特許第5660920号(P5660920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5660920エアーバッグ用基布の製造方法及びエアーバッグ用基布
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5660920
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】エアーバッグ用基布の製造方法及びエアーバッグ用基布
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/235 20060101AFI20150108BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150108BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20150108BHJP
   C09D 183/05 20060101ALI20150108BHJP
   C09D 185/00 20060101ALI20150108BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20150108BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20150108BHJP
   D06M 15/65 20060101ALI20150108BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   B60R21/235
   C09D7/12
   C09D183/04
   C09D183/05
   C09D185/00
   D06M13/11
   D06M13/513
   D06M15/65
   D06M15/693
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-29422(P2011-29422)
(22)【出願日】2011年2月15日
(65)【公開番号】特開2012-166691(P2012-166691A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年1月25日
【審判番号】不服2014-4794(P2014-4794/J1)
【審判請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 英典
(72)【発明者】
【氏名】生方 茂
【合議体】
【審判長】 丸山 英行
【審判官】 氏原 康宏
【審判官】 出口 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−84081(JP,A)
【文献】 特開2000−34410(JP,A)
【文献】 特開2009−242536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R21/16,C09D183/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布の少なくとも一方の表面を予め(F)1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物で表面処理して、該有機ケイ素化合物を処理前の繊維布100質量部に対して〜5質量部含有してなるエアーバッグ用繊維布からなる基材の少なくとも一方の該処理された表面に、
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
本成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が(A)成
分中のケイ素原子結合アルケニル基1個当たり1〜10個となる量、
(C)付加反応触媒 有効量、
(D)比表面積が50m2/g以上の微粉末シリカ 0〜50質量部、
(E)チタニウム化合物及びジルコニウム化合物のいずれか一方又は両方から選ばれる有機金属化合物 0.01〜5質量部
を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を塗布し硬化させることにより、上記基材の少なくとも一方の表面にシリコーンゴムコーティング層を形成させることを特徴とするエアーバッグ用基布の製造方法。
【請求項2】
繊維布が、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維から選ばれる合成繊維である請求項1記載のエアーバッグ用基布の製造方法。
【請求項3】
(F)1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物が、少なくとも1個のエポキシ基と少なくとも2個のケイ素原子結合アルコキシ基とを有する、シラン又はケイ素原子数が2〜120個の環状もしくは直鎖状のオルガノシロキサンである請求項1又は2記載のエアーバッグ用基布の製造方法。
【請求項4】
液状シリコーンゴムコーティング剤組成物の粘度が25℃において50Pa・s以下である請求項1〜3のいずれか1項記載のエアーバッグ用基布の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により製造される、繊維布からなる基材の少なくとも一方の表面に液状シリコーンゴムコーティング剤組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層が形成されてなるエアーバッグ用基布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維布からなる基材の少なくとも一方の表面にシリコーンゴムコーティング層が形成されてなるエアーバッグ用基布の製造方法及び該製造方法により得られるエアーバッグ用基布に関し、更に詳述すると、6,6ナイロン、6ナイロン、ポリエステル等の繊維布にシリコーンのゴムコーティング膜を形成した車両等のエアーバッグ、特に運転席や助手席に装着されるエアーバッグや、フロントピラーからルーフサイドに沿って収納され、衝突時や車両の転倒時に頭部の保護や飛び出しを防ぐためにエアーバッグの一定膨脹時間を維持することが要求されるカーテンエアーバッグを作製するのに有効なエアーバッグ用基布の製造方法及び該製造方法により得られるエアーバッグ用基布に関する。
【背景技術】
【0002】
エアーバッグは、側面衝突時における搭乗者への衝撃緩和又は車両横転時に搭乗者が車外に放り出されないためのエアーバッグシステムとして開発されたものである。このエアーバッグは、展開時、インフレーション剤の爆発により発生するガス圧(内圧)を一定時間以上保持する必要があり、従来のコーティング剤より、より低粘度性/接着性の優れたコーティング剤が要求されている。
