(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(D)グラフト共重合体中の、(d1)オレフィン系重合体と(d2)ビニル系重合体との質量比(d1:d2)が、80:20〜20:80である請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
前記(A)ポリアセタール樹脂は、(a1)トリオキサン99.9〜90.0重量%と、(a2)単官能環状エーテル化合物0.1〜10.0重量%と、を共重合して得られたものであり、
前記(A)ポリアセタール樹脂の全末端基中に占める、アルコキシ末端基と炭素数が少なくとも2個のヒドロキシアルコキシ末端基との合計の割合が70〜99モル%の割合である請求項1から4のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、バランスのとれた機械的物性を有し、摩擦・摩耗特性、耐薬品性、耐熱性、電気特性等に優れる。このため、ポリアセタール樹脂は、自動車、電気・電子部品等の分野で広く利用されており、ポリアセタール樹脂の利用形態や加工技術の進歩は現在も続いている。このような状況の中、ポリアセタール樹脂に要求される特性は、高度化したり特殊化したりする傾向にある。その一例として、高面圧、高負荷の摺動条件下での摺動特性の向上がポリアセタール樹脂に要求されている。
【0003】
このような要求に対し、ポリアセタール樹脂の摺動特性を改善するために、ポリアセタール樹脂にフッ素樹脂やポリオレフィン系樹脂を添加する方法が知られている。しかし、フッ素樹脂やポリオレフィン系樹脂は、ポリアセタール樹脂との相溶性に乏しい。このため、これらの樹脂は、ポリアセタール樹脂から分離して成形品表面に剥離を生じさせたり、成形品の成形時に金型に析出物を発生させたりする場合がある。
【0004】
また、ポリアセタール樹脂の摺動特性を改善するために、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーンオイル、各種鉱油等の潤滑油を、ポリアセタール樹脂に添加する方法が知られている。しかし、成形品の成形時に、ポリアセタール樹脂と潤滑油等とが分離して、潤滑油等の滲み出しが生じやすく、その滲み出した潤滑油等により押出加工性や成形加工性を損ねる場合がある。また、成形品表面に潤滑油が滲み出すと、成形品の外観を損ねる場合もある。
【0005】
かかる課題に対し、特許文献1(特開平2−138357)には、ポリアセタール樹脂に特定のグラフト共重合体を含有させた樹脂組成物、さらに特定のグラフト共重合体と共に潤滑剤を配合した樹脂組成物が開示されている。しかし、特許文献1の組成では、成形品の表面硬度が低下する場合があり、高面圧下での摺動や高速での摺動等のような苛酷な摺動条件下では局所的な変形による摺動特性の低下や摩耗量の増加を起こす場合がある。
【0006】
また、特許文献2(特開平3−111446)には、ポリアセタール樹脂に特定のグラフト共重合体、潤滑剤及び特定粒径の無機粉末を添加配合してなる樹脂組成物が開示されている。特許文献2の組成では、特許文献1の課題である表面硬度が改善され、これに付随する摺動特性は改善される。しかし、特許文献2の組成では、配合される無機粉末によって成形品の表面平滑性や表面粗さを損ね、特許文献1の方法よりも摩擦特性や摩耗特性を損ねる場合がある。
【0007】
また、特許文献3(特開平5−51514)には、フェルトクラッチ機構部品という極めて特殊な摺動用途への利用のため、ポリアセタール樹脂に特定粒径の紡錘状炭酸カルシウム及び脂肪酸エステルを配合してなる樹脂組成物が開示されている。特許文献3の組成では、脂肪酸エステルの滲み出しによる成形性の低下や成形品表面の外観不良を引き起こす場合がある。また、特許文献3はフェルトクラッチという特異的な摺動を想定したものであり、特許文献3に記載の効果を一般的な摺動性の改善と考えることはできない。
【0008】
これらの特許文献1〜3に開示された組成によれば、従来技術に比べて、それぞれの文献が目的としている摺動性の改善を図ることができる。しかしながら、これらの組成によってもなお、近年要求される高度の摺動特性と、バランスのとれた他の諸特性(表面性(表面平滑性)、機械的物性)を満足することは難しい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂と、(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、(C)窒素含有化合物と、(D)グラフト共重合体と、(E)脂肪酸エステルと、(F)紡錘状炭酸カルシウムと、を配合してなる。以下、各成分について説明する。
【0020】
[(A)ポリアセタール樹脂]
本発明に用いられる(A)ポリアセタール樹脂とは、オキシメチレン基を主たる構成単位とし、オキシメチレン基の繰り返しによって構成されるポリマー骨格を有する高分子化合物を総称するものであり、実質的にオキシメチレン基の連鎖のみからなるポリアセタールホモポリマー、及び、主鎖の大部分がオキシメチレン基の連鎖からなり、C2〜C6程度のオキシアルキレン単位が少量導入された構造を有するポリアセタールコポリマーがその代表的なものである。
