特許第5665846号(P5665846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5665846熱伝導性ポリイミドフィルム及びそれを用いた熱伝導性積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665846
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】熱伝導性ポリイミドフィルム及びそれを用いた熱伝導性積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/088 20060101AFI20150115BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20150115BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20150115BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20150115BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20150115BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   B32B15/088
   C08K7/00
   C08L79/08 Z
   C08K3/22
   C08K3/38
   H05K1/03 610N
   H05K1/03 610R
   H05K1/03 630C
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-504462(P2012-504462)
(86)(22)【出願日】2011年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2011055316
(87)【国際公開番号】WO2011111684
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2013年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-75684(P2010-75684)
(32)【優先日】2010年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-53873(P2010-53873)
(32)【優先日】2010年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100107559
【弁理士】
【氏名又は名称】星宮 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】王 宏遠
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智典
(72)【発明者】
【氏名】田内 茂顕
(72)【発明者】
【氏名】財部 諭
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−169534(JP,A)
【文献】 特開2005−232313(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/110387(WO,A1)
【文献】 特開平03−200397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
C08J 5/00− 5/02
C08J 5/12− 5/22
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/16
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを含有するフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する絶縁層と、
前記絶縁層の片面又は両面に積層された金属層と、
を有する熱伝導性積層体において、
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有割合が50〜70vol%の範囲内であり、
前記熱伝導性フィラーの最大粒子径が15μm未満であり、
前記熱伝導性フィラーは板状フィラーと球状フィラーとを含有し、前記板状フィラーの平均長径DLが0.1〜2.4μmの範囲内であるとともに、前記球状フィラーの平均粒径DRが0.05〜5.0μmの範囲内であり、
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における前記板状フィラーの体積比率(A)と前記球状フィラーの体積比率(B)との関係(A)/(B)が1〜15の範囲内であり、
前記絶縁層の厚み方向での熱伝導率λzが1.0W/mK以上であることを特徴とする熱伝導性積層体。
【請求項2】
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における前記板状フィラーの体積比率が、前記球状フィラーの体積比率よりも大きい請求項1記載の熱伝導性積層体。
【請求項3】
前記板状フィラーが酸化アルミニウム及び窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記球状フィラーが、酸化アルミニウム、溶融シリカ及び窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の熱伝導性積層体。
【請求項4】
前記絶縁層は、厚みが10〜100μmの範囲内にあり、耐電圧が2kV以上である請求項1記載の熱伝導性積層体。
【請求項5】
前記絶縁層の熱膨張係数が5〜30ppm/Kの範囲内である請求項1記載の熱伝導性積層体。
【請求項6】
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有割合が55〜65vol%の範囲内である請求項1記載の熱伝導性積層体。
【請求項7】
ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを含有するフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する熱伝導性ポリイミドフィルムにおいて、
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有割合が50〜70vol%の範囲内であり、
前記熱伝導性フィラーの最大粒子径が15μm未満であり、
前記熱伝導性フィラーとして板状フィラーと球状フィラーとを含有し、前記板状フィラーの平均長径DLが0.1〜2.4μmの範囲内であるとともに、前記球状フィラーの平均粒径DRが0.05〜5.0μmの範囲内であり、
