特許第5667558号(P5667558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667558
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】有機スイッチング素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/05 20060101AFI20150122BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20150122BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20150122BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20150122BHJP
   H01L 27/28 20060101ALI20150122BHJP
   H01L 45/00 20060101ALI20150122BHJP
   H01L 49/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   H01L29/28 100B
   H01L29/28 220A
   H01L29/28 250G
   H01L29/28 250H
   H01L29/28 310A
   H01L27/10 448
   H01L27/10 449
   H01L45/00 Z
   H01L49/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-501677(P2011-501677)
(86)(22)【出願日】2010年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2010053148
(87)【国際公開番号】WO2010098463
(87)【国際公開日】20100902
【審査請求日】2013年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2009-47184(P2009-47184)
(32)【優先日】2009年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】安井 圭
(72)【発明者】
【氏名】小島 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】藤田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】市川 央
(72)【発明者】
【氏名】永島 英夫
【審査官】 綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/073079(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/029688(WO,A1)
【文献】 特開2004−515513(JP,A)
【文献】 特開2006−130596(JP,A)
【文献】 特開2002−121606(JP,A)
【文献】 特開2005−081501(JP,A)
【文献】 特開2005−036309(JP,A)
【文献】 特開2008−270763(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/031507(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/05
H01L 27/105
H01L 27/28
H01L 45/00
H01L 49/00
H01L 51/30
H01L 51/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子を含有する有機薄膜を2つの電極で挟んだ構造を有し、印加される電圧に対して2種類の安定な抵抗値を持つ電流双安定性を示すスイッチング素子において、
前記金属微粒子が、アンモニウム基を含有し重量平均分子量が500ないし5,000,000である高分子からなる金属微粒子分散剤によって前記有機薄膜中に分散されており、かつ、
前記金属微粒子分散剤が式(1):
【化1】
[式中、
は水素原子又はメチル基を表し、
、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6ないし20のアリールアルキル基又は−(CHCHO)−R(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、mは2ないし100の任意の整数を表す。)を表すか、
、R及びRが互いに直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基で結合し、それ
らと結合する窒素原子と共に環を形成してもよく(該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい)、
は陰イオンを表し、
は式(2)又は式(3):
【化2】
(式中、Aはエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1ないし30の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、
、Y、Y又はYは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表し、
