(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、電子ビーム描画装置には、膨大なデータを高速に処理するために、多数のハードディスク装置が実装されるが、異常停止が起こるまで、ハードディスク装置の異常を見つけることが困難であった。描画装置が異常停止してしまうと、復旧までに時間がかかり、その間、描画装置は描画処理を行うことができなくなり、マスク等の試料の生産がストップしてしまう。そのため、異常停止が起こる前にハードディスク装置の異常を検出することが望ましい。しかしながら、従来、かかる問題を解決する十分な手法が確立されていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる問題を克服し、異常停止が起こる前にハードディスク装置等の記憶装置の異常を検出することが可能な描画装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
記憶装置と、
記憶装置のデータ読み出し処理を行う読み出し処理部と、
記憶装置のデータ読み出し処理における開始時刻と終了時刻とを用いて、記憶装置のデータ読み出し時間を演算する読み出し時間演算部と、
データ読み出し時間が閾値以上か否かを判定する判定部と、
判定の結果、データ読み出し時間が閾値以上の場合に記憶装置が異常であることを示す情報を出力する出力部と、
判定の結果、データ読み出し時間が閾値以上の場合に記憶装置を別の記憶装置と交換した上で別の記憶装置を用いて、描画データのデータ処理を行うデータ処理部と、
データ処理された結果に基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する描画部と、
を備え
、
前記閾値として、複数の記憶装置の読み出し時間のサンプルデータを用いて得られた前記複数の記憶装置の平均読み出し時間に標準偏差の3倍の値(3σ)を加算した値を用いることを特徴とする。
【0009】
本発明の他の態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
記憶装置と、
テストデータを入力し、記憶装置に前記テストデータの書き込み処理を行う書き込み処理部と、
記憶装置への書き込み処理における書き込み速度を演算する書き込み速度演算部と、
書き込み速度が閾値以下か否かを判定する判定部と、
判定の結果、書き込み速度が閾値以下の場合に記憶装置が異常であることを示す情報を出力する出力部と、
判定の結果、書き込み速度が閾値以下の場合に記憶装置を別の記憶装置と交換した上で別の記憶装置を用いて、描画データのデータ処理を行うデータ処理部と、
データ処理された結果に基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する描画部と、
を備え
、
前記閾値として、複数の記憶装置の書き込み速度のサンプルデータを用いて得られた前記複数の記憶装置の平均書き込み速度から標準偏差の3倍の値(3σ)を差し引いた値を用いることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
記憶装置と、
記憶装置を用いて、描画データのデータ処理を行うデータ処理部と、
データ処理された結果に基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する描画部と、
記憶装置へデータ処理されたデータを転送する転送データ量を測定するデータ量測定部と、
記憶装置への転送処理に対するエラーによる訂正回数を測定する訂正回数測定部と、
転送データ量と訂正回数とを用いて、訂正率を演算する訂正率演算部と、
訂正率が閾値以上か否かを判定する判定部と、
判定の結果、訂正率が閾値以上の場合に記憶装置が異常であることを示す情報を出力する出力部と、
を備え
、
前記閾値として、複数の記憶装置の訂正率のサンプルデータを用いて得られた前記複数の記憶装置の平均訂正率に標準偏差の3倍の値(3σ)を加算した値を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
記憶装置と、
記憶装置を用いて、描画データのデータ処理を行うデータ処理部と、
データ処理された結果に基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する描画部と、
記憶装置へデータ処理されたデータを転送する転送速度を測定する転送速度測定部と、
転送速度が閾値以下か否かを判定する判定部と、
判定の結果、転送速度が閾値以下の場合に記憶装置が異常であることを示す情報を出力する出力部と、
を備え
、
前記閾値として、複数の記憶装置の転送速度のサンプルデータを用いて得られた前記複数の記憶装置の平均転送速度から標準偏差の3倍の値(3σ)を差し引いた値を用いることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法は、
記憶装置のデータ読み出し処理を行う工程と、
