article 165301, 6 Pages
【文献】
LI,J. 他,“Highly ordered microporous films containing a polyolefin segment fabricated by the breath-figure method using well-defined polymethylene-b-polystyrene copolymers”,Polymer Chemistry,2009年12月11日,Volume 1, Issue 2,Pages 164-167
【文献】
ICHIMURA,K. 他,“Surface-assisted formation of anisotropic dye molecular films”,Thin Solid Films,1996年,Volumes 284-285,Pages 557-560
【文献】
和田 健二 他,“アルミニウム陽極酸化法とゾルゲル法によるガラス基板上多機能三次元ナノ構造体”,軽金属,2004年,Vol.54, No.11,pp.579-585,[ISSN:0451-5994]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記筒状体の平面部における分散密度は、100μm四方当たり1個以上50万個以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の構造体。
上記有機分子層は、金属層表面からの長さが50nm以上200nm以下の分子と、金属層表面からの長さが1nm以上50nm未満の分子とを含むことを特徴とする、請求項10に記載の局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップ。
上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの表面に対して、2種類以上の波長の光を垂直に入射させ、当該局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップで反射した各波長の光の反射率、当該局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを透過した各波長の透過率、又はこれら反射若しくは透過した各波長の光強度を上記光検出器で測定することを特徴とする、請求項13に記載の局在型表面プラズモン共鳴センサ。
上記液体塗布工程と上記光照射工程との間に、液体塗布工程によって光応答性材料上に塗布された液体が完全に蒸発しない程度に乾燥させる乾燥工程を含むことを特徴とする、請求項15に記載の構造体の製造方法。
上記液体が、水、アルコール、および光応答性材料を溶解する有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項15または16に記載の構造体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
人体の60%は水分で構成され、残り40%のうち半分はタンパク質で構成されており、人体の細胞、筋肉、皮膚の大部分はタンパク質からなる。そのため、病気は、タンパク質の変異と相関が認められる場合が多く、癌、インフルエンザその他の病気では、病気の進行に伴って体内(血液中等)において特定のタンパク質が増加する。
【0003】
従って、特定のタンパク質の状態(特定のタンパク質の有無、量等)をモニターすることで病気の罹患、進行状況を知ることができ、現在では、数十種類のタンパク質について病気との相関が確認されている。例えば、腫瘍(癌)の進行とともに増加する生体分子は腫瘍マーカーと呼ばれ、腫瘍の発生部位に応じてそれぞれ異なる腫瘍マーカーが特定されている。
【0004】
また、生体内のタンパク質、DNA、糖鎖といった生体分子は、疾患の発生と直接的に関係していることが多いので、それら生体分子間の相互作用を解析することにより、病気のメカニズムを解明し、特効薬の開発を行うことが可能になりつつある。
【0005】
上記腫瘍マーカーを含め、特定のタンパク質の有無や量を簡便且つ高精度に測定するツールとしてバイオセンサがあり、将来的には誤診防止、早期診断、予防医療等への応用が期待されている。
【0006】
ここで、タンパク質等生体分子の相互作用を検出する方法としては、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)が利用されている。表面プラズモン共鳴とは、金属表面の自由電子と電磁波(光)との相互作用によって生じる共鳴現象であって、蛍光検出方式に比べると、試料を蛍光物質で標識する必要が無いため簡便な手法として注目されている。表面プラズモン共鳴を利用したセンサには、伝搬型表面プラズモン共鳴センサと局在型表面プラズモン共鳴センサとがある。
【0007】
伝搬型表面プラズモン共鳴センサの原理を
図10(a)〜(d)により簡単に説明する。伝搬型表面プラズモン共鳴センサ11は、
図10(a)及び
図10(c)に示すように、ガラス基板12の表面に厚み50nm程度のAu、Ag等の金属膜13を形成したものである。
【0008】
この伝搬型表面プラズモン共鳴センサ11は、ガラス基板12側から光を照射し、ガラス基板12と金属膜13との界面において光を全反射させる。全反射した光を受光し、光の反射率を測定することによって生体分子等がセンシングされる。
【0009】
即ち、この反射率測定を光の入射角θを変化させることによって行うと、
図10(b)に示すように、ある入射角(共鳴入射角)θ1で反射角が大きく減衰する。これは、ガラス基板12と金属膜13との界面に入射した光が当該界面で全反射するとき、当該界面で発生するエバネッセント光(近接場光)と金属の表面プラズモン波とが相互作用するからである。具体的には、ある特定の波長や特定の入射角においては、光のエネルギーが金属膜13中に吸収され、金属膜13中の自由電子の振動エネルギーに変化し、光の反射率が著しく低下するからである。
【0010】
この共鳴条件は金属膜13の周辺物質の誘電率(屈折率)に依存するため、このような現象は周辺物質の物性変化を高感度に検出する手法として用いられる。特に、バイオセンサとして用いる場合には、
図10(a)に示すように、特定のタンパク質(抗原)と特異的に結合する抗体14(プローブ)を予め金属膜13の表面に固定化しておく。そこに、導入された検査試料にターゲットとなる抗原16が存在すると、
図10(c)に示すように抗原16が抗体14と特異的に結合する。そして、抗原16が抗体14と結合することで金属膜13の周辺の屈折率が変化し、共鳴波長や共鳴入射角が変化する。
【0011】
従って、検査試料を導入する前後における共鳴波長の変化、共鳴入射角の変化、あるいは共鳴波長や共鳴入射角の時間的変化を測定することにより、検査試料中に抗原16が含まれているかどうかを検査できる。また、どの程度の濃度で抗原16が含まれているかも検査することができる。
【0012】
図10(d)は、入射角θに対する反射率の依存性を測定した結果の一例を表している。
図10(d)において、破線は検査試料を導入する前の反射率スペクトル17aを示し、実線は検査試料が導入されて抗体14に抗原16が結合した後の反射率スペクトル17bを示す。
【0013】
このように検査試料を導入する前後における共鳴入射角の変化Δθを測定すると、検査試料が抗原16を含んでいるかどうかを検査できる。また、抗原16の濃度も検査することができ、特定の病原体の有無や疾患の有無等を検査することができる。
【0014】
尚、一般的な伝搬型表面プラズモン共鳴センサでは、ガラス基板に光を導入するためにプリズムを用いている。そのため、センサの光学系が複雑且つ大型化し、またセンサ用チップ(ガラス基板)とプリズムとをマッチングオイルで密着させる必要がある。
【0015】
しかしながら、伝搬型表面プラズモン共鳴センサでは、センシングエリアがガラス基板表面から数百nmとタンパク質のサイズ(十nm前後)に比べて大きい。そのため、このセンサは検査試料の温度変化や検査試料中の夾雑物(例えば、検査対象以外のタンパク質)の影響を受け易く、バイオセンサでは、抗体に結合されず検査試料中に浮遊している抗原にも感度を持ってしまう。
【0016】
これらはノイズの原因となるため、信号雑音比(S/N比)が小さくて高感度のセンサを作製することが難しい。また、高感度のセンサを作製するためには、ノイズの原因となる夾雑物を取り除く工程や、検査試料の温度を一定に保つための厳密な温度制御手段を必要とし、装置が大型になったり、装置コストが高価になったりする。
【0017】
これに対し、局在型表面プラズモン共鳴センサでは、金属微粒子(金属ナノ微粒子)の表面に発生する近接場がセンシング領域となるため、回折限界以下の数十nmの感度領域を実現できる。その結果、局在型表面プラズモン共鳴センサでは、金属微粒子から離れた領域に浮遊する検査対象物には感度を持たず、金属微粒子表面の非常に狭い領域に付着した検査対象物にのみ感度を持たせることができ、より高感度のセンサを実現できる可能性がある。
【0018】
金属微粒子を用いた局在表面プラズモン共鳴センサでは、金属微粒子から離れて浮遊している検査対象物に感度を持たないので、ノイズ成分が少なくなり、その意味では伝搬型表面プラズモン共鳴センサに比べて高感度である。しかし、Au、Ag等の金属微粒子において発生する表面プラズモン共鳴を利用したセンサでは、金属微粒子の表面に付着している検査対象物から得られる信号の強度が小さく、その意味では感度がまだ低く、あるいは感度が十分でなかった。
【0019】
このような取り扱い難さを解消するために、複数の凹部を有する回折格子類似の局在型表面プラズモン共鳴センサが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0020】
上記局在型表面プラズモン共鳴センサは、
図11に示すように、ナノインプリントにより賦形された窪み(凹部)が規則的に配置された構造を有する基板19を有し、凹部の上から蒸着又はスパッタ等により金属材料を積層し、得られる金属層20はその下の形状を反映している。そして、
図12に示すように、この局在型表面プラズモン共鳴センサ18では、基板19の金属層20側から直線偏光21を照射すると、凹部に強い電界22が集中する。
【0021】
ところで、特許文献2には、ポリスチレンの微小球(直径250nm)を一定量含む液体の一定量をアゾポリマー層表面に滴下し、その状態で所定強度の青色LED(波長465nm〜475nm)を一定時間照射した後、微小球を除去することによって、ポリスチレン微小球が接していた部分が陥没し、ポリスチレン微小球の周りにアゾポリマーが盛り上がったような形状の構造体が記載されている(特許文献2段落〔0128〕−〔0130〕、
図8を参照のこと)
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。
【0041】
尚、本明細書では、範囲を示す「A〜B」はA以上B以下であることを意味し、本明細書で挙げられている各種物性は、特に断りの無い限り後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
【0042】
本発明に係る構造体は、上記課題を解決するために、平面部と筒状体とを備え、上記平面部の平面に対して開口部が面するように筒状体が立設されてなり、上記筒状体の開口部の平均内径が5nm以上2,000nm以下の範囲内であり、且つ上記筒状体の開口部の内径Aと、上記筒状体の開口部からの深さの中間点における内径Bとの比(A/B)が1.00以上1.80以下の範囲内であることを特徴としている。特に本発明に係る構造体は、上記筒状体の底部が非球面である。
【0043】
上記構成によれば、例えば、上記構造体を局在型表面プラズモン共鳴センサ用基板に用い、その表面に基板の形状に沿って金属層を形成させることにより、局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを作製することができる。このようにして得られる局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺の金属における自由電子と入射光との間で結合が起こり、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺に電界が集中して極めて強い局在型表面プラズモン共鳴が発生する。従って、当該チップを用いることにより、より高感度の局在型表面プラズモン共鳴センサを提供することができるという効果を奏する。
