特許第5658715号(P5658715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5658715
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】ホール起電力信号検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/07 20060101AFI20150108BHJP
   H01L 43/06 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   G01R33/06 H
   H01L43/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-164454(P2012-164454)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-25740(P2014-25740A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2014年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡武 茂樹
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−047813(JP,U)
【文献】 特開2008−286695(JP,A)
【文献】 特開2008−096213(JP,A)
【文献】 特開2006−284375(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0224350(US,A1)
【文献】 特開2008−008883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/07
H01L 43/06
G01K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界強度に応じて変動するホール起電力信号を含む信号を出力するホール素子と、
前記ホール起電力信号と異なる第2の電気信号を出力する電気信号出力回路と、
前記ホール素子の有する複数の電極間に供給する駆動電流の通電方向を切り替えるスイッチ回路と、
該スイッチ回路に接続される、低域通過特性を有する遮断周波数がfcの折り返し防止フィルタと、
該折り返し防止フィルタと前記電気信号出力回路に接続され、前記折り返し防止フィルタからの信号と、第2の電気信号のどちらか一方の信号を時間分割的に出力する時分割スイッチ回路と、
該時分割スイッチ回路に接続され、前記ホール起電力信号と前記第2の電気信号のアナログ信号をデジタル信号に変換し、時間分割的に出力するA/D変換器とを備え、
前記時分割スイッチ回路は、前記スイッチ回路の駆動電流の通電方向の切り替わりから1/fcの時間内に前記第2の電気信号を出力して前記ホール起電力信号を出力しないことを特徴とするホール起電力信号検出装置。
【請求項2】
前記A/D変換器に接続する補正演算回路を備え、
前記補正演算回路は前記ホール起電力信号及び/又は前記ホール起電力信号の磁気感度を補正することを特徴とする請求項1に記載のホール起電力信号検出装置。
【請求項3】
前記補正演算回路は前記A/D変換器によりデジタル変換された前記第2の電気信号に基づき、前記ホール起電力信号及び/又は前記ホール起電力信号の磁気感度を補正することを特徴とする請求項に記載のホール起電力信号検出装置。
【請求項4】
前記電気信号出力回路が温度検出素子を含み、温度情報を含む第2の電気信号を出力することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載のホール起電力信号検出装置。
【請求項5】
前記温度検出素子は前記ホール素子近傍に配置されており、前記電気信号出力回路は前記ホール素子近傍の温度に関する温度情報を含む第2の電気信号を出力することを特徴とする請求項に記載のホール起電力信号検出装置。
【請求項6】
前記電気信号出力回路が応力検出素子を含み、応力情報を含む第2の電気信号を出力することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載のホール起電力信号検出装置。
【請求項7】
前記応力検出素子は前記ホール素子近傍に配置されており、前記電気信号出力回路は前記ホール素子近傍の応力に関する応力情報を含む第2の電気信号を出力することを特徴とする請求項に記載のホール起電力信号検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール起電力信号検出装置に関し、より詳細には、磁気感度に対する高精度の補正処理を行えるようにしたホール起電力信号検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ホール素子を内蔵した磁気センサ半導体集積回路として、電流が発生させる磁場を検出する電流センサや、磁石の回転を検出する回転角センサ、磁石の移動を検出するポジションセンサなどが知られている。