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における前記板状フィラーの体積比率(A)と前記球状フィラーの体積比率(B)との関係(A)/(B)が1〜15の範囲内であり、
前記絶縁層の厚み方向での熱伝導率λzが1.0W/mK以上であることを特徴とする熱伝導性ポリイミドフィルム。
【請求項8】
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における前記板状フィラーの体積比率が、前記球状フィラーの体積比率よりも大きい請求項記載の熱伝導性ポリイミドフィルム。
【請求項9】
前記板状フィラーが、酸化アルミニウム及び窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記球状フィラーが酸化アルミニウム、溶融シリカ及び窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項記載の熱伝導性ポリイミドフィルム。
【請求項10】
前記絶縁層は、厚みが10〜100μmの範囲内にあり、耐電圧が2kV以上である請求項記載の熱伝導性ポリイミドフィルム。
【請求項11】
前記絶縁層の熱膨張係数が5〜30ppm/Kの範囲内である請求項記載の熱伝導性ポリイミドフィルム。
【請求項12】
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有割合が55〜65vol%の範囲内である請求項記載の熱伝導性ポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーを含有する熱伝導性ポリイミドフィルム及びそれを用いた熱伝導性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、LED照明器具、自動車エンジン周り関連部品に代表されるように電子機器の小型化、軽量化に対する要求が高まってきている。それに伴い、機器の小型化、軽量化に有利なフレキシブル回路基板が電子技術分野において広く使用されるようになってきている。そして、その中でもポリイミド樹脂を絶縁層とするフレキシブル回路基板は、その耐熱性、耐薬品性などが良好なことから、広く用いられている。一方、最近の電子機器の小型化により、回路の集積度が上がってきており、さらに、情報処理の高速化及び信頼性の向上を図るべく、機器内に生じる熱の放熱特性を高めるための技術が注目されている。
【0003】
電子機器内に生じる熱の放熱特性を高めるには、電子機器の熱伝導性を高めることが有効と考えられる。そのため、配線基板等を構成する絶縁層中に熱伝導性フィラーを含有させる技術が検討されている。より具体的には、絶縁層を形成する樹脂中に、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの熱伝導性の高い充填材を分散配合することが検討されている。そして、耐熱性の高いポリイミド樹脂に対して熱伝導性フィラーを配合する技術が、例えば特許文献1等で提案されている。
【0004】
更に、このような熱伝導性フィラーを樹脂に配合する技術を応用して高い熱伝導率を得ることも検討されている。例えば、先に出願人は、樹脂中に、板状熱伝導性フィラーと球状熱伝導性フィラーとを組み合わせて充填した高熱伝導性フィルム及び金属張積層体について提案した(PCT/JP2009/065582)。しかし、この特許出願で提案された技術は、主にフレキシブル性を有する基板への適用を意図したものである。そのため、金属張積層体の可撓性(フレキシブル性)を維持しようとすると、熱伝導性フィラーの配合量を一定量以上には上げられないという点で改善の余地があった。また、粒子径が大きいフィラーを多量に充填すると、樹脂とフィラーの界面にかかる応力が大きくなるため、絶縁層中に空隙が発生してしまい、その点からもフィラーの充填量に限界があった。
【0005】
このように高熱伝導性フィラーの充填率を高めたり、その粒子径のサイズを大きくしたりする場合には、絶縁層の形成過程で絶縁層中に多くの空隙が発生して、耐電圧性を低下させてしまうという問題があった。一般に、このような高熱伝導性フィラーを含有する絶縁層を形成する場合の多くは、基材上に高熱伝導性フィラーを含有する樹脂溶液を塗布し、乾燥等の熱処理により絶縁層を形成する方法によって行なわれる。熱伝導性樹脂シートの製造方法において、体積配合比を工夫するとともに、乾燥後に圧縮することにより、空隙の発生を抑制しようとする技術が検討されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
しかしながら、絶縁層の圧縮は、その条件によっては絶縁層やこれを備えた積層体の他の特性にも影響を与えるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開2005−162878号公報
【特許文献2】日本国特開2008‐308576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、熱伝導性フィラーを絶縁層に多く充填させた場合においても、耐熱性、寸法安定性に加え、熱伝導特性と電気絶縁性にも優れ、金属層と高い接着性を有する熱伝導性ポリイミドフィルム及びそれを用いた熱伝導性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱伝導性積層体は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを含有するフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に積層された金属層と、を有するものである。この熱伝導性積層体は、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有割合が35〜80vol%の範囲内であり、前記熱伝導性フィラーの最大粒子径が15μm未満であり、前記熱伝導性フィラーは板状フィラーと球状フィラーとを含有し、前記板状フィラーの平均長径DLが0.1〜2.4μmの範囲内であり、前記絶縁層の厚み方向での熱伝導率λzが0.8W/mK以上である。
【0010】
