特許第5668710号(P5668710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5668710高分子化合物及びそれを含んだレジスト材料並びにパターン形成方法、該高分子化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5668710
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】高分子化合物及びそれを含んだレジスト材料並びにパターン形成方法、該高分子化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/34 20060101AFI20150122BHJP
   C08F 20/38 20060101ALI20150122BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20150122BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20150122BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   C08F8/34
   C08F20/38
   G03F7/004 503A
   G03F7/039 601
   H01L21/30 502R
【請求項の数】16
【全頁数】68
(21)【出願番号】特願2012-39622(P2012-39622)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-173854(P2013-173854A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 知洋
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−001715(JP,A)
【文献】 特開2013−095880(JP,A)
【文献】 特開2009−093137(JP,A)
【文献】 特開2011−118310(JP,A)
【文献】 特開2011−150211(JP,A)
【文献】 特開2011−248019(JP,A)
【文献】 特開2011−158879(JP,A)
【文献】 特開2012−032762(JP,A)
【文献】 特開2009−263487(JP,A)
【文献】 特開2011−022348(JP,A)
【文献】 特開2010−095643(JP,A)
【文献】 特開2012−173642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F8/34
C08F20/38
C08F120/38
C08F220/38
G03F7/004
G03F7/039
H01L21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物と共有結合していないアルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物であって、スルホン酸アニオン含有単位のアニオン部位が、下記式
【化1】
から選ばれる構造であり、アルキルスルホニウムカチオン部が、下記一般式(4)
【化2】
(式中、R11、R12及びR13は相互に独立に置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR11、R12及びR13のうちのいずれか2つ以上が相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。但し、R11、R12及びR13のうち少なくとも一つはアルキル基である。)
で示される構造であることを特徴とする高分子化合物
【請求項2】
下記一般式(2)で示される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項に記載の高分子化合物。
【化3】
(式中、R1’は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Zは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、又は(主鎖)−C(=O)−O−Z’−であり、Z’は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基であり、ヒドロキシ基、エーテル結合、エステル結合、ラクトン環のいずれかを有していてもよく、あるいはZ’はフェニレン基又はナフチレン基である。XAは酸不安定基を示す。)
【請求項3】
下記一般式(3)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【化4】
(式中、R1’’は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。YLはヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物から選択されるいずれか一つあるいは複数の構造を有する極性基を示す。)
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の高分子化合物を含むことを特徴とするレジスト材料。
【請求項5】
添加剤として光酸発生剤を含むことを特徴とする請求項に記載のレジスト材料。
【請求項6】
添加剤としてクエンチャーを含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のレジスト材料。
【請求項7】
溶剤を含むことを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載のレジスト材料
【請求項8】
界面活性剤を含むことを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載のレジスト材料。
【請求項9】
高分子化合物と共有結合していないアンモニウムカチオン又は金属カチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物とアルキルスルホニウム塩を反応させることによることを特徴とする請求項1に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項10】
下記一般式(5)で示される高分子化合物に下記一般式(7)で示されるアルキルスルホニウム塩を作用させ、カチオン交換反応を行うことを特徴とする請求項に記載の高分子化合物の製造方法。
【化5】
(式中、R1は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Lはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を示す。M+はアンモニウムカチオン又は金属カチオンを示す。)
【化6】
(式中、R11、R12及びR13は相互に独立に置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR11、R12及びR13のうちのいずれか2つ以上が相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。但し、R11、R12及びR13のうち少なくとも一つはアルキル基である。X-はアニオンを示す。)
【請求項11】
高分子化合物と共有結合していないアンモニウムカチオン又は金属カチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物とアルキルスルホニウム塩の反応を、水及び水と分液可能な有機溶剤を用いた二層系で行うことを特徴とする請求項又は10に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項12】
請求項乃至のいずれか1項に記載のレジスト材料を基板上に塗布する工程と、加熱処理後、高エネルギー線で露光する工程と、現像液を用いて現像する工程とを含むことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項13】
前記高エネルギー線が波長180〜250nmの範囲のものとすることを特徴とする請求項12に記載のパターン形成方法。
【請求項14】
前記高エネルギー線で露光する工程を、液体を介して露光する液浸露光により行うことを特徴とする請求項12又は13に記載のパターン形成方法。
【請求項15】
前記液浸露光において、フォトレジスト膜と液体の間に保護膜を設けることを特徴とする請求項14に記載のパターン形成方法。
【請求項16】
高エネルギー線がEUVあるいは電子線であることを特徴とする請求項12に記載のパターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1)アニオン部位が高分子化合物主鎖に結合し且つカチオン部位がアルキルスルホニウムであるイオン性化合物を有し、高エネルギー線や熱などに感応し、スルホン酸を発生する高分子化合物、(2)その高分子化合物を用いたレジスト材料、(3)そのレジスト材料を用いたパターン形成方法、及び(4)該高分子化合物の製造方法に関する。
なお、本発明において、高エネルギー線とは、紫外線、遠紫外線、電子線、EUV、X線、エキシマレーザー、γ線、シンクロトロン放射線を含むものである。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化と高速度化に伴い、パターンルールの微細化が急速に進んでいる。特にフラッシュメモリー市場の拡大と記憶容量の増大化が微細化を牽引している。最先端の微細化技術としてはArFリソグラフィーによる65nmノードのデバイスの量産が行われており、次世代のArF液浸リソグラフィーによる45nmノードの量産準備が進行中である。次世代の32nmノードとしては、水よりも高屈折率の液体と高屈折率レンズ、高屈折率レジスト膜を組み合わせた超高NAレンズによる液浸リソグラフィー、波長13.5nmの真空紫外光(EUV)リソグラフィー、ArFリソグラフィーの2重露光(ダブルパターニングリソグラフィー)などが候補であり、検討が進められている。また、電子ビーム(EB)のような短波長の高エネルギー線を用いたレジスト材料は、マスク描画用途に適用されている。
【0003】
ArFリソグラフィーは130nmノードのデバイス製作から部分的に使われ始め、90nmノードデバイスからはメインのリソグラフィー技術となった。次の45nmノードのリソグラフィー技術として、当初F2レーザーを用いた157nmリソグラフィーが有望視されたが、諸問題による開発遅延が指摘されたため、投影レンズとウエハーの間に水、エチレングリコール、グリセリン等の空気より屈折率の高い液体を挿入することによって、投影レンズの開口数(NA)を1.0以上に設計でき、高解像度を達成することができるArF液浸リソグラフィーが急浮上してきた(例えば、非特許文献1:Journal of photopolymer Science and Technology Vol.17, No.4, p587(2004)参照)。
【0004】
ArFリソグラフィーでは、精密且つ高価な光学系材料の劣化を防ぐために、少ない露光量で十分な解像性を発揮できる感度の高いレジスト材料が求められており、実現する方策としては、その各成分として波長193nmにおいて高透明なものを選択するのが最も一般的である。例えばベース樹脂については、ポリアクリル酸及びその誘導体、ノルボルネン−無水マレイン酸交互重合体、ポリノルボルネン及び開環メタセシス重合体、開環メタセシス重合体水素添加物等が提案されており、樹脂単体の透明性を上げるという点ではある程度の成果を得ている。
【0005】