【0003】
繊維表面へゴム被膜を形成することを目的としたエアーバッグ用のシリコーンゴム組成物としては、以下のものが知られている。
【0004】
例えば、特許第3945082号公報(特許文献1)では、湿式シリカのみを有するコーティング組成物を、特開平5−25435号公報(特許文献2)では、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物を、特開平5−98579号公報(特許文献3)では、イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物をそれぞれ接着性成分としたコーティング組成物が開示されている。特開平5−214295号公報(特許文献4)では、付加硬化型組成物に無機質充填剤とシロキサンレジン、エポキシ基含有ケイ素化合物を添加してなる、基布に対する接着性に優れるエアーバッグ用のシリコーンゴム組成物が開示されている。特開2002−138249号公報(特許文献5)には、付加硬化型組成物に無機質充填剤、シロキサンレジン、有機チタン化合物及びアルキルシリケートを添加してなる、短時間の加熱硬化で基布に対する接着性に優れた硬化物が得られるエアーバッグ用のシリコーンゴム組成物が開示されている。
【0005】
しかし、これら組成物は、エアーバッグ用途に使用した場合に、エアーバッグコーティング時に必要とされる低粘度性及びエアーバッグ用基布に対する接着性を十分満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3945082号公報
【特許文献2】特開平5−25435号公報
【特許文献3】特開平5−98579号公報
【特許文献4】特開平5−214295号公報
【特許文献5】特開2002−138249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、エアーバッグコーティング時に必要とされる低粘度性及びエアーバッグ用基布に対する接着性に優れる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層を基材の少なくとも一方の表面に形成させてなるエアーバッグ用基布の製造方法及び該製造方法により得られるエアーバッグ用基布を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、繊維布の少なくとも一方の表面を予め(F)1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物で表面処理して該有機ケイ素化合物を繊維布中に約〜5質量%含有してなるエアーバッグ用繊維布からなる基材の少なくとも一方の該処理された表面に、特定組成の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を塗布し硬化させることにより、上記基材の少なくとも一方の表面にシリコーンゴムコーティング層を有するエアーバッグ用基布を得ることができ、該エアーバッグ用基布から製造されるエアーバッグは、インフレーターガスの洩れを抑え、エアーバッグの膨脹を一定時間維持できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記に示すエアーバッグ用基布の製造方法及びエアーバッグ用基布を提供する。
〔請求項1〕
繊維布の少なくとも一方の表面を予め(F)1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物で表面処理して、該有機ケイ素化合物を処理前の繊維布100質量部に対して〜5質量部含有してなるエアーバッグ用繊維布からなる基材の少なくとも一方の該処理された表面に、
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
本成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が(A)成
分中のケイ素原子結合アルケニル基1個当たり1〜10個となる量、
(C)付加反応触媒 有効量、
(D)比表面積が50m2/g以上の微粉末シリカ 0〜50質量部、
(E)チタニウム化合物及びジルコニウム化合物のいずれか一方又は両方から選ばれる有機金属化合物 0.01〜5質量部
を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を塗布し硬化させることにより、上記基材の少なくとも一方の表面にシリコーンゴムコーティング層を形成させることを特徴とするエアーバッグ用基布の製造方法。
〔請求項2〕
繊維布が、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維から選ばれる合成繊維である請求項1記載のエアーバッグ用基布の製造方法。
〔請求項3〕
(F)1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物が、少なくとも1個のエポキシ基と少なくとも2個のケイ素原子結合アルコキシ基とを有する、シラン又はケイ素原子数が2〜120個の環状もしくは直鎖状のオルガノシロキサンである請求項1又は2記載のエアーバッグ用基布の製造方法。
〔請求項4〕
液状シリコーンゴムコーティング剤組成物の粘度が25℃において50Pa・s以下である請求項1〜3のいずれか1項記載のエアーバッグ用基布の製造方法。
〔請求項5〕
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により製造される、繊維布からなる基材の少なくとも一方の表面に液状シリコーンゴムコーティング剤組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層が形成されてなるエアーバッグ用基布。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアーバッグコーティング時に必要とされる低粘度性及びエアーバッグ用基布に対する接着性に優れた液状シリコーンゴムコーティング剤組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層が基材の少なくとも一方の表面に形成されてなるエアーバッグ用基布を製造することが可能で、該方法により得られるエアーバッグ用基布により製造されるエアーバッグは、インフレーターガスの洩れを抑え、膨脹時間の持続性を満足するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエアーバッグ用基布の製造方法は、繊維布の少なくとも一方の表面を後述する(F)成分で予め表面処理したエアーバッグ用繊維布からなる基材の少なくとも一方の該処理された表面に、後述する(A)〜(E)成分を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を塗布、硬化させることにより、該基材の少なくとも一方の表面にシリコーンゴムコーティング層を形成させることを特徴とする。
