特許第5658173号(P5658173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5658173-湿潤時の潤滑性が維持されたシート 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5658173
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】湿潤時の潤滑性が維持されたシート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20141225BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20141225BHJP
   B05D 5/08 20060101ALI20141225BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20141225BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   B32B27/00 103
   B05D7/24 302R
   B05D5/08 Z
   C08J7/04 ZCER
   C08J7/04CEZ
   C08G18/65 D
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-549965(P2011-549965)
(86)(22)【出願日】2011年1月7日
(86)【国際出願番号】JP2011050209
(87)【国際公開番号】WO2011086980
(87)【国際公開日】20110721
【審査請求日】2013年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-10137(P2010-10137)
(32)【優先日】2010年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-5003(P2010-5003)
(32)【優先日】2010年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】小澤 仁
(72)【発明者】
【氏名】大谷 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】西川 佑亮
【審査官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−334419(JP,A)
【文献】 特開2004−276241(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0121158(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08G 18/65
C08J 7/04
C10M 107/34
C10M 159/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材および前記基材表面上に直接形成されたポリアルキレンオキシド変性物の層を含むシートの製造方法であって、ポリアルキレンオキシド変性物が、ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応して得られるポリアルキレンオキシド変性物であり、ポリアルキレンオキシド変性物が溶媒に溶解している溶液を基材表面に塗布し、ついで、乾燥させてポリアルキレンオキシド変性物の層を形成することを特徴とする、シートの製造方法。
【請求項2】
前記溶液中、溶媒の使用量が、ポリアルキレンオキシド変性物100質量部に対して、150〜2,500質量部である請求項に記載のシートの製造方法。
【請求項3】
溶媒が、有機溶媒と水との混合溶媒である請求項1または2に記載のシートの製造方法。
【請求項4】
有機溶媒が、エタノールおよび/またはイソプロピルアルコールである請求項に記載のシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤時の潤滑性が維持されたシートに関する。さらに詳しくは、本発明は、基材表面上に直接形成されたポリアルキレンオキシド変性物の層を含むシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、かみそりの一部と顔面等との間の抵抗力を減じるために、プラスチック製のかみそり刃カートリッジの一部分に、ポリアルキレンオキシド等の水溶性樹脂を取り付け、含浸させまたは分散させたかみそり刃カートリッジが提案されている(特許文献1)。
また、水溶性樹脂と吸水性樹脂の混合により、水へ浸漬させた際に吸水性樹脂が膨潤し、様々な助剤を放出させるような複合体もウェットシェービング用のスムーサーに用いられることもある(特許文献2)。
【0003】
また、ウェットシェービング器具および医療器具等に用いるポリマー複合材として、水不溶性ポリマーならびに、アルキレンオキシドモノマーおよびエポキシ官能性モノマーから重合された感水性コポリマーを含むポリマー複合材が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開昭54−94961号公報
特許文献2:特表平9−502632号公報
特許文献3:特表2004−509207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のカミソリ刃カートリッジ、特許文献2に記載の複合体、特許文献3に記載のポリマー複合材は、湿潤時にポリアルキレンオキシド等の水溶性樹脂が溶け出ることを利用して、前記複合材等の表面に潤滑性を与えている。
しかしながら、前記水溶性樹脂は熱可塑性樹脂等との相溶性が低く、複合材等の表面に水溶性樹脂が塊状で点在しているだけである。そのため、使用し始めた初期段階の潤滑性には優れるものの、繰り返し使用により点在している水溶性樹脂が塊状で抜け落ち、その潤滑性が短期間で失われてしまう。
さらに、ポリアルキレンオキシド等の水溶性樹脂は、湿潤時に糸曳きやヌメリが生じ易いため、感触が悪くなる。