このようなホール素子の磁気感度(単位磁場あたりのホール起電力の大きさ)は、温度によって変化することが知られている。そのため、高精度にホール素子の磁気感度を補正するには、温度による影響を補正する必要がある。さらに、ホール素子の磁気感度は、温度による影響だけでなく、応力によっても変化(ピエゾホール効果)することが知られている。
【0003】
また、各種磁場検出を利用した電流検出や位置検出の用途においては、耐久性や信頼性といった理由から、ホール素子を利用した非接触磁気センサが利用されている。
図1は、シリコンモノリシックホール素子を利用した非接触磁気センサの一例を示す構成図である。シリコン基板1のなかに、外部からの磁場を検出して電圧に変換するホール素子2と、ΔΣ(デルタシグマ)変調器などのA/D(アナログ/デジタル)変換器3と、各種の補正処理やフィルタの機能を有するデジタル演算回路4と、D/A(デジタル/アナログ)変換器5とから構成されている信号処理回路が内蔵されている。
【0004】
このような信号処理回路においては、正確な磁場強度を読み取るための回路技術が多く提案されている。ホール素子の出力中には、磁場強度に比例して出力されるホール起電力信号と、磁場に依存しないオフセット信号が含まれることが知られており、ホール起電力信号のみを高精度で検出する方法として、例えば、非特許文献1では、ホール素子の駆動電流の方向を切り替える、スピニングカレントと呼ばれる信号処理を用いることで、ホール起電力信号とオフセット信号を、それぞれ直流信号と交流信号に分離することでオフセットを低減することが知られている。
【0005】
図2(a),(b)は、オフセット信号を検出するためにホール素子の駆動電流の方向を切り替える状態を示す図で、図3は、ホール起電力信号にオフセット信号が重畳された波形を示す図である。
駆動電流の方向を、図2(a),(b)に示すように、0度方向と90度方向に切り替えることで、ホール素子から出力される信号は、図3に示すように、直流のホール起電力信号(磁場強度に比例して出力される信号)に、交流のオフセット信号(磁場に依存しない信号)が重畳された波形となる。つまり、以下のような関係になる。
【0006】
0度方向駆動時のホール素子出力=Vh_0deg[(Vh_0deg+)−(Vh_0deg−)]
90度方向駆動時のホール素子出力=Vh_90deg[(Vh_90deg+)−(Vh_90deg−)]
この信号をフィルタにより平滑化することで、ホール起電力信号に重畳するオフセット信号のキャンセルを行い、ホール起電力信号のみを検出することが可能となる。つまり、以下のような関係になる。
【0007】
ホール起電力信号=(Vh_0deg+Vh_90deg)/2
また、磁場を検出するホール素子は、パッケージ材の応力や、温度等の環境変化に伴って磁気感度が変化することが一般に知られており、例えば、特許文献1では、磁場・応力・温度に関する信号をそれぞれA/D変換器に取り込み、応力や温度の情報を元に磁気感度の補正を行う補正回路が知られている。
【0008】
また、パッケージ材料やパッケージ構造を工夫することによって、ホール素子に印加される応力を低減させることは、例えば、特許文献2に開示されている。
また、ホール素子の磁気感度が温度によって変化してしまう問題に対して、ホール素子の電源電圧を制御するワンチップマイコンを備えることで、磁気感度を補正することは、例えば、特許文献3に開示されている。
【0009】
また、例えば、特許文献4には、アナログ映像信号をA/D変換器等のサンプリング装置によってサンプリングする場合、サンプリングに伴って発生する“折り返しノイズ(folding noise)”と呼ばれるノイズを低減するため、A/D変換器の前段にプリフィルタを設け、複数種類のフォーマットの映像信号を、折り返しノイズを発生させることなくサンプリングすることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6362618号明細書(B2)
【特許文献2】特開2008−292182号公報
【特許文献3】特開2009−139213号公報
【特許文献4】特開2002−185323号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】R S Popovic著 Hall Effect Devices (ISBN−10:0750300965) Inst of Physics Pub Inc (1991/05)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ホール起電力信号を元に正確な磁場情報を読み取るには、上述したような、ホール素子にかかる応力情報や温度情報を持つ補正信号に基づいて、磁気感度の補正を行う必要があるが、半導体回路内部の応力や温度が均一でないことを考慮すると、ホール素子、補正信号の検出素子、及びそれらの信号処理回路等は同じ位置にまとめて配置することが望ましく、高い精度の補正を行うには、ホール起電力信号と補正信号の検出に用いるA/D変換器等の回路を共通化する必要がある。
【0013】
また、一般にA/D変換器には、サンプリングに伴う折り返しノイズと呼ばれるノイズを増加させる要因を持っており、ホール起電力信号の信号処理回路においても折り返しノイズを防ぐ対策が必要である。
