(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
波長550〜750nmの分光透過率において50%の透過率を示す波長が615nmとなるように換算した場合に、波長400nmの透過率が80〜90%であり、かつ波長700nmの透過率が1〜15%であり、かつ波長1200nmの透過率が5〜35%であり、
かつ厚さ0.3mmに換算した場合に、波長550〜750nmの分光透過率において、50%の透過率を示す波長が550〜750nmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタガラス。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子は、およそ300nmから1200nmにわたる分光感度を有しているため、そのままでは良好な色再現性を得ることができない。そのため、近赤外線を吸収する特定の物質が添加された近赤外線カットフィルタガラスを用いて視感度を補正している。この近赤外線カットフィルタガラスは、近赤外域の光を選択的に吸収し、かつ高い耐候性を有するように、アルミノリン酸塩系ガラスやフツリン酸塩系ガラスにCuOを添加した光学ガラスが提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
他方、CCDやCMOS等の固体撮像素子を搭載する光学機能部品を含むカメラの小型・薄型化及び低価格化が急激に進展し、これに伴って搭載されるカメラモジュールをはじめとする光学機能部品も小型・薄型化あるいは部品削減が進んでいる。
このような光学機能部品は、主として画像を集光し固体撮像素子に導くためのガラス材あるいはプラスチック材から成るレンズと、赤みがかる色調を補正するための金属錯体を含有する近赤外線カットフィルタと、モアレや偽色を低減するためのローパスフィルタと、固体撮像素子を保護するため固体撮像素子パッケージに気密封着されるカバーガラス等から構成されている。
ここで用いられるカバーガラスは、ガラス中にα線放出性元素(放射性同位元素)を含有する場合、α線を放出することで固体撮像素子に一過性の誤動作(ソフトエラー)を引き起こす。したがって、ガラス中に不純物として含まれるα線放出性元素が可及的に少ない、高純度に精製されたガラス原料を使用し、溶融工程においてもこれら元素の混入を防止してガラスを製造する必要がある。
また、上記光学機能部品の構成では、各々の特性を得るための部材厚みの制約から薄型化が困難であり、結果としてカメラ本体の小型化に制約が生じるという問題点があった。
【0004】
そこで、近赤外線カットフィルタをカバーガラスとして用いることが提案されている(特許文献3、4)。これによれば、近赤外線吸収ガラスのU及びThの含有量を一定以下とすることで、ガラスから放射されるα線に起因する固体撮像素子のソフトエラーを抑制することができる。そのため、カバーガラスと近赤外線カットフィルタの機能を複合化した固体撮像素子用保護フィルタを提供することができ、ソフトエラーが少なく、かつ小型軽量化が可能で、コスト削減も期待できるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のとおりCCDやCMOS等の固体撮像素子はおよそ300nmから1200nmにわたる分光感度を有しているため、可視光域以外に近赤外域及び近紫外域にも感度を有している。上記特許文献1、2記載のようなCu
2+イオンを含有した近赤外線カットフィルタの透過率カーブは、ほぼ300nm以下の波長を透過せず、波長300nmから400nmの範囲で急激に透過率が上昇し、600nmから700nmにかけて緩やかに下降する曲線であり、可視域における透過率を一定以上に設定した場合、900〜1000nm超の長波長側を若干透過する特性を持つ。このため、ガラスフィルタによる吸収のみでは人の視感度と撮影画像の色再現性とを完全に一致させることが難しい場合がある。
【0007】
このような場合、誘電体多層膜を併用することによって近紫外域及び近赤外域をさらにカットすることが行われている。誘電体多層膜は、高屈折率層として二酸化チタン(TiO
2)及び低屈折率層としての二酸化シリコン(SiO
2)の交互積層膜などからなり、近赤外線カットフィルタガラスの表面に成膜される場合もあれば、ローパスフィルタとしてカメラに内装される水晶板表面に真空蒸着やスパッタによって成膜される場合もある。誘電体多層膜による赤外線カット膜の透過特性は、成膜面に垂直に入射する光線に対して、およそ400nm以下と700nm以上の波長光を反射してほとんど透過せず、400〜700nmを透過する。この結果、ガラスフィルタによる吸収と誘電体多層膜による反射とを併用した光学系では、400〜600nmを高率に透過し、600〜700nmにかけて緩やかに下降し、700nm以上を透過しない分光透過率となり、人の視感度に近似した特性とすることができる。
