【実施例】
【0026】
図6は、本発明に係るホール起電力信号検出装置の実施例を説明するための回路構成図で、
図7(a)乃至(f)は、
図6における回路構成の各信号波形を示す図である。図中符号21はホール素子、22はチョッパースイッチ回路、23はクロック生成回路、24は発振回路、25は折り返し防止フィルタ、26は時分割スイッチ回路、27はA/D変換器、28はデジタルフィルタ、29は補正演算回路、30はD/A変換器、31は温度検出素子を示している。
【0027】
本発明の実施例のホール起電力信号検出装置は、ホール素子21の磁気感度に影響を及ぼす温度に基づくホール起電力信号に対する温度補正を行うように構成されたホール起電力信号検出装置である。
チョッパースイッチ回路22は、ホール素子21の有する複数の電極間に供給する駆動電流の通電方向を、
図7(b)に示すチョッパークロック信号の極性に基づいて切り替え、ホール素子からの出力V1信号からホール起電力信号とオフセット信号を分離するものである。このチョッパークロック信号は、発振回路24からの発振信号に基づいてクロック生成回路23によって生成される信号である。
【0028】
また、折り返し防止フィルタ25は、チョッパースイッチ回路22に接続され、
図7(e)に示すV1信号を得るものであり、サンプリングに伴って発生する折り返しノイズを防止するために用いられる。この折り返し防止フィルタ25は、低域通過特性を有する低域通過フィルタである。
また、時分割スイッチ回路26は、チョッパースイッチ回路22及び折り返し防止フィルタ25に接続され、温度検出素子31からのV2信号と、折り返し防止フィルタ25からのV1信号とを時間分割的に出力するものである。
【0029】
また、A/D変換器27は、時分割スイッチ回路26に接続され、V1信号とV2信号のアナログ信号をデジタル信号に変換するものである。
また、デジタルフィルタ28は、A/D変換器27に接続され、磁場信号Bを得るとともに、ホール素子21に加わる温度信号Tを得るものである。
また、補正演算回路29は、デジタルフィルタ28からの温度信号Tを元に磁場信号Bから磁気感度を補正するものである。この補正演算回路29が、温度補正された磁場信号Bcalを出力する。
【0030】
また、A/D変換器27は、V1信号とV2信号の信号処理回路を共通化するように設けられたものである。これにより、ホール素子の信号処理として、磁場、温度信号の検出回路を1つのA/D変換器で共通化することで、磁気感度に対する高精度の補正処理を行うことが可能である。
また、チョッパースイッチ回路22は、ホール素子21のバイアス電流の向きを、チョッパークロック(周波数fchop)の極性にしたがって周期的に切り替え、ホール起電力信号とオフセット信号を分離するために使用されている。
【0031】
チョッパースイッチ回路22から出力されるV1は、直流のホール起電力信号に交流のオフセット信号が重畳された信号となるように制御される。
V1信号については、低域通過特性(遮断周波数fc)を持つ折り返し防止フィルタ25を通過する検出経路を通過し、また、V2信号については、折り返し防止フィルタ25を通過しない検出経路を通過し、時分割スイッチ回路26に各信号が入力される。
【0032】
時分割スイッチ回路26では、
図7(c)に示すφ1がhighになっている場合にV1信号が出力に選択され、
図7(d)に示すφ2がhighになっている場合にV2信号が出力に選択される。また、それらの信号は、fsampの周波数で後段のA/D変換器27によって、クロック生成回路23からの
図7(a)に示すサンプルクロック信号によってサンプリングされ、アナログ/デジタル変換が行われ、A/D変換器27からはφ1がhighの場合はデジタル信号に変換されたV1出力、φ2がhighの場合はデジタル信号に変換されたV2が出力される。
【0033】
また、補正演算回路29では、温度信号Tを元に磁場信号Bから磁気感度の補正を行い、温度変化にロバストな磁場信号Bcalが算出され、D/A変換器30を通してアナログ信号V
HOUTとして出力される。
