特許第5667596号(P5667596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成エレクトロニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000002
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000003
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000004
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000005
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000006
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000007
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000008
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000009
  • 特許5667596-ダイレクトデジタルシンセサイザ 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667596
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ダイレクトデジタルシンセサイザ
(51)【国際特許分類】
   H03B 28/00 20060101AFI20150122BHJP
   H03M 7/32 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   H03B28/00 A
   H03M7/32
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-91140(P2012-91140)
(22)【出願日】2012年4月12日
(65)【公開番号】特開2013-219726(P2013-219726A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2013年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】スタペルブルツク ヴイラム ヨハン
【審査官】 鬼塚 由佳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−533423(JP,A)
【文献】 米国特許第06333649(US,B1)
【文献】 特開2007−174226(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0020649(US,A1)
【文献】 Hegazi, E.M.,et al.,A new direct digital frequency synthesizer architecture for mobile transceivers,Proceedings of the 1998 IEEE International Symposium on Circuits and Systems, 1998,1998年 5月31日,Vol.3,pp.647-650
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 28/00
H03M 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定可能な周波数を有する信号をデジタル的に生成するダイレクトデジタルシンセサイザにおいて、
周波数設定データに基づいて位相データを生成するデルタシグマ変調器と、
該デルタシグマ変調器により生成された前記位相データに基づいて第1の振幅データを生成する第1の波形変換テーブルと、
前記デルタシグマ変調器のエラー成分に基づく補正データに基づいて前記第1の振幅データを補正する補正部と、
前記デルタシグマ変調器の後段に第1及び第2のアキュムレータと、を備え、
前記補正部は、前記位相データに基づいて第2の振幅データを生成する第2の波形変換テーブルと、前記デルタシグマ変調器からのエラー成分と前記第2の振幅データとを乗算する乗算器と、該乗算器の乗算結果を前記第1の振幅データと加算する加算器と、を備え、前記デルタシグマ変調器のエラー成分及び前記第2の波形変換テーブルの第2の振幅データによる補正データに基づいて前記第1の振幅データを補正し、
前記第1のアキュムレータは、前記位相データを累算して前記第1の波形変換テーブル及び前記補正部に出力し、前記第2のアキュムレータは、前記エラー成分を累算して前記補正部に出力することを特徴とするダイレクトデジタルシンセサイザ。
【請求項2】