本発明の目的は、湿潤時において優れた潤滑性と良好な感触を有すると共に、繰り返し使用してもその潤滑性および良好な感触の低下がほとんどないシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアルキレンオキシド変性物の層を含むシートが、潤滑性に優れ、繰り返し使用してもその潤滑性を失わないことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は繰り返し使用しても、優れた潤滑性および良好な感触を維持するシートに関する。より詳しくは、本発明は、基材および前記基材表面上に直接形成されたポリアルキレンオキシド変性物の層を含むシートに関する。また、本発明にかかるシートは、ポリアルキレンオキシド変性物がポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応して得られるポリアルキレンオキシド変性物であることを特徴とする。
【0008】
本発明は、さらに、基材および前記基材表面上に直接形成されたポリアルキレンオキシド変性物の層を含むシートの製造方法も提供する。本発明にかかるシートの製造方法は、ポリアルキレンオキシド変性物が溶媒に溶解している溶液を基材表面に塗布し、ついで、乾燥させてポリアルキレンオキシド変性物の層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるシートは、繰り返し使用しても、その潤滑性および良好な感触が失われることがなく、カミソリに代表されるウェットシェービング器具やカテーテル等の医療器具、船底塗料等に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明にかかるシートの構造を示す概略図。
図2】平均摩擦係数(MIU)を求める方法を示す概略図。
図3】平均摩擦係数の変動(MMD)を求める方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかるシートに用いられるポリアルキレンオキシド変性物は、例えば、ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応して得られる。
【0012】
前記ポリアルキレンオキシド化合物としては、エチレンオキシド基を90質量%以上有するポリアルキレンオキシド化合物が好ましく、エチレンオキシド基を95質量%以上有するポリアルキレンオキシド化合物がより好ましい。エチレンオキシド基が90質量%未満の場合、得られるシートの初期の潤滑性が低くなるおそれがある。
【0013】
また、前記ポリアルキレンオキシド化合物としては、数平均分子量5,000〜50,000のポリアルキレンオキシド化合物が好ましく、数平均分子量10,000〜30,000のポリアルキレンオキシド化合物がより好ましい。数平均分子量が5,000未満のポリアルキレンオキシド化合物を使用した場合、得られるシートの初期の潤滑性が低くなるおそれがある。数平均分子量が50,000を超えるポリアルキレンオキシド化合物を使用した場合、本発明にかかるシートを製造する際、得られるポリアルキレンオキシド変性物の溶媒への溶解性が低くなると共に、その溶液粘度が高くなり、例えば、基材表面へ塗布しにくくなるおそれがある。
【0014】
前記ジオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよび1,9−ノナンジオール等が挙げられる。これらのジオール化合物の中でも、本発明にかかるシートを製造する際、得られるポリアルキレンオキシド変性物の溶媒への溶解性、および、ポリアルキレンオキシド変性物の層の基材への密着性の観点より、エチレングリコールおよび1,4−ブタンジオールが好適に用いられる。これらのジオール化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
前記ジオール化合物の使用割合は、前記ポリアルキレンオキシド化合物1モルに対して、好ましくは1〜2.5モル、より好ましくは1.2〜2.0モルである。ジオール化合物の使用割合が1モル未満の場合、得られるシートを繰り返し使用した際に、潤滑性が維持できなくなるおそれがある。また、ジオール化合物の使用割合が2.5モルを超える場合、得られるポリアルキレンオキシド変性物の溶媒への溶解性が低くなるおそれがある。なお、ポリアルキレンオキシド化合物のモル数は、その質量を数平均分子量で除することにより求めることができる。
【0016】
前記ジイソシアネート化合物としては、同一分子内にイソシアネート基(−NCO)を2個有する化合物であれば特に限定されず、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(HMDI)、3−イソシアナートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、1,8−ジメチルベンゾール−2,4−ジイソシアネート、および、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)等が挙げられる。これらのジイソシアネート化合物の中でも、本発明にかかるシートを製造する際における、ポリアルキレンオキシド変性物の層の基材への密着性の観点、および、得られるシートを繰り返し使用した際の潤滑性の維持に優れる観点から、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(HMDI)および1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が好適に用いられる。これらのジイソシアネート化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
前記ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物のそれぞれの使用割合は、ポリアルキレンオキシド化合物の末端水酸基およびジオール化合物の水酸基の合計モル数に対する、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル数の比[R値=(−NCO基/−OH基)]が、好ましくは0.6〜1.5、より好ましくは0.8〜1.1の範囲にあるように決定される。R値が0.6未満の場合、得られるポリアルキレンオキシド変成物が水溶性になり、得られるシートを繰り返し使用した際に、潤滑性が維持できなくなるおそれがある。R値が1.5を超える場合、本発明にかかるシートを製造する際、得られるポリアルキレンオキシド変性物の溶媒への溶解性が悪くなるおそれがある。なお、ポリアルキレンオキシド化合物のモル数は、その質量を数平均分子量で除することにより求めることができる。
