【実施例】
【0130】
〔化合物(1)の実施例〕
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例によって制限されない。なお特に断りのない限り、「%」は「重量%」を意味する。得られた化合物は、
1H−NMR分析で得られる核磁気共鳴スペクトル、ガスクロマトグラフィー(GC)分析で得られるガスクロマトグラムなどにより同定した。これらによる測定方法は後述する方法に従った。なお、各実施例中において、Cは結晶を、SAはスメクチックA相を、SBはスメクチックB相を、SXは相構造未解析のスメクチック相を、Nはネマチック相を、Iは等方相を示し、相転移温度の単位はすべて℃である。
【0131】
1H−NMR分析:測定は、DRX−500(ブルカーバイオスピン(株)製)を用いた。CDCl
3など重水素化されたサンプルが可溶な溶媒に溶解させた溶液を、室温にて核磁気共鳴装置を用いて測定した。なお、δ値のゼロ点の基準物質にはテトラメチルシラン(TMS)を用いた。なお、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、mはマルチプレットの意味である。
【0132】
化合物中のエチレン基のシス/トランスの同定は
1H−NMR分析により行った。エチレン基上の水素のフッ素とのカップリング定数(J
HF)を求め、この値が39−41Hzの場合にトランスと同定し、21−22Hzの場合にシスと同定した。
【0133】
ガスクロマトグラフ分析:測定には島津製作所製のGC−2014型ガスクロマトグラフを用いた。キャリアーガスはヘリウム(2ml/分)である。試料気化室を280℃に、検出器(FID)を300℃に設定した。成分化合物の分離には、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm;固定液相はジメチルポリシロキサン;無極性)を用いた。このカラムは、180℃で2分間保持したあと、5℃/分の割合で280℃まで昇温した。試料はアセトン溶液(0.1重量%)に調製したあと、その1μlを試料気化室に注入した。記録計は島津製作所製のC−R7A型Chromatopac、またはその同等品である。得られたガスクロマトグラムは、成分化合物に対応するピークの保持時間およびピークの面積を示した。
【0134】
試料はトルエンに溶解して、1重量%の溶液となるように調製し、得られた溶液1μlを試料気化室に注入した。
記録計としては島津製作所製のC−R7A型Chromatopac、またはその同等品を用いた。得られたガスクロマトグラムには、成分化合物に対応するピークの保持時間およびピークの面積値が示されている。
【0135】
なお、試料の希釈溶媒としては、例えば、クロロホルム、ヘキサンを用いてもよい。また、カラムとしては、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Agilent Technologies Inc.製のHP−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Restek Corporation製のRtx−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、SGE International Pty.Ltd製のBP−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)などを用いてもよい。
【0136】
ガスクロマトグラムにおけるピークの面積比は成分化合物の割合に相当する。一般には、分析サンプルの成分化合物の重量%は、分析サンプルの各ピークの面積%と完全に同一ではないが、本発明において上述したカラムを用いる場合には、実質的に補正係数は1であるので、分析サンプル中の成分化合物の重量%は、分析サンプル中の各ピークの面積%とほぼ対応している。成分の液晶性化合物における補正係数に大きな差異がないからである。ガスクロクロマトグラムにより液晶組成物中の液晶性化合物の組成比をより正確に求めるには、ガスクロマトグラムによる内部標準法を用いる。一定量正確に秤量された各液晶性化合物成分(被検成分)と基準となる液晶性化合物(基準物質)を同時にガスクロ測定して、得られた被検成分のピークと基準物質のピークとの面積比の相対強度をあらかじめ算出する。基準物質に対する各成分のピーク面積の相対強度を用いて補正すると、液晶組成物中の液晶性化合物の組成比をガスクロ分析からより正確に求めることができる。
【0137】
[実施例1]
1−エトキシ−2,3−ジフルオロ−4−(トランス−1−フルオロ−2−(4−プロピルシクロへキシ)ビニル)ベンゼン(1−a−3)を下記に示す合成スキームに従って合成した。
【0138】
【0139】
1−エトキシ−2,3−ジフルオロブロモベンゼン(T−2)の合成
4−ブロモ−2,3−ジフルオロフェノール(T−1)(195.0g)、ブロモエタン(196.2g)およびテトラブチルアンモニウムブロミド(以下、TBABという)(24.2g)の水(400ml)溶液に、水酸化ナトリウム(75.9g)を加え、窒素雰囲気下80℃で6時間加熱撹拌した。反応終了後ヘプタンにて抽出し、有機層を水および飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して黒色油状物を得た。このものを蒸留にて精製することにより、1−エトキシ−2,3−ジフルオロブロモベンゼン(T−2)を無色油状物として(230.0g、収率97%)得た。
【0140】
化合物(T−3)の合成
