(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5662927
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】包装容器
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20150115BHJP
B65D 77/04 20060101ALI20150115BHJP
B65D 81/22 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
B65D77/04 A
B65D81/22
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-280976(P2011-280976)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-128457(P2013-128457A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2011年12月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西田 幸二
(72)【発明者】
【氏名】大家 義則
(72)【発明者】
【氏名】林 竜平
(72)【発明者】
【氏名】野崎 貴之
(72)【発明者】
【氏名】森 圭祐
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−119033(JP,A)
【文献】
実開平06−033499(JP,U)
【文献】
特開2007−319119(JP,A)
【文献】
特開2007−189976(JP,A)
【文献】
特表2011−519557(JP,A)
【文献】
特開2011−147460(JP,A)
【文献】
特開2010−046087(JP,A)
【文献】
特開2009−031300(JP,A)
【文献】
特開2006−030583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
B65D 67/00−79/02;81/18−81/30;81/38
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus(STN)
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を内部に有する試料容器を収容し底面で保持する包装容器本体部と、当該包装容器本体部を封止する包装容器蓋部とから成る包装容器であって、
前記包装容器蓋部は、前記包装容器本体部の底面方向に突き出した形状のへこみ部を有し、
当該へこみ部の高さは、前記包装容器本体部と前記包装容器蓋部とによる封止時に、前記へこみ部が、前記試料容器内に入り込む高さであり、
前記へこみ部には、前記包装容器本体部の底面方向に突き出した形状のへり部を有し、当該へり部は、前記包装容器本体部と前記包装容器蓋部とによる封止時に、前記試料容器の底面に接しない形状であり、
前記へり部に、空気逃がし孔が設けられていることを特徴とする包装容器。
【請求項2】
請求項1に記載の包装容器において、
前記試料容器底部と前記包装容器本体部底部が、前記包装容器蓋部の前記包装容器本体部への押し付け力により圧接していることを特徴とする包装容器。
【請求項3】
請求項1に記載の包装容器において、
前記包装容器本体部の外周側面にネジ部を有し、前記包装容器蓋部の内部側面にネジ受部を有することを特徴とする包装容器。
【請求項4】
請求項1に記載の包装容器において、
前記包装容器蓋部の、前記試料容器との当接部に、弾性部材を設けたことを特徴とする包装容器。
【請求項5】
請求項1に記載の包装容器において、
前記試料容器の側壁と、前記包装容器本体部の側壁部の高さが略同一であることを特徴とする包装容器。
【請求項6】
請求項1に記載の包装容器において、
前記試料容器本体部の底部に、前記試料容器を挟むガイドが設けられていることを特徴とする包装容器。
【請求項7】
請求項1に記載の包装容器において、
前記包装容器蓋部のへり部に複数の孔またはスリットを有することを特徴とする包装容器。
【請求項8】
請求項1に記載の包装容器において、