前記補正部は、前記乗算器の乗算結果を増幅する増幅器を備えることを特徴とする請求項1に記載のダイレクトデジタルシンセサイザ。
【請求項3】
前記デルタシグマ変調器は、
ループフィルタの出力から前記ループフィルタの入力をマイナス加算して前記エラー成分を生成する加算器を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイレクトデジタルシンセサイザ。
【請求項4】
補正された前記振幅データを前記信号に変換する変換部を備えることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載のダイレクトデジタルシンセサイザ。
【請求項5】
前記変換部は、補正された前記振幅データをアナログ信号に変換するデジタルアナログ変換器と、前記アナログ信号を帯域制限して前記信号を出力するフィルタとを備えることを特徴とする請求項に記載のダイレクトデジタルシンセサイザ。
【請求項6】
設定可能な周波数を有する信号をデジタル的に生成するダイレクトデジタルシンセサイザにおいて、
周波数設定データをデルタシグマ変調するデルタシグマ変調器と、
該デルタシグマ変調器に接続され、デルタシグマ変調された前記周波数設定データを累算して位相データを生成する第1のアキュムレータと、
前記デルタシグマ変調器に接続され、該デルタシグマ変調器のエラー成分を累算する第2のアキュムレータと、
前記第1のアキュムレータに接続され、前記位相データに従い正弦波振幅データを生成する正弦波変換テーブルと、
前記第1のアキュムレータに接続され、前記位相データに従い余弦波振幅データを生成する余弦波変換テーブルと、
該余弦波変換テーブル及び前記第2のアキュムレータに接続され、累積された前記エラー成分と前記余弦波振幅データとを乗算する乗算器と、
該乗算器に接続され、乗算された結果を前記正弦波振幅データと加算する加算器と
を備えることを特徴とするダイレクトデジタルシンセサイザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機器などに使用されるダイレクトデジタルシンセサイザ(Direct Digital Synthesizer:DDS)に関し、より詳細には、位相誤差を補正することで低スプリアス化を実現してノイズ特性を改善したダイレクトデジタルシンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信機器や無線通信測定器の分野では、高周波信号発生手段として、DDS回路が広く用いられている。ダイレクトデジタル合成(Direct Digital Synthesis)は、設定可能な周波数を持つ正弦波などの信号をデジタル的に生成するための方法である。
図6は、ダイレクトデジタルシンセサイザの基本的な構成を示すブロック図である。ダイレクトデジタルシンセサイザ600は、アキュムレータ10と、正弦波変換テーブル20と、デジタル/アナログ変換器30と、アナログフィルタ40とを備え、正弦波のアナログ信号を出力する。
【0003】
アキュムレータ10は、ワード長mビットの周波数設定データを累算する。そして、累算した出力の上位nビットを位相データとして出力する。正弦波変換テーブル20は、正弦波のデータが格納されているメモリを備え、累算出力の上位nビットの位相データを正弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。デジタル/アナログ変換器30は、デジタル信号である正弦波の振幅データをアナログ信号に変換する。アナログフィルタ40は、アナログ信号を所望の帯域で帯域制限する。
【0004】
ここで、ダイレクトデジタル合成の主な問題点はスプリアスノイズが生じることである。これらスプリアスノイズが生じる原因のひとつは、正弦波変換テーブル20に入力される位相データを上位nビットのみとし、そのほか残りの下位ビットを切り捨てることにある。このビットの切り捨て分を小さくするための最も簡単な方法は、正弦波変換テーブル20が広いビット幅を持つことであるが、回路規模の増大につながる。
【0005】
このビットの切り捨てを原因とするスプリアスノイズ発生を低減するために、従来からいくつかの方法が考えられてきた。その1つとしてデイザリングによる低減方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
図7は、従来のダイレクトデジタルシンセサイザの構成を示すブロック図である。このダイレクトデジタルシンセサイザ700は、アキュムレータ10と、正弦波変換テーブル20と、デジタル/アナログ変換器30と、アナログフィルタ40と、さらに、アキュムレータ10と正弦波変換テーブル20との間に、ランダムノイズ生成器50及び加算器60とを備えている。
【0006】
ランダムノイズ生成器50は、ランダムノイズデータを生成する。加算器60は、そのランダムノイズデータと累算出力の上位nビットの位相データとを加算して、正弦波変換テーブル20に出力する。