【0044】
また、上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップは、上記のような極めて強い局在型表面プラズモン共鳴現象が現れるため、表面増強ラマン散乱分光用チップ、蛍光増強プレート、2光子蛍光増強プレート、第二次高調波発生基板等としても好適に使用することができる。
【0045】
また本発明に係る構造体は、筒状体の凹部周辺および内部に入射光による電磁場をより一層強く局在させることができるために、上記(A/B)が、1.00以上1.50以下の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
また本発明に係る構造体は、上記筒状体の平面部における分散密度が、100μm四方当たり1個以上50万個以下の範囲内であることが好ましい。上記構成によれば、局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを作製した場合に、より強い局在型表面プラズモン共鳴を発生させることができるため、より高感度の局在型表面プラズモン共鳴センサを提供することができる。
【0047】
本発明に係る構造体は刺激応答性材料からなるものであってもよい。ここで上記刺激応答性材料は、熱応答性材料または光応答性材料であってもよい。
【0048】
上記刺激応答性材料は、光応答性材料であることが好ましい。さらに本発明に係る構造体では、上記光応答性材料は、アゾポリマー誘導体を含むことが好ましい。上記構成によれば、より容易に構造体を得ることができる。
【0049】
本発明に係る構造体では、上記光応答性材料は、アゾベンゼン基を主鎖及び/又は側鎖に有するアゾポリマー誘導体であることが好ましい。上記構成によれば、より容易に構造体を得ることができる。
【0050】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップは、上記課題を解決するために、上記本発明に係る構造体が基板上に形成されており、当該構造体の表面の少なくとも一部を覆い且つ当該構造体の構造を反映するように金属層が形成されていることを特徴としている。
【0051】
また本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップは、上記課題を解決するために、平面部と筒状体とを備え、上記平面部の平面に対して開口部が面するように筒状体が立設されてなり、上記筒状体の開口部の平均内径が5nm以上2,000nm以下の範囲内であり、上記筒状体の開口部の内径Aと、上記筒状体の開口部からの深さの中間点における内径Bとの比(A/B)が1.00以上1.80以下の範囲内である、構造体が基板上に形成されており、当該構造体の表面の少なくとも一部を覆い且つ当該構造体の構造を反映するように金属層が形成されていることを特徴としている。本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップは、上記筒状体の底部が非球面である。
【0052】
上記構成によれば、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺の金属における自由電子と入射光との間で結合が起こり、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺に電界が集中して極めて強い局在型表面プラズモン共鳴が発生する。従って、より高感度の局在型表面プラズモン共鳴センサを提供することができるという効果を奏する。
【0053】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおいて、上記(A/B)が、1.00以上1.50以下の範囲内であることがより好ましい。上記構成によれば、筒状体の凹部周辺および内部に入射光による電磁場をより一層強く局在させることができる。
【0054】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおいて、上記構造体は刺激応答性材料からなるものであってもよい。また上記刺激応答性材料は、熱応答性材料または光応答性材料であってもよい。さらに、上記刺激応答性材料は、光応答性材料であることが好ましい。
【0055】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記金属層の厚さが10nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましく、30nm以上200nm以下の範囲内であることがさらに好ましく、40nm以上125nm以下の範囲内であることが最も好ましい。上記構成によれば、より高感度の局在型表面プラズモン共鳴センサを提供することができる。
【0056】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記金属層の表面に、生体分子を固定化するための有機分子層が形成されていることが好ましい。上記構成によれば、特定の生体分子を検出することができるバイオセンサとして用いることが可能になる。
【0057】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記有機分子層は、金属層表面からの長さが50nm以上200nm以下の分子と、金属層表面からの長さが1nm以上50nm未満の分子とを含むことが好ましい。上記構成によれば、長さが1nm以上50nm未満の分子は金属層の近傍で生体分子と結合し、長さが50nm以上200nm以下の分子は金属層から離れたところで生体分子と結合する。そして、生体分子と結合した、長さが50nm以上200nm以下の分子は、分子鎖が折れ曲がることによってその生体分子を金属層の近傍へ引き寄せる。これにより、金属層の近傍の領域に多くの生体分子を集めることができ、センサ感度がより高いバイオセンサを提供することができる。
【0058】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記金属層の材質が、Au、Ag、又はこれらの合金からなるものであることが好ましい。上記構成によれば、Au、Ag、又はこれらの合金は強い局在型表面プラズモン共鳴を発生させることができる。
【0059】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサは、上記課題を解決するために、本発明に係る上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップと、上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップに光を照射する光源と、上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおいて反射若しくは透過した光を受光する光検出器とを備えることを特徴としている。
【0060】
上記構成によれば、本発明に係る上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを備えているため、当該チップにおける筒状体がなす凹部内部および開口部周辺において局在的な共鳴電界を発生させることができる。そして、光源から光を当該領域に照射して、当該領域で反射又は透過した光を上記光検出器で受光することにより、上記センサ用チップにおける反射率若しくは透過率、又は上記光検出器で受光した光強度を測定することができる。従って、上記構成によれば、より高感度の局在型表面プラズモン共鳴センサを提供することができるという効果を奏する。
【0061】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサでは、上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの表面に対して、2種類以上の波長の光を入射させ、当該局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップで反射した各波長の光の反射率、当該局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを透過した各波長の透過率、又はこれら反射若しくは透過した各波長の光強度を上記光検出器で測定することが好ましい。上記構成によれば、特定の2種類以上の波長における、反射率、透過率、又は光強度を比較することにより共鳴波長の変化を評価することができる。このため、既知の特定物質の有無等を検査する用途に好適に用いることができる。
【0062】
本発明に係る構造体の製造方法は、上記課題を解決するために、光応答性材料上に、粒子状物質非含有の液体を塗布する液体塗布工程と、上記液体塗布工程によって液体が塗布された上記光応答性材料に対して光を照射する光照射工程と、を含むことを特徴としている。上記方法によれば、粒子状物質非含有の液体が塗布された上記光応答性材料に対して光を照射するだけで、上記本発明に係る構造体を簡便に作製することができる。どのような原理で上記構造体が作製されるかについては現在検討中であるが、本発明者らは以下のようであると推定している。すなわち、ガラスやプラスチック等の基板の表面に、光応答性材料の膜を形成し、当該膜上に粒子状物質非含有の液体を塗布後に光を照射することにより本発明に係る構造体を作製する場合、粒子状物質非含有の液体が光応答性材料膜内にある割合で浸透し、光応答性材料膜中の分子鎖の運動性が増加する。光照射によりガラスやプラスチック基板等の表面のラフネスポイントに近接場光が発生し、当該近接場光強度に応じて光応答性材料が物質移動することにより、筒状の構造体が形成されると推定される。一方、近接場光強度に応じた光応答性材料の物質移動以外にも、光照射により当該基板表面と光応答性材料膜の界面に親和性に変化が生じ、親和性の異なる斑のような状態が生じ、光照射により光応答性材料が物質移動するとのメカニズムも同時にまたは独立に生じていることも考えられる。
【0063】
上記方法により作製された構造体を局在型表面プラズモン共鳴センサ用基板に用い、その表面に基板の形状に沿って金属層を形成させることにより、局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを作製することができる。このようにして得られる局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺の金属における自由電子と入射光との間で結合が起こり、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺に電界が集中して極めて強い局在型表面プラズモン共鳴が発生する。従って、簡便に、安定的に、低コストでより高感度の局在型表面プラズモン共鳴センサを提供し得る構造体を製造することができるという効果を奏する。
【0064】
本発明に係る構造体の製造方法では、上記液体が、水、アルコール、および光応答性材料を溶解する有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。上記液体は、取り扱いが容易であり、かつ所望の構造体が得られ易いという効果を奏する。なお、上記液体には従来公知の界面活性剤が含まれていてもよい。
【0065】
本発明に係る構造体の製造方法は、(i)光応答性材料上に粒子状物質非含有の液体を塗布する液体塗布工程と、液体が塗布された上記光応答性材料に対して光を照射する光照射工程とを経て第一の構造体を製造し、(ii)上記第一の構造体の表面を完全に覆うように熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を塗布し、当該熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を硬化後、剥離することによって、第一の構造体の型となる第二の構造体を製造し、(iii)上記第二の構造体における第一の構造体の型となる部分に、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を充填し、当該熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を硬化後、剥離することによって、第一の構造体の複製物である第三の構造体を得ることを特徴としている。上記方法によれば、例えば、当該型に熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、硬化後剥離させることにより、上述の本発明に係る構造体を容易に複製できる。