nは繰り返し単位構造の数であって2ないし100,000の整数を表す。]で表される高分岐高分子化合物であることを特徴とするスイッチング素子。
【請求項2】
前記金属微粒子の金属種が、金、銀、白金及び銅よりなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のスイッチング素子。
【請求項3】
前記金属微粒子の平均粒径が1nm以上500nm以下である請求項1に記載のスイッチング素子。
【請求項4】
前記有機薄膜を形成するマトリックス高分子が、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、又はハイパーブランチポリマーである請求項1に記載のスイッチング素子。
【請求項5】
前記ハイパーブランチポリマーが、式(4)で表されるものである、請求項4に記載のスイッチング素子。
【化3】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Aは式(5)又は式(6):
【化4】
(式中、はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素原子数1ないし30の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、
、X、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される基を表し、
nは繰り返し単位構造の数であって2ないし100,000の整数を表す。]
【請求項6】
前記ハイパーブランチポリマーは、式中のが、式(7)又は式(8)で表されるものである、請求項5に記載のスイッチング素子。
【化5】
(式中、mは2ないし10の整数を表す。)
【請求項7】
基板上に電極を形成する工程、該電極上に金属微粒子を含有する有機薄膜を形成する工程、及び、該有機薄膜上に電極を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のスイッチング素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機メモリ素子などへの応用が期待される、2つの電極間に有機双安定性材料を挟み込んだスイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体材料に対して、低コスト、高い柔軟性などの特性を有する有機電子材料の開発は目覚しい進展をみせている。特に、材料に電圧を印加していくと、ある電圧以上で急激に回路の電流が増加してスイッチング現象が観測される有機双安定材料は、高密度な有機メモリ素子などへの適用を検討されている。
【0003】
このような素子の動作機構は二つの抵抗状態での可逆的なスイッチングによってなされる。例えば、Yang Yangらは、アミノイミダゾールジカーボニトリル(AIDCN)、ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq)などの有機半導体やポリスチレン、PMMA等の有機絶縁体中に、アルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、マグネシウム、インジウム、カルシウム、リチウム等の高導電率材料を薄膜形成、もしくは微粒子として分散させることにより、電圧印加によって高抵抗状態と低抵抗状態の双安定性を得ることができ、電圧をゼロにしても情報が保持される不揮発性メモリであることを示した(特許文献1、2、非特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献3には、一つの分子内に電子供与性の官能基と電子受容性の官能基とを有する有機双安定材料層中に、導電性微粒子として平均粒径5nm以下の白金又はロジウム微粒子が分散したスイッチング素子が記載されている。そしてこれにより、粒径にばらつきの少ない微粒子を膜厚の薄い微粒子分散層中に均一に分散することができるので、安定した特性のスイッチング素子が得られることが記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−513513号公報
【特許文献2】特開2005−101594号公報
【特許文献3】特開2004−200569号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】PROCEEDINGS OF THE IEEE、93,7(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金属微粒子を分散させた有機双安定材料において、その素子特性の安定化は重要な課題として残されている。これは、金属微粒子の粒径が多分散であり、粒子へ注入される電荷が一定とはならずばらつきが生ずるためである。この課題は、有機半導体又は有機絶縁体中への分散性が高い、粒径が均一な金属微粒子を開発することにより達せられるものと考えられる。これに対し、上記特許文献1、2及び非特許文献1に記載の技術は、有機半導体又は有機絶縁体における金属微粒子の分散剤について具体的に提案していない。また、従来の素子は、高抵抗状態(ON状態)及び低抵抗状態(OFF状態)における電流値が比較的低く、情報としての読み取りが困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、アンモニウム基を含有する金属微粒子分散剤を採用したことにより、粒子径が小さく、ばらつきが極めて少ない金属微粒子を得ることができた。また、この金属微粒子を使用した双安定性材料を用いることによって、十分に高いON/OFF比が安定的に得られ、ON状態及びOFF状態の電流値を従来の素子よりも高めることに成功した。