記憶装置のデータ読み出し処理における開始時刻と終了時刻とを用いて、記憶装置のデータ読み出し時間を演算する工程と、
データ読み出し時間が閾値以上か否かを判定する工程と、
判定の結果、データ読み出し時間が閾値以上の場合に記憶装置が異常であることを示す情報を出力する工程と、
判定の結果、データ読み出し時間が閾値以上の場合に記憶装置を別の記憶装置と交換した上で別の記憶装置を用いて、描画データのデータ処理を行う工程と、
データ処理された結果に基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する工程と、
を備え
、
前記閾値として、複数の記憶装置の読み出し時間のサンプルデータを用いて得られた前記複数の記憶装置の平均読み出し時間に標準偏差の3倍の値(3σ)を加算した値を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、異常停止が起こる前に記憶装置の異常を検出できる。よって、描画中に記憶装置の故障による異常停止を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、荷電粒子ビーム装置の一例として、可変成形型の描画装置について説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型(VSB型)の描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング偏向器(ブランカー)212、ブランキングアパーチャ214、第1の成形アパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2の成形アパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208及び副偏向器209が配置されている。描画室103内には、少なくともXY方向に移動可能なXYステージ105が配置される。XYステージ105上には、レジストが塗布された描画対象となる試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造するための露光用のマスクやシリコンウェハ等が含まれる。マスクにはマスクブランクスが含まれる。
【0017】
制御部160は、制御計算機110,120、メモリ112,118、インターフェース(I/F)回路114、モニタ116、制御回路130、及び、複数のハードディスク装置(HD)140,142(a,b,c,d,・・・)(記憶装置の一例)を有している。制御計算機110,120、メモリ112,118、I/F回路114、モニタ116、制御回路130、及び、複数のハードディスク装置140,142は、バス113を介して互いに接続されている。
【0018】
また、制御計算機110内には、描画データ処理部10、設定部11、読み出し処理部12、読み出し時間演算部14、判定部16、出力部18、書き込み処理部20、書き込み速度演算部22、判定部24、データ量測定部26、訂正率演算部28、判定部30、転送速度測定部32、判定部34、及び記録部36が配置される。描画データ処理部10、設定部11、読み出し処理部12、読み出し時間演算部14、判定部16、出力部18、書き込み処理部20、書き込み速度演算部22、判定部24、データ量測定部26、訂正率演算部28、判定部30、転送速度測定部32、判定部34、及び記録部36といった各機能は、プログラムといったソフトウェアで構成されても良い。或いは、電子回路等のハードウェアで構成されてもよい。或いは、これらの組み合わせであってもよい。制御計算機110に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ112に記憶される。
【0019】
また、制御計算機120内には、ハードディスク装置(HD)制御部40、開始時刻測定部42、終了時刻測定部44、及び訂正回数測定部46が配置される。ハードディスク装置(HD)制御部40、開始時刻測定部42、終了時刻測定部44、及び訂正回数測定部46といった各機能は、プログラムといったソフトウェアで構成されても良い。或いは、電子回路等のハードウェアで構成されてもよい。或いは、これらの組み合わせであってもよい。制御計算機120に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ118に記憶される。
【0020】
また、ハードディスク装置140には、描画データが外部から入力され、記憶される。
【0021】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0022】
