(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667106
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】バラスト水の水質監視方法及び水質監視装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20060101AFI20150122BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20150122BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20150122BHJP
C02F 1/32 20060101ALI20150122BHJP
C02F 1/34 20060101ALI20150122BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20150122BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20150122BHJP
B63B 13/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
C02F1/00 V
G01N33/18 F
C02F1/44 H
C02F1/32
C02F1/34
C02F1/50 510A
C02F1/50 520F
C02F1/50 531R
C02F1/50 531M
C02F1/50 550L
C02F1/50 560Z
C02F1/70 Z
B63B13/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-51065(P2012-51065)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-184111(P2013-184111A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年3月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】植木 修次
【審査官】
目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−115500(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/139573(WO,A1)
【文献】
特開2012−007969(JP,A)
【文献】
特開2011−226926(JP,A)
【文献】
特開2012−106224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/00−1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト水を船舶内に取水する工程と、
取水されたバラスト水中の微生物を殺滅及び又は分離除去して処理する工程と、
処理されたバラスト水をバラストタンクへ移送する工程と、
前記処理されたバラスト水をバラストタンクへ移送する過程で、その一部を模擬バラストタンクに移送して貯留する貯留工程と、
該模擬バラストタンクに貯留されたバラスト水の一部をサンプリングして微生物数を測定する微生物測定工程と、
を有することを特徴とするバラスト水の水質監視方法。
【請求項2】
前記船舶は、2つの前記模擬バラストタンクを備え、
一方の前記模擬バラストタンクは喫水よりも上に設けられ、他方の前記模擬バラストタンクは喫水よりも下に設けられており、
前記貯留工程において、前記処理されたバラスト水をバラストタンクへ移送する過程で、その一部を前記2つの模擬バラストタンクに移送して貯留し、
前記微生物測定工程において、前記2つの模擬バラストタンクにそれぞれ貯留されたバラスト水の一部をサンプリングして微生物数を測定することを特徴とする請求項1記載のバラスト水の水質監視方法。
【請求項3】
前記バラストタンク内のバラスト水を外部に排出する際に、前記微生物測定工程で測定された微生物数が、規定値を超えているか否かを監視し、
規定値を超えている場合には、前記殺滅及び又は分離除去して処理する工程で、あるいは別途設ける殺滅及び又は分離除去して処理する工程で、殺滅及び又は分離除去して、前記バラストタンク内のバラスト水を外部に排出することを特徴とする請求項1又は2記載のバラスト水の水質監視方法。
【請求項4】
前記微生物測定工程で測定された微生物数が規定値を超えている場合に、前記バラストタンク内のバラスト水を外部に排出する際に、
活性物質を使用して殺滅処理した場合には、その処理後のバラスト水のTRO値をTROモニタで測定し、
その値が規定値以下である場合には、外部に排出することを許容し、
その値が規定値を超えている場合には、活性物質の除去処理を行うことを特徴とする請求項3記載のバラスト水の水質監視方法。
