【実施例】
【0034】
以下に、製造例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
[評価方法]
製造例に記載のポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度および吸水能、ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液の粘度、ならびに、実施例および比較例で得られたシートの摩擦物性を、以下の方法に従って評価した。
【0036】
(1)ポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度
ポリアルキレンオキシド変性物1.5gを、フローテスター(株式会社島津製作所製、型番:CFT−500C)を用いて、以下に示す条件で測定した。
荷重 :5.0MPa
測定温度:170℃
ダイ直径:1mm
ダイ長さ:1mm
【0037】
(2)ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能
ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能については、以下の方法により測定した。
約1[g]のポリアルキレンオキシド変性物を精秤(A[g])した後、100[ml]のイオン交換水に室温下(22℃)で、24時間浸漬してゲル化させた。その後、200mesh(孔径:75μm)の金網にてゲルをろ過し、その質量(B[g])を測り、吸水能(B/A[g/g])を算出した。
【0038】
(3)ポリアルキレンオキシド変性物を溶媒に溶解した溶液の粘度
B型粘度計を用いて、以下に示す条件で測定した。
測定温度:25℃
ローター:No.2
回転数 :6r/min
【0039】
(4)シートの摩擦物性
実施例等で得られたシートの塗布表面に0.2mLのイオン交換水を滴下した30秒後に、摩擦感テスター(カトーテック株式会社製、型式:KES−SE)を用いて、以下の試験条件下、摩擦係数μをモニターした。
センサー:シリコーン
荷重 :50[g]
速度 :5[mm/秒]
【0040】
(i)平均摩擦係数(MIU)
表面をこする時に感じるすべりやすさ、すべりにくさと相関性がある。この値が大きくなるほどすべりにくくなる。
摩擦係数μのモニター結果から平均摩擦係数(MIU)を求める概略図を、
図2に示す。
図2に示すように、シートの塗布面をスキャンして、ポリアルキレンオキシド変性物等の層の表面の摩擦係数μをモニターする。次に、20mmのモニター幅において、摩擦係数μについて積分する(
図2の斜線部分)。積分値をモニター幅(20mm)で除することによって、平均摩擦係数(MIU)を求める。
MIUの値が0.3以下のとき、滑り性が良好といえる。
【0041】
(ii)平均摩擦係数の変動(MMD)
表面をこする時に感じるなめらかさ、ざらつき感と相関性がある。この値が大きいほど表面がざらざらしている。
摩擦係数のモニター結果から平均摩擦係数の変動(MMD)を求める概略図を、
図3に示す。
図3に示すように、20mmのモニター幅において、平均摩擦係数(MIU)と摩擦係数μとの差異の絶対値について積分する(
図3の斜線部分)。積分値をモニター幅(20mm)で除することによって、平均摩擦係数の変動(MMD)を求める。
MMDの値が0.015以下のとき、表面のなめらかさが良好といえる。
【0042】
[1]繰り返し試験
1回目のモニター後、ペーパータオルで表面の水を拭き取り、シートを50℃に設定したオーブンに1時間入れて乾燥した後、上記と同様の条件にて、2回目のモニターを行った。同様にして6回目まで繰り返し、摩擦係数μをモニターした。
【0043】
[2]流水下実験(耐久性試験)
上記6回繰り返した後のシートを、100mL/分の速度にて上方から垂直下方に流れる水道水の下に、水平面に対する傾斜角が30度となるように10分間置いた後に、ペーパータオルで表面の水を拭き取り、再度摩擦係数μをモニターした。
【0044】
[3]ヌメリ感
200mL容のビーカーに計りとった水100mL中に、実施例等により得られたシートを1分間浸漬させた後に、ペーパータオルで表面の水を拭い、ポリアルキレンオキシド変性物等の層の表面を手でこすり、以下の評価基準に従って評価した。
評価基準
○:ヌメリ感なし
△:糸は曳かないがヌメリ感あり
×:ヌメリ感があり、糸を曳く
【0045】
製造例1
80℃に保温された攪拌機を備えた貯蔵タンクAに、十分に脱水した数平均分子量20,000のポリエチレンオキシド100質量部、1,4−ブタンジオール0.90質量部およびジオクチルスズジラウレート0.1質量部の割合で投入し、窒素ガス雰囲気下で攪拌して均一な混合物とした。これとは別に、30℃に保温された貯蔵タンクBにジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを投入し、窒素ガス雰囲気下で貯蔵した。
定量ポンプを用いて、貯蔵タンクAの混合物を500[g/分]の速度にて、貯蔵タンクBのジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを19.4[g/分]の速度にて、110〜140℃に設定した2軸押出機に連続的に供給し(R値=1.00)、押出機中で混合して反応を行い、押出機出口からストランドを出し、ペレタイザーによりペレット化して、ポリアルキレンオキシド変性物を得た。
得られたポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度は320[Pa・s]、吸水能は25[g/g]であった。
【0046】
製造例2
数平均分子量15,000のエチレンオキシド/プロピレンオキシド(質量比:90/10)共重合体を250[g/分]の速度にて、40℃に加熱したエチレングリコールを2.1[g/分]の速度にて、それぞれ40mmφ単軸押出機(L/D=40、設定温度:90℃)に供給して両者を溶融混合した。
吐出口から得られる混合物(均一な溶融状態で吐出しており、LCにて分析して仕込み比で混合していることを確認した)を、30mmφの2軸押出機(L/D=41.5)のホッパー口(設定温度:80℃)へ連続的に供給した。同時に2軸押出機のホッパー口にはジオクチルスズジラウレートを0.5[g/分]の速度にて供給した。
これとは別に、前記2軸押出機のホッパー口の下流側に位置するスクリューバレル部に、30℃に調整したジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを12.4[g/分]の速度にて供給し(R値=0.91)、窒素雰囲気下で連続的に反応させた(設定温度:180℃)。2軸押出機出口から得られるストランドを冷却後、ペレタイザーによりペレット化してポリアルキレンオキシド変性物を得た。
得られたポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度は150[Pa・s]であり、吸水能は20[g/g]であった。
【0047】
[実施例1]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、イソプロピルアルコール144gと水36gを仕込んだ。次に、製造例1と同様にして得られたポリアルキレンオキシド変性物20gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリアルキレンオキシド変性物を溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、180[mPa・s]であった。
耐衝撃性ポリスチレン(略称:HIPS、BASF社製、型番:476L)を射出成型して得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、28[g/m
