特許第5663976号(P5663976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5663976分極性電極、電気化学素子および鉛蓄電池
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  • 特許5663976-分極性電極、電気化学素子および鉛蓄電池 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663976
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】分極性電極、電気化学素子および鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/38 20130101AFI20150115BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20150115BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20150115BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150115BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20150115BHJP
   H01M 4/20 20060101ALI20150115BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   H01G11/38
   H01G11/42
   H01G11/86
   H01M4/62 B
   H01M4/14 Q
   H01M4/20 Z
   H01M10/06 L
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-146592(P2010-146592)
(22)【出願日】2010年6月28日
(65)【公開番号】特開2012-9775(P2012-9775A)
(43)【公開日】2012年1月12日
【審査請求日】2013年3月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大谷 祐子
【審査官】 柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−294575(JP,A)
【文献】 特開2010−140684(JP,A)
【文献】 特開平09−320604(JP,A)
【文献】 特開2005−097474(JP,A)
【文献】 特開2009−126873(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/032785(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00−11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極性電極、及び水系電解液を備えてなる電気化学素子であって、
前記分極性電極は、電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物を含有してなる分極性電極であり、
前記イソチアゾリン化合物を前記バインダー100質量部に対して0.001〜2.0質量部の割合で含み、
前記バインダーが、100質量部中に(メタ)アクリロニトリル単位10〜60質量部、ブタジエン単位35〜85質量部及びエチレン性不飽和カルボン酸単位0.5〜10質量部を含む重合体を含有する分極性電極であり、
前記電気化学素子が鉛蓄電池である、電気化学素子
【請求項2】
前記イソチアゾリン化合物が、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、の群より選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の電気化学素子
【請求項3】
前記分極性電極が、前記電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物を含有してなる複合粒子を乾式成形してなる請求項1または2に記載の電気化学素子
【請求項4】
前記分極性電極が、前記複合粒子を、ロール加圧成形する工程を有する乾式成形法によって成形してなる請求項3に記載の電気化学素子
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子、特に鉛蓄電池の構成要素として好ましく用いられる分極性電極に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、他の二次電池と比較して安価で大電流放電に適することから多くの産業にて使用されており、リチウムイオン二次電池等の高容量二次電池が隆盛を誇る今日もその重要性は失われておらず、現在でも鉛蓄電池性能向上の検討が精力的に行われている。鉛蓄電池には、短時間で大電流放電できるという長所がある反面、放電深度を大きくすると容量が低下する、すなわちサイクル特性が低下するという短所がある。そこで、近年、鉛蓄電池の前記長所をさらに向上させつつ、前記短所を改良することを目的として、活性炭を使用した分極性電極を採用した技術が報告されている。
【0003】
例えば特許文献1では、鉛活物質層の表面に、活性炭、バインダーおよび導電材を含む活物質層(以下、分極性電極という)が形成された鉛蓄電池用電極ならびにそれを備えた鉛蓄電池が記載されている。特許文献1においては、分極性電極のバインダーが種々例示されているが、その実施例においては、SBR(スチレンブタジエンゴム)、PTFE(フッ素系樹脂)およびアクリル系重合体が使用されている。
【0004】
【特許文献1】特開2010−73355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池では、電解液として硫酸が使用されることが多いため、バインダーには耐硫酸性が求められ、また、バインダーには抵抗が低いことも求められる。さらに、作業環境および製造効率の観点からは、水系のバインダーであることが好ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献1の実施例において使用されているSBRは比較的抵抗が高く、バインダー材料としては、必ずしも満足できる材料ではない。PTFEは高価であり、コスト削減が困難であり、生産性に劣る。さらに、アクリル系重合体は、耐硫酸性が十分ではなく、製品寿命の点で問題がある。
【0007】
また、鉛蓄電池に主として使用される電解液は硫酸であるため、バインダーとしても水系のバインダーが使用されることが好ましい。しかし、水系のバインダーの場合、保存期間が長期にわたると、バインダー自体、あるいはこれを用いて製造した電極形成用スラリーが経時的に劣化することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
(1)電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物を含有してなる分極性電極であり、
前記イソチアゾリン化合物を前記バインダー100質量部に対して0.001〜2.0質量部の割合で含み、
前記バインダーが、100質量部中に(メタ)アクリロニトリル単位10〜60質量部、ブタジエン単位35〜85質量部及びエチレン性不飽和カルボン酸単位0.5〜10質量部を含む重合体を含有する分極性電極。
【0009】
(2)前記電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物を含有してなる複合粒子を乾式成形してなる(1)に記載の分極性電極。
