【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例(リチウム二次電池用負極活物質)、参考例および比較例を述べる。但し、これら実施例によって、本発明の内容が制限されるものではない。
【0044】
(実施例1)
石炭系重質油よりキノリン不溶分を除去した精製ピッチを用い、ディレードコーキング法によって500℃の温度で24時間熱処理して製造した塊状コークス(生コークス)を得、ジェットミルにて微粉砕及び整粒し、平均粒径が9.9μmの生コークス粉を得た。
【0045】
上述のようにして得た塊状の生コークスを、ロータリーキルンによって入口付近温度700℃から出口付近温度1500℃(最高到達温度)の温度で1時間以上熱処理して塊状のか焼コークスを得、同じくジェットミルにて微粉砕及び整粒し、平均粒径が9.5μmのか焼コークス粉を得た。
【0046】
上述のようにして得た生コークス粉の70重量部とか焼コークス粉の30重量部(コークス材料100重量部)とに対して、リン酸エステル(14質量%活性リン固形樹脂:三光社製商品名HCA、化学名:9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−オスファフェナントレン−10−オキサイド )17.9重量部(リン換算:2.5重量部)、炭化ホウ素3.2重量部(ホウ素換算:2.5重量部)を添加した。
【0047】
次いで、リン酸エステル及び炭化ホウ素を添加してなる上記コークス材料を、室温から600℃/時間の速度で昇温して、900℃に到達(最高到達温度)後、さらに2時間保持して炭化処理(焼成)を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0048】
次いで、リチウム二次電池用負極活物質にバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を5質量%加え、N-メチルピロリドン(NMP)を溶媒として混練してスラリーを作製し、これを厚さ18μmの銅箔に均一となるように塗布して負極電極箔を得た。この負極電極箔を乾燥し所定の電極密度にプレスすることにより電極シートを作製し、このシートから直径15mmΦの円形に切り出すことにより負極電極を作製した。この負極電極単極での電極特性を評価するために、対極には約15.5mmΦに切り出した金属リチウムを用いた。
【0049】
電解液としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:1混合)にLiPF
6を1mol/lの濃度で溶解したものを用い、セパレーターにプロピレンの多孔質膜を用いてコインセルを作製し、25℃の恒温下、端子電圧の充電下限電圧を0V、放電の上限電圧を1.5Vとした電圧範囲で、5mA/cm
2の定電流放電を実施した際の、放電特性を調べた。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2〜4)
実施例1において、生コークス粉及びか焼コークス粉の配合比を重量で70:30からそれぞれ50:50(実施例2)、40:60(実施例3)及び30:70(実施例4)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行いリチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0051】
(参考例1)
生コークス粉100重量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
生コークス粉100重量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステル及び炭化ホウ素を添加せずに、実施例1と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
か焼コークス粉100重量部(生コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステル及び炭化ホウ素を添加せずに、実施例1と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例5〜7)
実施例1、2及び4において、コークス材料の焼成温度(最高到達温度)を900℃から1000℃に変更した以外は、それぞれ実施例1、2及び4と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0055】
(参考例2)
生コークス粉(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、実施例5と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例3)
生コークス粉100重量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステル及び炭化ホウ素を添加せずに、実施例5と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例4)
か焼コークス粉100重量部(生コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステル及び炭化ホウ素を添加せずに、実施例5と同様の操作を行い、負極材用炭素材料(リチウム二次電池用負極活物質)を得た。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例8)
実施例2において、原料である炭素材の焼成温度(最高到達温度)を900℃から1100℃に変更した以外は、それぞれ実施例2と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0059】
(参考例3)
生コークス粉100重量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用した以外は、実施例8と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例5)
生コークス粉100重量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステル及び炭化ホウ素を添加せずに、実施例8と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例6)