また、本発明の熱伝導性ポリイミドフィルムは、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを含有するフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有するものである。この熱伝導性ポリイミドフィルムは、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有割合が35〜80vol%の範囲内であり、前記熱伝導性フィラーの最大粒子径が15μm未満であり、前記熱伝導性フィラーとして板状フィラーと球状フィラーとを含有し、前記板状フィラーの平均長径DLが0.1〜2.4μmの範囲内であり、前記絶縁層の厚み方向での熱伝導率λzが0.8W/mK以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱伝導性ポリイミドフィルム及び熱伝導性積層体によれば、絶縁層のマトリックスとなるポリイミド樹脂の有する耐熱性、寸法安定性に加え、熱伝導特性にも優れている。また、絶縁層中に多量に熱伝導性フィラーを含有する場合でも、絶縁層中の空隙の発生が抑制又は低減されることで耐電圧性にも優れている。さらに、本発明の熱伝導性ポリイミドフィルム及び熱伝導性積層体は、絶縁層の圧縮などの特別な工程を必要とせずに、通常行われる、塗布や、熱処理などの工程によって作製できるので有利である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[熱伝導性積層体]
本発明の実施の形態に係る熱伝導性積層体は、絶縁層とその片面又は両面に有する金属層からなる。絶縁層はポリイミド樹脂から構成され、少なくとも1層はポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを含有するフィラー含有ポリイミド樹脂層である。絶縁層はフィラー含有ポリイミド樹脂層のみからなっていてもよく、フィラーを含有しないポリイミド樹脂層を有してもよい。フィラーを含有しないポリイミド樹脂層を有する場合、その厚みは、例えば、フィラー含有ポリイミド樹脂層の1/100〜1/2の範囲内、好ましくは1/20〜1/3の範囲内とすることがよい。フィラーを含有しないポリイミド樹脂層を有する場合、そのポリイミド樹脂層が金属層に接するようにすれば、金属層と絶縁層の接着性が向上する。
【0013】
<熱伝導性フィラー>
本発明において、フィラー含有ポリイミド樹脂層には、熱伝導性フィラーとして板状フィラーと球状フィラーとを用いる。この層における熱伝導性フィラーの体積比率(含有量又は含有割合ともいう)は、熱伝導性積層体に優れた熱伝導性を付与するため、板状フィラーと球状フィラーとの合計量で35〜80vol%の範囲内、好ましくは50〜70vol%の範囲内、より好ましくは55〜65vol%の範囲内、最も好ましくは55〜59vol%の範囲内である。熱伝導性フィラーの含有割合が35vol%に満たないと、熱伝導特性が低くなり、放熱材料として十分な特性を得ることができない。また、熱伝導性フィラーの含有割合が80vol%を超えると、絶縁層が脆くなり、取り扱いにくくなるばかりでなく、絶縁層をポリアミド酸溶液から形成しようとする場合、ワニスの粘度が高くなり、作業性も低下する。
【0014】
また、本発明では、絶縁層中に空隙が生じることを抑制又は低減して、耐電圧特性を高いものとするために、フィラー含有ポリイミド樹脂層における板状フィラーの体積比率(A)は、球状フィラーの体積比率(B)よりも大きくすることが好ましい。具体的には、(A)/(B)が1〜15の範囲内であることがより好ましく、1.5〜15の範囲内となるようにすることが最も好ましい。
【0015】
ここで、板状フィラーとは、フィラー形状が板状、燐片状のフィラーで、平均厚みが、表面部の平均長径又は平均短径より十分に小さいもの(好ましくは1/2以下)をいう。本発明で使用する板状フィラーは、平均長径DLが0.1〜2.4μmの範囲内のものである。平均長径DLが0.1μmに満たないと、熱伝導率が低く、熱膨張係数が大きくなり、板状の効果が小さくなってしまう。平均長径DLが2.4μmを超えると製膜時に応力の集中により空隙が発生しやすくなる。ここで、平均長径DLとは、板状フィラーの長手直径の平均値を意味する。板状フィラーの好ましい具体例としては、窒化ホウ素、酸化アルミニウム等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上併用して使用することもできる。また、板状フィラーの平均長径DLは、0.5〜2.2μmの範囲内にあることが高熱伝導の点から好ましい。本発明に用いる板状フィラーの最適なものは、平均長径DLが1〜2.2μmの窒化ホウ素である。なお、平均径はメディアン径を意味し、モード径は上記範囲で1つであることがよく、これは球状フィラーについても同様である。
【0016】
また、球状フィラーとは、フィラー形状が球状及び球状に近いもので、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)をいう。本発明で使用する球状フィラーの平均粒径DRは、0.05〜5.0μmの範囲内が好ましい。平均粒径DRが0.05μmに満たないと、熱伝導性向上の効果が小さくなる。また、球状フィラーの平均粒径DRが5μmを超えると、球状フィラーが板状フィラーの層間に入りづらくなったり、周辺の樹脂収縮による応力の増加で空隙が発生したりして、発明効果の制御が難しくなる。ここで、平均粒径DRとは、球状フィラー粒子の直径の平均値(メディアン径)を意味する。球状フィラーの好ましい具体例としては、例えば酸化アルミニウム、溶融シリカ、窒化アルミニウムが挙げられ、これらを単独で又は2種以上併用して使用することもできる。例えば、酸化アルミニウムは耐湿性に優れている点で好ましいものであり、窒化アルミニウムは絶縁層に高い熱伝導性を付与できる点において好ましいものである。従って、熱伝導性積層体の用途に応じて上記球状フィラーの材質を選定し、必要に応じて組み合わせて使用することができる。また、球状フィラーの平均粒径DRは、0.1〜4.0μmの範囲内にあることが充填性向上の点から好ましい。本発明に用いる球状フィラーの最適なものは、平均粒径DRが0.5〜3.0μmの範囲内の酸化アルミニウムである。酸化アルミニウムは熱伝導率が劣るが、板状フィラーと球状フィラーの両方を使用することにより、この欠点は解消される。ただし、より高い熱伝導率を望む場合は、板状フィラーと球状フィラーのいずれか又は両方は、酸化アルミニウム以外のフィラーとすることが好ましい。
【0017】
なお、本発明でいう熱伝導性フィラーは、熱伝導率が5.0W/m・K以上であることがよい。熱伝導性フィラーの5.0W/mK未満になると、積層体とした場合の放熱効果が薄れる。
【0018】
また、熱伝導性フィラー中、球状フィラーの含有割合は、熱伝導率向上と耐電圧向上の両立の観点から、25〜70wt%の範囲とすることが好ましい。なお、フィラーを含有しないポリイミド樹脂層を有する場合、全絶縁層中の熱伝導性フィラーの含有率は好ましくは30〜90wt%の範囲、より好ましくは30〜85wt%、更に好ましくは30〜60wt%とすることがよい。
【0019】