【0009】
即ち、本発明は、第1観点として、金属微粒子を含有する有機薄膜を2つの電極で挟んだ構造を有し、印加される電圧に対して2種類の安定な抵抗値を持つ電流双安定性を示すスイッチング素子において、前記金属微粒子が、アンモニウム基を含有し重量平均分子量
が500ないし5,000,000である高分子からなる金属微粒子分散剤によって前記有機薄膜中に分散されていることを特徴とするスイッチング素子、
第2観点として、前記金属微粒子の金属種が、金、銀、白金及び銅よりなる群より選択される少なくとも1種である第1観点に記載のスイッチング素子、
第3観点として、前記金属微粒子分散剤が、アルキルアンモニウム基を含有する第1観点に記載のスイッチング素子、
第4観点として、前記金属微粒子分散剤が式(1):
【化1】
[式中、
は水素原子又はメチル基を表し、
、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6ないし20のアリールアルキル基又は−(CHCHO)−R(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、mは2ないし100の任意の整数を表す。)を表すか、R、R及びRが互いに直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基で結合し、それらと結合する窒素原子と共に環を形成してもよく(該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい)、
は陰イオンを表し、
は式(2)又は式(3):
【化2】
(式中、Aはエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1ないし30の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、
、Y、Y又はYは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミ
ノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表し、
nは繰り返し単位構造の数であって2ないし100,000の整数を表す。]で表される高分岐高分子化合物である第1観点に記載のスイッチング素子、
第5観点として、前記金属微粒子の平均粒径が1nm以上500nm以下である第1観点に記載のスイッチング素子、
第6観点として、前記有機薄膜を形成するマトリックス高分子が、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、又はハイパーブランチポリマーである第1観点に記載のスイッチング素子、
第7観点として、前記ハイパーブランチポリマーが、式(4)で表されるものである、第6観点に記載のスイッチング素子、
【化3】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Aは式(5)又は式(6):
【化4】
(式中、はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素原子数1ないし30の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、、X、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される基を表し、nは繰り返し単位構造の数であって2ないし100,000の整数を表す。]
第8観点として、前記ハイパーブランチポリマーは、式中のが、式(7)又は式(8)で表されるものである、第7観点に記載のスイッチング素子、
【化5】
(式中、mは2ないし10の整数を表す。)
第9観点として、基板上に電極を形成する工程、該電極上に金属微粒子を含有する有機薄膜を形成する工程、及び、該有機薄膜上に電極を形成する工程を含むことを特徴とする第1観点に記載のスイッチング素子の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
微粒子分散型の有機メモリ素子において、アンモニウム基を有する高分子により分散された金属微粒子を採用したことにより、粒子径が小さく、ばらつきが極めて少ない金属微粒子を得ることができた。この金属微粒子は分散性が高く、粒子へ注入される電荷が一定となるため、この金属微粒子を使用した双安定性材料を用いることによって、ON状態及びOFF状態の電流値を従来の素子よりも高めることに成功した。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のスイッチング素子の実施形態を示す模式図である。
図2】合成例4によって得られたPt微粒子のTEM観察像である。
図3】実施例1で述べたスイッチング素子の電流密度対電圧(J−V)特性を示したグラフである。曲線10(破線)は0Vからバイアス電圧を上昇させたときの電流密度の変化を示す曲線であり、曲線11(実線)は0Vまで電圧を降下させたときの電流密度の変化を示す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための詳細を説明する。
図1に本発明のスイッチング素子1の実施形態を示す模式図を挙げる。スイッチング素子1は、基板上に第一電極2、有機薄膜3、第二電極4を積層した構造となっており、第一電極2及び第二電極4は、電気結線5及び6によってそれぞれ、電子制御ユニット7に接続されている。このうち、有機薄膜3は、金属微粒子8がマトリックス9中に分散して形成されている。