【0008】
ところで、近年、高画素数の固体撮像素子を用いたデジタルスチルカメラなどにおいて、レンズ系の色収差に起因して、撮影された画像にパープルフリンジと称される紫色の輪郭ぼけが認識されるようになっている。すなわち、光学要素を構成するガラスなどの媒質の屈折率は光の波長に依存する性質をもっており、同一の媒質であっても、可視光に対する屈折率と、近紫外線に対する屈折率、近赤外線に対する屈折率とは異なる。このような性質により、光線がガラス光学要素を通過する際には、短波長の光ほど強く屈折し、長波長の光ほど屈折度合いが弱くなるため、可視光の光路と近紫外線の光路、近赤外線の光路とが分岐され、可視光の焦点位置に対して近紫外線は手前に、近赤外線は後方に焦点を結ぶ(軸上色収差)。このように分岐された光線が、撮像素子の光電変換面に到達する位置では、色収差が2次元方向のずれとなり、このずれが近紫外線または近赤外線によるボケ半径となって、輪郭ぼけを発生させる原因となる。特に高画素数の撮像素子では、ピクセルサイズが小さくなる分、色収差の影響が大きく認識されやすく、また撮影画像中心部に比べて周辺部でその影響が出やすい。換言すると、色収差による輪郭ボケの問題は、撮像素子の高画素化の進展によって顕在化した課題と言える。
【0009】
上記した誘電体多層膜は、反射によって紫外域や赤外域の光をカットするが、誘電体多層膜は光線の入射角度によって反射特性が変化するため、成膜面に垂直に入射する光線に対する透過率が0の波長の光であっても斜めに入射した光に対しては完全に反射することができず透過してしまう場合がある。このため、色収差による輪郭ボケをなくすことはできず、固体撮像素子に対して斜めに入射する光が多くなる画像周辺部で影響が出やすくなる。また、誘電体多層膜に反射された光が光学系の中で迷光となって再度誘電体多層膜に斜めに入射すると、固体撮像素子の光電変換面に到達して偽色など撮影画像の色彩を乱す原因になる。
【0010】
したがって、誘電体多層膜に頼ることなくガラスの吸収によって紫外域や赤外域の光をカットできれば、これら不要光が斜めに入射しても、その悪影響をなくすことができる。その方法として、CuOの添加量を増加することが考えられる。CuOは、近赤外域の吸収だけでなく、近紫外域の吸収特性も備えている。しかしながら、CuOの添加量を増やすと、近紫外域の吸収とともに近赤外域における吸収も増加し、600〜700nmのカットパターンが短波長側に移動する。つまり、CuO添加量を変化させただけでは、近紫外域と近赤外域のカット特性を独立して制御することはできない。
実際にデジタルスチルカメラやビデオカメラに使用される視感度補正フィルタの近紫外域または近赤外域のカットパターンは、個々のCCDやCMOSの感度特性あるいはカメラの設計に合せて決められるものであるため、近紫外域のカット特性と近赤外域のカット特性とは独立して制御できることが望ましい。
【0011】
他方、近赤外線カットフィルタを固体撮像素子の保護用カバーガラスとする場合、特許文献3、4において、U及びThの含有量を一定以下とすることでガラスから放射されるα線放出量を低くする必要があるとされている。しかしながら、U及びThの含有量が少ない高純度に精製されたガラス原料は、その精製工程に多大な手間や専用の精製設備が必要であるため原料コストが高く、ガラス製造の原価が増大する要因となる。また、U及びThの精製分離が困難な成分については、ガラス原料自体に使用することができないなどの制約が生じる。
【0012】
また、固体撮像装置のコストダウンを目的に固体撮像素子を収容するパッケージの材質が従来のセラミックスからプラスチックに移行しつつある。カバーガラスは、パッケージに気密封着されるため、カバーガラスの熱膨張係数はプラスチックの熱膨張係数と類似したものにする必要がある。具体的には、カバーガラスの100〜300℃における平均線膨張係数が130〜250×10
−7℃
−1であると、プラスチック製パッケージとの熱膨張差に起因するパッケージの反り・変形やガラスの割れを防止できる。
【0013】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、固体撮像素子の視感度補正用近赤外線カットフィルタガラスにおいて、特に近紫外線吸収特性をもつガラスを提供することを目的とする。また、近赤外線カットフィルタガラスを固体撮像素子の保護用カバーガラスとして用いることが可能であり、特にプラスチック製パッケージとの接合に好適である近赤外線カットフィルタガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、CuOを含有するリン酸塩系ガラスにおいてU成分を適量含有することで、近紫外線吸収特性をもち、かつ固体撮像素子の保護用カバーガラスとして好適な近赤外線カットフィルタガラスが得られることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、U含有量が6〜20ppbであ