前記包装容器蓋部の前記へり部に突起を有することを特徴とする包装容器。
【請求項9】
請求項1に記載の包装容器において、
前記包装容器蓋部に設けたへこみ部の一部に気体透過性膜が形成されていることを特徴とする包装容器。
【請求項10】
請求項1に記載の包装容器において、
前記試料容器が、底部の膜を介して培地が移動可能な容器と当該容器を収容する容器とから成ることを特徴とする包装容器。
【請求項11】
請求項1に記載の包装容器において、
前記試料容器が、ウエルプレートであることを特徴とする包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料の輸送時に生じる、生体試料へのシアストレスを低減する包装容器に関する。例えば、細胞処理施設で製造した再生組織等を含む生体試料の輸送において、シアストレスによる生体試料への影響を低減する包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を原料として製造した再生組織等の生体試料を用い、臓器等の機能を回復させる再生医療は、従来治療法のなかった疾病に対する根治療法として期待されている。再生医療に用いる再生組織等の生体試料の製造工程は、医薬品等の製造管理および品質管理の基準である、適正製造基準(GMP;Good Manufacturing Practice)に基づく。製造は細胞処理施設(CPC;Cell Processing Center)で行い、GMPを満たした標準手順書(SOP;Standard Operational Procedure)に従う。GMPは、日本国内では、厚生労働省の定める法規が施行されている(例えば厚生省令第179号、薬発第480号)。日本国外では、欧米の機関(例えば米国食料医薬品庁、欧州委員会)を中心に関連法規が施行されている。
【0003】
CPCの運用には、多大なコストと専門の培養技術を有した人材を必要とする。よって、再生医療の実用化段階では、生産拠点となる少数のCPCで再生組織を製造し、当該製造された生体試料を各地の医療機関、研究機関へ輸送し、患者への治療あるいは研究に用いると考えられる。
生体試料を生体へ適用するに当たり、例えば治療を行う場合には、輸送後の生体試料が、代謝機能や細胞生存率といった指標に対し、良好な状態を維持している必要がある。CPCで製造した生体試料は、栄養分を供給したり、排出物が排出されたりする培地に浸されている。輸送中に試料容器が傾いたり振動を受けたりすると、培地内には攪拌流が生じる。よって、生体試料に対し、培地の攪拌流を原因とするシアストレス(せん断応力)が生じる。これにより、生体試料は影響を受け、代謝機能や細胞生存率が低下する危険性がある。治療を行う際に、生体試料が良好な状態であるためには、輸送中に生じるシアストレスを抑制する必要がある。
上記背景に対する従来技術として、再生組織等の生体試料の輸送・包装技術に関し、報告が幾つかある。
【0004】
特許文献1には、培養容器の蓋部に、培養容器の内側へ突出した透孔部を設け、光学顕微鏡による観察時に、対物レンズが観察対象となる生体試料に接近することを可能とする技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、培養骨を輸送する2重構造の容器に関し、内側容器に培養骨を入れ、培養骨同士が相対的な位置を変化させないようにすることで培養骨への損傷を防ぎ、外側容器には培地を満たし、内側容器と外側容器を隔てる透過膜を介して輸送中に栄養分を供給する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−30583号公報
【特許文献2】特開2007−135503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法では、培養容器の内側へ突出した透孔部により、培養容器内に存在する空気量は減る。そのため、この培養容器を用いて生体試料を輸送した場合、培地が移動可能な空間は小さくなり、培地内に生じる撹拌流の発生は抑制される。結果として、生体試料に生じるシアストレスは低減する。しかし、培養容器の蓋部に設けられた透孔部と、蓋部の間には、依然として空気層が存在する。そのため、その部分へ培地が移動することにより撹拌流が生じ、結果として生体試料へのシアストレスが発生することになる。加えて、この培養容器は顕微鏡による観察を目的とする。そのため、輸送した場合、培養容器が傾くことにより、培養容器の本体部と蓋部の隙間から培地が漏出し、生体試料に対して生物学的汚染が発生する危険を有する。