第一電極及び第二電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、インクジェット法、印刷法、ゾルゲル法等が挙げることができ、更にそのパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法、インクジェット法、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法、シャドーマスクを用いた蒸着法及びこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げることができる。
また有機薄膜は、蒸着法、スピンコート法、ディップ法などから適宜選択して積層される。
【0013】
第一電極及び第二電極材料としては、Au、Pt、Ag、Al、Cu、Rh、Ir、In、Ni、Pd、As、Se、Te、Mo、W、Mg、Zn等の金属、Mg/Cu、Mg/Ag、Mg/Al、Mg/In等の合金、SnO2、InO2、ZnO、InO2・SnO2(ITO)、Sb2O5・SnO2(ATO)等の金属酸化物、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン等の導電性高分子、カーボン等が挙げられる。
【0014】
有機薄膜に用いられる微粒子としては、有機化合物によって分散安定化されており、平均粒径が1ないし500nm、好ましくは1ないし100nm、より好ましくは、1ないし10nmのものが使用できる。また、金属微粒子の金属種としてはAu、Pt、Ag、Al、Cu、Rh、Ir、In、Ni、Pd、As、Se、Te、Mo、W、Mg、Zn等が挙げられ、好ましくはAu、Ag、Pt及Cuが挙げられる。
【0015】
有機薄膜のマトリックスとしては、ポリスチレン、ポリエステル類、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリアクリル酸メチル等のポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸類、ポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリアセタール類、ポリシリコーン類、ポリビニルピリジン等の材料が適用可能であり、好ましくは、ポリスチレン及びポリメタクリル酸メチルが挙げられる。
【0016】
有機薄膜をスピンコート法やディップ法などで塗布する場合は、トルエン、キシレン、ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒から選択して用いられる。
【0017】
本発明においては、アンモニウム基を有する高分子からなる金属微粒子分散剤が使用される。この金属微粒子分散剤の含有により、平均粒径が10nm以下、例えばおよそ3.5nmの金属微粒子に対しての分散状態を作り出すことができる。
なお、金属微粒子分散剤は、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwが500ないし5,000,000の範囲のものが使用される。該範囲以外のものであると、金属微粒子の分散性が十分ではない。好ましくは、金属微粒子分散剤は1,000ないし1,000,000の重量平均分子量を有し、より好ましくは2,000ないし500,000であり、特に好ましくは3,000ないし200,000である。また、金属微粒子分散剤の分散度Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)としては1.0ないし7.0であり、好ましくは1.1ないし6.0であり、より好ましくは1.2ないし5.0である。
【0018】
本発明に使用される金属微粒子分散剤は、アンモニウム基を有する高分岐高分子化合物からなり、該高分岐高分子化合物としては、例えば、式(1)
【化6】
で表される構造を有するものが挙げられる。
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6ないし20のアリールアルキル基又は−(CHCHO)−R(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、mは2ないし100の任意の整数を表す。)を表す。該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい。また、R、R及びRが互いに直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基で結合し、それらと結合する窒素原子と共に環を形成してもよい。また、式(1)中、Xは陰イオンを表し、Xとして好ましいのはハロゲン原子、PF、BF又はパーフルオロアルカンスルホナートである。また、式(1)中、Aは式(2)又は式(3):
【化7】
(式中、Aはエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1ないし30の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y、Y、Y又はYは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表す。また、式(1)中、nは、繰り返し単位構造の数であって、2ないし100,000の整数を表す。