【請求項5】
バラスト水を船舶内に取水する取水ポンプと、
該取水ポンプで取水されたバラスト水中の微生物を殺滅及び又は分離除去して処理する微生物処理装置と、
該処理装置で処理されたバラスト水を移送して貯留する船舶内のバラストタンクと、
前記微生物処理装置からバラストタンクへ移送する処理済みのバラスト水を移送するラインから、そのバラスト水の一部を移送して貯留する模擬バラストタンクと、
該模擬バラストタンクに貯留されたバラスト水の一部をサンプリングして微生物数を測定する微生物測定装置と、
を有することを特徴とするバラスト水の水質監視装置。
【請求項6】
前記船舶は、2つの前記模擬バラストタンクを備え、
一方の前記模擬バラストタンクは喫水よりも上に設けられ、他方の前記模擬バラストタンクは喫水よりも下に設けられていることを特徴とする請求項5記載のバラスト水の水質監視装置。
【請求項7】
前記バラストタンク内のバラスト水を外部に排出する排出ラインと該排出ラインに設けられた開閉弁からなる排出手段と、
前記微生物測定装置で測定された微生物数が、規定値を超えているか否かを監視する監視手段とを備え、
該監視手段で規定値を超えていると判断した場合には、前記微生物処理装置で、あるいは別途設ける微生物処理装置で処理した後に、前記排出手段の開閉弁を開いてバラスト水を外部に排出することを特徴とする請求項5又は6記載のバラスト水の水質監視装置。
【請求項8】
前記監視手段が、微生物測定装置で測定された微生物数が規定値を超えていると判断した場合には、前記排出手段の開閉弁を開いてバラスト水を外部に排出する際に、
活性物質を使用して殺滅処理し、その処理後のバラスト水のTRO値をTROモニタで測定し、
その値が規定値以下である場合には、外部に排出することを許容し、
その値が規定値を超えている場合には、活性物質の除去処理を行う制御を行うことを特徴とする請求項7記載のバラスト水の水質監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間の航海状況においてもバラスト水排出基準(規則D−2)及びUSCG排出基準を満足するバラスト水の水質監視方法及び水質監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IMOで定めたバラスト水管理条約では、バラスト水処理装置の性能確認は、陸上試験では5日後の水生生物の生存量を持って判定する。また、船上試験では、実運用に即した試験方法が推奨されてはいるが、ほとんどの試験は、5日以内の航海でもって判定している。
【0003】
従って、性能確認では、一旦殺滅(除去)処理した後、排出基準に挙げられた水生生物の指標では、ほとんど再増殖が問題とならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−112978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、米国が定めようとしている排出基準は、従属栄養細菌などを含むすべてのバクテリアに対して基準値が決められる可能性があることによって再増殖が指摘されるようになった。
【0006】
長い航海では、一旦、薬剤あるいは活性物質の効果が切れたり、あるいは処理が十分でないこと等により、バクテリアが繁殖することが考えられるからである。
【0007】
特許文献1には、バラストタンクから外部に排出されるバラスト水を水処理装置に戻すラインを備え、タンク内で被除去物が増殖した場合にバラスト水を再処理し、これにより、基準を確実に満たした状態でバラスト水を排水することができると記載している。また、特許文献1は、タンク内でのバラスト水の水質をモニタリングすることによって、タンク内で水質が劣化した場合に対応することができると記載している。
【0008】
しかし、バラストタンク内の水質を測定することは、バラストタンクの設置位置や設置環境により、危険であり、一般的に不可能である。また、測定に際してバラストタンク内に雑菌が混入し、再増殖によりタンク内の膨大な量の水を汚染する恐れもある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、バラストタンク内の水質を計測することなく、バラスト水の水質をモニタリングして基準を確実に満たした状態でバラスト水を排水することができる
バラスト水の水質監視方法及び水質監視装置を提供することにある。
【0010】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
バラスト水を船舶内に取水する工程と、
取水されたバラスト水中の微生物を殺滅及び又は分離除去して処理する工程と、
処理されたバラスト水をバラストタンクへ移送する工程と、
前記処理されたバラスト水をバラストタンクへ移送する過程で、その一部を模擬バラストタンクに移送して貯留する貯留工程と、
該模擬バラストタンクに貯留されたバラスト水の一部をサンプリングして微生物数を測定する微生物測定工程と、