2]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、自然乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれるポリアルキレンオキシド変性物の量は、2.8g/m
2であった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0048】
[実施例2]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、イソプロピルアルコール170gと水20gを仕込んだ。次に、製造例1と同様にして得られたポリアルキレンオキシド変性物10gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリアルキレンオキシド変性物を溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、70[mPa・s]であった。
耐衝撃性ポリスチレン(略称:HIPS、BASF社製、型番:476L)を射出成型して得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、30[g/m
2]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、自然乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれるポリアルキレンオキシド変性物の量は、1.5g/m
2であった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0049】
[実施例3]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、エタノール110gと水30gを仕込んだ。次に、製造例2と同様にして得られたポリアルキレンオキシド変性物60gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリアルキレンオキシド変性物を溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、320[mPa・s]であった。
ポリエチレン(略称:PE、住友化学株式会社製、型番:スミカセンG801)を熱プレスして得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、15[g/m
2]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、自然乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれるポリアルキレンオキシド変性物の量は、4.5g/m
2であった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0050】
[実施例4]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、エタノール112gと水48gを仕込んだ。次に、製造例2と同様にして得られたポリアルキレンオキシド変性物40gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリアルキレンオキシド変性物を溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、180[mPa・s]であった。
SUS板(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、12[g/m
2]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、40℃に設定した熱風乾燥機を用いて5分間乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれるポリアルキレンオキシド変性物の量は、2.4g/m
2であった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0051】
[比較例1]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、イソプロパノール170gと水20gを仕込んだ。次に、水溶性ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製、型番:PEO2、粘度平均分子量1.8万)10gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリエチレンオキシドを溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、880[mPa・s]であった。
耐衝撃性ポリスチレン(略称:HIPS、BASF社製、型番:476L)を射出成型して得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、30[g/m
2]の量となるよう60mm×50mmの面に刷毛で塗布し、自然乾燥させてシートを得た。得られたシートに含まれる水溶性ポリエチレンオキシドの量は、1.5g/m
2であった。
得られたシートの摩擦物性の評価結果を、表1および2に示す。
【0052】
[比較例2]
冷却器、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた500mL容の4つ口セパラブルフラスコに、イソプロピルアルコール164gと水16gを仕込んだ。次に、水溶性ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製、型番:PEO2、粘度平均分子量1.8万)20gを添加し、攪拌しながら内温が60℃となるまで昇温して、ポリエチレンオキシドを溶解した後、溶液を室温まで冷却した。得られた溶液の粘度は、1430[mPa・s]であった。
耐衝撃性ポリスチレン(略称:HIPS、BASF社製、型番:476L)を射出成型して得た基材(60mm×50mm×2mm)に、得られた溶液を、刷毛で塗布しようとしたが、糸曳きが大きく塗布することができず、シートを得ることができなかった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
(シートの滑り性および表面なめらかさ)
実施例1〜4で得られたシートは、6回目の繰り返し試験でも、0.3以下の平均摩擦係数(MIU)を示し、0.015以下の平均摩擦係数の変動(MMD)を示した。
一方、比較例1で得られたシートは、6回目の繰り返し試験では、0.72と非常に高い平均摩擦係数(MIU)を示し、0.015を超える平均摩擦係数の変動(MMD)を示した。
本発明にかかるシートは、滑り性および表面なめらかさが良好であった。
【0056】
(ポリアルキレンオキシド変性物層の密着性)
実施例1〜4で得られたシートは、10分間の流水下実験でも、0.3以下の平均摩擦係数(MIU)を示し、0.015以下の平均摩擦係数の変動(MMD)を示した。本発明にかかるシートにおいて、平均摩擦係数(MIU)および平均摩擦係数の変動(MMD)がいずれも低いため、ポリアルキレンオキシド変性物層の基材に対する密着性が高いと判断できる。
一方、比較例1で得られたシートは、10分間の流水下実験では、0.87と非常に高い平均摩擦係数(MIU)を示し、0.015を超える平均摩擦係数の変動(MMD)を示した。比較例1で得られたシートにおいて、平均摩擦係数(MIU)および平均摩擦係数の変動(MMD)がいずれも高いため、潤滑性成分としての水溶性ポリエチレンオキシドが水により流されて喪失していると考えられる。よって、水溶性ポリエチレンオキシド層の基材に対する密着性が低いと判断できる。
【0057】
(ヌメリ感)
実施例1〜4で得られたシートはヌメリを生じないため、表面の感触が良好であった。
一方、比較例1で得られたシートはヌメリを生じた。