このダイレクトデジタルシンセサイザ700によれば、相関のないランダムノイズデータをビットが切り捨てられた位相データに加算することにより、スプリアスノイズを低減することができる。
【0007】
しかしながら、この第1の方法では、トータルのノイズが増大してしまうという問題点がある。また、第2の方法としてエラーのフィードバックによる低減方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
図8は、従来の他のダイレクトデジタルシンセサイザの構成を示すブロック図である。このダイレクトデジタルシンセサイザ800は、アキュムレータ10と、正弦波変換テーブル20と、デジタル/アナログ変換器30と、アナログフィルタ40と、さらに、アキュムレータ10と正弦波変換テーブル20との間にデルタシグマ変調器70とを備えている。
【0008】
デルタシグマ変調器70は、アキュムレータ10の累算出力であるmビットの位相データをnビットにデルタシグマ変調して、正弦波変換テーブル20に出力する。
デルタシグマ変調器70は、スプリアスノイズをより高い周波数領域にシフトする特性があり、求める信号から遠ざけることができる。そして、デルタシグマ変調器70をより高次のフィルタで構成することにより効果があがる。
【0009】
しかしながら、この方法は、周波数が低い場合にのみ適応できるものである。また、例えば、2次のデルタシグマを用いた場合のトータルノイズは、上述したデイザリングによる方法のトータルノイズとほとんど変わらない。
また、第3の方法として正弦波に変換後、エラーを補正する低減方法がある(例えば、特許文献1,非特許文献2参照)。
【0010】
図9は、従来のさらに他のダイレクトデジタルシンセサイザの構成を示すブロック図である。このダイレクトデジタルシンセサイザ900は、アキュムレータ10と、正弦波変換テーブル20と、デジタル/アナログ変換器30と、アナログフィルタ40と、さらに、正弦波変換テーブル20と並列に設けられた余弦波変換テーブル22と、乗算器80と、増幅器90及び加算器62とを備えている。
【0011】
余弦波変換テーブル22は、余弦波のデータが格納されているメモリを備え、累算出力の上位nビットの位相データを余弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。乗算器80は、累算出力のうちビットの切り捨て分である残りの下位kビットの位相データとl(エル)ビットの余弦波の振幅データを乗算する。増幅器90は、乗算器80の乗算出力に対し所望の値にゲイン倍することで微調整を行う。加算器62は、ゲイン倍したデータと正弦波の振幅データとを加算して、デジタル/アナログ変換器30に出力する。後述するように、この乗算器80の乗算出力(増幅器90でゲイン倍されたデータ)が、エラー成分に相当する。
【0012】
次に、図9に示したダイレクトデジタルシンセサイザの動作について説明する。スプリアスノイズは、求める信号とビットの切り捨て分に相当する信号との変調により発生すると考えられるので、正弦波変換テーブル20の出力である正弦波の振幅データをOutputとすると、
【0013】
〔数1〕
Output=sin(2π・wordtune/2bit_tune)・cos(2π・restr/2bit_tune)−cos(2π・wordtune/2bit_tune)・sin(2π・restr/2bit_tune)・・・(1)
と表すことができる。
【0014】
ここで、wordtuneは、周波数設定データに相当する位相データであり、restrは、ビットの切り捨て分に相当する位相誤差データであり、bit_tuneは、周波数設定データのワード長m(mビット)である。
ここで、周波数設定データのワード長m(bit_tune)が大きく、位相誤差データrestrが2bit_tuneと比べて非常に小さい場合、
【0015】
〔数2〕
cos(2π・restr/2bit_tune)≒1・・・(2)
【0016】
〔数3〕
sin(2π・restr/2bit_tune)≒2π・restr/2bit_tune・・・(3)
と簡略化できる。そのとき式(1)は、
【0017】
〔数4〕
Output=sin(2π・wordtune/2bit_tune)−cos(2π・wordtune/2bit_tune)・(2π・restr/2bit_tune)・・・(4)
と簡略化される。ここで式(4)のうち、求める信号(正弦波の振幅データ)は、
【0018】
〔数5〕
sin(2π・wordtune/2bit_tune
であり、スプリアスノイズとなる信号は、
【0019】
〔数6〕
cos(2π・wordtune/2bit_tune)・(2π・restr/2bit_tune
であり、これがエラー成分となる。
【0020】
このダイレクトデジタルシンセサイザ900は、このエラー成分を補正することができる。
