(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶化合物(本願において、液晶化合物なる用語は、液晶相を有する化合物および液晶相を有さないが液晶組成物の構成成分として有用である化合物の総称として用いられる。)を用いた表示素子は、時計、電卓、ワ−プロなどのディスプレイに広く利用されている。これらの表示素子は液晶化合物の光学異方性、誘電率異方性などを利用したものである。
【0003】
液晶表示素子において、液晶の動作モードに基づいた分類は、PC(phase change)、TN(twisted nematic)、STN(super twisted nematic)、BTN(Bistable twisted nematic)、ECB(electrically controlled birefringence)、OCB(opticallycompensated bend)、IPS(in-plane switching)、VA(vertical alignment)、PSA(polymer sustained alignment)などである。素子の駆動方式に基づいた分類は、PM(passive matrix)とAM(active matrix)である。PM(passive matrix)はスタティック(static)とマルチプレックス(multiplex)などに分類され、AMはTFT(thin film transistor)、MIM(metal insulator metal)などに分類される。
【0004】
これらの液晶表示素子は、適切な物性を有する液晶組成物を含有する。液晶表示素子の特性を向上させるには、この液晶組成物が適切な物性を有するのが好ましい。液晶組成物の成分である液晶化合物に必要な一般的物性は、次のとおりである。
(1)化学的に安定であること、および物理的に安定であること、
(2)高い透明点(液晶相−等方相の相転移温度)を有すること、
(3)液晶相(ネマチック相、スメクチック相等)の下限温度、特にネマチック相の下限温度が低いこと、
(4)他の液晶化合物との相溶性に優れること、
(5)大きな誘電率異方性を有すること、
(6)大きな光学異方性を有すること、
である。
【0005】
(1)のように化学的、物理的に安定な液晶化合物を含む組成物を表示素子に用いると、電圧保持率を高くすることができる。
また、(2)および(3)のように、高い透明点、あるいは液晶相の低い下限温度を有する液晶化合物を含む組成物ではネマチック相の温度範囲を広げることが可能となり、幅広い温度範囲で表示素子として使用することができる。
【0006】
液晶化合物は、単一の化合物では発揮することが困難な特性を発現させるために、他の多くの液晶化合物と混合して調製した組成物として用いることが一般的である。したがって、表示素子に用いる液晶化合物は、(4)のように、他の液晶化合物などとの相溶性が良好であることが好ましい。
【0007】
近年は特に表示性能、例えばコントラスト、表示容量、応答時間特性などのより高い液晶表示素子が要求されている。さらに使用される液晶材料には駆動電圧の低いもの、すなわちしきい値電圧の低下を可能とする液晶化合物およびこれを含む低駆動電圧の液晶組成物が要求されている。
【0008】
しきい値電圧(V
th)はよく知られているように、下式により示される(H.J.Deuling, et al.,Mol.Cryst.Liq.Cryst.,27 (1975)81)。
V
th=π(K/ε
0Δε)
1/2
上式において、Kは弾性定数、ε
0は真空の誘電率である。該式から判るように、V
thを低下させるには、Δε(誘電率異方性)の値を大きくするかまたはKを小さくするかの2通りの方法が考えられる。しかし、現在の技術では未だ実際にKをコントロールすることは困難であるため、通常はΔεの大きな液晶材料を用いて要求に対処しているのが現状である。このような事情から(5)のように大きな誘電率異方性を有する液晶化合物の開発が盛んに行われている。
【0009】
さらに、良好な液晶表示を行うためにはそれを構成する液晶表示素子のセルの厚みと使用される液晶材料のΔn(光学異方性)の値は一定であることが好ましい ( E.Jakeman, et al., Pyhs.Lett., 39A. 69 ( 1972 ) )。また、液晶表示素子の応答速度は用いられるセルの厚みの二乗に反比例する。そのため、動画などの表示にも応用できる高速応答可能な液晶表示素子を製造するには、大きな光学異方性を有する液晶組成物を用いなくてはならない。したがって(6)のように大きな光学異方性を有する液晶化合物が要求されている。
【0010】
これまでに、大きな誘電率異方性および光学異方性を有する液晶化合物が種々合成されており、そのうちのいくつかは実用的に用いられている。特許文献1〜5には−CF
2O−結合基を有する化合物、例えば3環化合物(S−1)や4環化合物(S−2)が示されている。これらの化合物は液晶相の温度範囲が狭く透明点が低いため、それを液晶組成物にしたとき表示素子として使用できる温度範囲が十分に広くない。
【0011】
さらに、特許文献6および7には、−CH=CH−CF
2O−結合基を有する3環化合物(S−3)が示されている。この化合物は大きな誘電率異方性および大きな光学異方性を有しているが、液晶相の温度範囲が十分に広くない。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1−1 本発明の化合物
本発明の態様は、式(1)で表される化合物に関する。
式(1)において、lおよびoは独立して、0から3の整数である。そして、lが2または3の時の任意の2つの環A
1などは、同一であっても異なってもよい。このことから、式(1)の化合物は式(1’)で表すこともできる。
式(1’)において、l、m、n、o、p、およびqは独立して、0または1であり、l、m、n、o、p、およびqの和は3以下である。
式(1’)において、R
1は炭素数1〜20のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の−CH
2−は−O−、−S−または−CH=CH−により置き換えられてもよい。例えば、CH
3−(CH
2)
3−において任意の−CH
2−を−O−、−S−、または−CH=CH−で置き換えた基の例は、CH
3−(CH
2)
2−O−、CH
3O−(CH
2)
2−、CH
3OCH
2O−、CH
3−(CH
2)
2−S−、CH
3S−(CH
2)
2−、CH
3SCH
2S−、CH
2=CH−(CH
2)
3−、CH
3CH=CH−(CH
2)
2−、CH
3CH=CHCH
2O−などである。
【0029】
このようなR
1の例は、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルコキシ、チオアルキル、チオアルキルアルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルオキシアルキル、アルコキシアルケニルなどである。これらの基において、直鎖でも分岐でもよく、分岐よりも直鎖の方が好ましい。R
1が分岐の基であっても光学活性であるときは好ましい。アルケニルにおける−CH=CH−の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。−CH=CHCH
3、−CH=CHC
2H
5、−CH=CHC
3H
7、−CH=CHC
4H
9、−C
2H
4CH=CHCH
3、および−C
2H
4CH=CHC
2H
5のような奇数位に二重結合をもつアルケニルにおいてはトランス配置が好ましい。−CH
2CH=CHCH
3、−CH
2CH=CHC
2H
5、および−CH
2CH=CHC
3H
7のような偶数位に二重結合をもつアルケニルにおいてはシス配置が好ましい。好ましい立体配置を有するアルケニル化合物は、高い上限温度または液晶相の広い温度範囲を有する。Mol. Cryst. Liq. Cryst., 1985, 131, 109およびMol. Cryst. Liq. Cryst., 1985, 131, 327に詳細な説明がある。
【0030】
アルキルの具体的な例は、−CH
3、−C
2H
5、−C
3H
7、−C
4H
9、−C
5H
11、−C
6H
13、−C
7H
15、−C
8H
17、−C
9H
19、−C
10H
21、−C
11H
23、−C
12H
25、−C
13H
27、−C
14H
29、および−C
15H
31である。
【0031】
アルコキシの具体的な例は、−OCH
3、−OC
2H
5、−OC
3H
7、−OC
4H
9、−OC
5H
11、−OC
6H
13および−OC
7H
15、−OC
8H
17、−OC
9H
19、−OC
10H
21、−OC
11H
23、−OC
12H
25、−OC
13H
27、および−OC
14H
29である。
【0032】
アルコキシアルキルの具体的な例は、−CH
2OCH
3、−CH