を有することを特徴とするバラスト水の水質監視方法。
【0013】
(請求項2)
前記船舶は、2つの前記模擬バラストタンクを備え、
一方の前記模擬バラストタンクは喫水よりも上に設けられ、他方の前記模擬バラストタンクは喫水よりも下に設けられており、
前記貯留工程において、前記処理されたバラスト水をバラストタンクへ移送する過程で、その一部を前記2つの模擬バラストタンクに移送して貯留し、
前記微生物測定工程において、前記2つの模擬バラストタンクにそれぞれ貯留されたバラスト水の一部をサンプリングして微生物数を測定することを特徴とする請求項1記載のバラスト水の水質監視方法。
【0014】
(請求項3)
前記バラストタンク内のバラスト水を外部に排出する際に、前記微生物測定工程で測定された微生物数が、規定値を超えているか否かを監視し、
規定値を超えている場合には、前記殺滅及び又は分離除去して処理する工程で、あるいは別途設ける殺滅及び又は分離除去して処理する工程で、殺滅及び又は分離除去して、前記バラストタンク内のバラスト水を外部に排出することを特徴とする請求項1又は2記載のバラスト水の水質監視方法。
【0015】
(請求項4)
前記微生物測定工程で測定された微生物数が規定値を超えている場合に、前記バラストタンク内のバラスト水を外部に排出する際に、
活性物質を使用して殺滅処理した場合には、その処理後のバラスト水のTRO値をTROモニタで測定し、
その値が規定値以下である場合には、外部に排出することを許容し、
その値が規定値を超えている場合には、活性物質の除去処理を行うことを特徴とする請求項3記載のバラスト水の水質監視方法。
【0016】
(請求項5)
バラスト水を船舶内に取水する取水ポンプと、
該取水ポンプで取水されたバラスト水中の微生物を殺滅及び又は分離除去して処理する微生物処理装置と、
該処理装置で処理されたバラスト水を移送して貯留する船舶内のバラストタンクと、
前記微生物処理装置からバラストタンクへ移送する処理済みのバラスト水を移送するラインから、そのバラスト水の一部を移送して貯留する模擬バラストタンクと、
該模擬バラストタンクに貯留されたバラスト水の一部をサンプリングして微生物数を測定する微生物測定装置と、
を有することを特徴とするバラスト水の水質監視装置。
【0017】
(請求項6)
前記船舶は、2つの前記模擬バラストタンクを備え、
一方の前記模擬バラストタンクは喫水よりも上に設けられ、他方の前記模擬バラストタンクは喫水よりも下に設けられていることを特徴とする請求項5記載のバラスト水の水質監視装置。
【0018】
(請求項7)
前記バラストタンク内のバラスト水を外部に排出する排出ラインと該排出ラインに設けられた開閉弁からなる排出手段と、
前記微生物測定装置で測定された微生物数が、規定値を超えているか否かを監視する監視手段とを備え、
該監視手段で規定値を超えていると判断した場合には、前記微生物処理装置で、あるいは別途設ける微生物処理装置で処理した後に、前記排出手段の開閉弁を開いてバラスト水を外部に排出することを特徴とする請求項5又は6記載のバラスト水の水質監視装置。
【0019】
(請求項8)
前記監視手段が、微生物測定装置で測定された微生物数が規定値を超えていると判断した場合には、前記排出手段の開閉弁を開いてバラスト水を外部に排出する際に、
活性物質を使用して殺滅処理
し、その処理後のバラスト水のTRO値をTROモニタで測定し、
その値が規定値以下である場合には、外部に排出することを許容し、
その値が規定値を超えている場合には、活性物質の除去処理を行う制御を行うことを特徴とする請求項7記載のバラスト水の水質監視装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、バラストタンク内の水質を計測することなく、バラスト水の水質をモニタリングして基準を確実に満たした状態でバラスト水を排水することができるバラスト水の水質監視方法及び水質監視装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るバラスト水の水質監視方法を実施するための装置の一例を示す図
【
図3】バラストタンクに対して設けられる模擬バラストタンクの一例を説明する図
【
図4】バラストタンクに対して設けられる模擬バラストタンクの他の例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明に係るバラスト水の水質監視方法を実施するための装置の一例を示す図であり、同図において、1は、バラスト水を取水する工程に用いられる取水ポンプであり、取水するバラスト水はIMOで微生物の規制が問題となる水であれば、海水、淡水のいずれでもよい。
【0024】
取水するバラスト水には、プランクトン、バクテリア、ウィルスなどの微生物が含まれており、かかる微生物は、取水されたバラスト水中の微生物を殺滅及び又は分離除去して処理する工程に採用される微生物処理装置2によって殺滅及び又は分離除去される。
【0025】
