(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅は益々狭くなっている。半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)を用い、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置でウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。こうした微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造には、電子ビーム描画装置などの荷電粒子ビーム描画装置が用いられる。
【0003】
電子ビーム描画装置は本質的に優れた解像度を有し、また、焦点深度を大きく確保することができるので、高い段差上でも寸法変動を抑制できるという利点を有する。特許文献1には、電子ビーム描画装置を用いた半導体集積回路装置の製造方法が開示されている。
【0004】
このような電子ビーム描画装置を用いてマスク上に描画する場合、描画位置のずれや電子ビームの焦点ずれなどを避けるために、描画前にマスク表面の高さを測定する必要がある。ここで、マスク表面が完全な平面であれば、マスク上の任意の1点における高さを測定し、この高さに電子ビームの焦点を合わせることで、所望のパターンを描画することができる。しかし、実際のマスク表面は、完全な平面ではなく、僅かながら変形している。このため、電子ビームの焦点をマスク上の1点を基準に決めたのでは、マスク面上に焦点のない部分が生じてしまう。
【0005】
そこで、マスクの変形による焦点のずれを補正する方法が特許文献1に開示されている。この方法によれば、まず、マスク面の数点における高さを測定して、複数の2次方程式を得る。次いで、これらの2次方程式の係数を最小自乗法により求め、得られた係数を用いた高さ補正式により、焦点と偏向ゲインの補正を行う。
【0006】
また、特許文献2には、マスクの露光領域外の数点における高さを測定し、得られた値から照射位置の高さを設定する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載の補正方法は、マスク面上の複数の点で測定した結果から、マスク面の高さを補間演算するものである。したがって、実際のマスクの表面形状に近似することはできても、マスクの正確な表面形状を把握することはできない。そのためマスクの正確な高さデータとのずれが生じる。
【0009】
また、電子ビーム描画装置では、スループットの向上を図るため、パターン密度が疎の部分でステージの移動速度を速くして描画時間を短縮することが行われる。ステージの移動速度を上記の如く変えると、この領域の始端部でステージが加速され、この領域の終端部でステージが減速されることになる。このとき、ステージの加減速によってマスクに慣性力が働くため、マスク表面の高さが変動し、描画前に求めた高さデータと一致しなくなる。
【0010】
一方、マスク表面の高さを描画時に測定することができれば、上記問題を解決することができる。しかしながら、この場合には、次のような問題が生じる。
【0011】
マスクに電子ビームを照射すると、マスク上に形成された導電性材料、例えば、クロム(Cr)を用いた遮光層上に形成されたレジストが帯電する。この状態で照射を続けると、帯電したマスクが作り出す電界によって電子ビームの軌道が曲げられ、所望の位置に描画することができなくなる。そこで、帯電した層を接地することが行われている。例えば、ステージ上に載置されたマスクの周囲を取り囲むように支持機構を設け、この支持機構の上に基板カバーを配置する。支持機構にアース配線を取り付けることによって、基板カバーがアースに接続されるので、マスクの周縁部近傍で散乱した電子が基板カバーで捕捉され、マスク周縁部での帯電が防止される。
【0012】
しかし、マスク表面の高さ測定を描画時にリアルタイムで行おうとすると、基板カバーがあることによって測定できない領域が生じる。これは、高さ測定が、電子ビームの照射領域付近に照射された光の反射光を検出して行われることに起因している。すなわち、描画時においては、上記の通り、マスクの上に基板カバーが載置される。このため、基板カバー近傍でのマスク面の高さを測定しようとすると、高さ測定のためにマスクへ向けて照射された光が基板カバーによって遮られる。すると、マスク面からの反射光を検出できず、高さ測定を行うことができなくなる。