2OC
2H
5、−CH
2OC
3H
7、−(CH
2)
2−OCH
3、−(CH
2)
2−OC
2H
5、−(CH
2)
2−OC
3H
7、−(CH
2)
3−OCH
3、−(CH
2)
4−OCH
3、および−(CH
2)
5−OCH
3である。
【0033】
アルケニルの具体的な例は、−CH=CH
2、−CH=CHCH
3、−CH
2CH=CH
2、−CH=CHC
2H
5、−CH
2CH=CHCH
3、−(CH
2)
2−CH=CH
2、−CH=CHC
3H
7、−CH
2CH=CHC
2H
5、−(CH
2)
2−CH=CHCH
3、および−(CH
2)
3−CH=CH
2である。
【0034】
アルケニルオキシの具体的な例は、−OCH
2CH=CH
2、−OCH
2CH=CHCH
3、および−OCH
2CH=CHC
2H
5である。
【0035】
R
1は、炭素数1〜12のアルキル、または炭素数2〜12のアルケニルが好ましい。またR
1の最も好ましい例は、−CH
3、−C
2H
5、−C
3H
7、−C
4H
9、−C
5H
11、−C
6H
13、−C
7H
15、−C
8H
17、−C
9H
19、−C
10H
21−C
11H
23、−C
12H
25、−C
13H
27、−C
14H
29、−C
15H
31、−CH=CH
2、−CH=CHCH
3、−CH
2CH=CH
2、−CH=CHC
2H
5、−CH
2CH=CHCH
3、−(CH
2)
2−CH=CH
2、−CH=CHC
3H
7、−CH
2CH=CHC
2H
5、−(CH
2)
2−CH=CHCH
3、および−(CH
2)
3−CH=CH
2である。
【0036】
式(1’)において、環A
1、環A
2、環A
3、環A
4、環A
5、および環A
6は独立して、1,4−シクロヘキシレン(14−1)、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル(14−2)、ピリミジン−2,5−ジイル(14−3)、ピリジン−2,5−ジイル(14−4)、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル(14−5)、1,4−フェニレン(14−6)、または任意の水素がハロゲンにより置き換えられた1,4−フェニレンである。任意の水素がハロゲンにより置き換えられた1,4−フェニレンの例は、式(14−7)〜(14−24)である。好ましい例は、式(14−7)〜(14−11)で表される基である。
【0038】
環A
1、環A
2、環A
3、環A
4、環A
5、および環A
6の好ましい例は、1,4−シクロヘキシレン(14−1)、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル(14−2)、ピリミジン−2,5−ジイル(14−3)、ピリジン−2,5−ジイル(14−4)、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル(14−5)、1,4−フェニレン(14−6)、2−フルオロ−1,4−フェニレン(14−7)(14−12)、2−クロロ−1,4−フェニレン(14−9)(14−19)、2−クロロ−6−フルオロ−1,4−フェニレン(14−11)、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン(14−8)(14−16)、である。
【0039】
環A
1、環A
2、環A
3、環A
4、環A
5、および環A
6の最も好ましい例は、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2−クロロ−6−フルオロ−1,4−フェニレン、および2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンである。
【0040】
式(1’)において、Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5、およびZ
6は独立して、単結合、−CH
2CH
2−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CF
2O−、−OCF
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−CF=CF−、−(CH
2)
4−、−(CH
2)
2−CF
2O−、−(CH
2)
2−OCF
2−、−CF
2O−(CH
2)
2−、−OCF
2−(CH
2)
2−、−CH=CH−(CH
2)
2−または−(CH
2)
2−CH=CH−である。
【0041】
Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5、およびZ
6の好ましい例は、単結合、−CH
2CH
2−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−CF
2O−、−CH
2O−または−OCH
2−である。これらの結合において、−CH=CH−、−CF=CF−、−CH=CH−(CH
2)
2−、および−(CH
2)
2−CH=CH−のような結合基の二重結合に関する立体配置はシスよりもトランスが好ましい。最も好ましいZ
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5、およびZ
6は、単結合である。
【0042】
式(1’)において、L
1、L
2、L
3、およびL
4は独立して、水素、フッ素、または塩素である。また、L
1、L
2、L
3、およびL
4はは独立して水素またはフッ素であることが好ましい。環A
1が1,4−フェニレンであり、X
1がフッ素であり、l=1でm=n=o=p=q=0である場合には、L
1、L
2、L
3、およびL
4のうち少なくとも1つは水素または塩素である。
【0043】
式(1’)においてX
1は水素、ハロゲン、−C≡N、−N=C=S、−SF
5、または炭素数1〜10のアルキルであり、炭素数2〜10のアルキルにおいて任意の−CH
2−は−O−、−S−または−CH=CH−により置き換えられてもよく、そして、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数2〜10のアルキルにおいて任意の−CH
2−が、−O−、−S−または−CH=CH−により置き換えられた基において、任意の水素はハロゲンにより置き換えられてもよい。
【0044】
任意の水素がハロゲンにより置き換えられたアルキルの具体的な例は、−CH
2F、−CHF
2、−CF
3、−(CH
2)
2−F、−CF
2CH
2F、−CF
2CHF
2、−CH
2CF
3、−CF
2CF
3、−(CH
2)
3−F、−(CF
2)
3−F、−CF
2CHFCF
3、−CHFCF
2CF
3、−(CH
2)
4−F、−(CF
2)
4−F、−(CH
2)
5−F、および−(CF
2)
5−Fである。
【0045】
任意の水素がハロゲンにより置き換えられたアルコキシの具体的な例は、−OCH
2F、−OCHF
2、−OCF
3、−O−(CH
2)
2−F、−OCF
2CH
2F、−OCF
2CHF
2、−OCH
2CF
3、−O−(CH
2)
3−F、−O−(CF
2)
3−F、−OCF
2CHFCF
3、−OCHFCF
2CF
3、−O−(CH
2)
4−F、−O−(CF
2)
4−F、−O−(CH
2)
5−F、および−O−(CF
2)
5−Fである。
【0046】
任意の水素がハロゲンにより置き換えられたアルケニルの具体的な例は、−CH=CHF、−CH=CF
2、−CF=CHF、−CH=CHCH
2F、−CH=CHCF
3、−(CH
2)
2−CH=CF
2、−CH
2CH=CHCF
3、および−CH=CHCF
2CF
3である。
【0047】
X
1の具体的な例は、水素、フッ素、塩素、−C≡N、−N=C=S、−SF
5、−CH
3、−C
2H
5、−C
3H
7、−C
4H
9、−C
5H
11、−C
6H
13、−C
7H
15、−C
8H
17、−C
9H
19、−C
10H
21、−CH
2F、−CHF
2、−CF
3、−(CH
2)
2−F、−CF
2CH
2F、−CF
2CHF
2、−CH
2CF
3、−CF
2CF
3、−(CH
2)
3−F、−(CF
2)
3−F、−CF
2CHFCF
3、−CHFCF
2CF
3、−(CH
2)
4−F、−(CF
2)
4−F、−(CH
2)
5−F、−(CF
2)
5−F、−OCH
3、−OC
2H
5、−OC
3H
7、−OC
4H
9、−OC
5H
11、−OCH
2F、−OCHF
2、−OCF
3、−O−(CH
2)
2−F、−OCF
2CH
2F、−OCF
2CHF
2、−OCH
2CF
3、−O−(CH
2)
3−F、−O−(CF
2)
3−F、−OCF
2CHFCF
3、−OCHFCF
2CF
3、−O(CH
2)
4−F、−O−(CF
2)
4−F、−O−(CH
2)