【0010】
(3)前記複合粒子を、ロール加圧成形する工程を有する乾式成形法によって成形してなる(2)に記載の分極性電極。
【0011】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の分極性電極、及び水系電解液を備えてなる電気化学素子。
【0012】
(5)電気化学素子が、電気二重層キャパシタである(4)に記載の電気化学素子。
【0013】
(6)電気化学素子が、鉛蓄電池である(4)に記載の電気化学素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バインダーとして特定の重合体を使用するため、内部抵抗が低いばかりでなく、引張強度が高く、優れた電解液含浸性を有する分極性電極が得られる。また、該バインダーに加え、イソチアゾリン化合物を併用する結果、電極形成用スラリーの経時的安定性が高く、作業効率が改善される、と同時に、また得られる電極の均一性、内部抵抗、引張強度および電解液含浸性にも優れるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】鉛蓄電池の一態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。
本発明に係る分極性電極は、電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物を含有してなる。
【0017】
(電極活物質)
分極性電極の電極活物質としては、電気二重層キャパシタに用いられる各種の炭素質材料が特に制限されることなく用いられる。炭素質材料としては、多孔性炭素質材料、層状炭素質材料が挙げられるが、この中でも比表面積がより大きいことから、多孔性炭素質材料が好ましい。
【0018】
多孔性炭素質材料は、電気二重層を利用する目的で使用されるため、通常は同じ重量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m/g以上、好ましくは500〜5,000m/g、より好ましくは1,000〜3,000m/gであることが好ましい。
【0019】
多孔性炭素質材料の具体例としては、活性炭、ポリアセン、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末または繊維を使用することができる。
【0020】
多孔性炭素質材料は、好ましくは活性炭であり、具体的にはフェノール樹脂、レーヨン系、アクリル繊維、ピッチ、またはヤシガラ等を炭素質原料として賦活処理した活性炭を挙げることができる。賦活処理方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等を用いたガス賦活や、水酸化カリウム、リン酸等を用いた薬品賦活などが挙げられる。
【0021】
多孔性炭素質材料の体積平均粒子径は、0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、更に好ましくは3〜35μmである。多孔性炭素質材料の体積平均粒子径がこの範囲にあると、電極の成形が容易で、電気二重層の容量も高くできるので好ましい。これらの多孔性炭素質材料は、単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。多孔性炭素質材料を組み合わせて使用する場合は、平均粒子径又は粒径分布の異なる二種類以上の炭素質材料を組み合わせて使用してもよい。多孔性炭素質材料は、通常は分極性電極全体の質量に対して50質量%以上である。
【0022】
層状炭素質材料の具体例としては、黒鉛、グラフィンが挙げられ、これらの中でも黒鉛が好ましい。
【0023】
(導電材)
分極性電極には、導電性を向上させることを目的とした導電材が配合される。導電材の具体的な例としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、およびケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相法炭素繊維等の炭素繊維;カーボンナノチューブが挙げられる。これらの中でも、導電性カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックがより好ましい。
【0024】
導電材の体積平均粒子径は、電極活物質の体積平均粒子径よりも小さいものが好ましく、通常0.001〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の粒径がこの範囲にあると、より少ない使用量で高い導電性が得られる。これらの導電材は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
導電材の量は、電極活物質100質量部に対して、通常は0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。導電材の量がこの範囲にあると、導電性に優れ、サイクル後の出力特性を向上させることができる。
【0026】
(バインダー)
バインダーは、(メタ)アクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びエチレン性不飽和カルボン酸単位を含む重合体を主としてなる。(メタ)アクリロニトリル単位は、(メタ)アクリロニトリルから導かれる繰り返し単位である。ここで、(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリルの両者を含む意味で用いられる。すなわち、(メタ)アクリロニトリルは、アクリロニトリルあるいはメタアクリロニトリルのいずれか一方であってもよく、また両者を同時に含むものであってもよい。
【0027】
また、ブタジエン単位は、ブタジエンから導かれる繰り返し単位である。
【0028】
エチレン性不飽和カルボン酸単位は、エチレン系不飽和カルボン酸から導かれる繰り返し単位であり、エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸(無水物)等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
【0029】
さらにバインダーには、上記単量体から導かれる繰り返し単位に加えて、これら単量体と共重合可能な他の単量体から導かれる繰り返し単位が含まれていてもよい。他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体等が挙げられ、これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0035】
バインダーを構成する上記重合体100質量部中に(メタ)アクリロニトリル単位は、10〜60質量部、好ましくは20〜60質量部、特に好ましくは20〜45質量部の割合で含まれ、ブタジエン単位は、35〜85質量部、好ましくは40〜75質量部、特に好ましくは45〜75質量部の割合で含まれ、エチレン性不飽和カルボン酸単位は、0.5〜10質量部、好ましくは1〜10質量部の割合で含まれる。
【0036】
本発明において、(メタ)アクリロニトリル単位量が60質量部を超えると、分極性電極の柔軟性が低下し、内部抵抗が大きくなる。一方、(メタ)アクリロニトリル単位量が10質量部未満であると、内部抵抗が大きくなったり、電極強度が小さくなる。ブタジエン単位量が85質量部を超えると、内部抵抗が大きくなったり、ハンドリング性が悪化したりする。一方、35質量部未満であると、接着強度や柔軟性が低下する。エチレン性不飽和カルボン酸単位量が10質量部を超えると、内部抵抗が大きくなる。一方、エチレン性不飽和カルボン酸単位量が0.5質量部未満であると、電極の強度が低下する。