上記工程で得られた化合物(T−2)(129.5g)をDryTHF(500ml)に溶解させ、−70℃まで冷却した。窒素雰囲気下n−BuLi(500ml)を滴下し、−70℃で2時間撹拌した。その後ホウ酸トリメチル(129.5g)のDryTHF溶液を−70℃でゆっくりと滴下し、室温まで昇温して16時間撹拌した。反応終了後2N−HCl(200ml)を加えた後、トルエンにて抽出し、水、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して淡茶色固体を得た。このものを再結晶(容量比で、ヘプタン:トルエン=4:1)することにより、(T−20)を無色結晶として(117.2g、収率71%)得た。
【0141】
化合物(T−5)の合成
フルオロトリブロモメタン(25g)とトリフェニルフォスフィン(100g)のエチレングリコールジメチルエーテル溶液を70℃で1時間撹拌した。反応液を冷却し、そこに(T−4)(25g)を加え、さらに1時間撹拌したあと、徐々に室温に戻した。反応液をろ過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン)で精製し、無色油状物として(T−5)(12.5g、収率54%)を得た。
【0142】
1−エトキシ−2,3−ジフルオロ−4−(トランス−1−フルオロ−2−(4−プロピルシクロへキシ)ビニル)ベンゼンの合成
上記工程で得た化合物(T−5)(3.5g)と化合物(T−3)(3.7g)をトルエンに溶解させ、水、エタノール、Pd(PPh
3)
4(0.81g)、TBAB(0.23g)および炭酸カリウム(5.82g)を加えて6時間加熱還流した。反応終了後酢酸エチルにて抽出し、2N−NaOH水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して淡茶色固体を得た。このものをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(容量比で、ヘプタン:トルエン=6:1)、及び再結晶(エタノール)することにより、1−エトキシ−2,3−ジフルオロ−4−(トランス−1−フルオロ−2−(4−プロピルシクロへキシ)ビニル)ベンゼンを無色結晶として(1.18g、収率26%)得た。
【0143】
物性は下記組成例の項に記載した様に、15重量%の化合物および85重量%の母液晶Aを混合することによって試料を調製し、測定によって得られた値から外挿法によって算出した。外挿値=(試料の測定値−0.85×母液晶Aの測定値)/0.15。この化合物の物性は、NI=79.9℃,Δε=−1.99, Δn=0.156, η=24.8mPa・s, K
33/K
11=1.35, C 62.8 N 81.5 Iso であった。
【0144】
1H−NMR(CDCl
3):δ(ppm);7.15(t,1H)、6.71(t,1H)、5.24(dd,1H,J
HF=40Hz)、4.12(q,2H)、2.56(q,1H)、1.80(t,4H)、1.46(t,3H)、1.37−1.1(m,7H)、1.05−0.90(m,2H)、0.89(t,3H)
【0145】
[実施例2]
4−(2−(4−エトキシ−2,3−ジフルオロフェニル)−トランス−2−フルオロビニル)−4’−プロピルビシクロヘキサン(1−b−3)を下記に示す合成スキームに従って合成した。
【0146】
【0147】
化合物(T−7)の合成
フルオロトリブロモメタン(2.5g)とトリフェニルフォスフィン(10g)のエチレングリコールジメチルエーテル溶液を70℃で1時間撹拌した。反応液を冷却し、そこに(T−6)(3.8g)を加え、さらに1時間撹拌したあと、徐々に室温に戻した。反応液をろ過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン)で精製し、無色結晶として(T−7)(2.13g、収率60%)を得た。
【0148】
4−(2−(4−エトキシ−2.3−ジフルオロフェニル)−トランス−2−フルオロビニル)−4‘−プロピルビシクロヘキサンの合成
上記工程で得た化合物(T−7)(0.5g)と実施例1で得られた(T−3)(0.46g)をトルエンに溶解させ、水、エタノール、Pd(PPh
3)
4(0.09g)、TBAB(0.02g)および炭酸カリウム(0.63g)を加えて6時間加熱還流した。反応終了後酢酸エチルにて抽出し、2N−NaOH水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して淡茶色固体を得た。このものをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(容量比で、ヘプタン:トルエン=4:1)、及び再結晶(エタノール)することにより、4−(2−(4−エトキシ−2.3−ジフルオロフェニル)−トランス−2−フルオロビニル)−4‘−プロピルビシクロヘキサンを無色結晶として(0.5g、収率81%)得た。
【0149】
この化合物の物性は、NI=206.6℃,Δε=−2.37, Δn=0.197, η=36.0mPa・s, K
33/K
11=1.229, C 89.4 N 236.7 Iso であった。物性は[実施例1]と同様にして測定した。
【0150】
1H−NMR(CDCl
3):δ(ppm);7.15(t,1H)、6.71(t,1H)、5.24(dd,1H,J
HF=40Hz)、4.12(q,2H)、2.56(q,1H)、1.84−1.70(m,8H)、1.46(t,3H)、1.37−0.9(m,13H)、0.90−0.81(m,2H)、0.89(t,3H)
【0151】
[実施例3]
