(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板の厚さが0.1〜300mmで、基板の一方の面に形成された非貫通の穴、溝又は段差の底面と基板の他方の面との間の距離が0.05〜80mmであり、基板厚さの5〜50%である請求項1〜5のいずれか1項記載のナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、比較的簡便な方法でサイズ、底面の残し厚さ、平行度等、形状を高精度に安定的に制御された、底面及び側面が鏡面である非貫通の穴、溝又は段差を有し、このため非貫通の穴、溝又は段差において高い強度を有する
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、基板に非貫通の穴、溝又は段差を形成する研削工程及び非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面に回転研磨ツールをそれぞれ独立した一定圧力で接触させて底面及び側面の研削面を鏡面加工することにより、加工歪みによる残留応力を除去することが前記課題の解決に有用であり、このように非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面を鏡面加工することで、これら非貫通の穴、溝又は段差に繰り返しの荷重を加え、かなりの応力を付与しても破壊が生じ難いことを知見した。
【0008】
即ち、このような非貫通の穴、溝又は段差を有する基板は、基板の表面
にナノインプリント用の加工を施すものであるが、基板の一方の面に形成された非貫通の穴、溝又は段差の底面と基板の他方の面との間の距離(残し厚さ)は0.05〜80mm、特に好ましくは0.05〜11mmで、好ましくは基板の厚さの5〜50%、特に10〜30%であるように形成される。この場合、残し厚さは好適には薄く形成することが望まれるが、従来においては、非貫通の穴、溝又は段差内は鏡面加工することなく、また鏡面加工しにくい点もあって、非貫通の穴、溝又は段差を研削加工したままの状態で用いていた。しかし、このように研削加工したままの非貫通の穴、溝又は段差の状態では、繰り返し荷重を加えると、比較的容易に破壊が生じてしまう問題があり、このため非貫通の穴もしくは溝の底面と基板表面との間、又は段差の底面と基板裏面との間の距離(残し厚さ)を比較的厚く形成していた。
【0009】
ところが、上記のように、非貫通の穴、溝又は段差の底面と側面を鏡面加工することにより、強度が高まり、後述する実施例に示したように、非貫通の穴もしくは溝の底面と基板表面との間、又は段差の底面と基板裏面との間の距離(残し厚さ)をかなり薄く形成した場合にも、これにかなりの荷重を繰り返し加えても破壊し難く、かかる応力に十分耐えることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は以下の非貫通の穴、溝又は段差を有する
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法を提供するものである。
請求項1:
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の少なくとも一方の面に非貫通の穴、溝又は段差を形成する研削工程と、形成された非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面に回転研磨ツールの研磨加工部をそれぞれ独立した一定圧力で
同時に接触させて底面及び側面の研削面を鏡面加工する工程とを含む、非貫通の穴、溝又は段差を有する
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法。
請求項2:
鏡面加工工程が、非貫通の穴、溝又は段差に回転研磨ツールの研磨加工部を1〜1,000,000Paの圧力で接触させて鏡面加工する請求項1記載の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法。
請求項
3:
鏡面加工工程が、基板の非貫通の穴、溝又は段差の形状に沿うように回転研磨ツールと基板とを相対的に移動させて鏡面加工する請求項1
又は2記載の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法。