ここで、描画されるパターンは、膨大な数の図形パターンの組み合わせで構成され、そのデータは、図形パターンの配置座標、サイズ、図形コード等、膨大なデータで構成される。そして、そのデータ量は年々増加している。そのため、かかるデータを高速に処理するために多数のハードディスク等の記憶装置142が必要となる。例えば、数十〜百以上のハードディスク装置が実装される。また、描画履歴や装置運用履歴等のデータベースもハードディスク等の記憶装置142に記憶され、かかる描画履歴や装置運用履歴等も運用に伴い増大しているため、ハードディスク装置に負担をかける要因の1つになっている。ここで、ハードディスク装置等の記憶装置142に異常があると、データの読み書き処理に影響がでる。例えば、磁性体の劣化磨耗による磁性体の磁力が弱まり、情報が読み取りにくくなり、何回も読み出し動作を繰り返す。かかる繰り返しの分、時間がかかってしまう。また、例えば、サーボ機構の劣化によりヘッドが意図したトラック(記憶領域)に一度の動作で移動できなくなる。実施の形態1における描画装置100では、データ処理を行いながら描画動作をリアルタイムで進めていくため、データの読み書き処理が正常な状態に比べてある程度遅くなると描画動作が停止してしまう。そこで、実施の形態1では、以下の手法により、描画動作が停止するよりも早い段階でハードディスク装置等の記憶装置142の異常を検出する。実施の形態1では、描画していない状態(オフライン)でデータの読み出しを行うことで、ハードディスク装置等の記憶装置142の異常を検出する。
【0023】
図2は、実施の形態1における判定閾値を算出する方法の要部工程を示すフローチャート図である。ここでは、描画装置100に実装される前の段階でのハードディスク装置を用いるとよい。但し、これに限るものではなく、描画装置100に実装された後でも構わない。
【0024】
まず、ハードディスク装置(HD)設定工程(S102)として、診断対象となるハードディスク装置を設定する。かかるハードディスク装置には、何らかのデータが記憶されていても良いし、まだ、記憶されていなくてもよい。
【0025】
HD読み出し工程(S104)として、対象となるハードディスク装置の読み出し処理を行う。ハードディスク装置の全領域にアクセスして、データの読み出しを行う。同一機種、同一記憶容量のハードディスク装置では、回転数が同じであれば、どれも同程度の読み出し時間となる。
【0026】
読み出し開始時刻、及び終了時刻測定工程(S106)として、データの読み出しを行っているハードディスク装置の読み出し開始時刻、及び終了時刻を測定する。
【0027】
読み出し時間演算工程(S108)として、ハードディスク装置の読み出し終了時刻から開始時刻を引くことで、かかるハードディスク装置の読み出し時間を算出する。
【0028】
ハードディスク装置を交換しながら、かかるHD設定工程(S102)から読み出し時間演算工程(S108)までの各工程を繰り返し実行する。以上のようにして、各ハードディスク装置あたり1回ずつ読み出し時間のデータを取得する。
【0029】
図3は、実施の形態1におけるハードディスク装置の読み出し時間の一例を示す図である。
図3では、一例として、記憶容量が73GB、回転数が10000min
−1(rpm)のある同一機種の複数のハードディスク装置のそれぞれの読み出し時間を示している。
図3の例では、いずれのハードディスク装置も1時間18分程度の読み出し時間となっている。
【0030】
平均値及び標準偏差算出工程(S110)として、得られた複数のハードディスク装置の読み出し時間のサンプルデータを使って、平均読み出し時間mと標準偏差σを算出する。
【0031】
図4は、実施の形態1におけるハードディスク装置の平均読み出し時間と標準偏差の一例を示す図である。
図4では、記憶容量、回転数、及び機種が同一である複数のハードディスク装置毎に、平均読み出し時間mと標準偏差σを算出する。また、
図4の例では、有効サンプル数も示されている。平均読み出し時間mは、ハードディスク装置iでのデータ読み出し時間Xi、及びサンプル数nを用いて、以下の式(1)で算出できる。
(1) m=Σ(Xi/n)
【0032】
また、標準偏差σは、平均読み出し時間m、データ読み出し時間Xi、及びサンプル数nを用いて、以下の式(2)で算出できる。
(2) σ=√{Σ(Xi−m)
2/(n−1))
【0033】
3σ算出工程(S112)として、記憶容量、回転数、及び機種が同一である複数のハードディスク装置毎に、標準偏差σの3倍にあたる、読み出し時間の3σの値を算出する。実施の形態1では、かかる3σに相当する読み出し時間t0(t0=m+3σ)を基準値として判定閾値に用いる。描画装置100の生産台数が増えれば、これに応じて実装されるハードディスク装置の数も増えるので、かかる基準値を算出するためのサンプルも増え、より高精度な値を得ることができる。そして、得られた基準値t0(閾値a)は、描画装置100に入力される。或いは、描画装置100内で演算してもよい。
【0034】
図5は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図5において、実施の形態1における描画方法は、ハードディスク装置(HD)設定工程(S120)、HD読み出し工程(S122)、読み出し開始時刻、及び終了時刻測定工程(S124)、読み出し時間演算工程(S126)、判定工程(S128)、出力及び交換工程(S130)、判定工程(S132)、描画データ処理工程(S134)、及び描画工程(S136)といった一連の工程を実施する。