熱伝導性フィラーは、上記平均長径DLと平均粒径DRとの関係がDL>DR/2であり、30μm以上の熱伝導フィラーを含有しないことが好ましい。平均長径DLと平均粒径DRとの関係がDL>DR/2の要件を満たさないと、熱伝導率の低下を招くこととなる。また、30μm以上の熱伝導フィラーを含有すると、表面の外観不良が生じる傾向になる。平均長径DLと平均粒径DRとの関係はDL>DRであることがより好ましい。範囲としては、DRはDLの1/3〜5/3の範囲であることが好ましい。
【0020】
また、使用する熱伝導性フィラー中の粒径9μm以上のフィラーが、全体の50wt%以下とすることが好ましく、特には、板状フィラー中における粒径9μm以上のフィラーの割合を50wt%以下とすることが好ましい。このことにより、絶縁層表面の凹凸がなくなり平滑な表面とすることができる。ここで、板状フィラーの場合の粒径は、長径を意味する。
【0021】
また、本発明で使用する熱伝導性フィラーの最大粒子径は15μm未満とする必要がある。この最大粒子径が15μm以上となると、絶縁層表面の凹凸が発生したり、フィラーと樹脂の界面に空隙が発生しやすくなる。ここで、板状フィラーの場合の最大粒子径は、長径を意味する。なお、本発明において、上記熱伝導性フィラーは、いずれも市販品を適宜選定して用いることができる。
【0022】
<絶縁層>
本発明で絶縁層のマトリックス樹脂となるポリイミド樹脂は、一般的に下記一般式(1)で表される。このようなポリイミド樹脂は、ジアミン成分と酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、有機極性溶媒中で重合する公知の方法によって製造することができる。この場合、粘度を所望の範囲とするために、ジアミン成分に対する酸二無水物成分のモル比を調整してもよく、その範囲は、例えば0.980〜1.03のモル比範囲が好ましい。
【0023】
【化1】
ここで、Ar1は芳香族環を1個以上有する4価の有機基であり、Ar2は芳香族環を1個以上有する2価の有機基である。そして、Ar1は酸二無水物の残基ということができ、Ar2はジアミンの残基ということができる。また、nは、一般式(1)の構成単位の繰返し数を表し、200以上、好ましくは300〜1000の数である。
【0024】
酸二無水物としては、例えば、O(OC)-Ar1-(CO)Oによって表される芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、下記芳香族酸無水物残基をAr1として与えるものが例示される。
【0025】
【化2】
【0026】
酸二無水物は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、及び4,4'-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)から選ばれるものを使用することが好ましい。
【0027】
ジアミンとしては、例えば、H2N−Ar2−NH2によって表される芳香族ジアミンが好ましく、下記芳香族ジアミン残基をAr2として与える芳香族ジアミンが例示される。
【0028】
【化3】
【0029】
これらのジアミンの中でも、ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル(m-TB)、パラフェニレンジアミン(p−PDA)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)が好適なものとして例示される。
【0030】
ジアミン成分と酸二無水物成分との重合に用いる溶媒については、例えばジメチルアセトアミド、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等を挙げることができ、これらについては1種若しくは2種以上を併用して使用することもできる。また、重合して得られたポリアミド酸(ポリイミド前駆体)の樹脂粘度については、500cps〜35000cpsの範囲内とすることが好ましく、1000cps〜10000cpsの範囲内とすることが特に好ましい。
【0031】
本発明の熱伝導性積層体の絶縁層を形成する方法は、特に限定されるものではなく公知の手法を採用することができる。ここでは、その最も代表的な例を示す。まず、絶縁層の原料である、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸の樹脂溶液を、金属層である銅箔等の金属箔上に直接流延塗布して塗布膜を形成する。ここで、ポリアミド酸は、ポリイミドの前駆体樹脂である。次に、塗布膜を150℃以下の温度である程度溶媒を乾燥除去する。その後、塗布膜に対し、更にイミド化のために100〜400℃、好ましくは130〜360℃の温度範囲で5〜30分間程度の熱処理を行う。このようにして、金属層上に熱伝導性フィラーを含有するポリイミド樹脂からなる絶縁層を形成することができる。絶縁層を2層以上のポリイミド層とする場合、第一のポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、乾燥したのち、第二のポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、乾燥する。それ以降は、同様にして第三のポリアミド酸の樹脂溶液、次に、第4のポリアミド酸の樹脂溶液、・・・というように、ポリアミド酸の樹脂溶液を、必要な回数だけ、順次、塗布し、乾燥する。その後、まとめて100〜400℃の温度範囲で5〜30分間程度の熱処理を行って、イミド化を行うことがよい。熱処理の温度が100℃より低いとポリイミドの脱水閉環反応が十分に進行せず、反対に400℃を超えると、ポリイミド樹脂層及び銅箔が酸化等により劣化するおそれがある。
【0032】
また、絶縁層を形成する別の例を挙げる。まず、任意の支持基体上に、絶縁層の原料である、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸の樹脂溶液を流延塗布してフィルム状に成型する。このフィルム状成型物を、支持体上で加熱乾燥することにより自己支持性を有するゲルフィルムとする。その後、ゲルフィルムを支持体より剥離した後、更に高温で熱処理し、イミド化させてポリイミドフィルムとする。このポリイミドフィルムを絶縁層とした熱伝導性積層体とするには、例えば、ポリイミドフィルムに直接、又は任意の接着剤を介して金属箔を加熱圧着する方法や、金属蒸着等の手法によってポリイミドフィルムに金属層を形成する方法が一般的である。
【0033】
上記絶縁層の形成において用いられる、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸の樹脂溶液の調製に際しては、例えばポリアミド酸の樹脂溶液に熱伝導性フィラーを直接配合してもよい。あるいは、フィラー分散性を考慮し、ポリアミド酸の樹脂溶液の原料(酸二無水物成分又はジアミン成分)の一方を投入した反応溶媒に予め熱伝導性フィラーを配合した後、攪拌下にもう一方の原料を投入して重合を進行させてもよい。直接配合の場合は一回でフィラーを全量投入してもよいし、数回分けて少しずつ添加してもよい。また、樹脂溶液の原料も一括で入れてもよいし、数回に分けて少しずつ混合してもよい。