請求項
4:
鏡面加工工程が、基板の非貫通の穴、溝又は段差の形状に沿うように回転研磨ツールを公転あるいは基板保持台を回転させて鏡面加工する請求項
3記載の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法。
請求項
5:
鏡面加工工程が、基板の非貫通の穴、溝又は段差の形状に沿うように回転研磨ツールあるいは基板保持台を1軸以上の直線軸上を移動させて鏡面加工する請求項
3記載の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法。
請求項
6:
基板の厚さが0.1〜300mmで、基板の一方の面に形成された非貫通の穴、溝又は段差の底面と基板の他方の面との間の距離が0.05〜80mmであり、基板厚さの5〜50%である請求項1〜
5のいずれか1項記載の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法。
請求項
7:
非貫通の穴、溝又は段差を形成するための研削工程を行う前の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の表裏面の平坦度が0.01〜30μm、平行度が0.1〜50μmであり、非貫通の穴、溝又は段差の鏡面研磨する前の底面及び側面の面粗度Raが2〜500nmであり、鏡面研磨した後の非貫通の穴、溝又は段差の底面の平坦度が0.01〜40μm、平行度が100μm以下であり、該底面及び側面の面粗度Raが1nm以下である請求項1〜
6のいずれか1項記載の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、IC等の製造に重要な光リソグラフィ法において使用され
る非貫通の穴、溝又は段差を有する
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造において、比較的簡便な方法で、形状精度が高く、全面が鏡面化された基板を得ることができる。また、非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面を独立の研磨レートで研磨することで、同時に同時間研磨する際のそれぞれの面の研磨量を制御することができ、研磨後の非貫通の穴、溝又は段差の大きさ及び残し厚さを精密に制御しながら、短時間で研磨することができる。これにより所定の荷重によって非貫通の穴、溝又は段差の底面の形状を変化させても、底面の破壊が起きない基板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法は、基板の所用箇所に非貫通の穴、溝又は段差を形成する研削工程と、形成された非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面に回転研磨ツールを一定圧力で接触させて底面及び側面の研削面を鏡面加工する工程とを含むものである。
【0014】
ここで、本発明の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法に用いられる合成石英ガラス基板は、公知の方法により製造されたものであればよく、必要に応じて基板表面にCr膜等が成膜されていたり、ナノメートルオーダーの微細な凹凸パターンが存在していてもよい。
【0015】
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の形状は四角形状、円形状等とすることができ、ガラス基板の大きさは
、適宜選定される。例えば、四角形状のガラス基板では20mm×20mm〜152mm×152mmのサイズから1,000mm×2,000mmのサイズの基板が好適に用いられる。丸形状のガラス基板では6インチφ、8インチφのウェハサイズが好適に用いられる。
【0016】
ここで、
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の厚さは適宜選定されるが、0.1〜300mm、好ましくは0.1〜100mm、更に好ましくは0.2〜30mmである。
【0017】