【0035】
HD設定工程(S120)として、制御計算機110内の設定部11は、複数のハードディスク装置142(a,b,c,d,・・・)の中から診断対象となるハードディスク装置142を設定する。かかるハードディスク装置には、何らかのデータが記憶されていても良いし、まだ、記憶されていなくてもよい。
【0036】
HD読み出し工程(S122)として、制御計算機110内の読み出し処理部12は、対象となるハードディスク装置142の読み出し処理を行う。対象となるハードディスク装置の全領域にアクセスして、データの読み出しを行う。読み出し処理部12からの命令を受けて、制御計算機120(HDコントローラの一例である)内のHD制御部40は、対象となるハードディスク装置142の動作を実行する。また、かかる処理でエラーが発生した場合には、記録部36がエラーメッセージを記録する。
【0037】
読み出し開始時刻、及び終了時刻測定工程(S124)として、制御計算機120内の開始時刻測定部42は、対象となるハードディスク装置142の読み出し処理の開始時刻を測定する。そして、制御計算機120内の終了時刻測定部44は、対象となるハードディスク装置142の読み出し終了時刻を測定する。
【0038】
読み出し時間演算工程(S126)として、読み出し時間演算部14は、制御計算機120から読み出し開始時刻と読み出し終了時刻を入力し、ハードディスク装置の読み出し終了時刻から開始時刻を引くことで、かかるハードディスク装置142の読み出し時間tを算出する。
【0039】
判定工程(S128)として、判定部16は、対象となるハードディスク装置142の読み出し時間tが基準値t0(3σに相当する読み出し時間t0)以上かどうかを判定する。
【0040】
出力及び交換工程(S130)として、出力部18は、判定の結果、対象となるハードディスク装置142のデータ読み出し時間tが閾値t0以上の場合に、対象となるハードディスク装置142が異常であることを示す情報(NG情報)を出力する。また、記録部36がデータ読み出し処理でエラーメッセージを記録した場合も、対象となるハードディスク装置142が異常であることを示す情報(NG情報)を出力する。例えば、モニタ116に表示する。また、I/F回路114を介して、ユーザ側に出力する。診断されたハードディスク装置142は、異常と判定されたため、別のハードディスク装置に交換する。
【0041】
判定工程(S132)として、描画装置100に搭載されているすべてのハードディスク装置142について上述した各工程による診断が終了しているかどうかを判定する。そして、すべてのハードディスク装置142について終了するまで、HD設定工程(S120)から出力及び交換工程(S130)までの各工程を繰り返す。
【0042】
以上により、描画処理を行なう前に、異常なハードディスク装置142を正常なハードディスク装置142に交換できる。上述したように、描画装置100では、データ処理と描画動作をリアルタイムで実行していくため、ハードディスク装置142が正常な機能を発揮することが求められる。そのため、判定閾値も3σに相当する読み出し時間t0という、正常と言える値を使用すると好適である。但し、これに限るものではなく、描画装置の動作への影響を与えない範囲で、若干の余裕をもって緩くした(t0よりも若干長くした)判定閾値にしても構わない。
【0043】
描画データ処理工程(S134)として、描画データ処理部10は、正常なハードディスク装置142を用いて、描画データのデータ処理を行う。言い換えれば、描画データ処理部10は、判定の結果、データ読み出し時間が閾値以上の場合にハードディスク装置142を別のハードディスク装置142と交換した上でかかる別のハードディスク装置142を用いて、描画データのデータ処理を行う。データ読み出し時間が閾値より短い場合はそのまま交換せずに使用して、描画データのデータ処理を行う。描画データ処理部10は、ハードディスク装置140から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理をおこなって、装置固有のショットデータを生成する。かかる複数段のデータ変換処理を行う際に、ハードディスク装置142を用いる。また、生成されたショットデータもハードディスク装置142に格納される。
【0044】
描画工程(S136)として、制御回路130は、生成されたショットデータを読み出し、ショットデータに沿って、描画部150を制御する。描画部150は、データ処理された結果であるショットデータに基づいて、電子ビーム200を用いて試料101にパターンを描画する。描画部150は、具体的には、以下のように動作する。