【0018】
ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させる方法としては、例えば、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド等の反応溶媒に溶解や分散させて反応させる方法;粉末状または固体状で両者を均一に混合した後、所定の温度に加熱して反応させる方法等が挙げられる。工業的実施の見地からは、各原料を溶融状態で連続的に供給し多軸押出機中で混合、反応させる方法が好ましい。前記反応の温度としては、70〜210℃であることが好ましい。
【0019】
また、ポリアルキレンオキシド変性物を製造する際、反応を促進させる観点から、反応系内に、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、スタナスオクトエート、トリエチレンジアミン等を少量添加することもできる。
【0020】
かくして、ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させることにより、ポリアルキレンオキシド変性物を得ることができる。
【0021】
本発明にかかるシートに用いられるポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度は、フローテスターを用いて測定した際(条件:170℃、5.0MPa、直径1mm×長さ1mmのダイを使用)、100〜800[Pa・s]であることが好ましく、150〜600[Pa・s]であることがより好ましい。溶融粘度が100[Pa・s]未満の場合、得られるシートの初期の潤滑性が低くなるおそれがある。溶融粘度が800[Pa・s]を超える場合、本発明にかかるシートを製造する際、前記ポリアルキレンオキシド変性物の溶媒への溶解性が低くなると共に、その溶液粘度が高くなり、例えば、基材表面へ塗布しにくくなるおそれがある。
【0022】
また、本発明にかかるシートに用いられるポリアルキレンオキシド変性物は、10〜40[g/g]の吸水能を有することが好ましく、15〜30[g/g]の吸水能を有することがより好ましい。吸水能が10[g/g]未満の場合、本発明にかかるシートを製造する際、前記ポリアルキレンオキシド変性物の溶媒への溶解性が低くなり、また、得られるシートの潤滑性が低くなるおそれがある。吸水能が40[g/g]を超える場合、得られるシートを繰り返し使用した際に、潤滑性が維持できなくなるおそれがある。なお、本発明において吸水能とは、後述の方法により測定した値である。
【0023】
本発明に用いられる基材としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、ナイロン等の樹脂;SUS、鉄等の金属等が挙げられる。これらの基材の中でも、ポリアルキレンオキシド変性物の層との密着性に優れたシートが得られる観点から、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、ナイロンが好適に用いられる。
【0024】
基材およびポリアルキレンオキシド変性物の層を含むシートの製造方法としては、ポリアルキレンオキシド変性物が溶媒に溶解している溶液を基材に塗布後、乾燥する方法;ポリアルキレンオキシド変性物を溶融し、インフレーション法等により形成した層を基材に貼り付ける方法等が挙げられる。本発明においては、ポリアルキレンオキシド変性物の層の基材への密着性の観点から、ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解し、基材に塗布後、乾燥する方法を用いる。この方法は、操作が簡便であり、得られるシートが湿潤時において優れた潤滑性を有すると共にその低下がほとんどなく、感触も良好である観点からも好ましい。
【0025】
前記ポリアルキレンオキシド変性物を溶解する溶媒としては、該ポリアルキレンオキシド変性物を溶解可能な溶媒であれば特に限定されないが、ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液の安定性を向上させる観点から、有機溶媒と水との混合溶媒であることが好ましい。
ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解する際は、必要により加熱してもよい。
【0026】
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;セルソルブ、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、トリエタノールアミン等の含窒素有機溶媒;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。これらの有機溶媒の中でも、ポリアルキレンオキシド変性物の溶解性に優れる観点、および水との相溶性に優れる観点から、エタノールおよびイソプロピルアルコールが好適に用いられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
前記有機溶媒と水との混合割合は、水100質量部に対して、有機溶媒100〜1,100質量部であることが好ましく、200〜850質量部であることがより好ましい。有機溶媒の混合割合が100質量部未満の場合、前記ポリアルキレンオキシド変性物が溶媒に溶解しにくくなるおそれがある。有機溶媒の混合割合が1,100質量部を超える場合、本発明にかかるシートを製造する際、前記ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液の安定性が悪くなり、その結果、均一なポリアルキレンオキシド変性物の層が得られなくなるおそれがある。
【0028】
前記溶媒の使用量は、本発明にかかるシートを製造する際、前記ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液の安定性の観点、均一なポリアルキレンオキシド変性物の層が得られる観点から、ポリアルキレンオキシド変性物100質量部に対して、150〜2,500質量部であることが好ましく、200〜2,000質量部であることがより好ましい。溶媒の使用量が150質量部未満の場合、前記ポリアルキレンオキシド変性物の溶媒への溶解性が低くなる共に、得られる溶液の粘度が高くなり、基材表面へ塗布しにくくなるおそれがある。溶媒の使用量が2,500質量部を超える場合、得られるシートを繰り返し使用した際に、潤滑性が維持できなくなるおそれがある。