、R及びRで表される炭素原子数1ないし20の直鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等が挙げられる。枝分かれ状のアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。環状のアルキル基としては、シクロペンチル環、シクロヘキシル環構造を有する基等が挙げられる。炭素原子数7ないし20のアリールアルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
、R及びRで表されるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、ノルマルプロピレン基、ノルマルブチレン基、ノルマルヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基等が挙げられる。枝分かれ状アルキレン基としては、イソプロピレン基、イソブチレン基、2−メチルプロピレン基等が挙げられる。環状のアルキレン基としては、炭素原子数3ないし30の単環式、多環式、架橋環式の環状構造の脂環式脂肪族基が挙げられる。具体的には、炭素原子数4以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ、ペンタシクロ構造等を有する基を挙げることができる。
さらに、式(1)で表される構造で、R及びRが互いに結合し、それらと結合する窒素原子と共に形成する環としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ピピリジル環等が挙げられる。
【0019】
次に、分子末端にアミノ基を有する高分岐高分子化合物の製造法について説明する。
分子末端にアンモニウム基を有する高分岐高分子化合物は、例えば、分子末端にハロゲン原子を有する高分岐高分子化合物にアミン化合物を反応させることによって得ることができる。
なお、分子末端にハロゲン原子を有する高分岐高分子化合物は、国際公開第2008/029688号パンフレットの記載に従い合成することができる。
【0020】
本反応で使用できるアミン化合物は、第一級アミンとしてN−メチルアミン、N−エチルアミン、N−n−プロピルアミン、N−イソプロピルアミン、N−n−ブチルアミン、N−n−イソブチルアミン、N−sec−ブチルアミン、N−tert−ブチルアミン、N−n−ペンチルアミン、N−n−ヘキシルアミン、N−n−ヘプチルアミン、N−n−オクチルアミン、N−n−ノニルアミン、N−n−デシルアミン、N−n−ウンデシルアミン、N−n−ドデシルミアン、N−n−トリデシルアミン、N−n−テトラデシルアミン、N−n−ペンタデシルアミン、N−n−ヘキサデシルアミン、N−n−ヘプタデシルアミン、N−n−オクタデシルアミン、N−n−ノナデシルアミン、N−n−エイコシルアミン等の脂肪族アミン、N−シクロペンチルアミン、N−シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、アニリン、p−n−ブチルアニリン、p−t−ブチルアニリン、p−n−オクチルアニリン、p−n−デシルアニリン、p−n−ドデシルアニリン、p−n−テトラデシルアニリン等のアニリン、N−ベンジルアミン、N−(2−フェニルエチル)アミン等のアルキルフェノール、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン等のナフチルアミン、1−アミノアントラセン、2−アミノアントラセン等のアミノアントラセン、1−アミノアントラキノン等のアミノアントラキノン、4−アミノビフェニル、2−アミノビフェニル等のアミノビフェニル、2−アミノフルオレンアミノフルオレン、1−アミノ−9−フルオレノン、4−アミノ−9−フルオレノン等のアミノフルオレノン、5−アミノインダン等のアミノインダン、5−アミノイソキノリン等のアミノイソキノリン、9−アミノフェナントレン等のアミノフェナントレン等の芳香族アミンが挙げられる。更に、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,2−エチレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,3−プロピレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,4−ブチレンンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,5−ペンタメチレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)アミン、N−(3−ヒドロキシプロピル)アミン、N−(2−メトキシエチル)アミン、N−(2−エトキシエチル)アミン等のアミン化合物が挙げられる。
【0021】
第二級アミンとしては、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジ−n−プロピルアミン、N,N−ジ−イソプロピルアミン、N,N−ジ−n−ブチルアミン、N,N−n−イソブチルアミン、N,N−ジ−sec−ブチルアミン、N,N−n−ペンチルアミン、N−メチル−N−エチルアミン、N−メチル−N−n−プロピルアミン、N−メチル−N−n−ブチルアミン、N−メチル−N−n−ペンチルアミン、N−エチル−N−イソプロピルアミン、N−エチル−N−n−ブチルアミン、N−エチル−N−n−ペンチルアミン、N−メチル−N−n−オクチルアミン、N−メチル−N−n−デシルアミン、N−メチル−N−n−ドデシルアミン、N−メチル−N−n−テトラデシルアミン、N−メチル−N−n−ヘキサデシルアミン、N−メチル−N−n−オクタデシルアミン、N−エチル−N−イソプロピルアミン、N−エチル−N−オクチルアミン、N,N−ジ−n−ヘキシルアミン、N,N−ジオクチルアミン、N,N−ジドデシルアミン、N,N−ジヘキサデシルアミン、N,N−ジオクタデシルアミン等の脂肪族アミン、N,N−ジシクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、N,N−ジフェニルアミン、N,N−ジベンジルアミン等の芳香族アミン、フタルイミド、ピロール、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾール等の窒素含有複素環式化合物が挙げられる。