余弦波変換テーブル22により1ビットの余弦波の振幅データを生成し、乗算器80により累算出力のうちビットの切り捨て分である残りの下位kビットの位相データとl(エル)ビットの余弦波の振幅データとを乗算することで、エラー成分を生成する。
【0021】
式(4)で表される正弦波の振幅データOutputに、そのエラー成分を加算することにより、加算器62の加算出力である振幅データOutput1は、
【0022】
〔数7〕
Output1=sin(2π・wordtune/2bit_tune)・・・(5)
となって、エラー成分が補正されることが分かる。
このように、ダイレクトデジタルシンセサイザ900によればエラー成分が補正されるためにスプリアスノイズを低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開平11−31924号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】J.Vankka,”Direct Digital Synthesizers:Theory,Design and Applications”,PhD thesis,2000 Helsinki University of Technology ISBN 951−22−5232−5
【非特許文献2】Z.Jianming,“A new method of spur reduction in phase truncation for DDS”,IEICE electronics Express,Vol.5,No.21,915−920,Nov 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、近年の無線通信機器に使用されるダイレクトデジタルシンセサイザは、より低スプリアスが求められている。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、さらなる低スプリアス化を実現し、ノイズ特性を改善したダイレクトデジタルシンセサイザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、設定可能な周波数を有する信号をデジタル的に生成するダイレクトデジタルシンセサイザにおいて、周波数設定データに基づいて位相データを生成するデルタシグマ変調器(72)と、該デルタシグマ変調器(72)により生成された前記位相データに基づいて第1の振幅データを生成する第1の波形変換テーブル(20)と、前記デルタシグマ変調器(72)のエラー成分に基づく補正データに基づいて前記第1の振幅データを補正する補正部(80)と、前記デルタシグマ変調器(72)の後段に第1及び第2のアキュムレータ(10,12)と、を備え、前記補正部(80)は、前記位相データに基づいて第2の振幅データを生成する第2の波形変換テーブル(22)と、前記デルタシグマ変調器(72)からのエラー成分と前記第2の振幅データとを乗算する乗算器(80)と、該乗算器(80)の乗算結果を前記第1の振幅データと加算する加算器(62)と、を備え、前記デルタシグマ変調器(72)のエラー成分及び前記第2の波形変換テーブル(22)の第2の振幅データによる補正データに基づいて前記第1の振幅データを補正し、前記第1のアキュムレータ(10)は、前記位相データを累算して前記第1の波形変換テーブル(20)及び前記補正部(80)に出力し、前記第2のアキュムレータ(12)は、前記エラー成分を累算して前記補正部(80)に出力することを特徴とする。
【0027】
た、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記補正部(80)は、前記乗算器(80)の乗算結果を増幅する増幅器(90)を備えることを特徴とする。
また、請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記デルタシグマ変調器(72)は、ループフィルタの出力から前記ループフィルタの入力をマイナス加算して前記エラー成分を生成する加算器(62)を備えることを特徴とする
【0028】
た、請求項に記載の発明は、請求項1乃至のいずれかに記載の発明において、補正された前記振幅データを前記信号に変換する変換部(30,40)を備えることを特徴とする。
【0029】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記変換部(30,40)は、補正された前記振幅データをアナログ信号に変換するデジタルアナログ変換器(30)と、前記アナログ信号を帯域制限して前記信号を出力するフィルタ(40)とを備えることを特徴とする。
【0030】