【0013】
また、高さ測定を行うことができても、次のような問題が生じることも考えられる。すなわち、描画における高さ測定データは、高さ測定部から電子ビーム描画装置の描画制御部へ送られた後、このデータに基づいて電子ビーム光学系の調整が行われる。しかしながら、例えば、高さ測定部から制御部への通信時に通信エラーが生じると、高さ測定データが制御部へ送信されない。このため、高さ測定を行うことができない場合と同様に、データが取得できない結果となる。
【0014】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、試料の表面形状を正確に測定して高い精度で描画することのできる荷電粒子ビーム描画装置を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様は、荷電粒子ビームによって、ステージ上に載置される試料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、
試料に光を照射し、試料からの反射光を受光することにより、試料の高さ測定を行う高さ測定部と、
描画前に高さ測定部で測定した値に基づく高さデータマップから得られる高さデータと、描画時に高さ測定部で測定した高さデータのいずれか一方のデータを受けて、試料上での荷電粒子ビームの照射位置を調整する制御部とを有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明の第1の態様において、制御部は、反射光の光量が閾値以上であれば、描画時に高さ測定部で測定した高さデータを受け、反射光の光量が閾値より小さければ、高さデータマップから得られる高さデータを受けることが好ましい。
【0018】
また、本発明の第1の態様において、制御部は、予め定められた所定の領域内の座標については、高さデータマップから得られる高さデータを受けることが好ましい。
【0019】
また、本発明の第1の態様において、制御部は、描画時に高さ測定部において測定した高さデータと前回測定した高さデータとの差が閾値以下であれば、描画時に高さ測定部で測定した高さデータを受け、この差が閾値より大きければ、高さデータマップから得られる高さデータを受けることが好ましい。
ここで、描画時に高さ測定部で測定した高さデータをHr
(n+1)(n:整数)とすれば、前回測定した高さデータはHr
nとすることができる。
【0020】
本発明の第2の態様は、荷電粒子ビームによって、ステージ上に載置される試料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、
試料に光を照射し、試料からの反射光を受光することにより、試料の高さ測定を行う高さ測定部と、
描画前に高さ測定部で測定した値に基づく高さデータマップから得られる高さデータと、描画時に高さ測定部で測定した高さデータとの差から得られるオフセット値を高さデータマップに加算した値を受けて、試料上での荷電粒子ビームの照射位置を調整する制御部とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、試料の表面形状を正確に測定して高い精度で描画することのできる荷電粒子ビーム描画装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本実施の形態における電子ビーム描画装置の構成図である。
【0024】
図1に示すように、電子ビーム描画装置の試料室1内には、試料であるマスク2が設置されるステージ3が設けられている。マスク2は、例えば、石英等のマスク基板上に、遮光膜としてのクロム(Cr)膜が形成され、さらにこの上にレジスト膜が形成されたものである。本実施の形態では、レジスト膜に対して電子ビームで描画を行う。
【0025】
ステージ3は、ステージ制御部50によりX方向(紙面における左右方向)とY方向(紙面における垂直方向)に駆動される。ステージ3の移動位置は、レーザ測長計等を用いた位置回路49により測定される。そして、ステージ制御部50は、位置回路49からのデータを基にステージ3を所望の位置に調整する。
【0026】
試料室1の上方には、ビーム照射手段としての電子ビーム光学系10が設置されている。この光学系10は、電子銃6、各種レンズ7、8、9、11、12、ブランキング用偏向器13、成形偏向器14、ビーム走査用の主偏向器15、ビーム走査用の副偏向器16、および、2個のビーム成形用のアパーチャ17、18等から構成されている。