4−エトキシ−2,2‘,3,3’−テトラフルオロ−4’−(トランス−1−フルオロ−2−(4−プロピルシクロへキシル)ビニル)ビフェニル(1−c−3)を下記に示す合成スキームに従って合成した。
【0152】
【0153】
化合物(T−9)の合成
(T−8)(10g)をDryTHF(100ml)に溶解させ、−70℃まで冷却した。窒素雰囲気下sec−BuLi(48ml)を滴下し、−70℃で2時間撹拌した。その後ホウ酸トリメチル(5.4g)のDryTHF溶液を−70℃でゆっくりと滴下し、室温まで昇温して16時間撹拌した。反応終了後2N−HCl(200ml)を加えた後、トルエンにて抽出し、水、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して淡茶色固体を得た。このものを再結晶(容量比で、ヘプタン:トルエン=4:1)することにより、(T−9)を無色結晶として(9.3g、収率80%)得た。
【0154】
4−エトキシ−2,2‘,3,3’−テトラフルオロ−4’−(トランス−1−フルオロ−2−(4−プロピルシクロへキシル)ビニル)ビフェニルの合成
上記工程で得た化合物(T−9)(2.6g)と実施例1で得られた(T−3)(1.5g)をトルエンに溶解させ、水、エタノール、Pd(PPh
3)
4(0.34g)、TBAB(0.1g)および炭酸カリウム(2.5g)を加えて6時間加熱還流した。反応終了後酢酸エチルにて抽出し、2N−NaOH水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して淡茶色固体を得た。このものをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(容量比で、ヘプタン:トルエン=2:1)、及び再結晶(エタノール)することにより、4−エトキシ−2,2‘,3,3’−テトラフルオロ−4’−(トランス−1−フルオロ−2−(4−プロピルシクロへキシル)ビニル)ビフェニルを無色結晶として(0.88g、収率33%)得た。
【0155】
この化合物の物性は、NI=164.6℃,Δε=−5.37, Δn=0.249, η=77.2mPa・s, K
33/K
11=1.078, C 141.6 N 189.7 Iso であった。物性は[実施例1]と同様にして測定した。
【0156】
1H−NMR(CDCl
3):δ(ppm);7.31(t,1H)、7.11(t,1H)、7.04(t,1H)、6.81(t,1H)、5.54(dd,1H,J
HF=40Hz)、4.12(q,2H)、2.56(q,1H)、1.80(t,4H)、1.46(t,3H)、1.37−1.1(m,7H)、1.05−0.90(m,2H)、0.89(t,3H)
【0157】
[実施例1]〜[実施例3]に記載した合成法をもとに、下記の[表1]〜[表3]に示した化合物を合成する。なお、[実施例1]〜[実施例3]で得られた化合物(1−a−3)、(1−b−3)、および(1−c−3)も再掲した。
【0158】
【0159】
[表1]
【0160】
【0161】
[表2]
【0162】
【0163】
[表3]
【0164】
本発明の代表的組成の一例を以下に示す。物性の測定方法は後述する方法に従った。
【0165】
液晶性化合物の物性を測定する試料としては、化合物そのものを試料とする場合、化合物を母液晶と混合して試料とする場合の2種類がある。
【0166】
化合物を母液晶と混合した試料を用いる後者の場合には、以下の方法で測定を行う。まず、得られた液晶性化合物15重量%と母液晶85重量%とを混合して試料を作製する。そして、得られた試料の測定値から、下記式に示す式に示す外挿法にしたがって、外挿値を計算する。この外挿値をこの化合物の物性値とする。
【0167】
〈外挿値〉=(100×〈試料の測定値〉−〈母液晶の重量%〉×〈母液晶の測定値〉)/〈液晶性化合物の重量%〉
液晶性化合物と母液晶との割合がこの割合であっても、スメクチック相、または結晶が25℃で析出する場合には、液晶性化合物と母液晶との割合を10重量%:90重量%、5重量%:95重量%、1重量%:99重量%の順に変更をしていき、スメクチック相、または結晶が25℃で析出しなくなった組成で試料の測定値を得てから、上記式にしたがって外挿値を求めて、これを液晶性化合物の物性値とする。
【0168】
上記測定に用いる母液晶としては様々な種類が存在するが、例えば、母液晶Aの組成は以下のとおりである。
母液晶A:
【0169】
【0170】
母液晶Aの物性は次のとおりであった。上限温度(NI)=74.6℃;光学異方性(Δn)=0.087;誘電率異方性(Δε)=−1.3。
【0171】
この母液晶Aに実施例1に記載の1−エトキシ−2,3−ジフルオロ−4−(トランス−1−フルオロ−2−(4−プロピルシクロへキシ)ビニル)ベンゼン(1−a−3)を15重量%添加して物性を測定した。その結果、上限温度(NI)=79.9℃;光学異方性(Δn)=0.156;粘度(η)=24.8mPa・sであった。
【0172】
[比較例1]
1−エトキシ−2,3−ジフルオロ−4−(トランス−2−(4−プロピルクロヘキシル)ビニル)ベンゼン(S−3)を合成し、この化合物の15重量%と母液晶Aの85重量%とからなる組成物を調製し、同様にして物性を測定した。その結果、上限温度(NI)=69.9℃;光学異方性(Δn)=0.144;粘度(η)=34.4mPa・sとなり、本願化合物(1−a−3)の方が高い透明点、大きな光学異方性及び小さな粘度を有することが分かった。
【0173】
