【実施例1】
【0035】
図1は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザの実施例1の構成を示すブロック図である。図中符号22は余弦波変換テーブル、62は加算器、72はデルタシグマ変調器、80は乗算器、90は増幅器を示している。なお、従来技術を説明した
図6乃至
図9に示す構成要素と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
本発明のダイレクトデジタルシンセサイザは、設定可能な周波数を有する信号をデジタル的に生成するダイレクトデジタルシンセサイザである。周波数設定データに基づいて位相データを生成するデルタシグマ変調器72と、このデルタシグマ変調器72により生成された位相データに基づいて第1の振幅データを生成する第1の波形変換テーブル20と、デルタシグマ変調器72のエラー成分に基づく補正データに基づいて第1の振幅データを補正する補正部80とを備えている。
【0036】
また、補正部80は、位相データに基づいて第2の振幅データを生成する第2の波形変換テーブル22を備え、デルタシグマ変調器72のエラー成分及び第2の波形変換テーブル22の第2の振幅データによる補正データに基づいて振幅データを補正する。
つまり、本実施例1のダイレクトデジタルシンセサイザ100は、設定可能な周波数を持つ正弦波をデジタル的に生成するものであって、アキュムレータ10と、アキュムレータ10の後段に設けられたデルタシグマ変調器72と、正弦波変換テーブル20と、正弦波変換テーブル20と並列に設けられた余弦波変換テーブル22と、デルタシグマ変調器72のデルタシグマエラー成分と余弦波変換テーブル22からの振幅データを乗算する乗算器80と、増幅器90と、加算器62と、デジタル/アナログ変換器30と、アナログフィルタ40とを備えている。
【0037】
アキュムレータ10は、ワード長mビットの周波数設定データを累算する。デルタシグマ変調器72は、アキュムレータ10の累算出力であるmビットの位相データをデルタシグマ変調して、正弦波変換テーブル20および余弦波変換テーブル22に出力すると共に、ノイズのようなデルタシグマエラー成分(DSMerror又はErr
dsmという)を生成して、乗算器80に出力する。
【0038】
余弦波変換テーブル20は、正弦波のデータが格納されているメモリを備え、デルタシグマ変調された上位nビットの位相データを正弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。
余弦波変換テーブル22は、余弦波のデータが格納されているメモリを備え、デルタシグマ変調された上位nビットの位相データを余弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。
【0039】
乗算器80は、デルタシグマエラー成分と余弦波の振幅データを乗算する。増幅器90は、乗算器80の乗算出力に対し所望の値にゲイン倍することで微調整を行う。加算器62は、ゲイン倍したデータと正弦波の振幅データとを加算して、デジタル/アナログ変換器30に出力する。
図2(a),(b)は、本発明に係るデルタシグマ変調器の具体例を説明ための図で、
図2(a)は従来のデルタシグマ変調器の構成を示す図で、
図2(b)は本発明に係るデルタシグマ変調器の構成を示す図である。
【0040】
従来のデルタシグマ変調器70は、
図2(a)に示すように、伝達関数H
0(z)をもつループフィルタ76と加算器74を備えており、mビットの入力信号xに対し、上位nビットを出力信号yを生成する。ここで、残りの下位kビットに相当するエラー信号を−εとすると、出力信号はy=x+ε(1−H
0(z))と表すことができる。したがって、デルタシグマ変調器の正しいエラー成分は、単純な−εではなく、ε(1−H
0(z))であることがわかる。
【0041】
本発明に係るデルタシグマ変調器72は、
図2(b)に示すように、伝達関数H
0(z)をもつループフィルタ76と加算器74のほかに、加算器78を備えている。加算器78は、ループフィルタ76からの出力−εH
0(z)に残りの下位kビットに相当するエラー信号−εをマイナス加算し、言い換えれば、ループフィルタ76からの出力−εH
0(z)から残りの下位kビットに相当するエラー信号−εを減算して、正しいエラー成分ε(1−H
0(z))を生成することができる。
【0042】
このように、デルタシグマ変調器72は、デルタシグマエラー成分として適正なエラー成分ε(1−H
0(z))を出力することができる。
次に、ダイレクトデジタルシンセサイザの動作について説明する。
正弦波変換テーブル20の出力である正弦波の振幅データOutputは、求める信号とデルタシグマエラー成分との変調により発生するノイズ成分を考慮すると、
【0043】
〔数8〕
Output=sin(2π・word
tune/2
bit_tune)・cos(2π・Err
dsm/2
bit_tune)−cos(2π・word
tune/2
bit_tune)・sin(2π・Err
dsm/2
bit_tune)・・・(6)
と表すことができる。
ここで、word
tuneは周波数設定データに相当する位相データであり、Err
dsmはデルタシグマエラー成分であり、bit_tuneは周波数設定データのワード長m(mビット)である。
ここで、周波数設定データのワード長m(bit_tune)が大きく、エラー成分Err
dsmが2
bit_tuneと比べて非常に小さい場合、
【0044】
〔数9〕
cos(2π・Err
dsm/2
bit_tune)≒1・・・(7)
【0045】
〔数10〕
sin(2π・Err
dsm/2