【0037】
また、(メタ)アクリロニトリル、ブタジエンおよびエチレン性不飽和カルボン酸以外の他の単量体から導かれる繰り返し単位は、上記重合体100質量部中54.5質量部以下、好ましくは39質量部以下、特に好ましくは34質量部以下の割合で含まれていても良く、含まれていなくとも良い。
【0038】
本発明においては、バインダーとして特定の重合体を使用するため、内部抵抗が低いばかりでなく、引張強度が高く、優れた電解液含浸性を有する分極性電極が得られる。
【0039】
分極性電極における上記重合体を含むバインダーの含有量は、電極活物質100質量部に対して、通常は1〜20質量部、好ましくは3〜15質量部の範囲である。重合体の量がこの範囲にあると、分極性電極の結着性に優れ、引張強度が向上する。
【0040】
バインダーは、上記重合体を主としてなり、その全量が上記重合体により構成されていてもよいが、バインダー100質量部中50質量部以下の割合で、上記重合体に代えて、他の重合体が含まれていても良い。バインダーとして使用されることがある他の重合体の具体的な例としては、ハロゲン系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられる。これら他の重合体は単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
ハロゲン系重合体は、ハロゲン原子を含む単量体単位を含有する重合体である。ハロゲン原子の中でも、フッ素原子や塩素原子を含むフッ素系重合体や塩素系重合体が好ましい。フッ素系重合体および塩素系重合体の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、パーフルオロエチレン・プロペン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリクロロプレンが挙げられる。
【0042】
ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、などの共役ジエン単独重合体;ブチルゴムなどの共役ジエン共重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0043】
アクリレート系重合体は、アクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステルの単独重合体またはこれらを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。
【0044】
上記のような特定の重合体および任意に他の重合体を含むことがあるバインダーのガラス転移温度(以下Tgという)は、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは−50〜0℃である。バインダーのTgがこの範囲であると、少量の使用量で結着性に優れ、電極強度が高く、柔軟性に富み、電極形成時のプレス工程により電極密度を容易に高めることができる。また、バインダーは融点を有するものであってもよい。
【0045】
バインダーの形状は、結着性の向上、電極の容量の低下、および内部抵抗の増大を最小限に抑えるために、粒子状であることが最も好ましく、例えば、ラテックスのようなバインダー樹脂の粒子が溶媒に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0046】
バインダーの粒子径は特に限定されないが、体積平均粒子径で、通常は0.001〜100μm、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜1μmである。バインダーの体積平均粒子径がこの範囲であるときは、少量のバインダーの使用でも優れた結着力を分極性電極に与えることができる。
【0047】
バインダーの製造方法は特に限定されず、所定の比率で各単量体を含む組成物を用いた乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法または溶液重合法等の公知の重合法を採用することができる。中でも、乳化重合法で製造することが、バインダーの粒子径の制御が容易であるので好ましい。特に水を主溶媒とした水系での重合法が好ましい。
【0048】
(イソチアゾリン化合物)
本発明の分極性電極は、上記成分に加えて、さらにイソチアゾリン化合物を含む。
イソチアゾリン系化合物は、防腐剤として良く知られた化合物であり、一般的には下記構造式で示される。
【化1】
【0049】
(式中、Yは水素又は置換されていてもよい炭化水素基を、X及びXは、それぞれ、水素、ハロゲン又は炭素数1〜6のアルキル基をそれぞれ示す。なお、X、Xが共同して芳香環を形成してもよい。なお、X及びXは、それぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。)
【0050】
まず、上記化1式で表されるイソチアゾリン系化合物について説明する。
上記化1式において、Yは水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。Yで示される置換されていてもよい炭化水素基の置換基としては、例えばヒドロキシル基、ハロゲン(例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)、炭素数6〜10のアリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、炭素数1〜4のアルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基等)及び炭素数6〜10のアリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)等が挙げられる。前記置換基の中では、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。これらの置換基は1〜5個、好ましくは1〜3個の範囲で前記炭化水素基の水素を置換していてもよく、また前記置換基はそれぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。
【0051】
Yで示される置換されていてもよい炭化水素基の該炭化水素基としては、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基等が挙げられる。前記炭化水素基の中では炭素数1〜10のアルキル基や炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。
【0052】
前記炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、ノニル基及びデシル基等が挙げられる。これらアルキル基の中では、例えばメチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基や、例えばオクチル基、tert−オクチル基等の炭素数7〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。
【0053】
前記炭素数2〜6のアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基等が挙げられる。前記アルケニル基の中では、ビニル基、アリル基が好ましい。前記炭素数2〜6のアルキニル基としては、例えばエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基等が挙げられる。前記アルキニル基の中では、エチニル基、プロピニル基が好ましい。
【0054】