ることを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、質量%表示で、
P
2O
5 50〜63%、
Al
2O
3 1〜12%、
B
2O
3 0〜10%、
Li
2O 0〜10%、
Na
2O 1〜30%、
K
2O 0〜15%、
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 1〜20%、
MgO 0〜5%
CaO 0〜10%
SrO 0〜10%、
BaO 0〜10%
ZnO 0〜10%、
CuO 1〜15%、
Sb
2O
3 0〜2%、
を含むことを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、ガラスからのα線放出量が、0.002〜0.02c/cm
2・hであり、かつ波長550〜750nmの分光透過率において50%の透過率を示す波長が615nmとなるように換算した場合に、波長315nmにおける分光透過率が0.3%未満であることを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、Thの含有量が1ppb以下であることを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、液相温度が650〜830℃であることを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、100〜300℃の平均熱膨張係数が130〜250×10
−7℃
−1であることを特徴とする。
また、波長550〜750nmの分光透過率において透過率50%を示す波長が615nmとなるように換算した場合に、波長400nmにおける透過率が80〜90%であり、かつ波長700nmにおける透過率が1〜15%であり、かつ波長1200nmにおける透過率が5〜35%であり、かつ厚さ0.3mmに換算した場合に、波長550〜750nmの分光透過率において、透過率50%を示す波長が550〜750nmとなることを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、実質的にPbO、As
2O
3、F、V
2O
5を含まないことを特徴とする。
さらに、前記近赤外線カットフィルタガラスからなる固体撮像素子の保護用カバーガラスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガラスは、近赤外線吸収特性に加えて近紫外線吸収特性も兼ね備えるため、撮像光学系において、不要な近紫外線が固体撮像素子に到達せず、近紫外線色収差に起因する輪郭ぼけや迷光紫外線などによる撮影画像の乱れを低減することができる。また、ガラスからのα線放出量が固体撮像素子に影響を及ぼさない程度であるため、固体撮像素子の保護用カバーガラスとして用いることが可能である。また、ガラスの熱膨張係数が、プラスチック製パッケージの熱膨張係数と近似しているため、プラスチック製パッケージとの接合に好適な近赤外線カットフィルタガラスの機能を備えた固体撮像素子の保護用カバーガラスとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、近紫外線を吸収するための必須成分として、U(ウラン)を特定範囲でガラスに含有することに特徴がある。
一般の固体撮像素子は近紫外線に感度を有する。撮像光学系において、光線が入射した場合、撮像レンズの可視光に対する屈折率と近紫外線に対する屈折率とが異なるため、近紫外線は可視光とはずれて固体撮像素子の光電変換面に到達することになる。その結果、そのずれは輪郭ボケとなって画像に記録されることになる。
本発明の近赤外線カットフィルタガラスを撮像光学系に用いることで、可視光をほぼ透過し、近紫外線を吸収することができるため、撮像画像における輪郭ボケなどの画質低下を低減することができる。また、撮像光学系の他部品に誘電体多層膜からなる紫外線カット膜が形成されている場合、紫外線カット膜が反射した近紫外線が迷光となったり、紫外線カット膜に対して斜入射することで反射されずに透過することが考えられるが、それら近紫外線は近赤外線カットフィルタガラスにより吸収することができるため、近紫外線の固体撮像素子への到達を防止または抑制することができる。
【0019】
従来、固体撮像素子の保護用カバーガラスは、ガラスから放出されるα線に起因するソフトエラーの発生を防ぐため、α線放出源であるガラス中のU及びThの含有量を極限まで減らすことで、ガラスからのα線放出量を0.001c/cm