殺滅するというのは、薬剤によって殺菌する手法、紫外線殺菌する手法、物理的な衝撃や剪断力によって破壊したり、殺滅したりする手法などが挙げられる。
【0026】
また分離除去するというのは、ろ過膜などによる膜分離手法が挙げられる。
【0027】
更に殺滅及び又は分離除去というのは、殺滅と分離除去のいずれか一つの手法か、これらの組み合わせの手法であってもよいことを意味している。
【0028】
殺滅する処理装置としては、オゾン殺菌装置、塩素殺菌装置、次亜塩素酸殺菌装置、紫外線殺菌装置などが挙げられる。物理的な衝撃を用いる装置は、衝撃波を用いた装置などが挙げられ、剪断力を用いた装置は、配管中に設置したスリットを用いた装置などが挙げられる。
【0029】
殺滅及び又は分離除去処理装置で処理されたバラスト水は、船舶内のバラストタンク3に移送され貯留されるが、本発明では、前記微生物処理装置2からバラストタンク3へ移送する処理済みのバラスト水を移送するライン4から、そのバラスト水の一部を模擬バラストタンク5に移送して貯留する。
【0030】
この模擬バラストタンク5を設けるのは、以下のような意義があるからである。IMOで定めたバラスト水管理条約では、バラスト水処理装置の性能確認は、陸上試験では5日後の水生生物の生存量を持って判定し、また、船上試験では、実運用に即した試験方法が推奨されてはいるが、ほとんどの試験は、5日以内の航海でもって判定している。従って、性能確認では、一旦殺滅(分離除去)処理した後、排出基準に挙げられた水生生物の指標では、ほとんど再増殖が問題とならなかった。しかし、米国が定めようとしている排出基準は、従属栄養細菌などを含むすべてのバクテリアに対して基準値が決められる可能性があり、再増殖が指摘されるようになった。殺滅及び又は分離除去処理が不十分であったり、あるいは長い航海において、一旦、活性物質に由来する残留オキシダント濃度が低下したりした場合、バクテリアが繁殖することが考えられるからである。
【0031】
バラストタンク3内のバラスト水中の微生物濃度及び又は残留オキシダント濃度を、排出の前に予め分析することで、排出に際して、更なる処理が必要か否か容易に判断できる。しかし、バラストタンク3内のバラスト水の水質を測定することは、バラストタンクの設置位置や設置環境により危険である。また、測定に際してバラストタンク3内に雑菌が混入し、再増殖によりバラストタンク3内の膨大な量のバラスト水を汚染してしまう懸念もある。
【0032】
本発明は、バラストタンク3内の環境と類似の環境の模擬バラストタンク5を設置したところ、バラストタンク3内でのバクテリアの再増殖があれば、模擬バラストタンク5内のバラスト水においても、同様にバクテリアが再増殖するという知見に基づく。またバラストタンク3の環境において、バクテリアの再増殖を起こさせる因子として、温度と光が重要であるという知見に基づく。また、本発明者は、残留オキシダント濃度の変化についても、微生物濃度と同様に、バラストタンク3と模擬バラストタンク5とで同様の挙動を示すことを確認した。
【0033】
バラストタンクは、通常、光が当たらず、真っ暗であり、またバラストタンクは、喫水より上にある場合と下にある場合で、海水の温度の影響が変わる。
【0034】
このため本発明では、模擬バラストタンクの周囲は光遮蔽される。特にタンク本体及び開閉可能な蓋の材質を光遮蔽性の金属で形成することが好ましい。海水腐蝕を考慮し、ステンレス製としてもよい。また光遮蔽性及び耐食性の樹脂素材で形成してもよい。
【0035】
この例では、模擬バラストタンクは、複数のバラストタンクの各々に対して、一基ずつ設けられる。
【0036】
バラストタンクが喫水よりも下にある場合には、そのバラストタンクは、海水の温度の影響を受ける。つまり、バラストタンク内の海水の温度は、外部の海水温と同じ程度の温度になる傾向にある。従って、この場合には、模擬バラストタンクの周囲をジャケット構造にして船外の海水をそのジャケットに通水して保温する構造にすることが好ましい。
【0037】
バラストタンクが喫水よりも上にある場合には、バラストタンクは海水の影響は受けにくく、外気温の影響を受ける。このため、このバラストタンクに対応する模擬バラストタンクは、外気温の影響を考慮し、バラストタンクと同じ温度環境に置くことが好ましい。
バラストタンクと同じ環境に、バラストタンクの内部に模擬バラストタンクを設置することも好ましいことである。設置する場合には、荷物の搬入や搬出の障害にならない場所に設置することが好ましい。
【0038】
本発明において、模擬バラストタンクを設けると、バラストタンク内で処理済みバラスト水中に、バクテリアが再増殖したか否かについて、バラストタンク内の水を分析せずに、模擬バラストタンク内の水を分析するだけで確認できる。
【0039】
本発明において、模擬バラストタンク5にバラスト水を貯留するには、バラストタンクへ連続的に貯留している場合、数秒から数分の間、断続的に複数回に分けて貯留するようにして、時間的な変動を極力抑制できるようにすることが好ましい。
【0040】
