【実施例】
【0075】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0076】
(実施例1)
固化体の製造試験を行った。
【0077】
本実施例において使用した下水汚泥焼却灰(A灰、B灰、脱リン灰)と、石炭灰(D灰、E灰、F灰、G灰、H灰、I灰)のうちの一部(D灰、E灰、F灰、G灰)について、蛍光X線(XRF)分析により主成分の組成を分析した結果を表1に示す。尚、蛍光X線分析は、島津製作所株式会社製XRF1500を使用して、ガラスビード定量分析法により行った。
【0078】
【表1】
【0079】
下水汚泥焼却灰であるA灰は、B灰よりもP
2O
5含有量が多いという特徴を有していた。尚、本実施例において使用した脱リン灰は、B灰に対して1規定の水酸化カリウムで6時間リン抽出処理を行った後に固液分離した残渣である。
【0080】
石炭灰であるD灰、E灰、F灰、G灰については、特にD灰と、E灰、F灰及びG灰との間でAl
2O
3含有量が大きく異なっていた。
【0081】
A灰、B灰、脱リン灰をそれぞれ100g準備し、これらに濃硫酸(97質量%、関東化学株式会社製)35gと水100gを混合した酸溶液を加え、約1日静置した後、硫酸を添加してpHを1.0に調整して、A灰混合物、B灰混合物、脱リン灰混合物をそれぞれ得た。
【0082】
次いで、A灰混合物、B灰混合物、脱リン灰混合物のそれぞれに対し、各種石炭灰(D灰、E灰、F灰、G灰、H灰、I灰)をそれぞれ混合して、硬化反応の有無を確認した。
【0083】
その結果、D灰、E灰、F灰を混合した場合には、数時間から1日で固化することが確認された。これに対し、H灰とI灰を混合した場合には、3日間経過しても固化しなかった。また、G灰については、脱リン灰混合物と混合した場合には固化したが、他の混合物と混合した場合には硬化しなかった。
【0084】
ここで、石炭灰のpHを測定した結果を表2に示す。尚、pHは、純水と石炭灰をL/S=5.0L/kgで混合し、1日後に測定した。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示される結果から、硬化反応が生じたD灰、E灰、F灰はいずれもpH12以上であることが明らかとなった。これに対し、G灰、H灰、I灰は、いずれもpH11.9以下であり、硬化反応の有無が下水汚泥焼却灰の性状に依存していたG灰については、pH11.9であり、pH12に近い値を示していた。
【0087】
さらに、D灰、E灰、G灰について、中和滴定(pH=7.0)を行い、酸消費量を測定した。具体的には、石炭灰1gを250mL容のポリビンに入れ、純水を100mL加え、6時間振とう後に、全て200mLビーカーに移し、スターラーで攪拌しながら硫酸でpH7.0になるまで滴定を行った。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示される結果から、硬化反応が生じたD灰、E灰はいずれも0.6meq/g以上であることが明らかとなった。硬化反応の有無が下水汚泥焼却灰の性状に依存していたG灰については、0.2meq/gであった。
【0090】
以上の結果から、固化体の製造に供する石炭灰は高アルカリ性であることが好適であり、pH12以上であることがより好適であるものと考えられた。また、固化体の製造に供する石炭灰の酸消費量については、0.2meq/g超であることが好適であり、0.3meq/g以上であることがより好適であり、0.6meq/g以上であることがさらに好適であるものと考えられた。
【0091】
(実施例2)
石炭灰としてD灰とE灰を使用した場合について、下水汚泥焼却灰に対する好適な配合量を検討した。固化の可否の判断は、概ね24時間以内に固化するかを基準として判断した。結果を表4に示す。尚、表4の混合率は、以下の式(1)により算出した。
混合率(%)=(石炭灰重量(g))/(下水汚泥焼却灰重量(g))×100
【0092】
【表4】
【0093】
表4に示される結果から、P