2・h以下とすることが必須と考えられてきた。
これに対し、本発明者が各種試験により確認したところ、ガラスからのα線放出量が0.002〜0.02c/cm
2・hであれば、固体撮像素子にソフトエラーが発生する確率が非常に低いことがわかった。この理由として、固体撮像素子の高画素化に伴い、光がフォトダイオードに到達するまでの経路に配置されるマイクロレンズやカラーフィルタ等の部材が緻密化されるなどして、α線がフォトダイオードに到達しにくい構造となったことが考えられる。また、固体撮像素子からの画像信号を処理する画像処理装置のノイズ除去機能が高度化し、ソフトエラーに起因するノイズを効果的に除去していることも要因として考えられる。
【0020】
そのため、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、Uを特定範囲で限定する量を必須成分として含有することで、固体撮像素子にソフトエラーなどの影響を最小限としつつ、ガラスに近紫外線吸収特性を付与することができる。これにより、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、固体撮像素子の保護用カバーガラスとしても好適に用いることが可能である。
本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、上記のとおりガラスからのα線放出量が0.002〜0.02c/cm
2・hであることが好ましい。ガラスからのα線放出量が0.002c/cm
2・h未満である場合、Uの含有量を6ppb未満とする必要があり、これによりガラスの近紫外線吸収特性が得られなくなるためである。また、0.02c/cm
2・hを超えると、ガラスからのα線に起因する固体撮像素子のソフトエラーが無視できないレベルとなるため好ましくない。好ましくは、0.002〜0.015c/cm
2・hであり、さらに好ましくは、0.002〜0.01c/cm
2・hである。
【0021】
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、波長550〜750nmの分光透過率において50%の透過率を示す波長が615nmとなるように換算した場合に、波長315nmの透過率が0.3%未満であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることがもっとも好ましい。ここで、近赤外線カットフィルタガラスの近紫外線吸収特性を波長315nmの透過率において判断した理由は、以下のとおりである。波長315nmの光は、固体撮像素子の感度が最大感度のおよそ1%になる波長であり、加えて光のエネルギーが大きいので、固体撮像素子のソフトエラーの原因になりえるため、基準として用いた。なお、波長315nmの透過率が低いと、近紫外域(波長300〜400nm)の波長の光は全体的に透過量が低くなり、かつ近紫外域から可視光の分光透過率が急峻となる。また、波長550〜750nmの分光透過率において50%の透過率を示す波長が615nmとなるように換算した場合に、波長315nmの透過率が0.3%未満とすることで、波長300〜400nmの分光透過率において透過率が50%を示す波長が360nm以上の長波長側とすることができる。
【0022】
Uは、6ppb未満ではガラスの近紫外線吸収特性が十分でなく、20ppbを超えるとガラスからのα線放出量が多くなるため好ましくない。好ましくは、7〜15ppbであり、より好ましくは8〜10ppbである。
【0023】
次に、本発明の近赤外線カットフィルタガラスのU以外の各成分について、含有量(質量%表示)を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0024】
P
2O
5は、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、ガラスの近赤外線カット性を高めるための必須成分であるが、50%未満ではその効果が十分得られず、63%を超えるとガラスの耐候性が低下する、熱膨張係数が小さくなるため好ましくない。好ましくは53〜62%であり、より好ましくは55〜61%である。
【0025】
Al
2O
3は、ガラスの耐候性を高めるための必須成分であるが、1%未満ではその効果が十分得られず、12%を超えるとガラスが不安定になる、近赤外線カット性が低下する、熱膨張係数が小さくなるため好ましくない。好ましくは3〜10%であり、より好ましくは5〜8%である。
【0026】
B
2O
3は、必須成分ではないものの、ガラスの耐候性を高める効果があるが、10%を超えるとガラスの近赤外線カット性が低下する、熱膨張係数が小さくなるため好ましくない。好ましくは0〜5%であり、より好ましくは0〜3%である。
