【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0027】
<実験方法>
(1)基質の調製
基質には、以下に示す4%ドッグフード(日本ペットフード製)含有新鮮基質を用いた。
[4%ドッグフード含有基質(水1L中の組成)]
ドッグフード: 40g
KH
2PO
4: 1.135g
K
2HPO
4: 1.74g
NiCl
2・6H
2O: 0.4mg
CoCl
2・6H
2O: 0.48mg
【0028】
(2)リアクターの構成
デュラン社製の250mL容ガラスバイアル瓶をリアクターとして用いた。このガラス瓶に生ゴミからの安定したガス生成が行われていた好熱性嫌気性消化槽(メタン発酵槽)内から採取した汚泥を250mL入れた。
【0029】
(3)リアクターの運転条件
温度(発酵液温度)55℃で攪拌しながら運転を行った。尚、リアクターの運転はフィルアンドドロー方式で行い、1日に1回、発酵液を一定量廃棄し、同量の基質を添加するようにした。また、この際に5Nの水酸化ナトリウム溶液を用いて発酵液のpHを8.0に維持した。
【0030】
リアクターの有機物負荷量(g−CODcr/L/日)と水理学的滞留時間(日)は、基質の添加量により調整して、
図1に示す負荷となるようにした。
図1において、□が有機物負荷量であり、○が水理学的滞留時間である。有機物負荷量は、具体的には以下の通りである。尚、CODcrとは、重クロム酸塩を用いた場合の化学的酸素要求量である。
・1−4日目 :0.99g−CODcr/L/日
・5−7日目 :2.0g−CODcr/L/日
・8−11日目 :3.0g−CODcr/L/日
・12−15日目:4.0g−CODcr/L/日
・16−59日目:4.9g−CODcr/L/日
【0031】
また、ガラス瓶には、リアクターを攪拌しながら運転するための攪拌子を収容した。ガラス瓶は収容物を全て入れた後、窒素ガス置換してから蓋をして密封し、ガラス瓶内の嫌気環境を確保した。
【0032】
(4)分析方法
蓋の上面に設けたシリコーンゴムにガス採集管を差し込み、ガス採集管のガラス瓶の外側の端部に袋を備えて、ガラス瓶内から発生するバイオガスを袋内に採集した。そして、ガス発生量を水上置換法により測定した。
【0033】
また、袋内のバイオガス中のメタン含有量を、Active Carbonカラム(GLサイエンス製)を使用して、ガスクロマトグラフィー(GL-390B、GLサイエンス製)を用いて測定した。
【0034】
経時的に採取した発酵液について、揮発性脂肪酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸)濃度を、TSKgel OApak-A/Pカラム(東ソー製)を使用して、高速液体クロマトグラフィー(GL-7400、GLサイエンス製)を用いて測定した。
【0035】
<実施例1>
(実験条件):炭素繊維不織布有り、アンモニウムイオン添加あり
ガラス瓶内に炭素繊維不織布を入れ、発酵液へのアンモニウムイオンの添加を行いながらリアクターの運転を行った。アンモニウムイオンの添加は、発酵液に塩化アンモニウムを添加することにより行った。
【0036】
(炭素繊維不織布)
ガラス瓶内に炭素繊維不織布(タイプ:ピッチ、空隙率:約98%、縦:70mm、横:30mm、厚さ:2.4mm)を2枚入れた。
【0037】
(アンモニウムイオン添加条件)
28日目に500mg−N/L分のアンモニウムイオンを添加してアンモニウムイオン濃度を790mg−N/L(ドッグフードの分解に伴うアンモニウムイオンも含む)とし、28−41日目はアンモニウムイオン濃度が790mg−N/Lを維持するようにアンモニウムイオンを添加し続けた。