【0066】
特に上記(iii)の工程を複数回行うことが好ましい。上記(iii)の工程を複数回行うことで、上述の本発明に係る構造体を容易に量産することができる。
【0067】
よって、当該複製した構造体を局在型表面プラズモン共鳴センサ用基板に用い、その表面に基板の形状に沿って金属層を形成させることにより、局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを作製することができる。このようにして得られる局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺の金属における自由電子と入射光との間で結合が起こり、筒状体内部に強い電界が集中して極めて強い局在型表面プラズモン共鳴が発生する。従って、簡便に、安定的に、低コストでより高感度の局在型表面プラズモン共鳴センサを提供し得る構造体を製造することができるという効果を奏する。
【0068】
本発明に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造方法は、上記課題を解決するために、本発明に係る構造体の製造方法の何れか1つにより構造体を製造する工程と、上記工程で得られた構造体の表面を金属で被覆して上記構造体の形状が反映された形状を有する金属層を形成する工程と、を含むことを特徴としている。上記方法によれば、簡便に、安定的に、低コストでより高感度の局在型表面プラズモン共鳴センサを提供し得る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを製造することができるという効果を奏する。
【0069】
また本発明は、上記本発明に係る構造体の製造方法により製造され得る全ての構造体(上述の本発明に係る構造体、後述する三日月状の構造体やフジツボ状の構造体等)をも包含する。上記構造体は、局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップ、表面増強ラマン散乱分光用チップ、蛍光増強プレート、2光子蛍光増強プレート、第二次高調波発生基板等に利用可能である。
【0070】
(I)構造体
本実施の形態に係る構造体を構成する材料は特に限定されるものではなく、無機材料であっても、有機材料であってもよく、またこれらの混合物であってもよい。さらに本実施の形態に係る構造体は、刺激応答性材料(例えば光応答性材料、熱応答性材料等)からなるものであってもよい。
【0071】
〔無機材料〕
無機材料としては、シリコン(結晶、多結晶、非晶)、カーボン(結晶、アモルファス)、窒化物、半導体材料などが挙げられる。これら無機材料は微粒子を焼結させたものでも構わない。
【0072】
〔有機材料〕
有機材料としては、汎用高分子、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックや液晶化合物などが挙げられる(混合物でも良いし、架橋構造を有するなど二次構造、三次構造を制御されたものでも構わない)。これら有機材料の中には、外部刺激に応じて物性や形状を変化させる刺激応答性材料がある。
【0073】
〔刺激応答性材料〕
刺激応答性材料とは、外部刺激に応答して分子鎖が運動性を有する材料であり、具体的には熱応答性材料および光応答性材料が挙げられる。
【0074】
〔熱応答性材料〕
上記熱応答性材料とは、熱刺激により材料を構成する分子鎖が激しく運動性を有する材料である。熱刺激に対して、材料が流動性を示したり、軟化したり変形する材料である。具体的には、ポリスチレンやポリメチルメタクリレートに代表されるようなアクリル系材料などの非晶性材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートやアイソタクチックポリスチレン等の結晶性材料、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などが使用できる。また、スチレン−メタクリレート共重合体(ブロック共重合体、ランダム共重合体など)などの共重合体を用いることもできる。またこれらの材料を併用しても良い。
【0075】
〔光応答性材料〕
上記光応答性材料とは、光照射により物質移動が起こる材料であり、より具体的には照射部の光の明部及び暗部に沿って物質移動現象を生じる材料である。
【0076】
上記光応答性材料としては、光変形を起こし得る材料であって、光照射部の明暗部に応じて物質移動を示す材料であれば特には限定されないが、例えば、光照射によりアブレーション、フォトクロミズム、分子の光誘起配向等を起こす成分(光反応性成分)をマトリックス材料中に含み、光照射により体積、密度、自由体積等が変化するような、有機又は無機の材料が挙げられる。また、上記光応答性材料としては、イオウ、セレン及びテルルからなる群から選択される何れかの元素と、ゲルマニウム、ヒ素及びアンチモンからなる群から選択される何れかの元素とが結合した構造を含むカルコゲナイトガラスと総称される無機材料等も挙げられる。
【0077】
上記光反応性成分としては、例えば、材料の形状変化を伴う異方的光反応を起こし得る成分である、光異性化成分や光重合性成分が挙げられる。
【0078】
上記光異性化成分としては、例えば、トランス−シス光異性化を生じる成分、特に代表的にはアゾ基(−N=N−)を有する色素構造、特に、アゾベンゼンやその誘導体の化学構造を持つ成分が挙げられる。
【0079】
上記異性化成分がアゾ基を有する色素構造を含む材料である場合において、その色素構造が、1又は2以上の電子吸引性官能基(電子吸引性置換基)、及び/又は、1又は2以上の電子供与性官能基(電子供与性置換基)を備えることが好ましく、これらの電子吸引性官能基と電子供与性官能基とを両方備えることが特に好ましい。
【0080】
上記電子吸引性官能基としては、ハメット則における置換基定数σが正の値である官能基が好ましく、電子供与性官能基としてはハメット則における置換基定数σが負の値である官能基が好ましい。
【0081】
つまり、上記異性化成分は、下記式(1)
Σ|σ|≦|σ1 |+|σ2 | …(1)
(上記式において、σはハメット則における置換基定数、σ1 はシアノ基の置換基定数、σ2 はアミノ基の置換基定数である。)
が成立する条件下で、上記電子供与性置換基と電子吸引性置換基とを備えることが好ましい。これにより、蛍光分析用の蛍光色素における蛍光ピーク波長よりも短い波長域に光吸収波長の長波長側のカットオフ波長があるように制御した色素構造を含み得る。これにより、正確な測定を行うことができる。
【0082】
上記色素構造の種類は特には限定されないが、例えば、アゾ基を有する色素構造、特に、アゾベンゼンやその誘導体の化学構造が好ましい。つまり、上記光応答性材料は、アゾポリマー誘導体を含むことが好ましく、アゾベンゼン基を主鎖及び/又は側鎖に有するアゾポリマー誘導体であることがより好ましい。
【0083】
光応答性材料のマトリクス材料中において、上記光応答性成分は単に分散していているだけでもよく、マトリクス材料の構成分子と化学結合等をしていてもよい。マトリクス材料中の光反応性成分の分布密度をほぼ完全に制御できる点や、材料の耐熱性又は経時的安定性等の点からは、マトリクス材料を構成する分子に対して光応答性成分が化学的に結合していることが特に好ましい。
【0084】
上記マトリクス材料としては、通常の高分子材料等の有機材料や、ガラス等の無機材料を用いることができる。マトリクス材料に対する光応答性成分の均一分散性あるいは結合性を考慮すれば、有機材料、特に高分子材料を用いることがより好ましい。
【0085】
マトリックス材料を構成する上記高分子材料の種類は特には限定されないが、高分子の繰返し構造単位がウレタン基、ウレア基、又はアミド基を有していることが好ましく、更には高分子の主鎖中にフェニレン基等の環構造を有していることが耐熱性の点でより好ましい。
【0086】
マトリックス材料を構成する上記高分子材料は、必要な形状に成形可能であればその分子量や重合度は特には限定されない。また、その重合形態も直鎖状、分岐状、はしご状、星形等の任意の形態でよく、ホモポリマーでも共重合体であってもよい。
【0087】
光変形の経時的な安定性のためには、高分子材料のガラス転移温度は、例えば100℃以上のように高いことが好ましいが、ガラス転移温度が室温程度やそれ以下のものでも使用可能である。
【0088】
本発明において利用され得る光応答性材料としては、例えば、
【0089】
【化1】
を有するアゾポリマー(N−フェニルマレイミド(z)と、
4−イソプロペニルフェノール(y)と、
4’−[N−エチル−N−(4−イソプロペニルフェノキシエチル)アミノ]−4’’−ニトロアゾベンゼン(x)とのコポリマー(x:y:z=0.43:0.07:0.50)(参考文献:Mat. Res. Soc. Symp. Proc. Vol.488 (1998), pp.813-818, “Synthesis of High-Tg Azo polymer and the optimization of its poling condition for stable EO system”、特開2006−77239号公報を参照、「PMPD43」と略す場合がある。)や、後述の実施例において使用した、
【0090】
【化2】
を有するアゾポリマー:The side-chain azo-polymer, poly(orange tom-1 isophoronedisocyanate)(参考文献、Direct Fabrication of Surface Relief Holographic Diffusers in Azobenzene Polymer Films、OPTICAL REVIEW Vol. 12, No. 5 (2005) 383−386、実施例において「POT1」と表記する。)や、Poly[4'-[[2-(acryloyloxy)ethyl]ethylamino]-4-nitroazobenzene] (「pDR1A」と表記する。参考文献、Poly[4'-[[2-(acryloyloxy)ethyl]ethylamino]-4-nitroazobenzene]、Macromolecule Vol. 25 (1992)2268 −2273)等が挙げられる。
【0091】
〔構造体〕
本実施の形態に係る構造体は、平面部と筒状体とを備え、上記平面部の平面に対して開口部が面するように筒状体が立設されたごとき構造を有する。換言すれば、上記構造体は、地面から煙突が空に向かって伸びたような構造を有している。筒状体の開口部の形状は、円形に限られず、楕円形、方形等であってもよい。
【0092】
本実施の形態に係る構造体を構成する筒状体の開口部の平均内径は、5nm以上2,000nm以下の範囲内である。筒状体の開口部の平均内径は、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等で筒状体の開口部を上から観察し、その開口部の内径を測定することにより把握することができる。「開口部の内径」は、開口部の形状に対する最大内接円の直径が意図され、例えば、開口部の形状が実質的に円形状である場合はその円の直径が意図され、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径が意図され、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さが意図され、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さが意図される。複数の(好ましくは10個以上、より好ましくは20個以上、さらに好ましくは50個以上)筒状体について開口部の内径を測定し、その平均値を求め「筒状体の開口部の平均内径」とすればよい。なお、本実施形態における構造体を構成する筒状体の開口部の平均内径が5nm以上、2,000nm以下の範囲内であれば、筒状体の凹部内部および開口部周辺に入射光を局在化させることが可能となるため、当該構造体は局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造に好ましく利用され得る。また上記筒状体の開口部の平均内径は、200nm〜500nmの範囲内であることがより好ましい。上記筒状体の開口部の平均内径が、200nm〜500nmの範囲内であることで、より強く入射光を局在させることが可能となる。