【0045】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、ブランキング偏向器212内を通過する際にブランキング偏向器212によって、ビームONの状態では、ブランキングアパーチャ214を通過するように制御され、ビームOFFの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮へいされるように偏向される。ビームOFFの状態からビームONとなり、その後ビームOFFになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。ブランキング偏向器212は、通過する電子ビーム200の向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する。例えば、ビームONの状態では電圧を印加せず、ビームOFFの際にブランキング偏向器212に電圧を印加すればよい。かかる各ショットの照射時間Tで試料101に照射される電子ビーム200のショットあたりの照射量が調整されることになる。
【0046】
以上のようにブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1の成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206上に投影される。偏向器205によって、かかる第2の成形アパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形を行なう)ことができる。かかる可変成形はショット毎に行なわれ、通常ショット毎に異なるビーム形状と寸法に成形される。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208及び副偏向器209によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料の所望する位置に照射される。例えば、主偏向器208で移動するXYステージ105に追従しながら、副偏向器209で偏向可能なサイズで試料101の描画領域が仮想分割された複数のサブフィールド(SF)における所望するSFの基準位置に電子ビーム200を偏向する。そして、副偏向器209で当該SF内の所望する各照射位置に電子ビーム200を偏向する。かかる多段偏向で電子ビーム200の描画位置を設定する場合、ドリフト補正は、例えば、主偏向器208で偏向するSFの基準位置を補正すると好適である。以上のように、各偏向器によって、電子ビーム200の複数のショットが順に基板となる試料101上へと偏向される。
【0047】
図6は、実施の形態1における異常なハードディスク装置の読み出し時間の追跡調査を行った結果の一例を示すグラフである。縦軸は読み出し時間、横軸は経過時間(週単位)を示している。上述した基準値を超えた読み出し時間のハードディスク装置は、使用し続けると、時間の経過に伴って読み出し時間が長くなり、最終的には故障に至る結果を得た。よって、実施の形態1で説明した読み出し時間による異常検出が有効であることがわかる。
【0048】
以上のように、実施の形態1では、描画処理を行っていない状態で、読み出し時間を測定することで、異常停止が起こる前に記憶装置の異常を検出できる。よって、描画中に記憶装置の故障による異常停止を防止できる。また、かかる診断は定期的に行うことが望ましい。例えば、描画処理前に毎回行なう、毎日に1回行なう、或いは毎週に1回行う等が望ましい。
【0049】
実施の形態2.
実施の形態2では、読み出し時間ではなく、書き込み速度でハードディスク装置の異常を検出する構成を説明する。描画装置100の構成は
図1と同様である。また、以下、特に説明しない内容は実施の形態1と同様である。
【0050】
図7は、実施の形態2における判定閾値を算出する方法の要部工程を示すフローチャート図である。ここでは、描画装置100に実装される前の段階でのハードディスク装置を用いるとよい。但し、これに限るものではなく、描画装置100に実装された後でも構わない。
【0051】
まず、HD設定工程(S202)として、診断対象となるハードディスク装置を設定する。かかるハードディスク装置には、何らかのデータが記憶されていても良いし、まだ、記憶されていなくてもよい。
【0052】
テストデータ書き込み工程(S204)として、対象となるハードディスク装置の空き容量へテストデータの書き込み処理を行う。同一機種、同一記憶容量のハードディスク装置では、回転数が同じであれば、どれも同程度の書き込み速度となる。
【0053】
書き込み速度測定工程(S206)として、テストデータの書き込みを行っているハードディスク装置の書き込み速度を測定する。
【0054】
ハードディスク装置を交換しながら、かかるHD設定工程(S202)から書き込み速度測定工程(S206)までの各工程を繰り返し実行する。以上のようにして、各ハードディスク装置あたり1回ずつ書き込み速度のデータを取得する。
【0055】
平均値及び標準偏差算出工程(S208)として、得られた複数のハードディスク装置の書き込み速度のサンプルデータを使って、平均書き込み速度Vmと標準偏差σを算出する。記憶容量、回転数、及び機種が同一である複数のハードディスク装置毎に、平均書き込み速度Vmと標準偏差σを算出する。平均書き込み速度Vmは、ハードディスク装置iでの書き込み速度Vi、及びサンプル数nを用いて、以下の式(3)で算出できる。