図4(a)乃至(c)は、折り返しノイズを説明するための図で、図4(a)は、サンプルタイミングとサンプル後のノイズ波形を示す図で、図4(b)は、ノイズスペクトルを示す図で、図4(c)は、折り返し防止フィルタを用いた場合のノイズスペクトルを示す図である。
【0014】
折り返しノイズは、サンプリングを行った場合に、ノイズがサンプル周波数以下の低周波の周波数帯域に集中し、フィルタでノイズを低減できなくなる現象である。この折り返しノイズを防ぐためには、A/D変換器の入力前段に低域通過特性を持つ折り返し防止フィルタを設ける方法が一般的であるが、ホール素子の信号処理においては、上述した非特許文献1のようなスピニングカレント法と、折り返し防止フィルタを併用させる場合は、さらにホール起電力信号の算出結果に誤差を生じるという問題が生じる。
【0015】
この理由について以下に説明する。
図5(a),(b)は、折り返し防止フィルタ前後のホール素子の出力を示す図で、図5(a)は、折り返し防止フィルタ通過前のホール素子の出力、図5(b)は、折り返し防止フィルタ通過後のホール素子の出力を示している。
ホール素子からの出力には、図5(a)に示すように、直流のホール起電力信号に重畳される交流のオフセット信号が含まれており、折り返し防止フィルタを通過させることで、図5(b)に示すように、オフセット信号のエッジのなまった出力となる。
【0016】
このオフセット信号が一定の値に収束するまでの時間にA/D変換器で取り込みを行うと、ホール起電力信号の算出結果に誤差(以下、セトリングエラーという)が生じてしまうため、オフセット信号が一定の値に収束するまでA/D変換器でのサンプリングを停止させる必要がある。しかしその場合、信号処理において無駄な時間が発生してしまうこととなる。
【0017】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ホール起電力信号と、ホール起電力信号とは異なる信号とを用いてホール起電力信号を検出するホール起電力信号検出装置において、セトリングエラーを低減しつつ、かつセトリングエラーの回避のための待機時間を信号処理に有効活用することが可能なホール起電力信号検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、磁界強度に応じて変動するホール起電力信号を含む信号を出力するホール素子と、前記ホール起電力信号と異なる第2の電気信号を出力する電気信号出力回路と、前記ホール素子の有する複数の電極間に供給する駆動電流の通電方向を切り替えるスイッチ回路と、該スイッチ回路に接続される、低域通過特性を有する遮断周波数がfcの折り返し防止フィルタと、該折り返し防止フィルタと前記電気信号出力回路に接続され、前記折り返し防止フィルタからの信号と、第2の電気信号のどちらか一方の信号を時間分割的に出力する時分割スイッチ回路と、該時分割スイッチ回路に接続され、前記ホール起電力信号と前記第2の電気信号のアナログ信号をデジタル信号に変換し、時間分割的に出力するA/D変換器とを備え、前記時分割スイッチ回路は、前記スイッチ回路の駆動電流の通電方向の切り替わりから1/fcの時間内に前記第2の電気信号を出力して前記ホール起電力信号を出力しないことを特徴とする。
【0019】
た、請求項に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記A/D変換器に接続する補正演算回路を備え、前記補正演算回路は前記ホール起電力信号及び/又は前記ホール起電力信号の磁気感度を補正することを特徴とする。
【0020】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記補正演算回路は前記A/D変換器によりデジタル変換された前記第2の電気信号に基づき、前記ホール起電力信号及び/又は前記ホール起電力信号の磁気感度を補正することを特徴とする。
また、請求項に記載の発明は、請求項1乃至のいずれかに記載の発明において、前記電気信号出力回路が温度検出素子を含み、温度情報を含む第2の電気信号を出力することを特徴とする。
【0021】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記温度検出素子は前記ホール素子近傍に配置されており、前記電気信号出力回路は前記ホール素子近傍の温度に関する温度情報を含む第2の電気信号を出力することを特徴とする。
また、請求項に記載の発明は、請求項1乃至のいずれかに記載の発明において、前記電気信号出力回路が応力検出素子を含み、応力情報を含む第2の電気信号を出力することを特徴とする。
【0022】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記応力検出素子は前記ホール素子近傍に配置されており、前記電気信号出力回路は前記ホール素子近傍の応力に関する応力情報を含む第2の電気信号を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ホール素子の信号処理において、ホール起電力信号をサンプリングするA/D変換器について、ホール素子の通電方向が切り替わるタイミングから所定の時間にホール起電力信号とは異なる信号をサンプリングすることで、セトリングエラーの回避のための待機時間を信号処理に有効活用することが可能となる。例えば、ホール素子の通電方向が切り替わるタイミングから所定の時間にホール起電力信号を補正するための補正信号をサンプリングすることで、セトリングエラーを低減しつつ、かつセトリングエラーの回避のための待機時間を補正信号の信号処理に有効活用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】シリコンモノリシックホール素子を利用した非接触磁気センサの一例を示す構成図である。