2O
5含有量が多いA灰を使用した場合に、石炭灰の投入量が多くなる傾向が見られた。また、石炭灰の代わりに水酸化アルミニウムを使用した場合にも、硬化反応を生じさせて固化体を製造可能であることが明らかとなった。
【0094】
本実施例で使用した水酸化アルミニウムは以下のようにして合成した。即ち、13質量%濃度の「硫酸アルミニウム14−18水」試薬(関東化学株式会社製)の溶液に、2Nの水酸化カリウム溶液をpH7.0になるまで加えて沈殿物を得、これを1日放置した。次いで、デカンテーションを繰り返してから濾過分離し、沈殿物(固体)を回収した。これを50〜60℃で数日間乾燥し、粉砕したものを使用に供した。以降の実施例においても、水酸化アルミニウムはこの合成品を使用した。但し、水酸化アルミニウムはこのような経路で合成したものを用いる必要はなく、市販品を用いてもよい。
【0095】
(実施例3)
本発明の方法により得られる固化体の強度について検討した。
【0096】
表5に固化体の製造条件一覧を示す。
【0097】
【表5】
【0098】
下水汚泥焼却灰(A灰、B灰、脱リン灰)100gに対して、濃硫酸(97質量%)35gと水100gを混合した酸溶液(濃度20〜35重量%)を投入した。酸溶液の投入量は、下水汚泥焼却灰との混合後にpH1.0となる量とした。因みに、このときの酸溶液の投入量は100〜150gの範囲にあり、容積比率では下水汚泥焼却灰の容積(cm
3)の0.7〜0.8倍の酸mL量に相当する量である。下水汚泥焼却灰と酸溶液の混合物を10〜12時間程度静置した後、石炭灰を投入した。また、石炭灰の代わりに水酸化アルミニウムを投入した試料も作製した。
【0099】
石炭灰または水酸化アルミニウムを投入した後、速やかに円筒形の型(直径2.9cm、高さ6cm)に充填し、硬化反応を型内で進行させて固化させ、28日間室温で養生した後、型から外して成形品を得た。成形品の上下端面を水平に研磨整形した後、一軸圧縮強度を測定した。
【0100】
一軸圧縮強度は、誠研舎製の一軸圧縮試験機を使用し、測定方法は、JIS M 0302に拠った。
【0101】
一軸圧縮強度の測定結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
石炭灰を投入した場合には、いずれの試料も一軸圧縮強度が11〜33MPaとなり、高い強度を示すことが明らかとなった。また、Al
2O
3含有量が少ないD灰を用いた試料では、一軸圧縮強度が11〜18MPaとなったのに対し、Al
2O
3含有量が多いE灰を用いた試料では、一軸圧縮強度が18〜33MPaとなったことから、石炭灰に含まれるAl
2O
3が多い方が一軸圧縮強度を高めやすいことがわかった。
【0104】
また、下水汚泥焼却灰種による差については、若干の強度差は見られるものの、明瞭な差としては現れなかった。
【0105】
また、同じ原料の組み合わせでは、石炭灰の投入量が増えるに従って、強度が低下する傾向が見られた。これは、混合時に混合物の石炭灰投入量が増加するに従い、含水率が低下したためと考えられた。
【0106】
また、固化体の成分組成データから因子分析を行った結果、アルミニウムやチタンの含有量と一軸圧縮強度の相関性が高いという結果が得られた。さらに、固化体の一軸圧縮強度を予測するための必要情報に関する知見を得るため、固化体の主要構成成分であるSiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、MgO、CaO、K
2O、P
2O
5量について、一軸圧縮強度を目的変数とした場合の重回帰分析を行った結果、予測パラメータとして、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、K
2Oが挙げられ、回帰式の標準回帰係数の比較では、Fe
2O
3が最も大きく、次いで、CaO、Al
2O