前記炭素数3〜10のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。前記シクロアルキル基の中では、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が好ましい。
【0055】
前記炭素数6〜14のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。前記アリール基の中では、フェニル基が好ましい。
【0056】
以上説明したように、Yで示される置換されていてもよい炭化水素基として種々のものが挙げられるが、これら炭化水素基の中では、メチル基やオクチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0057】
上記化1式において、X及びXは、同一又は相異なる水素、ハロゲン又は炭素数1〜6のアルキル基をそれぞれ示す。
前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、これらの中では塩素が好ましい。
【0058】
前記炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。前記アルキル基の中では、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。以上説明した置換基の中で、X1としては水素又は塩素がより好ましく、塩素がさらに好ましい。また、X2としては水素又は塩素がより好ましく、水素がさらに好ましい。
【0059】
上記化1式で表されるイソチアゾリン系化合物の具体例としては、例えば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−t−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0060】
これらの化合物の中では、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「CIT」と表すことがある。)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「MIT」と表すことがある。)、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「OIT」と表すことがある。)、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンが好ましく、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンがより好ましい。
【0061】
下記構造式は、上記化1式において、X、Xが共同して芳香環を形成したもののうち、ベンゼン環を形成した場合を示す。
【化2】
【0062】
(式中、Yは化1式の場合と同様であり、X〜Xは水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基をそれぞれ示す。)
【0063】
上記化2式において、X〜Xは、水素、ヒドロキシル基、ハロゲン(例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えばメトキシ及びエトキシ等)等が挙げられるが、これらの中では、ハロゲンや炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。これらX〜Xは、それぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。
【0064】
上記化2式で表わされるイソチアゾリン系化合物としては、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(以下において「BIT」と表すことがある。)、N−メチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0065】
これらイソチアゾリン系化合物は、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。上記イソチアゾリン化合物の中でも、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや1,2−ベンズ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンがより好ましい。
【0066】
イソチアゾリン化合物は、前記バインダー100質量部に対して0.001〜2.0質量部、好ましくは0.005〜1.5質量部、特に好ましくは0.005〜1.0質量部の割合で用いられる。
【0067】
本発明の分極性電極では、前記バインダーに加え、イソチアゾリン化合物を併用するため、バインダーおよび電極形成用スラリーの経時的安定性が高く、作業効率が改善され、また得られる電極の均一性、内部抵抗、引張強度および電解液含浸性にも優れる。
【0068】
(その他の成分)
また、本発明に係る分極性電極は、後述するスラリー製造のために各成分の分散を目的として分散剤を含むこともできる。分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、および、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体等も使用できる。
【0069】
これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用でき、中でも、分散剤としては、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。分散剤の使用量は、特に限定されないが、電極活物質100質量部に対して、通常は0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは0.8〜2.5質量部の範囲である。分散剤を用いることで、スラリー中の固形分の沈降や凝集を抑制できる。
【0070】
分極性電極は、さらに必要に応じてその他の添加剤を含有していてもよい。具体的には、後述するスラリーの電気的な安定性向上のため、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはノニオニックアニオン等の両性の界面活性剤や、アミノカルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などのキレート化合物などが挙げられる。
【0071】
(分極性電極の製造)
本発明の分極性電極は、上記電極活物質等を含み、その形成方法は特に制限されないが、たとえば、
電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物ならびに必要に応じて添加される各種添加剤を混練してなる電極形成用スラリーを、任意の支持体上に塗布乾燥し、シート状に成形する方法(湿式成形法)、
【0072】
電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物ならびに必要に応じて添加される各種添加剤を含む複合粒子を調製し、複合粒子をロールプレスする方法(乾式成形法)などが挙げられる。特に、乾式成形法は、溶剤を使用しないため、作業環境上好ましく、また得られる分極性電極の電解液含浸性にも優れる。
【0073】
乾式成形法による分極性電極の製造について、詳述する。乾式成形法では、電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物ならびに必要に応じて添加される各種添加剤を含む複合粒子を調製する。複合粒子の製造方法は、特に限定されないが、電極活物質等を溶媒に分散してスラリーを得て、得られたスラリーを噴霧乾燥する工程を有する製造方法であれば、生産性良く真球状の複合粒子が得られるので好ましい。