なお、ロバストネス又はロバスト性とは、ある系が応力や環境の変化といった外乱の影響によって変化することを阻止する内的な仕組み又は性質のことを意味しており、ロバストネスを持つような設計をロバスト設計、ロバストネスを最適化することをロバスト最適化という。「頑強な」という意味の形容詞「robust」が語源であり、他に頑強性、強靭性、堅牢性、強さ、などと言われることもある。
【0034】
本発明の本実施例における構成上の特徴としては、A/D変換器27について、磁場信号と温度信号の信号処理で時分割構成により共通の回路を用いている点と、磁場信号の検出経路にチョッパースイッチ回路22と折り返し防止フィルタ25を備え、温度信号のサンプリングを行うφ2がhighになる時間を、チョッパークロックの極性が切り替わるタイミングから所定の時間で設けている点である。
【0035】
共通の回路を用いることの優位点としては、回路内部の応力や温度の不均一の影響がなくなり高精度で磁気感度の補正が行える点である。また、φ2がhighになるタイミングを、チョッパークロックの極性が切り替わるタイミングに同期させていることの優位点について以下に詳述する。
折り返し防止フィルタ25を介するV1信号については、上述したように、最終的に磁場信号Bを算出するために用いられる。磁場信号Bは、電流や位置の検出を行う信号であり、一般にホール起電力信号検出装置において高精度に加え、低ノイズの性能が要求されており、折り返し防止フィルタ25を用いる構成としている。ただし、チョッパーの切り替わり時に出力が完全にセトリングしない状態でサンプリングを行うと、上述したようなセトリングエラーが生じるという問題がある。
【0036】
本発明では、φ1がlowになる数サンプルクロック相当の時間、A/D変換器27において、V1信号のサンプリングを停止する構成とすることで、ホール起電力検出におけるセトリングエラーを低減し、この時間にV2信号のサンプリングを共通のA/D変換器行うことで高精度の補正演算を行い、磁場強度を正確に検出することが可能となる。
また、V2信号の検出経路についても折り返し防止フィルタを備えてもよいが、上述したように、V2信号は温度信号Tを算出するために用いる信号であり、温度変化は、周囲の環境変化などの緩やかな変化を検出できればよいため、デジタルフィルタで平滑化を行う際に平均化回数を増やせば、折り返し防止フィルタを用いずとも容易に必要な精度が実現できる。
【0037】
また、一般に、折り返しノイズを防止するため用いる、折り返し防止フィルタ25の遮断周波数は、ナイキスト周波数と呼ばれる1/2・fsampの周波数以下に設定することが望ましい。この理由は、折り返しノイズは高周波のノイズ成分がサンプリングされることで、1/2・fsamp以下の周波数帯域にノイズが集中する現象であり、サンプリング前に1/2・fsamp以上の周波数帯域のノイズを低減させると、折り返しノイズの発生をほぼ0に抑えられるためである。
【0038】
本発明を実施する場合も、折り返しノイズを十分に低減するためには、折り返し防止フィルタ25の遮断周波数fcは、1/2・fsamp以下に設定することが好適である。従って、V1信号のサンプリング停止に必要な区間は、V1信号が十分にセトリングする、チョッパーの切り替わり時から1/fc以上の時間に調整することが好適である。
一般に、高精度の磁気検出用途では、検出誤差を1%以下に抑えることが要求されているが、1/fcのサンプリング停止区間を設ければ、セトリング不足によるエラーは0.2%以下に抑えることができる。(サンプル停止区間の時間をTとすると、折り返し防止フィルタが一般的な一次特性の低域通過フィルタの場合、セトリングエラーは、e
−2π・fc・T・100%で見積もれる)
【0039】
以上に本発明の実施例を述べたが、他の種々の変形も容易に可能である。例えば、温度検出素子の代わりに、応力検出素子を用いて磁気感度に対する応力補正を行う実施形態や、温度検出素子と応力検出素子を同時に備え、磁気感度に対する温度と応力補正を同時に行う実施形態も容易に類推できる。
【0040】
さらに、本発明はホール起電力信号のサンプリングを止めている時間を有効利用することが発明の要旨であり、磁気感度の補正以外の目的に応用することも容易に可能である。
例えば、磁気感度の補正に用いる信号の代わりに、ホール素子に印加されている電圧値をA/D変換器でサンプリングし、その値から断線、短絡などの故障診断を行うといった、種々の応用が可能である。