か焼コークス粉100重量部(生コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステル及び炭化ホウ素を添加せずに、実施例8と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例9〜16)
実施例2において、添加するリン酸エステルの量と炭化ホウ素の量を、リン及びホウ素換算で各々2.5重量部から、リン換算で0.5重量部、ホウ素換算で0.5重量部(実施例9)、リン換算で0.5重量部、ホウ素換算で2.5重量部(実施例10)、リン換算で0.5重量部、ホウ素換算で5.0重量部(実施例11)、リン換算で2.5重量部、ホウ素換算で0.5重量部(実施例12)、リン換算で2.5重量部、ホウ素換算で5.0重量部(実施例13)、リン換算で5.0重量部、ホウ素換算で0.5重量部(実施例14)、リン換算で5.0重量部、ホウ素換算で2.5重量部(実施例15)、リン換算で5.0重量部、ホウ素換算で5.0重量部(実施例16)、とした以外は、それぞれ実施例2と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。結果を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1及び表2から明らかなように、本発明に従って生コークス粉及びか焼コークス粉を配合しリン酸エステル及び炭化ホウ素を添加したコークス材料を焼成することにより得た、実施例に係わるリチウム二次電池用負極活物質においては、生コークスに対するか焼コークスの配合比が増大するにつれて、DOD(放電深度:Depth of Discharge):50が減少し、出力特性が増大していることが分かる。すなわち、上記負極材用炭素材料からなる上記負極電極の実質的な電位が低下して上記二次電池の実電池電圧が上昇し、これによって出力特性が増大していることが分かる。
【0066】
一方、生コークスに対するか焼コークスの配合比が増大するにつれて、放電容量(mAh/g)は減少していることが分かる。なお、初期効率(%)については、特に依存性は見られないが、約80(mAh/g)以上の高い値を示すことが分かる。
【0067】
結果として、本実施例で示すように、生コークス粉及びか焼コークス粉を配合することにより、出力特性、放電容量、初期効率及び容量維持率の性能バランスが良いことがわかる。特にその配合量を、重量比で70:30〜30:70の範囲に設定することによって、出力特性(W)が14W以上であって、放電容量(mAh/g)が280(mAh/g)以上、かつ初期効率(%)が80(%)以上、かつ容量維持率(%)が80(%)以上の良好な放電特性を示すリチウム二次電池の負極材用炭素材料(リチウム二次電池用負極活物質)が得られることが分かる。
【0068】
なお、比較例1、3及び5は、生コークス粉のみ(か焼コークスを配合しない)からなるコークス材料を使用した場合であるが、これらの場合には、初期効率(%)が80(%)未満であり、本発明に従った実施例に比較して、当該特性が劣ることが分かる。容量維持率についても本発明に従った実施例に比較して、各焼成温度において当該特性が劣ることが分かる。
【0069】
また、比較例2、4及び6は、か焼コークス粉のみ(生コークスを配合しない)からなるコークス材料を使用した場合であるが、これらの場合には、放電容量(mAh/g)が250(mAh/g)未満であって、本発明に従った実施例に比較して、当該特性の劣ることが分かる。
【0070】
(実施例17)
負極電極箔を作製する際に用いるバインダーをポリフッ化ビニリデンからポリイミド樹脂(宇部興産社製)に代えた以外は、実施例2と同様にしてリチウム二次電池を作製した。また、実施例1と同様にして放電特性を調べた。結果を表3に示す。なお、比較のため、実施例2に関する結果も併せて表2に示す。
【0071】
(実施例18)
負極電極箔を作製する際に用いるバインダーをポリフッ化ビニリデンからポリイミド樹脂(宇部興産社製)に代えた以外は、実施例5と同様にしてリチウム二次電池を作製した。また、実施例1と同様にして放電特性を調べた。結果を表3に示す。なお、比較のため、実施例6に関する結果も併せて表3に示す。
【0072】
(実施例19)
負極電極箔を作製する際に用いるバインダーをポリフッ化ビニリデンからポリイミド樹脂(宇部興産社製)に代えた以外は、実施例8と同様にしてリチウム二次電池を作製した。また、実施例1と同様にして放電特性を調べた。結果を表3に示す。なお、比較のため、実施例8に関する結果も併せて表2に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3から明らかなように、リチウム二次電池用負極活物質から負極電極を作製する際に使用するバインダーを、ポリフッ化ビニリデンからポリイミドに変更した場合においても、DOD(放電深度:Depth of Discharge):50が十分に小さく、出力特性が増大していることが分かる。すなわち、上記負極材用炭素材料からなる上記負極電極の実質的な電位が低下して上記二次電池の実電池電圧が上昇し、これによって出力特性が増大していることが分かる。
【0075】
また、出力特性(W)が15W以上であって、放電容量(mAh/g)が280(mAh/g)以上、かつ初期効率(%)が83(%)以上、かつ容量維持率(%)が95(%)以上の良好な放電特性を示すリチウム二次電池の負極材用炭素材料(リチウム二次電池用負極活物質)が得られることが分かる。
【0076】
一方、表3から明らかなように、リチウム二次電池の負極電極を作製する際に使用するバインダーがポリイミドの場合において、ポリフッ化ビニリデンをバインダーとした場合に比較して、DOD(放電深度:Depth of Discharge):50が減少し、これによって出力特性(W)が向上していることが分かる。また、容量維持率(%)についても、向上していることが分かる。なお、このようにバインダーの種類を代えたことによって、二次電池の放電特性が変化する原因については、現在明らかとはなっていない。
【0077】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。