【0034】
絶縁層は、単層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。例えば、熱伝導性積層体の寸法安定性や、銅箔との接着強度を優れたものとするために、複数層とすることもできる。ここで、絶縁層を複数層とする場合、熱伝導性を考慮するとすべての層に熱伝導性フィラーを含有させることが好ましい。ただし、フィラー含有ポリイミド樹脂層の隣接層を、フィラーを含有しない層とするか、あるいはその含有量が低い層とすることにより、加工時等のフィラーの滑落が防止できるという有利な効果をもたせることができる。なお、本発明は、フィラー含有ポリイミド樹脂層と金属箔とを接着するための接着剤を用いることを除外するものではない。ただし、絶縁層の両面に金属層を有する熱伝導性積層体において接着層を介在させる場合には、接着層の厚みは、熱伝導性を損なわないように、全絶縁層の厚みの30%未満とすることが好ましく、20%未満とすることがより好ましい。また、絶縁層の片面のみに金属層を有する熱伝導性積層体において接着層を介在させる場合には、接着層の厚みは、熱伝導性を損なわないように、全絶縁層の厚みの15%未満とすることが好ましく、10%未満とすることがより好ましい。そして、接着剤層は絶縁層の一部を構成するので、ポリイミド樹脂層であることが好ましい。絶縁層の主たる材質であるにおけるポリイミド樹脂のガラス転移温度は、耐熱性を付与する観点から300℃以上とすることが好ましい。ガラス転移温度を300℃以上とするには、ポリイミド樹脂を構成する上記の酸二無水物やジアミン成分を適宜選択することで可能となる。
【0035】
本発明の熱伝導性積層体において、絶縁層の厚さは、例えば10〜100μmの範囲内であることが好ましく、12〜50μmの範囲内がより好ましい。絶縁層の厚みが10μmに満たないと、熱伝導性積層体の製造時の搬送工程で金属箔にシワが入るなどの不具合が生じやすくなる。反対に、絶縁層の厚みが100μmを超えると高い熱伝導性の発現や、屈曲性等の点で不利になる傾向となる。絶縁層の耐電圧は、2kV以上とすることが好ましい。
【0036】
絶縁層の熱膨張係数(CTE)は、例えば5×10-6〜30×10-6/K(5〜30ppm/K)の範囲内にあることが好ましく、10×10-6〜25×10-6/K(10〜25ppm/K)の範囲内がより好ましい。絶縁層の熱膨張係数が5×10-6/Kより小さいと、熱伝導積層体とした後でカールが生じやすくハンドリング性に劣る。一方、絶縁層の熱膨張係数が30×10-6/Kを超えると、フレキシブル基板など電子材料としての寸法安定性に劣り、また耐熱性も低下する傾向にある。
【0037】
本発明における絶縁層の厚み方向での熱伝導率λzは、0.8W/mK以上とする必要があり、1.0W/mK以上とすることが好ましく、1.5W/mK以上とすることがより好ましい。熱伝導率λzが0.8W/mKに満たないと、放熱用途への適用を主目的とする本発明の熱伝導性積層体において、目的を達することができない。この熱伝導率特性と他の構成要件を充足することで、他の諸特性をも同時に満足する熱伝導性積層体が得られる。特に、熱伝導率λzが1.0W/mKであると、優れた放熱特性が得られ、例えば放熱基板の他、多くの用途へ適用可能な熱伝導性積層体とすることができる。また、絶縁層の熱伝導率は、平面方向で1.0W/mK以上であることが有利であり、2.0W/mK以上であることが好ましい。
【0038】
上記したとおり、本発明の熱伝導性積層体は、絶縁層の片面側のみに金属層を備えたものであってもよいし、絶縁層の両面に金属層を備えたものであってもよい。なお、両面に金属層を備えた熱伝導性積層体は、例えば、片面金属層の積層体を形成した後、互いにポリイミド樹脂層を向き合わせて熱プレスによって圧着し形成する方法や、片面金属層の積層体のポリイミド樹脂層に金属箔を圧着し形成する方法等により得ることができる。
【0039】
<金属層>
金属層は、上記したように金属箔からなるものであってもよいし、フィルムに金属蒸着したものであってもよい。また、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド前駆体を直接塗布可能な点からは、金属箔でも金属板でも可能であり、中でも銅箔若しくは銅板が好ましい。金属層の厚みは、例えば5μm〜3mmの範囲内が好ましく、12μm〜1mmの範囲内がより好ましい。金属層の厚みが5μmに満たないと、積層基板製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがある。反対に金属層の厚みが3mmを超えると硬くて加工性が悪くなる。金属層の厚みについては、一般的に、車載用途では厚いものが適し、LED用途などでは薄い金属層が適する。
【0040】
[熱伝導性ポリイミドフィルム]
本発明の実施の形態に係る熱伝導性ポリイミドフィルムは、本発明の熱伝導性積層体における絶縁層と同様の構成を採り、その詳細は、上記した本発明の熱伝導性積層体の絶縁層の説明が参照される。すなわち、上述した熱伝導性積層体から金属層を除去して得られる絶縁層のフィルムは、本発明の熱伝導性ポリイミドフィルムと同様の構成となる。また、本発明の熱伝導性積層体は、本発明の熱伝導性ポリイミドフィルムを絶縁層として有するものということもできる。
【0041】
熱伝導性積層体の製造方法において、その絶縁層の形成は、金属層を支持基材として、その上に絶縁層を形成できると説明をしたが、本発明の熱伝導性ポリイミドフィルムの製造にあたって使用する支持基材は、特に限定されるものではなく、任意の材質の基材を用いることができる。また、熱伝導性ポリイミドフィルムの形成にあたっては、基材上で完全にイミド化を完了させた樹脂フィルムを形成する必要はない。例えば、半硬化状態のポリイミド前駆体状態での樹脂フィルムを支持基材から剥離等の手段で分離し、分離後イミド化を完了させて熱伝導性ポリイミドフィルムとすることもできる。これらの点以外は、上述したとおり、本発明の熱伝導性積層体の絶縁層の説明が参照されるので、その説明は省略する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
本実施例に用いた略号を以下に示す。
m-TB:2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
DAPE:4,4'-ジアミノジフェニルエーテル
【0044】
また、実施例において評価した各特性については、下記評価方法に従った。
[厚さ方向熱伝導率(λz)]
測定対象のフィルム(絶縁フィルム、以下同じ)を20mm×20mmのサイズに切り出し、レーザーフラッシュ法による厚さ方向の熱拡散率(ブルカー・エイエックスエス製LFA 447 Nanoflash装置)、DSC(示差走査熱量測定)による比熱、気体置換法による密度をそれぞれ測定し、これらの結果をもとに熱伝導率を算出した。