(3) Vm=Σ(Vi/n)
【0056】
また、標準偏差σは、平均書き込み速度Vm、書き込み速度Vi、及びサンプル数nを用いて、以下の式(4)で算出できる。
(4) σ=√{Σ(Vi−Vm)
2/(n−1))
【0057】
3σ算出工程(S210)として、記憶容量、回転数、及び機種が同一である複数のハードディスク装置毎に、標準偏差σの3倍にあたる、書き込み速度の3σの値を算出する。実施の形態2では、かかる3σに相当する書き込み速度V1’(V1’=Vm−3σ)を基準値として判定閾値に用いる。描画装置100の生産台数が増えれば、これに応じて実装されるハードディスク装置の数も増えるので、かかる基準値を算出するためのサンプルも増え、より高精度な値を得ることができる。そして、得られた基準値V1’(閾値b)は、描画装置100に入力される。或いは、描画装置100内で演算してもよい。
【0058】
図8は、実施の形態2における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図5において、実施の形態1における描画方法は、ハードディスク装置(HD)設定工程(S220)、テストデータ書き込み工程(S222)、書き込み速度測定工程(S224)、判定工程(S228)、出力及び交換工程(S230)、判定工程(S232)、描画データ処理工程(S234)、及び描画工程(S236)といった一連の工程を実施する。
【0059】
HD設定工程(S220)として、制御計算機110内の設定部11は、複数のハードディスク装置142(a,b,c,d,・・・)の中から診断対象となるハードディスク装置142を設定する。かかるハードディスク装置には、何らかのデータが記憶されていても良いし、まだ、記憶されていなくてもよい。
【0060】
テストデータ書き込み工程(S222)として、制御計算機110内の書き込み処理部20は、対象となるハードディスク装置142の書き込み処理を行う。対象となるハードディスク装置の空き容量に、テストデータの書き込みを行う。書き込み処理部20からの命令を受けて、制御計算機120(HDコントローラの一例である)内のHD制御部40は、対象となるハードディスク装置142の動作を実行する。また、かかる処理でエラーが発生した場合には、記録部36がエラーメッセージを記録する。
【0061】
書き込み速度測定工程(S224)として、制御計算機110内の書き込み速度演算部22は、対象となるハードディスク装置142の書き込み速度V1を演算する。
【0062】
判定工程(S228)として、判定部24は、対象となるハードディスク装置142の書き込み速度V1が閾値V1’ (V1’=Vm−3σ)以下か否かを判定する。
【0063】
出力及び交換工程(S230)として、出力部18は、判定の結果、対象となるハードディスク装置142の書き込み速度V1が閾値V1’以下の場合に、対象となるハードディスク装置142が異常であることを示す情報(NG情報)を出力する。また、記録部36がデータ書き込み処理でエラーメッセージを記録した場合も、対象となるハードディスク装置142が異常であることを示す情報(NG情報)を出力する。例えば、モニタ116に表示する。また、I/F回路114を介して、ユーザ側に出力する。診断されたハードディスク装置142は、異常と判定されたため、別のハードディスク装置に交換する。
【0064】
判定工程(S232)として、描画装置100に搭載されているすべてのハードディスク装置142について上述した各工程による診断が終了しているかどうかを判定する。そして、すべてのハードディスク装置142について終了するまで、HD設定工程(S220)から出力及び交換工程(S230)までの各工程を繰り返す。
【0065】
以上により、描画処理を行なう前に、異常なハードディスク装置142を正常なハードディスク装置142に交換できる。上述したように、描画装置100では、データ処理と描画動作をリアルタイムで実行していくため、ハードディスク装置142が正常な機能を発揮することが求められる。そのため、判定閾値も3σに相当する書き込み速度V1’という、正常と言える値を使用すると好適である。但し、これに限るものではなく、描画装置の動作への影響を与えない範囲で、若干の余裕をもった判定閾値にしても構わない。
【0066】
以下、描画データ処理工程(S234)から描画工程(S236)までの各工程の内容は、実施の形態1の描画データ処理工程(S134)から描画工程(S136)までの各工程と同様である。
【0067】
以上のように、実施の形態2では、描画処理を行っていない状態で、書き込み速度を測定することで、異常停止が起こる前に記憶装置の異常を検出できる。よって、描画中に記憶装置の故障による異常停止を防止できる。また、かかる診断は定期的に行うことが望ましい。例えば、描画処理前に毎回行なう、毎日に1回行なう、或いは毎週に1回行う等が望ましい。
【0068】
実施の形態3.