本発明における水質監視方法及び装置は、分析装置6を備えており、この実施例では、模擬バラストタンク内の水をサンプリングして微生物数(バクテリア数)を測定するための微生物測定装置60を備えている。
【0041】
微生物(バクテリア)の数(濃度)を測定する手法としては、例えばATP(Adenosine Triphosphate アデノシン三リン酸)を採用できる。この方法は、細菌中のアデノシン三リン酸(ATP)量をホタルルシフェラーゼ発光法によって測定する方法で、生物発光の酵素反応を利用している。
【0042】
また蛍光染色法を採用することもできる。この方法は、蛍光色素で染色した細菌を蛍光顕微鏡やフローサイトメーター(FCM法)などの蛍光シグナルを検出する種々の装置により計数する。蛍光顕微鏡による生細菌数測定は、核酸やたんぱく質と特異的に結合する試薬[例えばCFDA;カルボキシフルオロセインジアセテート]を用いて細胞を染色し、落射蛍光顕微鏡を用いると大きさ数ミクロンの生細胞を直接観察できる。この試薬で処理した試料では、死亡細胞は蛍光を発せず、生きた細胞のみが明るい粒子として観察されるので、この粒子をカウントすることにより生菌数が求められる。
【0043】
本発明において、「模擬バラストタンク内の水をサンプリングして測定する」とは、必ずしも模擬バラストタンク内の水を該模擬バラストタンク外に取り出して測定する場合に限定されず、模擬バラストタンク内の水を該模擬バラストタンク内で測定する場合も含む。但し、測定自体によって模擬バラストタンク内の水の環境を乱すことを防止し、所定の時間をおいて繰り返し測定を行う際の測定精度を向上する観点から、模擬バラストタンク内の水を該模擬バラストタンク外に取り出して測定することが好ましい。
【0044】
本発明において、模擬バラストタンク5の容量は、該模擬バラストタンク5がバラストタンクとしての機能を実質的に奏し得ない程度に小さいものであり、格別限定されるものではないが、具体的には、100リットル〜1000リットル程度の容量であることが好ましい。
【0045】
以上のようにして分析されたバクテリア数は、データとして微生物測定装置60から出力し、制御部7に入力する。
【0046】
制御部7は、微生物測定装置60で測定された微生物数が、規定値を超えているか否かを監視する監視手段の一例である。
【0047】
制御部7を機能させる制御プログラムの一例を
図2に基づいて説明する。なお、
図1において、8は排出手段に設けられる開閉弁である。開閉弁8は、この例では3方弁が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0048】
模擬バラストタンクからサンプル水を取水し(S1)、バクテリア数の計測を行う(S2)。
【0049】
バクテリア数(微生物数)が、規定値を超えているか否か監視手段で監視する(S3)。
【0050】
規定値は、IMO基準やアメリカ基準の値とする。特に、厳しい基準であるアメリカ基準に対応できることが好ましい。
【0051】
バクテリア数が規定値を超えている場合には、殺滅処理を行う(S4)。具体的には、バクテリア数が規定値を超えている場合には、3方弁8がライン10の方に解放され、バラスト水は微生物処理装置20に送られるようになる。微生物処理装置20では、オゾンなどの活性物質を用いた処理が行われる。微生物処理装置20として、取水時の微生物処理装置2を兼用することも好ましいことである。
【0052】
オゾンなどの活性物質を用いた処理が行われる場合には、バラスト排出水に活性物質が所定値以上含まれる場合には排出できないので、その除去処理を行う必要がある。
【0053】
活性物質を含むか否か判断する上で、最初に、TROの測定を行う(S5)。前述のS3の段階で、バクテリア数が規定値未満である場合には、バラスト排出が可能であるが、活性物質を含むか否かを調べると、バラスト水排出の安全性や確実性が増すので好ましい。
【0054】
例えば、活性物質がオゾンの場合、オゾンと海水中の臭素イオン(Br
―)との反応で生成される関連物質は、ブロモホルム(CHBr
3)、臭素酸イオン(BrO
3―)、残留オキシダント(Total Residual Oxidants:TRO)となる。
TROとは、中性ヨウ化カリウム溶液と反応し、ヨウ素を遊離する物質の総称であり、光化学オキシダント、オゾン等と同様の酸化性物質である。
【0055】
本実施例では、TROモニタ61を分析装置6内に設置する。TROモニタ61は、DPD試薬を添加してTRO濃度を計測することで、迅速にバラスト水中のTRO濃度をモニタリングして、設定値以上であるか否かについて確認することができる(S6)。なお、TROモニタ61としては、バラスト水の排出時におけるTRO測定のために設けられたTROモニタを兼用してもよい。
【0056】
このTROモニタ61は、バラスト水を、オゾン以外の次亜塩素酸ナトリウムなどを用いて処理するシステムのバラスト水の排出時において、バラスト水のTRO濃度の監視を行うことができる。
【0057】