必要に応じて合成石英ガラス基板は、予め平坦度及び平行度を測定して、精度の確認を行っておくことが好ましい。平坦度の測定は、測定精度の観点から、レーザー光などのコヒーレントな光を基板表面に当てて反射させ、基板表面の高さの差が反射光の位相のずれとして観測されることを利用した光学干渉式の方法が好ましく、例えばZygo社製Zygo Mark IVxpを用いて測定できる。また、平行度も、Zygo社製Zygo Mark IVxpを用いて測定できる。
【0018】
この場合、非貫通の穴、溝又は段差を形成するための研削工程を行う前の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の表裏面の平坦度は0.01〜30μm、好ましくは0.01〜2μm、更に好ましくは0.01〜0.5μm、平行度は0.1〜50μm、好ましくは0.1〜5μm、更に好ましくは0.1〜3μmであることが、パターン均一性の点で好ましい。
【0019】
本発明においては、このような
ナノインプリント用合成石英ガラス基板に、露光装置やナノインプリント装置に組み込むために、装置の形態や用途に合わせて非貫通の穴、溝、又は段差を形成するものである。
【0020】
即ち、
図1,2は四角形状の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板1の中央部に非貫通の穴2を形成したものであり、
図3は円形状の基板1の中央部に非貫通の穴2を形成したものである。この場合、非貫通の穴は、通常基板1の裏面1bに形成され、基板1の表面には例え
ばナノインプリント用加工が施される。
図4は四角形状の基板1の中央部に幅方向に沿って溝3を形成したものである。
図5は四角形状の基板1の表面1aの長さ方向両端部にそれぞれ段差4,4を形成したものである。この場合、段差は基板1の表面1aではなく、裏面1bに形成してもよく、また、
図6に示したように、基板1の長さ方向両端部の表裏面にそれぞれ段差4を形成してもよい。更に、段差は基板の周縁部に沿って形成してもよく、
図7,8はこれを示す。なお、
図7は四角形状の基板1の周縁部に段差4を形成した例、
図8は円形状の基板1の周縁部に段差4を形成した例を示す。なお、
図7,8では段差4は基板1の表面1aに形成したが、裏面1bに形成することもできる。
また、基板の一方の面に非貫通の穴、溝、段差の2種類以上を形成したり、基板の一方の面に非貫通の穴、溝、段差のいずれかを形成し、基板の他方の面にこれと異なる非貫通の穴、溝、段差のいずれかを形成してもよい。
【0021】
非貫通の穴の形状は、平面形状が円形状、楕円形状、長円状、四角状、多角形状とすることができるが、
図2,3に示すような円形状が好ましい。その大きさは、円形状であれば直径、楕円形状や長円状であれば長径、角状であれば対角長が5〜200mmであることが好ましい。溝の場合は、
図4に示したように、両側壁3a,3bが互いに平行な平面に形成することが好ましいが、両側壁が平行でなくてもよく、一方又は双方の側壁が凸状又は凹状曲面であってもよい。更に、段差の場合、
図5に示したように、その内壁4aが段差4の自由先端縁部4bにつながる基板端面と平行な平面に形成することが好ましいが、該端面と平行でなくてもよく、内壁が凸状又は凹状曲面であってもよい。なお、溝及び段差はその最大幅が5〜200mmであることが好ましい。
【0022】
上記穴2、溝3、段差4の深さは基板の用途に応じて適宜選定されるが、
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の残し厚さ(非貫通の穴、溝又は段差の底面と、これらが形成された面と反対側の面との距離(図においてtで示す))は、強度の点から0.05〜80mm、好ましくは0.05〜29mm、更に好ましくは0.05〜11mmであり、
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の厚さの1〜90%、より好ましくは5〜50%、更に好ましくは10〜30%とすることが強度の点から好ましい。
【0023】
なお
、ナノインプリント用基板の場合、上記非貫通の穴2、溝3は、基板の裏面側に形成し、穴2や溝3の底面に対向する表面部分にナノインプリントを施すための凹凸が形成される。また、段差4は、基板の表面側及び/又は裏面側に形成し、表面側にナノインプリントを施すための凹凸が形成される。
【0024】