【0008】
特許文献2に記載の方法では、培養骨同士の相対的な位置は変化しないので、培養骨同士の接触または衝突による損傷は生じない。しかし、容器内で培地は自由に移動することが可能であり、培養骨と培地の相対的な位置は変化するため、結果として培地内に撹拌流が生じ、培養骨に対してシアストレスが発生する。
【0009】
よって、本発明は、輸送中の生体試料へのシアストレスを抑制する包装容器の提供を、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の構成を有する。
【0011】
本発明の包装容器は、生体試料を内部に有する試料容器を収容し底面で保持する包装容器本体部と、当該包装容器本体部を封止する包装容器蓋部から成る。前記包装容器蓋部は、前記包装容器本体部の底面方向に突き出した形状のへこみ部を有する。当該へこみ部の高さは、前記包装容器本体部と前記包装容器蓋部の封止時に、前記へこみ部が、前記試料容器の側壁の上部を越えて前記試料容器内に入り込む高さである。これにより、封止時に、へこみ部の底面と培地とが接して空気層を形成することなく、へこみ部の底面以外の包装容器蓋部の底面と試料容器との間に空気層を形成する。更に、へこみ部には、前記包装容器本体部の底面方向に突き出した形状のへり部を有する。へり部は、前記包装容器本体部と前記包装容器蓋部の封止時に、試料容器の底面に接しない形状である。
更に、へり部に、空気逃がし孔が設けられている。これらにより、輸送中の培地が移動可能な空間は減少し、輸送中の振動等で培地内に生じる攪拌流の発生が低減し、結果として、生体試料に生じるシアストレスが抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る包装容器によれば、輸送中の生体試料へのシアストレスを抑制し、輸送後において、生体試料の状態を良好なまま維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例を示すもので、包装容器へ試料容器を収容した構成を示す図。
【
図2】本発明の一実施例を示すもので、包装容器へ試料容器を収容した構成の鉛直方向および水平方向の断面を示す図。
【
図3】本発明の他の一実施例を示すもので、包装容器蓋部のへり部に孔を設けた構成を示す図。
【
図4】本発明の他の一実施例を示すもので、包装容器蓋部のへり部に突起を設けた構成を示す図。
【
図5】本発明の他の一実施例を示すもので、包装容器の一部を気体透過性膜とした構成を示す図。
【
図6】本発明の他の一実施例を示すもので、種々の形状の試料容器を、包装容器へ収容した構成を示す図。
【
図7】本発明の包装容器に包装した試料容器を輸送する細胞輸送容器の構成を示す図。
【
図8】本発明の包装容器をCPCより持出す一例を説明する図。
【
図9】本発明の包装容器を医療機関等に運び入れる一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
図1および
図2を用いて包装容器100の基本的な構成要素を説明する。再生組織等の生体試料120の入った試料容器104は、包装容器本体部103および包装容器蓋部101により包装される。
【0016】
包装容器本体部103および包装容器蓋部101の素材は、滅菌処理による無菌化が可能である必要がある。例えば、包装容器の素材がポリスチレンを素材とする場合、使用前にγ線照射またはエチレンオキシダイドガス処理による滅菌操作を施し、無菌化が可能である。
上記ではポリスチレンを例としたが、生体試料にとって有害とならない素材で滅菌が可能であれば、適用可能であることは云うまでもない。
【0017】
図1(A)は、包装容器蓋部101を示している。包装容器蓋部101は、試料容器104内の培地の漏出を防ぐためにシリコーン、ゴム等の弾性部材102を有する構成とすることも可能である。