【0012】
ここで、本発明の製造方法により得られるエアーバッグ用基布は、エアーバッグ、特にはカーテンエアーバッグ用として好適に使用されるものであり、本発明の方法により得られるエアーバッグ用基布を使用して製造されるエアーバッグとしては、公知の構成のものとすることができ、具体的には、内面にゴムコーティングされた2枚の平織り基布の外周部同士を接着剤で張り合わせ、かつその接着剤層を縫い合わせて作製される平織りタイプのエアーバッグ、織りにより袋部を形成した袋織りタイプのエアーバッグ等が挙げられる。
【0013】
(F)成分により予め表面処理する繊維布としては、上記エアーバッグ用の基布として用いられる公知のものが挙げられ、例えば、6,6ナイロン、6ナイロン、ポリエステル繊維、アラミド繊維、各種ポリアミド繊維、各種ポリエステル繊維などの各種合成繊維等が例示できる。
【0014】
(F)成分は、後述する(A)〜(E)成分を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物とは別に、エアーバッグ用基材に適用される繊維布の少なくとも一方の表面を予め表面処理するために使用されるものである。
(F)成分は、1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物であり、これは1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物であれば、いかなる有機ケイ素化合物でも使用できるが、接着発現性の観点からは、少なくとも1個のエポキシ基と少なくとも2個のケイ素原子結合アルコキシ基とを有する、例えばシラン、ケイ素原子数が2〜120個、好ましくは2〜30個、より好ましくは4〜20個程度の、環状又は直鎖状のシロキサン等の有機ケイ素化合物であることが好ましい。
【0015】
このエポキシ基としては、グリシドキシプロピル基等のグリシドキシアルキル基、2,3−エポキシシクロヘキシルエチル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基等のエポキシ基含有シクロヘキシルアルキル基等の形でケイ素原子に結合していることが好ましく、また、ケイ素原子結合アルコキシ基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基やアルキルジアルコキシシリル基等が好ましい。
【0016】
また、(F)成分は、1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基以外の官能性基として、例えば、ビニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基(SiH基)から選択される少なくとも1種の官能基を有するものであってもよい。
【0017】
このような(F)成分の有機ケイ素化合物としては、下記の化学式で例示される有機ケイ素化合物、これらの2種以上の混合物、あるいはこれらの1種もしくは2種以上の部分加水分解縮合物等が例示される。
【0018】
【化1】
(式中、nは1〜10の整数、mは0〜100の整数、好ましくは0〜20の整数、pは1〜100の整数、好ましくは1〜20の整数、qは1〜10の整数である。)
【0019】
(F)成分の使用量は、処理前の繊維布100質量部に対して0.01〜5質量部であり、好ましくは0.1〜5質量部である。0.01質量部未満であると、後述する(A)〜(E)成分を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物から得られる硬化物が該(F)成分で少なくとも一方の表面を表面処理したエアーバッグ用繊維布からなる基材に対して十分な接着性を示さず、5質量部を超えると該組成物から得られる硬化物の物性が低下する。従って、処理後の繊維布は繊維布全体に対して(F)成分を約0.01〜5質量%(特には、0.01〜4.76質量%)程度含有するものである。
【0020】
繊維布に対する(F)成分の添加処理方法については、
〔1〕生糸を(F)成分の水溶液に浸し、加熱乾燥後、処理繊維布とする方法、
〔2〕繊維布の少なくとも一方の表面(即ち、片面又は両面)に(F)成分を直接噴霧及び加熱し、処理繊維布とする方法、
〔3〕繊維布を(F)成分の水溶液に浸し、加熱乾燥後、処理繊維布とする方法
等が挙げられるが、繊維布に(F)成分が約0.01〜5質量%(あるいは処理前の繊維布100質量部に対して0.01〜5質量部)含まれていれば、本発明は上記例に制限されるものではない。
【0021】
なお、上記(F)成分を水溶液として用いる場合、作業性等の点から繊維布の質量と同一質量にするという理由で、0.01〜5質量%、特に0.1〜2質量%水溶液とすることが好適である。
また、加熱(乾燥)条件としては、水分を除去して(F)成分を含む処理繊維布にするという理由から、100〜200℃、特に120〜180℃で0.1〜10分間、特に0.5〜5分間とすることが好ましい。
【0022】
次に、表面処理繊維布からなる基材の少なくとも一方の該処理された表面にシリコーンゴムコーティング層を形成するための液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)付加反応触媒、
(D)任意に、比表面積が50m2/g以上の微粉末シリカ、
(E)チタニウム化合物及びジルコニウム化合物のいずれか一方又は両方から選ばれる有機金属化合物
を含有してなるものである。
【0023】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、この組成物の主剤(ベースポリマー)であって、1分子中に2個以上(通常、2〜50個)、好ましくは2〜20個程度のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するものであり、好ましくは下記平均組成式(1)で示されるものが用いられる。
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは互いに同一又は異種の炭素数1〜10、好ましくは1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、aは1.5〜2.8、好ましくは1.8〜2.5、より好ましくは1.95〜2.05、更に好ましくは1.98〜2.01の範囲の正数である。)