本発明の製造方法において、初めに非貫通の穴、溝又は段差を形成する研削工程では、マシニングセンターやその他数値制御工作機械を用いて、合成石英ガラスの加工面に、割れ、ヒビ、激しいチッピング等の発生しない研削条件で砥石を回転、移動させ、所定のサイズ、深さの非貫通の穴、溝又は段差の研削を施して行う。
【0025】
具体的には、ダイヤモンド砥粒、CBN砥粒等を電着又はメタルボンドで固定した砥石を用いて、主軸回転数100〜30,000rpm、特に1,000〜15,000rpm、切削速度1〜10,000mm/min、特に10〜1,000mm/minで研削することが好ましい。
【0026】
このように非貫通の穴、溝又は段差を研削、形成した段階において、これら非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面の面粗度Raは2〜500nm、特に2〜100nmであるように研削砥石、研削条件を選定することが好ましく、また底面の平行度は90μm以下、特に1〜40μm、平坦度は0.01〜20μm、特に0.01〜10μmであることが好ましい。
【0027】
次に、非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面のそれぞれの研削面を鏡面加工する工程は、研削面に回転研磨ツールの研磨加工部を底面と側面とにそれぞれ別個に独立した一定圧力で接触させて、一定速度で相対的に移動させて行う。一定圧力、一定速度の条件で研磨を行うことにより、一定の研磨レートで研削面を均一に研磨することができる。具体的には、回転研磨ツールの研磨加工部の接触時の圧力としては、経済性及び制御のし易さ等の点で1〜1,000,000Pa、特に1,000〜100,000Paであることが好ましい。
【0028】
また、速度は、経済性及び制御のし易さ等の点で1〜10,000mm/minが好ましく、特に10〜1,000mm/minが好ましい。移動量は合成石英ガラス基板の形状、大きさに応じて適宜決められる。
【0029】
回転研磨ツールは、その研磨加工部が研磨可能な回転体であればいかなるものでも構わないが、ツールチャッキング部を持ったスピンドル、リューターに研磨ツールを装着させる方式などが挙げられる。
【0030】
研磨ツールの材質としては、少なくともその研磨加工部がGC砥石、WA砥石、ダイヤモンド砥石、セリウム砥石、セリウムパッド、ゴム砥石、フェルトバフ、ポリウレタンなど、被加工物を加工除去できるものであれば種類は限定されない。
【0031】
研磨ツールの研磨加工部の形状は円又はドーナツ型の平盤、円柱型、砲弾型、ディスク型、たる型等が挙げられる。例えば、
図9に示したように、研磨ツール10として、ピストン11に進退可能に収容され、図示していないモータ等の回転源の駆動により回転する回転軸12の先端に研磨加工部13を取り付けたものが使用し得る。
この場合、非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面を同時に研磨する点から、研磨加工部13の非貫通の穴、溝又は段差の側面と接触する部分の高さ(
図9においてh
1)は該側面の高さ(
図2においてh
0)以上であることが好ましい。また、研磨加工部13の直径(
図9においてr
1)は、非貫通の穴が円形である場合にはその直径(
図2においてr
0)、楕円状、長円状等の場合にはその短径のそれぞれ1/2以上(r
1≧r
0/2)であることが好ましい。また、溝の場合にはその溝の幅の1/2以上(r
1≧W
1/2)、段差の場合にはその幅以上(r
1≧W
2)であることが好ましい。
【0032】
上述した非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面の研削面に回転研磨ツールの研磨加工部を接触させて研磨を行う場合、研磨砥粒スラリーを介在させた状態で加工を行うことが好ましい。
この場合、研磨砥粒としてはシリカ、セリア、アランダム、ホワイトアランダム(WA)、エメリー、ジルコニア、SiC、ダイヤモンド、チタニア、ゲルマニア等が挙げられ、その粒度は10nm〜10μmが好ましく、これらの水スラリーを好適に用いることができる。
【0033】