【0093】
また本実施の形態に係る構造体は、上記筒状体の開口部の内径Aと、筒状体の開口部からの深さの中間点における内径Bとの比(A/B)が1.00以上1.80以下の範囲内となっている。上記(A/B)が、上記範囲内であることで、筒状体の凹部内部および開口部周辺に入射光による電磁場を強く局在させることができるという効果を享受することができる。また上記(A/B)が1.00以上1.50以下の範囲内となっていることがより好ましく、上記(A/B)が1.00以上1.30以下の範囲内となっていることがさらに好ましく、上記(A/B)が1.00以上1.20以下の範囲内となっていることが最も好ましい。上記(A/B)が、上記範囲内であることで、本実施の形態に係る構造体は内径Aと内径Bとの差がほとんどない、すなわち本実施の形態に係る構造体を構成する筒状体の内部構造が寸胴な構造になっているといえる。本実施の形態に係る構造体を構成する筒状体の内部構造が寸胴となっていることで、筒状体の凹部内部および開口部周辺に入射光による電磁場をより一層強く局在させることができるという効果を享受することができる。
【0094】
内径Aおよび内径Bは、原子間力顕微鏡(AFM)で筒状体の断面図により把握することができる。内径Aおよび内径Bの測定方法を、
図13を用いてより具体的に説明する。
図13は、本実施形態に係る構造体の原子間力顕微鏡(AFM)像である。AFM像から、本実施形態に係る構造体の平面部に対する垂直断面図を取得する。内径を計測する対象となる筒状体の断面において平面部から最も突出した2つの頂点(図中下向き三角で示す)を見出す。これらの頂点から図中の平面部の平面を表す線(図中のx軸)に対して引いた垂線とx軸との交点間の距離を求め、これを内径Aとする。
【0095】
次に内径Bの測定方法を説明する。筒状体の最高点(y軸の矢印方向を正の方向とした場合の最高点、図中下向き三角で示す)と、筒状体の最低点(y軸の矢印方向を正の方向とした場合の最低点、図中上向き三角で示す)とを見出し、上記最低点を通りx軸と平行な線(図中点線で示す)と、最高点を通りx軸と平行な線(図中、両端矢印線で示す)との距離を「筒状体開口部からの深さ」とする。この深さの中間点(図中矢印で示す)における筒状体の内径を測定すれば内径Bを把握することができる。なお本発明において内径Aと内径BとはAFMにて測定した値をいう。
【0096】
また本実施の形態に係る構造体は、上記筒状体の開口部からの深さの平均値が、5nm以上、10μm以下の範囲内であることが好ましく、10nm以上、500nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。複数(好ましくは10個以上、より好ましくは20個以上、さらに好ましくは50個以上)筒状体について深さを測定し、その平均値を求め「筒状体の開口部からの深さの平均値」とすればよい。なお、本実施形態における構造体を構成する筒状体の開口部からの深さの平均値が5nm以上、10μm以下の範囲内であれば、筒状体の凹部内部および開口部周辺に入射光を強く局在化させることが可能であるため、当該構造体は局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造に好ましく利用され得る。
【0097】
なお、本実施の形態に係る構造体は、筒状体の最深部が平面部の平面を表す線(図中のx軸)のマイナス側に位置していても、プラス側に位置していてもよい。つまり構造体の筒状体が備えられていない面を鉛直下向きに載置した場合に、筒状体がなす凹部の底面が平面部よりも下にある態様であっても、上にある態様であってもよい。
【0098】
また、上記筒状体の平面部における分散密度は、100μm四方当たり1個以上50万個以下の範囲内であることが好ましく、100μm四方当たり10個以上30万個以下の範囲内であることがより好ましい。また100μm四方当たり50個以上20万個以下の範囲内であることが最も好ましい。上記分散密度は、AFM観察等により任意の範囲に存在する筒状体の個数を計測し、これをもとに100μm四方当たりの個数を算出すればよい。
【0099】
なお本実施の形態に係る構造体において、筒状体は開口部から深部に向かって内径が小さくなっている形状(V字型)であっても、筒状体は開口部から深部に向かって内径が大きくなっている形状(逆V字型)であってもよい。具体的には
図20や21に示されている筒状体は深部に行くほど内径が大きくなっているため逆V字型であるといえる。また
図22や24に示されている筒状体は深部に行くほど内径が小さくなっているため
V字型であるといえる。
【0100】
また
図13や後述する
図20〜25に示されているように、本実施の形態に係る構造体の筒状体の底部が非球面となっている。特に
図20〜25に示されるように本実施の形態に係る構造体の筒状体の底部が略平面となっている。ここで「筒状体の底部」とは開口部と反対側に位置する部分である。
【0101】
(II)局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップ
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップは、上述した構造体が基板上に形成されており、当該構造体の表面の少なくとも一部を覆い且つ当該構造体の構造を反映するように金属層が形成されていることを特徴としている。換言すれば、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップは、光応答性材料からなる構造体であって、平面部と筒状体とを備え、上記平面部の平面に対して開口部が面するように筒状体が立設されてなり、上記筒状体の開口部の平均内径が5nm以上2,000nm以下の範囲内であり、上記筒状体の開口部の内径Aと、筒状体の平面部に対する高さの中間における内径Bとの比(A/B)が1.00以上1.80以下の範囲内である構造体が基板上に形成されており、当該構造体の表面の少なくとも一部を覆い且つ当該構造体の構造を反映するように金属層が形成されていることを特徴としている。なお、本実施形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおいて、上述の構造体の説明と共通する事項については「(I)構造体」の項の説明を援用するものとする。
【0102】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを構成する基板としては、ガラスや、アクリル樹脂、アモルファスカーボン、結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等が好ましく用いられる。特に透過型の局在型表面プラズモン共鳴法に用いるための基板としては光透過性の高い基板(全光線透過率が60%以上(厚さ1mm換算))であることが好ましい。
【0103】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップは、上記構造体の形状を有しているため、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺の金属における自由電子と入射光との間で結合が起こり、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺に電界が集中して極めて強い局在型表面プラズモン共鳴が発生する。ここで、「局在的な共鳴電界」とは、共鳴電界が金属表面に沿って伝搬せず、共鳴によって増強された電界の領域が入射光の回折限界よりも小さい電界のことをいう。
【0104】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上述した「筒状体」を有する。当該構成であれば、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺の金属における自由電子と入射光との間で結合がより起こり易く、凹部内部および開口部周辺により強い電界が集中して更に強い局在型表面プラズモン共鳴が発生する。
【0105】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記筒状構造の開口部の平均内径が5nm以上2,000nm以下の範囲内である。また、バイオセンサとして使用する場合には、一般的なタンパク質のサイズが10nm前後であるため、上記筒状構造の開口部の平均内径は20nm以上、1,000nm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0106】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記筒状体の開口部からの深さの平均値が、5nm以上、10μm以下の範囲内であることが好ましく、10nm以上、500nm以下の範囲内であることがより好ましい。筒状体の深さが上記範囲内であれば、高いセンサ感度で、局在型表面プラズモン共鳴現象を良好に生じさせることができる。
【0107】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、筒状体間の距離に制限はないが、上記筒状体の平面部における分散密度が、100μm四方当たり1個以上50万個以下の範囲内であることが好ましく、100μm四方当たり10個以上30万個以下の範囲内であることがより好ましい。また100μm四方当たり50個以上20万個以下の範囲内であることが最も好ましい。
【0108】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記金属層の厚さが10nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましい。金属層の厚さが上記範囲内であれば、反射光について十分な光量を確保でき、また透過光量についても十分な光量を確保でき、計測精度が高くなる。
【0109】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記金属層の材質が、Au、Ag、又はこれらの合金からなるものであることが好ましい。上記金属層の材質が、Au、Ag、又はこれらの合金であれば、強い局在型表面プラズモン共鳴を発生させることができる。
【0110】
また、当該金属層の上に更に無機材料層を形成してもよい。金属層の酸化劣化を防ぎ、測定対象のタンパク質等の分子を失活させないようにできるためである。上記無機材料としては、二酸化珪素、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等の材料が好適である。
【0111】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記金属層の表面に、生体分子を固定化するための有機分子層が形成されていることが好ましい。これにより、特定の生体分子を検出することができるバイオセンサとして用いることが可能になる。つまり、本実施の形態に係るチップであれば、有機分子層を形成するための表面積を大きくすることができ、センサ感度を向上させることができる。
【0112】
また、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、上記有機分子層は、金属層表面からの長さが50nm以上200nm以下の分子と、金属層表面からの長さが1nm以上50nm未満の分子とを含むことが好ましい。
【0113】
上記有機分子層が上記のような分子を有することにより、長さが1nm以上50nm未満の分子は金属層の近傍で生体分子と結合し、長さが50nm以上200nm以下の分子は金属層から離れたところで生体分子と結合する。そして、生体分子と結合した、長さが50nm以上200nm以下の分子が折れ曲がることによってその生体分子も金属層の近傍へ引き寄せられる。これにより、金属層の近傍の領域に多くの生体分子を集めることができ、センサ感度をより一層高めることができる。
【0114】
上記有機分子層を構成する上記分子としては、ビオチン修飾ポリエチレングリコール、ORLA18(商品名、ORLA PROTEIN TECHNOLOGY社製)、デキストラン等が挙げられる。