図2】(a),(b)は、ホール起電力信号とオフセット信号を分離するためにホール素子の駆動電流の方向を切り替える状態を示す図である。
図3】ホール起電力信号にオフセット信号が重畳された波形を示す図である。
図4】(a)乃至(c)は、折り返しノイズを説明するための図である。
図5】(a),(b)は、折り返し防止フィルタの通過前のホール素子の出力と、折り返し防止フィルタの通過後のホール素子の出力を示す図である。
図6】本発明に係るホール起電力信号検出装置の実施例を説明するための回路構成図である。
図7】(a)乃至(f)は、図6における回路構成の各信号波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の各実施例について説明する。
【実施例】
【0026】
図6は、本発明に係るホール起電力信号検出装置の実施例を説明するための回路構成図で、図7(a)乃至(f)は、図6における回路構成の各信号波形を示す図である。図中符号21はホール素子、22はチョッパースイッチ回路、23はクロック生成回路、24は発振回路、25は折り返し防止フィルタ、26は時分割スイッチ回路、27はA/D変換器、28はデジタルフィルタ、29は補正演算回路、30はD/A変換器、31は温度検出素子を示している。
【0027】
本発明の実施例のホール起電力信号検出装置は、ホール素子21の磁気感度に影響を及ぼす温度に基づくホール起電力信号に対する温度補正を行うように構成されたホール起電力信号検出装置である。
チョッパースイッチ回路22は、ホール素子21の有する複数の電極間に供給する駆動電流の通電方向を、図7(b)に示すチョッパークロック信号の極性に基づいて切り替え、ホール素子からの出力V1信号からホール起電力信号とオフセット信号を分離するものである。このチョッパークロック信号は、発振回路24からの発振信号に基づいてクロック生成回路23によって生成される信号である。
【0028】
また、折り返し防止フィルタ25は、チョッパースイッチ回路22に接続され、図7(e)に示すV1信号を得るものであり、サンプリングに伴って発生する折り返しノイズを防止するために用いられる。この折り返し防止フィルタ25は、低域通過特性を有する低域通過フィルタである。
また、時分割スイッチ回路26は、チョッパースイッチ回路22及び折り返し防止フィルタ25に接続され、温度検出素子31からのV2信号と、折り返し防止フィルタ25からのV1信号とを時間分割的に出力するものである。
【0029】
また、A/D変換器27は、時分割スイッチ回路26に接続され、V1信号とV2信号のアナログ信号をデジタル信号に変換するものである。
また、デジタルフィルタ28は、A/D変換器27に接続され、磁場信号Bを得るとともに、ホール素子21に加わる温度信号Tを得るものである。
また、補正演算回路29は、デジタルフィルタ28からの温度信号Tを元に磁場信号Bから磁気感度を補正するものである。この補正演算回路29が、温度補正された磁場信号Bcalを出力する。
【0030】
また、A/D変換器27は、V1信号とV2信号の信号処理回路を共通化するように設けられたものである。これにより、ホール素子の信号処理として、磁場、温度信号の検出回路を1つのA/D変換器で共通化することで、磁気感度に対する高精度の補正処理を行うことが可能である。
また、チョッパースイッチ回路22は、ホール素子21のバイアス電流の向きを、チョッパークロック(周波数fchop)の極性にしたがって周期的に切り替え、ホール起電力信号とオフセット信号を分離するために使用されている。
【0031】
チョッパースイッチ回路22から出力されるV1は、直流のホール起電力信号に交流のオフセット信号が重畳された信号となるように制御される。
V1信号については、低域通過特性(遮断周波数fc)を持つ折り返し防止フィルタ25を通過する検出経路を通過し、また、V2信号については、折り返し防止フィルタ25を通過しない検出経路を通過し、時分割スイッチ回路26に各信号が入力される。
【0032】
時分割スイッチ回路26では、図7(c)に示すφ1がhighになっている場合にV1信号が出力に選択され、図7(d)に示すφ2がhighになっている場合にV2信号が出力に選択される。また、それらの信号は、fsampの周波数で後段のA/D変換器27によって、クロック生成回路23からの図7(a)に示すサンプルクロック信号によってサンプリングされ、アナログ/デジタル変換が行われ、A/D変換器27からはφ1がhighの場合はデジタル信号に変換されたV1出力、φ2がhighの場合はデジタル信号に変換されたV2が出力される。
【0033】
また、補正演算回路29では、温度信号Tを元に磁場信号Bから磁気感度の補正を行い、温度変化にロバストな磁場信号Bcalが算出され、D/A変換器30を通してアナログ信号VHOUTとして出力される。