【0021】
また、(A)ポリアセタール樹脂には、分岐又は架橋構造を形成し得る成分を添加して共重合することによって得られる分岐又は架橋構造を有するポリアセタールコポリマーや、重合時或は重合後に他の重合体をグラフト共重合して変性させた変性ポリアセタール樹脂も含まれる。
【0022】
本発明においては、これらの(A)ポリアセタール樹脂のいずれも使用でき、その重合度等も成形可能なものである限り特に制限はない。
【0023】
本発明において使用する(A)ポリアセタール樹脂としては、トリオキサン(a1)90.0〜99.9重量%と(a2)単官能環状エーテル化合物0.1〜10.0重量%とを共重合して得られるポリアセタール共重合体が好ましい。
(a2)単官能環状エーテル化合物には単官能環状ホルマール化合物も包含される。(a2)単官能環状エーテル化合物は、隣接する少なくとも2個の炭素原子を含んで環が形成されており、(a1)トリオキサンとの共重合によって開環しC2〜C6程度のオキシアルキレン単位を形成するものであることが必要である。このような(a2)単官能環状エーテル化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,6−ヘキサンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール等が挙げられる。
【0024】
また、本発明において使用する(A)ポリアセタール樹脂としては、アルコキシ末端基と炭素数が少なくとも2個のヒドロキシアルコキシ末端基とを合わせて全末端基の70〜99モル%の割合で有するものが好ましい。なお、他の末端基としては、ヘミアセタール基、ホルミル基等を挙げることができる。これらの末端基は、公知の方法、例えば特開平5−98028号公報、特開2001−11143号公報等に記載された方法を利用して測定することができる。
【0025】
上記の通り、本発明に使用する(A)ポリアセタール樹脂には、二つの好ましい条件がある。これらの条件の少なくとも一方を満たすことで、樹脂の基本的な安定性が優れたものとなり、また、摺動性改良のための成分を配合しても、樹脂の安定性や樹脂組成物の機械的物性をほとんど損なうことなく、摺動性改良効果を如何なく発揮することができるため好ましい。
【0026】
[(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤]
本発明で使用可能な(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、以下の化合物を使用することができる。
単環式ヒンダードフェノール化合物(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等)、炭化水素基又はイオウ原子を含む基で連結された多環式ヒンダードフェノール化合物(例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等)、エステル基又はアミド基を有するヒンダードフェノール化合物(例えば、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−2−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、ジ−n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ジヒドロシンナムアミド、N,N’−エチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−テトラメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−エチレンビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ヘキサメチレンビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N’−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート等)が挙げられる。
【0027】
本発明において、(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤は単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。(B)成分の配合量は、(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜1重量部であり、好ましくは0.02〜0.5重量部である。(B)成分の配合量が0.02重量部未満の場合は、成形加工時等の高温での短期的な酸化劣化や常温での長期的な使用下での酸化劣化に対する(A)ポリアセタール樹脂の安定性が不十分なものとなりやすい。さらに、このような(A)成分の安定性の不足は、過酷な条件下での摺動特性にも好ましくない影響を与える傾向にある。また、(B)成分の配合量が1重量部以上の場合には、不経済であるばかりか、過剰の添加は、得られる樹脂組成物の機械的物性を損ねる要因にもなる場合がある。