5−F、−O−(CF
2)
5−F、−CH=CH
2、−CH=CHCH
3、−CH
2CH=CH
2、−CH=CHC
2H
5、−CH
2CH=CHCH
3、−(CH
2)
2−CH=CH
2、−CH=CHC
3H
7、−CH
2CH=CHC
2H
5、−(CH
2)
2−CH=CHCH
3、−(CH
2)
3−CH=CH
2、−CH=CHF、−CH=CF
2、−CF=CHF、−CH=CHCH
2F、−CH=CHCF
3、−(CH
2)
2−CH=CF
2、−CH
2CH=CHCF
3、および−CH=CHCF
2CF
3である。
【0048】
好ましいX
1の例は、フッ素、塩素、−C≡N、−CF
3、−CHF
2、−CH
2F、−OCF
3、−OCHF
2、および−OCH
2Fである。最も好ましいX
1の例は、フッ素、塩素、−CF
3、および−OCF
3である。
【0049】
式(1’)において、l、m、n、o、p、およびqは独立して、0または1であり、l+m+n+o+p+qは3以下である。l、m、n、o、pおよびqの好ましい組み合わせは、式(1−1)のように(l=1,m=n=o=p=q=0)、式(1−2)のように(l=m=1,n=o=p=q=0)、式(1−3)のように(l=o=1,m=n=p=q=0)、式(1−4)のように(l=m=o=1,n=p=q=0)、および式(1−5)のように(l=m=n=1,o=p=q=0)である。
【0050】
1−2 本発明の化合物の性質およびその調整方法
本発明の化合物(1)をさらに詳細に説明する。化合物(1)は、素子が通常使用される条件下において物理的および化学的に極めて安定であり、そして他の化合物との相溶性がよい。この化合物を含有する組成物は素子が通常使用される条件下で安定である。この組成物を低い温度で保管しても、この化合物が結晶(またはスメクチック相)として析出することがない。この化合物は、液晶相の温度範囲が広く透明点が高い。したがって組成物においてネマチック相の温度範囲を広げることが可能となり、幅広い温度範囲で表示素子として使用することができる。また、この化合物は大きな光学異方性を有する。よって高速応答可能な液晶表示素子を製造するのに適している。さらにこの化合物は大きな誘電率異方性を持つため、組成物のしきい値電圧を下げるための成分として有用である。
【0051】
化合物(1)のl、m、n、o、p、およびqの組み合わせと、環A
1〜環A
6の種類、左末端基R
1、一番右側のベンゼン環上の基およびその置換位置(L
1、L
2およびX
1)、あるいは結合基Z
1〜Z
6を適切に選択することによって、透明点、光学異方性、誘電率異方性などの物性を任意に調整することが可能である。l、m、n、o、p、およびqの組み合わせ、環A
1〜A
6、左末端基R
1、右末端基X
1、結合基Z
1〜Z
6、L
1、L
2、L
3、およびL
4の種類が、化合物(1)の物性に与える効果を以下に説明する。
【0052】
l、m、n、o、pおよびqの組み合わせが、式(1−1)のように(l=1,m=n=o=p=q=0)であるときは、他の化合物との相溶性が良好であり、粘性が低い。式(1−2)のように(l=m=1,n=o=p=q=0)であるときは液晶相の温度範囲が広く、透明点が高く、光学異方性が大きい。式(1−3)のように(l=o=1,m=n=p=q=0)であるときは、他の化合物との相溶性が良好であり、誘電率異方性が大きい。式(1−4)のように(l=m=o=1,n=p=q=0)であるときは透明点が高く、誘電率異方性が大きく、光学異方性が大きい。式(1−5)のように(l=m=n=1,o=p=q=0)であるときは透明点が極めて高く、光学異方性が大きい。
【0053】
化合物(1)において、環A
1〜環A
6がすべて1,4−フェニレンからなる場合には、化学的安定性が高く、光学異方性、誘電率異方性が大きい。環A
1〜環A
6のうちの少なくとも1つが1,4−シクロヘキシレンである場合には他の化合物との相溶性が良好であり、透明点が高く、粘性が低い。環A
1〜環A
6のうちの少なくとも1つが1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、あるいはピリミジン−2,5−ジイルである場合には誘電率異方性が極めて大きい。環A
1〜環A
6のうちの少なくとも1つがテトラヒドロピラン−2,5−ジイルである場合には他の化合物との相溶性が良好である。
【0054】
R
1が直鎖であるときは液晶相の温度範囲が広くそして粘度が小さい。R
1が分岐鎖であるときは他の化合物との相溶性がよい。R
1が光学活性基である化合物は、キラルドーパントとして有用である。この化合物を組成物に添加することによって、素子に発生するリバース・ツイスト・ドメイン(Reverse twisted domain)を防止することができる。R
1が光学活性基でない化合物は組成物の成分として有用である。R
1がアルケニルであるとき、好ましい立体配置は二重結合の位置に依存する。好ましい立体配置を有するアルケニル化合物は、高い上限温度または液晶相の広い温度範囲を有する。
【0055】
結合基Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5、およびZ
6が、単結合、−CH
2CH
2−、−CH=CH−、−CF
2O−、−OCF
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−CF=CF−、−(CH
2)
3−O−、−O−(CH
2)
3−、−(CH
2)
2−CF
2O−、−OCF
2−(CH
2)
2−、または−(CH
2)
4−であるときは粘度が小さい。結合基が、単結合、−(CH
2)
2−、−CF
2O−、−OCF
2−、または−CH=CH−であるときは粘度がより小さい。結合基が−CH=CH−であるときは液晶相の温度範囲が広く、そして弾性定数比K
33/K
11(K
33:ベンド弾性定数、K
11:スプレイ弾性定数)が大きい。結合基が−C≡C−のときは光学異方性が大きい。Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5およびZ
6が、単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−CF
2O−、−OCF
2−、−(CH
2)
4−であるときは化学的に比較的安定であって、比較的劣化をおこしにくい。
【0056】
右末端基X
1が、フッ素、塩素、−C≡N、−N=C=S、−SF
5、−CF
3、−CHF
2、−CH
2F、−OCF
3、−OCHF
2、または−OCH
2Fであるときは誘電率異方性が大きい。X
1が、−C≡N、−N=C=Sまたはアルケニルであるときは光学異方性が大きい。X
1が、フッ素、−OCF
3、−CF
3、またはアルキルであるときは、化学的に安定である。
【0057】
L
1およびL
2が共にフッ素であり、X
1が、フッ素、塩素、−C≡N、−N=C=S、−SF
5、−CF
3、−CHF
2、−CH
2F、−OCF
3、−OCHF
2、または−OCH
2Fであるときは、誘電率異方性が大きい。L
1がフッ素でありX
1が−OCF
3であるとき、L
1およびL
2が共にフッ素でありX
1が−OCF
3または−CF
3であるとき、またはL
1、L
2およびX
1が全てフッ素であるときは、誘電率異方性値が大きく、液晶相の温度範囲が広いうえ、化学的に安定であり劣化を起こしにくい。
【0058】
以上のように、環構造、末端基、結合基などの種類を適当に選択することにより目的の物性を有する化合物を得ることができる。したがって、化合物(1)はPC、TN、STN、ECB、OCB、IPS、VAなどの素子に用いられる組成物の成分として有用である。
【0059】
1−3 化合物(1)の具体例
化合物(1)の好ましい例は、式(1−1)〜(1−5)である。より好ましい例は、式(1−6)〜(1−38)である。さらに好ましい例は、式(1−39)〜(1−49)である。
これらの式において、R
1は炭素数1〜12のアルキル、または炭素数2〜12のアルケニルであり;環A
1、環A
2、環A
3、および環A
4は独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、または任意の水素がハロゲンにより置き換えられた1,4−フェニレンであり;L
1、L
2、L
3、およびL
4は独立して、水素、塩素またはフッ素であり;X
1は、フッ素、塩素、−CF
3、または−OCF
3である。そして、式(1−1)において、環A
1が1,4−フェニレンであり、X
1がフッ素である場合、L
1、L
2、L
3、およびL
4のうち少なくとも1つは水素である。
【0063】
これらの式において、R
1は炭素数1〜12のアルキルであり;L
1、L
2、L
3、L
4、L
5、L
6、L
7、L
8、およびL
9は独立して、水素、塩素またはフッ素であり;X
1は、フッ素、塩素、−CF
3、または−OCF
3である。そして、式(1−6)において、X