実施の形態1,2では、描画動作を行なっていない状態(オフライン)で異常なハードディスク装置の検出を行う場合について説明したが、これに限るものではない。実施の形態3では、描画動作を行ないながら(オンライン)で異常なハードディスク装置の検出を行う場合を説明する。描画装置100の構成は、
図1と同様である。また、以下、特に説明しない内容は実施の形態1と同様である。
【0069】
図9は、実施の形態3における判定閾値を算出する方法の要部工程を示すフローチャート図である。ここでは、描画装置100に実装される前の段階でのハードディスク装置を用いるとよい。但し、これに限るものではなく、描画装置100に実装された後でも構わない。
【0070】
まず、HD設定工程(S302)として、診断対象となるハードディスク装置を設定する。かかるハードディスク装置には、何らかのデータが記憶されていても良いし、まだ、記憶されていなくてもよい。
【0071】
データ転送工程(S304)として、対象となるハードディスク装置へテストデータの転送処理を行う。
【0072】
転送量測定工程(S306)として、テストデータの転送を行っているハードディスク装置への転送量を測定する。
【0073】
また、並行して、転送速度測定工程(S307)として、テストデータの転送を行っているハードディスク装置への転送速度を測定する。同一機種、同一記憶容量のハードディスク装置では、回転数が同じであれば、どれも同程度の転送速度となる。
【0074】
訂正回数測定工程(S308)として、データ転送に対してエラーとなった訂正回数を測定する。
【0075】
訂正率算出工程(S310)として、転送量に対する訂正回数の割合を示す訂正率を算出する。訂正率=訂正回数/転送量で算出できる。
【0076】
ハードディスク装置を交換しながら、かかるHD設定工程(S302)から転送速度測定工程(S307)を含む訂正率算出工程(S310)までの各工程を繰り返し実行する。以上のようにして、各ハードディスク装置あたり1回ずつ転送速度のデータと訂正率のデータを取得する。
【0077】
平均値及び標準偏差算出工程(S312)として、得られた複数のハードディスク装置の訂正率のサンプルデータを使って、平均訂正率Mmと標準偏差σを算出する。記憶容量、回転数、及び機種が同一である複数のハードディスク装置毎に、平均訂正率Mmと標準偏差σを算出する。平均訂正率Mmは、ハードディスク装置iでの訂正率Mi、及びサンプル数nを用いて、以下の式(5)で算出できる。
(5) Mm=Σ(Mi/n)
【0078】
また、標準偏差σは、平均訂正率Em、訂正率Ei、及びサンプル数nを用いて、以下の式(6)で算出できる。
(6) σ=√{Σ(Mi−Mm)
2/(n−1))
【0079】
また、平均値及び標準偏差算出工程(S313)として、得られた複数のハードディスク装置の転送速度のサンプルデータを使って、平均転送速度Vm’と標準偏差σを算出する。記憶容量、回転数、及び機種が同一である複数のハードディスク装置毎に、平均転送速度Vm’と標準偏差σを算出する。平均転送速度Vm’は、ハードディスク装置iでの転送速度Vi’、及びサンプル数nを用いて、以下の式(7)で算出できる。
(7) Vm’=Σ(Vi’/n)
【0080】
また、標準偏差σは、平均転送速度Vm’、転送速度Vi’、及びサンプル数nを用いて、以下の式(8)で算出できる。
(8) σ=√{Σ(Vi’−Vm’)
2/(n−1))
【0081】
3σ算出工程(S314)として、記憶容量、回転数、及び機種が同一である複数のハードディスク装置毎に、標準偏差σの3倍にあたる、訂正率の3σの値を算出する。実施の形態3では、かかる3σに相当する訂正率M0(M0=Mm+3σ)を基準値として判定閾値に用いる。描画装置100の生産台数が増えれば、これに応じて実装されるハードディスク装置の数も増えるので、かかる基準値を算出するためのサンプルも増え、より高精度な値を得ることができる。そして、得られた訂正率M0(閾値c)は、描画装置100に入力される。或いは、描画装置100内で演算してもよい。
【0082】
3σ算出工程(S315)として、記憶容量、回転数、及び機種が同一である複数のハードディスク装置毎に、標準偏差σの3倍にあたる、転送速度の3σの値を算出する。実施の形態3では、かかる3σに相当する転送速度V2’(V2’=Vm’−3σ)を基準値として判定閾値に用いる。描画装置100の生産台数が増えれば、これに応じて実装されるハードディスク装置の数も増えるので、かかる基準値を算出するためのサンプルも増え、より高精度な値を得ることができる。そして、得られた転送速度V2’(閾値d)は、描画装置100に入力される。或いは、描画装置100内で演算してもよい。