3の順で大きくなることが明らかとなった。これらのパラメータはいずれも、リン酸塩鉱物を形成する成分であり、鉄とカルシウムは、リン酸アルミニウムの水素結合の縮合に関連するカチオン種であることから、これらが強度を予測するパラメータになり得ることが推定された。
【0107】
(比較例1)
特開平9−155316号公報の段落[0013]の「焼却灰・・・100gに対して硫酸97%含有濃硫酸15〜21cc、水45ccを添加して混練り・・・」の記載に基づき、石炭灰を使用していない特開平9−155316号公報の配合により実施例3と同様の方法で固化体を作製し、一軸圧縮強度を測定した。製造条件と一軸圧縮強度の測定結果を表7に示す。尚、硫酸97%含有濃硫酸の添加量は、特開平11−90389号公報の段落[0016]に記載された条件に基づき、リン含有量の多いA灰については18ccとし、リン含有量の少ないB灰については21ccとした。また、表7において、97%硫酸の添加量(cc)は硫酸の比重(1.83)から質量換算して求めた。
【0108】
【表7】
【0109】
表7に示される結果から、特開平9−155316号公報に記載された発明により得られる固化体の一軸圧縮強度は、2.2〜7.1MPa程度に留まり、本発明のように石炭灰を用いた場合のほうが強度を高められることが明らかとなった。
【0110】
(実施例4)
実施例3で得られた固化体のうち、比較的強度の高かった試料2、6、11、17、25、28について、加熱処理による強度変化について検討した。
【0111】
具体的には、実施例3と同様の方法で固化体を製造し、その際の室温養生期間を7日とした。7日間の室温養生が完了した後、温度80℃で20時間の予備乾燥後に50℃/時の速度で昇温し、所定温度(105℃、250℃、400℃)で24時間加熱処理を行った。尚、加熱作業は全て大気中で行った。
【0112】
結果を表8に示す。試料17以外の全ての試料で、105℃処理の場合に最も強度が高くなる傾向が見られ、強度は14〜44MPaとなり、いずれも室温養生28日の場合の強度を上回る強度を示した。
【0113】
【表8】
【0114】
以上の結果から、レンガ・ブロック等の成形物の製造に本発明を用いる際には、室温養生の他に、低温での加熱乾燥処理を行うことが有効であると判断された。
【0115】
(実施例5)
実施例3で得られた試料2、6、11、17、25、28と、実施例4で得られた試料を粉砕し、粉末X線回折法により試料中に含まれている鉱物種の同定を行った。尚、粉末X線回折法は、リガク粉末X線回折装置 RINT2000を使用して実施した。測定条件は以下の通りとした。
・X線:CuKα(1.542Å)
・スキャンステップ:0.02deg
・スキャンスピード:1.2deg/分
・XG管電圧:50kV
・管電流:250mA
・発散スリット:1/4deg
・散乱スリット:1/4deg
・受光スリット:0.15mm
・スキャンモード:2θ/θ
【0116】
代表的なX線回折波形として実施例3で得られた試料6の測定結果を
図1に示す。★を付したピークが石膏(gypsum)に帰属されるピークであり、△を付したピークが石英/ベルリナイト(quarts/berlinite)に帰属されるピークであり、◎を付したピークがムライト(mullite)に帰属されるピークであり、▲を付したピークがAlPO
4(tridymite)に帰属されるピークである。
【0117】
各種加熱条件におけるX線回折波形の帰属結果を表9に示す。尚、表9における「vs」、「s」、「m」、「w」、「vw」、「tr」は、XRDスペクトルのピーク強度の大きさを示す指標であり、ピーク強度の大きい方から順に記載すると、「vs(very strong)」>「s(strong)」>「m(medium)」>「w(weak)」>「vw(very weak)」>「tr(trace)」となる。
【0118】
【表9】
【0119】