【0024】
(A)成分(式(1)のR)中のケイ素原子に結合したアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ヘプテニル基等の、通常、炭素数2〜8、好ましくは2〜4程度のものが挙げられ、特にビニル基であることが好ましい。
【0025】
(A)成分のポリシロキサン骨格中におけるアルケニル基が結合するケイ素原子の位置としては、例えば、分子鎖末端及び/又は分子鎖途中(分子鎖非末端)が挙げられるが、(A)成分としては、少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0026】
なお、(A)成分中のアルケニル基の含有量は、ケイ素原子に結合した一価の有機基(即ち、上記平均組成式(1)において、Rで示される非置換又は置換の一価炭化水素基)全体に対して0.001〜10モル%、特に0.01〜5モル%程度であることが好ましい。
【0027】
(A)成分(式(1)のR)のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などの、通常、炭素数1〜12、好ましくは1〜10程度の、非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基が挙げられ、特に、メチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0028】
このような(A)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状又は三次元網状構造が挙げられるが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい(なお、ここでのオルガノ基にはアルケニル基も包含し得る。)。
【0029】
(A)成分の25℃における粘度は、得られるシリコーンゴムの物理的特性が良好であり、また、組成物の取扱い作業性が良好であることから、100〜100,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に300〜50,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。なお、本発明において、粘度は回転粘度計により測定することができる(以下、同様。)。
【0030】
このような(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、式:R13SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R12SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R13SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R12SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R12SiOで示されるシロキサン単位と式:R1SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくは式:R2SiO1.5で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。
【0031】
上記式中のR1はアルケニル基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、前記した有機基Rのうちアルケニル基以外の非置換又はハロゲン置換一価炭化水素基として例示したものと同じものが挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。また、上記式中のR2はアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、シクロヘキセニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基等の、通常、炭素数2〜8、好ましくは2〜4程度のものが挙げられる。
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1種単独で又は2種以上を併用することができる。
【0032】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分と反応し、架橋剤として作用するものであり、その分子構造に特に制限はなく、従来製造されている例えば線状、環状、分岐状又は三次元網状(樹脂状)等各種のものが使用可能であるが、1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiHで表されるヒドロシリル基)を有する必要があり、通常、2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のSiH基を有することが望ましい。
【0033】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(2)で示されるものを用いることができる。
3bcSiO(4-b-c)/2 (2)
【0034】
上記式(2)中、R3は、脂肪族不飽和結合を除く、好ましくは炭素数1〜10の、ケイ素原子に結合した非置換又は置換の一価炭化水素基であり、このR3における非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基等が挙げられる。R3の非置換又は置換の一価炭化水素基としては、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。また、bは0.7〜2.1、cは0.001〜1.0で、かつb+cが0.8〜3.0を満足する正数であり、好ましくは、bは1.0〜2.0、cは0.01〜1.0、b+cが1.5〜2.5である。
【0035】
1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上含有されるSiH基は、分子鎖末端、分子鎖途中のいずれに位置していてもよく、またこの両方に位置するものであってもよい。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、1分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は通常2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜150個程度のものが望ましく、25℃における粘度が、通常、0.1〜1,000mPa・s、好ましくは、0.5〜500mPa・s程度の、室温(25℃)で液状のものが使用される。