更に、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アミン、N,N−ジ(3−ヒドロキシプロピル)アミン、N,N−ジ(エトキシエチル)アミン、N,N−ジ(プロポキシエチル)アミン等が挙げられる。
【0022】
第三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、N,N−ジメチル−N−オクチルアミン、N,N−ジエチル−N−n−デシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ドデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−テトラデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ヘキサデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−エイコシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ドデシルアミン等の脂肪族アミン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、キノリン、1−メチルイミダゾール、4,4’−ピピリジル、4−メチル4,4’−ピピリジル等の窒素含有複素環式化合物が挙げられる。
【0023】
これらの反応で使用できるアミン化合物の使用量は、分子末端にハロゲン原子を有する高分岐高分子化合物中のハロゲン原子の1モル当量に対して0.1ないし20倍モル当量、好ましくは0.5ないし10倍モル当量、より好ましくは1ないし5倍モル当量であればよい。反応の条件としては、反応時間は0.01ないし100時間、反応温度は0ないし300℃から、適宜選択される。好ましくは反応時間が0.1ないし10時間で、反応温度が20ないし150℃である。
【0024】
分子末端のハロゲン原子とアミン化合物との反応は、水又は有機溶媒溶液中で、塩基の存在下又は非存在下で行なうことができる。使用する溶媒は、ハロゲン原子を有する高分岐高分子化合物とアミン化合物を溶解可能なものが好ましい。さらに、ハロゲン原子を有する高分岐高分子化合物とアミン化合物を溶解可能であるが、分子末端にアンモニウム基を有する高分岐高分子化合物を溶解しない溶媒であれば、単離が容易となりさらに好適である。
有機溶媒としては、本反応の進行を著しく阻害しないものであれば良く、水及び酢酸等の有機酸系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ノルマルヘプタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の脂肪族炭化水素類等が使用できる。これらの溶媒は一種を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、使用量は、ハロゲン原子を分子末端に有する高分岐高分子化合物の質量に対して0.2ないし1,000倍質量、好ましくは1ないし500倍質量、より好ましくは5ないし100倍質量、最も好ましくは10ないし50倍質量の有機溶媒を使用することが好ましい。また、この反応では反応開始前には反応系内の酸素を十分に除去する必要があり、窒素、アルゴン等の不活性気体で系内を置換するとよい。反応条件としては、反応時間0.01ないし100時間、反応温度0ないし200℃から、適宜選択される。好ましくは反応時間が0.1ないし5時間で、反応温度が20ないし150℃である。
【0025】
好適な塩基としては一般に、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属水素化物及びアルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属アミド、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ土類金属炭酸塩(例えば炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム)、アルカリ金属重炭酸塩(例えば重炭酸ナトリウム)等の無機化合物、並びにアルカリ金属アルキル、アルキルマグネシウムハロゲン化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、ジメトキシマグネシウム等の有機金属化合物が使用される。特に好ましいのは、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムである。また、塩基の使用量は、分子末端にハロゲン原子を有する高分岐高分子化合物の質量に対して0.2ないし10倍等量、好ましくは0.5ないし10等量、最も好ましくは1ないし5等量であることが好ましい。
【0026】
塩基の存在下で、第三級アミンを用いた場合は式(1)で表される高分岐高分子化合物を得ることができる。