【0074】
<スラリー製造工程>
スラリーの製造工程においては、上記の電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物ならびに必要に応じて添加される各種添加剤を溶媒に分散または溶解して、これらが分散または溶解されてなるスラリーを得る。
【0075】
スラリーを得るために用いる溶媒は、特に限定されないが、上記の分散剤を用いる場合には、分散剤を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもでき、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。また、鉛蓄電池の電解液である硫酸を添加してpHを調整してもよい。
【0076】
スラリーを調製するときに使用する溶媒の量は、スラリーの固形分濃度が、通常1〜70質量%、好ましくは15〜60質量%の範囲となる量である。固形分濃度がこの範囲にあるときに、バインダーが均一に分散するため好適である。
【0077】
スラリーの粘度は、室温において、通常10〜5,000mPa・s、好ましくは50〜2,000mPa・sの範囲である。スラリーの粘度がこの範囲にあると、噴霧乾燥造粒工程の生産性を上げることができる。
【0078】
電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物ならびに必要に応じて添加される各種添加剤、を溶媒に分散または溶解する方法または手順は特に限定されず、例えば、溶媒にこれらを一括で添加し混合する方法;溶媒に分散剤を溶解した後、溶媒に分散させたイソチアゾリン化合物およびバインダー(例えば、ラテックス)を添加して混合し、最後に電極活物質および導電材を添加して混合する方法;溶媒に分散させたイソチアゾリン化合物およびバインダーに、電極活物質および導電材を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた分散剤を添加して混合する方法;溶媒に分散させたイソチアゾリン化合物およびバインダーに、溶媒に溶解させた分散剤、ならびに電極活物質および導電材を添加して混合する方法;等が挙げられる。混合の手段としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。混合は、通常、室温〜60℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0079】
<噴霧乾燥工程>
次に、前記スラリーを噴霧乾燥して造粒する。噴霧乾燥法は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥する方法である。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーは、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置がある。回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、複合粒子の一次平均体積粒子径が大きくなる。
【0080】
回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。一方、加圧方式は、スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式である。
【0081】
噴霧されるスラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温以上にしたものであってもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥法において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、例えば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0082】
上記の製造方法で得られた複合粒子は、球状度が20%を上回らない範囲で、必要に応じて粒子製造後の後処理を実施することもできる。具体例としては、複合粒子に上記の電極活物質、導電材、バインダーおよびイソチアゾリン化合物等と混合することによって、粒子表面を改質して、複合粒子の流動性を向上または低下させる、連続加圧成形性を向上させる、複合粒子の電気伝導性を向上させる、鉛蓄電池の動作におけるガス発生を抑制することなどができる。
【0083】
本発明に好適に用いる複合粒子の体積平均粒子径は、通常0.1〜1000μm、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜100μmの範囲である。複合粒子の体積平均粒子径が前記範囲にあるとき、複合粒子が凝集を起こしにくく、ハンドリングしやすく、分極性電極を形成しやすいので好ましい。体積平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0084】
<複合粒子の乾式成形>
上記複合粒子を乾式成形によりシート状に成膜することで、本発明の分極性電極が得られる。シート状成形物を得る方法としては、ロール加圧成形が好適である。成形時の温度は、通常0〜200℃であり、複合粒子に含まれるバインダーの融点またはガラス転移温度より高いことが好ましく、融点またはガラス転移温度より20℃以上高いことがより好ましい。ロール加圧成形においては、成形速度は通常0.1〜20m/分、好ましくは5〜10m/分の範囲である。またロール間のプレス線圧は、通常0.2〜30kN/cm、好ましくは3〜15kN/cmにして行う。
【0085】
得られた分極性電極の厚みの均一にし、密度を上げて高容量化をはかるために、必要に応じて更に後加圧を行っても良い。
【0086】
(分極性電極)
本発明に係る分極性電極の密度は、特に制限されないが、通常は0.30〜10g/cm、好ましくは0.35〜5.0g/cm、より好ましくは0.40〜3.0g/cmである。また、分極性電極の厚みは、特に制限されないが、通常は5〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは30〜300μmである。
【0087】
本発明の分極性電極は、バインダーとして特定の重合体を使用するため、内部抵抗が低いばかりでなく、引張強度が高く、優れた電解液含浸性を有する分極性電極が得られる。また、該バインダーに加え、イソチアゾリン化合物を併用するため、電極形成用スラリーの経時的安定性が高く、作業効率が改善され、また得られる電極の均一性、内部抵抗、引張強度および電解液含浸性にも優れる。
【0088】
本発明の分極性電極は、電気二重層を形成するため、各種の電気化学素子の構成要素として好ましく用いられるが、特に水系電解液を用いた電気二重層キャパシタ、水系電解液を用いた鉛蓄電池の構成要素として好ましく用いられる。
【0089】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、前記分極性電極及び水系電解液を備えてなる。
水系電解液用の電気化学素子としては、鉛蓄電池、アルカリ電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスが挙げられるが、電気二重層を形成する点より、電気二重層キャパシタや鉛蓄電池が好ましい。
【0090】
(電気二重層キャパシタ)