【0036】
このような(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサンや、これらの各例示化合物において、メチル基の一部又は全部がエチル基、プロピル基等の他のアルキル基で置換されたもの、式:R33SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R32HSiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R32HSiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R3HSiOで示されるシロキサン単位と式:R3SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくは式:HSiO1.5で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、及び、これらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。上記式中のR3はアルケニル基以外の一価炭化水素基であり、前記と同様の基が例示される。
【0037】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モル(又は個)に対して(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が1〜10モル(又は個)、特には1〜5モル(又は個)の範囲内となる量であることが好ましい。(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が1モル未満であると、組成物は十分に硬化せず、また、これが10モルを超えると、得られるシリコーンゴムの耐熱性が極端に劣る。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で又は2種以上を併用することができる。
【0038】
(C)成分の付加反応触媒としては、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基と(B)成分中のSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するものであればいかなる触媒を使用してもよい。例えば、白金、パラジウム、ロジウム等や塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属又はこれらの化合物が使用されるが、特に好ましくは白金族金属化合物である。
【0039】
付加反応触媒の配合量は有効量(いわゆる触媒量)であるが、通常、(A),(B)成分の合計質量に対して触媒金属元素の質量として0.5〜1,000ppmの割合であればよく、1〜500ppmの割合であることが好ましく、より好ましくは10〜100ppmの範囲である。配合量が少なすぎると付加反応が著しく遅くなるか、もしくは硬化しない場合があり、配合量が多すぎると、コスト的に高いものとなり、不経済となる。
【0040】
必要に応じて任意的に用いられる(D)成分の微粉末シリカは、補強剤として作用する。即ち、本発明組成物の硬化物に対して高引裂き強度を付与するものであり、該微粉末シリカを補強剤として使用することにより、優れた引裂き強度特性を有するコーティング膜を形成することができる。
【0041】
(D)成分の微粉末シリカは、比表面積が50m2/g以上、好ましくは50〜400m2/g、特に好ましくは100〜300m2/gである。該比表面積がこの範囲内にあると、得られる硬化物に優れた引裂き強度特性を付与しやすい。比表面積はBET法により測定される。
【0042】
(D)成分の微粉末シリカとしては、比表面積が上記範囲内である限り、従来からシリコーンゴムの補強性充填剤として使用されている公知のものを用いることができ、例えば、煙霧質シリカ(乾式シリカ)、沈降シリカ(湿式シリカ)などが挙げられる。また、沈降シリカは、Naイオン含有量がNa2Oとして0.35質量%以下であることが好ましい。
(D)成分の微粉末シリカは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
これらの微粉末シリカはそのまま使用してもよいが、本発明組成物に対してより良好な流動性を付与させやすくするため、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等のメチルクロロシラン類;ジメチルポリシロキサン;ヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザン等のヘキサオルガノジシラザンなどの有機ケイ素化合物などの表面処理剤で表面疎水化処理することにより、疎水性微粉末シリカとして使用することが好ましい。表面の疎水化処理は、予め微粉末シリカの1種又は2種以上と表面処理剤の1種又は2種以上とを加熱下又は非加熱下に混合することにより表面疎水化処理を行ってもよいし、前記(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物の構成成分と微粉末シリカとを混合する際に、同様の処理によって表面処理を行ってもよい。
【0044】
(D)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して50質量部以下(即ち、0〜50質量部)である。該配合量が50質量部を超えると、組成物の流動性が低下しやすく、コーティング作業性が悪くなりやすい。該配合量は、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは1〜50質量部、特に好ましくは5〜40質量部である。該配合量がこの範囲内にあると、本発明組成物の硬化物に対して特に良好な高引裂き強度を付与しやすい。
【0045】
(E)成分は、チタニウム化合物及びジルコニウム化合物のいずれか一方又は両方から選ばれる有機金属化合物であり、接着促進のための縮合助触媒的に作用するものである。このような(F)成分としては、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)等の有機チタン酸エステル;ジイソプロポキシ(アセチルアセトネート)チタン、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)チタン、テトラアセチルアセトネートチタン、テトラアセチルアセテートチタン等の有機チタンキレート化合物等のチタン系縮合助触媒;ジルコニウムテトラプロピレート、ジルコニウムテトラブチレート等の有機ジルコニウムエステル;ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等の有機ジルコニウムキレート;ジルコニウムビス(2−エチルヘキサノエート)オキサイド、ジルコニウムアセチルアセトネート(2−エチルヘキサノエート)オキサイド等のオキソジルコニウム化合物等のジルコニウム系縮合助触媒を例示することができる。