また、光酸発生剤も種々の検討がなされてきた。ArF化学増幅型レジスト材料の光酸発生剤としては、酸強度の高いパーフルオロアルカンスルホン酸を発生するものが一般的に使われている。これらのパーフルオロアルカンスルホン酸を発生する光酸発生剤は既にKrFレジスト材料として開発されてきたものであり、例えば、特許文献1:特開2000−122296号公報(特許第4421707号公報)や特許文献2:特開平11−282168号公報には、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロ−4−エチルシクロヘキサンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸を発生する光酸発生剤が記載されている。
【0006】
上記の内、パーフルオロオクタンスルホン酸誘導体(PFOS)は環境中での非分解性、濃縮性などの環境問題を抱えており、代替品として各社よりフッ素の置換率を下げた部分フッ素置換アルカンスルホン酸の開発が行われている。例えば、特許文献3:特許第4211971号公報には、α,α−ジフルオロアルケンと硫黄化合物によりα,α−ジフルオロアルカンスルホン酸塩を開発し、露光によりこのスルホン酸を発生する光酸発生剤、具体的にはジ(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム=1,1−ジフルオロ−2−(1−ナフチル)エタンスルホネートを含有するレジスト材料が公開されており、更に、特許文献4:特許第4110319号公報には、α,α,β,β−テトラフルオロ−α−ヨードアルカンと硫黄化合物によるα,α,β,β−テトラフルオロアルカンスルホン酸塩の開発とこのスルホン酸を発生する光酸発生剤及びレジスト材料が公開されている。
【0007】
しかしながら、近年の急速な技術進歩による回路線幅の縮小に伴い、レジスト材料においては、上述のような部分フッ素置換アルカンスルホン酸発生剤を用いても酸拡散によるコントラスト劣化の影響が一層深刻になってきた。これは、パターン寸法が酸の拡散長に近づくためであり、マスク忠実性の低下やLWR(Line Width Roughness)の悪化、パターン矩形性の劣化を招く。従って、光源の短波長化及び高NA化による恩恵を十分に得るためには、従来材料以上に溶解コントラストの増大、又は酸拡散の抑制が必要となる。
【0008】
このような中で、光酸発生剤を高分子化合物に導入することにより、酸拡散の抑制を図る報告がいくらかなされている。例えば、特許文献5:特開平4−230645号公報には、アクロイルオキシフェニルジフェニルスルホニウム塩を単量体として有する高分子化合物が記載されており、特許文献6:特許第4244755号公報には、ポリヒドロキシスチレン系樹脂でのラインウィズスラフネスの改善を目的として上記単量体をベース樹脂に組み込むことが行われている。しかしながら、これらはカチオン側が高分子化合物に結合されているので高エネルギー線照射により生じたスルホン酸は従来の光酸発生剤から生じたスルホン酸と変わらず、酸拡散の抑制は不十分であり上記の課題に対し満足できるものではない。また、特許文献7:特許第3613491号公報にはポリスチレンスルホン酸などアニオン側をポリマー主鎖に組み込んだスルホニウム塩が開示されているが、発生酸はいずれもアレーンスルホン酸、アルキルスルホン酸誘導体であり、発生酸の酸強度が低いため、酸不安定基、特にArF化学増幅型レジストの酸不安定基を切断するには不十分である。特許文献8:国際公開第06/121096号パンフレットには具体的に3種の部分フッ素化スルホン酸アニオンを有し、特定のラクトン化合物との組み合わせの高分子化合物が開示されている。また、特許文献9:特開2007−197718号公報には、具体的に3種のアニオンが記載されているが、これらは強酸のカルボン酸エステルのため、加水分解性が高く、安定性が低いことが予想される。また、でき上がったコポリマーのレジスト溶剤溶解性も十分でない。更に、特許文献10:特開2008−133448号公報にも部分フッ素化アルカンスルホン酸アニオンを重合性単位として有するスルホニウム塩が開示されているが、解像性やLWR等のレジスト性能は不十分である。
【0009】
光酸発生剤を重合性単位として有する高分子化合物、特にアニオン部位が高分子主鎖に組み込まれているものからなるレジスト材料は、酸発生部位が高分子主鎖によって固定されているために酸拡散を抑制する効果がある。しかし、レジスト膜での透過率を下げてしまい解像性が低い場合があるという欠点も有する。これは、カウンターカチオンとしてトリフェニルスルホニウムが一般的に用いられていることに起因する。
【0010】
ArFリソグラフィーにおいて最も一般的に用いられている光酸発生剤はトリフェニルスルホニウム塩である。これは、レジスト膜中での安定性や酸発生効率に優れているからであるが、一方でArF露光波長(193nm)での吸収が大きく、レジスト膜での透過率を下げてしまい、解像性が低い場合があるという欠点がある。そこで、高感度、高解像性を目的として4−アルコキシナフチル−1−テトラヒドロチオフェニウムカチオン等のアルキルスルホニウム塩型光酸発生剤が開発されており(特許文献11:特許第3632410号公報)、複数の酸不安定基を有する樹脂等の組み合わせのレジスト材料(特許文献12:特許第3995575号公報)も開示されているが、酸拡散抑制能が十分ではなく、良好なマスク忠実性やLWRは得られていない。
【0011】
トリフェニルスルホニウム塩と同様の発想で、アルキルスルホニウム塩のカチオンあるいはアニオン部に重合性官能基を導入しベースポリマーに組み込むことで、透過率を大きく下げずに酸拡散を抑制できる可能性がある。しかし、アルキルスルホニウム塩を含むベースポリマーの合成を試みた場合、アルキルスルホニウム塩含有単位は重合中に分解してしまい目的の高分子化合物を得ることは困難である。これは、アルキルスルホニウム塩の求核剤等に対する反応性が高く不安定であることに起因する。特許文献13:特開2011−215428号公報においては、アニオン部に重合性官能基を導入しベースポリマーに組み込んでおり、カウンターカチオンの具体例としてアルキルスルホニウムカチオンも挙げられているが、実際の合成例は記載されていない。
【0012】
ArFリソグラフィー以降の露光技術としてはEUV(極紫外光)が有望視され、またマスク描画用としては電子線(EB)リソグラフィーが適用されているが、これらのリソグラフィーにおいても、近年更なるパターンの微細化に対応するために、より酸拡散による影響を抑え且つ解像性やマスク忠実性、LWRといった諸性能に優れたレジスト材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4421707号公報
【特許文献2】特開平11−282168号公報
【特許文献3】特許第4211971号公報
【特許文献4】特許第4110319号公報
【特許文献5】特開平4−230645号公報
【特許文献6】特許第4244755号公報
【特許文献7】特許第3613491号公報
【特許文献8】国際公開第06/121096号パンフレット
【特許文献9】特開2007−197718号公報
【特許文献10】特開2008−133448号公報
【特許文献11】特許第3632410号公報
【特許文献12】特許第3995575号公報
【特許文献13】特開2011−215428号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Journal of photopolymer Science and Technology Vol.17, No.4, p587(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、ArFエキシマレーザー、EUV光、電子線等の高エネルギー線を光源としたフォトリソグラフィーにおいて、高解像性且つLWR、マスク忠実性に優れたレジスト材料のベース樹脂として有用な、アニオン部位が高分子化合物主鎖に結合し且つカチオン部位がアルキルスルホニウムであるイオン性化合物を有する高分子化合物及びその製造方法、その高分子化合物を含有するレジスト材料及びそのレジスト材料を用いたパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、アニオン部位が高分子化合物主鎖に結合し且つカチオン部位がアルキルスルホニウムであるイオン性化合物を有する高分子化合物を分解なく安定に調製する方法を見出し、更に該高分子化合物をベース樹脂として用いたレジスト材料が解像性、マスク忠実性、LWRといった諸特性に優れ、レジスト材料として精密な微細加工に極めて有効であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0017】
即ち本発明は、(1)アニオン部位が高分子化合物主鎖に結合し且つカチオン部位がアルキルスルホニウムであるイオン性化合物を有し、高エネルギー線や熱などに感応し、スルホン酸を発生する高分子化合物、(2)その高分子化合物を用いたレジスト材料、(3)そのレジスト材料を用いたパターン形成方法、及び(4)該高分子化合物の製造方法を提供する。
〔1〕
高分子化合物と共有結合していないアルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物であって、スルホン酸アニオン含有単位のアニオン部位が、下記式
【化1】
から選ばれる構造であり、アルキルスルホニウムカチオン部が、下記一般式(4)
【化2】
(式中、R11、R12及びR13は相互に独立に置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR11、R12及びR13のうちのいずれか2つ以上が相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。但し、R11、R12及びR13のうち少なくとも一つはアルキル基である。)
で示される構造であることを特徴とする高分子化合物

下記一般式(2)で示される繰り返し単位を有することを特徴とする〔〕に記載の高分子化合物。
【化3】
(式中、R1’は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Zは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、又は(主鎖)−C(=O)−O−Z’−であり、Z’は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基であり、ヒドロキシ基、エーテル結合、エステル結合、ラクトン環のいずれかを有していてもよく、あるいはZ’はフェニレン基又はナフチレン基である。XAは酸不安定基を示す。)

下記一般式(3)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とする〔1〕又は〕に記載の高分子化合物。
【化4】
(式中、R1’’は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。YLはヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物から選択されるいずれか一つあるいは複数の構造を有する極性基を示す。)

〔1〕〜〔〕のいずれかに記載の高分子化合物を含むことを特徴とするレジスト材料。

添加剤として光酸発生剤を含むことを特徴とする〔〕に記載のレジスト材料。

添加剤としてクエンチャーを含むことを特徴とする〔又は〕に記載のレジスト材料。

溶剤を含むことを特徴とする〔〕〜〔〕のいずれかに記載のレジスト材料

界面活性剤を含むことを特徴とする〔〕〜〔〕のいずれかに記載のレジスト材料。

高分子化合物と共有結合していないアンモニウムカチオン又は金属カチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物とアルキルスルホニウム塩を反応させることによることを特徴とする〔1〕に記載の高分子化合物の製造方法。