1がフッ素である場合、L
1、L
2、L
3、およびL
4のうち少なくとも1つは水素である。
【0065】
これらの式において、R
1は炭素数1〜12のアルキルであり;L
1、L
2、L
3、L
4、L
5、L
6、L
7、L
8、およびL
9は独立して、水素またはフッ素であり;X
1は、フッ素、塩素、−CF
3、または−OCF
3である。そして、式(1−39)において、X
1がフッ素である場合、L
1、L
2、L
3、およびL
4のうち少なくとも1つは水素である。
【0066】
1−4 化合物(1)の合成
次に、化合物(1)の合成について説明する。化合物(1)は有機合成化学における手法を適切に組み合わせることにより合成できる。出発物に目的の末端基、環および結合基を導入する方法は、オーガニックシンセシス(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などに記載されている。
【0067】
1−4−1 結合基Z
1〜Z
6を生成する方法
化合物(1)における結合基Z
1〜Z
6を生成する方法の一例は、下記のスキームのとおりである。このスキームにおいて、MSG
1またはMSG
2は少なくとも一つの環を有する1価の有機基である。スキームで用いた複数のMSG
1(またはMSG
2)は、同一であってもよいし、または異なってもよい。化合物(1A)〜(1J)は、化合物(1)に相当する。
【0070】
次に、化合物(1)における結合基Z
1〜Z
6について、各種の結合の生成方法について、以下の(I)〜(XI)項で説明する。
【0071】
(I)単結合の生成
アリールホウ酸(2)と公知の方法で合成される化合物(3)とを、炭酸塩水溶液とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で反応させて化合物(1A)を合成する。この化合物(1A)は、公知の方法で合成される化合物(4)にn−ブチルリチウムを、次いで塩化亜鉛を反応させ、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で化合物(3)を反応させることによっても合成される。
【0072】
(II)−COO−と−OCO−の生成
化合物(4)にn−ブチルリチウムを、続いて二酸化炭素を反応させてカルボン酸(5)を得る。化合物(5)と、公知の方法で合成されるフェノール(6)とをDCC(1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド)とDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)の存在下で脱水させて−COO−を有する化合物(1B)を合成する。この方法によって−OCO−を有する化合物も合成する。
【0073】
(III)−CF
2O−と−OCF
2−の生成
化合物(1B)をローソン試薬のような硫黄化剤で処理して化合物(7)を得る。化合物(7)をフッ化水素ピリジン錯体とNBS(N−ブロモスクシンイミド)でフッ素化し、−CF
2O−を有する化合物(1C)を合成する。M. Kuroboshi et al., Chem. Lett., 1992,827.を参照。化合物(1C)は化合物(7)を(ジエチルアミノ)サルファートリフルオリド(DAST)でフッ素化しても合成される。W. H. Bunnelle et al., J. Org. Chem. 1990, 55, 768.を参照。この方法によって−OCF
2−を有する化合物も合成する。Peer. Kirsch et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 1480.に記載の方法によってこれらの結合基を生成させることも可能である。
【0074】
(IV)−CH=CH−の生成
化合物(4)をn−ブチルリチウムで処理した後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などのホルムアミドと反応させてアルデヒド(9)を得る。公知の方法で合成されるホスホニウム塩(8)をカリウムtert−ブトキシドのような塩基で処理して発生させたリンイリドを、アルデヒド(9)に反応させて化合物(1D)を合成する。反応条件によってはシス体が生成するので、必要に応じて公知の方法によりシス体をトランス体に異性化する。
【0075】
(V)−(CH
2)
2−の生成
化合物(1D)をパラジウム炭素のような触媒の存在下で水素化することにより、化合物(1E)を合成する。
【0076】
(VI)−(CH
2)
4−の生成
ホスホニウム塩(8)の代わりにホスホニウム塩(10)を用い、項(IV)の方法に従って−(CH
2)
2−CH=CH−を有する化合物を得る。これを接触水素化して化合物(1F)を合成する。
【0077】
(VII)−C≡C−の生成
ジクロロパラジウムとハロゲン化銅との触媒存在下で、化合物(4)に2−メチル−3−ブチン−2−オールを反応させたのち、塩基性条件下で脱保護して化合物(11)を得る。ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウムとハロゲン化銅との触媒存在下、化合物(11)を化合物(3)と反応させて、化合物(1G)を合成する。
【0078】
(VIII)−CF=CF−の生成
化合物(4)をn−ブチルリチウムで処理したあと、テトラフルオロエチレンを反応させて化合物(12)を得る。化合物(3)をn−ブチルリチウムで処理したあと化合物(12)と反応させて化合物(1H)を合成する。
【0079】
(IX)−CH
2O−または−OCH
2−の生成
化合物(9)を水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤で還元して化合物(13)を得る。これを臭化水素酸などでハロゲン化して化合物(14)を得る。炭酸カリウムなどの存在下で、化合物(14)を化合物(6)と反応させて化合物(1I)を合成する。
【0080】
(X)−(CH
2)
3O−または−O(CH
2)
3−の生成
化合物(9)の代わりに化合物(15)を用いて、前項(IX)と同様な方法にて化合物(1J)を合成する。
【0081】
1−4−2 環A
1、環A
2、環A
3、環A
4、環A
5、および環A
6を合成する方法
1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレンなどの環に関しては出発物が市販されているか、または合成法がよく知られている。
【0082】
1−4−3−1 化合物(1)を合成する方法
式(1)で表される化合物を合成する方法は複数あるが、ここにその例を示す。ベンズアルデヒド誘導体(18)に対して、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロリドとカリウム−t−ブトキシドを作用させWittig反応を行い、メトキシビニルベンゼン誘導体(19)を得た後、蟻酸で処理してアルデヒド誘導体(20)へと導く。これにトリフェニルホスフィンとクロロジフルオロ酢酸ナトリウムを作用させ3,3−ジフルオロアリルベンゼン誘導体(21)を得た後、臭素を作用させ2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロピルベンゼン誘導体(22)へと導く。次いでアルコール誘導体(23)とエーテル化させることにより化合物(1)へと導くことができる。
【0083】
これらの式において、環A
1〜環A
6、Z
1〜Z
6、L
1〜L
4、R
1、X
1、l、m、n、o、p、およびqは、項[1]と同一の定義である。
【0084】
1−4−3−2 合成原料であるアルコール誘導体(23)を合成する方法
化合物(1)の合成原料であるアルコール誘導体(23)は、例えば以下の手法に従って合成する。
式(23)において、oおよびpが、共に0である場合はブロモベンゼン誘導体(24)から調製したグリニャール試薬にほう酸トリアルキルを作用させ得られるボロン酸エステル誘導体を過酢酸にて酸化するか(R.L. Kidwellら、オーガニックシンセシス、5巻、P918(1973))またはボロン酸エステルの酸加水分解にて容易に得られるボロン酸誘導体(25)を過酢酸にて酸化することにより、目的のアルコール誘導体(23−1)を容易に製造することができる。
【0085】
この式において、L
1、L
2、およびX
1は項[1]と同一の定義である。
【0086】
式(23)において、Z
4、およびZ
5が共に単結合であり、oが1であり、pが0である場合、oおよびpが共に1である場合は、例えばボロン酸誘導体(26)に対し、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウムを触媒として塩基存在下アニソール誘導体(27)を作用させ、カップリングすることにより化合物(28)を得る(鈴木章ら、有機合成化学協会誌、第46巻第9号、848(1988))。次いで三臭化ホウ素を作用させて脱メチル化することにより、目的のフェノール誘導体(23−2)を合成することができる。