【0045】
[熱膨張係数(CTE)]
3mm×15mmのサイズの絶縁フィルムを、熱機械分析(TMA)装置にて5gの荷重を加えながら一定の昇温速度(20℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、温度に対する絶縁フィルムの伸び量から熱膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0046】
[ガラス転移温度(Tg)]
絶縁フィルム(10mm×22.6mm)を動的熱機械分析装置にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(tanδ極大値:℃)を求めた。
【0047】
[接着強度]
耐電圧を測定するためのサンプル加工(回路加工)に耐えられる程度に銅箔と樹脂層が密着しているサンプルは○(良好)とし、加工中もしくは評価中に樹脂層が銅箔から剥離するサンプルは×(不良)とした。また、実施例4〜6の接着力は、テンションテスターを用い、幅1mmの銅張品の樹脂側を両面テープによりアルミ板に固定し、銅を180°方向に50mm/minの速度で剥離してピール強度を求めた。
【0048】
[耐電圧]
熱伝導性積層体を5cm×5cmのサイズでカットし、片側の銅箔を直径2cm円状に加工し、不要部分は銅箔エッチング液で除去した。JIS C2110に基づき、KIKUSUI製TOS 5101装置にて、段階昇圧法により絶縁油中にて耐電圧を測定した。0.2kV刻みで電圧をステップ上昇させ、各電圧において20秒保持し、漏れ電流8.5mAとし、破壊した電圧の一つ前の値を初期耐電圧とした。電極のサイズは2cmφである。サンプルを120℃/95RH%湿度の環境に24時間保持後、測定した耐電圧を湿熱後耐電圧とした。
【0049】
合成例1
窒素気流下で、m−TB(12.4591g、0.0587mol)及びDAPE(9.6152g、0.0480mol)を500mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc255g中に溶解させた。次いで、そこにPMDA(22.9258g、0.1051mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸溶液(P1)を得た。
【0050】
合成例2
窒素気流下で、BAPP(23.2045g、0.0565mol)を500mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc264g中に溶解させた。次いで、PMDA(11.9473g、0.0548mol)、BPDA(0.8482g、0.0029mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸溶液(P2)を得た。
【0051】
合成例3
窒素気流下で、m−TB(19.1004g、0.08997mol)及びTPE−R(2.9224g、0.0100mol)を500mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc255g中に溶解させた。次いで、PMDA(17.1827g、0.07878mol)を加えて、10分攪拌後、追加してBPDA(5.7944g、0.0197mol)を添加した。その後、溶液を室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸溶液(P3)を得た。
【0052】
実施例1
ポリアミド酸溶液(P1)65.242gと、板状フィラーとして市販の窒化ホウ素(鱗片形状、平均長径2.2μm、最大粒径11μm)18.16gと、球状フィラーとして市販のアルミナ(球状、平均粒子径3μm、最大粒径10μm)3.55gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合した。その後粘度調整のためDMAc13.048gを添加し、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液(P4)を得た。
厚さ35μmの電解銅箔上に、フィラーを配合していないポリアミド酸溶液(P2)を硬化後の厚みが2.0μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、板状フィラーと球状フィラーを混合した熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸(P4)の溶液を硬化後の厚みが22μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。さらに、その上にフィラーを配合していないポリアミド酸溶液(P2)を硬化後の厚みが2.0μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、130〜300℃の温度範囲で、段階的に20分かけて昇温加熱して、銅箔上に3層のポリイミド層からなる絶縁層を有する熱伝導性積層体M1(P2/P4/P2)を作製した。
得られた熱伝導性積層体M1における絶縁層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去して絶縁フィルムを作製し、熱伝導率、CTE、Tgをそれぞれ評価した。結果を表2に示す。更に、熱伝導性積層体における金属−絶縁樹脂層の接着強度、初期及び湿熱後の耐電圧を測定した。結果を表3に示す。
【0053】
なお、特に断らない限り、以下に示す実施例及び比較例で得られた絶縁フィルム及び熱伝導性積層体についても、実施例1と同様の項目の評価を行なった。
【0054】
実施例2
ポリアミド酸溶液(P1)54.092gと、板状フィラーとして実施例1と同じ窒化ホウ素12.71gと、球状フィラーとして実施例1と同じアルミナ22.38gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合した。その後粘度調整のためDMAc10.818gを添加し、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液(P5)を得た。
厚さ500μmの銅箔を用いて、実施例1と同様にして硬化後の厚み構成が2.0μm/24μm/2.0μmである熱伝導性積層体M2(P2/P5/P2)を作製した。
得られた熱伝導性積層体M2を用い、実施例1と同様の方法で絶縁フィルムを作製し、絶縁フィルムの特性を評価するとともに、熱伝導性積層体についても評価した。それぞれの評価結果を表2及び表3に示す。
【0055】
実施例3
ポリアミド酸溶液(P2)78.98gと、板状フィラーとして実施例1と同じ窒化ホウ素17.58gと、球状フィラーとして実施例1と同じアルミナ3.44gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液(P6)を得た。