10
下記一般式(5)で示される高分子化合物に下記一般式(7)で示されるアルキルスルホニウム塩を作用させ、カチオン交換反応を行うことを特徴とする〔〕に記載の高分子化合物の製造方法。
【化5】
(式中、R1は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Lはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を示す。M+はアンモニウムカチオン又は金属カチオンを示す。)
【化6】
(式中、R11、R12及びR13は相互に独立に置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR11、R12及びR13のうちのいずれか2つ以上が相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。但し、R11、R12及びR13のうち少なくとも一つはアルキル基である。X-はアニオンを示す。)
11
高分子化合物と共有結合していないアンモニウムカチオン又は金属カチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物とアルキルスルホニウム塩の反応を、水及び水と分液可能な有機溶剤を用いた二層系で行うことを特徴とする〔〕又は〔10〕に記載の高分子化合物の製造方法。
12
〕〜〔〕のいずれかに記載のレジスト材料を基板上に塗布する工程と、加熱処理後、高エネルギー線で露光する工程と、現像液を用いて現像する工程とを含むことを特徴とするパターン形成方法。
13
前記高エネルギー線が波長180〜250nmの範囲のものとすることを特徴とする〔12〕に記載のパターン形成方法。
14
前記高エネルギー線で露光する工程を、液体を介して露光する液浸露光により行うことを特徴とする〔12〕又は〔13〕に記載のパターン形成方法。
15
前記液浸露光において、フォトレジスト膜と液体の間に保護膜を設けることを特徴とする〔14〕に記載のパターン形成方法。
16
高エネルギー線がEUVあるいは電子線であることを特徴とする〔12〕に記載のパターン形成方法。
【0018】
なお、本発明のレジスト材料は、ArFドライリソグラフィーのみならずArF液浸リソグラフィー、またKrFエキシマレーザー、EUV、電子線等の他の高エネルギー線を用いたリソグラフィー技術に適用することも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高分子化合物を用いたレジスト材料は、スルホニウム塩が高分子主鎖に組み込まれ固定化されていることから酸拡散を制御できる。また、ArF露光においては、トリアリールスルホニウム塩型光酸発生剤よりも該露光波長における吸収が小さく、結果として良好な解像性及びマスク忠実性、LWR等を改善することができ、レジスト材料として精密な微細加工に極めて有効である。また、本発明の製造方法は非常に穏やかな条件下において行われるため、一般的に不安定なアルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物を容易に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】合成例2−1の[P−1]の1H−NMRを示した図である。
図2】合成例2−2の[P−2]の1H−NMRを示した図である。
図3】合成例2−11の[P−11]の1H−NMRを示した図である。
図4】合成例2−12の[P−12]の1H−NMRを示した図である。
図5】比較合成例1の[P−31]の1H−NMRを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の高分子化合物は、アニオン部が高分子化合物に結合しているアルキルスルホニウム塩含有高分子化合物である。ここで、本発明におけるアルキルスルホニウム塩とは、硫黄原子と結合している基のうち少なくとも一つがアルキル基であるスルホニウム塩と定義される。
【0022】
更に、本発明において用いられるアルキルスルホニウム塩のカチオン部は、下記一般式(4)によって示される。
【化7】
(式中、R11、R12及びR13は相互に独立に置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR11、R12及びR13のうちのいずれか2つ以上が相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。但し、R11、R12及びR13のうち少なくとも一つはアルキル基である。)
【0023】
上記式(4)中、R11、R12及びR13は相互に独立に置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR11、R12及びR13のうちのいずれか2つ以上が相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。但し、R11、R12及びR13のうち少なくとも一つ以上はアルキル基である。
具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロプロピルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。オキソアルキル基としては、2−オキソシクロペンチル基、2−オキソシクロヘキシル基、2−オキソプロピル基、2−オキソエチル基等を挙げることができる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、チエニル基等や、4−ヒドロキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−tert−ブトキシフェニル基、3−tert−ブトキシフェニル基等のヒドロキシフェニル基及びアルコキシフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基等のアルキルフェニル基、4−ヒドロキシナフチル基、4−メトキシナフチル基、2−メトキシナフチル基、4−エトキシナフチル基、4−tert−ブトキシナフチル基、2−tert−ブトキシナフチル基、4−ブトキシナフチル基、2−ブトキシナフチル基、4−(2−メトキシエトキシ)ナフチル基、4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ナフチル基等のヒドロキシナフチル基及びアルコキシナフチル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基等のアルキルナフチル基、ジメチルナフチル基、ジエチルナフチル基等のジアルキルナフチル基、ジメトキシナフチル基、ジエトキシナフチル基等のジアルコキシナフチル基等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等が挙げられる。アリールオキソアルキル基としては、2−フェニル−2−オキソエチル基、2−(1−ナフチル)−2−オキソエチル基、2−(2−ナフチル)−2−オキソエチル基等が挙げられる。更に上記炭化水素基において、その水素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子といったヘテロ原子と置き換わっていてもよく、その結果ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物、ハロアルキル基等を形成してもよい。また、R11、R12及びR13のうちのいずれか2つ以上が相互に結合して硫黄原子と共に、環状構造を形成する場合には、下記式で示される基が挙げられる。
【0024】
【化8】
(式中、R14は置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示す。R15は置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。)
【0025】
上記式中、R14は置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示す。
具体的にはR11、R12あるいはR13の具体例として挙げたアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基の例と同様のものが挙げられる。また、R15は置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。具体的にはR11、R12あるいはR13の具体例として挙げたアルキル基又はオキソアルキル基の例と同様のものが挙げられる。
【0026】
より具体的にスルホニウムカチオンを示すと、トリメチルスルホニウム、トリベンジルスルホニウム、2−オキソシクロヘキシルシクロヘキシルメチルスルホニウム、ジメチルフェニルスルホニウム、ジメチルナフチルスルホニウム、ジメチル(2−ナフチル)スルホニウム、4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム、4−メトキシフェニルジメチルスルホニウム、ジフェニルメチルスルホニウム、1−(2−オキソ−2−フェニルエチル)テトラヒドロチオフェニウム、1−[2−(1−ナフチル)−2−オキソエチル]テトラヒドロチオフェニウム、1−[2−(2−ナフチル)−2−オキソエチル]テトラヒドロチオフェニウム、ジフェニル−2−チエニルスルホニウム、1−(4−n−ブトキシフェニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−メトキシフェニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−シクロヘキシルオキシフェニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−{4−(2−メトキシエトキシ)フェニル}テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−ベンジルオキシフェニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−フェネチルオキシフェニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−{4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェニル}テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−ヒドロキシフェニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−n−ブトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(2−n−ブトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−メトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(2−メトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−シクロヘキシルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(2−シクロヘキシルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−[4−(2−メトキシエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム、1−[2