弾性部材102は、γ線照射、エチレンオキシダイドガス処理等による滅菌処理が可能で、有害物質等を発することのない、医療用途の品質のものが好ましい。当該弾性部材102は、包装容器素材よりも軟質のものが好ましく、後述する試料容器104を包装容器本体部103に圧着させる際、適度な押圧力で試料容器104を包装容器本体部の底面に押しつけることが可能となる。また、包装容器蓋部101の内部側面には、包装容器本体部103を封止するためのネジ受部110を有している。尚、封止する他の方法として、勘合、ピン止め、バネ材等により、複数箇所を固定することにより保持できることは言うまでもない。
【0018】
試料容器蓋部101は、へこみ部112を有する。へこみ部112は、試料容器104側へ突出している。へこみ部112の高さは、試料容器104を包装容器本体部103と包装容器蓋部101により封止した時に、へこみ部112が、試料容器104の側壁の上部を越えて試料容器内に入り込む高さである。また、へこみ部112は、包装容器本体部103および包装容器蓋部101を一体化した時、試料容器104に対して立体障害を生じることがないよう、試料容器104の内径よりも小さい構造である。例として、へこみ部112は、板状の平面構造である。
【0019】
試料容器を包装容器本体部103および包装容器蓋部101により封止する時、試料容器104の培地にへこみ部112は接する。この時、へこみ部112の内側の空気は、空気逃がし孔115より外側へ移動することが可能なため、試料容器104の培地にへこみ部112は接することが可能となる。これにより、試料容器内において、輸送中に試料容器に対して生じる振動、衝撃、傾きにより、培地が移動可能な空間は、小さくなる。よって、輸送中に培地内で発生する攪拌流は減少する。また、へこみ部は、凸状のへり部113を有する。へり部113は、試料容器104側へ突出している。
【0020】
へり部113は、
図1(E)に示すように、試料容器104を包装容器本体部103および包装容器蓋部101により封止する時、培地105の中に沈設される。へり部は、沈設時に、試料容器の底面または生体試料に接することはない。これにより、輸送中に培地の中で生じる攪拌流は、抑制される。
【0021】
図1(B)は、包装容器本体部103を示している。当該包装容器本体部103の底面に試料容器104を保持する。試料容器本体部には、試料容器を設置する場所が一義的に定まるよう、試料容器が挟まるガイド114が設けられている。また、包装容器本体部103の外周側面には、包装容器蓋部101のネジ受部110と接合可能なネジ部111を有している。当該ネジ部111とネジ受部110とが接合することで、包装容器を封止することが可能となる。ネジ部により、試料容器の封止時、包装容器の外部に菌等が付着しても、包装容器内部への菌等の侵入を防ぐことが可能となる。よって、試料容器内の生体試料に対し、生物学的汚染の発生を回避することができる。
また、本例では、ネジ部111を設けることで封止する例を示すが、これに限らず、フック材等を用いて両者を封止しても良いし、包装容器本体部側面または蓋部内部側面にゴム等の弾性部材を装着して、蓋部材を封止する構成としても良いことは云うまでもない。
【0022】
図1(C)は、生体試料が導入、収納される試料容器104を示している。試料容器104の中には、培地105が入っている。培地の中には生体試料120が入っている。培地の種類は多々あるが、栄養分を供給するものの例として、例えば表皮細胞、角膜上皮細胞の場合は、KCM培地、皮膚線維芽細胞の場合は10%血清含有培地がある。また、栄養分を供給しないものの例として、細胞内部と浸透圧が同じであるPBS培地、生理食塩水、臓器移植に用いる灌流液、UW液等がある。
【0023】
培養中の環境に関し、試料容器を用いて生体試料を培養する場合、一般的に、蓋も併せて使用する。蓋には、試料容器の外側から酸素等の気体が内部へ入り込めるよう、隙間が設けられている。そのため、この試料容器を輸送に用いると、試料容器の傾いた時に培地が漏出する。これは生物学的汚染の原因となる。そのため、本方法では、試料容器の蓋を包装容器蓋部101に変える。すなわち、包装容器本体部103と、包装容器本体部103の底面において保持される試料容器104とを、包装容器蓋部101で封止することで、輸送中の培地の漏出を防止する。
【0024】
包装容器本体部103と試料容器104とを封止するためには、試料容器104の側壁と包装容器本体部103の側壁部の高さを同一とすることが望ましい。これにより包装容器蓋部101のネジ受部110の締め付け力のみで両者を封止することが可能となる。また、前述したように、蓋部101に弾性部材102を装着しておくことで、漏出の可能性をさらに低減することが可能となる。