母液晶Aに実施例2に記載の4−(2−(4−エトキシ−2,3−ジフルオロフェニル)−トランス−2−フルオロビニル)−4’−プロピルビシクロヘキサン(1−b−3)を15重量%添加して物性を測定した。その結果、光学異方性(Δn)=0.197;粘度(η)=36.0mPa・sであった。また母液晶ZLI−1132(メルク社製)に4−(2−(4−エトキシ−2,3−ジフルオロフェニル)−トランス−2−フルオロビニル)−4’−プロピルビシクロヘキサン(1−b−3)を15%添加し紫外線照射前後の組成物の透明点の変化を測定したところ、76.9℃から76.7℃であった。
【0174】
[比較例2]
4−(4−エトキシ−2,3−ジフルオロフェニル)−4’−プロピルビシクロヘキサン(S−4)を合成し、この化合物の15重量%と母液晶Aの85重量%とからなる組成物を調製し、同様にして物性を測定した。その結果、光学異方性(Δn)=0.166;粘度(η)=41.1mPa・sとなった。また母液晶ZLI−1132(メルク社製)に4−(4−エトキシ−2,3−ジフルオロフェニル)−4’−プロピルビシクロヘキサンを15%添加し紫外線照射前後の組成物の透明点の変化を測定したところ、88.2℃から56.3℃となり、本願化合物(1−b−3)の方が大きな光学異方性、小さな粘度及び優れた光に対する安定性を有することが分かった。
【0175】
さらに本発明の代表的な組成物を[実施例4]([組成物例1]〜[組成物例11])にまとめた。最初に、組成物の成分である化合物とその割合(重量%)を示した。化合物は[表4]の取り決めに従い、左末端基、結合基、環構造、および右末端基の記号と式番号とによって表示した。1,4−シクロヘキシレンの立体配置はトランスである。末端基の記号がない場合は、末端基が水素であることを意味する。
【0176】
【0177】
特性の測定は下記の方法にしたがって行うことができる。それらの多くは、日本電子機械工業会規格(Standard of Electric Industries Association of Japan)EIAJ・ED−2521Aに記載された方法、またはこれを修飾した方法である。測定に用いたTN素子には、TFTを取り付けなかった。
【0178】
転移温度(℃):次のいずれかの方法で測定した。1)偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP−52型ホットステージ)に試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料が相変化したときの温度を測定した。2)パーキンエルマー社製走査熱量計DSC−7システムを用い3℃/分速度で測定した。
【0179】
結晶はCと表した。結晶の区別がつく場合は、それぞれC
1またはC
2と表した。スメクチック相はSと表した。結晶はNと表した。液体(アイソトロピック)はIsoと表した。ネマチック相はNと表した。スメクチック相の中で、スメクチックB相、スメクチックC相またはスメクチックA相の区別がつく場合は、それぞれS
B、S
CまたはS
Aと表した。転移温度の表記として、「C 50.0 N 100.0 Iso」とは、結晶からネマチック相への転移温度(CN)が50.0℃であり、ネマチック相から液体への転移温度(NI)が100.0℃であることを示す。他の表記も同様である。
【0180】
ネマチック相の上限温度(NI;℃):偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。
【0181】
ネマチック相の下限温度(T
C;℃):ネマチック相を有する試料を0℃、−10℃、−20℃、−30℃、および−40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が−20℃ではネマチック相のままであり、−30℃では結晶(またはスメクチック相)に変化したとき、T
Cを<−20℃と記載する。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
【0182】
化合物の相溶性:類似の構造を有する幾つかの化合物を混合してネマチック相を有する母液晶を調製した。測定する化合物とこの母液晶とを混合した組成物を得た。混合する割合の一例は、15重量%の化合物と85重量%の母液晶である。この組成物を−20℃、−30℃のような低い温度で30日間保管した。この組成物の一部が結晶(またはスメクチック相)に変化したか否かを観察した。必要に応じて混合する割合と保管温度とを変更した。このようにして測定した結果から、結晶(またはスメクチック相)が析出する条件および結晶(またはスメクチック相)が析出しない条件を求めた。これらの条件が相溶性の尺度である。
【0183】
粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s):測定にはE型回転粘度計を用いた。
【0184】
粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s):測定はM. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995) に記載された方法に従った。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmのVA素子に試料を入れた。この素子に30ボルト〜50ボルトの範囲で1ボルト毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM. Imaiらの論文、40頁の計算式(8)とから回転粘度の値を得た。この計算に必要な誘電率異方性は、下記の誘電率異方性で測定した値を用いた。
【0185】