−(2−メトキシエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−ベンジルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(2−ベンジルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−フェネチルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(2−フェネチルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム、1−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−ヒドロキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−n−ブトキシフェニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−メトキシフェニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−シクロヘキシルオキシフェニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−[4−(2−メトキシエトキシ)フェニル]テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−ベンジルオキシフェニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−フェネチルオキシフェニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェニル]テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−ヒドロキシフェニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−n−ブトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(2−n−ブトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−メトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(2−メトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−シクロヘキシルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(2−シクロヘキシルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−メトキシエトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(2−メトキシエトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−ベンジルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(2−ベンジルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−フェネチルオキシ−1−ナフタレニル)−1−テトラヒドロチオピラニウム、1−(2−フェネチルオキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム、1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオピラニウム、1−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオピラニウム、1−(4−ヒドロキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオピラニウム等が挙げられ、中でも1−(4−ヒドロキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウム、1−(4−アルコキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウムが特に好ましい。
【0027】
本発明の高分子化合物は、アニオン部が高分子主鎖に結合したアルキルスルホニウム塩を有することを特徴としているが、特にアニオン部位の構造が下記一般式(1)によって示されるようなα,α’−ジフルオロスルホネートであることが好ましい。
【化9】
(式中、R1は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Lはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を示す。)
【0028】
上記式(1)中、R1は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Lはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を示す。
【0029】
上記式(1)中Lとして示される2価の有機基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、デカン−1,10−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基、トリデカン−1,13−ジイル基、テトラデカン−1,14−ジイル基、ペンタデカン−1,15−ジイル基、ヘキサデカン−1,16−ジイル基、ヘプタデカン−1,17−ジイル基等の直鎖状アルカンジイル基、前記直鎖状アルカンジイル基に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の側鎖を付け加えた分岐鎖状アルカンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、ノルボルナンジイル基、アダマンタンジイル基等の2価の飽和環状炭化水素基、フェニレン基、ナフチレン基等の2価の不飽和環状炭化水素基が挙げられ、更にLはこれらの基の2種以上を組み合わせてもよい。またこれらの基の水素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子といったヘテロ原子と置き換わっていてもよく、その結果ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物、ハロアルキル基等を形成してもよい。
【0030】
上記一般式(1)で示されるアニオンの具体例を下記に示す。但し、本発明における高分子化合物のアニオン部位の構造はこれらに限定されない。
【化10】
【0031】
【化11】
【0032】
本発明の高分子化合物において、アニオン部位が高分子化合物主鎖に結合し且つカチオン部位がアルキルスルホニウムであるイオン性化合物からなる繰り返し単位は、上記一般式(1)で示されるアニオン構造及び式(4)で示されるカチオン構造の組み合わせからなり、例えば上述に挙げたアニオン構造及びカチオン構造の具体例が挙げられる。
【0033】
本発明の高分子化合物は、アニオン部位が高分子化合物主鎖に結合し且つカチオン部位がアルキルスルホニウムであるイオン性化合物からなる繰り返し単位に加え、酸不安定基を含有する繰り返し単位を有することができる。酸不安定基を含有する単位は、下記一般式(2)によって示される。
【化12】
(式中、R1'は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Zは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、又は(主鎖)−C(=O)−O−Z’−であり、Z’は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基であり、ヒドロキシ基、エーテル結合、エステル結合、ラクトン環のいずれかを有していてもよく、あるいはZ’はフェニレン基又はナフチレン基である。XAは酸不安定基を示す。)
【0034】
上記一般式(2)のZを変えた構造は、具体的には下記に例示することができる。
【化13】
【0035】
上記一般式(2)で示される繰り返し単位を含有する重合体は、酸の作用で分解してカルボン酸を発生し、アルカリ可溶性となる重合体を与える。酸不安定基XAとしては種々用いることができるが、具体的には下記一般式(L1)〜(L4)で示される基、炭素数4〜20、好ましくは4〜15の三級アルキル基、各アルキル基がそれぞれ炭素数1〜6のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のオキソアルキル基等を挙げることができる。
【0036】
【化14】
【0037】
ここで、破線は結合手を示す(以下、同様)。
また、式(L1)において、RL01、RL02は水素原子又は炭素数1〜18、好ましくは1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、アダマンチル基等が例示できる。RL03は炭素数1〜18、好ましくは1〜10の酸素原子等のヘテロ原子を有してもよい1価炭化水素基を示し、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、これらの水素原子の一部が水酸基、アルコキシ基、オキソ基、アミノ基、アルキルアミノ基等に置換されたものあるいは炭素原子間に酸素原子が介在されたものを挙げることができる。具体的な直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、アダマンチル基等が例示できる。具体的な置換アルキル基としては、下記のものが例示できる。
【0038】
【化15】
【0039】
L01とRL02、RL01とRL03、RL02とRL03とは互いに結合してこれらが結合する炭素原子や酸素原子と共に環を形成してもよく、環を形成する場合にはRL01、RL02、RL03のうち環形成に関与する基はそれぞれ炭素数1〜18、好ましくは1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示す。
【0040】
式(L2)において、RL04は炭素数4〜20、好ましくは4〜15の三級アルキル基、各アルキル基がそれぞれ炭素数1〜6のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のオキソアルキル基又は上記一般式(L1)で示される基を示し、三級アルキル基としては、具体的にはtert−ブチル基、tert−アミル基、1,1−ジエチルプロピル基、2−シクロペンチルプロパン−2−イル基、2−シクロヘキシルプロパン−2−イル基、2−(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−イル)プロパン−2−イル基、2−(アダマンタン−1−イル)プロパン−2−イル基、1−エチルシクロペンチル基、1−ブチルシクロペンチル基、1−エチルシクロヘキシル基、1−ブチルシクロヘキシル基、1−エチル−2−シクロペンテニル基、1−エチル−2−シクロヘキセニル基、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基等が例示でき、トリアルキルシリル基としては、具体的にはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチル−tert−ブチルシリル基等が例示でき、オキソアルキル基としては、具体的には3−オキソシクロヘキシル基、4−メチル−2−オキソオキサン−4−イル基、5−メチル−2−オキソオキソラン−5−イル基等が例示できる。yは0〜6の整数である。