室温養生試料に例外なく存在していた石膏(gypsum)のピークが、250℃加熱試料、400℃加熱試料では消失することが確認された。また、半水石膏(bassanite)のピークは、105℃加熱試料、250℃加熱試料において存在し、400℃加熱試料ではほぼ消失することが確認された。無水石膏(anhydrite)のピークは、105℃加熱試料、250℃加熱試料、400℃加熱試料において存在し、400℃加熱試料でピーク強度が最大となることが確認された。ムライト(mullite)のピーク強度は、加熱温度による変化が小さかった。また、2θ=26.6付近のピークは、ベルリナイトと石英のピークが重複したものであった。
【0120】
(実施例6)
アルカリ性が低いため(pH12未満)、硬化反応の有無が下水汚泥焼却灰の性状に依存していたG灰について、水酸化アルミニウムを補助硬化剤として2.5〜10重量%添加した結果を表10に示す。
【0121】
【表10】
【0122】
表10に示される結果から、水酸化アルミニウムの添加量が多くなる程、固化までの所要時間が短くなることが明らかとなった。このように、pH12未満の石炭灰については、水酸化アルミニウムを併用することにより、固化することが可能であることが明らかとなった。
【0123】
(実施例7)
表8に示す試料(23種)を粉砕し、固液比L/S=10 リットル/kgで6時間振とう後に、溶出液のpHを測定した。各試料の一軸圧縮強度と溶出液のpHとの関係を
図2に示す。
【0124】
図2に示される結果から、いずれの試料もpH3.0〜4.7程度の弱酸性を示し、アルカリ性を呈しないことが確認できた。したがって、本発明の固化体は、土壌をアルカリ性にして作物生育に悪影響を及ぼすことのない石炭灰肥料として使用可能であることが明らかとなった。
【0125】
また、一軸圧縮強度と溶出液のpHとの関係については、一軸圧縮強度が30MPaを超える試料はpH3.7よりも酸性側に分布する傾向にあることが明らかとなった。また、pH4.0を超える試料の一軸圧縮強度は10〜20MPaの範囲にあり、pHの高い試料の一軸圧縮強度は低くなる傾向にあった。
【0126】
さらに、室温硬化試料と加熱試料との関係を見ると、加熱処理後もpH3.7以下を示す場合には加熱による強度増加があり、加熱処理前にpH4以上となっている試料については、加熱処理後はpHがさらに上昇し、加熱による強度の増加が見られないことが明らかとなった。
【0127】
尚、
図2には、アルミニウム含有量を●の大きさで表示したが、アルミニウム含有量の多い試料の方がpHがやや低い値を示す傾向にあり、石炭灰のアルカリ分に起因するpHの上昇に対して、アルミニウムが緩衝作用を持っていることが予想された。
【0128】
(実施例8)
水酸化マグネシウムの硬化促進剤としての効果について検討した。
【0129】
表11に示す配合比とした以外は実施例3と同様の方法で固化体を製造した。
【0130】
【表11】
【0131】
表11に示すように、下水汚泥焼却灰(B灰)100gに対して水酸化アルミニウムを5g添加した試料aは硬化が起こらなかったが、これに水酸化マグネシウムを1g添加した試料bは、硬化反応が生じて1日以内に固化体となった。また、脱リン灰100gに対して水酸化アルミニウムを10g添加した試料gでは固化体が得られるまでに1日以上を要したが、これに水酸化マグネシウムを1g添加した試料hは、1日以内に固化体となった。
【0132】
このように、水酸化マグネシウムを添加することで、固化体が得られないまたは得られ難い条件下においても、固化体を1日以内に製造し得ることが明らかとなった。このことから、水酸化マグネシウムは、硬化促進剤として機能し得ることが明らかとなった。
【0133】
尚、本実験では、酸性スラリーのpHを1.8〜2.0とした場合にも、酸性スラリー自体が硬化反応を起こすことなく、水酸化アルミニウムを添加することで硬化反応が進行し、数時間は流動性を保持して、1日以内に固化することが確認できた。そこで、酸性スラリーのpHを2.3程度まで上昇させてみたところ、pH2.0の場合と同様、酸性スラリー自体が硬化反応を起こすことなく、水酸化アルミニウムを添加することで硬化反応が進行し、数時間は流動性を保持して、1日以内に固化することが確認できた。