【0087】
この式において、環A
4は1,4−フェニレン、または任意の水素がフッ素により置き換えられた1,4−フェニレンであり、環A
5、環A
6、L
1、L
2、o、p、およびX
1は項[1]と同一の定義である。
【0088】
式(23)において、oおよびpが共に0である場合は、以下の手法によっても合成することができる。ベンジルエーテル誘導体(29)に対しn−またはsec−ブチルリチウムをTHF中、−70℃以下で作用させ、次いでホウ酸トリアルキルを作用させ、得られるホウ酸エステル誘導体またはこのものを酸加水分解して得られるボロン酸誘導体を過酢酸で酸化することによりフェノール誘導体(30)を得て、これを水素化ナトリウムでフェノラートとした後フルオロアルキルブロミドを作用させエーテル化した後、接触水素還元に付して脱保護することにより、目的のフェノール誘導体(23−3)を合成することができる。
【0089】
式中、L
1およびL
2は項[1]と同一の定義を表し、Rfはトリフルオロメチル基を除くフルオロアルキル基を示す。
【0090】
[[実施例]]
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によっては制限されない。なお特に断りのない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0091】
得られた化合物は、
1H−NMR分析で得られる核磁気共鳴スペクトル、ガスクロマトグラフィー(GC)分析で得られるガスクロマトグラムなどにより同定したので、まず分析方法について説明をする。
【0092】
1H−NMR分析:測定装置は、DRX−500(ブルカーバイオスピン(株)社製)を用いた。測定は、実施例などで製造したサンプルを、CDCl
3などのサンプルが可溶な重水素化溶媒に溶解し、室温で、500MHz、積算回数24回の条件で行った。なお、得られた核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、mはマルチプレットであることを意味する。また、化学シフトδ値のゼロ点の基準物質としてはテトラメチルシラン(TMS)を用いた。
【0093】
GC分析:測定装置は、島津製作所製のGC−14B型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、島津製作所製のキャピラリーカラムCBP1−M25−025(長さ25m、内径0.22mm、膜厚0.25μm);固定液相はジメチルポリシロキサン;無極性)を用いた。キャリアーガスとしてはヘリウムを用い、流量は1ml/分に調整した。試料気化室の温度を300℃、検出器(FID)部分の温度を300℃に設定した。
【0094】
試料はトルエンに溶解して、1重量%の溶液となるように調製し、得られた溶液1μlを試料気化室に注入した。
記録計としては島津製作所製のC−R6A型Chromatopac、またはその同等品を用いた。得られたガスクロマトグラムには、成分化合物に対応するピークの保持時間およびピークの面積値が示されている。
【0095】
なお、試料の希釈溶媒としては、例えば、クロロホルム、ヘキサンを用いてもよい。また、カラムとしては、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Agilent Technologies Inc.製のHP−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Restek Corporation製のRtx−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、SGE International Pty.Ltd製のBP−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)などを用いてもよい。
【0096】
ガスクロマトグラムにおけるピークの面積比は成分化合物の割合に相当する。一般には、分析サンプルの成分化合物の重量%は、分析サンプルの各ピークの面積%と完全に同一ではないが、本発明において上述したカラムを用いる場合には、実質的に補正係数は1であるので、分析サンプル中の成分化合物の重量%は、分析サンプル中の各ピークの面積%とほぼ対応している。成分の化合物における補正係数に大きな差異がないからである。ガスクロマトグラムにより組成物中の化合物の組成比をより正確に求めるには、ガスクロマトグラムによる内部標準法を用いる。一定量正確に秤量された各化合物成分(被検成分)と基準となる化合物(基準物質)を同時にガスクロ測定して、得られた被検成分のピークと基準物質のピークとの面積比の相対強度をあらかじめ算出する。基準物質に対する各成分のピーク面積の相対強度を用いて補正すると、組成物中の化合物の組成比をガスクロ分析からより正確に求めることができる。
【0097】
[化合物などの物性値の測定試料]
液晶化合物の物性値を測定する試料としては、化合物そのものを試料とする場合、化合物を母液晶と混合して試料とする場合の2種類がある。
【0098】
化合物を母液晶と混合した試料を用いる後者の場合には、以下の方法で測定を行う。まず、得られた液晶化合物15重量%と母液晶85重量%とを混合して試料を作製する。そして、得られた試料の測定値から、下記式に示す式に基づく外挿法にしたがって、外挿値を計算する。この外挿値をこの化合物の物性値とする。
【0099】
〈外挿値〉=(100×〈試料の測定値〉−〈母液晶の重量%〉×〈母液晶の測定値〉)/〈液晶化合物の重量%〉
【0100】
化合物と母液晶との割合がこの割合であっても、スメクチック相、または結晶が25℃で析出する場合には、化合物と母液晶との割合を10重量%:90重量%、5重量%:95重量%、1重量%:99重量%の順に変更をしていき、スメクチック相、または結晶が25℃で析出しなくなった組成で試料の物性値を測定しこの式にしたがって外挿値を求めて、これを化合物の物性値とする。
【0101】
測定に用いる母液晶としては様々な種類が存在するが、例えば、母液晶Aの組成(重量%)は以下のとおりである。
母液晶A:
【0102】
[化合物などの物性値の測定方法]
物性値の測定は後述する方法で行った。これら測定方法の多くは、日本電子機械工業会規格(Standard of Electric Industries Association of Japan)EIAJ・ED−2521Aに記載された方法、またはこれを修飾した方法である。また、測定に用いたTN素子には、TFTを取り付けなかった。
【0103】
測定値のうち、化合物そのものを試料とした場合は、得られた値を実験データとして記載した。化合物と母液晶との混合物を試料として用いた場合は、外挿法で得られた値を実験データとして記載した。
【0104】
相構造および相転移温度(℃):以下(1)、および(2)の方法で測定を行った。
(1)偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP−52型ホットステージ)に化合物を置き、3℃/分の速度で加熱しながら相状態とその変化を偏光顕微鏡で観察し、液晶相の種類を特定した。
(2)パーキンエルマー社製走査熱量計DSC−7システム、またはDiamond DSCシステムを用いて、3℃/分速度で昇降温し、試料の相変化に伴う吸熱ピーク、または発熱ピークの開始点を外挿により求め(on set)、相転移温度を決定した。
【0105】
以下、結晶はCと表し、さらに結晶の区別がつく場合は、それぞれC
1またはC
2と表した。また、スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。液体(アイソトロピック)はIと表した。スメクチック相の中で、スメクチックA相、スメクチックB相、スメクチックC相、またはスメクチックF相の区別がつく場合は、それぞれS
A、S
B、S
C、またはS
Fと表した。相転移温度の表記として、例えば、「C 50.0 N 100.0 I」とは、結晶からネマチック相への相転移温度(CN)が50.0℃であり、ネマチック相から液体への相転移温度(NI)が100.0℃であることを示す。他の表記も同様である。
【0106】
ネマチック相の上限温度(T
NI;℃):偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP−52型ホットステージ)に、試料(化合物と母液晶との混合物)を置き、1℃/分の速度で加熱しながら偏光顕微鏡を観察した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度をネマチック相の上限温度とした。以下、ネマチック相の上限温度を、単に「上限温度」と略すことがある。
【0107】