【0028】
[(C)窒素含有化合物]
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びポリアミド化合物から選ばれる(C)窒素含有化合物が配合されている。
【0029】
アミノトリアジン化合物としては、メラミン又はその誘導体[メラミン、メラミン縮合体(メラム、メレム、メロン)等]、グアナミン又はその誘導体、及びアミノトリアジン樹脂[メラミンの共縮合樹脂(メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−メラミン樹脂、メラミン−フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン−メラミン樹脂、芳香族ポリアミン−メラミン樹脂等)、グアナミンの共縮合樹脂等]等が挙げられる。
【0030】
グアナミン化合物としては、脂肪族グアナミン化合物(モノグアナミン類、アルキレンビスグアナミン類等)、脂環族グアナミン系化合物(モノグアナミン類等)、芳香族グアナミン系化合物[モノグアナミン類(ベンゾグアナミン及びその官能基置換体等)、α−又はβ−ナフトグアナミン及びそれらの官能基置換誘導体、ポリグアナミン類、アラルキル又はアラルキレングアナミン類等]、ヘテロ原子含有グアナミン系化合物[アセタール基含有グアナミン類、テトラオキソスピロ環含有グアナミン類(CTU−グアナミン、CMTU−グアナミン等)、イソシアヌル環含有グアナミン類、イミダゾール環含有グアナミン類等]等が挙げられる。また、上記のメラミン、メラミン誘導体、グアナミン系化合物のアルコキシメチル基がアミノ基に置換した化合物等も含まれる。
【0031】
ヒドラジド化合物としては、脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物(ステアリン酸ヒドラジド、12−ヒドロキシステアリン酸ヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、エイコサン二酸ジヒドラジド等)、脂環族カルボン酸ヒドラジド系化合物(1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン等)、芳香族カルボン酸ヒドラジド系化合物(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル安息香酸ヒドラジド、1−ナフトエ酸ヒドラジド、2−ナフトエ酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド等)、ヘテロ原子含有カルボン酸ヒドラジド系化合物、ポリマー型カルボン酸ヒドラジド系化合物等が挙げられる。
【0032】
ポリアミドとしては、ジアミンとジカルボン酸とから誘導されるポリアミド;アミノカルボン酸、必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸を併用して得られるポリアミド;ラクタム、必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸との併用により誘導されるポリアミドが含まれる。また、2種以上の異なったポリアミド形成成分により形成される共重合ポリアミドも含まれる。
【0033】
具体的なポリアミドの例としては、ポリアミド3、ポリアミド4、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミド、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン)とから得られるポリアミド、脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸)と芳香族ジアミン(例えば、メタキシリレンジアミン)とから得られるポリアミド、芳香族及び脂肪族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸とアジピン酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン)とから得られるポリアミド及びこれらの共重合体等が挙げられる。また、ポリアミドハードセグメントとポリエーテル成分等の他のソフトセグメントの結合したポリアミド系ブロックコポリマーの使用も可能である。
【0034】
本発明において、アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びポリアミドから選ばれる(C)窒素含有化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。(C)成分の配合量は、(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対して0.05〜1重量部であり、好ましくは0.1〜0.7重量部である。(C)成分の配合量が0.05重量部未満の場合には、ポリアセタール樹脂に十分な耐熱安定性を付与することができず、加工時における樹脂の分解によるホルムアルデヒドの発生、成形時のモールドデポジットの発生、樹脂組成物の機械的物性の低下や発泡に伴う摺動特性の低下等の要因になる。逆に、(C)成分の配合量が1重量部を超える場合には、得られる樹脂組成物の変色や機械的物性低下等を引き起こす要因になる場合がある。