また、請求項に記載の発明は、設定可能な周波数を有する信号をデジタル的に生成するダイレクトデジタルシンセサイザにおいて、周波数設定データをデルタシグマ変調するデルタシグマ変調器(72)と、該デルタシグマ変調器(72)に接続され、デルタシグマ変調された前記周波数設定データを累算して位相データを生成する第1のアキュムレータ(10)と、前記デルタシグマ変調器(72)に接続され、該デルタシグマ変調器(72)のエラー成分を累算する第2のアキュムレータ(12)と、前記第1のアキュムレータ(10)に接続され、前記位相データに従い正弦波振幅データを生成する正弦波変換テーブル(20)と、前記第1のアキュムレータ(12)に接続され、前記位相データに従い余弦波振幅データを生成する余弦波変換テーブル(22)と、該余弦波変換テーブル(22)及び前記第2のアキュムレータ(12)に接続され、累積された前記エラー成分と前記余弦波振幅データとを乗算する乗算器(80)と、該乗算器(80)に接続され、乗算された結果を前記正弦波振幅データと加算する加算器(62)とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、さらなる低スプリアス化を実現し、ノイズ特性を改善したダイレクトデジタルシンセサイザを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザの実施例1の構成を示すブロック図である。
図2】(a),(b)は、本発明に係るデルタシグマ変調器の具体例を説明ための図である。
図3】(a)乃至(d)は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによる効果を概念的に説明するための、各ダイレクトデジタルシンセサイザの出力信号のFFTプロットを示す図である。
図4】(a)乃至(d)は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによる効果を示す図であり、各ダイレクトデジタルシンセサイザの出力信号のFFTプロットを示す図である。
図5】本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザの実施例2の構成を示すブロック図である。
図6】ダイレクトデジタルシンセサイザの基本的な構成を示すブロック図である。
図7】従来のダイレクトデジタルシンセサイザの構成を示すブロック図である。
図8】従来の他のダイレクトデジタルシンセサイザの構成を示すブロック図である。
図9】従来のさらに他のダイレクトデジタルシンセサイザの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の各実施例について説明する。
【実施例1】
【0035】
図1は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザの実施例1の構成を示すブロック図である。図中符号22は余弦波変換テーブル、62は加算器、72はデルタシグマ変調器、80は乗算器、90は増幅器を示している。なお、従来技術を説明した図6乃至図9に示す構成要素と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
本発明のダイレクトデジタルシンセサイザは、設定可能な周波数を有する信号をデジタル的に生成するダイレクトデジタルシンセサイザである。周波数設定データに基づいて位相データを生成するデルタシグマ変調器72と、このデルタシグマ変調器72により生成された位相データに基づいて第1の振幅データを生成する第1の波形変換テーブル20と、デルタシグマ変調器72のエラー成分に基づく補正データに基づいて第1の振幅データを補正する補正部80とを備えている。
【0036】
また、補正部80は、位相データに基づいて第2の振幅データを生成する第2の波形変換テーブル22を備え、デルタシグマ変調器72のエラー成分及び第2の波形変換テーブル22の第2の振幅データによる補正データに基づいて振幅データを補正する。
つまり、本実施例1のダイレクトデジタルシンセサイザ100は、設定可能な周波数を持つ正弦波をデジタル的に生成するものであって、アキュムレータ10と、アキュムレータ10の後段に設けられたデルタシグマ変調器72と、正弦波変換テーブル20と、正弦波変換テーブル20と並列に設けられた余弦波変換テーブル22と、デルタシグマ変調器72のデルタシグマエラー成分と余弦波変換テーブル22からの振幅データを乗算する乗算器80と、増幅器90と、加算器62と、デジタル/アナログ変換器30と、アナログフィルタ40とを備えている。
【0037】
アキュムレータ10は、ワード長mビットの周波数設定データを累算する。デルタシグマ変調器72は、アキュムレータ10の累算出力であるmビットの位相データをデルタシグマ変調して、正弦波変換テーブル20および余弦波変換テーブル22に出力すると共に、ノイズのようなデルタシグマエラー成分(DSMerror又はErrdsmという)を生成して、乗算器80に出力する。
【0038】
余弦波変換テーブル20は、正弦波のデータが格納されているメモリを備え、デルタシグマ変調された上位nビットの位相データを正弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。