低温相溶性:母液晶と化合物とを、化合物が、20重量%、15重量%、10重量%、5重量%、3重量%、および1重量%の量となるように混合した試料を作製し、試料をガラス瓶に入れる。このガラス瓶を、−10℃または−20℃のフリーザー中に一定期間保管したあと、結晶もしくはスメクチック相が析出しているかどうか観察をした。
【0108】
粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s):化合物と母液晶との混合物を、E型回転粘度計を用いて測定した。
【0109】
光学異方性(屈折率異方性;Δn):測定は25℃の温度下で、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料(化合物と母液晶との混合物)を主プリズムに滴下した。屈折率(n‖)は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率(n⊥)は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性(Δn)の値は、Δn=n‖−n⊥の式から計算した。
【0110】
誘電率異方性(Δε;25℃で測定):2枚のガラス基板の間隔(ギャップ)が約9μm、ツイスト角が80度の液晶セルに試料(化合物と母液晶との混合物)を入れた。このセルに20ボルトを印加して、液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。0.5ボルトを印加して、液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。
【実施例1】
【0111】
(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−3−フルオロ−4′−プロピルビフェニル(1−1−2)の合成
【0112】
【0113】
[化合物(T−2)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、3−フルオロ−4’−プロピルビフェニル(T−1) 27.0gとTHF 270mlとを加えて、−74℃まで冷却した。そこへ、1.07M sec−ブチルリチウム, シクロヘキサン,n−ヘキサン溶液 141mlを−74℃から−65℃の温度範囲で滴下し、さらに120分攪拌した。続いてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF) 19.5mlを−74℃から−67℃の温度範囲で滴下し、さらに60分攪拌した。得られた反応混合物を、25℃に戻した後、0.1N塩酸 300mlに注ぎ込み、混合した。トルエン 300mlを加え有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、得られた有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;ヘプタン/トルエン(=1/1(容量比)))により精製し、3−フルオロ−4’−プロピルビフェニル−4−カルバルデヒド(T−2) 29.6gを得た。化合物(T−1)からの収率は97%であった。
【0114】
[化合物(T−3)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロリド 35.2gおよびTHF 140mlを加え、−30℃まで冷却した。そこへ、カリウム−t−ブトキシド 11.1gのTHF 140ml溶液をゆっくりと加え、30分攪拌した。続いて上記で得られた化合物(T−2) 20.0gのTHF 40.0ml溶液を−30℃から−25℃の温度範囲で滴下し、室温に戻しつつ3時間反応させた。得られた反応混合物を25℃に戻した後、氷水 350mlに注ぎ込み、混合した。トルエン 350mlを加え有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、得られた有機層を、水、1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;ヘプタン/酢酸エチル(=10/1(容量比)))により精製し、3−フルオロ−4−(2−メトキシビニル)−4′−プロピルビフェニル(T−3) 20.9gを得た。化合物(T−2)からの収率は94%であった。
【0115】
[化合物(T−4)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、上記で得られた化合物(T−3) 20.9g、蟻酸 100mlおよびトルエン 100mlとを加えて、加熱還流下で3時間攪拌した。得られた反応混合物を25℃に戻した後、氷水 100mlに注ぎ込み、混合した。トルエン 200mlを加え有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、得られた有機層を、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;トルエン)により精製した。さらにヘプタンからの再結晶により精製し2−(3−フルオロ−4′−プロピルビフェニル−4−イル)アセトアルデヒド(T−4) 15.4gを得た。化合物(T−3)からの収率は78%であった。
【0116】
[化合物(T−5)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、上記で得られた化合物(T−4) 15.4g、トリフェニルホスフィン 15.4gおよびDMF 100mlを加え、90℃に加熱した。そこへ、クロロジフルオロ酢酸ナトリウム 18.3gのDMF 130ml溶液をゆっくりと加えた後、115℃に昇温しさらに60分攪拌した。得られた反応混合物を、25℃に戻した後、氷水 250mlに注ぎ込み、混合した。トルエン 250mlを加え有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、得られた有機層を、水、1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;ヘプタン)により精製し、4−(3,3−ジフルオロアリル)−3−フルオロ−4′−プロピルビフェニル(T−5) 7.66gを得た。化合物(T−4)からの収率は44%であった。
【0117】
[化合物(T−6)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、上記で得られた化合物(T−5) 3.78gとクロロホルム 30.0mlとを加えて、−10℃まで冷却した。そこへ、臭素 2.70gのクロロホルム 10.0ml溶液をゆっくりと滴下し、さらに180分攪拌した。得られた反応混合物を、水、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;ヘプタン)により精製し、4−(2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロピル)−3−フルオロ−4′−プロピルビフェニル(T−6) 4.96gを得た。化合物(T−5)からの収率は85%であった。
【0118】
[化合物(1−1−2)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、3,4,5−トリフルオロフェノール 1.71g、炭酸カリウム 4.57g、DMF 60.0mlを加え、90℃で30分攪拌した。続いて上記で得られた化合物(T−6) 4.96gのDMF 40.0ml溶液を滴下し90℃で2時間攪拌した。得られた反応混合物を、25℃に戻した後、氷水 100mlに注ぎ込み混合した。トルエン 100mlを加え有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、得られた有機層を、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;ヘプタン)により精製した。さらにヘプタン/ソルミックスA−11(=1/2(容量比))の混合溶媒からの再結晶により精製し、(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−3−フルオロ−4′−プロピルビフェニル(1−1−2) 2.15gを得た。化合物(T−6)からの収率は45%であった。
【0119】
1H−NMR分析の化学シフトは以下のとおりであり、得られた化合物が、(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−3−フルオロ−4′−プロピルビフェニルであることが同定できた。
【0120】
化学シフトδ(ppm;CDCl
3);7.57−7.49(m,3H),7.41(dd,J=8.10Hz,J=1.60Hz,1H),7.38−7.25(m,4H),6.98−6.91(m,2H),6.43(dt,J=16.3Hz,J=6.85Hz,1H),2.64(t,J=7.45Hz,2H),1.74−1.63(m,2H),0.97(t,7.45Hz,3H).