【0035】
[(D)グラフト共重合体]
本発明で用いる(D)グラフト共重合体とは、(d1)オレフィン系重合体と(d2)ビニル系重合体とのグラフト共重合体である。
【0036】
(D)グラフト共重合体の主鎖成分を構成する(d1)オレフィン系重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の単独重合体、及びこれらを主成分とする共重合体が挙げられる。共重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体及びエチレンとα・β−不飽和のグリシジルエステル(例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等)からなる共重合体等が挙げられる。これらの内、ポリエチレンが最も好ましく使用できる。
【0037】
この(d1)オレフィン系重合体とグラフト共重合させる重合体は(d2)ビニル系重合体であり、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸−2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルの共重合体、アクリル酸ブチルとスチレンの共重合体等が挙げられる。
【0038】
本発明においては、上記で例示するグラフト共重合体の内、ポリエチレンからなる(d1)オレフィン系重合体とアクリロニトリル−スチレン共重合体又はポリスチレンからなる(d2)ビニル系重合体とのグラフト共重合体が特に好ましい。
【0039】
グラフト共重合体の調製法は特に限定されるものではないが、公知のラジカル反応によって容易に調製できる。例えば、(d1)成分を構成するモノマーと、(d2)を構成するモノマーにラジカル触媒を加えて混練してグラフト化する方法、或いは(d1)成分又は(d2)成分の何れかに過酸化物等のラジカル触媒を加えてフリーラジカルを生成させ、これを他方の成分のポリマーと溶融混練してグラフト化する方法等によって(D)グラフト共重合体が調製される。
【0040】
(D)グラフト共重合体を構成する(d1)オレフィン系重合体と(d2)ビニル系重合体の割合は、d1:d2=80:20〜20:80(重量比)が好ましく、特に好ましくはd1:d2=60:40〜40:60である。
【0041】
本発明において上記(D)グラフト共重合体の配合量は、(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対して2〜12重量部である。(D)成分の配合量が2重量部未満では本発明の目的とする摺動特性の改良効果が不十分なものになる。また、(D)成分の配合量が12重量部を超えると剛性等の機械的物性を阻害するため好ましくない。
【0042】
[(E)脂肪酸エステル]
本発明で用いる(E)脂肪酸エステルは、炭素数12〜32の脂肪酸と炭素数2〜30の一価もしくは多価アルコールとの脂肪酸エステルである。
【0043】
(E)脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等の飽和脂肪酸や、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0044】
また、(E)脂肪酸エステルを構成するアルコールとしては、プロピル、イソプロピル、ブチル、オクチル、カプリル、ラウリル、ミリスチル、ステアリル、ベヘニル等の一価アルコール及びエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン等の多価アルコールが挙げられる。
【0045】
(E)脂肪酸エステルとして好ましいのは、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸から選ばれる脂肪酸と、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールから選ばれる一価のアルコールもしくはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタンから選ばれる多価アルコールとのエステルであり、具体例としては、ステアリルステアレート、ベヘニルベヘネート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノベヘネート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノベヘネート等が挙げられる。
【0046】
本発明において、かかる(E)脂肪酸エステルの配合量は(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対し0.5〜7重量部である。(E)成分の配合量が0.5重量部より少ない量では十分な摺動性改良効果は期待できず、(E)成分の配合量が7重量部より多い量では基体樹脂であるポリアセタール樹脂の性質が損なわれる場合がある。