【0027】
図2は、電子ビームによる描画方法の説明図である。この図に示すように、マスク2上に描画されるパターン51は、短冊状のフレーム領域(主偏向領域)52に分割されている。電子ビーム54による描画は、ステージ3が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、フレーム領域52毎に行われる。フレーム領域52は、さらに副偏向領域53に分割されており、電子ビーム54は、副偏向領域53内の必要な部分のみを描画する。尚、フレーム領域52は、主偏向器15の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、副偏向領域53は、副偏向器16の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0028】
副偏向領域53の基準位置の位置決めは、主偏向器15で行われ、副偏向領域53内での描画は、副偏向器16によって制御される。すなわち、主偏向器15によって、電子ビーム54が所定の副偏向領域53に位置決めされ、副偏向器16によって、副偏向領域53内での描画位置が決められる。さらに、成形偏向器14とビーム成形用のアパーチャ17、18によって、電子ビーム54の形状と寸法が決められる。
【0029】
次いで、ステージ3を一方向に連続移動させながら、副偏向領域53内を描画し、1つの副偏向領域53の描画が終了したら、次の副偏向領域53を描画する。フレーム領域52内の全ての副偏向領域53の描画が終了したら、ステージ3を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、フレーム領域52を順次描画して行く。
【0030】
副偏向領域53は、副偏向器16によって、フレーム領域52よりも高速に電子ビーム54が走査されて描画される領域であり、一般に最小描画単位となる。副偏向領域53内を描画する際には、パターン図形に応じて準備された寸法と形状のショットが成形偏向器14により形成される。具体的には、電子銃6から出射された電子ビーム54が、第1のアパーチャ17で矩形状に成形された後、成形偏向器14で第2のアパーチャ18に投影されて、そのビーム形状と寸法を変化させる。その後、電子ビーム54は、上述の通り、副偏向器16と主偏向器15により偏向されて、ステージ3上に載置されたマスク2に照射される。
【0031】
ところで、設計者(ユーザ)が作成したCADデータは、OASISなどの階層化されたフォーマットの設計中間データに変換される。設計中間データには、レイヤ(層)毎に作成されて各マスクに形成される設計パターンデータが格納される。ここで、一般に、電子ビーム描画装置は、OASISデータを直接読み込めるようには構成されていない。すなわち、電子ビーム描画装置の製造メーカー毎に、独自のフォーマットデータが用いられている。このため、OASISデータは、レイヤ毎に各電子ビーム描画装置に固有のフォーマットデータに変換されてから装置に入力される。
【0032】
図1で、符号20は入力部であり、記憶媒体である磁気ディスクを通じて電子ビーム描画装置にフォーマットデータが入力される部分である。設計パターンに含まれる図形は、長方形や三角形を基本図形としたものであるので、入力部20には、例えば、図形の基準位置における座標(x,y)、辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報であって、各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納される。
【0033】
さらに、数十μm程度の範囲に存在する図形の集合を一般にクラスタまたはセルと称するが、これを用いてデータを階層化することが行われている。クラスタまたはセルには、各種図形を単独で配置したり、ある間隔で繰り返し配置したりする場合の配置座標や繰り返し記述も定義される。クラスタまたはセルデータは、さらにフレームまたはストライプと称される、幅が数百μmであって、長さがフォトマスクのX方向またはY方向の全長に対応する100mm程度の短冊状領域に配置される。
【0034】