厚さ35μmの銅箔を用いて、実施例1と同様にして硬化後の厚み構成が2.0μm/21μm/2.0μmである熱伝導性積層体M3(P2/P6/P2)を作製した。
【0056】
比較例1
ポリアミド酸溶液(P3)86.96gと、板状フィラーとして窒化ホウ素(市販品:鱗片形状、平均長径4.5μm、最大粒径20μm)6.52gと、球状フィラーとして実施例1と同じアルミナ6.52gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液(P7)を得た。
厚さ12μmの銅箔を用いて、実施例1と同様に硬化後の厚み構成が2.0μm/21μm/2.0μmである熱伝導性積層体M4(P2/P7/P2)を作製した。
【0057】
比較例2
ポリアミド酸溶液(P3)86.96gと、板状フィラーとして窒化ホウ素(市販品:鱗片形状、平均長径2.5μm、最大粒径11μm、)6.52gと、球状フィラーとして実施例1と同じアルミナ6.52gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液(P8)を得た。
厚さ12μmの銅箔を用いて、実施例1と同様に硬化後の厚み構成が2.0μm/21μm/2.0μmである熱伝導性積層体M5(P2/P8/P2)を作製した。
【0058】
比較例3
ポリアミド酸溶液(P3)61.467gと、板状フィラーとして比較例1と同じ窒化ホウ素9.50gと、球状フィラーとして実施例1と同じアルミナ16.74gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、その後粘度調整のためDMAc12.293gを添加し、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液(P9)を得た。
厚さ12μmの銅箔を用いて、実施例1と同様に硬化後の厚み構成が2.0μm/20μm/2.0μmである熱伝導性積層体M6(P2/P9/P2)を作製した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
合成例4
窒素気流下で、m−TB(10.38g、0.049mol)及びDAPE(8.01g、0.040mol)を500mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc262.50g中に溶解させた。次いで、PMDA(19.10g、0.088mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸樹脂溶液(P10)を得た。
【0063】
合成例5
窒素気流下で、BAPP(23.20g、0.057mol)を500mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc264g中に溶解させた。次いで、PMDA(11.9473g、0.0548mol)、BPDA(0.8482g、0.0029mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸溶液(P11)を得た。
【0064】
実施例4
固形分濃度12.5wt%のポリアミド酸溶液(P10)72.71gと、板状フィラーとして窒化ホウ素(電気化学工業(株)社製、商品名:SP−3’、鱗片形状、平均長径2.2μm)を分級機により11μmを超える粒子を取除いたもの7.49gと、球状フィラーとしてアルミナ(住友化学(株)社製、商品名:AA−3、球状、平均粒子径3μm、最大粒子径11μm)19.80gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸樹脂溶液(P10’)を得た。
【0065】
防錆処理を施した厚さ35μmの電解銅箔上に、フィラーを配合していないポリアミド酸樹脂溶液(P11)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に、上記の熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸樹脂溶液(P10’)を硬化後の厚みが21μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。さらに、その上にフィラーを配合していないポリアミド酸樹脂溶液(P11)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去し、その後、130〜300℃の温度範囲で、段階的に20分かけて昇温加熱して、銅箔上に3層のポリイミド層からなる絶縁層を有する熱伝導性積層体M7(P11/P10’/P11)を作製した。この熱伝導性積層体M7における絶縁層の構成を表4に示す。
【0066】
得られた熱伝導性積層体M7における絶縁層(フィルム)の特性を評価するために銅箔をエッチング除去して絶縁フィルム(F3)を作製し、CTE、引き裂き伝播抵抗、ガラス転移温度、熱伝導率をそれぞれ評価した。結果を表5に示す。更に、熱伝導性積層体M7における絶縁層と銅箔との接着強度を表6に示す。
【0067】
また、得られた熱伝導性積層体M7の耐熱樹脂層の上に防錆処理を施した厚さ12μmの電解銅箔を最高380℃の温度でプレスを行い、両面金属の熱伝導性積層体M7’を得た。これを耐電圧測定に使用した。結果を表6に示す。
【0068】
実施例5
固形分濃度12.0wt%のポリアミド酸溶液(P11)74.54gと、板状フィラーとして窒化ホウ素(電気化学工業(株)社製、商品名:SP−3’、鱗片形状、平均長径2.2μm)を分級機により11μmを超える粒子を取除いたもの9.22gと、球状フィラーとしてアルミナ(住友化学(株)社製、商品名:AA−3、球状、平均粒子径3μm、最大粒子径11μm)16.24gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸樹脂溶液(P11’)を得た。
【0069】
防錆処理を施した厚さ35μmの電解銅箔上に、フィラーを配合していないポリアミド酸樹脂溶液(P11)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に、上記の熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸樹脂溶液(P11’)を硬化後の厚みが21μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。さらに、その上にフィラーを配合していないポリアミド酸樹脂溶液(P11)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去し、その後、130〜300℃の温度範囲で、段階的に20分かけて昇温加熱して、銅箔上に3層のポリイミド層からなる絶縁層を有する熱伝導性積層体M8を作製した。この熱伝導性積層体M8における絶縁層の構成を表4に示す。