また、回転研磨ツールの相対移動速度は、上述したように、1〜10,000mm/min、特に10〜1,000mm/minの範囲で選定することができる。回転研磨ツールの研磨加工部の回転数は100〜10,000rpm、好ましくは1,000〜8,000rpm、更に好ましくは2,000〜7,000rpmである。回転数が小さいと加工レートが遅くなり、研削面を鏡面化するのに時間がかかりすぎる場合があり、回転数が大きいと加工レートが速くなったり、ツールの磨耗が激しくなるため、鏡面化の制御が難しくなる場合がある。
【0034】
本発明の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法は、非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面をそれぞれ独立の圧力で回転研磨ツールを接触させて鏡面加工することができる。圧力の調節は、空気圧ピストン、ロードセル等を用いることができ、例えば
図9の回転研磨ツールの場合、空気圧ピストン11の圧力を調整することで底面に対する研磨加工部の圧力を調整することができ、また、
図9の回転研磨ツールの場合、空気圧ピストン11に該ピストン11を非貫通の穴、溝又は段差の側部に向けて進退させる別のピストンを取り付け、該別のピストンの圧力を調整してピストン11の側部への圧力を調整し、あるいは更に別のピストンを設け、このピストンに進退する軸体を、基板を保持する基板保持台に連結し、この軸体の圧力を調整することで横方向への圧力を調整し、基板保持台の進退を調整するなどして、研磨加工部の上記側面に対する圧力を調整することができる。
このように、底面と側面への圧力を独立させ、単独の回転研磨ツールをそれぞれの面に独立した一定圧力で回転研磨ツールを接触させながら、一定速度で相対的に移動させることにより、それぞれの面を同時に独立の研磨レートで均一に研磨することができる。
【0035】
非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面を回転研磨ツールにより同時ではなく順番に別々に研磨する方法は、回転研磨ツールが底面及び側面に同時に接触してしまう部分が生じ、当該部分における研磨が不均一になる上、研磨時間がかかる。
【0036】
なお、本発明の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の製造方法は、基板の非貫通の穴、溝又は段差の形状に沿うように回転研磨ツールと基板とを相対的に移動させて鏡面加工することができる。移動させる方式は移動量、方向、速度を一定に制御できる方式であればいかなるものでもよい。例えば、多軸ロボット等を用いる方式等が挙げられる。
【0037】
回転研磨ツールと基板とを相対的に移動させる方法には、基板の非貫通の穴、溝又は段差の形状に沿うように回転研磨ツールを公転あるいは基板を回転させる方法と、1軸以上の直線軸上を移動させる方法等がある。
【0038】
基板の非貫通の穴、溝又は段差の形状に沿うように回転研磨ツールを公転あるいは基板を回転させて鏡面化する方法では、回転数、回転速度を一定に制御できる方式であればいかなるものでもよいが、例えばモータースピンドルにより、回転研磨ツールあるいは基板保持台を回転数0.1〜10,000rpm、特に1〜100rpmで、速度1〜10,000mm/min、特に10〜1,000mm/minで回転させる方式等が挙げられる。この方法は、真円形、楕円形あるいは壁面が曲面状の非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面を一定速度でそれぞれ独立した一定圧力にて均一に研磨して鏡面化する場合に特に有効である。
【0039】
基板の非貫通の穴、溝又は段差の形状に沿うように回転研磨ツールあるいは基板を1軸以上の直線軸上を移動させて鏡面加工する方法では、移動量、速度を一定に制御できる方式であればいかなるものでもよいが、例えば、回転研磨ツールあるいは基板保持台を速度1〜10,000mm/min、特に10〜1,000mm/minでサーボモーター等によりスライダー上を移動させる方式等が挙げられる。この方法は、角形あるいは壁面が平面状の非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面を一定圧力、一定速度で均一に研磨して鏡面化する場合に特に有効である。
【0040】