図形パターンの分割処理は、電子ビームのサイズにより規定される最大ショットサイズ単位で行われ、併せて、分割された各ショットの座標位置、サイズおよび照射時間が設定される。そして、描画する図形パターンの形状や大きさに応じてショットが成形されるように、描画データが作成される。描画データは、短冊状のフレーム領域(主偏向領域)単位で区切られ、さらにその中は副偏向領域に分割されている。つまり、チップ全体の描画データは、主偏向領域のサイズにしたがった複数の帯状のフレームデータと、フレーム内で主偏向領域よりも小さい複数の副偏向領域単位とからなるデータ階層構造になっている。
【0035】
制御計算機19によって入力部20から読み出された描画データは、
図2のフレーム領域52毎に、パターンメモリ21に一時的に格納される。パターンメモリ21に格納されたフレーム領域52毎のパターンデータ、すなわち、描画位置や描画図形データ等で構成されるフレーム情報は、描画データ補正部31に送られる。
【0036】
描画データ補正部31では、元々の設計値のデータに対し、所定の時間間隔でドリフト補正が行われる。具体的には、測定されたドリフト量に基づいて、ドリフト補正用の補正値が演算され、設計値のデータと補正値のデータとが加算されて合成される。次に、得られた補正値に対して、ステージ3上での位置補正が行われる。すなわち、位置回路49で測定されたステージ3の位置データは、制御計算機19に送られ、その後、描画データ補正部31に送られて、ドリフト補正がされた設計値のデータに加算される。合成されたデータは、パターンデータデコーダ22と描画データデコーダ23に送られる。
【0037】
また、描画データ補正部31では、近接効果、かぶり効果、ローディング効果といったパターンの寸法変化を引き起こす要因に対して、描画後のパターン寸法が設計データの寸法と同一になるようにビーム照射量を変化させる補正処理も行われる。
【0038】
近接効果は、レジスト膜に照射された電子がガラス基板の内部で反射してレジスト膜を再照射する現象である。また、かぶり効果は、レジスト膜に照射された電子がその表面で反射し、さらに電子ビーム描画装置の光学部品に反射した後、レジスト膜を広範囲に渡って再照射してしまう現象である。この現象は、レジスト膜に電子が照射されて発生した二次電子によっても引き起こされる。さらに、ローディング効果は、レジストパターンをマスクとして下層の遮光膜等をエッチングする際に、面内でのレジスト膜や遮光膜の面積の違いが原因となって起こる寸法変化である。近接効果の影響半径σが十数μm程度であるのに対して、かぶり効果の影響半径σ
Fは十mm程度、さらに、ローディング効果の影響半径σ
Lは十mm〜数十mmにも及ぶ。
【0039】
描画領域の各位置における電子ビームの補正照射量の算出には、例えば、特許文献3(特開2007−150243号公報)に記載の方法が参照できる。この方法では、まず、描画領域が第1の寸法でメッシュ状に分割された各第1のメッシュ領域におけるかぶり効果補正照射量を計算する。また、描画領域が第2の寸法でメッシュ状に分割された各第2のメッシュ領域におけるローディング効果補正寸法値も計算する。そして、この補正寸法値に基づいて、各第2のメッシュ領域における電子ビームの基準照射量マップと近接効果補正係数マップを作成する。次いで、これらのマップを用いて、描画領域が第1と第2の寸法よりも小さい第3の寸法でメッシュ状に分割された各第3のメッシュ領域における近接効果補正照射量を計算する。そして、かぶり効果補正照射量と近接効果補正照射量とに基づいて、描画領域の各位置における電子ビームの補正照射量を計算する。
【0040】
本実施の形態では、例えば、マスク2上の所定位置におけるパターンの測定寸法と設計寸法の差から寸法補正量を求め、
図1の描画データ補正部31において、この寸法補正量を表した寸法補正マップが作成される。尚、電子ビーム描画装置の外部で寸法補正マップを作成し、作成したマップを入力部20に入力し、制御計算機19で読み出してもよい。次いで、描画データ補正部31で、寸法補正マップに対応した補正照射量が求められ、さらに、この補正照射量からマスク2の所定位置における電子ビームの照射量が求められる。ここで、補正照射量は、近接効果補正照射量、かぶり補正照射量およびローディング効果補正照射量の少なくとも1つとすることができる。得られた補正照射量は、パターンデータデコーダ22と描画データデコーダ23に送られる。
【0041】