【0046】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜2質量部の範囲である。0.01質量部未満であると、接着性や気密性が低下する。5質量部を超えると硬化物の耐熱性が低下する。
【0047】
本発明の製造方法において、上記(A)〜(E)成分を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物には、(A)〜(E)成分以外の任意の成分として、付加反応触媒に対して硬化抑制効果を持つ化合物とされている従来公知の制御剤化合物はすべて使用することができる。このような化合物としては、トリフェニルホスフィンなどのリン含有化合物、トリブチルアミンやテトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾールなどの窒素含有化合物、硫黄含有化合物、エチニルシクロヘキサノールなどのアセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上含む化合物、ハイドロパーオキシ化合物、マレイン酸誘導体などが例示される。制御剤化合物による硬化遅延効果の度合は、制御剤化合物の化学構造によって大きく異なるため、制御剤化合物の添加量は、使用する制御剤化合物の個々について最適な量に調整することが好ましく、一般には、その添加量が少なすぎると室温での長期貯蔵安定性が得られない場合があり、逆に多すぎるとかえって硬化が阻害されるおそれがある。
【0048】
また、その他の任意の成分としては、例えば、結晶性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤、及びこれらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面処理した充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダーやシリコーンレジンパウダー等も挙げられる。
【0049】
更に、この組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、その他任意の成分として、例えば、ケイ素原子結合水素原子及びアルケニル基を含有しない無官能性のオルガノポリシロキサン、有機溶剤、クリープハードニング防止剤、可塑剤、チクソ性付与剤、顔料、染料、防かび剤等を配合することができる。
なお、本発明において、上述した(F)成分は、上記(A)〜(E)成分を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物とは別に、エアーバッグ用基材に適用される繊維布を予め表面処理するために使用されるものであるが、(A)〜(E)成分を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物に直接(F)成分を配合することは組成物が著しく増粘するため、均一な厚みの薄膜状のコーティング層を形成する上で、塗布作業性及び塗工安定性の点で劣ったものとなるばかりでなく、十分な接着性を発現させるためには(F)成分の配合量を増加させる必要があり、コスト面でも不利となる。
【0050】
本発明に用いられる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、上記各成分を常法に準じて混合することにより調製することができるものであり、組成物全体の粘度は特に制限されるものではないが、塗布作業性、塗工安定性の点で低粘度であることが好ましく、通常、25℃において50Pa・s以下(例えば、1〜50Pa・s)、好ましくは10〜50Pa・s、より好ましくは20〜50Pa・sのものが使用できる。
【0051】
このようにして得られる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、エアーバッグコーティング時に必要とされる低粘度性及びエアーバッグ用基布に対する接着性に優れるため、衝突時や車両の転倒時に頭部の保護や飛び出しを防ぐために一定膨脹時間を維持することが要求されるエアーバッグを作製するのに好適なものである。
【0052】
上記液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を、上述した(F)成分により予め表面処理した繊維布からなる基材の少なくとも一方の上記処理された表面、特には一方の上記処理された表面に塗布し、熱風乾燥炉に入れて加熱硬化させ、シリコーンゴムコーティング層を形成することにより、エアーバッグ用シリコーンゴムコーティング基布とすることができる。
【0053】
ここで、上記組成物をコーティングする方法としては、常法を採用することができるが、コーティング層の厚さ(又は表面塗布量)は、例えば10〜150g/m2、好ましくは15〜80g/m2、より好ましくは20〜60g/m2程度とすることが望ましい。
【0054】
また、上記コーティング剤組成物の硬化方法、条件としては、公知の硬化方法、条件を採用することができ、通常、120〜180℃において1〜10分の硬化条件とすることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例と比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において粘度は回転粘度計により測定した25℃での値を示す。
【0056】
[実施例1]
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約30,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン65質量部、ヘキサメチルジシラザン8質量部、水2質量部、BET法で測定した比表面積が約200m2/gである湿式シリカ(沈降シリカ、商品名:Nipsil(登録商標)LP、Naイオン含有量(Na2Oとして):0.30質量%、東ソー・シリカ社製)40質量部を室温でニーダー中に投入し、1時間混合して、混合物を得た。この混合物を150℃に加熱し、引き続き2時間混合した。この混合物を室温まで冷却し、この混合物に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約30,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン19質量部、主鎖中の全ジオルガノシロキサン単位に対してビニルメチルシロキサン単位を5モル%含有し、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が約700mPa・sであるジメチルポリシロキサン5質量部を添加し、均一になるまで混合して、ベースコンパウンド(I)を得た。