【0027】
Li
2Oは、ガラスの溶融性を向上させる、ガラスを軟化させる、熱膨張係数を大きくする効果があるものの、10%を超えるとガラスの近赤外カット性が悪化する、耐失透性が低下するので含有しないことが好ましい。好ましくは0〜5%であり、より好ましくは0〜3%である。含有しないことがもっとも好ましい。
【0028】
Na
2Oは、ガラスの近赤外線カット性を高める、ガラスを軟化させる、熱膨張係数を大きくするための必須成分であるが、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定になる、耐候性が低下するため好ましくない。好ましくは10〜28%であり、より好ましくは15〜25%である。
【0029】
K
2Oは、ガラスの近赤外線カット性を高め、ガラスを軟化させる、熱膨張係数を大きくする効果があるが、15%を超えるとガラスが不安定になる、耐候性が低下するため好ましくない。好ましくは0〜10%であり、より好ましくは0〜5%である。
【0030】
MgOは、ガラスの破壊靭性を高める、ガラスを軟化させる、熱膨張係数を大きくする効果があるが、5%を超えるとガラスの近赤外線カット性が低下する、耐候性が低下するため好ましくない。好ましくは1〜5%であり、より好ましくは1.5〜4%である。もっとも好ましくは2〜3%である。
【0031】
CaOは、ガラスの破壊靭性を高める、ガラスを軟化させる、熱膨張係数を大きくする効果があるが、10%を超えるとガラスの近赤外線カット性が低下する、耐候性が低下するため好ましくない。好ましくは1〜10%であり、より好ましくは1.5〜8%である。もっとも好ましくは、2〜5%である。
【0032】
SrOは、ガラスを軟化させる、熱膨張係数を大きくする効果があるが、10%を超えるとガラスが不安定になる、ガラスの強度が低下するため好ましくない。好ましくは0〜8%であり、より好ましくは0〜5%である。
【0033】
BaOは、ガラスを軟化させる、熱膨張係数を大きくする効果があるが、10%を超えるとガラスが不安定になる、ガラスの強度が低下する、ガラスからのα線放出量が多くなるため好ましくない。好ましくは0〜8%であり、より好ましくは0〜5%である。含有しないことがもっとも好ましい。
【0034】
ZnOは、ガラスの破壊靭性を高める、ガラスを軟化させる、熱膨張係数を大きくする効果があるが、10%を超えるとガラスの近赤外線カット性が低下する、耐候性が低下するため好ましくない。好ましくは0〜8%であり、より好ましくは0〜5%である。
【0035】
MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの各成分は、ガラスの熱膨張係数を大きくするための必須成分であるが、これら成分の合量が1%未満であるとその効果が十分に得られず、20%を超えるとガラスの耐候性が低下するため好ましくない。これら成分の合量は、好ましくは2〜15%であり、より好ましくは3〜10%である。
【0036】
CuOは、ガラスの近赤外線カット性を高めるための必須成分であるが、1%未満であるとその効果が十分に得られず、15%を超えるとガラスの可視域透過率が低下する、ガラスが不安定になるため好ましくない。好ましくは2〜10%であり、より好ましくは3〜8%である。
【0037】
Sb
2O
3は、必須成分ではないものの、清澄剤として、あるいは、酸化剤としてガラスに含有させることができるが、2%を超えるとガラスが不安定となるため好ましくない。好ましくは0.1〜1%であり、より好ましくは0.2〜0.5%である。
【0038】
PbO、As
2O
3、F、V
2O
5は、本発明の近赤外線カットフィルタガラスでは実質的に含有しないことが好ましい。As
2O
3は、幅広い温度域で清澄ガスを発生できる優れた清澄剤として従来のガラスに用いられている。また、PbOはガラスの粘度を下げ、製造作業性を向上させる成分として用いられている。また、Fは、リン酸塩ガラスの化学的耐久性を向上させる成分として用いられている。しかし、PbO、As
2O
3、Fは環境負荷物質であるため、できるだけ含有しないことが望ましい。また、V
2O
5は、ガラスに含有するとガラスの可視領域の透過率が低下するため、可視領域の透過率が高いことが要求される本発明の近赤外線カットフィルタガラスにおいては、できるだけ含有しないことが望ましい。なお、実質的に含有しないとは、原料として意図して用いないことを意味しており、原料成分や製造工程から混入する不可避不純物については実質的に含有していないとみなす。また、前記不可避不純物を考慮し、実質的に含有しないこととは含有量が0.1%以下であることを意味する。
【0039】
Thは、α線を放出する成分として知られており、本発明の近赤外線カットフィルタガラスにおいては極力含有しないことが好ましい。好ましくは5ppb以下であり、より好ましくは3ppb以下であり、もっとも好ましくは1ppb以下である。