【0115】
また、上記分子の分子鎖長の計測は、動的光散乱法により測定することができる。
【0116】
(III)局在型表面プラズモン共鳴センサ
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサは、上述した本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップと、上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップに光を照射する光源と、上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおいて反射若しくは透過した光を受光する光検出器とを備えている。
【0117】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサは、上述した局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおける金属層表面において局在的な共鳴電界を発生させ、上記光源から出射して上記センサ用チップの表面に入射し、上記金属層の表面における共鳴電界が発生した領域において反射又は透過した光を上記光検出器で受光する。そして、上記センサ用チップにおける、反射率、透過率、又は上記光検出器で受光した光強度を測定する。
【0118】
また、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサでは、上記センサ用チップに対して2種類以上の波長の光をセンサ用チップ表面に対して垂直に入射させ、上記センサ用チップで反射又は透過した各波長の光の反射率若しくは透過率、又は各波長の光の光強度を上記光検出器で測定するものであってもよい。
【0119】
かかる実施態様によれば、特定の2波長以上の波長における反射率若しくは透過率、光強度を比較することにより共鳴波長の変化を評価することができる。よって、既知の特定物質の有無等を検査する用途に望ましい。
【0120】
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおいて局在型表面プラズモン共鳴が起きると、照射される光のエネルギーが金属層の表面プラズモン波に吸収されるので、ある波長(共鳴波長)において光の反射率又は透過率、及び光検出器で受光する光強度が低下する。
【0121】
この共鳴波長は、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺にある媒質の屈折率により変化するので、かかる局在型表面プラズモンセンサによれば、当該領域内に誘電体物質が付着したことや付着量の変化等を検知することができる。特に、バイオセンサとして使用して特定のタンパク質の検出に好ましく使用することができる。
【0122】
しかも、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサでは、筒状体がなす凹部内部および開口部周辺に大きな電界増強が見られるので、極めて強い表面プラズモン共鳴を引き起こすことができ、従来の伝搬型表面プラズモン共鳴センサや局在型表面プラズモン共鳴センサと比較して非常に感度の高いセンシングを行うことができる。
【0123】
特に、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサでは、上述した筒状体を含むため、当該筒状体が形成されている領域における面に対して光を入射させると、筒状体の内壁の金属側面における自由電子と入射光との間で結合が起こり、筒状体内部により強い電界が集中して、更に強い局在型表面プラズモン共鳴が発生する。
【0124】
更に、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサは、金属層の表面から数十nm程度の狭い領域で感度を持つので、金属層から離れた領域の物質によるノイズが小さく、S/N比の良好な局在型表面プラズモン共鳴センサを作製することができる。
【0125】
以下、
図1を用いて、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ(以下、局在SPRセンサという)の反射光学系の基本的構成の一例について説明する。
図1は、本実施の形態に係る局在SPRセンサ24の反射光学系の基本的構成の概略を示す平面図である。
【0126】
図1に示すように、上記局在SPRセンサ24は、光源25と、コリメータレンズ26と、ピンホールを有するコリメータ板27と、ビームスプリッタ(ハーフミラーでもよい)28と、分光器29と、光検出器33と、局在SPRセンサ用チップ30と、データ処理装置31とを備える。
【0127】
光源25から出射された光は、コリメータレンズ26へ導かれる。コリメータレンズ26は、光源25から出射された光をコリメート化し、平行ビームとして通過させる。コリメータレンズ26でコリメート化された光は、コリメータ板27のピンホールを通過することにより細く絞られた平行ビームとなる。
【0128】
コリメータ板27のピンホールを通過した光はビームスプリッタ28に入射し、入射光量の約1/2の光だけがビームスプリッタ28を真っ直ぐに透過する。ビームスプリッタ28を透過した平行ビームは測定領域(筒状体が形成された領域)32に照射される。
【0129】
測定領域32に照射された光は、測定領域32で反射して元の方向に戻る。元の方向に戻った測定光はビームスプリッタ28に入射する。ビームスプリッタ28に入射した測定光は、その光量の約1/2だけがビームスプリッタ28内の貼合せ面で90度の方向へ反射される。
【0130】
ビームスプリッタ28で反射した光は、分光器29を通過して各波長の光に分光され、光検出器33で受光される。よって、分光器29で分光された光を光検出器33で受光することにより、各波長の光強度を検出することができる。
【0131】
データ処理装置31は、測定領域32に検体が無い状態で照射する光の各波長の光強度をデータとして予め与えられている。よって、データ処理装置31により、予め与えられているデータと光検出器33で検出した各波長の光強度とを比較することで、測定領域32における各波長の反射率の分光特性(反射率スペクトル)等を求めることができる。
【0132】
次に、
図2を用いて、本実施の形態に係る局在SPRセンサの透過光学系の基本的構成の一例について説明する。
図2は、本実施の形態に係る局在SPRセンサ34の透過光学系の基本的構成の概略を示す平面図である。
【0133】
局在SPRセンサ34は、光源25と、コリメータレンズ26と、ピンホールを有するコリメータ板27と、測定領域32を含む局在SPRセンサ用チップ30と、分光器29と、光検出器33と、データ処理装置31とを備える。
【0134】
光源25から出射された光は、コリメータレンズ26へ導かれる。コリメータレンズ26は、光源25から出射された光をコリメート化し、平行ビームとして通過させる。コリメータレンズ26でコリメート化された光は、コリメータ板27のピンホールを通過することにより細く絞られた平行ビームとなる。
【0135】
コリメータ板27のピンホールを通過した光は測定領域(筒状体が形成された領域)32に照射される。測定領域32に照射された光は、測定領域32を透過する。透過した測定光は分光器29を通過して各波長の光に分光され、光検出器33で受光される。
【0136】
データ処理装置31は、測定領域32に検体が無い状態で照射する光の各波長の光強度をデータとして予め与えられている。よって、データ処理装置31により、予め与えられているデータと光検出器33で検出した各波長の光強度とを比較することで、測定領域32における各波長の反射率の分光特性(透過率スペクトル)等を求めることができる。
【0137】
尚、上記反射光学系及び透過光学系の構成において、上記光源25は、ハロゲンランプ等の白色光を照射するものが望ましいが、測定に用いる波長域の光を含むものであればよい。また、ピンホールを通過した平行ビームは、ある偏光面を有する直線偏光や楕円偏光、円偏光等でもよい。
【0138】
更には、上記各種偏光状態にするための光学部品(例えば、λ/2板等)は必要に応じて配置してもよい。尚、本実施の形態においては、光(電磁波)の電界の振動面を偏光面と定義し、その電界の方向を偏光方向と定義する。
【0139】
また、光検出器33は、複数の受光面を有するフォトダイオードアレイ、CCDやプラズモン現象を利用した受光器等によって構成することができる。
【0140】
次に、
図3により、上記局在SPRセンサ24及び34における測定領域32について詳細に説明する。
【0141】
図3(a)は測定領域32を拡大して示す平面図であり、
図3(b)は
図3(a)A−A線矢視断面図である。
【0142】
測定領域32においては、金属層52の表面に複数の筒状体45(金属薄膜による筒状体、破線丸印内)が形成されている。
【0143】
このような配置のもとで測定領域32に光が垂直入射すると、筒状体45に光が入射し、筒状体45の内部や周辺に電界が生じる。筒状体45を有する金属層52に入射した光は、筒状体45の内部および周辺において電界を生じ、その電界と金属層52内部の自由電子の固有振動とが結合することで、局在型SPRが発生する。よって、金属層52に入射した光のエネルギーが局在型SPRによって筒状体45へ集中し、金属層52へ入射した光の一部が吸収される。
【0144】
この結果、光検出器33で受光した光から求めた反射率若しくは透過率はある特定の波長(共鳴波長)で小さくなる。この特定の波長は、検査試料溶液の屈折率によって変化するので、反射率の極小点の波長又はその変化を調べることで検査試料溶液に含まれる誘電体物質の屈折率や種類等を検査することができる。
【0145】
また、特定のタンパク質を特異的に結合させる抗体等を用いることにより、検査試料溶液に含まれる特定のタンパク質の有無や含有量等を検査することができる。
【0146】
尚、このような測定領域32において、筒状体45の口径や深さは均一に揃っていてもよいし、不均一であってもよい。
【0147】
(IV)構造体の製造方法
本発明に係る構造体の製造方法は、少なくとも(i)液体塗布工程と、(ii)光照射工程と含む方法である。以下の説明では、(i)液体塗布工程と、(ii)光照射工程と、(iii)構造体の型の製造工程と、(iv)型を用いた構造体の複製工程と、を含む態様について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0148】
〔液体塗布工程〕
上記液体塗布工程は、光応答性材料上に、粒子状物質非含有の液体を塗布する工程である。
【0149】
ここで、光応答性材料は「(I)構造体」にて例示したものと同じものを用いることができる。
【0150】
また上記「粒子状物質非含有の液体」とは、粒子状の物質を実質的に含有しない液体を意味する。「粒子状の物質」とは、液体中において粒子状の固体を意味する。特にその平均粒径が1nm〜100μmの範囲内の物質を意味する場合がある。上記「平均粒径」は、一次粒子径の平均粒径を意味し、BET法(比表面積法)により測定され得る。また「実質的に含有しない」とは、1nm〜100μmの物質を検出し得る検出手段(例えば、粒度分布測定機)で検出されないことを意味する。
【0151】
また、上記「粒子状の物質」としては、液体中において粒子状の固体として存在する物質であれば特に限定されず、金属粒子の様な剛体や、動物細胞のような非常に柔軟な物体を意味する。上記「粒子状の物質」としてより具体的には、無機材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1つの材料からなる粒子状の物質や、金属粒子、金属酸化物粒子、半導体粒子、セラミック粒子、プラスチック粒子、又はこれらの2以上の材料からなる(例えば、2種材料の混合体又は重層構造体)粒子状の物質が例示される。
【0152】
上記金属粒子としては、例えば、金、銀、銅、アルミ、白金等が挙げられる。金属酸化物粒子としては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられる。プラスチック粒子としては、例えば、ポリスチレン粒子、アクリル粒子等が挙げられる。
【0153】