【0047】
[紡錘状炭酸カルシウム(F)]
本発明において(A)ポリアセタール樹脂に配合される(F)紡錘状炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムに属し、その形状が紡錘状をなしている粒子である。紡錘状とは、糸をつむぐ際に使用される紡錘に似た形、すなわち円柱状で中央部が太く、両端が次第に細くなっている形を言うが、本発明で使用する(F)紡錘状炭酸カルシウムは、概ねこれに類似する形状を有するものであればよい。その平均粒子径は0.1〜1μm、平均粒子長さは0.5〜10μm、粒子長さ/粒子径の平均値は、2〜10のものが好ましい。ここで、粒子径とは紡錘状粒子の最大直径部(通常は長さ方向のほぼ中央部)の直径、粒子長さとは紡錘状粒子の長さを指し、平均粒子径及び平均粒子長さは、紡錘状炭酸カルシウムを電子顕微鏡で撮影し、写真から無作為に選択した50個の粒子についてその粒子径及び粒子長さを読み取り、その平均値を求める方法で測定した値を指す。
【0048】
このような特定の(F)紡錘状炭酸カルシウムとしては白石工業(株)製のシルバーW、PC、PCX、カルライトSA等が例示される。本発明において使用する(F)紡錘状炭酸カルシウムは、表面処理剤で表面処理されたものが好ましく、特に、アミノシランで表面処理されたものが好ましい。このような表面処理された(F)紡錘状炭酸カルシウムとしては白石工業(株)製のSL−101が例示される。表面処理を行なうことで、樹脂と炭酸カルシウムの密着性が向上し、動摩擦抵抗が改善される。
【0049】
本発明において、(F)紡錘状炭酸カルシウムの配合量は(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対して2〜18重量部、好ましくは3〜15重量部である。(F)成分の配合量が2重量部未満の場合には、過酷な摺動条件も含む幅広い摺動条件下での優れた摩擦・摩耗特性を達成することはできず、機械的物性(特に剛性や表面硬さ等)の向上も期待できない。(F)成分の配合量が18重量部を超える場合には、成形品表面の平滑性等が不十分なものとなり、摩耗量の増大や摩擦係数の上昇(悪化)を起こし易くなる。
【0050】
[ポリアセタール樹脂組成物]
本発明は、上記の(A)成分から(F)成分を選択的に組合せると共に、その配合量を調整したことを特徴とするものである。これは、幅広い摺動条件下における摺動特性の改良という本発明の主目的を達成すると共に、その他の諸特性(機械的物性や安定性等)の保持又は向上を図り、さらには組成物の調製における加工性や成形時の成形性も考慮してなされたものである。
【0051】
すなわち、摺動性改善のための成分或は複数成分の組合せ、各成分の配合量が機械的物性や樹脂の安定性を損ねる要因になったり、摺動特性そのもののバランスを崩す要因になったりする場合があり、また、酸化劣化や熱劣化に対する安定化のための安定剤成分の配合が摺動特性に悪影響を及ぼす場合もある。また、それらの配合成分或はその組合せが、組成物の調製における押出機の操作性(押出機のスクリュー上で樹脂の滑り、サージング現象、ベントアップ等)、成形機おける成形性(くい込み不良、可塑化不良等)に重要な影響を及ぼす要因にもなる。
【0052】
本発明における上記の如き配合成分の選択的組合せと各成分の配合量は、このような特性や状況を踏まえた微妙なバランス上に成り立っているものであり、これにより初めて、全体としての好ましい性能を得ることができるのである。
【0053】
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、本発明の目的や効果を大きく損なわない範囲であれば、公知の各種安定剤や添加剤をさらに配合することができる。例えば、各種の着色剤、離型剤(前記の潤滑剤以外)、核剤、帯電防止剤、その他の界面活性剤、異種ポリマー(前記のグラフト共重合体以外)、繊維状、板状、粉粒状の無機或は有機充填剤等を挙げることができる。
【0054】
本発明のポリアセタール樹脂組成物及びかかる組成物からなる成形品は、従来から樹脂組成物の調製法として知られ一般に用いられる方法により容易に調製することができる。例えば、組成物を構成する各成分を混合した後、一軸又は二軸の押出機により溶融混練して押出し、これを切断してペレット状組成物を調製し、しかる後に成形する方法、一旦組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(稀釈)して成形に供し、成形後に目的組成の成形品を得る方法、等の何れも使用できる。
【0055】
また、樹脂組成物の調製において、基体である(A)ポリアセタール樹脂の一部又は前部を粉砕し、これとその他の成分を混合した後、押出等を行うことは添加物の分散性を良くする上で好ましい方法である。
【0056】
また、予め(E)脂肪酸エステルを(D)グラフト共重合体と混合し、含浸させた後、これを(A)ポリアセタール樹脂或は残余成分と混練し、押出等を行う方法も組成物の調製を容易にし、加工性及び摺動性改善の点で好ましい方法である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0058】