【0041】
式(L3)において、RL05は炭素数1〜8の置換されていてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基又は炭素数6〜20の置換されていてもよいアリール基を示し、置換されていてもよいアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、これらの水素原子の一部が水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基、アミノ基、アルキルアミノ基、シアノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、スルホ基等に置換されたもの等が例示でき、置換されていてもよいアリール基としては、具体的にはフェニル基、メチルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基等が例示できる。m’は0又は1、n’は0、1、2、3のいずれかであり、2m’+n’=2又は3を満足する数である。
【0042】
式(L4)において、RL06は炭素数1〜8の置換されていてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基又は炭素数6〜20の置換されていてもよいアリール基を示し、具体的にはRL05と同様のもの等が例示できる。RL07〜RL16はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜15の1価炭化水素基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロペンチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘキシルブチル基等の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、これらの水素原子の一部が水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基、アミノ基、アルキルアミノ基、シアノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、スルホ基等に置換されたもの等が例示できる。RL07〜RL16はそれらの2個が互いに結合してそれらが結合する炭素原子と共に環を形成していてもよく(例えば、RL07とRL08、RL07とRL09、RL07とRL10、RL08とRL10、RL09とRL10、RL11とRL12、RL13とRL14等)、その場合にはその結合に関与するものは炭素数1〜15の2価炭化水素基を示し、具体的には上記1価炭化水素基で例示したものから水素原子を1個除いたもの等が例示できる。また、RL07〜RL16は隣接する炭素に結合するもの同士で何も介さずに結合し、二重結合を形成してもよい(例えば、RL07とRL09、RL09とRL15、RL13とRL15、RL14とRL15等)。
【0043】
上記式(L1)で示される酸不安定基のうち直鎖状又は分岐状のものとしては、具体的には下記の基が例示できる。
【化16】
【0044】
上記式(L1)で示される酸不安定基のうち環状のものとしては、具体的にはテトラヒドロフラン−2−イル基、2−メチルテトラヒドロフラン−2−イル基、テトラヒドロピラン−2−イル基、2−メチルテトラヒドロピラン−2−イル基等が例示できる。
【0045】
上記式(L2)の酸不安定基としては、具体的にはtert−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニルメチル基、tert−アミロキシカルボニル基、tert−アミロキシカルボニルメチル基、1,1−ジエチルプロピルオキシカルボニル基、1,1−ジエチルプロピルオキシカルボニルメチル基、1−エチルシクロペンチルオキシカルボニル基、1−エチルシクロペンチルオキシカルボニルメチル基、1−エチル−2−シクロペンテニルオキシカルボニル基、1−エチル−2−シクロペンテニルオキシカルボニルメチル基、1−エトキシエトキシカルボニルメチル基、2−テトラヒドロピラニルオキシカルボニルメチル基、2−テトラヒドロフラニルオキシカルボニルメチル基等が例示できる。
【0046】
上記式(L3)の酸不安定基としては、具体的には1−メチルシクロペンチル基、1−エチルシクロペンチル基、1−n−プロピルシクロペンチル基、1−イソプロピルシクロペンチル基、1−n−ブチルシクロペンチル基、1−sec−ブチルシクロペンチル基、1−シクロヘキシルシクロペンチル基、1−(4−メトキシ−n−ブチル)シクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−エチルシクロヘキシル基、3−メチル−1−シクロペンテン−3−イル基、3−エチル−1−シクロペンテン−3−イル基、3−メチル−1−シクロヘキセン−3−イル基、3−エチル−1−シクロヘキセン−3−イル基等が例示できる。
【0047】
上記式(L4)の酸不安定基としては、下記式(L4−1)〜(L4−4)で示される基が特に好ましい。
【化17】
【0048】
前記一般式(L4−1)〜(L4−4)中、破線は結合位置及び結合方向を示す。RL41はそれぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基等の1価炭化水素基を示し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を例示できる。
前記一般式(L4−1)〜(L4−4)には、エナンチオ異性体(enantiomer)やジアステレオ異性体(diastereomer)が存在し得るが、前記一般式(L4−1)〜(L4−4)は、これらの立体異性体の全てを代表して表す。これらの立体異性体は単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0049】
例えば、前記一般式(L4−3)は下記一般式(L4−3−1)、(L4−3−2)で示される基から選ばれる1種又は2種の混合物を代表して表すものとする。
【化18】
【0050】
また、上記一般式(L4−4)は下記一般式(L4−4−1)〜(L4−4−4)で示される基から選ばれる1種又は2種以上の混合物を代表して表すものとする。
【化19】
【0051】
上記一般式(L4−1)〜(L4−4)、(L4−3−1)、(L4−3−2)及び(L4−4−1)〜(L4−4−4)は、それらのエナンチオ異性体及びエナンチオ異性体混合物をも代表して示すものとする。
なお、式(L4−1)〜(L4−4)、(L4−3−1)、(L4−3−2)、及び式(L4−4−1)〜(L4−4−4)の結合方向がそれぞれビシクロ[2.2.1]ヘプタン環に対してexo側であることによって、酸触媒脱離反応における高反応性が実現される(特開2000−336121号公報参照)。これらビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を有する3級exo−アルキル基を置換基とする単量体の製造において、下記一般式(L4−1−endo)〜(L4−4−endo)で示されるendo−アルキル基で置換された単量体を含む場合があるが、良好な反応性の実現のためにはexo比率が50モル%以上であることが好ましく、exo比率が80モル%以上であることが更に好ましい。
【0052】
【化20】
【0053】
上記式(L4)の酸不安定基としては、具体的には下記の基が例示できる。
【化21】
【0054】
また、炭素数4〜20の三級アルキル基、各アルキル基がそれぞれ炭素数1〜6のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のオキソアルキル基としては、具体的にはRL04で挙げたものと同様のもの等が例示できる。
【0055】
前記一般式(2)で示される繰り返し単位として、具体的には下記のものを例示できるが、これらに限定されない。
【化22】
【0056】
【化23】
【0057】
【化24】
【0058】
【化25】
【0059】
【化26】
【0060】
【化27】
【0061】
上記具体例はZが単結合の場合であるが、Zが単結合以外の場合においても同様の酸不安定基と組み合わせることができる。Zが単結合以外の場合における具体例は既に述べた通りである。
【0062】
本発明において使用される高分子化合物は、上記一般式(2)で示される酸不安定基含有単位以外に、その他の単位として下記一般式(3)で示される繰り返し単位を導入することができる。
【化28】
(式中、R1''は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。YLはヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物から選択されるいずれか一つあるいは複数の構造を有する極性基を示す。)
【0063】
前記一般式(3)において、YLはヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物から選択されるいずれか一つあるいは複数の構造を有する極性基を示す。具体的には下記のものを例示できるが、これらに限定されない。
【化29】
【0064】
【化30】
【0065】
【化31】
【0066】
【化32】
【0067】
【化33】
【0068】
【化34】
【0069】
【化35】
【0070】
【化36】
【0071】
【化37】
【0072】
前記一般式(3)で示される繰り返し単位を使用する場合において、特にラクトン環を極性基として有するものが最も好ましく用いられる。
【0073】
一般式(3)で示される繰り返し単位は、上記一般式(1)及び(2)で示される繰り返し単位と共重合させて使用するが、更に他の繰り返し単位と共重合させても構わない。
【0074】
本発明のレジスト材料に用いられる高分子化合物は、上記以外の炭素−炭素二重結合を含有する単量体から得られる繰り返し単位、例えば、メタクリル酸メチル、クロトン酸メチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル等の置換アクリル酸エステル類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、ノルボルネン、ノルボルネン誘導体、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデセン誘導体などの環状オレフィン類、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物、その他の単量体から得られる繰り返し単位を含んでいてもよい。また、開環メタセシス重合体の水素添加物は特開2003−66612号公報に記載のものを用いることができる。
【0075】
本発明のレジスト材料に用いられる高分子化合物の重量平均分子量は、1,000〜500,000、好ましくは3,000〜100,000である。この範囲を外れると、エッチング耐性が極端に低下したり、露光前後の溶解速度差が確保できなくなって解像性が低下したりすることがある。分子量の測定方法はポリスチレン換算でのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)が挙げられる。
【0076】
レジスト材料用の高分子化合物を合成する一般的な方法としては、例えば不飽和結合を有するモノマー一種あるいは数種を有機溶剤中、ラジカル開始剤を加えて加熱重合を行う方法があり、これは特開2005−264103号公報を始めとして多数の既知文献を参考にできる。特開2010−77404号公報には、共重合単位としてアニオンが高分子主鎖に結合したトリフェニルスルホニウム塩含有化合物が含有された高分子化合物の合成例が記載されており、その方法は上記と同様である。