【0121】
得られた化合物(1−1−2)の相転移温度は以下のとおりであった。
相転移温度 :C 47.9 N 64.2 I 。
【実施例2】
【0122】
[化合物(1−1−2)の物性]
前述した母液晶Aの物性は以下のとおりであった。
上限温度(T
NI)=71.7℃;光学異方性(Δn)=0.137;誘電率異方性(Δε)=11.0。
【0123】
母液晶A 85重量%と、実施例1で得られた(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−3−フルオロ−4′−プロピルビフェニル(1−1−2)の15重量%とからなる組成物Bを調製した。得られた組成物Bの物性を測定し、測定値を外挿することで化合物(1−1−2)の物性値を算出した。その結果は以下のとおりであった。
上限温度(T
NI)=57.0℃;光学異方性(Δn)=0.184;誘電率異方性(Δε)=25.0。
これらのことから化合物(1−1−2)は、大きな光学異方性を持ち、誘電率異方性が大きい化合物であることがわかった。
【実施例3】
【0124】
(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル(1−2−5)の合成
【0125】
【0126】
[化合物(T−7)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、化合物(T−1) 11.1gとTHF 160mlとを加えて、−74℃まで冷却した。そこへ、1.01M sec−ブチルリチウム, シクロヘキサン,n−ヘキサン溶液 61.0mlを−74℃から−65℃の温度範囲で滴下し、さらに180分攪拌した。続いてヨウ素 16.9gのTHF 170ml溶液を−75℃から−68℃の温度範囲で滴下し、さらに60分攪拌した。得られた反応混合物を、25℃に戻した後、氷水 350mlに注ぎ込み、混合した。トルエン 350mlを加え有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、有機層をチオ硫酸ナトリウム水溶液、水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;ヘプタン)により精製した。さらにソルミックスA−11からの再結晶により精製し、3−フルオロ−4−ヨード−4′−プロピルビフェニル(T−7) 12.7gを得た。化合物(T−1)からの収率は73%であった。
【0127】
[化合物(T−8)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、上記で得られた化合物(T−7) 12.7g、3,5−ジフルオロフェニルボロン酸 6.49g、炭酸カリウム 15.5g、Pd/C(NXタイプ) 0.0794g、トルエン 65.0ml、ソルミックスA−11 65.0mlおよび水 65.0mlを加え、3時間加熱還流させた。得られた反応混合物を、25℃まで冷却後、水 200mlに注ぎ込み、混合した。トルエン 200mlを加え、有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、有機層を水で洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;ヘプタン)により精製した。さらにソルミックスA−11からの再結晶により精製し、4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル(T−8) 10.6gを得た。化合物(T−7)からの収率は86%であった。
【0128】
[化合物(T−9)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、上記で得られた化合物(T−8) 10.0gとTHF 200mlとを加えて、−74℃まで冷却した。そこへ、1.66M n−ブチルリチウム,n−ヘキサン溶液 20.3mlを−74℃から−65℃の温度範囲で滴下し、さらに60分攪拌した。続いてDMF 4.70mlのTHF 10.0ml溶液を−74℃から−67℃の温度範囲で滴下し、さらに60分攪拌した。得られた反応混合物を、25℃に戻した後、0.1N塩酸 200mlに注ぎ込み、混合した。トルエン 200mlを加え有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、得られた有機層を、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;トルエン)により精製した。さらにヘプタン/トルエン(=2/1(容量比))の混合溶媒からの再結晶により精製し、4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル−4−カルバルデヒド(T−9) 8.06gを得た。化合物(T−8)からの収率は75%であった。
【0129】
[化合物(T−10)の合成]
上記で得られた化合物(T−9)8.06gを原料として用い、実施例1の化合物(T−3)の合成と同様の手法により、4−(2−メトキシビニル)−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル(T−10) 8.48gを得た。化合物(T−9)からの収率は98%であった。
【0130】
[化合物(T−11)の合成]
上記で得られた化合物(T−10)8.48gを原料として用い、実施例1の化合物(T−4)の合成と同様の手法により、2−(4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル−4−イル)アセトアルデヒド(T−11) 6.94gを得た。化合物(T−10)からの収率は85%であった。
【0131】
[化合物(T−12)の合成]
上記で得られた化合物(T−11)6.94gを原料として用い、実施例1の化合物(T−5)の合成と同様の手法により、4−(3,3−ジフルオロアリル)−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル(T−12) 4.27gを得た。化合物(T−11)からの収率は56%であった。
【0132】
[化合物(T−13)の合成]
上記で得られた化合物(T−12) 4.00gを原料として用い、実施例1の化合物(T−6)の合成と同様の手法により、4−(2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロピル)−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル(T−13) 1.43gを得た。化合物(T−12)からの収率は26%であった。
【0133】
[化合物(1−2−5)の合成]
上記で得られた化合物(T−13) 1.43gを原料として用い、実施例1の化合物(1−1−2)の合成と同様の手法により、(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル(1−2−5) 0.853gを得た。化合物(T−13)からの収率は59%であった。
【0134】
1H−NMR分析の化学シフトは以下のとおりであり、得られた化合物が、(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニルであることが同定できた。
【0135】
化学シフトδ(ppm;CDCl
3);7.58−7.39(m,5H),7.32−7.21(m,5H),6.99−6.92(m,2H),6.69(dt,J=16.5Hz,J=6.85Hz,1H),2.65(t,J=7.45Hz,2H),1.74−1.64(m,2H),0.98(t,7.35Hz,3H).
【0136】
得られた化合物(1−2−5)の相転移温度は以下のとおりであった。
相転移温度 :C 70.8 S
C 83.0 S
A 125 N 198 I 。
【実施例4】
【0137】
[化合物(1−2−5)の物性]
母液晶A 85重量%と、実施例3で得られた(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル(1−2−5)の15重量%とからなる組成物Cを調製した。得られた組成物Cの物性を測定し、測定値を外挿することで化合物(1−2−5)の物性値を算出した。その結果は以下のとおりであった。
上限温度(T
NI)=136℃;光学異方性(Δn)=0.264;誘電率異方性(Δε)=40.8。
これらのことから化合物(1−2−5)は、液晶相の温度範囲が広く、特に上限温度(T
NI)が高く、大きな光学異方性を持ち、誘電率異方性が極めて大きい化合物であることがわかった。
【実施例5】
【0138】
(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル(1−5−1)の合成
【0139】
【0140】
[化合物(T−15)の合成]
窒素雰囲気下の反応器へ、3−フルオロ−4−ヨード−4′−ペンチルビフェニル(T−14) 45.0g、3−フルオロフェニルボロン酸 20.5g、炭酸カリウム 50.6g、Pd/C(NXタイプ) 0.260g、トルエン 150ml、ソルミックスA−11 150mlおよび水 150mlを加え、3時間加熱還流させた。得られた反応混合物を、25℃まで冷却後、水 400mlに注ぎ込み、混合した。トルエン 400mlを加え、有機層と水層とに分離させ抽出操作を行った後、有機層を水で洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;ヘプタン)により精製した。さらにソルミックスA−11からの再結晶により精製し、2′,3−ジフルオロ−4″−ペンチル−1,1′,4′,1″−ターフェニル(T−15) 32.4gを得た。化合物(T−14)からの収率は79%であった。
【0141】
[化合物(T−16)の合成]
上記で得られた化合物(T−15) 25.0gを原料として用い、実施例3の化合物(T−7)の合成と同様の手法により、2′,3−ジフルオロ−4−ヨード−1,1′,4′,1″−ターフェニル(T−16) 33.7gを得た。化合物(T−15)からの収率は98%であった。
【0142】
[化合物(T−17)の合成]
上記で得られた化合物(T−16) 25.0gを原料として用い、実施例3の化合物(T−8)の合成と同様の手法により、4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル(T−17) 16.3gを得た。化合物(T−16)からの収率は67%であった。
【0143】
[化合物(T−18)の合成]
上記で得られた化合物(T−17) 16.3gを原料として用い、実施例3の化合物(T−9)の合成と同様の手法により、4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル−4−カルバルデヒド(T−18) 15.8gを得た。化合物(T−17)からの収率は91%であった。
【0144】
[化合物(T−19)の合成]
上記で得られた化合物(T−18) 10.0gを原料として用い、実施例1の化合物(T−3)の合成と同様の手法により、4−(2−メトキシビニル)−4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル(T−19) 10.2gを得た。化合物(T−18)からの収率は96%であった。
【0145】
[化合物(T−20)の合成]
上記で得られた化合物(T−19)10.2gを原料として用い、実施例1の化合物(T−4)の合成と同様の手法により、2−(4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル−4−イル)アセトアルデヒド(T−20) 8.89gを得た。化合物(T−19)からの収率は90%であった。
【0146】
[化合物(T−21)の合成]
上記で得られた化合物(T−20) 8.89gを原料として用い、実施例1の化合物(T−5)の合成と同様の手法により、4−(3,3−ジフルオロアリル)−4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル(T−21) 6.05gを得た。化合物(T−20)からの収率は64%であった。
【0147】
[化合物(T−22)の合成]
上記で得られた化合物(T−21) 5.00gを原料として用い、実施例1の化合物(T−6)の合成と同様の手法により、4−(2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロピル)−4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル(T−22) 5.80gを得た。化合物(T−21)からの収率は89%であった。
【0148】
[化合物(1−5−1)の合成]
上記で得られた化合物(T−22) 5.80gを原料として用い、実施例1の化合物(1−1−2)の合成と同様の手法により、(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル(1−5−1) 1.35gを得た。化合物(T−22)からの収率は24%であった。
【0149】
1H−NMR分析の化学シフトは以下のとおりであり、得られた化合物が、(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニルであることが同定できた。
【0150】
化学シフトδ(ppm;CDCl
3);7.60−7.40(m,8H),7.34−7.23(m,5H),7.00−6.93(m,2H),6.70(dt,J=16.5Hz,J=6.85Hz,1H),2.67(t,J=7.75Hz,2H),1.72−1.62(m,2H),1.42−1.29(m,4H),0.92(t,6.90Hz,3H).