本発明の電気二重層キャパシタは、上記本発明の分極性電極、もしくは、これと集電体が積層してなる積層電極及び水系電解液を備えてなる。集電体を用いる場合、電極に使用される集電体用材料としては、電解液の種類に応じて選択すればよい。例えば、金属、炭素、導電性高分子等を用いることができ、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、その他合金等が使用される。集電体は、フィルムまたはシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜60μmである。またシート状集電体は、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状などの空孔を有した形状であってもよい。
【0091】
集電体には、分極性電極との接触抵抗の低減、または分極性電極との付着性向上のために、必要に応じて表面化学処理、表面粗面化処理があらかじめ施されていても良い。表面化学処理としては、酸処理、クロメート処理等が挙げられる。表面粗面化処理としては、電気化学的エッチング処理、酸またアルカリによるエッチング処理が挙げられる。
【0092】
また集電体は、その表面に導電性接着剤を塗布したものを用いてもよい。導電性接着剤としては、各種の導電性接着剤が特に制限されることなく用いられる。
【0093】
本発明の分極性電極を集電体に形成する方法としては、予め作成した分極性電極を、導電性接着剤層を介して集電体上に接着してもよい。また、前記した乾式成形法により分極性電極を製造する際に、同時に集電体としての金属箔をロール間に挿入して、粉体成形と同時に分極性電極と集電体との積層を行っても良い。
【0094】
電気二重層キャパシタは、本発明の分極性電極と、集電体、水系電解液、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的には、例えば、分極性電極又はこれと集電体とが積層してなる電極を適切な大きさに切断し、次いでセパレータを介して電極を重ね合わせ、これをキャパシタ形状に巻く、折るなどして容器に入れ、容器に電解液を注入して封口して製造できる。
【0095】
水系電解液は、従来より公知のものが使用でき、例えば、硫酸水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、塩化カリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液等が挙げられる。その他、電解質として、ポリマー電解質や、液体状態もしくは固体状態のイオン液体電解質等を包含するものも使用することができる。
【0096】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製の微孔膜または不織布、一般に電解コンデンサ紙と呼ばれるパルプを主原料とする多孔質膜などを用いることができる。また、セパレータに代えて固体電解質を用いることもできる。
【0097】
(鉛蓄電池)
本発明の一実施態様である鉛蓄電池を構成する電極積層体の概略構成図を図1に示した。図では、各構成層を離間して示したが、現実の鉛蓄電池では、各構成層が密着し、一体化している。
【0098】
図示した電極積層体において、負極活物質層(鉛活物質層2及び分極性電極3)における鉛活物質層2と分極性電極3とは、直接積層されていてもよいし、接着剤層を介して積層されていてもよい。
【0099】
<鉛活物質層2・4>
鉛活物質層は、通常の鉛蓄電池の活物質として使用される鉛、一酸化鉛、二酸化鉛、三酸化二鉛、四酸化三鉛(鉛丹)、硫酸鉛などの、鉛および鉛化合物を主体とする層を指す。これらの鉛および鉛化合物は、単独でまたは混合物を適宜選択して使用することができる。鉛活物質層中の鉛原子が占める割合は、通常は層全体の質量に対して50質量%以上、好ましくは70質量%以上である。鉛原子の量がこの範囲にあると、活物質層のエネルギー密度を高めることができる。正極活物質層4に用いられる鉛含有材料としては二酸化鉛または一酸化鉛が好ましく、負極活物質層の鉛活物質層2に用いられる鉛含有材料としては一酸化鉛または鉛が好ましい。
【0100】
鉛活物質層は、鉛および鉛化合物の他に、ポリエステル繊維などの強化材、リグニンなどの界面活性剤、硫酸バリウムなどを含んでいてもよい。また、アンチモン、亜鉛、カドミウム、銀およびビスマスの酸化物、水酸化物もしくは硫酸塩から選ばれる添加剤なども使用することができる。さらに、鉛含有材料のペーストを作製して鉛活物質層を形成する場合は、硫酸水溶液を加えることもできる。
【0101】
<接着剤層>
負極活物質層中の鉛活物質層2と分極性電極3との間に接着剤層を設けることで、負極活物質層中の鉛活物質層2と分極性電極3との密着性が向上し、接触抵抗を低減できる。
【0102】
接着剤層はフィラーを含有することが好ましい。フィラーは、公知のものを使用することができ、導電性フィラー、金属酸化物フィラーが挙げられるが、その中でも、導電性フィラーが好ましい。なお、導電性フィラーには、樹脂に導電性能を付与するために添加されるすべての充填剤が含まれる。
【0103】
導電性フィラーは、導電性を有するものであれば特に限定されないが、中でも、導電性カーボンブラック、黒鉛等が特に好ましい。導電性フィラーの体積平均粒子径は、通常0.001〜10μmの範囲である。これらの導電性フィラーは、それぞれ単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0104】
また、金属酸化物フィラーとしては、シリカ、酸化鉄、酸化チタンが挙げられる。
【0105】
接着剤層はフィラーを含むが、さらにバインダーを含むことが好ましい。バインダーとしては、ハロゲン系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられる。バインダーの量は、フィラー100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、2〜8質量部がより好ましい。
【0106】
接着剤層は、さらに分散剤を含んでいてもよい。前記分散剤としては、セルロース誘導体が挙げられる。分散剤の量は、フィラー100質量部に対して、1〜10質量部が好ましい。
【0107】
接着剤は、必要に応じ溶媒を含んでいてもよく、この溶媒成分としては、トルエン、アセトン、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラクロロエチレン、トリクロルエチレン、ブロムクロロメタン、ジアセトン、ジメチルホルムアミド、エチルエーテル、クレゾール、キシレン、クロロホルム、ジメチルエーテルがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0108】
接着剤は前記の各成分を、混合機を用いて混合して製造できる。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、およびホバートミキサーなどを用いることができる。
【0109】
接着剤の塗布方法は、特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0110】
接着剤層の厚みは、通常1〜25μmの範囲である。接着剤層の厚みが、前記範囲であることにより、アンカー効果が良好に発揮され、電子移動抵抗を低減することができる。
【0111】
<集電体1>
集電体は、分極性電極の電極活物質、および鉛含有材料と鉛蓄電池外との電気的導通をとるためのものである。集電体としては、板状、箔状、クラッド式と呼ばれる多孔性チューブの中心に鉛合金芯金を挿入したもの、および格子状集電体などが挙げられるが、鉛活物質ペーストを保持し、効率的に電流を取り出す形状として最適な格子状集電体が好ましい。格子状集電体としては、標準格子、ラジアル格子、エキスパンド式のいずれも使用できる。
【0112】
格子状集電体の材質としては、鉛−カルシウム合金、鉛−アンチモン合金、鉛−錫合金等の鉛含有合金が用いられる。前記鉛合金の組成の一部として、砒素、錫、銅、銀、アルミなどを含んでいても良い。
【0113】