【0029】
本発明にかかるシートの製造方法において、ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液の粘度は、B型粘度計を用いて測定した際(条件:25℃、ローターNo.2、6r/min)、50〜500[mPa・s]であることが好ましく、70〜350[mPa・s]であることがより好ましい。溶液の粘度が50[mPa・s]未満の場合、得られるシートを繰り返し使用した際に、潤滑性が維持できなくなるおそれがある。溶液の粘度が500[mPa・s]を超える場合、基材表面への塗布が難しくなり、塗布面に空気を含みやすく、得られるシートの表面状態が悪化するため、感触が悪くなるおそれがある。
【0030】
ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液は、ローラー、刷毛、スプレー等を用いて基材表面に塗布することができる。
前記溶液は、基材表面上の乾燥後のポリアルキレンオキシド変性物量が1〜10[g/m]の範囲になるように、塗布されることが好ましい。ポリアルキレンオキシド変性物の量が1[g/m]未満の場合、得られるシートを繰り返し使用した際に、潤滑性が維持できなくなるおそれがある。ポリアルキレンオキシド変性物の量が10[g/m]を超える場合、得られるポリアルキレンオキシド変性物の層の透明性が低くなると共に、得られるシートがゴワゴワするなど表面状態が悪化するため感触が悪くなるおそれがある。
【0031】
前記ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解する際に、必要により、溶液安定剤;紫外線吸収剤等のポリアルキレンオキシド変性物の層の安定剤;薬効成分、着色用の顔料等を添加してもよい。本発明にかかるシートに用いられるポリアルキレンオキシド変性物は、イオン性を有さないため、塩や種々の薬剤が共存しても、ポリアルキレンオキシド変性物が析出しにくく、前記溶液の粘度も変化しにくい。
【0032】
前記乾燥させる方法としては、特に限定されず、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等の公知の乾燥方法が挙げられる。
【0033】
本発明にかかるシートの構造を示す概略断面図を図1に示す。本発明の製造方法にかかるポリアルキレンオキシド変性物を含む溶液を、基材11の表面に塗布後、乾燥させることにより、基材11の表面上にポリアルキレンオキシド変性物の層12を直接形成して、本発明にかかるシート1を得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、製造例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
[評価方法]
製造例に記載のポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度および吸水能、ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液の粘度、ならびに、実施例および比較例で得られたシートの摩擦物性を、以下の方法に従って評価した。
【0036】
(1)ポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度
ポリアルキレンオキシド変性物1.5gを、フローテスター(株式会社島津製作所製、型番:CFT−500C)を用いて、以下に示す条件で測定した。
荷重 :5.0MPa
測定温度:170℃
ダイ直径:1mm
ダイ長さ:1mm
【0037】
(2)ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能
ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能については、以下の方法により測定した。
約1[g]のポリアルキレンオキシド変性物を精秤(A[g])した後、100[ml]のイオン交換水に室温下(22℃)で、24時間浸漬してゲル化させた。その後、200mesh(孔径:75μm)の金網にてゲルをろ過し、その質量(B[g])を測り、吸水能(B/A[g/g])を算出した。
【0038】
(3)ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液の粘度
B型粘度計を用いて、以下に示す条件で測定した。
測定温度:25℃
ローター:No.2
回転数 :6r/min
【0039】
(4)シートの摩擦物性
実施例等で得られたシートの塗布表面に0.2mLのイオン交換水を滴下した30秒後に、摩擦感テスター(カトーテック株式会社製、型式:KES−SE)を用いて、以下の試験条件下、摩擦係数μをモニターした。
センサー:シリコーン
荷重 :50[g]
速度 :5[mm/秒]
【0040】
(i)平均摩擦係数(MIU)
表面をこする時に感じるすべりやすさ、すべりにくさと相関性がある。この値が大きくなるほどすべりにくくなる。
摩擦係数μのモニター結果から平均摩擦係数(MIU)を求める概略図を、図2に示す。
図2に示すように、シートの塗布面をスキャンして、ポリアルキレンオキシド変性物等の層の表面の摩擦係数μをモニターする。次に、20mmのモニター幅において、摩擦係数μについて積分する(図2の斜線部分)。積分値をモニター幅(20mm)で除することによって、平均摩擦係数(MIU)を求める。
MIUの値が0.3以下のとき、滑り性が良好といえる。
【0041】
(ii)平均摩擦係数の変動(MMD)
表面をこする時に感じるなめらかさ、ざらつき感と相関性がある。この値が大きいほど表面がざらざらしている。
摩擦係数のモニター結果から平均摩擦係数の変動(MMD)を求める概略図を、図3に示す。
図3に示すように、20mmのモニター幅において、平均摩擦係数(MIU)と摩擦係数μとの差異の絶対値について積分する(図3の斜線部分)。積分値をモニター幅(20mm)で除することによって、平均摩擦係数の変動(MMD)を求める。
MMDの値が0.015以下のとき、表面のなめらかさが良好といえる。
【0042】
[1]繰り返し試験
1回目のモニター後、ペーパータオルで表面の水を拭き取り、シートを50℃に設定したオーブンに1時間入れて乾燥した後、上記と同様の条件にて、2回目のモニターを行った。同様にして6回目まで繰り返し、摩擦係数μをモニターした。
【0043】
[2]流水下実験(耐久性試験)