【0151】
得られた化合物(1−5−1)の相転移温度は以下のとおりであった。
相転移温度 :C 82.6 S
A 247 N 305 I 。
【実施例6】
【0152】
[化合物(1−5−1)の物性]
母液晶A 90重量%と、実施例5で得られた(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−4′′′−ペンチル−2′,2″,3,5−テトラフルオロ−1,1′,4′,1″,4″,1′′′−クオーターフェニル(1−5−1)の10重量%とからなる組成物Dを調製した。得られた組成物Dの物性を測定し、測定値を外挿することで化合物(1−5−1)の物性値を算出した。その結果は以下のとおりであった。
上限温度(T
NI)=194℃;光学異方性(Δn)=0.307;誘電率異方性(Δε)=26.6。
これらのことから化合物(1−5−1)は、液晶相の温度範囲が広く、特に上限温度(T
NI)が極めて高く、光学異方性が極めて大きく、誘電率異方性が大きい化合物であることがわかった。
【実施例7】
【0153】
実施例1、3、および5、さらに記載した合成法をもとに、以下に示す化合物(1−1−1)〜(1−1−14)、(1−2−1)〜(1−2−28)、(1−3−1)〜(1−3−28)、(1−4−1)〜(1−4−42)、および(1−5−1)〜(1−5−42)を合成することができる。付記したデータは前記した手法に従い、求めた値である。上限温度(T
NI)、誘電率異方性(Δε)、および光学異方性(Δn)は、実施例2、4、および6に記載したように化合物を母液晶Aに混合した試料の測定値から、外挿法によって算出した物性値である。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
[比較例1]
比較例としてWO96/11897A1に掲載されている、CF
2O結合基を有する3の液晶化合物である4−[ジフルオロ(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)メチル]−3,5−ジフルオロ−4′−プロピルビフェニル(S−1)を合成した。
【0161】
1H−NMR分析の化学シフトは以下のとおりであり、得られた化合物が、4−[ジフルオロ(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)メチル]−3,5−ジフルオロ−4′−プロピルビフェニルであることが同定できた。
【0162】
化学シフトδ(ppm;CDCl
3);7.49(d,J=8.00Hz,2H),7.29(d,J=8.00Hz,2H),7.21(d,J=10.5Hz,2H),7.03−6.94(m,2H),2.65(t,J=7.50Hz,2H),1.75−1.64(m,2H),0.97(t,J=7.50Hz,3H).
【0163】
得られた比較化合物(S−1)の相転移温度は以下のとおりであった。
相転移温度:C 46.1 I 。
【0164】
母液晶A 85重量%と、比較化合物(S−1)の15重量%とからなる組成物Eを調製した。得られた組成物Eの物性値を測定し、測定値を外挿することで比較化合物(S−1)の物性値を算出した。その結果は以下のとおりであった。
【0165】
上限温度(T
NI)=−3.60℃;光学異方性(Δn)=0.110;誘電率異方性(Δε)=27.7。
【0166】
比較化合物(S−1)と実施例に示した本発明の化合物(1−1−2)とを比較する。まず、それぞれの相転移温度を比較すると(1−1−2)の方が液晶相の温度範囲が広い。特に比較化合物(S−1)は液晶相を示さないのに対し、化合物(1−1−2)はネマチック相を有している。
【0167】
次に比較例化合物(S−1)と化合物(1−1−2)との物性の外挿値を比較すると、化合物(1−1−2)の方が高い透明点を有し、光学異方性が大きい。よって化合物(1−1−2)の方が幅広い温度範囲での使用が可能で、光学異方性の大きな優れた液晶化合物であるといえる。
【0168】
[比較例2]
さらに比較例としてWO96/11897A1に掲載されている、CF
2O結合基を有する4環の液晶化合物である4−[ジフルオロ(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)メチル]−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニル(S−2)を合成した。
【0169】
1H−NMR分析の化学シフトは以下のとおりであり、得られた化合物が、4−[ジフルオロ(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)メチル]−4″−プロピル−2′,3,5−トリフルオロ−1,1′,4′,1″−ターフェニルであることが同定できた。
【0170】
化学シフトδ(ppm;CDCl
3);7.54(d,J=8.10Hz,2H),7.52−7.46(m,2H),7.42(d,J=12.2Hz,2H),7.34−7.25(m,3H),7.04−6.95(m,2H),2.65(t,J=7.45Hz,2H),1.77−1.64(m,2H),0.98(t,J=7.35Hz,3H).
【0171】
得られた比較化合物(S−2)の相転移温度は以下のとおりであった。
相転移温度:C 79.4 S
A 82.3 N 128 I 。
【0172】
母液晶A 85重量%と、比較化合物(S−2)の15重量%とからなる組成物Fを調製した。得られた組成物Fの物性値を測定し、測定値を外挿することで比較化合物(S−2)の物性値を算出した。その結果は以下のとおりであった。
【0173】
上限温度(T
NI)=96.4℃;誘電率異方性(Δε)=34.0;光学異方性(Δn)=0.210。
【0174】
比較化合物(S−2)と実施例に示した本発明の化合物(1−2−5)とを比較する。まず、それぞれの相転移温度を比較すると(1−2−5)の方が相の温度範囲が広い。
【0175】
次に比較化合物(S−2)と本発明の化合物との物性の外挿値を比較すると、化合物(1−2−5)の方が高い透明点を有し、誘電率異方性および光学異方性が大きい。よって化合物(1−2−5)の方が幅広い温度範囲での使用が可能で、誘電率異方性、光学異方性の大きな優れた液晶化合物であるといえる。
【0176】
[比較例3]
さらに比較例としてJP2002/53513Aに掲載されている、−CH=CH−CF
2O−結合基を有する3環化合物である(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−3,5−ジフルオロ−4′−プロピルビフェニル(S−3)を合成した。
【0177】
1H−NMR分析の化学シフトは以下のとおりであり、得られた化合物が、(E)−4−[3,3−ジフルオロ−3−(3,4,5−トリフルオロフェノキシ)−1−プロペニル]−3,5−ジフルオロ−4′−プロピルビフェニルであることが同定できた。
【0178】
化学シフトδ(ppm;CDCl
3);7.49(d,J=8.10Hz,2H),7.32−7.24(m,3H),7.18(d,J=10.1Hz,2H),6.98−6.90(m,2H),6.65(dt,J=16.5Hz,J=6.80Hz,1H),2.64(t,J=7.40Hz,2H),1.73−1.61(m,2H),0.97(t,7.40Hz,3H).
【0179】
得られた比較化合物(S−3)の相転移温度は以下のとおりであった。
相転移温度:C 47.4 N 51.5 I 。
【0180】
母液晶A 85重量%と、比較化合物(S−3)の15重量%とからなる液晶組成物Fを調製した。得られた組成物Gの物性値を測定し、測定値を外挿することで比較化合物(S−3)の物性値を算出した。その結果は以下のとおりであった。
【0181】
上限温度(T
NI)=50.4℃;誘電率異方性(Δε)=31.6;光学異方性(Δn)=0.184。
【0182】
比較化合物(S−3)と実施例に示した本発明の化合物(1−1−2)とを比較する。まず、それぞれの相転移温度を比較すると化合物(1−1−2)の方が液晶相の温度範囲が広く、高い透明点を有している。
【0183】
次に比較化合物(S−3)と本発明の化合物との物性の外挿値を比較すると、化合物(1−1−2)の方が高い透明点を有している。よって化合物(1−1−2)の方が幅広い温度領域で使用可能な優れた液晶化合物であるといえる。