本工程において使用する「液体」としては、水、メタノールやエタノール等のアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、シクロヘキサノンやアセトン等の光応答性材料を溶解し得る有機溶媒や、水と上記有機溶媒との混合物が挙げられる。
【0154】
液体の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、スポイト等で単に添加するだけでもよいし、また、スピンコート法、スプレー法、ディップコーティング法等の公知の方法を用いることができる。
【0155】
本発明に係る構造体の製造方法においては、液体を塗布後、当該液体上にフィルムまたは板状物質を置いて液体の厚みを一定に保つ操作を行ってもよい。上記フィルムまたは板状物質は透明でも不透明であってもよい。
【0156】
なお、本発明に係る構造体の製造方法においては、上記液体塗布工程の前に、基板(例えば、ガラス、アクリル樹脂、アモルファスカーボン、結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等からなる基板)の表面に光応答性材料の膜を形成する工程(「光応答性材料膜形成工程」という)が含まれていてもよい。光応答性材料膜形成工程は、例えば、光応答性材料を適当な有機溶媒(テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、シクロヘキサノンやアセトン等の光応答性材料を溶解し得る有機溶媒)に溶解した溶液を、スピンコート法、スプレー法、ディップコーティング法等の公知の方法により、上述の基板上に塗布することによって行われ得る。
【0157】
また上記の方法によって形成された光応答性材料の膜は、
アニーリングされる。上記「アニーリング」とは、光応答性材料の膜中に含まれている溶媒を加熱することにより揮発させるプロセスのことである。アニーリングの加熱温度としては、適宜好ましい条件が採用され得る。アニーリングの加熱温度は、例えば、光応答性材料のガラス転移点前後であってもよく、室温付近であってもよい。またアニーリングは、大気圧条件下で行われても、また減圧条件下で行われてもよい。
【0158】
上記のようにして形成された光応答性材料の膜は、すぐに上記液体塗布工程が実施されてもよいし、しばらくの間放置された後に液体塗布工程が実施されてもよい。放置する際の雰囲気温度は、室温であっても、室温以上であっても、また室温以下であってもよい。また必要に応じて湿度が制御された条件下で放置されてもよい。
【0159】
図14にアニーリング時間と形成される筒状体のプロファイルとの関係を検討した結果を示す。
図14(a)、(b)、(c)は、光応答性材料膜形成工程後の光応答性材料をそれぞれ真空条件下、80℃で10分、60分、20時間、アニーリングした際にできる構造体のAFM写真である。アニーリング時間が長くなればなるほど、筒状体の開口部の口径が小さくなり、フジツボ体の内壁の水平面に対する角度が垂直に近くなる(すなわち寸胴になる)という傾向が見られた。またデータは省略するが、上記液体塗布工程までの放置時間が長くなればなるほど、アニーリング時間が長くなればなるほど、筒状体の開口部の口径が小さくなり、フジツボ体の内壁の水平面に対する角度が垂直に近くなる(すなわち寸胴になる)という傾向が見られた。よって、アニーリング時間や放置時間を制御することによって、構造体のプロファイルを制御できる可能性が示唆された。
【0160】
〔光照射工程〕
光照射工程は、上記液体塗布工程によって液体が塗布された光応答性材料に対して、光を照射する工程である。言い換えれば、粒子状物質非含有の液体(以下、適宜「液体」という)を光応答性材料の表面に塗布した後、液体が乾燥するまでの間に光照射を行う工程である。
【0161】
また上記液体塗布工程後の光応答性材料を、塗布された液体が完全に蒸発しない程度に乾燥させた後に、光照射工程を行ってもよい。光照射時の光応答性材料上に存在する液体の残存量を制御することによって、構造体の形状(筒状体の開口部の口径、筒状体の密度、筒状体の高さ、筒状体の凹部の深さなど)を制御することができる。乾燥の方法は、特に限定されるものではなく、液体塗布工程後の光応答性材料を乾燥炉内に入れて加熱しても良いし、ドライヤーなどで風乾してもよいし、減圧による乾燥を行ってもよいし、また自然乾燥させてもよい。
【0162】
上記光照射の時間は、得ようとする構造の形状や、光の種類や強度に合わせて適宜調整すればよい。また、光の照射方向も特には限定されず、光応答性材料の裏面(液体が塗布されていない側)から光を照射してもよいし、液体が塗布された側から光照射してもよい。
【0163】
図16−18を用いて光照射工程の一実施形態を説明する。本発明はこれに限定されるものではない。
図16は、スライドガラス基板上に光応答性材料膜(アゾベンゼンポリマー薄膜)が形成され、さらにその上に液体が塗布されている。スライドガラスのアゾベンゼンポリマー薄膜と面していない面にはアルミ製のマスク(円形の孔が備えられている)が接している。LEDランプからの光は簡易集光レンズで集光され、アルミ製のマスクの孔を通って、アゾベンゼンポリマー薄膜に照射される。そしてアゾベンゼンポリマー薄膜の光が照射されている領域に筒状体が形成される。
図16に示された態様は、基板側から光が照射される態様である。
【0164】
図17は、スライドガラス(カバー)上に液体を塗布し、スペーサー(例えばスライドガラス片)が置かれている。そしてスライドガラス基板上に光応答性材料膜(アゾベンゼンポリマー薄膜)が形成された基板を、アゾベンゼンポリマーが液体と接触するようにスペーサーの上に置く。スライドガラス(カバー)の液体と面していない面にはアルミ製のマスク(円形の孔が備えられている)が接している。LEDランプからの光は簡易集光レンズで集光され、アルミ製のマスクの孔を通って、液体−アゾベンゼンポリマー薄膜の順に照射される。そしてアゾベンゼンポリマー薄膜の光が照射されている領域に筒状体が形成される。
図17に示された態様は、液体側から光が照射される態様である。
【0165】
なお、液体側からアゾベンゼンポリマー薄膜に光が照射される態様は、
図18に示すような態様であってもよい。つまり、スライドガラス基板上に光応答性材料膜(アゾベンゼンポリマー薄膜)が形成された基板に対して、簡易集光レンズで集光されたLEDランプからの光を照射してもよい。
【0166】
なお、光の照射時間を短くすることで、
図15に示したごとく、地中に埋まったタイヤの一部を地上に引っ張り出したような形状(換言すれば、三日月状)の構造体を作製することが可能となる。本発明は、本発明に係る構造体の製造方法により製造された構造体を全て包含するため、上記三日月状の構造体も本発明の範囲に含まれる。ここで
図15(a)は光照射1秒後にできる構造体のAFM像であり、(b)は光照射5秒後にできる構造体のAFM像であり、(c)は光照射10秒後にできる構造体のAFM像であり、(d)は光照射15秒後にできる構造体のAFM像であり、(e)は光照射25秒後にできる構造体のAFM像であり、(f)は光照射30秒後にできる構造体のAFM像であり、(g)は光照射45秒後にできる構造体のAFM像であり、(h)は光照射60秒後にできる構造体のAFM像であり、(i)は光照射300秒後にできる構造体のAFM像である。
図15(a)〜(d)までにおいて、特に三日月状の構造が観察される。
【0167】
照射する光としては、光変形を起こす材料との組み合わせにおいてミスマッチングがない限り、伝搬光、近接場光、又はエバネッセント光等の任意の照射光を利用できる。伝搬光としては、自然光、レーザー光等を利用できる。伝搬光、近接場光、又はエバネッセント光として、その偏光特性を利用できる。
【0168】
照射光の波長や光源は限定されないが、波長に関しては、光変形を起こす材料の吸収効率の高い波長が好ましい。よって、紫外光(波長300〜400nm)が好ましいが、可視光(波長400〜600nm)を照射しても良い。可視光を照射する場合は、可視光の照射により上記固体の光固定化が可能な光応答性材料を用いることが好ましい。また、尖頭出力の高いパルス光を使用することもできる。
【0169】
また、上記光照射工程は、液体塗布工程後、すぐに実施されてもよいし、しばらく放置された後に光照射工程が実施されてもよい。放置する際の雰囲気温度は、室温下であっても、室温以上であっても、また室温以下であってもよい。また必要に応じて湿度が制御された条件下で放置されてもよい。
【0170】
〔コロナ放電処理工程〕
本発明に係る構造体の製造方法には、光照射工程の後にコロナ放電処理を行う工程(コロナ放電処理工程)が含まれていても良い。コロナ放電処理を行うことによって、所望の構造体を得ることができる。例えば、コロナ放電処理によって、筒状体の隆起部分の高さをより高くすることができる。コロナ放電処理方法は一般的なコロナ放電処理方法を用いることができる(例えば、Optics Letters, Vol. 26, No. 1, January 1, 2001, “Diffraction efficiency increase by corona discharge in photoinduced surface relief gratings on an azo polymer film”参照)。また、所望の構造が得られるように、コロナ放電の強さ、処理時間を調節すればよい。
【0171】
コロナ放電処理工程自体は所望の構造を得るために、必要によりコロナ放電処理を行えばよく、コロナ放電処理をする必要がなければ行わなくてもよい。
【0172】
〔構造体の型の製造工程〕
構造体の型の製造工程とは、上記光照射工程により得られた構造体(以下、第一の構造体と記す)の表面を完全に覆うように熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を塗布し、当該熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を硬化後、剥離することによって、第一の構造体の型となる第二の構造体を製造する工程である。
【0173】
上記熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂としては、一般に用いられる樹脂を使用することができるが、熱硬化型樹脂については、光応答性材料のガラス転移温度より低い熱硬化温度を有するものを使用することが好ましい。本発明において好ましい熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂、特にポリジメチルシロキサンや、フェノ-ル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジリアルフタレート樹脂、ポリウレタン、ポリイミドなどが利用可能であり、光硬化性樹脂としてはシリコーン樹脂、ポリイミド、アクリル系樹脂などが利用可能である。また上記熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂には、屈折率を調整した樹脂(例えば、無機ナノ粒子、有機ナノ粒子、または金属ナノ粒子を含有したポリマー材料や、分極率の大きい元素(リン、硫黄、セレン等)を含む原子団を含むように分子設計をされたポリマー材料)も利用可能である。上記屈折率を調整した樹脂を用いることで、金属を蒸着した際の局在表面プラズモン共鳴電場の増幅効果がより大きくなる(傾向にある)というメリットがある。さらに本発明においては光硬化性樹脂としては、光を吸収して硬化する樹脂のみならず、アゾベンゼンポリマーのように光を吸収して流動性が増し、光を遮断することで硬化するものも含む意味である。よって本工程においてアゾベンゼンポリマーをも用いることができる。アゾベンゼンポリマーを用いることで、可視光波長域での屈折率が高いため、金属を蒸着した際の局在表面プラズモン共鳴電場の増幅効果がより大きくなるというメリットがある。
【0174】
なお、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂を本工程に用いる場合、泡が樹脂に発生する場合があるため、樹脂を構造体に塗布した前後で脱泡工程を行うことが好ましい。脱泡工程は、例えば硬化前の樹脂を減圧下に置くことにより行われる。次の複製工程においても同じく脱泡工程が行われることが好ましい。
【0175】
〔型を用いた構造体の複製工程〕