bit_tune)≒2π・Err
dsm/2
bit_tune・・・(8)
と簡略化できる。そのとき式(6)は、
【0046】
〔数11〕
Output=sin(2π・word
tune/2
bit_tune)−cos(2π・word
tune/2
bit_tune)・(2π・Err
dsm/2
bit_tune)・・・(9)
と簡略化される。ここで式(9)のうち、求める信号(正弦波の振幅データ)は、
【0047】
〔数12〕
sin(2π・word
tune/2
bit_tune)
であり、スプリアスノイズとなる信号は、
【0048】
〔数13〕
cos(2π・word
tune/2
bit_tune)・(2π・Err
dsm/2
bit_tune)
であり、これがエラー成分となる。
乗算器80は、1デルタシグマエラー成分と余弦波の振幅データとを乗算することで、エラー成分を生成するので、式(9)で表される正弦波の振幅データOutputに、そのエラー成分を加算すると、加算出力である振幅データOutput1は、
【0049】
〔数14〕
Output=sin(2π・word
tune/2
bit_tune)・・・(10)
となって、エラー成分が補正されることが分かる。
【0050】
このように、本発明の実施例1に係るダイレクトデジタルシンセサイザ100によれば、エラー成分が補正されるためにスプリアスノイズを低減できる。さらに、低減されたスプリアスノイズは、デルタシグマ変調器72によってより高い周波数領域にシフトされているので、求める信号から遠ざけられていることになる。
図3(a)乃至(d)は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによる効果を概念的に説明するための、各ダイレクトデジタルシンセサイザの出力信号のFFTプロットを示す図である。
【0051】
ここで、
図3(a)は、従来の基本的な構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ600、
図3(b)は、従来のデルタシグマ変調器のみの構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ800、
図3(c)は、従来の正弦波に変換後エラーを補正する構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ900、
図3(d)は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザのFFTプロットを示す図である。
【0052】
縦軸は振幅、横軸は周波数を表す。また、実線は求める信号、点線はスプリアスノイズ、破線は低減されたスプリアスノイズ、点エリアはフロアノイズ、斜線エリアは低減されたフロアノイズを示す。
従来の基本的な構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ600では、
図3(a)に示すように、アキュムレータによる切り捨てエラーが発生したため、スプリアスノイズが顕著に現れる。
【0053】
また、従来のデルタシグマ変調器のみの構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ800では、
図3(b)に示すように、スプリアスノイズは高い周波数領域にシフトされ、求める信号の付近には表れないが、ノイズフロアが上昇する。
また、従来の正弦波に変換後エラーを補正する構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ900では、
図3(c)に示すように、アキュムレータによる切り捨てエラーが補正され、スプリアスノイズが低減されるが、依然としてスプリアスノイズは存在する。
【0054】
しかしながら、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによれば、
図3(d)に示すように、スプリアスノイズはより高い周波数領域にシフトされて求める信号の付近には表れず、ノイズフロアはより低減される。
図4(a)乃至(d)は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによる効果を示す図であり、各ダイレクトデジタルシンセサイザの出力信号のFFTプロットを示す図である。
【0055】
ここで、
図4(a)は、従来の基本的な構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ600、
図4(b)は、従来のデルタシグマ変調器のみの構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ800、
図4(c)は、従来の正弦波に変換後エラーを補正する構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ900、
図4(d)は本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザのFFTプロットを示す図である。
【0056】
正弦波変換テーブルから出力される正弦波の振幅データを8ビットとし、2次のデルタシグマ変調器、16ビットのデジタル/アナログ変換器、動作クロック100MHzを用いて、出力信号の周波数を2.5×10^7Hzとしてシミュレーションを行った。縦軸は振幅、横軸は周波数を表す。点A、Bは、スペクトル中の1、2番目のピークを示している(よって点Aは求める出力信号である)。
【0057】