しかしながら、アルキルスルホニウム塩含有高分子化合物の合成を上記の方法で行うと、重合反応中にアルキルスルホニウム塩が分解してしまい所望の高分子化合物を合成することができない。アルキルスルホニウム塩が分解してしまうとカウンターアニオンであるスルホン酸アニオンからスルホン酸が生じてしまったり、あるいは共重合単位として酸不安定基含有単位を有している場合には、生じたスルホン酸によって酸不安定基含有単位から脱保護反応が進行してしまうといった副反応も起こってしまう。これは、トリフェニルスルホニウム塩のようなトリアリールスルホニウム塩と比較してアルキルスルホニウム塩が不安定であることに起因する。
【0077】
本発明の高分子化合物の製造方法は、上記の問題点を回避することができる。即ち本発明においては、高分子化合物に結合していないアンモニウムカチオン又は金属カチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物とアルキルスルホニウム塩を反応させることにより、アルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物を製造することができる。即ち、高分子化合物に結合していないアンモニウムカチオン又は金属カチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物を常法によって重合し、その後カチオン交換反応によってアルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物を製造する。本製造方法によって、アルキルスルホニウムカチオンや、他の共重合性単位が分解することなく目的の高分子化合物の合成が可能となる。
【0078】
本発明の高分子化合物の前駆体となる、高分子化合物に結合していないアンモニウムカチオン又は金属カチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物において、スルホン酸アニオン含有化合物の繰り返し単位は、下記一般式(5)で示される。
【化38】
(式中、R1は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Lはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を示す。M+はアンモニウムカチオン又は金属カチオンを示す。)
【0079】
上記式(5)中、R1は水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。Lはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を示す。Lとして具体的には、上記一般式(1)と同様である。
【0080】
上記式(5)中、M+はアンモニウムカチオン又は金属カチオンを示す。金属カチオンとして具体的には、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンを示す。アンモニウムイオンの構造としては、下記一般式(6)で示される。
(R24+ (6)
(式中、R2は相互に独立に水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR2のいずれか2つ以上が相互に結合して式中のNと共に環を形成してもよい。)
【0081】
上記式(6)中、R2において具体的にアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロプロピルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。オキソアルキル基としては、2−オキソシクロペンチル基、2−オキソシクロヘキシル基、2−オキソプロピル基、2−オキソエチル基、2−シクロペンチル−2−オキソエチル基、2−シクロヘキシル−2−オキソエチル基、2−(4−メチルシクロヘキシル)−2−オキソエチル基等を挙げることができる。アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、チエニル基等や、4−ヒドロキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、o−メトキシフェニル基、p−エトキシフェニル基、p−tert−ブトキシフェニル基、m−tert−ブトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、エチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−ブチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基等のアルキルフェニル基、1−(4−メチル)ナフチル基、2−(6−メチル)ナフチル基等のアルキルナフチル基、1−(4−メトキシ)ナフチル基、2−(6−メトキシ)ナフチル基等のアルコキシナフチル基等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等が挙げられる。アリールオキソアルキル基としては、2−フェニル−2−オキソエチル基、2−(1−ナフチル)−2−オキソエチル基、2−(2−ナフチル)−2−オキソエチル基等の2−アリール−2−オキソエチル基等が挙げられ、更に上記炭化水素基において、その水素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子といったヘテロ原子と置き換わっていてもよく、その結果ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物、ハロアルキル基等を形成してもよい。
【0082】
また、R2のいずれか2つ以上が相互に結合して窒素原子と共に環状構造を形成する場合には、ピペリジン、モルホリン、ピリジン、キノリン、アクリジン、イミダゾール、ベンズイミダゾール等の構造等が挙げられ、その窒素原子上がプロトン化されていてもアルキル化されていてもよい。
【0083】
上記一般式(6)のより具体的な例としては、アンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリオクチルアンモニウム、アニリニウム、2,6−ジメチルアニリニウム、N,N−ジメチルアニリニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリプロピルアンモニウム、N−ベンジル−N,N−ジメチルアニリニウム、N−(p−メトキシ)ベンジル−N,N−ジメチルアニリニウム等が挙げられ、特に好ましくはトリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、アニリニウム、ベンジルトリメチルアンモニウムである。
【0084】
続いて上記一般式(5)で示される化合物の単量体は、例えば特開2007−304490号公報に記載の合成法を参考にすることができる。即ち、中井らにより1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールを出発原料として開発された1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン−2−イルベンゾエート(Tetrahedron. Lett., Vol.29, 4119(1988))に代表される1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン−2−イル脂肪族カルボン酸エステルあるいは芳香族カルボン酸エステルを亜硫酸水素ナトリウムと水の混合物中で反応させることによりスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸無機塩などを得る。次いでこのスルホン酸無機塩のアシル基を加水分解あるいは加溶剤分解した後、常法により重合性置換基を有するカルボン酸ハライドと反応させることで、上記一般式(5)で示される化合物単量体を得ることができる。また、アシル基の分解前後いずれかにおいてアンモニウムハライドやアンモニウムヒドロキシド等を作用させ、その後同様の手法で重合性置換基を導入することにより、上記一般式(5)のM+がアンモニウムカチオンである化合物単量体を得ることもできる。金属カチオンからアンモニウムカチオンへの交換反応は公知の方法であり、例えば対応する金属カチオン含有化合物とアンモニウムハライドを有機溶剤−水の二層系で混合することによって反応を進行させることができる。
同様の方法で、例えば特開2011−158896号公報に記載のジフルオロスルホ酢酸2−ブチルエステルのナトリウム塩、国際公開第2008/56795号パンフレットに記載の1,1,2,2−テトラフルオロ−4−ヒドロキシ−ブタン−1−スルホン酸ナトリウム塩、特開2011−256390号公報に記載のジフルオロヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム塩、特開2009−221454号公報に記載のジフルオロヒドロキシエタンスルホン酸ナトリウム塩等を、それぞれ重合性官能基を有するジフルオロスルホン酸の金属塩あるいはアンモニウム塩へと誘導し、上記一般式(5)で示される化合物の単量体を得ることができる。
【0085】
続いて、上記一般式(5)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物の合成法について述べる。一般式(5)で示される繰り返し単位は、単独重合体として用いてもよいし、他の繰り返し単位と共重合させて使用しても構わない。但し好ましくは、一般式(2)で示される酸不安定基含有単位と共重合させて使用することが望ましく、更に好ましくは、一般式(2)及び(3)で示される繰り返し単位と共重合させて使用することが望ましい。
【0086】
上記一般式(5)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物の合成法の一つとしては、既に述べた方法、即ち不飽和結合を有するモノマー一種あるいは数種を有機溶剤中、ラジカル開始剤を加えて加熱重合を行う方法が挙げられ、これにより目的の高分子化合物を得ることができる。重合時に使用する有機溶剤としては、トルエン、ベンゼン等の芳香族系溶剤、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン系溶剤が例示できる。重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等が例示でき、好ましくは50〜80℃に加熱して重合できる。反応時間としては2〜100時間、好ましくは5〜20時間である。酸不安定基含有単位を導入する場合は、モノマーに導入されたものをそのまま用いてもよいし、重合後保護化あるいは部分保護化してもよい。
【0087】
次に、本発明のレジスト材料に使用される、アルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物の合成法について述べる。アルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物は、上記一般式(5)で示される高分子化合物に下記一般式(7)で示されるアルキルスルホニウム塩を作用させ、カチオン交換反応を行うことによって合成される。
【化39】
(式中、R11、R12及びR13は上記と同様である。X-はアニオンを示す。)
【0088】
-はアニオンを示し、無機酸、有機酸いずれの共役塩基でも構わないが、具体的にはメチル硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の共役塩基、I-、Br-、Cl-、BF4-、ClO4-等が好ましく用いられる。