【0083】
図10は、実施の形態3における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図5において、実施の形態1における描画方法は、描画データ処理工程(S320)と、データ転送工程(S322)と、描画工程(S324)と、転送量測定工程(S330)と、転送速度測定工程(S331)と、訂正回数測定工程(S332)と、訂正率算出工程(S334)と、判定工程(S336)と、判定工程(S337)と、NG出力工程(S338)と、交換工程(S340)といった一連の工程を実施する。
【0084】
描画データ処理工程(S320)として、描画データ処理部10は、複数のハードディスク装置142を用いて、描画データのデータ処理を行う。データ処理の内容は実施の形態1と同様である。
【0085】
データ転送工程(S322)として、描画データ処理部10は、データ処理されたデータを複数のハードディスク装置142の少なくとも1つに出力する。データ処理の工程は複数段あるため、その都度、異なるハードディスク装置142へ転送してもよい。
【0086】
描画工程(S324)として、描画部150は、データ処理された結果に基づいて、電子ビーム200を用いて試料101にパターンを描画する。
【0087】
転送量測定工程(S330)として、データ量測定部26は、ハードディスク装置142へデータ処理されたデータを転送する際の転送量(転送データ量)を測定する。
【0088】
また、並行して、転送速度測定工程(S331)として、転送速度測定部32は、ハードディスク装置142へデータ処理されたデータを転送する際の転送速度V2を測定する。
【0089】
訂正回数測定工程(S332)として、訂正回数測定部46は、ハードディスク装置142への転送処理に対するエラーによる訂正回数を測定する。
【0090】
訂正率算出工程(S334)として、訂正率演算部28は、転送量(転送データ量)と訂正回数とを用いて、訂正率Mを演算する。訂正率Mは、転送量に対する訂正回数の割合を示し、訂正率M=訂正回数/転送量で算出できる。
【0091】
判定工程(S336)として、判定部30は、訂正率Mが閾値M0(M0=Mm+3σ)以上か否かを判定する。
【0092】
判定工程(S337)として、判定部34は、測定された転送速度V2が閾値V2’(V2’=Vm’−3σ)以下か否かを判定する。
【0093】
出力工程(S338)として、出力部18は、判定の結果、対象となるハードディスク装置142の訂正率Mが閾値M0以上の場合に、対象となるハードディスク装置142が異常であることを示す情報(NG情報)を出力する。また、出力部18は、判定の結果、対象となるハードディスク装置142の転送速度V2が閾値V2’以下の場合に、対象となるハードディスク装置142が異常であることを示す情報(NG情報)を出力する。また、記録部36がデータ書き込み処理でエラーメッセージを記録した場合も、対象となるハードディスク装置142が異常であることを示す情報(NG情報)を出力する。例えば、モニタ116に表示する。また、I/F回路114を介して、ユーザ側に出力する。
【0094】
交換工程(S340)として、描画工程(S324)が終了した後、異常と判定されたハードディスク装置142を別のハードディスク装置に交換する。閾値がいずれも正常な場合を用いているので、異常と判定されたからといって直ちに故障するわけではない。そこで、描画処理をしながら異常検出を行う実施の形態3では、描画工程(S324)が終了した後、異常と判定されたハードディスク装置142を別のハードディスク装置に交換する。
【0095】
以上のように、実施の形態3では、描画処理を行っている状態で、転送エラーの訂正率或いは転送速度を測定することで、異常停止が起こる前に記憶装置の異常を検出できる。よって、次回以降の描画中に記憶装置の故障による異常停止を防止できる。また、かかる診断は定期的に行うことが望ましい。例えば、描画処理の際に毎回行なう等が望ましい。
【0096】
なお、実施の形態3では、転送エラーの訂正率と転送速度とを両方ともに測定したが、どちらか一方を測定するだけでも構わない。そして、測定された一方で異常停止が起こる前に記憶装置の異常を検出してもよい。
【0097】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0098】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0099】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。