光学異方性(屈折率異方性;Δn;25℃で測定):測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビング(rubbing)したあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率(n‖)は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率(n⊥)は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性の値は、Δn=n‖−n⊥、の式から計算した。試料が組成物のときはこの方法によって光学異方性を測定した。試料が化合物のときは、化合物を適切な組成物に混合したあと光学異方性を測定した。化合物の光学異方性は外挿値である。
【0186】
誘電率異方性(Δε;25℃で測定):試料が化合物のときは、化合物を適切な組成物に混合したあと誘電率異方性を測定した。化合物の誘電率異方性は外挿値である。
よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板から、間隔(セルギャップ)が20μmであるVA素子を組み立てた。
同様の方法で、ガラス基板にポリイミドの配向膜を調製した。得られたガラス基板の配向膜にラビング処理をした後、2枚のガラス基板の間隔が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子を組み立てた。
得られたVA素子に試料(液晶組成物、または液晶性化合物と母液晶との混合物)を入れ、0.5V(1kHz、サイン波)を印加して、液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。
また、得られたTN素子に試料(液晶組成物、または液晶性化合物と母液晶との混合物)を入れ、0.5V(1kHz、サイン波)を印加して、液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。
誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥の式から計算した。
この値が負である組成物が、負の誘電率異方性を有する組成物である。
【0187】
しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):試料が化合物のときは、化合物を適切な組成物に混合したあとしきい値電圧を測定した。化合物のしきい値電圧は外挿値である。
2枚のガラス基板の間隔(ギャップ)が約9μmであり、ホメオトロピック配向に処理したノーマリーブラックモード(normally black mode)の液晶表示素子に試料を入れた。この素子に周波数が32Hzである矩形波を印加した。矩形波の電圧を上昇させ、素子を通過する光の透過率10%になったときの電圧の値を測定した。
【0188】
電圧保持率(VHR;25℃で測定;%):測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は6μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線によって重合する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率である。
【0189】
耐光試験:二酸化珪素を斜方蒸着したガラス基板を調製した。得られた2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ) が10μmであるセルに試料を入れてTN素子を作製した。このT N 素子に12mW/cm
2の紫外光を20分間照射した(光源と被写体の距離は20cm)。この資料を上記の方法で透明点を測定し、紫外線照射前の資料の透明点と比較した。その変化が少ないほど耐光性に優れるといえる。
【0190】
弾性定数(K11:広がり(spray)弾性定数、K33:曲げ(bend)弾性定数;25℃で測定;pN):測定には株式会社東陽テクニカ製のEC−1型弾性定数測定器を用いた。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmである垂直配向セルに試料を入れた。このセルに20ボルトから0ボルト電荷を印加し、静電容量および印加電圧を測定した。測定した静電容量(C)と印加電圧(V)の値を『液晶デバイスハンドブック』(日刊工業新聞社)、75頁にある式(2.98)、式(2.101)を用いてフィッティングし、式(2.100)から弾性定数の値を得た。
[実施例4]
【0191】
[組成例1]
3−HVFB(2F,3F)−O2 (1−a−3) 5%
3−HHVFB(2F,3F)−O2 (1−b−3) 3%
3−HH−O1 (12−1) 8%
5−HH−O1 (12−1) 4%
3−HH−4 (12−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 8%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 21%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 5%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 7%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 14%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 20%
NI=71.8℃;Δn=0.085;η=23.3mPa・s;Δε=−4.0.