必要に応じて鏡面加工工程後、基板の非貫通の穴、溝又は段差の底部及びその周辺におけるキズ、欠陥、クラックの有無を検査することができる。検査方法は、深さ200nm以上、幅1μm以上のキズ、欠陥、クラックを検出できる方法であればいかなるものでもよいが、例えば高輝度ランプを使用した目視観察、顕微鏡観察、レーザー光欠陥検査装置等による検査方法等が挙げられる。
【0041】
上記のようにして鏡面研磨して得られる非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面は、面粗度Raが1nm以下、好ましくは0.5nm以下の鏡面である。非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面が鏡面でないと、光を透過させることができず、露光ができなくなる場合や、汚れが発生すると汚れが光の透過を邪魔してしまったり、パターンが汚染されたりする場合が生じて好ましくない。なお、面粗度RaはJIS B0601に準拠した値である。
【0042】
しかも、このように非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面を鏡面にすることにより、所定の範囲の荷重によって非貫通の穴、溝又は段差の底面の形状を変化させて、100MNm
-2以下、特に5〜50MNm
-2、とりわけ5〜20MNm
-2の応力を非貫通の穴、溝又は段差の底部に加えても、底面の破壊は起きず、複数回荷重を加えても、耐久性が損なわれず、底面の破壊は起きない。
【0043】
ここで、所定の範囲の荷重とは、例えば残し厚さがhmm、直径がammの円形の非貫通の穴の場合、底面全体に約1.3×10
8×h
2/a
2Pa以下、特に7.0×10
6×h
2/a
2〜7.0×10
7×h
2/a
2Pa、とりわけ7.0×10
6×h
2/a
2〜3.0×10
7×h
2/a
2Paの等分布荷重をいい、この荷重を加えた場合に、100MNm
-2以下の応力が底部にかかる。同様に、残し厚さがhmm、幅amm、長さbmmの溝の場合、溝の底の中央に約30×b/a×h
2N以下、特に1×b/a×h
2〜15×b/a×h
2N、とりわけ1×b/a×h
2〜6×b/a×h
2Nの集中荷重を加えた場合には、100MNm
-2以下の応力が底部にかかる。また、残し厚さがhmm、幅amm、長さbmm(b>3a)の段差の場合、段差の自由先端縁部の中央部に約32×h
2N以下、特に1×h
2〜16×h
2N、とりわけ1×h
2〜6×h
2Nの集中荷重を加えた場合には、100MNm
-2以下の応力が底部にかかる。非貫通の穴に対する等分布荷重は、底部全体を空気圧、液圧等で、指定の圧力で指定の回数、加圧又は減圧することのできる試験装置を用いる等して加えることができる。集中荷重は、底部の所定の場所を先端に細い棒や針等が付いた加圧装置等で、指定の圧力で指定の回数、加圧することのできる試験装置を用いる等して加えることができる。
【0044】
本発明の
ナノインプリント用合成石英ガラス基板の鏡面研磨後の非貫通の穴、溝又は段差の底面の平坦度は、基板の把持の点で0.01〜40μm、好ましくは0.01〜10μm、更に好ましくは0.01〜5μmである。平坦度が低いと、非貫通の穴、溝又は段差の底面を把持して露光装置やパターニング装置に組み込む場合、精密に平行に把持することができないおそれがある。また平坦度が低いと、非貫通の穴、溝又は段差を通して気体や液体の流入、排出等を行う場合、気体や液体が安定的に流れないおそれがある。
【0045】
また、基板表面と非貫通の穴、溝又は段差の底面の平行度は、パターンのずれの点で100μm以下、好ましくは50μm以下、更に好ましくは10μm以下である。平行度が低いと、非貫通の穴、溝又は段差を変形させて樹脂にインプリントする場合、きれいな対称形に変形させることができず、また非貫通の穴、溝又は段差の底面を把持してパターニング装置に組み込む場合、基板を平行に精密に把持することができず、焦点ずれ、パターンずれが生じるおそれがある。
【0046】