本発明の鉛蓄電池は、正極活物質層と負極活物質層をセパレータを介して積層した電極積層体を含み、前記正極活物質層または負極活物質層の少なくとも一部に上記本発明の分極性電極を使用したことを特徴とする。
【0114】
鉛蓄電池は通常、セパレータを介して正極と負極が対向するように配置された電極対を複数対有しており、正極同士、または負極同士はそれぞれ電気的に短絡された構造である。このような構造とすることにより、鉛蓄電池の容量を大きくすることができる。なお、本実施形態では、図1に示すように、本発明の分極性電極を、負極(負極活物質層)に用いて電極積層体を構成している場合のみを取り上げているが、本発明の鉛蓄電池は、本発明の分極性電極を、正極および負極の全ての電極に用いることもできるし、正極または負極のいずれかの電極の全てに使用することもできる。また、正極の一部、または負極の一部に本発明の分極性電極を使用することもできる。この中でも、負極の全ての電極に用いる、あるいは負極の一部に用いることが好ましい。
【0115】
<セパレータ5・6>
鉛蓄電池のセパレータとしては、従来より知られた抄紙、微多孔性ポリエチレン、微多孔性ポリプロピレン、微多孔性ゴム、リテイナーマット、ガラスマット、などのセパレータを1つまたは複数組み合わせて使用することができる。
【0116】
<電解液>
鉛蓄電池の電解液は通常、硫酸水溶液が使用される。充放電状態によって硫酸の密度は変動するが、鉛蓄電池を化成処理後、満充電の状態で密度1.25〜1.30g/cm(20℃)であることが好ましい。
【0117】
<電槽、ふた>
鉛蓄電池において、セパレータを介して正極と負極が対向するように配置された電極対と電解液を収納する電槽及びふたは、従来より知られたものを使用することができる。具体的には、エチレン−プロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を原料とするものが使用できる。
【0118】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0119】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0120】
実施例および比較例における特性の測定、評価は、以下の方法により行う。
(引張強度)
JIS K6251に準じて測定した。シート状に成形した分極性電極を160℃で40分乾燥した後、1号形のダンベル状試験片の形状に打ち抜き、雰囲気温度25℃にて引張速度10mm/分で引張試験を行い、破断時の最大荷重を測定した。この測定を6回繰り返し、最大荷重の平均値をシートの断面積で除した値をこの分極性電極の引張り強度とした。分極性電極の引張り強度が大きいほど、亀裂、破壊が生じにくく、形状保持性に優れることを示す。
【0121】
(電解液含浸性)
電極の電解液含浸性の評価は、2cm×2cmに切り出した電極へ5μLの電解液を雰囲気温度25℃にて1滴滴下し、電極表面から電解液の液滴が吸収され肉眼で確認できなくなるまでの時間(分)を測定して行った。この時間が短いほど電極が電解液の含浸性に優れることを示す。ここで電解液としては、38%硫酸水溶液を用いた。
【0122】
(電気二重層キャパシタの電気特性)
(静電容量)
電気二重層キャパシタの電気特性は、電気二重層キャパシタの充放電試験により求めた。充電電流は、電極の単位面積あたりの電流値が6.6mA/cmとなる電流値を用いて行い、電圧が1.0Vに達したら、10分間その電圧を保って定電圧充電とし、充電を完了する。次いで、充電終了直後に定電流放電を充電時に用いたのと同様な電流値で0Vに達するまで行う。静電容量は放電時の電力量からエネルギー換算法を用いて算出する。
【0123】
次に、この静電容量を用いて、電気二重層キャパシタの充放電速度が一定になるように5mA/Fの定電流で充電を開始し、定電流充電と定電圧充電の充電時間を合わせて20分間行った時点で充電完了とし、次いで、充電終了直後に定電流放電を充電時に用いたのと同様な電流値で0Vに達するまで行う。
【0124】
(内部抵抗)
内部抵抗は、放電開始から所定時間までの電圧データの最小二乗法による近似曲線の外挿からもとめた放電開始時電圧降下量を放電電流値で除した値とし、体積当たりの抵抗率、すなわち体積抵抗率として表す。但し、所定時間は全放電時間の10%とする。
【0125】
(実施例1)
窒素置換した重合反応器に、アクリロニトリル45部、1,3−ブタジエン50部、メタクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン(TDM)0.2部、軟水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.0部、β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部,過硫酸カリウム0.3部及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.05部を仕込み、重合温度40℃を保持しながら重合転化率が90%に達するまで反応させた。その後、重合転化率98%に達したところで、重合停止剤としてジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.1部を添加して重合反応を停止した。得られた共重合体粒子水分散液から未反応単量体を除去した後、共重合体(共重合体の組成:アクリロニトリル単位量45部、ブタジエン単位量50部、メタクリル酸単位量5部)粒子水分散液のpH及び固形分濃度を調整して、固形分濃度40%、pH8の共重合体粒子水分散液を得た。得られた共重合体粒子水分散液を1週間保存した後、BIT(1,2−ベンズ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン)を共重合体粒子水分散液の固形分100部に対して0.2部添加、撹拌し、バインダーAを得た。
【0126】
比表面積が1,700m/gで重量平均粒子径が5μmの高純度活性炭粉末を100部、導電材としてアセチレンブラックを5部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液を固形分換算量で1.4部、及びバインダーAを固形分換算量で10部を混合し、さらにイオン交換水を固形分濃度が20%となるように加え、混合分散してスラリーを得た。このスラリーを、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)を用い、回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度が90℃で噴霧乾燥造粒を行い、複合粒子を得た。この複合粒子の平均体積粒子径は63μmであった。
【0127】
次に、得られた複合粒子をロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧4.0kN/cm)に供給し、成形速度20m/分でシート状に成形し、厚さ200μm、密度0.54g/cmの分極性電極を得た。
【0128】
上記の分極性電極を直径12mmの円形状に打抜き、この分極性電極及びガラスファイバー製セパレータに十分電解液を含浸させ、次いで2枚の分極性電極をセパレータを介して対向させ、それぞれの分極性電極が電気的に接触しないように配置して、電気二重層キャパシタを作製した。電解液には硫酸を用いた。この電気二重層キャパシタの電気特性を測定した結果を表1に示す。
【0129】
(実施例2)
複合粒子の作製に用いるバインダーを構成するアクリロニトリル量を30部、1,3−ブタジエン量を65部とすること以外は、実施例1と同様にして、複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0130】
(実施例3)