余弦波変換テーブル22は、余弦波のデータが格納されているメモリを備え、デルタシグマ変調された上位nビットの位相データを余弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。
【0039】
乗算器80は、デルタシグマエラー成分と余弦波の振幅データを乗算する。増幅器90は、乗算器80の乗算出力に対し所望の値にゲイン倍することで微調整を行う。加算器62は、ゲイン倍したデータと正弦波の振幅データとを加算して、デジタル/アナログ変換器30に出力する。
図2(a),(b)は、本発明に係るデルタシグマ変調器の具体例を説明ための図で、図2(a)は従来のデルタシグマ変調器の構成を示す図で、図2(b)は本発明に係るデルタシグマ変調器の構成を示す図である。
【0040】
従来のデルタシグマ変調器70は、図2(a)に示すように、伝達関数H(z)をもつループフィルタ76と加算器74を備えており、mビットの入力信号xに対し、上位nビットを出力信号yを生成する。ここで、残りの下位kビットに相当するエラー信号を−εとすると、出力信号はy=x+ε(1−H(z))と表すことができる。したがって、デルタシグマ変調器の正しいエラー成分は、単純な−εではなく、ε(1−H(z))であることがわかる。
【0041】
本発明に係るデルタシグマ変調器72は、図2(b)に示すように、伝達関数H(z)をもつループフィルタ76と加算器74のほかに、加算器78を備えている。加算器78は、ループフィルタ76からの出力−εH(z)に残りの下位kビットに相当するエラー信号−εをマイナス加算し、言い換えれば、ループフィルタ76からの出力−εH(z)から残りの下位kビットに相当するエラー信号−εを減算して、正しいエラー成分ε(1−H(z))を生成することができる。
【0042】
このように、デルタシグマ変調器72は、デルタシグマエラー成分として適正なエラー成分ε(1−H(z))を出力することができる。
次に、ダイレクトデジタルシンセサイザの動作について説明する。
正弦波変換テーブル20の出力である正弦波の振幅データOutputは、求める信号とデルタシグマエラー成分との変調により発生するノイズ成分を考慮すると、
【0043】
〔数8〕
Output=sin(2π・wordtune/2bit_tune)・cos(2π・Errdsm/2bit_tune)−cos(2π・wordtune/2bit_tune)・sin(2π・Errdsm/2bit_tune)・・・(6)
と表すことができる。
ここで、wordtuneは周波数設定データに相当する位相データであり、Errdsmはデルタシグマエラー成分であり、bit_tuneは周波数設定データのワード長m(mビット)である。
ここで、周波数設定データのワード長m(bit_tune)が大きく、エラー成分Errdsmが2bit_tuneと比べて非常に小さい場合、
【0044】
〔数9〕
cos(2π・Errdsm/2bit_tune)≒1・・・(7)
【0045】
〔数10〕
sin(2π・Errdsm/2bit_tune)≒2π・Errdsm/2bit_tune・・・(8)
と簡略化できる。そのとき式(6)は、
【0046】
〔数11〕
Output=sin(2π・wordtune/2bit_tune)−cos(2π・wordtune/2bit_tune)・(2π・Errdsm/2bit_tune)・・・(9)
と簡略化される。ここで式(9)のうち、求める信号(正弦波の振幅データ)は、
【0047】
〔数12〕
sin(2π・wordtune/2bit_tune
であり、スプリアスノイズとなる信号は、
【0048】
〔数13〕
cos(2π・wordtune/2bit_tune)・(2π・Errdsm/2bit_tune
であり、これがエラー成分となる。
乗算器80は、1デルタシグマエラー成分と余弦波の振幅データとを乗算することで、エラー成分を生成するので、式(9)で表される正弦波の振幅データOutputに、そのエラー成分を加算すると、加算出力である振幅データOutput1は、
【0049】
〔数14〕
Output=sin(2π・wordtune/2bit_tune)・・・(10)
となって、エラー成分が補正されることが分かる。
【0050】
このように、本発明の実施例1に係るダイレクトデジタルシンセサイザ100によれば、エラー成分が補正されるためにスプリアスノイズを低減できる。さらに、低減されたスプリアスノイズは、デルタシグマ変調器72によってより高い周波数領域にシフトされているので、求める信号から遠ざけられていることになる。
図3(a)乃至(d)は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによる効果を概念的に説明するための、各ダイレクトデジタルシンセサイザの出力信号のFFTプロットを示す図である。
【0051】