なお、ロバストネス又はロバスト性とは、ある系が応力や環境の変化といった外乱の影響によって変化することを阻止する内的な仕組み又は性質のことを意味しており、ロバストネスを持つような設計をロバスト設計、ロバストネスを最適化することをロバスト最適化という。「頑強な」という意味の形容詞「robust」が語源であり、他に頑強性、強靭性、堅牢性、強さ、などと言われることもある。
【0034】
本発明の本実施例における構成上の特徴としては、A/D変換器27について、磁場信号と温度信号の信号処理で時分割構成により共通の回路を用いている点と、磁場信号の検出経路にチョッパースイッチ回路22と折り返し防止フィルタ25を備え、温度信号のサンプリングを行うφ2がhighになる時間を、チョッパークロックの極性が切り替わるタイミングから所定の時間で設けている点である。
【0035】
共通の回路を用いることの優位点としては、回路内部の応力や温度の不均一の影響がなくなり高精度で磁気感度の補正が行える点である。また、φ2がhighになるタイミングを、チョッパークロックの極性が切り替わるタイミングに同期させていることの優位点について以下に詳述する。
折り返し防止フィルタ25を介するV1信号については、上述したように、最終的に磁場信号Bを算出するために用いられる。磁場信号Bは、電流や位置の検出を行う信号であり、一般にホール起電力信号検出装置において高精度に加え、低ノイズの性能が要求されており、折り返し防止フィルタ25を用いる構成としている。ただし、チョッパーの切り替わり時に出力が完全にセトリングしない状態でサンプリングを行うと、上述したようなセトリングエラーが生じるという問題がある。
【0036】
本発明では、φ1がlowになる数サンプルクロック相当の時間、A/D変換器27において、V1信号のサンプリングを停止する構成とすることで、ホール起電力検出におけるセトリングエラーを低減し、この時間にV2信号のサンプリングを共通のA/D変換器行うことで高精度の補正演算を行い、磁場強度を正確に検出することが可能となる。
また、V2信号の検出経路についても折り返し防止フィルタを備えてもよいが、上述したように、V2信号は温度信号Tを算出するために用いる信号であり、温度変化は、周囲の環境変化などの緩やかな変化を検出できればよいため、デジタルフィルタで平滑化を行う際に平均化回数を増やせば、折り返し防止フィルタを用いずとも容易に必要な精度が実現できる。
【0037】
また、一般に、折り返しノイズを防止するため用いる、折り返し防止フィルタ25の遮断周波数は、ナイキスト周波数と呼ばれる1/2・fsampの周波数以下に設定することが望ましい。この理由は、折り返しノイズは高周波のノイズ成分がサンプリングされることで、1/2・fsamp以下の周波数帯域にノイズが集中する現象であり、サンプリング前に1/2・fsamp以上の周波数帯域のノイズを低減させると、折り返しノイズの発生をほぼ0に抑えられるためである。
【0038】
本発明を実施する場合も、折り返しノイズを十分に低減するためには、折り返し防止フィルタ25の遮断周波数fcは、1/2・fsamp以下に設定することが好適である。従って、V1信号のサンプリング停止に必要な区間は、V1信号が十分にセトリングする、チョッパーの切り替わり時から1/fc以上の時間に調整することが好適である。
一般に、高精度の磁気検出用途では、検出誤差を1%以下に抑えることが要求されているが、1/fcのサンプリング停止区間を設ければ、セトリング不足によるエラーは0.2%以下に抑えることができる。(サンプル停止区間の時間をTとすると、折り返し防止フィルタが一般的な一次特性の低域通過フィルタの場合、セトリングエラーは、e−2π・fc・T・100%で見積もれる)
【0039】
以上に本発明の実施例を述べたが、他の種々の変形も容易に可能である。例えば、温度検出素子の代わりに、応力検出素子を用いて磁気感度に対する応力補正を行う実施形態や、温度検出素子と応力検出素子を同時に備え、磁気感度に対する温度と応力補正を同時に行う実施形態も容易に類推できる。
【0040】
さらに、本発明はホール起電力信号のサンプリングを止めている時間を有効利用することが発明の要旨であり、磁気感度の補正以外の目的に応用することも容易に可能である。
例えば、磁気感度の補正に用いる信号の代わりに、ホール素子に印加されている電圧値をA/D変換器でサンプリングし、その値から断線、短絡などの故障診断を行うといった、種々の応用が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 シリコン基板
2 ホール素子
3 A/D(アナログ/デジタル)変換器
4 デジタル演算回路
5 D/A(デジタル/アナログ)変換器
11 ホール素子
12 電流源
13 A/D変換器
21 ホール素子
22 チョッパースイッチ回路
23 クロック発生回路
24 発振回路
25 折り返し防止フィルタ
26 時分割スイッチ回路
27 A/D変換器
28 デジタルフィルタ
29 補正演算回路
30 D/A変換器
31 温度検出素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7