またさらに、試料容器104の側壁の高さを同一としなくとも僅かに高い場合には、弾性部材102の弾性力により、高さの違いを吸収することが可能となる。たとえ試料容器104の側壁が包装容器本体部103より低くとも、蓋部101の当該側壁に対応する位置に凸部を設け、弾性部材102の形状をそれに合わせた形状にしておけば、同様の効果を得られることは云うまでもない。
【0025】
図1(D)は、包装容器本体部103へ、試料容器本体部104を収容した状態を示している。試料容器104の位置は、ガイド114により、一義的に決定される。
図1(E)は、
図1(D)の状態からさらに、包装容器蓋部101を取り付け、包装容器本体部103と一体化した状態を示している。これらは、ネジ構造により一体化が可能である。この時、包装容器蓋部101の締め付け力により試料容器104へ、弾性部材102が圧着されている。これにより、試料容器104を傾けても、内部の培地105は外部に漏出しない。また、包装容器蓋部に設けられたへこみ部により、培地が移動可能な空間は、へこみ部がない場合に比べ、小さくなる。よって、輸送時において包装容器に振動を加えても、培地内に生じる攪拌流は抑制される。さらに、へこみ部に設けたへり部により、培地内の攪拌流はさらに抑制される。
【0026】
図2は、
図1(E)で示した、試料容器104を、包装容器本体部103および包装容器蓋部101で封止した状態について、鉛直方向および水平方向の断面図を示している。本例では、試料容器として一般に用いられる円柱状のものを示している。そのため、包装容器およびそれに関する部分は、全て同心円状となっている。例えば、へこみ部112、へり部113は、包装容器との一体化に際して立体障害を生じることがない限り、方形状等であっても構わない。
【0027】
図3は他の実施例を示す。この実施例は、へり部113に複数の孔301を設けたものである。複数の孔301により、へり部113の内側と外側で、培地に含まれる栄養分や排出物の拡散が、維持される。よって、生体試料120に対し、栄養分の供給と、生体試料が排出した乳酸による培地の酸性化の回避が可能となる。孔301の大きさ、数、位置は、様々な値を取ることが可能である。しかし、孔301が過剰に大きいまたは多いと、へり部113による培地内の撹拌流の発生抑制効果が小さくなる。
図3の例は、へり部に複数の孔を設けたものであるが、孔に代えて複数のスリットを設けてもよい。
【0028】
図4は、他の実施例を示す。この実施例は、へり部113に突起401を設けたものである。突起401は、試料容器104を包装容器に封止した時に、試料容器104および生体試料120に対して立体障害を生じない必要がある。それを満たす限り、突起の長さ、本数、位置は問わない。突起401を設けることにより、培地の移動が押さえられ、培地内に生じる撹拌流はさらに抑制される。結果として、生体試料に生じるシアストレスもさらに減少する。
【0029】
図5は、他の実施例を示す。この実施例は、包装容器蓋部の一部を気体透過性膜501にしたものである。気体透過性膜501は、例えばポリカーボネイトの薄い膜からなる。気体透過性膜501により、輸送中も酸素等の気体を包装容器の外部から内部へ取り込むことが可能となる。生体試料は様々な細胞により構成されるが、例えば心筋細胞は酸素要求性が大きい。このような細胞を輸送する場合、気体透過膜501より、包装容器の外部から酸素を供給することで、輸送後の生体試料の状態は良好となる。また、外部より二酸化炭素を供給し、培地のpHを制御することも可能である。このように気体透過膜501を包装容器蓋部101に採用することで、酸素要求性の高い細胞等の生体試料に対して、良好な状態を維持したまま輸送する包装容器の提供が可能となる。
【0030】
図6は、他の種類の試料容器を包装した場合の例である。
図6(A)は、インサート型試料容器601を包装する例である。インサート型試料容器を用いて細胞を培養する場合、一般的には、6ウェルプレート等の中にインサート型試料容器を入れて二層培養を行う。インサート型試料容器の輸送では、これを収容するインサート型試料容器用容器602を用意し、インサート型試料容器601のみを包装容器100内へ収容する。インサート型試料容器601では、底部の薄い膜を介して培地が移動可能であり、インサート型試料容器用容器602内の培地に含まれる栄養分や生体試料からの排出物の拡散を行うことができる。包装容器蓋部の取り付けは、包装容器蓋部101のネジ受部110の締め付け力により、両者を封止する。他の方法として、ネジ、勘合、ピン止め、バネ材等により、複数箇所の固定による保持も可能である。