なお、上述した鏡面研磨法を採用し、非貫通の穴、溝又は段差の底面及び側面をそれぞれ一定圧力で、また一定速度で研磨することによって上記平坦度値、平行度値を得ることができる。この場合、上記鏡面研磨により上記底面及び側面の面粗度Raは、鏡面研磨前の面粗度Raに比べて十分に改善されるものであるが、研磨ツールの底面は中心よりも外側の方が研磨レートが速く、研磨レートに分布を持つため、上記底面の全面を同一の研磨レートで均一に研磨することが困難であるという理由により、上記底面の平坦度、平行度は、鏡面研磨前より鏡面研磨後の方が悪くなる。しかし、上述した本発明の方法の採用により、平坦度、平行度を上記値の範囲内にとどめ、それ以上の悪化を回避し得るものである。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0048】
[実施例1]
端面及び表裏面が研磨により鏡面化された大きさ100mm×100mm、厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板Aを、原料基板として用意した。この合成石英ガラス基板の裏面の中心に、マシニングセンター、ダイヤモンド砥粒付砥石を使用して、深さ5.32mm、直径69.98mmφの円形の非貫通の穴を加工した。
次に、合成石英ガラス基板を基板保持台に固定して、1,000rpmで回転する直径35mmφ、高さ30mmの羊毛フェルトバフを非貫通の穴の底面に3,500Pa、側面に2,000Paで押し当てて、基板保持台を10rpmで回転させ、60分間研磨し、鏡面化した。研磨後、合成石英ガラス基板のザグリ穴の深さは5.35mm、残し厚さは1.00mm、直径は70mmφとなった。
【0049】
ここで、鏡面化された合成石英ガラス基板Aの平行度、表裏面の平坦度、表裏面及び側面の面粗度Raは下記の通りであった。
平行度 0.6μm
表面 平坦度 0.183μm
面粗度 0.15nm
裏面 平坦度 0.311μm
面粗度 0.15nm
側面 面粗度 0.95nm
なお、平坦度、平行度の測定はZygo社製Zygo Mark IVxpを用いて行い、面粗度の測定には原子間力顕微鏡を使用した。
また、上記合成石英ガラス基板Aの裏面に形成した非貫通の穴の鏡面研磨前の底面の平行度、平坦度、面粗度Ra、及び周壁面の面粗度は下記の通りであった。
底面 平行度 8μm
平坦度 3μm
面粗度 6.82nm
周壁面 面粗度 6.58nm
なお、平坦度、平行度の測定はZygo Mark IVxpでは測定できず、マイクロメーターを用いて測定した。また、面粗度は原子間力顕微鏡を用いた。
鏡面研磨後の非貫通の穴の底面の平行度、平坦度、面粗度Ra、及び周壁面の面粗度は下記の通りであった。
底面 平行度 9μm
平坦度 4μm
面粗度 0.25nm
周壁面 面粗度 0.25nm
なお、平坦度、平行度の測定はZygo Mark IVxpにて行い、面粗度は原子間力顕微鏡を用いた。
【0050】
また、上記と同条件で同様の非貫通の穴を鏡面研磨した同様の合成石英ガラス基板を50枚製作したところ、非貫通の穴の深さは5.35±0.01mm、直径は70±0.01mmφであった。
この合成石英ガラス基板に対して、高輝度ランプを用いた目視観察によりクラックがないことを確認し、非貫通の穴を−15kPaで減圧し、大気圧に戻すというサイクルを50,000回行い、耐久試験を行ったところ、50枚全ての基板で非貫通の穴の底面の破壊は起きなかった。
また、この合成石英ガラス基板に対して、耐久試験を行う前後で非貫通の穴を−50kPaで減圧し、約46MNm
-2の応力を底部に加えても、50枚全ての基板で非貫通の穴の底面の破壊は起きなかった。
【0051】
[実施例2]
端面及び表裏面が研磨により鏡面化された大きさ152mm×152mm、厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板Bを、原料基板として用意した。この合成石英ガラス基板の裏面の中心に、マシニングセンター、ダイヤモンド砥粒付砥石を使用して、深さ4.98mm、幅29.9mm、長さ152mmの端面と平行な溝を加工した。
次に、合成石英ガラス基板を基板保持台に固定して、1,000rpmで回転する直径30mmφ、高さ30mmの羊毛フェルトバフを溝底面に2,000Pa、片方の側面に2,000Paで押し当てて、基板保持台を50mm/minで5往復移動させ、溝底面及びもう一方の側面に上記と同じ圧力で押し当てて基板保持台を50mm/minで5往復移動させて鏡面化した。研磨後、合成石英ガラス基板の溝の深さは5mm、幅は30.1mmとなった。
