(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の具体的態様、技術的範囲等について詳しく説明する。
【0021】
DNA合成酵素阻害剤は、DNA合成酵素が細胞の増殖、分裂および分化に関与していることから、癌に対して癌細胞の増殖抑制作用を示すことが考えられる。従って、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、癌の予防・治療に効果のある食品や医薬品等となり得る。
【0022】
また、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、特にY族のDNA合成酵素に有効であることから、抗がん剤として用いることも可能である。
【0023】
このように、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、DNA合成酵素選択的阻害剤としての利用に止まらず、抗癌剤として医薬品等への応用が可能であり、その薬理上許容される塩についても同様に医薬品等への応用が可能である。
【0024】
本発明における「その薬理上許容される塩」としては、フッ化水素酸塩、塩酸塩などのハロゲン化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの無機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、スルホン酸塩、有機酸塩、及び、アミノ酸塩が挙げられ、好適には塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩を挙げることができる。
【0025】
本発明の各化合物、及びその薬理上許容される塩は、植物などから単離・精製した天然物であってもよいし、公知の合成方法により合成したものであってもよい。
【0026】
本発明の医薬品への利用には、本発明の化合物を医薬品開発過程におけるリード化合物として利用することも含まれる。なお、本発明の化合物を体内投与する際は経口投与よりも非経口投与が好ましく、またリポソームなどの運搬体に封入して投与することが好ましい。このとき癌細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位(病変部位)に本発明の化合物を効率よく運ぶことができ効果的である。
【0027】
また本発明の化合物は、医薬品への利用以外に、飲食品へ添加・配合することにより抗癌効果あるいは抗発癌効果をもった健康食品として利用することも可能である。
【0028】
次に、本発明の化合物を配合してなる医薬用組成物および食用組成物について説明する。本発明の化合物を有効成分とする抗癌剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられ、好適には非経口剤を挙げることができる。
【0029】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく適宜設計できる。この種の製剤には本発明の化合物の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0030】
ここに、結合剤としてデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等を例として挙げることができる。界面活性剤の例としてラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。滑沢剤では、タルク、ロウ類、水素添加植物油、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等を例示できる。流動性促進剤では、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を例として挙げることができる。また、本発明の化合物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0031】
非経口剤として本発明の所望の効果を発現せしめるには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射も有効であると考えられる。この非経口投与剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。これら製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも常法に従って製造される。
【0032】
本発明の他の組成物の好適な態様は食用組成物である。即ち、本発明の化合物は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
【0033】
なお、ヒトと他の哺乳類のDNA合成酵素の構造は殆ど同じであるため、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、ヒト以外の哺乳類由来のDNA合成酵素阻害剤としても利用可能である。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(試薬)
β−シトステロール、リノール酸、グルコース、及びDNAプライマー(oligo(dT)18)はシグマアルドリッチ社から購入した。
化学合成DNAテンプレート(poly(dA), and nucleotides, such as [
3H]-deoxythymidine 5’-triphosphate (dTTP) (43 Ci/mmol)はGEヘルスケアバイオサイエンスから購入した。その他の試薬は市販の高純度品を購入して使用した。
(DNA合成酵素)
DNA合成酵素α
仔牛胸腺からTamaiらの方法により調製した(Tamai, K.; Kojima, K.; Hanaichi, T.; Masaki, S.; Suzuki, M.; Umekawa, H.; Yoshida, S. Structural study of immunoaffinity-purified DNA polymerase α-DNA primase complex from calf thymus. Biochim. Biophys. Acta 1988, 950, 263-273.)。
組み換え型のラットDNA合成酵素β