42日目に800mg−N/L分のアンモニウムイオンを添加してアンモニウムイオン濃度を1560mg−N/L(ドッグフードの分解に伴うアンモニウムイオンも含む)とし、42−54日目はアンモニウムイオン濃度が1560mg−N/Lを維持するようにアンモニウムイオンを添加し続けた。
55日目に1500mg−N/L分のアンモニウムイオンを添加してアンモニウムイオン濃度を2920mg−N/L(ドッグフードの分解に伴うアンモニウムイオンも含む)とし、55−59日目はアンモニウムイオン濃度が2920mg−N/Lを維持するようにアンモニウムイオンを添加し続けた。
【0038】
<実施例2>
(実験条件):炭素繊維不織布有り、アンモニウムイオン添加有り(高負荷)
アンモニウムイオンの負荷量(添加量)以外は実施例1と同様の条件でリアクターの運転を行った。
【0039】
(アンモニウムイオン添加条件)
28日目に500mg−N/L分のアンモニウムイオンを添加してアンモニウムイオン濃度を790mg−N/L(ドッグフードの分解に伴うアンモニウムイオンも含む)とし、28−41日目はアンモニウムイオン濃度が790mg−N/Lを維持するようにアンモニウムイオンを添加し続けた。
42日目に2800mg−N/L分のアンモニウムイオンを添加してアンモニウムイオン濃度を3150mg−N/L(ドッグフードの分解に伴うアンモニウムイオンも含む)とし、42−54日目はアンモニウムイオン濃度が3150mg−N/Lを維持するようにアンモニウムイオンを添加し続けた。
【0040】
<比較例1>
(実験条件):炭素繊維不織布無し、アンモニウムイオン添加無し
ガラス瓶内に炭素繊維不織布を入れず、発酵液へのアンモニウムイオンの添加を行うことなく実施例1と同様の条件でリアクターの運転を行った。但し、ドッグフードが分解されて生じるアンモニウムイオンは存在しており、その濃度は380mg−N/L程度であった。
【0041】
<比較例2>
(実験条件):炭素繊維不織布有り、アンモニウムイオン添加無し
発酵液へのアンモニウムイオンの添加を行わなかった以外は実施例1と同様の条件でリアクターの運転を行った。但し、ドッグフードが分解されて生じるアンモニウムイオンは存在しており、その濃度は380mg−N/L程度であった。
【0042】
<比較例3>
(実験条件):炭素繊維不織布無し、アンモニウムイオン添加有り
ガラス瓶内に炭素繊維不織布を入れずに、実施例1と同様の条件でリアクターの運転を行った。但し、アンモニウムイオンの負荷条件は以下の通り異なっていた。
【0043】
(アンモニウムイオン負荷条件)
28−41日目はアンモニウムイオン濃度が850mg−N/Lであった。
42−54日目はアンモニウムイオン濃度が1660mg−N/Lであった。
55−59日目はアンモニウムイオン濃度が3110mg−N/Lであった。
【0044】
<実験結果>
(1)バイオガス発生速度
実施例1、2及び比較例1〜3におけるバイオガス発生速度の経時変化を
図2に示す。
炭素繊維不織布を用いずにアンモニウムイオン添加を行った条件である比較例3では、アンモニウムイオンの添加を行うとバイオガス発生速度が低下し、40日目にはバイオガスの発生が殆ど起こらなくなった。これに対し、炭素繊維不織布を用いてアンモニウムイオン添加を行った条件である実施例1では、アンモニウムイオンを添加していない比較例1及び2とほぼ同様の実験結果を示し、運転期間中はバイオガスを良好に発生させ続けることができた。このことから、炭素繊維不織布を発酵液に入れてメタン発酵処理を行うことで、発酵液のアンモニウムイオン濃度が2920mg−N/Lまで上昇しても、アンモニウムイオンによるメタン発酵の阻害を抑えながら、効率よくバイオガスを生成できることが明らかとなった。
【0045】
また、実施例2の実験結果から、発酵液のアンモニウムイオン濃度が3150mg−N/Lまで上昇しても、アンモニウムイオンによるメタン発酵の阻害を抑えながら、効率よくバイオガスを生成できることが明らかとなった。