【0052】
ここで、鏡面化された合成石英ガラス基板Bの平行度、表裏面の平坦度、表裏面及び側面の面粗度Raは下記の通りであった。
平行度 0.9μm
表面 平坦度 0.231μm
面粗度 0.14nm
裏面 平坦度 0.475μm
面粗度 0.15nm
側面 面粗度 0.83nm
また、上記合成石英ガラス基板Bの裏面に形成した溝の鏡面研磨前の底面の平行度、平坦度、面粗度Ra、及び側壁面の面粗度は下記の通りであった。
底面 平行度 13μm
平坦度 5μm
面粗度 7.06nm
側壁面 面粗度 10.70nm
鏡面研磨後の溝の底面の平行度、平坦度、面粗度Ra、及び側壁面の面粗度は下記の通りであった。
底面 平行度 15μm
平坦度 7μm
面粗度 0.45nm
側壁面 面粗度 0.37nm
【0053】
なお、上記と同条件で同様の溝を鏡面研磨した合成石英ガラス基板を50枚製作したところ、溝の深さは5±0.01mm、幅は30±0.01mmであった。
この合成石英ガラス基板に対して、高輝度ランプを用いた目視観察によりクラックがないことを確認し、溝の底の中央に10Nの荷重を加え、0に戻すというサイクルを10,000回行ったところ、50枚全ての基板で溝の底面の破壊は起きなかった。
また、この合成石英ガラス基板に対して、耐久試験を行う前後で溝の底の中央に50Nの荷重を加え、約20MNm
-2の応力を底部に加えても、50枚全ての基板で溝の底面の破壊は起きなかった。
【0054】
[実施例3]
端面及び表裏面が研磨により鏡面化された大きさ200mm×400mm、厚さ10mmの合成石英ガラス基板Cを、原料基板として用意した。この合成石英ガラス基板をマシニングセンター、ダイヤモンド砥粒付砥石を使用して、基板裏面の両端部に深さ6.95mm、幅19.99mm、長さ200mmの段差を持つ基板に加工した。
次に、合成石英ガラス基板を基板保持台に固定して、1,000rpmで回転する直径30mmφ、高さ30mmの羊毛フェルトバフを段差底面に2,000Pa、側面に2,000Paで押し当てて、基板保持台を200mm/minで5往復移動させ、両辺の段差を鏡面化した。研磨後、合成石英ガラス基板の段差の深さは7mm、幅は20mmとなった。
【0055】
ここで、鏡面化された合成石英ガラス基板Cの平行度、表裏面の平坦度、表裏面及び側面の面粗度Raは下記の通りであった。
平行度 5.3μm
表面 平坦度 2.117μm
面粗度 0.11nm
裏面 平坦度 3.151μm
面粗度 0.12nm
側面 面粗度 1.13nm
また、上記合成石英ガラス基板Cの裏面に形成した段差の鏡面研磨前の両底面の平行度、平坦度、面粗度Ra、及び側壁面の面粗度は下記の通りであった。
底面 平行度 13μm及び17μm
平坦度 8μm及び 8μm
面粗度 11.51nm
側壁面 面粗度 12.15nm
鏡面研磨後の段差の両底面の平行度、平坦度、面粗度Ra、及び側壁面の面粗度は下記の通りであった。
底面 平行度 15μm及び19μm
平坦度 10μm及び 9μm
面粗度 0.28nm
側壁面 面粗度 0.27nm
【0056】
合成石英ガラス基板を10枚製作したところ、段差の深さは7±0.01mm、幅は20±0.01mmであった。
この合成石英ガラス基板に対して、高輝度ランプを用いた目視観察によりクラックがないことを確認し、段差の自由先端縁部の中央部に20Nの荷重を加え、0に戻すというサイクルを5,000回行ったところ、10枚全ての基板で溝の底面の破壊は起きなかった。
また、この合成石英ガラス基板に対して、耐久試験を行う前後で段差の底面の両端の端面と平行な辺の中央に50Nの荷重を加え、約17MNm
-2の応力を底部に加えても、10枚全ての基板で段差の底面の破壊は起きなかった。
【0057】
[比較例1]
実施例1と同様の原料基板を用いて、実施例1と同様に加工を施し、深さ5.35mm、残し厚さ1.00mm、直径70mmφの円形の非貫通の穴を加工した。
ここで、上記合成石英ガラス基板Aの裏面に形成した非貫通の穴の底面及び周壁面の面粗度Raは下記の通りであった。
底面 面粗度 7.13nm
周壁面 面粗度 8.42nm
なお、面粗度の測定は原子間力顕微鏡を用いた。
この合成石英ガラス基板を鏡面加工せずに、非貫通の穴を−90kPaで減圧したところ、非貫通の穴の底面が破壊された。