型(第二の構造体)を用いた構造体の複製工程は、上記第二の構造体における第一の構造体の型となる部分に、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を充填し、当該熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を硬化後、剥離することによって、第一の構造体の複製物である第三の構造体を得る工程である。
【0176】
具体的には、上記第二の構造体の表面に、光(紫外線)硬化樹脂又は熱硬化型樹脂を塗布し、光(紫外線)を照射又は熱をかけて硬化させた後、当該樹脂を剥離させることによって、光応答性材料表面に形成した形状とほぼ同じ形状を有する、本実施の形態に係る構造体(第三の構造体)を得ることができる。なお、アゾベンゼンポリマーを光硬化性樹脂として用いた場合には、上記第二の構造体の表面に、光を照射して軟化させたアゾベンゼンポリマーを塗布し、その後、光の照射を止めることで硬化させてもよい。
【0177】
なお、複製物にあたる第三の構造体は、光応答性材料表面に形成された構造体と全く同じである場合のみならず、転写率の大小によって、得られる構造体の形状が異なる場合もあるが、平面部、筒状体面内の配置パターンはほぼ同様になる。
【0178】
また上述の説明では、「構造体の型の製造工程」と、「型を用いた構造体の複製工程」とを含む場合について説明したが、これに限るものではない。これらの工程を行わずに、液体塗布工程と、光照射工程とから構造体を作製してもよい。
【0179】
但し、本実施形態のように、型を製造して、当該型により、光応答性材料表面に形成した構造体を複製する場合は、構造体を構成する材料が光応答性材料に限定されず、また容易に量産することができるため、特に効果が大きい。すなわち型を用いた構造体の複製工程を複数回繰り返して行うことで、容易に構造体を量産することができるといえる。
【0180】
なお、上記では光応答性材料を用いた製造方法について説明したが、熱応答性材料を用いた製造方法については実施例7が参照される。
【0181】
(V)局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造方法
本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造方法は、本実施の形態に係る構造体の上述の製造方法により構造体を製造する工程と、上記工程で得られた構造体の表面を金属で被覆して上記構造体の形状が反映された形状を有する金属層を形成する工程とを含む。
【0182】
〔構造体を製造する工程〕
構造体を製造する工程は、「(IV)構造体の製造方法」で記載した方法により構造体を製造する工程である。よって、この工程の説明は「(IV)構造体の製造方法」の説明を援用することができる。
【0183】
〔金属層を形成する工程〕
金属層を形成する工程とは、上記構造体を製造する工程で得られた構造体の表面を金属で被覆して上記構造体の形状が反映された形状を有する金属層を形成する工程である。金属層の形成は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の公知の方法により行うことができる。
【0184】
なお、スパッタリングや蒸着により堆積させる金属層の厚みが薄い場合には、センサ用チップの表面全面に金属層が形成しない場合も起こり得るが、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは、そのような場合でも局在型表面プラズモン共鳴現象は誘起される。
【0185】
〔局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造方法の例〕
以下、
図4により、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造方法の一例について詳細に説明する。ただし本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の説明は構造体の製造方法の実施の形態の説明としても一部参酌され得る。
【0186】
まず、透明基板46の上にスピンコータ等によって光応答性材料の溶液を塗布して、光応答性材料からなる層(光応答性材料層)48を形成する(
図4(a)参照)。
【0187】
次に、粒子状物質非含有の液体(水等)54を、光応答性材料層48上に滴下する(
図4(b)参照)。所定の光を透明基板46側から照射した後(
図4(c)参照)、光応答性材料層48を自然乾燥させて、筒状体を有する基板49を作製する(
図4(d)参照)。
【0188】
次いで、基板49の上に熱硬化性樹脂を滴下し、熱風オーブン中に放置し、硬化後、剥離させて筒状体の逆転写形状を有する熱硬化性樹脂基板50を作製する(
図4(e)参照)。そして、紫外線硬化樹脂を熱硬化性樹脂基板50上に滴下し、光硬化後に剥離させて筒状体を有する透明基板51を作製する。
【0189】
このようにして得られた筒状体を有する透明基板51の表面に、スパッタリングによってAu、Ag等の金属を堆積させて筒状の形状を反映するように金属層52を成膜し、
図4(f)のようなセンサ用チップ53の基板部分を得ることができる。
【0190】
尚、筒状体を有する透明基板51の表面と金属層52との密着性が不十分である場合には、筒状体を有する透明基板51と金属層52との間にTi、Cr等の密着層を設けてもよい。
【0191】
また、反射光の光量を十分得るためには、金属層52の厚さは10nm以上であることが望ましい。但し、金属層52があまり厚いと、入射光が透過しなくなってしまうことやコストや作製スループットが良くないため、現実的には10〜100nm程度の膜厚が望ましい。
【0192】
以上のように、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造方法では、一旦製造された光応答性材料上の筒状体を備える構造体に、熱又は光硬化樹脂を塗布し、硬化後に剥離させることで容易に構造体の型となる構造体を大量に生産することができる。
【0193】
そして、得られた型となる構造体に、更に熱又は光硬化性樹脂を塗布し、剥離させることで光応答性材料上の表面形状と同じ形状を有する構造体を得ることができる。
【0194】
また、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造方法では、大掛かりな装置は必要ないため、設備投資額が殆どかからず、量産性に優れているため、高精度のセンサ用チップを低コストで生産することができる。
【0195】
尚、上述の説明では、光応答性材料を塗布する基板として透明基板46を用いた場合について説明したが、これに限るものではない。光を光応答性材料側に照射する場合には、透光性のない基板を用いることもできる。
【0196】
また、上述の説明では、最終的に得られる局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの基板として透明基板51を用いているが、これに限るものではない。局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップで透過率を測定しない場合には、透光性のない基板を用いることもできる。
【0197】
更には、上述の説明では、熱硬化性樹脂を用いて構造体の型を作製し、その後、当該型に紫外線硬化性樹脂を塗布して最終的な局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの基板を作製する場合について説明したが、これに限るものではない。紫外線硬化性樹脂等の光硬化性樹脂を用いて構造体の型を作製し、その後、当該型に熱硬化性樹脂を塗布して最終的な局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの基板を作製してもよいし、どちらも紫外線硬化性樹脂等の光硬化性樹脂を用いてもよいし、どちらも熱硬化性樹脂を用いてもよい。またアゾベンゼンポリマーも構造体の型の作製、局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの基板の作製に利用することができる。
【0198】
尚、これまでの局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップでは金属ナノ微粒子を基板上に固定化するために、基板表面を化学修飾しなければならず、金属ナノ微粒子固定化工程が煩雑で、効率的に製造することが難しかった。これに対し、本実施の形態に係る局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造方法では、金属層を連続的に形成することができるので、効率的に製造することができる。つまり、光応答性材料上に液体を滴下し、光異性化に伴う物質移動とが誘起される波長の光を照射する等で得られる、平面部および筒状体を備えた基板の上に蒸着、スパッタ等のプロセスで金属膜を形成することで、平面部および筒状体を備えた形状を効率的に形成することができる。
【0199】
また、近年、サブミクロンから数10ナノメーターサイズの微小な凹部又は凸部を形成する方法としてナノインプリント法がよく使用されている。しかしながら、ナノインプリント法では、スタンパやインプリント装置が必要であり、量産性に優れているとは言え、初期設備投資額が高いためローコストで生産できるとは言えない。また、スタンパには凹部又は凸部のどちらか一方のみが形成されており、凸部及び凹部の両方を並存させたスタンパの製作は難しく、サブミクロン程度のサイズになるとスタンパからの離型性が悪いため、ナノインプリント法では複雑な形状を生産することは困難である。
【0200】
尚、局在型表面プラズモン共鳴センサは、上記局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを用いて公知の方法により製造することができる。
【実施例】
【0201】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0202】
〔実施例1:構造体の製造−1〕
光応答性材料として、既述のPOT1を用い、当該アゾポリマー誘導体薄膜(厚み100nm)をスピンコート法でガラス基板上に形成した。
【0203】
形成されたアゾポリマー誘導体薄膜に対してアニーリング(150℃で10分(常圧))を行った。
【0204】
上記アゾポリマー誘導体薄膜上に純水1cc滴下した後、波長470nmの光を40mW/cm
2の強度で5分間照射した。
【0205】
照射後、純水を除去し、光照射後のアゾポリマー誘導体薄膜を風乾した後に、表面をAFMで観察した。その結果を
図5に示す。
【0206】
得られた構造体における筒状体は、平均口径が690nm、深さ(平均値)が180nm、筒状体の開口部の内径Aと筒状体の開口部からの深さの中間点における内径Bとの比(A/B)が1.78であった。また得られた構造体の筒状体の平面部における分散密度は、100μm四方当たり25,000個であった。
【0207】
得られた構造体表面に、真空蒸着法により100nm厚みの金を蒸着して、センサ用チップを作製した。当該センサ用チップの透過スペクトルを測定したところ、プラズモン共鳴由来の吸収ピークが見られた。表面に屈折率の異なる液体(水、トリエチレングリコール)をそれぞれ滴下し、透過スペクトル測定を行い、ピークトップの値で正規化したグラフを
図6に示す。
【0208】
センサ用チップ表面の液体の屈折率に対する透過スペクトルのピークシフト量の変化率を算出してセンサ用チップの感度を測定したところ、154RIU(Refractive Index Unit)であった。よって、本実施例に係るセンサ用チップは、透過型であると共に、高感度のプラズモン共鳴センサであるということがわかった。
【0209】
〔実施例2:構造体の製造−2〕
透明基板上にスピンコータによって、光応答性材料である実施例1で用いた物と同じアゾポリマー誘導体POT1を50nmの厚みで塗布しアゾポリマー誘導体薄膜を形成した。
【0210】
形成されたアゾポリマー誘導体薄膜に対してアニーリング(150℃で10分(常圧))を行った。
【0211】
上記アゾポリマー誘導体薄膜上に純水1cc滴下した後、波長470nmの光を30mW/cm
2の強度で5分間照射した。
【0212】
照射後、純水を除去し、光照射後のアゾポリマー誘導体薄膜を風乾した後に、表面をAFMで観察した。その結果を
図7に示す。
【0213】