上記6回繰り返した後のシートを、100mL/分の速度にて上方から垂直下方に流れる水道水の下に、水平面に対する傾斜角が30度となるように10分間置いた後に、ペーパータオルで表面の水を拭き取り、再度摩擦係数μをモニターした。
【0044】
[3]ヌメリ感
200mL容のビーカーに計りとった水100mL中に、実施例等により得られたシートを1分間浸漬させた後に、ペーパータオルで表面の水を拭い、ポリアルキレンオキシド変性物等の層の表面を手でこすり、以下の評価基準に従って評価した。
評価基準
○:ヌメリ感なし
△:糸は曳かないがヌメリ感あり
×:ヌメリ感があり、糸を曳く
【0045】
製造例1
80℃に保温された攪拌機を備えた貯蔵タンクAに、十分に脱水した数平均分子量20,000のポリエチレンオキシド100質量部、1,4−ブタンジオール0.90質量部およびジオクチルスズジラウレート0.1質量部の割合で投入し、窒素ガス雰囲気下で攪拌して均一な混合物とした。これとは別に、30℃に保温された貯蔵タンクBにジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを投入し、窒素ガス雰囲気下で貯蔵した。
定量ポンプを用いて、貯蔵タンクAの混合物を500[g/分]の速度にて、貯蔵タンクBのジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを19.4[g/分]の速度にて、110〜140℃に設定した2軸押出機に連続的に供給し(R値=1.00)、押出機中で混合して反応を行い、押出機出口からストランドを出し、ペレタイザーによりペレット化して、ポリアルキレンオキシド変性物を得た。
得られたポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度は320[Pa・s]、吸水能は25[g/g]であった。
【0046】
製造例2
数平均分子量15,000のエチレンオキシド/プロピレンオキシド(質量比:90/10)共重合体を250[g/分]の速度にて、40℃に加熱したエチレングリコールを2.1[g/分]の速度にて、それぞれ40mmφ単軸押出機(L/D=40、設定温度:90℃)に供給して両者を溶融混合した。
吐出口から得られる混合物(均一な溶融状態で吐出しており、LCにて分析して仕込み比で混合していることを確認した)を、30mmφの2軸押出機(L/D=41.5)のホッパー口(設定温度:80℃)へ連続的に供給した。同時に2軸押出機のホッパー口にはジオクチルスズジラウレートを0.5[g/分]の速度にて供給した。
これとは別に、前記2軸押出機のホッパー口の下流側に位置するスクリューバレル部に、30℃に調整したジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを12.4[g/分]の速度にて供給し(R値=0.91)、窒素雰囲気下で連続的に反応させた(設定温度:180℃)。2軸押出機出口から得られるストランドを冷却後、ペレタイザーによりペレット化してポリアルキレンオキシド変性物を得た。
得られたポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度は150[Pa・s]であり、吸水能は20[g/g]であった。
【0047】
[実施例1]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、イソプロピルアルコール144gと水36gを仕込んだ。次に、製造例1と同様にして得られたポリアルキレンオキシド変性物20gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリアルキレンオキシド変性物を溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、180[mPa・s]であった。
耐衝撃性ポリスチレン(略称:HIPS、BASF社製、型番:476L)を射出成型して得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、28[g/m]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、自然乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれるポリアルキレンオキシド変性物の量は、2.8g/mであった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0048】
[実施例2]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、イソプロピルアルコール170gと水20gを仕込んだ。次に、製造例1と同様にして得られたポリアルキレンオキシド変性物10gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリアルキレンオキシド変性物を溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、70[mPa・s]であった。
耐衝撃性ポリスチレン(略称:HIPS、BASF社製、型番:476L)を射出成型して得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、30[g/m]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、自然乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれるポリアルキレンオキシド変性物の量は、1.5g/mであった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0049】
[実施例3]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、エタノール110gと水30gを仕込んだ。次に、製造例2と同様にして得られたポリアルキレンオキシド変性物60gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリアルキレンオキシド変性物を溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、320[mPa・s]であった。