Dateらの方法に従い大腸菌JMpβ5から精製して調製した(Date, T.; Yamaguchi, M.; Hirose, F.; Nishimoto, Y.; Tanihara, K.; Matsukage, A. Expression of active rat DNA polymerase β in Escherichia coli. Biochemistry 1988, 27, 2983-2990.)。
ヒトDNA合成酵素γ
バキュロウィルスにて発現させ(Life Technologies, MD, USA)精製して使用した(Invitrogen Japan, Tokyo Japan)(Umeda, S.; Muta, T.; Ohsato, T.; Takamatsu, C.; Hamasaki, N.; Kang, D. The D-loop structure of human mtDNA is destabilized directly by 1-methyl-4-phenylpyridinium ion (MPP+), a parkinsonism-causing toxin. Eur. J. Biochem. 2000, 267, 200-206.)。
ヒトDNA合成酵素δ及びε
ヒト末梢血由来の株化細胞Molt-4からアフィニティーカラムクロマトグラフィーにより調製した(Oshige, M.; Takeuchi, R.; Ruike, R.; Kuroda, K.; Sakaguchi, K. Subunit protein-affinity isolation of Drosophila DNA polymerase catalytic subunit. Protein Expr. Purif. 2004, 35, 248-256.)。
切断型のヒトDNA合成酵素polη
Kusumotoらの方法によって調製した(Kusumoto, R.; Masutani, C.; Shimmyo, S.; Iwai, S.; Hanaoka, F. DNA binding properties of human DNA polymerase η: implications for fidelity and polymerase switching of translesion synthesis. Genes Cells 2004, 9, 1139-1150.)。
組換え型のマウスDNA合成酵素ι
既出の方法によって調製した(Masutani et al., in preparation)。
切断型のDNA合成酵素κ
Ohashiらの方法により調製した(Ohashi, E.; Murakumo, Y.; Kanjo, N.; Akagi, J.; Masutani, C.; Hanaoka, F.; Ohmori, H. Interaction of hREV1 with three human Y-family DNA polymerases. Genes Cells 2004, 9, 523-531.)。
組換え型のヒトDNA合成酵素λ
Shimazakiらの方法により調製した(Shimazaki, N.; Yoshida, K.; Kobayashi, T.; Toji, S.; Tamai, T.; Koiwai, O. Over-expression of human DNA polymerase λ in E. coli and characterization of the recombinant enzyme. Genes Cells 2000, 7, 639-651.)。
魚のDNA合成酵素δ
サクラマス(Oncorhynchus masou)の精巣からYamaguchiらの方法により調製した(Yamaguchi, T.; Saneyoshi, M.; Takahashi, H.; Hirokawa, S.; Amano, R.; Liu, X.; Inomata, M.; Maruyama, T. Synthetic Nucleoside and Nucleotides. 43. Inhibition of vertebrate telomerases by carbocyclic oxetanocin G (C.OXT-G) triphosphate analogues and influence of C.OXT-G treatment on telomere length in human HL60 cells. Nucleos. Nucleot. Nucleic Acids 2006, 25, 539-551.)。
ショウジョウバエのDNA合成酵素α、δ及びε
ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster )の初期胚からAoyagiらの方法により調製した(Aoyagi, N.; Matsuoka, S.; Furunobu, A.; Matsukage, A.; Sakaguchi, K. Drosophila DNA polymerase δ. Purification and characterization. J. Biol. Chem. 1994, 269, 6045-6050./Aoyagi, N.; Oshige, M.; Hirose, F.; Kuroda, K.; Matsukage, A.; Sakaguchi, K. DNA polymerase ε from Drosophila melanogaster. Biochem. Biophys. Res. Commun. 1997, 230, 297-301.)。
高等植物のDNA合成酵素α
Sakaguchiらの方法によりカリフラワーの花序から調製した(Sakaguchi, K.; Hotta, Y.; Stern, H. Chromatin-associated DNA polymerase activity in meiotic cells of lily and mouse. Cell Struct. Funct. 1980, 5, 323-334.)。
仔ウシ胸腺のTdT及びウシすい臓デオキシリボヌクレアーゼI(DNase I)
ストラタジーン社のクローニングシステム(La Jolla, CA, USA)を用いて調製した。
大腸菌由来のDNA合成酵素Iのクレノーフラグメント
Worthington Biochemical Corp. (Freehold, NJ, USA)から購入した。
T4合成酵素、 Taq 合成酵素、T7 RNA 合成酵素およびT4 ポリヌクレオチドキナーゼ