<実施例及び比較例>
実施例及び比較例において使用した各成分の詳細は以下の通りである。
(A)ポリアセタール樹脂:ポリプラスチックス(株)製、ジュラコン(登録商標)M90
(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤:BASF製、イルガノックス(登録商標)1010
(C)窒素含有化合物:メラミン
(D−1)グラフト共重合体:PE−g−AS(日油(株)製、モディパー(登録商標)A1401)
(D−2)グラフト共重合体:PE−g−PMMA(日油(株)、モディパー(登録商標)A1200)
(E)脂肪酸エステル:グリセリンモノベヘネート(理研ビタミン(株)製、リケマール(登録商標)B−100)
(F−1)紡錘状炭酸カルシウム(アミノシラン表面処理品):(株)白石中央研究所製、SL−101
(F−2)紡錘状炭酸カルシウム(表面未処理品):(株)白石中央研究所製、カルライト(登録商標)SA
(F’)非紡錘状炭酸カルシウム(比較例用):東洋ファインケミカル(株)製、ホワイトン(登録商標)P−30
【0059】
表1、2に示す成分を、表1、2に示す割合で混合した後、二軸押出機により溶融混練しペレット状の組成物を調製した。次いでこのペレットを用いて射出成形により試験片を作成し、評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0060】
また、比較のため、(F)紡錘状炭酸カルシウムを配合しないもの(比較例1)、(D)グラフト共重合体を配合しないもの(比較例4)、紡錘状でない炭酸カルシウムを使用したもの(比較例2)、(F)紡錘状炭酸カルシウを過剰に配合したもの(比較例3)についても同様にして組成物を調製して、試験片を作成し評価した。
【0061】
<評価>
表面性、引張強さ、引張破壊ひずみ、曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さ、動摩擦係数、比摩耗量(自材、鋼材)、鳴き音(きしみ音)発生荷重を評価した。具体的には、以下の方法で各評価を行なった。
【0062】
[表面性]
表面性とは、試験片の表面状態の評価である。評価用試験片(50mm×50mm×1mm:センターピンゲート方式)をシリンダー温度190℃、射出圧力75MPa、射出速度を1m/minと3m/minの2種類の成形条件にて成形して、その表面(特にゲート付近)の剥離状況を5段階で評価した。評価結果は表1、2に示した。
5:剥離無し
4:剥離ほとんど無し
3:剥離やや有り
2:剥離有り
1:大部分が剥離
【0063】
[引張、曲げ、衝撃物性]
ISO規格(引張物性:ISO527−1,2、曲げ物性:ISO178、衝撃物性:ISO179/1eA)に準じて評価用試験片を射出成形にて成形し、各種物性を評価した。引張強さ、引張破壊ひずみ、曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さの結果を表1、2に示した。
【0064】
[摩擦係数、比摩耗量]
鈴木式摩擦・摩耗試験機を用い、加圧下(0.98MPa)、線速度300mm/sec、接触面積2.0cm
2で、相手材を鋼材(S55C)とし、動摩擦係数、比摩耗量を評価した。評価結果を表1に示した。
【0065】
[摺動音特性]
鈴木式摩擦・摩耗試験機を用い、接触面積2.0cm
2で、同じ材料同士を、速度を一定(10mm/sec)に保ち、面圧を1分毎に0.1MPaずつ昇圧していく間のきしみ音の発生状況を評価した。きしみ音の発生の有無は、官能試験にて判断し、きしみ音が発生したと判断した時の荷重を鳴き音発生荷重とした。
【0066】
【表1】
【表2】
【0067】
実施例1〜4は、表面性に優れ、機械的強度(引張強さ、引張破壊ひずみ、曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さ)も充分であり、摺動特性(摩擦係数、比磨耗量、きしみ音)も良好であることが確認された。
【0068】
(F)成分を含有しない比較例1は、鳴き音が発生しやすく、表面状態も悪いことが確認された。
紡錘状ではない炭酸カルシウム((F’)成分)を使用した比較例2は、動摩擦係数が大きく、摩耗しやすいことに加えて、表面状態も悪いことが確認された。
(F)成分を過剰に含有する比較例3は、摩擦係数が大きく、摩耗しやすいことに加えて、表面状態も悪く、さらに、引張破壊ひずみ、シャルピー衝撃強さも低くなることが確認された。
(D)成分を含有しない比較例4は、表面状態が悪く、さらに、シャルピー衝撃強さも低くなることが確認された。
【0069】
以上より、特定の成分を特定の量配合させなければ、良好な表面性、優れた機械的強度(引張強さ、引張破壊ひずみ、曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さ)、良好な摺動特性(摩擦係数、比磨耗量、きしみ音)の全てを満たさないことが確認された。
【0070】
なお、(E)脂肪酸エステルを配合しない場合は、対応する実施例と同等の機械的物性を有するが、摺動特性(摩擦係数、比磨耗量、きしみ音)が著しく劣るものであり、表には記載していない。