【0089】
上記一般式(7)で示されるアルキルスルホニウム塩の合成法については、特開2007−145797号公報、特開2008−106045号公報、特開2009−7327号公報、特開2009−258695号公報等を参考にすることができる。
【0090】
上記一般式(5)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物を上述の方法等で合成する。次いで合成した高分子化合物と上記一般式(7)で示されるアルキルスルホニウム塩を、水及び水と分離可能な有機溶剤中に混合し有機層を分取する。分取した有機層を必要に応じて水洗し、有機層から濃縮あるいは晶析といった操作によって最終的に目的物である高分子化合物を得ることができる。使用する有機溶剤としては、水と分離可能且つ高分子化合物を溶解できるものであればいずれでも構わないが、好ましくはメチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶剤が望ましい。
【0091】
他の方法として、上記一般式(5)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物及び上記一般式(7)で示されるアルキルスルホニウム塩を有機溶剤に溶解し、これを水や有機溶剤によって晶析することにより目的の高分子化合物を得ることも可能である。この場合、良溶剤としてアルコール系、貧溶剤として水を使用することが好ましい。
【0092】
上記一般式(5)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物を出発物質として用いた、本発明のアルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物の製造方法は、上述のように加熱や求核性化合物、ラジカル開始剤を使用しない穏和な条件で行われるため、不安定なアルキルスルホニウムカチオンの分解が起こらず非常に有用な製造方法であるといえる。
【0093】
本発明のレジスト材料に用いられる高分子化合物において、各単量体から得られる各繰り返し単位の好ましい含有割合は、例えば以下に示す範囲(モル%)とすることができるが、これに限定されるものではない。
(I)アルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有化合物からなる構成単位を0.2〜20モル%、好ましくは0.5〜15モル%含有し、
(II)上記式(2)で示される構成単位の1種又は2種以上を1〜50モル%、好ましくは5〜40モル%、より好ましくは10〜30モル%含有し、
(III)上記式(3)で示される構成単位の1種又は2種以上を30〜98.8モル%、好ましくは45〜94.5モル%、より好ましくは69.5〜89.5モル%含有し、必要に応じ、
(IV)その他の単量体に基づく構成単位の1種又は2種以上を0〜80モル%、好ましくは0〜70モル%、より好ましくは0〜50モル%含有することができる。
【0094】
上記高分子化合物は1種に限らず2種以上を添加することができる。複数種の高分子化合物を用いることにより、レジスト材料の性能を調整することができる。
【0095】
本発明のレジスト材料は、(A)アルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物を必須成分とし、その他の材料として
(B)露光により酸を発生する光酸発生剤、
(C)クエンチャー、
(D)有機溶剤、
更に必要により
(E)水不溶又は難溶でアルカリ現像液可溶な界面活性剤、及び/又は水及びアルカリ現像液に不溶又は難溶な界面活性剤(疎水性樹脂)、
更に必要により
(F)有機酸誘導体及び/又はフッ素置換アルコール等を含有することができる。
【0096】
(B)露光により酸を発生する光酸発生剤
光酸発生剤(B)を添加する場合は、紫外線、遠紫外線、電子線、EUV、X線、エキシマレーザー、γ線、シンクロトロン放射線等の高エネルギー線照射により酸を発生する化合物であればいずれでも構わない。好適な光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N−スルホニルオキシジカルボキシイミド、O−アリ−ルスルホニルオキシム、O−アルキルスルホニルオキシム等の光酸発生剤等がある。これらは単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0097】
スルホニウム塩は、スルホニウムカチオンとスルホネートあるいはビス(置換アルキルスルホニル)イミド、トリス(置換アルキルスルホニル)メチドの塩であり、スルホニウムカチオンとしては上記式(5)で説明したスルホニウムカチオンを挙げることができる。スルホネートとしては、トリフルオロメタンスルホネート、ペンタフルオロエタンスルホネート、ヘプタフルオロプロパンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート、トリデカフルオロヘキサンスルホネート、2,2,2−トリフルオロエタンスルホネート、ペンタフルオロベンゼンスルホネート、1,1−ジフルオロ−2−ナフチルエタンスルホネート、1,1,2,2−テトラフルオロ−2−(ノルボルナン−2−イル)エタンスルホネート、1,1,2,2−テトラフルオロ−2−(テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−3−エン−8−イル)エタンスルホネート、2−ベンゾイルオキシ−1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパンスルホネート、1,1−ジフルオロ−2−トシルオキシエタンスルホネート、アダマンタンメトキシカルボニルジフルオロメタンスルホネート、1−(3−ヒドロキシメチルアダマンタン)メトキシカルボニルジフルオロメタンスルホネート、メトキシカルボニルジフルオロメタンスルホネート、1−(ヘキサヒドロ−2−オキソ−3,5−メタノ−2H−シクロペンタ[b]フラン−6−イルオキシカルボニル)ジフルオロメタンスルホネート、4−オキソ−1−アダマンチルオキシカルボニルジフルオロメタンスルホネート等が挙げられ、ビス(置換アルキルスルホニル)イミドとしてはビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、ビス(ヘプタフルオロプロピルスルホニル)イミド、パーフルオロ(1,3−プロピレンビススルホニル)イミド等が挙げられ、トリス(置換アルキルスルホニル)メチドとしてはトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドが挙げられ、これらの組み合わせのスルホニウム塩が挙げられる。
【0098】
ヨードニウム塩、N−スルホニルオキシジカルボキシイミド型光酸発生剤、O−アリールスルホニルオキシム化合物あるいはO−アルキルスルホニルオキシム化合物(オキシムスルホネート)型光酸発生剤については、特開2009−269953号公報に記載の化合物が挙げられる。
中でも好ましく用いられるその他の酸発生剤としてはトリフェニルスルホニウム ノナフルオロブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリフェニルスルホニウム パーフルオロ(1,3−プロピレンビススルホニル)イミド、トリフェニルスルホニウム トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、N−ノナフルオロブタンスルホニルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボキシイミド、2−(2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−(ノナフルオロブチルスルホニルオキシイミノ)ブチル)フルオレン、2−(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−(ノナフルオロブチルスルホニルオキシイミノ)ペンチル)フルオレン等が挙げられる。
【0099】
光酸発生剤の好ましい構造として、下記一般式(P1)で示される化合物が挙げられる。
【化40】
(式中、R4はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアラルキル基を表す。R3は水素原子又はトリフルオロメチル基を表す。Arはヘテロ原子を含んでもよい置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基であり、複数のAr同士が直接、酸素原子、メチレン基、スルホニル基又はカルボニル基を介して結合していてもよい。)
【0100】
一般式(P1)中、R4はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアラルキル基を表す。R4に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。R4の炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアラルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよいが、炭素数6〜30であることが、微細パターン形成において高解像性を得る上ではより好ましい。R4がアリール基である場合は、形成されるレジストパターンの側壁の滑らかさに劣ることがあり、好ましくない。R4として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、3−シクロヘキセニル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、1−アダマンチルメチル基、ノルボルニル基、ノルボルニルメチル基、トリシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、テトラシクロドデカニルメチル基、ジシクロヘキシルメチル基、イコサニル基、アリル基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、テトラヒドロフリル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メチルチオメチル基、アセトアミドメチル基、トリフルオロエチル基、(2−メトキシエトキシ)メチル基、アセトキシメチル基、2−カルボキシ−1−シクロヘキシル基、2−オキソプロピル基、4−オキソ−1−アダマンチル基、3−オキソシクロヘキシル基を例示できるが、これらに限定されない。
【0101】
一般式(P1)中、Arはヘテロ原子を含んでもよい置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基であり、複数のAr同士が直接、酸素原子、メチレン基、スルホン基、又はカルボニル基を介して結合していてもよい。含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子が好ましく、酸素原子、フッ素原子がより好ましい。置換基としては、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状又は環状のアルコキシル基、アルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシ基、水酸基、フルオロ基、クロル基、アルキル基の炭素数が1〜4のN,N−ジアルキルアミノ基、炭素数4〜10の単環又は多環のラクトン、炭素数1〜14の直鎖状、分岐状又は環状のアルキルオキシカルボニルメトキシ基、メチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜11のアシルオキシ基等が挙げられ、その置換数も任意であるが、置換されている場合には1又は2置換が好ましく、より好ましくは1置換である。より具体的に置換基を述べると、メチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルエチル基、ブチル基、1,1−ジメチルエチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、1,1−ジメチルエトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、N,N−ジメチルアミノ基、1,1−ジメチルエトキシカルボニルメトキシ基、1−メチルアダマンタン−1−イルオキシカルボニルメトキシ基、アセチル基、ピバロイルオキシ基、アダマンタン−1−イルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0102】