【0040】
本発明の近赤外線カットフィルタガラスの液相温度は、650〜830℃が好ましい。800℃以下であるとより好ましく、775℃以下であるとさらに好ましい。750℃以下であると極めて好ましく、725℃以下であるともっとも好ましい。ガラスの液相温度が低くなりすぎるとガラス転移温度が低くなるため、ガラスの液相温度の下限は650℃である。
近赤外カットフィルタガラスの液相温度を650〜830℃とすることで、ガラスの溶解温度を低くすることができ、これによりガラス中のCu
+とCu
2+の化学的な平衡をCu
2+側にすることができる。ガラス中のCu
+は、可視領域に吸収特性を有するため、Cu
+を低減することで、ガラスの可視領域の透過率が高くなり、固体撮像素子に可視光を多く導入することが可能であり、固体撮像素子の感度を高めることができる。
【0041】
本発明の近赤外カットフィルタガラスの100〜300℃における平均熱膨張係数は、130〜250×10
−7℃
−1であることが好ましい。140〜220×10
−7℃
−1であることがより好ましく、150〜200×10
−7℃
−1であるとさらに好ましい。
このようにすることで、近赤外線カットフィルタガラスの平均熱膨張係数とプラスチック製固体撮像素子パッケージの平均熱膨張係数とを近い値とすることができ、よって近赤外線カットフィルタガラスをプラスチック製パッケージに貼り付けた際に、熱膨張差に起因するパッケージの反り・変形やガラスの割れを防止することができる。
【0042】
本発明の近赤外線カットフィルタガラスの分光特性は、波長600〜700nmの分光透過率において、透過率50%を示す波長が615nmとなるように換算したときに、波長400nmにおける分光透過率が80〜90%であることが好ましく、85〜90%であるとより好ましく、88%以上であるとさらに好ましい。ガラスと空気の界面での表面反射による損失とガラスの吸収を考慮すると、波長400nmの透過率の上限は90%である。固体撮像素子用の近赤外線カットフィルタガラスは、可視領域の透過率が可及的に高いことが求められる。これは、固体撮像素子に導入する可視光を効率的に取り込むことで、固体撮像素子の感度を高めることができるためである。
同様に、波長700nmにおける分光透過率が1〜15%であることが好ましく、3〜12%であるとより好ましく、5〜10%であるとさらに好ましい。同様に、波長1200nmにおける分光透過率が5〜35%であることが好ましく、8〜25%であるとより好ましく、10〜20%であるとさらに好ましい。近赤外線カットフィルタガラスを用いる光学機器では、一般的に画像処理(デジタル処理)を行うが、固体撮像素子が反応する赤外光の影響に対してはソフトウェア的に除去することが難しいとされており、前記近赤外線カットフィルタガラスにて赤外光をできる限り吸収することが望ましいためである。
なお、上記において、本発明の近赤外線カットフィルタガラスの可視領域の透過率特性は、透過率50%を示す波長が615nmとなるように換算した場合の透過率特性を用いている。これは、ガラスの透過率は厚みによって変化するが、均質なガラスであれば、光の透過する方向におけるガラスの厚さと透過率がわかれば、所定の厚さの透過率を計算によって求めることができるためである。
【0043】
本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、次のようにして作製することができる。まず得られるガラスが上記組成範囲、物性になるように原料を秤量、混合する。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において800〜1200℃の温度で加熱溶融する。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、徐冷した後、切断・研磨して所定の内厚の平板状に成形する。
【実施例】
【0044】
本発明の実施例及び比較例を表1、表2に示す。本明細書において、例1〜例11は本願の実施例であり、例12〜例14は本願の比較例である。例13のガラスは、特開2006−1808号公報に記載の例1であり、例14のガラスは、特開2005−353718号公報に記載の例1である。なお、例13のガラスは、ガラス原料等を調整し、表に記載のU含有量とした。これらガラスは、表に示す組成(質量%)となるよう原料を秤量・混合し、内容積約300ccの白金ルツボ内に入れて、800〜1200℃で1〜3時間溶融、清澄、撹拌後、およそ300〜500℃に予熱した縦50mm×横50mm×高さ20mmの長方形のモールドに鋳込み後、約1℃/分で徐冷してサンプルとした。ガラスの溶解性等については、上記サンプル作製時に目視で観察し、得られたガラスサンプルには泡や脈理のないことを確認した。なお、各ガラスの原料は、P