複合粒子の作製に用いるバインダーAのイソチアゾリン化合物をBITからMIT(2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン)とすること以外は、実施例1と同様にして、複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0131】
(実施例4)
複合粒子の作製に用いるバインダーAのイソチアゾリン化合物をBITからCIT(5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン)とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造したこと以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0132】
(実施例5)
複合粒子の作製に用いるバインダーAのイソチアゾリン化合物の量を0.005部とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0133】
(実施例5)
複合粒子の作製に用いるバインダーAのイソチアゾリン化合物の量を0.6部とするは、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0134】
(比較例1)
複合粒子の作製に用いるバインダーを構成するアクリロニトリル量を65部、1,3−ブタジエン量を30部とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0135】
(比較例2)
複合粒子の作製に用いるバインダーを構成するアクリロニトリル量を5部、1,3−ブタジエン量を90部とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0136】
(比較例3)
複合粒子の作製に用いるバインダーを構成するアクリロニトリル量を50部、1,3−ブタジエン量を50部及びメタクリル酸量を0部とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0137】
(比較例4)
複合粒子の作製に用いるバインダーAのイソチアゾリン化合物量を2.3部とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0138】
(比較例5)
複合粒子の作製に用いるバインダーAのイソチアゾリン化合物の量を0部とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0139】
(比較例6)
複合粒子の作製に用いるバインダーをSBR(スチレン/ブタジエン/アクリル酸/メタクリル酸=47/50/0.5/2.5(質量比))とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0140】
(比較例7)
複合粒子の作製に用いるバインダーをポリアクリレート(ブチルアクリレート/エチルメタクリレート/メタクリル酸=80/17/3(質量比))とすること以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。そして、この複合粒子を用いて分極性電極を製造すること以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し各特性を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0141】
以上の実施例及び比較例より明らかなように、本発明の電気二重層キャパシタは、内部抵抗が低く、引張強度が強く、かつ電解液の含浸性に優れている。
【0142】
(実施例7)
(正極電極作製)
鉛含有材料として酸化鉛100部にイオン交換水10部、比重1.27の希硫酸10部を加えて混合し、正極用活物質合剤ペーストを製造した。このペーストを鉛−カルシウム合金からなる格子状集電体(100mm×100mm×3mm)に充填した後、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成し、乾燥することで未化成の正極電極を作製した。
【0143】
(負極電極作製)
酸化鉛100部に、導電材としてカーボンブラックを0.3部、硫酸バリウムを0.3部、イオン交換水を10部、比重1.36の希硫酸を10部添加、混合し、ペーストを得た。得られたペーストを定間隙ロールに通して厚さ2,750μmのシート状酸化鉛ぺ一ストとした。このシート状酸化鉛ペーストを、鉛一カルシウム合金からなる格子状集電体(100mm×100mm×3mm)に充填し、鉛活物質層を形成した。
【0144】
実施例1で成形したシート成形物(分極性電極)を、前記のペーストを充填した格子状集電体の一面にバッチプレスにて100℃、10MPaで加圧圧着し、負極電極を作製した。
【0145】
上記の正極電極および負極電極を用い、図1に示す積層鉛蓄電池を作製した。セパレータとしては、鉛活物質層2と正極1の間には、ガラスマイクロファイバー製のセパレータ5を、分極性電極3と正極4の間には、微孔性ポリプロピレンのセパレータ6をそれぞれ配置した。電解液には、比重1.225(20℃)の希硫酸を使用した。これに過充電を施して化成処理を行った後、電解液の密度が1.28g/cmになるように密度1.4g/cmの硫酸で調整して鉛蓄電池を得た。
【0146】
(入力特性)
積層鉛蓄電池を25℃で充電電圧2.2VからSOC70%まで2CAの電流で充放電を10回繰り返し、最後の放電状態から10CAで充電したときの0.2秒後の電圧を測定し、10CAで放電する直前の電圧との差を比較例8に対する相対値として表したものをサイクル後の入力特性とする。ここで、SOC70%とは、鉛蓄電池の満充電時の容量を100%として、70%の容量が残っている状態を指し、2CAおよび10CAとは、作製した蓄電池の容量をそれぞれ1/2時間、1/10時間で放電するための電流量のことを指す。電圧値の差が小さいほど大電流充電の受入が優れていることを示す。
【0147】
(実施例8)
分極性電極として、実施例2で成形した分極性電極を使用したこと以外は、実施例7と同様にして負極電極及び積層鉛蓄電池を作製し、入力特性を測定した。結果を表2に示す。
【0148】
(比較例8)
分極性電極として、比較例1で成形した分極性電極を使用したこと以外は、実施例7と同様にして負極電極及び積層鉛蓄電池を作製し、入力特性を測定した。結果を表2に示す。
【0149】
(比較例9)
分極性電極として、比較例4で成形した分極性電極を使用したこと以外は、実施例7と同様にして負極電極及び積層鉛蓄電池を作製し、入力特性を測定した。結果を表2に示す。
【0150】
(比較例10)
分極性電極として、比較例6で成形した分極性電極を使用したこと以外は、実施例7と同様にして負極電極及び積層鉛蓄電池を作製し、入力特性を測定した。結果を表2に示す。
【0151】
(比較例11)
分極性電極として、比較例7で成形した分極性電極を使用したこと以外は、実施例7と同様にして負極電極及び積層鉛蓄電池を作製し、入力特性を測定した。結果を表2に示す。
【0152】
以上、実施例および比較例のサイクル後の入力特性を表2に示す。なお、サイクル後の入力特性は、比較例8の充放電サイクル後の入力特性を1(100%)としたときの相対値として表記する。この数値が小さいほど、充電電流による電圧上昇が小さいので入力特性に優れることを示す。
【表2】
【0153】
実施例7、8は、内部抵抗が低く、引張強度が強く、電解液の含浸性に優れているため、サイクル特性が比較例8〜11よりも優れている。
【符号の説明】
【0154】
1: 格子状集電体
2:鉛活物質層
3:分極性電極
4:正極活物質層(鉛活物質層)
5:ガラスマイクロファイバー製のセパレータ
6:微多孔性ポリプロピレン製のセパレータ
図1