パターンデータデコーダ22からの情報は、ブランキング回路24とビーム成型器ドライバ25に送られる。具体的には、パターンデータデコーダ22で上記データに基づいたブランキングデータが作成され、ブランキング回路24に送られる。また、所望とするビーム寸法データも作成されて、ビーム成型器ドライバ25に送られる。そして、ビーム成型器ドライバ25から、電子光学系10の成形偏向器14に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム54の寸法が制御される。
【0042】
また、パターンデータデコーダ22からの情報は、副偏向領域偏向量算出部28に送られる。副偏向領域偏向量算出部28は、パターンデータデコーダ22で作成したビーム形状データから、副偏向領域53における、1ショットごとの電子ビームの偏向量(移動距離)を算出する。算出された情報は、セトリング時間決定部29に送られ、副偏向による移動距離に対応したセトリング時間が決定される。
【0043】
セトリング時間決定部29で決定されたセトリング時間は、偏向制御部30へ送られた後、パターンの描画のタイミングを計りながら、偏向制御部30より、ブランキング回路24、ビーム成形器ドライバ25、主偏向器ドライバ26、副偏向器ドライバ27のいずれかに適宜送られる。
【0044】
一方、描画データデコーダ23の出力は、主偏向器ドライバ26と副偏向器ドライバ27に送られる。そして、主偏向器ドライバ26から主偏向器15に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム54が所定の主偏向位置に偏向走査される。また、副偏向器ドライバ27から副偏向器16に所定の副偏向信号が印加されて、副偏向領域53内での描画が行われる。
【0045】
図1において、マスク2をステージ3に載置すると、マスク2には自重による撓みが生じる。また、マスク2をステージ3で下面支持する場合には、マスク固有の厚さおよび平行度もマスク2の表面高さに影響する。このため、マスク2の表面形状、厚さ、平行度および撓みの合成による高さ変化によって、電子ビーム54の照射位置がずれたり、焦点がぼけたりして、マスク2上に所望のパターンを形成することができなくなる。そこで、マスク2の表面の高さを正確に測定する必要がある。
【0046】
本実施の形態では、まず、描画前にマスク2の高さ測定を行い、マスク2の高さデータマップHmを作成する。
【0047】
ステージ3上に載置されたマスク2の高さは、高さ測定部40で測定される。高さ測定部40は、光源41と、光源41から照射される光Liをマスク2上で収束させる投光レンズ42と、マスク2上で反射した光Lrを受けて収束させる受光レンズ43と、受光レンズ43によって収束された光Lrを受光して光の位置を検出する受光素子44とを有する。
【0048】
受光素子44で光の位置が検出されると、信号処理部60を経て、高さデータ処理部70で高さデータが作成される。すなわち、高さデータ処理部70は、受光素子44からの出力信号を受けて、受光素子44で検出した光の位置に応じたマスク2の表面の高さデータに変換する。本実施の形態では、この高さデータを用いてフィッティングを行い、高さデータマップHmを作成する。尚、高さ測定部40で測定された高さデータは、具体的には、次のように処理される。
【0049】
高さ測定部40では、受光素子44から2つの信号(I
1、I
2)が出力される。これらの信号は、信号処理部60を経て、高さデータ処理部70に送られる。高さデータ処理部70では、受光素子44からの信号がI/V変換アンプで電流値から電圧値に変換される。次いで、各信号V
1、V
2が、非反転増幅アンプによって適切な電圧レベルに増幅された後、A/D変換部でデジタルデータに変換される。そして、このデータを用い、以下に述べるようにして、マスク2表面の高さデータが作成される。
【0050】
具体的には、高さデータ処理部70において、測定値(V
1、V
2)から(V
1−V
2)/(V
1+V
2)の値が計算される(正規化処理)。この値は所定時間間隔(例えば、20ミリ秒以下)で更新され、得られた値を時間平均して(平均化処理)、マスク2の表面の高さデータZ
1を得る。尚、平均化処理は、サンプリングデータの最大値と最小値を除いた値に対して行うことができる。
【0051】
次に、高さデータ処理部70では、高さデータZ
1に対して、上記と同様の平均化処理が行われた後に直線化補正処理が行われる。
【0052】