図4(a)に示すように、従来の基本的な構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ600では、アキュムレータによる切り捨てエラーが発生したため、スプリアスノイズが顕著に現れる。ここで、点Bはスプリアスノイズのうち最大のピークを示している。
また、
図4(b)に示すように、従来のデルタシグマ変調器のみの構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ800では、スプリアスノイズは高い周波数領域にシフトされ、求める信号の付近には表れないが、ノイズフロアが上昇する。なお、
図4(b)においては、点Bはフロアノイズのうち最大値を示し、点A以外にピークはみられない。
【0058】
また、従来の正弦波に変換後エラーを補正する構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ900では、
図4(c)に示すように、アキュムレータによる切り捨てエラーが補正され、スプリアスノイズが低減されるが、依然としてスプリアスノイズは存在する。ここで、点Bはスプリアスノイズのうち最大のピークを示しているが、
図4(a)の点Bよりもレベルが低くなっていることがわかる。
【0059】
しかしながら、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによれば、
図4(d)に示すように、スプリアスノイズはより高い周波数領域にシフトされて求める信号の付近には表れず、ノイズフロアはより低減される。なお、
図4(d)においては、フロアノイズが大幅に低減されているので、16ビットのデジタル/アナログ変換器による歪みが点Bとしてはみえているのみである。
【0060】
このように、本発明の係るダイレクトデジタルシンセサイザは、スペクトル全体としてノイズが低減され、従来に比べはるかに優れたノイズ特性を持つことがわかる。
【実施例2】
【0061】
図5は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザの実施例2の構成を示すブロック図である。本発明のダイレクトデジタルシンセサイザは、デルタシグマ変換器72の後段に第1及び第2のアキュムレータ10,12を備え、この第1のアキュムレータ10は、位相データを累算して第1の波形変換テーブル20及び補正部80に出力し、第2のアキュムレータ12は、エラー成分を累算して補正部80に出力する。
【0062】
つまり、本実施例2のダイレクトデジタルシンセサイザ200は、設定可能な周波数を持つ正弦波をデジタル的に生成するものであって、デルタシグマ変調器72と、デルタシグマ変調された上位nビットの周波数設定データを累算するアキュムレータ10と、アキュムレータ10の後段に設けられた正弦波変換テーブル20と、正弦波変換テーブル20と並列に設けられた余弦波変換テーブル22と、デルタシグマ変調器72のデルタシグマエラー成分を累算するアキュムレータ12と、累算したデルタシグマエラー成分と余弦波変換テーブル22からの振幅データを乗算する乗算器80と、増幅器90と、加算器62と、デジタル/アナログ変換器30と、アナログフィルタ40とを備えている。
【0063】
デルタシグマ変調器72は、ワード長mビットの周波数設定データをデルタシグマ変調して、アキュムレータ10に出力すると共に、デルタシグマエラー成分(DSMerror、または、Err
dsmと記す)を生成して、アキュムレータ12に出力する。
アキュムレータ10は、デルタシグマ変調された上位nビットの周波数設定データを累算し、nビットの位相データとして正弦波変換テーブル20及び余弦波変換テーブル22に出力する。
【0064】
余弦波変換テーブル20は、正弦波のデータが格納されているメモリを備え、累算されたnビットの位相データを正弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。
余弦波変換テーブル22は、余弦波のデータが格納されているメモリを備え、累算されたnビットの位相データを余弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。
【0065】
アキュムレータ12は、デルタシグマ変調器72のデルタシグマエラー成分を累算して乗算器80に出力する。乗算器80は、累算したデルタシグマエラー成分と余弦波の振幅データを乗算する。
増幅器90は、乗算器80の乗算出力に対し所望の値にゲイン倍することで微調整を行う。加算器62は、ゲイン倍したデータと正弦波の振幅データとを加算して、デジタル/アナログ変換器30に出力する。
【0066】
この本発明の実施例2に係るダイレクトデジタルシンセサイザ200によれば、実施例1に係るダイレクトデジタルシンセサイザ100と同様に、エラー成分が補正されるためにスプリアスノイズを低減でき、その低減されたスプリアスノイズは、高い周波数領域にシフトされているので、求める信号から遠ざけられていることになる。
また、本発明のダイレクトデジタルシンセサイザにおける信号生成方法は、設定可能な周波数を有する信号をデジタル的に生成するダイレクトデジタルシンセサイザにおける信号生成方法である。デルタシグマ変調により周波数設定データに基づいて位相データを生成するステップと、位相データに基づいて第1の振幅データを生成するステップと、デルタシグマ変調のエラー成分に基づく補正データにより第1の振幅データを補正するステップとを有する。
【0067】
以上のように、本発明によれば、さらなる低スプリアス化を実現し、ノイズ特性を改善することができる。
なお、上述した実施例では、ダイレクトデジタルシンセサイザ100,200は、正弦波をデジタル的に生成するものとしたが、正弦波に限られるものでなく、設定可能な周波数を持つ信号をデジタル的に生成するものに適応可能である。