図6(A)には、インサート型試料容器601を1個収容した図を示しているが、複数個収容できるようにしても良い。
【0031】
図6(B)は、6ウェルプレート603を包装する例である。円柱状の試料容器やインサート型試料容器用容器は、水平方向の断面が円形であるため、包装容器蓋部の回転により包装容器本体部との一体化が可能である。一方、6ウェルプレートは直方体形状である。よって、本図では、ネジ604を用いて、包装容器の4隅を固定し、一体化させるものを示している。他の方法として、勘合、ピン止め、バネ材等により、複数箇所を固定することにより保持できることは言うまでもない。
【0032】
図7は、前述のように包装容器内に収容した試料容器に対し、蓄熱材により内部を温度一定に維持可能な細胞輸送容器を用い、輸送を実施する場合の構成例を示したものである。細胞輸送容器は、内部の構成部品を収容する容器本体701と容器蓋702の内側に、断熱材703を配置する。その内側に、蓄熱材が封入された蓄熱材ボックス704を配置する。蓄熱材は、一定の融点を有する純物質、あるいは、熱容量が大きく融点の温度変化が小さい(例えば±1℃以下)物質とすることが好ましい。これにより、輸送中の内部温度の変化幅を小さくすることが可能となり、生体試料への温度の影響は小さくなる。
【0033】
蓄熱材の例として、純物質である炭化水素が挙げられる。例えば化学式がC
20H
42である炭化水素の融点は、36.4℃である。Cの数が異なる炭化水素は、融点も異なる。よって、炭化水素の種類の選択により、細胞輸送容器が一定に維持する温度の値を変えることが可能である。
【0034】
細胞輸送容器において、蓄熱材ボックス704に挟まれた場所に、試料容器収容部705の中に配置された、包装容器に収容されている試料容器706と、輸送中の温度、圧力、振動等を評価するモニタリング装置707を配置する。これにより、輸送中の環境を、輸送後に確認することが可能となる。
【0035】
ここで
図8、9を用い、本実施例に示す包装容器をCPC等の細胞処理施設から医療機関等に運ぶ様子を模式的に示す。
図8は、細胞処理施設から試料容器を運び出す時の過程を、
図9は、輸送後、医療機関へ試料容器を運び込む時の過程について示している。
【0036】
図8に示すように、細胞は、CPC等の細胞処理施設内の培養エリアで培養する。この部屋の清浄度は、グレードAに次いで高い、グレードBと一般に設定される。培養時の試料容器104は恒温槽に入っており、必要に応じて取り出し、安全キャビネット内にて培地交換等の作業を実施する。安全キャビネット内の清浄度は、グレードAと一般に設定される。培養が終わり、医療機関へ出荷することになったサンプルは、安全キャビネット内で包装容器100により包装する。包装容器は事前に滅菌処理を施し無菌状態である。これにより、包装し終えた時点で、試料容器内および包装容器の内外は、グレードAと同等の清浄性を有する。
この状態で、細胞処理施設の外へ、包装した試料容器104を運び出す。この時、必要に応じ、温度を一定に維持する輸送容器へ収容する。培養エリアから細胞処理施設の外へ運び出すにつれ、輸送環境中の清浄性は低下する。よって、最終的に、一番外側に位置する包装容器100の外部には菌等の生物や粒子が付着する。一方、一番外側に位置する包装容器100の内部、試料容器104等は、未開封状態であるため、グレードAの清浄性を維持する。
【0037】
図9は、医療機関に運び込む時の過程を示したものである。医療機関に到着後、まず、生体試料の状態を評価する。当該評価の結果を受けて、治療に用いることが可能であることを確認する。
この時、治療に用いる予定のサンプルについては、非侵襲的な評価方法でなければならない。侵襲的な評価方法では、生体試料の質が変化するからである。また、全数検査を実施できることが望ましい。培養した生体試料は、同じ細胞ソースを用い、同じ製造過程を経ているため、培養後の質も同じと考えられるが、細胞はわずかな環境の変化により容易に質が変わりうるからである。
よって、本実施例では、試料容器を包装した状態のまま、上述した非侵襲的な評価方法である顕微鏡観察を実施する。