【0192】
[組成例2]
3−HHVFB(2F,3F)−O2 (1−b−3) 3%
3−HVFB(2F,3F)B(2F,3F)−O2(1−c−3) 3%
3−HB−O1 (12−5) 15%
3−HH−4 (12−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 7%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
3−HHB−1 (13−1) 6%
NI=88.1℃;Δn=0.097;η=35.9mPa・s;Δε=−3.3.
【0193】
[組成例3]
3−HVFB(2F,3F)−O2 (1−a−3) 3%
3−HHVFB(2F,3F)−O2 (1−b−3) 3%
3−HB−O1 (12−5) 15%
3−HH−4 (12−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 6%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
6−HEB(2F,3F)−O2 (6−6) 6%
NI=84.7℃;Δn=0.092;η=34.2mPa・s;Δε=−3.6.
上記組成物100重量部に光学活性化合物(Op−5)を0.25重量部添加したときのピッチは61.2μmであった。
【0194】
[組成例4]
3−HHVFB(2F,3F)−O2 (1−b−3) 3%
3−HVFB(2F,3F)B(2F,3F)−O2 (1−c−3) 3%
1V2−BEB(F,F)−C (5−15) 3%
3−HB−C (5−1) 18%
2−BTB−1 (12−10) 10%
5−HH−VFF (12−1) 30%
3−HHB−1 (13−1) 4%
VFF−HHB−1 (13−1) 8%
VFF2−HHB−1 (13−1) 8%
3−H2BTB−2 (13−17) 5%
3−H2BTB−3 (13−17) 4%
3−H2BTB−4 (13−17) 4%
NI=88.0℃;Δn=0.135;Δε=4.0;η=13.0mPa・sec.
【0195】
[組成例5]
3−HVFB(2F,3F)−O2 (1−a−3) 3%
3−HHVFB(2F,3F)−O2 (1−b−3) 3%
2−HB−C (5−1) 5%
3−HB−C (5−1) 12%
3−HB−O2 (12−5) 11%
2−BTB−1 (12−10) 3%
3−HHB−F (3−1) 4%
3−HHB−1 (13−1) 8%
3−HHB−O1 (13−1) 5%
3−HHB−3 (13−1) 14%
3−HHEB−F (3−10) 2%
5−HHEB−F (3−10) 4%
2−HHB(F)−F (3−2) 7%
3−HHB(F)−F (3−2) 7%
5−HHB(F)−F (3−2) 7%
3−HHB(F,F)−F (3−3) 5%
NI=103.5℃;Δn=0.104;Δε=4.2;η=18.8mPa・sec.
【0196】
[組成例6]
3−HVFB(2F,3F)−O2 (1−a−3) 3%
3−HHVFB(2F,3F)−O2 (1−b−3) 3%
5−HB−CL (2−2) 3%
7−HB(F)−F (2−3) 7%
3−HH−4 (12−1) 9%
3−HH−EMe (12−2) 21%
3−HHEB−F (3−10) 8%
5−HHEB−F (3−10) 8%
3−HHEB(F,F)−F (3−12) 10%
4−HHEB(F,F)−F (3−12) 5%
4−HGB(F,F)−F (3−103) 5%
5−HGB(F,F)−F (3−103) 6%
2−H2GB(F,F)−F (3−106) 4%
3−H2GB(F,F)−F (3−106) 5%
5−GHB(F,F)−F (3−109) 3%
NI=85.0℃;Δn=0.071;Δε=4.7;η=18.7mPa・sec.