塩基の非存在下で、第一級アミン又は第二級アミン化合物と分子末端にハロゲン原子を有する高分岐高分子化合物と反応させて分子末端にアミン末端を有する高分岐高分子化合物を得る際、それぞれに対応する高分岐高分子化合物の末端第二級アミン及び第三級アミンがプロトン化されたアンモニウム基末端の高分岐高分子化合物が得られる。
また、塩基を用いて反応を行った場合においても、有機溶媒中で塩酸、臭化水素、ヨウ化水素等の酸の水溶液と混合することにより、対応する高分岐高分子化合物の末端第二級アミン及び第三級アミンがプロトン化されたアンモニウム基末端の高分岐高分子化合物が得られる。
【0027】
本発明に使用される金属微粒子としては特に限定されず、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛及びビスマスが挙げられ、これらの金属の1種類でもよいし二種以上の合金でも構わない。好ましくは、金、銀、白金及び銅等を挙げることができる。
【0028】
本発明のスイッチング素子は例えば、マトリックス及び金属微粒子分散剤で処理された金属微粒子からなる溶液を電極層の上面に塗布し、そしてアニーリングして有機薄膜を作成し、さらにその上に電極層を蒸着することによって、作製され得る。
【0029】
金属微粒子分散剤で処理された金属微粒子の溶液は、金属微粒子分散剤と金属塩を混合し、得られた混合物に還元剤を添加し、金属イオンを還元することによって得られる。
金属塩としては、塩化金酸、硝酸銀、硫酸銅、硝酸銅、塩化第一白金、Pt(dba)[dba=ジベンジリデンアセトン]、Pt(cod)[cod=1,5−シクロオクタジエン]、PtMe(cod)、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、Pd(dba)、塩化ロジウム、酢酸ロジウム、塩化ルテニウム、酢酸ルテニウム、Ru(cod)(cot)[cot=シクロオクタトリエン]、塩化イリジウム、酢酸イリジウム、Ni(cod)等が挙げられる。また還元剤としては例えば、水素化ホウ素ナトリウム等のアルカリ金属水素化ホウ素塩、ヒドラジン化合物、クエン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩等を使用することができる。金属微粒子分散剤の添加量は、上記金属イオン100重量部に対して50ないし2000重量部が好ましい。50重量部未満であると、上記金属微粒子の分散性が不充分であり、2000重量部を超えると、有機物含有量が多くなり、物性等に不具合が生じやすくなる。より好ましくは、100ないし1000重量部である。
【0030】
また、金属微粒子分散剤で処理された金属微粒子の溶液は、低級アンモニウム配位子によりある程度安定化した金属微粒子を合成した後に高分岐高分子化合物により配位子を交換する方法や、アンモニウム基を有する高分岐高分子化合物の溶液中で、金属イオンを直接還元する方法によっても得られる。アミン系分散剤(アンモニウム配位子)以外にホスフィン系分散剤(ホスフィン配位子)を用いることによっても、あらかじめ金属微粒子をある程度安定化することができる。
【0031】
配位子交換法の合成方法として、原料となる低級アンモニウム配位子によりある程度安定化した金属微粒子は、Jounal of Organometallic Chemistry 1996 520 143−162等に記載の方法で合成することができる。得られた金属微粒子の反応混合溶液に、アンモニウム基を有する高分岐高分子化合物を溶解し、室温又は加熱攪拌することにより目的とする金属微粒子複合体を得ることができる。
使用する溶媒としては、金属微粒子と金属微粒子分散剤を必要濃度以上に溶解できる溶媒であれば特に限定はしないが、具体的には、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル及びアセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒等並びにこれらの溶媒の混合液が挙げられ、好ましくは、テトラヒドロフランが挙げられる。
金属微粒子と金属微粒子分散剤を混合する温度は、通常0℃ないし溶媒の沸点の範囲を使用することができ、好ましくは、室温ないし60℃の範囲である。
【0032】
直接還元方法としては、金属イオンとアンモニウム基を有する高分岐高分子化合物を溶媒に溶解し、水素ガス雰囲気下で反応させることにより、目的とする金属微粒子複合体を得ることができる。
使用する溶媒としては、金属イオンと分散剤を必要濃度以上溶解できる溶媒であれば特に限定はしないが、具体的には、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル及びアセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒等並びにこれらの溶媒の混合液が挙げられ、好ましくは、テトラヒドロフランが挙げられる。
金属イオンと分散剤を混合する温度は、通常0℃〜溶媒の沸点の範囲を使用することができ、好ましくは、室温である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
なお、式中の略語「Et」はエチル基を表す。
【0034】
合成例1
<ジチオカルバメート基を分子末端に有するスチレン系ハイパーブランチポリマー(HPS)の合成>
【化8】