得られた構造体における筒状体は、平均口径が350nm、深さ(平均値)が170nm、筒状体の開口部の内径Aと筒状体の開口部からの深さの中間点における内径Bとの比(A/B)が1.20であった。また得られた構造体の筒状体の平面部における分散密度は、100μm四方当たり70,000個であった。
【0214】
得られた構造体表面に、真空蒸着法により100nm厚みの金を蒸着して、センサ用チップを作製した。当該センサ用チップの透過スペクトルを測定したところ、プラズモン共鳴由来の吸収ピークが見られた。センサ用チップの表面に屈折率の異なる液体(水、ポリジメチルシロキサン、トリエチレングリコール、グリセロールジグリシジル)をそれぞれ滴下し、透過スペクトル測定を行い、ピークトップの値で正規化したグラフを
図8に示す。また、横軸にセンサ用チップ上に滴下した液体の屈折率を、縦軸にプラズモン共鳴吸収由来のスペクトルのピーク波長のシフト量をとったグラフを
図9に示す。
図9のデータについて直線近似し、直線の傾きからセンサ用チップの感度を算出したところ、204RIUとなった。よって、本実施例に係るセンサ用チップは、透過型であると共に、高感度のプラズモン共鳴センサであるということがわかった。
【0215】
〔実施例3:構造体の製造−3〕
実施例2と同様にして構造体の製造を行った。この時に形成された構造体のうち任意に選択された4つの構造体のプロファイルを測定した(実験Lot No.302-1)。
【0216】
光照射する前にアニーリング(150℃で10分(常圧))した後、12時間室温で放置した以外は、実験Lot No.302-1と同様にした。この時に形成された構造体のうち任意に選択された2つの構造体のプロファイルを測定した(実験Lot No.303-1)。
【0217】
これらの結果を表1に示す。
【0218】
【表1】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0219】
〔実施例4:センサチップを用いたバイオセンシング−1〕
光応答性材料として、既述のPOT1を用い、当該アゾポリマー誘導体薄膜(厚み50nm)を、ガラス基板をクロロホルム溶媒中で1分間超音波洗浄した後に、スピンコート法で当該ガラス基板上に形成した。
【0220】
形成されたアゾポリマー誘導体薄膜に対してアニーリング(150℃で10分(常圧))を行った。
【0221】
上記アゾポリマー誘導体薄膜上に純水1cc滴下した後、波長470nmの光を40mW/cm
2の強度で5分間照射した。
【0222】
照射後、純水を除去し、光照射後のアゾポリマー誘導体薄膜を風乾した。
【0223】
得られた構造体表面に、真空蒸着法により100nm厚みの金を蒸着して、センサ用チップを作製した。当該センサ用チップの任意の箇所について断面構造を断面TEM法にて観察した結果を
図19〜25に示す。
図19はセンサ用チップの平面SEM像であり、
図20は
図19に示されるセンサ用チップのP−P’断面TEM像であり、
図21は
図19に示されるセンサ用チップのQ−Q’断面TEM像であり、
図22は
図19に示されるセンサ用チップのR−R’断面TEM像であり、
図23は
図19に示されるセンサ用チップのS−S’断面TEM像であり、
図24は
図19に示されるセンサ用チップのT−T’断面TEM像であり、
図25は
図19に示されるセンサ用チップのU−U’断面TEM像である。なお
図20〜25中に基板、筒状体、金属層をそれぞれ表示する。
【0224】
図20に示された筒状体のプロファイルをAFMで測定したところ、深さが176nm、筒状体の開口部の内径A(587nm)と筒状体の開口部からの深さの中間点における内径B(529nm)との比(A/B)が1.11であった。
【0225】
また
図21に示された筒状体のプロファイルをAFMで測定したところ、深さが128nm、筒状体の開口部の内径A(503nm)と筒状体の開口部からの深さの中間点における内径B(423nm)との比(A/B)が1.19であった。
【0226】
また
図22に示された筒状体のプロファイルをAFMで測定したところ、深さが148nm、筒状体の開口部の内径A(498nm)と筒状体の開口部からの深さの中間点における内径B(385nm)との比(A/B)が1.29であった。
【0227】
また
図23に示された筒状体のプロファイルをAFMで測定したところ、深さが137nm、筒状体の開口部の内径A(394nm)と筒状体の開口部からの深さの中間点における内径B(319nm)との比(A/B)が1.23であった。
【0228】
また
図24に示された筒状体のプロファイルをAFMで測定したところ、深さが136nm、筒状体の開口部の内径A(418nm)と筒状体の開口部からの深さの中間点における内径B(297nm)との比(A/B)が1.40であった。
【0229】
また
図25に示された筒状体のプロファイルをAFMで測定したところ、深さが208nm、筒状体の開口部の内径A(930nm)と筒状体の開口部からの深さの中間点における内径B(809nm)との比(A/B)が1.15であった。
【0230】
上記で得られたセンサ用チップ表面に、C反応性タンパク(CRP)の抗体を1μg/mlの濃度で固定化した後、1μg/mLの濃度の牛血清アルブミン(BSA)でブロッキングを施した。10pg/mL、100pg/mL、1ng/mLの各濃度のCRP抗原溶液(溶媒:pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水)を用意し、まず10pg/mLの濃度のCRP抗原溶液をセンサチップ表面に滴下し、CRPの抗原抗体反応を行った(反応時間:15分間)。その後、センサチップ表面をリン酸緩衝生理食塩水および純水で洗浄したのち、センサチップの透過スペクトルを測定した。その結果、抗原を反応させなかった場合(以下、「ブランク」という)、ピーク波長は642.1nmであったのに対して、抗原を反応させた場合ピーク波長は642.8nmとなり、ピーク波長が0.7nm長波長側にシフトしていた(
図26を参照のこと)。
【0231】
次に、100pg/mLのCRP抗原溶液をセンサチップ表面に滴下し、同様に抗原抗体反応後のセンサチップ表面の透過スペクトルを計測したところ、ピーク波長は643.3nmとなり、ブランクに比べて1.2nm長波長側にシフトしていた(
図26をご参照のこと)。
【0232】
更に、1ng/mLのCRP抗原溶液をセンサチップ表面に滴下し、同様に抗原抗体反応後のセンサチップ表面の透過スペクトルを計測したところ、ピーク波長は644.1nmとなり、ブランクに比べて1.9nm長波長側にシフトしていた(
図26をご参照のこと)。
【0233】
したがって、本実施例のセンサチップを用いることで、10pg/mLという極めて低濃度であってもCRPを検出できることがわかった。
【0234】
なお、CRPは炎症性疾患のマーカーとして知られている。
【0235】
〔実施例5:センサチップを用いたバイオセンシング−2〕
実施例4と同様にして得られたセンサチップを用いて血液凝固因子であるフィブリノーゲンの検出を行った。
【0236】
上記で得られたセンサ用チップ表面に、フィブリノーゲン抗体を1μg/mlの濃度で固定化した後、1μg/mLの濃度の牛血清アルブミン(BSA)でブロッキングを施した。10pg/mL、100pg/mL、1ng/mLの各濃度のフィブリノーゲン抗原溶液(溶媒:pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水)を用意し、まず10pg/mLの濃度のCRP抗原溶液をセンサチップ表面に滴下し、フィブリノーゲンの抗原抗体反応を行った(反応時間:15分間)。その後、センサチップ表面をリン酸緩衝生理食塩水および純水で洗浄したのち、センサチップの透過スペクトルを測定した。その結果、抗原を反応させなかった場合(以下、「ブランク」という)、ピーク波長は662.0nmであったのに対して、抗原を反応させた場合ピーク波長は663.5nmとなり、ピーク波長が1.5nm長波長側にシフトしていた(
図27を参照のこと)。
【0237】
次に、100pg/mLのフィブリノーゲン抗原溶液をセンサチップ表面に滴下し、同様に抗原抗体反応後のセンサチップ表面の透過スペクトルを計測したところ、ピーク波長は665.5nmとなり、ブランクに比べて3.5nm長波長側にシフトしていた(
図27をご参照のこと)。
【0238】
更に、1ng/mLのCRP抗原溶液をセンサチップ表面に滴下し、同様に抗原抗体反応後のセンサチップ表面の透過スペクトルを計測したところ、ピーク波長は667.0nmとなり、ブランクに比べて5nm長波長側にシフトしていた(
図27をご参照のこと)。
【0239】
したがって、本実施例のセンサチップを用いることで、10pg/mLという極めて低濃度であってもフィブリノーゲンを検出できることがわかった。
【0240】
〔実施例6:センサチップを用いたバイオセンシング−3〕
実施例4と同様にして得られたセンサチップを用いて糖尿病のマーカーであるレプチンの検出を行った。
【0241】
上記で得られたセンサ用チップ表面に、レプチン抗体を1μg/mlの濃度で固定化した後、1μg/mLの濃度の牛血清アルブミン(BSA)でブロッキングを施した。100pg/mL、10ng/mLの各濃度のレプチン抗原溶液(溶媒:pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水)を用意し、まず100pg/mLの濃度のレプチン抗原溶液をセンサチップ表面に滴下し、レプチンの抗原抗体反応を行った(反応時間:15分間)。その後、センサチップ表面をリン酸緩衝生理食塩水および純水で洗浄したのち、センサチップの透過スペクトルを測定した。その結果、抗原を反応させなかった場合(以下、「ブランク」という)、ピーク波長は653.0nmであったのに対して、抗原を反応させた場合ピーク波長は668.0nmとなり、ピーク波長が1.5nm長波長側にシフトしていた(
図28を参照のこと)。
【0242】
次に、10ng/mLのレプチン抗原溶液をセンサチップ表面に滴下し、同様に抗原抗体反応後のセンサチップ表面の透過スペクトルを計測したところ、ピーク波長は689.5nmとなり、ブランクに比べて3.0nm長波長側にシフトしていた(
図28をご参照のこと)。
【0243】
したがって、本実施例のセンサチップを用いることで、100pg/mLという極めて低濃度であってもレプチンを検出できることがわかった。
〔実施例7:アタクチックポリスチレンを用いた場合の構造体および局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップの製造例〕
熱応答性材料としてアタクチックポリスチレン(分子量:2,000g/mol)を用いた。
【0244】
基板(シリコンウェハ)上に、2重量%アタクチックポリスチレン−トルエン溶液をスピンコートし、薄膜を形成した(薄膜厚み:10nm)。
【0245】
上記薄膜を形成された基板を空気雰囲気下70℃で60分間加熱してアニールを行った。
【0246】
上記で得られた構造体の筒状体のプロファイルをAFMで測定したところ、深さが17nm、筒状体の開口部の内径A(647nm)と筒状体の開口部からの深さの中間点における内径B(539nm)との比(A/B)が1.20であった。
【0247】
上記によって得られた構造体に得られた構造体表面に、真空蒸着法により100nm厚みの金を蒸着して、局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを作製した。
【0248】
この局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおける電界集中強度を、FDTD(Finite Difference Time Domain)法によりシミュレーションした。
【0249】
その結果を
図29に示す。
図29によれば、本実施例で得られた構造体により作製された局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップにおいて電場が増幅されることが確認され(
図29の丸囲み部分参照のこと)、確かに局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップとして利用できることが示された。また局在型表面プラズモン共鳴センサ用チップを構成する構造体の材料は特に限定されるものではないということも確認された。