【0038】
治療に用いることができると判断されたなら、治療の準備を開始する。治療を行う患者への準備等を実施する。その後、試料容器104を、治療を実施する手術室へ運ぶ。手術室内は一般にクラス100の清浄性を有する。手術室内には、清潔野と不潔野が設けられている。手術室に運び込んだ試料容器は、まず、外側をエタノール等により消毒する。そして、不潔野で、包装容器100を開封する。この時、包装容器の外部が、清浄な試料に触れないように注意を払う。そして、清潔野の器具のみを取り扱う担当である作業者が、試料容器104のみを取り出す。最後に、同じ作業者が、清潔野にて試料容器から生体試料を取り出す。それを治療に用いる。
【0039】
次に、以上の構成を有する包装容器を用い細胞を輸送する時の、包装容器などの細胞処理施設への運び込みの一連の手順について説明する。
【0040】
<ステップS1:事前準備>
細胞を輸送するために必要な事前準備を行う。包装容器は、事前にオートクレーブバッグ等により包装し、その状態で滅菌処理を施し無菌化する。滅菌処理の方法は、オートクレーブ処理、エチレンオキシダイドガス処理、γ線照射等とし、滅菌処理を施すことにより、包装容器の性質を変化させない方法を選択する。例えば素材がポリスチレンであれば、γ線照射処理を採用する。
蓄熱材を封入した蓄熱材ボックスは、蓄熱材が炭化水素C
20H
42である場合、蓄熱材ボックスの素材を金属または耐熱性のポリカーボネイトとし、炭化水素C
20H
42を完全に密封した状態で封入する。炭化水素C
20H
42の融点は344℃であるため、オートクレーブ処理(120℃)を施しても気化せず、蓄熱材ボックスの温度維持性能に関する影響はない。滅菌後は、蓄熱材に熱を蓄えるため、包装した状態で恒温槽の中に入れ、温度が安定するまで静置する。例として、融点が36.4℃である炭化水素C
20H
42の場合、輸送する外界の温度の大半が36.4℃以下である場合、恒温槽の温度は37℃とする。輸送中、外界の温度の方がC
20H
42の融点よりも温度が低いため、熱は細胞輸送容器の中から外へ出ていくからである。逆に、輸送する外界の温度の大半が36.4℃以上である場合、恒温槽の温度は36℃とする。輸送中、外界の温度の方がC
20H
42の融点よりも温度が高いため、熱は細胞輸送容器の中へ外から入り込むためである。
各種滅菌に対する耐性を有していないモニタリング機器等については、エタノール消毒を施すこととする。
【0041】
<ステップS2:細胞処理施設内への運び込み>
滅菌を施した細胞輸送容器と包装容器を、細胞処理施設内の培養エリアへ運び込む。細胞処理施設内の部屋間の移動に際しては、部屋の清浄性の維持と交差汚染防止のため、パスボックスを通過させる必要がある。パスボックスを通過させる時には、それぞれの構成部品に対し、包装の外側からエタノールを噴霧して消毒し、パスボックスの中に入れ、移動する部屋の側の扉から取り出す。
細胞培養エリアに到着後、包装容器以外の機材に関しては、包装を開け、包装の外側に触れないよう無菌的に取り出す。蓄熱材ボックスは、室温下に晒したままでは温度が変化するため、可能ならば同じ部屋に恒温槽を用意しておき、使用するまで恒温槽の中に入れ、温度変化を防ぐことが望ましい。
包装容器は、包装の周囲をエタノール噴霧により消毒し、安全キャビネット内へ入れる。その後、包装の外側に触れないように包装容器を無菌的に取り出す。
【0042】
モニタリング装置の運び込みについては、事前に外部へエタノール消毒を施すとする。細胞を処理する部屋への機材等の持ち込みは、滅菌処理を施し無菌化することが望ましいが、機械装置に対し滅菌処理を施せないため、一般にエタノール処理のみを施す。
【符号の説明】
【0043】
100 包装容器
101 包装容器蓋部
102 弾性部材
103 包装容器本体部
104 試料容器
105 培地
110 ネジ受部
111 ネジ部
112 へこみ部
113 へり部
114 ガイド
115 空気逃がし孔
120 生体試料
301 孔
401 突起
501 気体透過性膜
601 インサート型試料容器
602 インサート型試料容器用容器
603 6ウェルプレート
604 ネジ
701 容器本体
702 容器蓋
703 断熱材
704 蓄熱材ボックス
705 試料容器収容部
706 試料容器
707 モニタリング装置