【0070】
得られた熱伝導性積層体M8における絶縁層(フィルム)の特性を評価するために銅箔をエッチング除去して絶縁フィルム(F4)を作製し、CTE、引き裂き伝播抵抗、ガラス転移温度、熱伝導率をそれぞれ評価した。結果を表5に示す。更に、熱伝導性積層体M8における絶縁層と銅箔との接着強度を表6に示す。
【0071】
また、得られた熱伝導性積層体M8の耐熱樹脂層の上に、防錆処理を施した厚さ12μmの電解銅箔を最高380℃の温度でプレスを行い、両面金属の熱伝導性積層体M8’を得た。これを耐電圧測定に使用した。結果を表6に示す。
【0072】
実施例6
固形分濃度12.5wt%のポリアミド酸溶液(P10)57.60gと、板状フィラーとして窒化ホウ素(電気化学工業(株)社製、商品名:SP−3’、鱗片形状、平均長径2.2μm)を分級機により11μmを超える粒子を取除いたもの15.7gと、球状フィラーとしてアルミナ(住友化学(株)社製、商品名:AA−3、球状、平均粒子径3μm、最大粒子径11μm)3.1gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸樹脂溶液(P10'')を得た。
【0073】
防錆処理を施した厚さ35μmの電解銅箔上に、フィラーを配合していないポリアミド酸樹脂溶液(P11)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に、上記の熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸樹脂溶液(P10'')を硬化後の厚みが23μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。さらに、その上にフィラーを配合していないポリアミド酸樹脂溶液(P11)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去し、その後、130〜300℃の温度範囲で、段階的に20分かけて昇温加熱して、銅箔上に3層のポリイミド層からなる絶縁層を有する熱伝導性積層体M9を作製した。この熱伝導性積層体M9における絶縁層の構成を表4に示す。
【0074】
得られた熱伝導性積層体M9における絶縁層(フィルム)の特性を評価するために銅箔をエッチング除去して絶縁フィルム(F5)を作製し、CTE、引き裂き伝播抵抗、ガラス転移温度、熱伝導率をそれぞれ評価した。結果を表5に示す。更に、熱伝導性積層体M9における絶縁層と銅箔との接着強度を表6に示す。
【0075】
また、得られた熱伝導性積層体M9の耐熱樹脂層の上に、防錆処理を施した厚さ12μmの電解銅箔を最高380℃の温度でプレスを行い、両面金属の熱伝導性積層体M9’を得た。これを耐電圧測定に使用した。結果を表6に示す。
【0076】
実施例7
固形分濃度12.5wt%のポリアミド酸溶液(P10)79.5gと、板状フィラーとして窒化ホウ素(電気化学工業(株)社製、商品名:SP−3’、鱗片形状、平均長径2.2μm)を分級機により11μmを超える粒子を取除いたもの8.4gと、球状フィラーとして窒化アルミニウム(トクヤマ(株)社製、商品名:AlN−H、球状、平均粒子径1.1μm)12.09gとを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸樹脂溶液(P10''')を得た。
【0077】
防錆処理を施した厚さ35μmの電解銅箔上に、上記の熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸樹脂溶液(P10''')を硬化後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、130〜300℃の温度範囲で、段階的に20分かけて昇温加熱して、銅箔上に1層のポリイミド層からなる絶縁層を有する熱伝導性積層体M10を作製した。この熱伝導性積層体M10における絶縁層の構成を表4に示す。
【0078】
得られた熱伝導性積層体M10における絶縁層(フィルム)の特性を評価するために銅箔をエッチング除去して絶縁フィルム(F6)を作製し、CTE、引き裂き伝播抵抗、ガラス転移温度、熱伝導率をそれぞれ評価した。結果を表5に示す。更に、熱伝導性積層体M10における絶縁層と銅箔との接着強度を表6に示す。
【0079】
また、得られた熱伝導性積層体M10の耐熱樹脂層の上に防錆処理を施した厚さ12μmの電解銅箔を最高380℃の温度でプレスを行い、両面金属の熱伝導性積層体M10’を得た。これを耐電圧測定に使用した。結果を表6に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
以上の結果から、少なくとも、
a)フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有割合が35〜80vol%の範囲内であり、
b)熱伝導性フィラーの最大粒子径が15μm未満であり、
c)熱伝導性フィラーが板状フィラーと球状フィラーとを含有し、板状フィラーの平均長径DLが0.1〜2.4μmの範囲内である、
との要件を満たした実施例1〜7の熱伝導性積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムは、絶縁層のマトリックスとなるポリイミド樹脂の有する耐熱性、寸法安定性に加え、熱伝導特性にも優れていた。また、絶縁層中の空隙の発生が抑制又は低減されることで耐電圧性にも優れていた。さらに、実施例1〜7の熱伝導性ポリイミドフィルム及び熱伝導性積層体は、絶縁層の圧縮などの特別な工程を必要とせずに、通常行われる、塗布や、熱処理などの工程によって作製できた。そのため、配線基板等の絶縁層として求められる諸特性が損なわれておらず、各種電子機器への適用が可能である。
【0084】
一方、上記a)〜c)の要件を満たしていない比較例1、及び、上記a)の要件を満たしていない比較例2では、絶縁層の厚み方向での熱伝導率λzが0.8W/mK未満であり、熱伝導性が低い結果となった。また、上記b)、c)の要件を満たしていない比較例3では、耐電圧性が低い結果となった。これは、比較例3において、熱伝導性フィラーの粒子径制御を行わずに配合割合を多くしたため、絶縁層中に空隙が発生し、耐電圧性が低下したものと推測された。
【0085】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。本国際出願は、2010年3月10日に出願された日本国特許出願2010−53873号及び2010年3月29日に出願された日本国特許出願2010−75684号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。