上記の直線化補正処理は、マスク2表面の高さ変化の直線性を校正する処理である。具体的には、受光素子44で得られた正規化データに特定の分解能(um/bit)を乗ずれば正確にマスク面の変化を出力するような固有の補正係数を用いて、多項式演算処理を行う。多項式演算の補正係数の算出は、高さの基準となる原器を設置して、その高さを計測した結果を基に、原器の寸法に一致するような固有の多項式近似係数を最小二乗法より求めることで行う。ここで、原器とは、階段状の形状で複数の段差を持ち、段差の寸法が予め精度良く計測してある試料である。電子ビーム描画装置では、マスク2の表面の高さを電子ビーム描画装置の高さ基準面との相対高さとして計測する必要がある。よって、高さ基準面の高さデータとマスク2の表面の高さデータの差をとり、マスク2の表面の高さデータZ
2を得る。
【0053】
以上のようにして得られた高さデータZ
2に基づいて、電子ビーム光学系10の調整が行われる。具体的には、高さデータ処理部70で得られた高さデータZ
2は、偏向制御部30へ送られる。また、パターンデータメモリ21に格納されたパターンデータも、上記で述べたようにして偏向制御部30へ送られる。
【0054】
次に、マスク2に電子ビーム54を照射して所定のパターンを描画する。この描画工程は、次のようにして行われる。
【0055】
まず、試料室1内のステージ3上にマスク2を載置する。次いで、ステージ3の位置検出を位置回路49により行い、制御計算機19からの信号に基づいて、ステージ制御部50によりステージ3を描画可能な位置まで移動させる。
【0056】
次に、電子銃6より電子ビーム54を出射する。出射された電子ビーム54は、照明レンズ7により集光される。そして、ブランキング用偏向器13により、電子ビーム54をマスク2に照射するか否かの操作を行う。
【0057】
第1のアパーチャ17に入射した電子ビーム54は、第1のアパーチャ17の開口部を通過した後、ビーム成形器ドライバ25により制御された成形偏向器14によって偏向される。そして、第2のアパーチャ18に設けられた開口部を通過することにより、所望の形状と寸法を有するビーム形状になる。このビーム形状は、マスク2に照射される電子ビーム54の描画単位である。
【0058】
電子ビーム54は、ビーム形状に成形された後、縮小レンズ11によって縮小される。そして、マスク2上における電子ビーム54の照射位置は、主偏向器ドライバ26によって制御された主偏向器15と、副偏向器ドライバ27によって制御された副偏向器16とにより制御される。主偏向器15は、(
図2に示す)マスク2上の副偏向領域53に電子ビーム54を位置決めする。また、副偏向器16は、副偏向領域53内で描画位置を位置決めする。
【0059】
マスク2への電子ビーム54による描画は、ステージ3を一方向に移動させながら、電子ビーム54を走査することにより行われる。具体的には、ステージ3を一方向に移動させながら、各副偏向領域53内におけるパターンの描画を行う。そして、1つのフレーム領域52内にある全ての副偏向領域53の描画を終えた後は、ステージ3を新たなフレーム領域52に移動して同様に描画する。
【0060】
本実施の形態においては、描画と同時にリアルタイムでマスク2の表面の高さ測定を行う。このときの高さ測定方法は、上述した描画前の高さ測定方法と同様である。すなわち、高さ測定部40において、光源41から照射される光Liをマスク2上で投光レンズ42によって収束させた後、マスク2上で反射した光Lrを受光レンズ43を介して受光素子44に入射させる。受光素子44は、光Lrを受光して光の位置を検出する。
【0061】
受光素子44で光の位置が検出されると、信号処理部60を経て、高さデータ処理部70で高さデータHrが作成される。ここで、本実施の形態においては、マスク2の表面で反射した光Lrの光量を測定し、この光量が閾値以上であるか否かを高さデータ処理部70で判断する。光Lrの光量が閾値以上であれば、高さデータHrを偏向制御部30へ送る。一方、光Lrの光量が閾値より小さい場合には、基板カバー(図示せず)によって光Liが遮られるなどして正確な高さ測定ができなかったと判断し、描画前に取得した高さデータマップHmから、対応する座標の高さデータを偏向制御部30へ送る。偏向制御部30は、高さデータ処理部70から送られた高さデータに基づいて、電子ビーム光学系10の調整を行う。
【0062】
図3は、以上の工程を示すフローチャートである。
【0063】
尚、基板カバーによって光Liが遮られる領域は事前に特定可能であるので、この領域内の座標については、高さデータHrでなく、高さデータマップHmから取得される高さデータを偏向制御部30へ送るようにしてもよい。