ここで、図3(a)は、従来の基本的な構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ600、図3(b)は、従来のデルタシグマ変調器のみの構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ800、図3(c)は、従来の正弦波に変換後エラーを補正する構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ900、図3(d)は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザのFFTプロットを示す図である。
【0052】
縦軸は振幅、横軸は周波数を表す。また、実線は求める信号、点線はスプリアスノイズ、破線は低減されたスプリアスノイズ、点エリアはフロアノイズ、斜線エリアは低減されたフロアノイズを示す。
従来の基本的な構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ600では、図3(a)に示すように、アキュムレータによる切り捨てエラーが発生したため、スプリアスノイズが顕著に現れる。
【0053】
また、従来のデルタシグマ変調器のみの構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ800では、図3(b)に示すように、スプリアスノイズは高い周波数領域にシフトされ、求める信号の付近には表れないが、ノイズフロアが上昇する。
また、従来の正弦波に変換後エラーを補正する構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ900では、図3(c)に示すように、アキュムレータによる切り捨てエラーが補正され、スプリアスノイズが低減されるが、依然としてスプリアスノイズは存在する。
【0054】
しかしながら、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによれば、図3(d)に示すように、スプリアスノイズはより高い周波数領域にシフトされて求める信号の付近には表れず、ノイズフロアはより低減される。
図4(a)乃至(d)は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによる効果を示す図であり、各ダイレクトデジタルシンセサイザの出力信号のFFTプロットを示す図である。
【0055】
ここで、図4(a)は、従来の基本的な構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ600、図4(b)は、従来のデルタシグマ変調器のみの構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ800、図4(c)は、従来の正弦波に変換後エラーを補正する構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ900、図4(d)は本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザのFFTプロットを示す図である。
【0056】
正弦波変換テーブルから出力される正弦波の振幅データを8ビットとし、2次のデルタシグマ変調器、16ビットのデジタル/アナログ変換器、動作クロック100MHzを用いて、出力信号の周波数を2.5×10^7Hzとしてシミュレーションを行った。縦軸は振幅、横軸は周波数を表す。点A、Bは、スペクトル中の1、2番目のピークを示している(よって点Aは求める出力信号である)。
【0057】
図4(a)に示すように、従来の基本的な構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ600では、アキュムレータによる切り捨てエラーが発生したため、スプリアスノイズが顕著に現れる。ここで、点Bはスプリアスノイズのうち最大のピークを示している。
また、図4(b)に示すように、従来のデルタシグマ変調器のみの構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ800では、スプリアスノイズは高い周波数領域にシフトされ、求める信号の付近には表れないが、ノイズフロアが上昇する。なお、図4(b)においては、点Bはフロアノイズのうち最大値を示し、点A以外にピークはみられない。
【0058】
また、従来の正弦波に変換後エラーを補正する構成であるダイレクトデジタルシンセサイザ900では、図4(c)に示すように、アキュムレータによる切り捨てエラーが補正され、スプリアスノイズが低減されるが、依然としてスプリアスノイズは存在する。ここで、点Bはスプリアスノイズのうち最大のピークを示しているが、図4(a)の点Bよりもレベルが低くなっていることがわかる。
【0059】