2O
5の場合はH
3PO
4またはメタリン酸塩原料を、Al
2O
3の場合はAl(PO
3)
3またはAl
2O
3を、B
2O
3の場合はH
3BO
3を、Li
2Oの場合はLiPO
3を、Na
2Oの場合はNaPO
3を、K
2Oの場合はKPO
3を、MgOの場合はMgOを、CaOの場合はCaCO
3を、SrOの場合はSrCO
3を、BaOの場合はBaPO
3を、ZnOの場合はZnOを、CuOの場合はCuOを、Sb
2O
3の場合はSb
2O
3を、それぞれ使用した。また、例14のガラスの原料についてのみ、P
5+の場合はH
3PO
4またはAl(PO
3)
3を、Al
3+の場合はAlF
3またはAl(PO
3)
3またはA
2O
3を、Li
+の場合はLiFまたはLiNO
3またはLi
2Oを、Mg
2+の場合はMgF
2またはMgOを、Sr
2+の場合はSrF
2またはSrCO
3を、Ba
2+の場合はBaF
2またはBaCO
3を、Na
+、K
+、Ca
2+、Zn
2+の場合はフッ化物を、Cu
2+の場合はCuOを、それぞれ使用した。U、Thについては、各ガラス原料のUとThの含有量を事前に調査し、所望のU、Th含有量になるように各ガラス原料の種類や含有量を制御することで行った。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
以上のようにして作製したガラスについて、以下の方法により評価を行った。
得られたガラスを用いて、およそ縦40mm×横50mm×厚さ0.3mmの両面を光学研磨したガラスサンプルを準備し、このガラスを、エポキシ樹脂を用いて有効画素数1000万画素のCMOSチップを内蔵したプラスチックパッケージに封着して固体撮像素子を作製し、得られた固体撮像素子のソフトエラーの有無を調査した。α線量は、住化分析センター社製α線測定装置LACSにて測定した。
【0048】
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(PerkineLmer社製、商品名:LAMBDA 950)を用いて評価した。具体的には、およそ縦40mm×横50mm×厚さ0.3mmの両面を光学研磨したガラスサンプルを準備し、測定を行った。なお、
図1(a)、(b)に示す分光透過率、及び表1、表2の各波長における透過率は、波長550〜750nmの分光透過率において50%の透過率を示す波長が615nmとなるように換算した場合のものである。また、表1、表2のIR側50%透過率波長は、ガラスの厚さを0.3mmに換算した場合の波長550〜750nmの分光透過率において、50%透過率を示す波長である。
【0049】
液相温度は、熱分析装置(セイコーインスツル社製、商品名:Tg/DTA6300)を用いて測定した。ガラスを約3g準備し、乳鉢、乳房で粉砕した後、105μmと44μmのふるいの間に残ったサンプルを用いて、測定範囲200〜1000℃、昇温測度10℃/minで測定を行い、得られたDTAカーブで最後の結晶が融解する温度より液相温度を求めた。
【0050】
熱膨張係数αとガラス転移温度Tgは、得られたガラスを棒状に加工し、熱分析装置(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TMA4000SA)で熱膨張法により、昇温速度5℃/分で測定した。
【0051】
例1〜11(実施例)と例12〜14(比較例)のガラスを比較すると、U含有量が6〜20ppbである実施例のガラスは、U含有量の少ない比較例のガラスに比べ、波長315nmの透過率が低く、紫外線カット性に優れることがわかる。また、
図1の(a)及び(b)に示すように、例1(実施例)のガラスは例12(比較例)のガラスに比べ、波長315nmの透過率が低いため、波長300〜400nmの近紫外域の透過率が全体的に低く、近紫外域から可視光の分光透過率が急峻である。また、透過率が50%を示す波長を360nm以上の長波長側とすることができる。なお、
図1(a)は、例1及び例12のガラスの波長300〜1200nmの分光透過率を示し、
図1(b)は(a)の分光透過率の波長300〜400nmの部分のみを切り出したものである。
例1〜11(実施例)のガラスの液相温度は、いずれも650〜830℃である。そのため、ガラスの溶解温度を低くすることができるため、可視領域の透過率を高めることができ、固体撮像素子の感度を高めることができる。
例1〜11(実施例)と例13(比較例)のガラスを比較すると、実施例の各ガラスは、比較例のガラスに比べ、平均線膨張係数が大きく、カバーガラスとプラスチック製パッケージの熱膨張差に起因するパッケージの反り・変形やガラスの割れを防止できることがわかる。