ポリエチレン(略称:PE、住友化学株式会社製、型番:スミカセンG801)を熱プレスして得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、15[g/m]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、自然乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれるポリアルキレンオキシド変性物の量は、4.5g/mであった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0050】
[実施例4]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、エタノール112gと水48gを仕込んだ。次に、製造例2と同様にして得られたポリアルキレンオキシド変性物40gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリアルキレンオキシド変性物を溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、180[mPa・s]であった。
SUS板(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、12[g/m]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、40℃に設定した熱風乾燥機を用いて5分間乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれるポリアルキレンオキシド変性物の量は、2.4g/mであった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0051】
[比較例1]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、イソプロパノール170gと水20gを仕込んだ。次に、水溶性ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製、型番:PEO2、粘度平均分子量1.8万)10gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリエチレンオキシドを溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、880[mPa・s]であった。
耐衝撃性ポリスチレン(略称:HIPS、BASF社製、型番:476L)を射出成型して得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、30[g/m]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、自然乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれる水溶性ポリエチレンオキシドの量は、1.5g/mであった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0052】
[比較例2]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、イソプロピルアルコール164gと水16gを仕込んだ。次に、水溶性ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製、型番:PEO2、粘度平均分子量1.8万)20gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリエチレンオキシドを溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、1430[mPa・s]であった。
耐衝撃性ポリスチレン(略称:HIPS、BASF社製、型番:476L)を射出成型して得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、刷毛で塗布しようとしたが、糸曳きが大きく塗布することができず、シートを得ることができなかった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
(シートの滑り性および表面なめらかさ)
実施例1〜4で得られたシートは、6回目の繰り返し試験でも、0.3以下の平均摩擦係数(MIU)を示し、0.015以下の平均摩擦係数の変動(MMD)を示した。
一方、比較例1で得られたシートは、6回目の繰り返し試験では、0.72と非常に高い平均摩擦係数(MIU)を示し、0.015を超える平均摩擦係数の変動(MMD)を示した。
本発明にかかるシートは、滑り性および表面なめらかさが良好であった。
【0056】
(ポリアルキレンオキシド変性物層の密着性)
実施例1〜4で得られたシートは、10分間の流水下実験でも、0.3以下の平均摩擦係数(MIU)を示し、0.015以下の平均摩擦係数の変動(MMD)を示した。本発明にかかるシートにおいて、平均摩擦係数(MIU)および平均摩擦係数の変動(MMD)がいずれも低いため、ポリアルキレンオキシド変性物層の基材に対する密着性が高いと判断できる。
一方、比較例1で得られたシートは、10分間の流水下実験では、0.87と非常に高い平均摩擦係数(MIU)を示し、0.015を超える平均摩擦係数の変動(MMD)を示した。比較例1で得られたシートにおいて、平均摩擦係数(MIU)および平均摩擦係数の変動(MMD)がいずれも高いため、潤滑性成分としての水溶性ポリエチレンオキシドが水により流されて喪失していると考えられる。よって、水溶性ポリエチレンオキシド層の基材に対する密着性が低いと判断できる。
【0057】
(ヌメリ感)
実施例1〜4で得られたシートはヌメリを生じないため、表面の感触が良好であった。
一方、比較例1で得られたシートはヌメリを生じた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明にかかるシートは、繰り返し使用時においてもその潤滑性が維持されヌメリ感もないため、湿潤時の潤滑性が要求される分野、例えばカミソリに代表されるウェットシェービング器具やカテーテル等の医療器具、船底塗料等に最適に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 本発明にかかるシート
11 基材
12 本発明にかかるポリアルキレンオキシド変性物の層
図1
図2
図3