しかしながら、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザによれば、図4(d)に示すように、スプリアスノイズはより高い周波数領域にシフトされて求める信号の付近には表れず、ノイズフロアはより低減される。なお、図4(d)においては、フロアノイズが大幅に低減されているので、16ビットのデジタル/アナログ変換器による歪みが点Bとしてはみえているのみである。
【0060】
このように、本発明の係るダイレクトデジタルシンセサイザは、スペクトル全体としてノイズが低減され、従来に比べはるかに優れたノイズ特性を持つことがわかる。
【実施例2】
【0061】
図5は、本発明に係るダイレクトデジタルシンセサイザの実施例2の構成を示すブロック図である。本発明のダイレクトデジタルシンセサイザは、デルタシグマ変換器72の後段に第1及び第2のアキュムレータ10,12を備え、この第1のアキュムレータ10は、位相データを累算して第1の波形変換テーブル20及び補正部80に出力し、第2のアキュムレータ12は、エラー成分を累算して補正部80に出力する。
【0062】
つまり、本実施例2のダイレクトデジタルシンセサイザ200は、設定可能な周波数を持つ正弦波をデジタル的に生成するものであって、デルタシグマ変調器72と、デルタシグマ変調された上位nビットの周波数設定データを累算するアキュムレータ10と、アキュムレータ10の後段に設けられた正弦波変換テーブル20と、正弦波変換テーブル20と並列に設けられた余弦波変換テーブル22と、デルタシグマ変調器72のデルタシグマエラー成分を累算するアキュムレータ12と、累算したデルタシグマエラー成分と余弦波変換テーブル22からの振幅データを乗算する乗算器80と、増幅器90と、加算器62と、デジタル/アナログ変換器30と、アナログフィルタ40とを備えている。
【0063】
デルタシグマ変調器72は、ワード長mビットの周波数設定データをデルタシグマ変調して、アキュムレータ10に出力すると共に、デルタシグマエラー成分(DSMerror、または、Errdsmと記す)を生成して、アキュムレータ12に出力する。
アキュムレータ10は、デルタシグマ変調された上位nビットの周波数設定データを累算し、nビットの位相データとして正弦波変換テーブル20及び余弦波変換テーブル22に出力する。
【0064】
余弦波変換テーブル20は、正弦波のデータが格納されているメモリを備え、累算されたnビットの位相データを正弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。
余弦波変換テーブル22は、余弦波のデータが格納されているメモリを備え、累算されたnビットの位相データを余弦波の振幅データ(ワード長l(エル)ビット)に変換する。
【0065】
アキュムレータ12は、デルタシグマ変調器72のデルタシグマエラー成分を累算して乗算器80に出力する。乗算器80は、累算したデルタシグマエラー成分と余弦波の振幅データを乗算する。
増幅器90は、乗算器80の乗算出力に対し所望の値にゲイン倍することで微調整を行う。加算器62は、ゲイン倍したデータと正弦波の振幅データとを加算して、デジタル/アナログ変換器30に出力する。
【0066】
この本発明の実施例2に係るダイレクトデジタルシンセサイザ200によれば、実施例1に係るダイレクトデジタルシンセサイザ100と同様に、エラー成分が補正されるためにスプリアスノイズを低減でき、その低減されたスプリアスノイズは、高い周波数領域にシフトされているので、求める信号から遠ざけられていることになる。
また、本発明のダイレクトデジタルシンセサイザにおける信号生成方法は、設定可能な周波数を有する信号をデジタル的に生成するダイレクトデジタルシンセサイザにおける信号生成方法である。デルタシグマ変調により周波数設定データに基づいて位相データを生成するステップと、位相データに基づいて第1の振幅データを生成するステップと、デルタシグマ変調のエラー成分に基づく補正データにより第1の振幅データを補正するステップとを有する。
【0067】
以上のように、本発明によれば、さらなる低スプリアス化を実現し、ノイズ特性を改善することができる。
なお、上述した実施例では、ダイレクトデジタルシンセサイザ100,200は、正弦波をデジタル的に生成するものとしたが、正弦波に限られるものでなく、設定可能な周波数を持つ信号をデジタル的に生成するものに適応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、ダイレクトデジタルシンセサイザやそれを備える無線通信機器などに利用される。
【符号の説明】
【0069】
10,12 アキュムレータ
20 正弦波変換テーブル
22 余弦波変換テーブル
30 デジタル/アナログ変換器
40 アナログフィルタ
50 ランダムノイズ生成器
60,62,74,78 加算器
70,72 デルタシグマ変調器
76 ループフィルタ
80 乗算器
90 増幅器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9