【0064】
本実施の形態によれば、描画を行いながらマスク2の表面の高さを測定し、得られた高さデータHrに基づいて電子ビーム54の焦点を合わせるので、正確な焦点合わせと位置補正が行える。また、高さ測定の際に、マスク2の表面で反射した光Lrの光量が閾値以上であるか否かを判断し、光量が閾値より小さい場合には、高さデータHrに代え、描画前に取得した高さデータマップHmを用いて電子ビーム54の焦点を合わせる。この方法によれば、描画時の高さ測定で、光Lrの光量不足により正確な高さデータHrを取得できない場合であっても、データの抜けを防ぐことができる。
【0065】
また、本実施の形態においては、
図4のフローチャートに示す工程によって、描画を行うこともできる。
【0066】
上記例と同様に、描画前にマスク2の表面の高さ測定を行い、高さデータマップHmを取得する。次いで、描画と同時にリアルタイムでマスク2の表面の高さ測定を行う。高さ測定部40で測定されたデータは、信号処理部60を経て、高さデータ処理部70に送られる。その後、高さデータ処理部70で高さデータHrが作成される。
【0067】
図4の例では、高さデータ処理部70において、n(n:整数)回目に取得した高さデータHr
nと、(n+1)回目に取得した高さデータHr
(n+1)との差が求められる。したがって、少なくともこのときまで、n回目に取得した高さデータHr
nは、高さデータ処理部70に保存される。
【0068】
上記で求めた差を閾値と比較し、差が閾値以下であれば、高さデータHr
(n+1)を偏向制御部30へ送る。一方、上記の差が閾値より大きい場合には、電子ビーム描画装置内での通信不良などによって、n回目と(n+1)回目との間に、高さデータ処理部70で取得できなかった高さデータがあると判断する。そして、描画前に取得した高さデータマップHmから、n回目の座標と、(n+1)回目の座標との間の座標の高さデータを偏向制御部30へ送る。偏向制御部30は、高さデータ処理部70から送られた高さデータに基づいて、電子ビーム光学系10の調整を行う。
【0069】
図4の方法によっても、描画を行いながらマスク2の表面の高さを測定し、得られた高さデータHrに基づいて電子ビーム54の焦点を合わせるので、正確な焦点合わせと位置補正が行える。また、高さ測定の際に、n回目に取得した高さデータHr
nと、(n+1)回目に取得した高さデータHr
(n+1)との差が閾値以下であるか否かを判断し、閾値より大きい場合には、高さデータHrに代え、描画前に取得した高さデータマップHmを用いて電子ビーム54の焦点を合わせる。この方法によれば、描画時の高さ測定で、通信不良などにより高さデータHrを取得できない場合であっても、データの抜けを防ぐことができる。
【0070】
さらに、本実施の形態においては、
図5のフローチャートに示す工程によって、描画を行うこともできる。
【0071】
上記例と同様に、描画前にマスク2の表面の高さ測定を行い、高さデータマップHmを取得する。次いで、描画と同時にリアルタイムでマスク2の表面の高さ測定を行う。高さ測定部40で測定されたデータは、信号処理部60を経て、高さデータ処理部70に送られる。その後、高さデータ処理部70で高さデータHrが作成される。
【0072】
図5の例では、高さデータ処理部70でオフセット値を求め、高さデータマップHmから得られる高さデータにオフセット値を加算した値を偏向制御部30へ送信する。
【0073】
オフセット値は、高さデータHrと、高さデータマップHmから得られる、この高さデータHrに対応する座標の高さデータとの差である。ここで、高さデータマップHmは、測定値である高さデータと、測定値から補間により求めた高さデータとを含む。オフセット値は、マスク2の表面で反射した光Lrの光量が閾値以上である場合にのみ更新される。
【0074】
図5の方法では、描画を行いながらマスク2の表面の高さを測定し、得られた高さデータHrに基づいて、高さデータマップHmとのオフセット値を求める。そして、補正された高さデータマップHmの値を用いて電子ビーム54の焦点を合わせるので、正確な焦点合わせと位置補正が行える。
【0075】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0076】
例えば、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。