Takara Bio (Tokyo, Japan)から購入した。
【0036】
(アシル化ステロール配糖体の単離)
大豆(Glycine max L.)にn-ヘキサンを加えてn-ヘキサン抽出物を得た。n-ヘキサンを留去し、大豆粗原油を得た。大豆粗原油にクロロホルムを加え、クロロホルム抽出物を得た。クロロホルム抽出物からクロロホルムを留去したもの50gにn-ヘキサン(2L)と水(2L)を加え、pHを7に調整した後、有機相を回収し溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、クロロホルム:メタノール(v/v 10:1)で溶出したフラクションをさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。n-ヘキサン:アセトン(v/v 3:2)で溶出する画分を集め、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ベンゼン:メタノール(v/v 10:1)で得られた画分をセファデックスLH-20カラムクロマトグラフィーに供し、クロロホルム:メタノール(v/v 1:1)で溶出する画分を得た。得られた画分から溶媒を留去し黄色ガム状の物質405.65mgを得た。
【0037】
得られた物質について
1H-NMR、
13C-NMR、COSY、HMQC、HMBCなどの各種核磁気共鳴分析を実施したところ、標準物質のβ-sitosteryl (6’-O-acyl)-glucosideのデータと一致した。
【0038】
さらに、ESIMS/MS分析を行ったところ、([M+Na]
+)はステロール配糖体から得られるフラグメントイオンm/z 465 ([M-C
29H
49+Na]
+) とβ-sitosterolから得られるフラグメントイオン m/z 397 ([M-(C
6H
10O
66-CO-C
17H
31)]
+)と一致した。以上の結果により、得られた物質はアシル化ステロール配糖体(β-sitosteryl (6’-O-linoleoyl)-glucoside)であると同定した。
【0039】
(DNA合成酵素の阻害活性測定)
DNA合成酵素活性を測定する際の反応液の組成は既報の通りとした(Mizushina, Y., Tanaka, N., Yagi, H., Kurosawa, T., Onoue, M., Seto, H., Horie, T., Aoyagi, N., Yamaoka, M., Matsukage, A., Yoshida, S. & Sakaguchi, K. Fatty acids selectively inhibit eukaryotic DNA polymerase activities in vitro. Biochim. Biophys. Acta 1308, 256-262 (1996)./ Umeda, S.; Muta, T.; Ohsato, T.; Takamatsu, C.; Hamasaki, N.; Kang, D. The D-loop structure of human mtDNA is destabilized directly by 1-methyl-4-phenylpyridinium ion (MPP+), a parkinsonism-causing toxin. Eur. J. Biochem. 2000, 267, 200-206./Mizushina, Y., Yoshida, S., Matsukage, A. & Sakaguchi, K. The inhibitory action of fatty acids on DNA polymerase β. Biochim. Biophys. Acta 1336, 509-521 (1997)./Ogawa, A.; Murate, T.; Suzuki, M.; Nimura, Y.; Yoshida, S. Lithocholic acid, a putative tumor promoter, inhibits mammalian DNA polymerase β. Jpn. J. Cancer Res. 1998, 89, 1154-1159.)。
【0040】
合成反応のテンプレートとしては、poly(dA)/oligo(dT)18 (A/T = 2/1) とdTTPを、DNA合成のプライマーとしては[i.e., 2’-deoxynucleoside 5’-triphosphate (dNTP)] を使用した。TdTの場合は oligo(dT)18 (3'-OH) と dTTPをDNAプライマーおよびヌクレオチド基質として使用した。
【0041】
阻害活性を調べる被験物質はジメチルスルホキシド(DMSO)に希釈し30秒間超音波処理して分散させた。被験物質溶液4μlを酵素溶液16μl(0.05 units)に加え、0℃で10分間保持した。この混合物のうち8μlを採取し、16μlの活性測定用溶液を加え、37℃で60分間保持した。ただし、Taq 合成酵素の場合は74℃で反応を行った。阻害剤を加えない場合の酵素活性を100%として、阻害剤を加えた場合の残存活性を算出した。阻害剤の濃度を様々に変えた際の残存酵素活性を求め、残存酵素活性が50%となる阻害剤の濃度(IC50値)を算出した。酵素活性の1ユニットは37℃で60分間に1 nmol のdNTP (i.e., dTTP) を合成のDNA鋳型プライマーに導入するのに必要な酵素量と定義した。
【0042】
被験物質としては、以下に化学構造式を示すアシル化ステロール配糖体、β-シトステロール、リノール酸、及び、D−グルコースを使用した(以下、化合物1、2、3、及び4と表記する)。結果を表1に示す。
【0043】
化合物1の化学構造式を以下に示す。
【化1】
【0044】
化合物2の化学構造式を以下に示す。
【化2】
【0045】
化合物3の化学構造式を以下に示す。
【化3】
【0046】
化合物4の化学構造式を以下に示す。
【化4】
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示したように、アシル化ステロール配糖体は、ファミリーYのDNA合成酵素のみを特異的、且つ、強力に阻害した。一方、アシル化ステロール配糖体の構成成分であるリノール酸はファミリーA、B、X及びYのDNA合成酵素を非特異的に、弱く阻害した。また、アシル化ステロール配糖体の構成成分であるβ-シトステロール及びD−グルコースは何れのDNA合成酵素も阻害しなかった。