【0046】
(2)バイオガスのメタン含有率
実施例1、2及び比較例1〜3におけるバイオガスのメタン含有率の経時変化を
図3に示す。炭素繊維不織布を用いずにアンモニウムイオン添加を行った条件である比較例3では、30日経過後から徐々にメタン含有率が低下する傾向が見られた。これに対し、他の条件については、メタンガス含有率はほぼ同程度であった。
【0047】
(3)揮発性脂肪酸濃度
実施例1、2及び比較例1〜3における揮発性脂肪酸濃度の経時変化を
図4に示す。炭素繊維不織布を用いずにアンモニウムイオン添加を行った条件である比較例3では、30日経過後から急激に揮発性脂肪酸濃度が上昇する傾向が見られた。これに対し、他の条件については、揮発性脂肪酸は低濃度に抑えられることが確認でき、特に、実施例1と比較例2では、リアクターの運転期間中において、揮発性脂肪酸濃度が極めて低濃度に抑えられることが明らかとなった。
【0048】
(4)まとめ
以上の結果から、炭素繊維不織布を用いることで、発酵液のアンモニウムイオン濃度が3150mg−N/Lまで上昇しても、アンモニウムイオンを添加していない場合と同じレベルでメタン発酵を進行させ得ることが明らかとなった。
【0049】
また、実施例1と比較例3では、アンモニウムイオンの添加条件が同一であったにも関わらず、発酵液のアンモニウムイオン濃度に違いが見られたが、この濃度差は僅かなものであった。したがって、発酵液中の微生物の作用によるアンモニウムイオンの酸化反応や炭素繊維不織布によるアンモニウムイオンの吸着等はリアクター内ではほとんど起こっていないと考えられる。
【0050】
ここで、炭素繊維不織布によりアンモニウムイオンの吸着が起こるか否かについて検証を行った。具体的には、デュラン社製の250mL容ガラスバイアル瓶を準備し、純水にアンモニウムイオンを1500mg−N/Lの濃度で溶解させた溶液を250mL入れた。そして、pHは上記と同様8.0に調整し、炭素繊維不織布を2枚添加し、55℃で攪拌しながら運転した。その結果、アンモニウムイオン濃度は実験開始直後(0時間後)は1465mg−N/Lとなり、24時間後は1409mg−N/Lとなり、48時間後には1477mg−N/Lとなった。このように、炭素繊維不織布を添加してもアンモニウムイオン濃度の変化は見られなかったことから、炭素繊維不織布によるアンモニウムイオンの吸着は起こっていないことが明らかとなった。
【0051】
以上より、アンモニウムイオン濃度が高濃度の発酵液中において、炭素繊維不織布が発酵液中の微生物コミュニティーを安定化してメタン発酵を効率よく進行させる役割を担っていることが考えられる。
【0052】
炭素繊維不織布の具体的役割は、以下のように考えることができる。即ち、発酵液に浸漬した炭素繊維不織布の空孔に、時間の経過と共に発酵液中の微生物と有機物により構成されるバイオフィルムが徐々に形成されて埋め尽くされる。バイオフィルムが形成された炭素繊維不織布の空孔内部には、発酵液中に存在するアンモニウムイオンは拡散により侵入することになるので、発酵液からの距離に依存してアンモニウムイオン濃度が低下することになる。その結果、バイオフィルムで埋め尽くされた炭素繊維不織布の空孔の内部(深部)に向かうに従ってアンモニウムイオン濃度が低下するアンモニウムイオンの濃度勾配が形成され、アンモニウムイオンによるメタン発酵の阻害の影響を受けにくくなり、炭素繊維不織布の空孔の内部でメタン生成菌を含む微生物コミュニティーが安定に機能してメタン発酵を効率よく進行させているものと考えられる。
【0053】
したがって、炭素繊維不織布のみならず、
炭素繊維製の織物を用いた場合にも、炭素繊維不織布を用いた場合と同様の効果を発揮するものと考えられる。