バラスト水排出時に、TRO濃度が設定値以上である場合には、バラスト水中のTRO濃度の計測値に基づいて、注入された活性物質の残存量を中和するTRO除去処理を行う(S7)。中和剤としては、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、シュウ酸、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等が例示される。
【0058】
排出基準を満たす場合には、ライン9や11から排出できる。
【0059】
以上の説明では、制御部7を設けて処理を自動化する場合について説明したが、必ずしもこれに限定されず、船舶の乗員によって手動で行われてもよい。
【0060】
次に、バラストタンクに対して設けられる模擬タンクの態様について説明する。
【0061】
上述したように、バラストタンク3は、喫水(水面)より上にある場合と下にある場合とで、海水や外気温あるいは日光から受ける影響が変わる。喫水より上にある場合では、海水の温度から受ける影響が小さく、外気温や、鋼板を介して受ける日光の影響が大きくなる。一方、喫水より下にある場合では、海水の温度から受ける影響が大きく、外気温や、鋼板を介して受ける日光の影響が小さくなる。従って、模擬バラストタンク5は、バラストタンク3が周囲から受けるこれら影響と同じ影響を受けるように設けられることが好ましい。
【0062】
具体的には、
図3に示すように、バラストタンク3に対して設けられる模擬バラストタンク5は、バラストタンク3が喫水Sより上にある場合では、喫水Sより上に設けられ(
図3(a))、バラストタンク3が喫水Sより下にある場合では、喫水Sより下に設けられ(
図3(b))、あるいは、バラストタンク3が喫水Sの上下に跨って設けられる場合では、喫水Sの上下に跨って設けられる(
図3(c))ことが好ましい。
【0063】
図3(b)又は
図3(c)のように、バラストタンク3が喫水Sより下にある場合には、模擬バラストタンク5の周囲全体(
図3(b)の場合)または下部側のみ(
図3(c)の場合)をジャケット構造にして、船外の海水をそのジャケットに通水して保温する構造にすることも好ましい。
【0064】
船舶1が複数のバラストタンク3を備える場合、模擬バラストタンク5は、全てのバラストタンク3の各々に対して、1ずつ設けることも好ましいが、全てのバラストタンク3の数よりも少ない数で設けることも好ましい。
【0065】
本発明においては、以下に説明するように、1又は2以上、好ましくは3又は4以上の全てのバラストタンクに対して、2又は3の模擬バラストタンク5を備えることが好ましい。
【0066】
図4は、船舶1が搭載する全てのバラストタンク3に対して2つの模擬バラストタンク5を備える態様の一例を示す概略図である。
【0067】
図4に示す通り、船舶1には複数(図示の例では6つ)のバラストタンク3と、2つの模擬バラストタンク5a及び5bが設けられている。
【0068】
2つの模擬バラストタンク5a及び5bのうち、模擬バラストタンク5aは喫水より上に設けられ、模擬バラストタンク5bは喫水より下に設けられている。模擬バラストタンク5aは、好ましくは、その内部が、鋼板を介して日光を受けるように設けられている。
【0069】
このように設けられた2つの模擬バラストタンク5a及び5bの各々の環境は、船舶1に設けられた全てのバラストタンク3の各々の環境を代表することができる。つまり、全てのバラストタンク3の各々の環境は、模擬バラストタンク5aの環境と、模擬バラストタンク5bの環境との間の環境に納まる。従って、全てのバラストタンク3の各々に対して模擬バラストタンク5を設けなくても、全てのバラストタンク3内の微生物濃度及び残留オキシダント濃度を間接的に把握することができる。
【0070】
図示の例では、2つの模擬バラストタンク5a及び5bを設ける場合について説明したが、喫水の上下に跨って設けられた3つ目の模擬バラストタンク(不図示)を更に設けることも、全てのバラストタンク3内の微生物濃度及び残留オキシダント濃度をより精度よく把握する上で好ましいことである。
【0071】
本発明では、模擬バラストタンク5(5a及び5b)において、生存生物濃度と共に残留オキシダント濃度を計測することが好ましい。残留オキシダント濃度によって、生存生物濃度の値の信頼性を確認することができるからである。例えば、残留オキシダント濃度が高ければ、まだ殺菌作用があるから、バクテリア等の増殖は有り得ず、生存生物濃度の値の信頼性が高いと判断できる。
【0072】
以上のようにして、本発明では、模擬バラストタンク内のバクテリア数と残留オキシダント濃度を計測することによって、排出時の処理を行なうかどうかを判断し、長期間の航海状況においてもバラスト水排出基準(規則D−2)及びUSCG排出基準を満足する処理方法を提供できる。
【符号の説明】
【0073】
1:取水ポンプ
2、20:微生物処理装置
3:バラストタンク
4:移送ライン
5、5a、5b:模擬バラストタンク
6:分析装置
60:微生物測定装置
61:TROモニタ
7:制御部