300mLの反応フラスコに、N,N−ジエチルジチオカルバミルメチルスチレン108g及びトルエン72gを仕込み、撹拌して淡黄色透明溶液を調製した後、反応系内を窒素置換した。この溶液の真ん中から100Wの高圧水銀灯[セン特殊光源(株)製、HL−100]を点灯させ、内部照射による光重合反応を、撹拌下、温度30℃で12時間行なった。次に、この反応液をメタノール3000gに添加してポリマーを高粘度な塊状状態で再沈した後、上澄み液をデカンテーションで除いた。さらにこのポリマーをテトラヒドロフラン300gに再溶解した後、この溶液をメタノール3000gに添加してポリマーをスラリー状態で再沈した。このスラリーを濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物48g(HPS)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは20,000、分散度Mw/Mnは3.5であった。
【0035】
合成例2
<ハロゲン原子を分子末端に有するスチレン系ハイパーブランチポリマー(HPS−Br)の合成>
【化9】
還流塔を付した300mLの反応フラスコに、合成例1で得たジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマー10g及びクロロホルム50gを仕込み、反応系内を窒素置換した。これに、臭素[純正化学社製]16.0gをクロロホルム50gに溶解させたものを滴下して加え、3時間還流を行った。温度30℃まで冷却後、生成した橙色沈殿を濾別した。
飽和食塩水及び20質量%チオ硫酸ナトリウムを加えて、有機相を洗浄した。この溶液をメタノール500gに滴下して再沈を行った。得られた黄色粉末を再度クロロホルム40gに溶解し、500gのメタノールに滴下し、再沈を行い、得られた無色粉末を乾燥して、ジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーのジチオカルバメート基部分が臭素原子に置換されたハイパーブランチポリマー4.6gを得た。ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは6,600、分散度Mw/Mnは2.2であった。元素分析の結果は、炭素50.2質量%、水素3.8質量%、窒素1.0質量%未満及び臭素33.2質量%であった。1H−NMRスペクトルより得られたハイパーブランチポリマーは上記式(10)で表される構造を有する。
【0036】
合成例3
<トリオクチルアンモニウム基を分子末端に有するスチレン系ハイパーブランチポリマー(HPS−N(Octyl)3Br)の合成>
【化10】
HPS−Br(0.6g、3 mmol)を25mLの二つ口フラスコに入れ、窒素置換した。トルエン10mLを加え、さらにトリオクチルアミン(2.1g、6mmol)[関東化学(株)製]加え、50℃で12時間攪拌した。反応溶液をヘキサン50mL[関東化学(株)製]を用い再沈精製を行った後、ろ過、真空乾燥し得られた。黄褐色固体86%(1.4g)を得た。1H−NMR及び13C−NMRより、得られたハイパーブランチポリマーは上記式(11)で表される構造を有する。
【0037】
合成例4
<トリオクチルアンモニウム基を分子末端に有するスチレン系ハイパーブランチポリマーに分散された白金微粒子の合成(HPS−N(Octyl)3−Pt)>
HPS−N(Octyl)3Br(27.8mg、0.05mmol)とPt(dba)2 [dba=ジベンジリデンアセトン](65.2mg、0.1mmL)を、20mLの二つ口フラスコに入れ、窒素置換し、THF5mLを加えた。系中を水素置換した後、室温で一晩攪拌した。反応溶液にアルゴンで脱気した水2mLを加え再沈精製を行い、濾過、減圧乾燥し、[HPS−N(Octyl)3Br]Pt粒子複合体の黒色沈殿物60mgを得た。ICP−MASSによりPt含有量は10質量%であった。また、得られた黒色沈殿物をTEM観察した画像を図2に示す。TEM観察により、粒子径は2nmであった。
【0038】
実施例1
図1に示すようなスイッチング素子を作成した。まず、あらかじめ洗浄されたガラス基板の上面にアルミニウム(Al)を80nmの厚さで真空蒸着しAl電極層2を作成した。次に、マトリックスとして前記式(9)で示されるハイパーブランチポリマー(HPS)、金属微粒子として合成例4で得られた白金微粒子(HPS−N(Octyl)3−Pt)からなる有機薄膜を作成した。有機薄膜3は、まずオルト−ジクロロベンゼン中に、HPS、HPS(octyl)Pt及び8ヒドロキシキノリン(8HQ)を、重量比が60:20:20となるよう溶解して溶液を調製し、この溶液をAl電極層4の上面にスピンコートし、150℃で30分アニーリングを行うことにより作成した。有機薄膜3の膜厚は90nmであった。有機薄膜3の上面に、Al電極層4を蒸着させた。Al電極層4の膜厚は80nmであった。有機薄膜3上下のAl電極4は、水晶振動子膜厚計で膜厚を観測しながら約1×10-6Torrの真空下において蒸着した。
【0039】
この素子の電流密度対電圧(J−V)特性を図3に示す。曲線10(破線)は0Vからバイアス電圧を上昇させる場合であり、曲線11(実線)は0Vまで電圧を降下させる場合を示している。
アンモニウム基末端を有するハイパーブランチポリマー(HPS−N(Octyl)3−Pt)を分散剤とした白金微粒子を用いることにより、ON状態及びOFF状態の電流
値が高く、ON/OFF比も十分な良好なデバイスを作製することに成功した。
【符号の説明】
【0040】
1 スイッチング素子 2 第一電極 3 有機薄膜 4 第二電極 5,6 電気結線 7 電子制御ユニット 8 金属微粒子 9 マトリックス 10 低抵抗状態(OFF状態)のバイアス電圧上昇過程を示す曲線 11 高抵抗状態(ON状態)のバイアス電圧降下過程を示す曲線
図1
図3
図2