【0057】
ベースコンパウンド(I)78質量部に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約5,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン35質量部、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約1,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン15質量部、(CH33SiO1/2単位39.5モル%と(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなる三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂10質量部、25℃における粘度が45mPa・sであり、分子鎖側鎖にケイ素原子結合水素原子を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量=1.08質量%)6.4質量部、1−エチニルシクロヘキサノール0.09質量部、塩化白金酸/1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.38質量部、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)0.2質量部を混合して、組成物A(組成物中のケイ素原子結合アルケニル基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比=5.5)を調製した。
【0058】
また、ナイロン66繊維布を1質量%γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン水溶液に浸し、ナイロン66繊維布の質量と1質量%γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン水溶液の質量が同じとなるようにし、120℃/2min加熱後、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを約1質量%含有するエアーバッグ基布Aを調製した。
【0059】
組成物Aの粘度測定は回転粘度計BH−7−20にて評価を行った。その結果を表1に示した。また、組成物Aを、エアーバッグ基布Aにコーティングし(80g/m2)、オーブン中で170℃にて1分間加熱して硬化させた。得られたコート布についてスコットもみ試験による接着性の評価を行った。その結果を表1に示した。
【0060】
<粘度測定>
粘度測定は、回転粘度計BH−7−20にて評価を行った。
合格:塗工安定性、塗布作業性の観点から粘度50Pa・s以下の場合を合格とした。
不合格:粘度50Pa・sを超えた場合を不合格とした。
【0061】
<スコットもみ試験>
スコットもみ試験は、スコットもみ試験機を使用して行った。上記のコート布に対して、押圧力2kgfで500回のもみ試験を行った後、シリコーンゴムコーティング薄膜の基布からの剥離状態を肉眼で確認した。評価は下記の基準で行った。結果を表1に示す。
合格:基布からのコーティング膜の剥離がない場合を合格とした。
不合格:基布からのコーティング膜の剥離がある場合を不合格とした。
【0062】
[比較例1]
実施例1で調製したベースコンパウンド(I)78質量部に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約5,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン35質量部、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約1,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン15質量部、(CH33SiO1/2単位39.5モル%と(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなる三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂10質量部、25℃における粘度が45mPa・sであり、分子鎖側鎖にケイ素原子結合水素原子を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量=1.08質量%)6.4質量部、1−エチニルシクロヘキサノール0.09質量部、塩化白金酸/1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.38質量部、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)0.2質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1質量部を混合して、組成物B(組成物中のケイ素原子結合アルケニル基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比=5.5)を調製した。
また、ナイロン66繊維布をそのまま使用してγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含有しないエアーバッグ基布Bとした。
実施例1と同様にコート布を調製すると共に、実施例1と同じ評価を実施し、その結果を表1に示した。比較例1は、基布とコーティング膜との接着性には問題がないものの、コーティング剤組成物の粘度が高く、塗布作業性、塗工安定性に劣るものであった。
【0063】
[比較例2]
実施例1で調製した組成物Aと、比較例1で用いたエアーバッグ基布Bを用いて、実施例1と同様にコート布を調製すると共に、実施例1と同じ評価を実施し、その結果を表1に示した。比較例2は、塗布作業性、塗工安定性の点では問題がないものの、基布とコーティング膜との接着性に劣るものであった。
【0064】
【表1】