具体的にArで示される基を示すと、フェニル基、スルホニウムカチオンの硫黄原子との置換位置は任意であるがナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリル基、キシリル基、置換基の置換位置は任意であるがトリメチルフェニル基、エチルフェニル基、ビフェニリル基、メトキシフェニル基、フルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、tert−ブチルフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、tert−ブトキシフェニル基、メチルチオフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、アセトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、N,N−ジメチルアミノフェニル基、メチルナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ジヒドロキシナフチル基、メトキシナフチル基、ブトキシナフチル基、2,2,2−トリフルオロエトキシナフチル基、(2−メトキシエトキシ)ナフチル基を例示できるが、これらに限定されない。
【0103】
複数のAr同士が直接、又は酸素原子、メチレン基、スルホン基又はカルボニル基を介して結合する場合には、ジベンゾチオフェン骨格、フェノキサチイン骨格の他、下記に示す部分構造を有する。
【化41】
(式中、破線は他のAr基との結合を示す。)
【0104】
より具体的にスルホニウムカチオンを示すと、トリフェニルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルジフェニルスルホニウム、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルスルホニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウム、4−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウム、ビス(4−tert−ブトキシフェニル)フェニルスルホニウム、トリス(4−tert−ブトキシフェニル)スルホニウム、3−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウム、ビス(3−tert−ブトキシフェニル)フェニルスルホニウム、トリス(3−tert−ブトキシフェニル)スルホニウム、4−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、トリス(4−tert−ブチルフェニル)スルホニウム、3,4−ジ−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウム、ビス(3,4−ジ−tert−ブトキシフェニル)フェニルスルホニウム、トリス(3,4−ジ−tert−ブトキシフェニル)スルホニウム、ジフェニル(4−チオフェノキシフェニル)スルホニウム、10−フェニルフェノキサチイニウム、S−フェニルジベンゾチオフェニウム、4−tert−ブトキシカルボニルメチルオキシフェニルジフェニルスルホニウム、トリス(4−tert−ブトキシカルボニルメチルオキシフェニル)スルホニウム、(4−tert−ブトキシフェニル)ビス(4−ジメチルアミノフェニル)スルホニウム、トリス(4−ジメチルアミノフェニル)スルホニウム、2−ナフチルジフェニルスルホニウム、(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ジフェニルスルホニウム、(4−n−ヘキシルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)ジフェニルスルホニウム等が挙げられる。より好ましくはトリフェニルスルホニウム、4−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、4−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウム、10−フェニルフェノキサチイニウム、S−フェニルジベンゾチオフェニウム等が挙げられる。中でもより好ましくはトリフェニルスルホニウム、4−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、4−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウムである。
【0105】
一般式(P1)のスルホニウム塩の合成に関しては、特開2007−145797号公報、特開2008−106045号公報、特開2009−7327号公報、特開2009−258695号公報に詳しい。
より具体的に好ましい光酸発生剤を例示する。
【0106】
【化42】
(式中、Acはアセチル基、Phはフェニル基を示す。)
【0107】
【化43】
(式中、Acはアセチル基、Phはフェニル基を示す。)
【0108】
上記式(P1)で示される光酸発生剤の添加量は、レジスト材料中の高分子化合物100質量部に対し0〜40質量部であり、配合する場合は0.1〜40質量部であることが好ましく、更には0.1〜20質量部であることが好ましい。多すぎると解像性の劣化や、レジスト現像後又は剥離時において異物の問題が生じるおそれがある。
【0109】
上記式(P1)で示される光酸発生剤を2種類以上、あるいは他の酸発生剤と配合して用いてもよい。他の酸発生剤を配合する場合、他の酸発生剤の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲であればいずれでもよいが、レジスト材料中のベース樹脂100質量部に対し0〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0110】
なお、本発明のレジスト材料においては、(A)成分のベース樹脂としてアルキルスルホニウムカチオンを有するスルホン酸アニオン含有高分子化合物が含まれておりこれが光酸発生剤として機能するので、光酸発生剤(B)を使用しなくても構わないし、併用して1種、あるいは2種以上の光酸発生剤を使用してもよい。
【0111】
(C)クエンチャー
(C)成分のクエンチャーは、光酸発生剤より発生する酸などがレジスト膜中に拡散する際の拡散速度を抑制することができる化合物が適しており、このようなクエンチャーの配合により、レジスト感度の調整が容易となることに加え、レジスト膜中での酸の拡散速度が抑制されて解像度が向上し、露光後の感度変化を抑制したり、基板や環境依存性を少なくし、露光余裕度やパターンプロファイル等を向上させることができる。
また、これらクエンチャーを添加することで基板密着性を向上させることもできる。
【0112】
このようなクエンチャーとしては、第一級、第二級、第三級の脂肪族アミン類、混成アミン類、芳香族アミン類、複素環アミン類、カルボキシル基を有する含窒素化合物、スルホニル基を有する含窒素化合物、水酸基を有する含窒素化合物、ヒドロキシフェニル基を有する含窒素化合物、アルコール性含窒素化合物、アミド類、イミド類、カーバメート類、アンモニウム塩類等が好適に用いられる。
【0113】
本発明においては、求核性の高い化合物や塩基性の強すぎる化合物は本発明の高分子化合物が含有するアルキルスルホニウム塩と反応するため、好ましくは求核性が低く、塩基性の弱い化合物が用いられ、具体的にはアニリン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、N−プロピルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、2−メチルアニリン、3−メチルアニリン、4−メチルアニリン、エチルアニリン、プロピルアニリン、ジメチルアニリン、2,6−ジイソプロピルアニリン、トリメチルアニリン、2−ニトロアニリン、3−ニトロアニリン、4−ニトロアニリン、2,4−ジニトロアニリン、2,6−ジニトロアニリン、3,5−ジニトロアニリン、N,N−ジメチルトルイジン等のアニリン類、一級あるいは二級アミンをtBOC(tert−ブトキシカルボニル)保護化した化合物等が挙げられる。また、特開2007−298569号公報、特開2010−20204号公報などに記載の化合物も好ましく用いることができる。
【0114】
なお、これらクエンチャーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、配合量は、ベース樹脂100質量部に対し0.001〜8質量部、特に0.01〜4質量部が好ましい。配合量が0.001質量部より少ないと配合効果がなく、8質量部を超えると感度が低下しすぎる場合がある。
【0115】
(D)有機溶剤
本発明で使用される(D)成分の有機溶剤としては、高分子化合物、光酸発生剤、クエンチャー、その他の添加剤等が溶解可能な有機溶剤であればいずれでもよい。このような有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン類、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルアセテート等のエステル類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0116】
本発明ではこれらの有機溶剤の中でもレジスト成分中の酸発生剤の溶解性が最も優れている1−エトキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン及びその混合溶剤が好ましく使用される。
有機溶剤の使用量は、ベース樹脂100質量部に対して200〜5,000質量部、特に400〜3,000質量部が好適である。
【0117】
(E)水不溶又は難溶でアルカリ現像液可溶な界面活性剤、及び/又は水及びアルカリ現像液に不溶又は難溶な界面活性剤(疎水性樹脂)
本発明のレジスト材料中には界面活性剤(E)成分を添加することができ、特開2010−215608号公報や特開2011−16746号公報に記載の(S)定義成分を参照することができる。
水及びアルカリ現像液に不溶又は難溶な界面活性剤としては、上記公報記載の界面活性剤の中でもFC−4430,サーフロンS−381,サーフィノールE1004,KH−20,KH−30、及び下記構造式(surf−1)にて示したオキセタン開環重合物が好適である。これらは単独あるいは2種以上の組み合わせで用いることができる。
【化44】
ここで、R、Rf、A、B、C、m、nは、上述の記載に拘わらず、上記式(surf−1)のみに適用される。Rは2〜4価の炭素数2〜5の脂肪族基を示し、具体的には2価のものとしてエチレン、1,4−ブチレン、1,2−プロピレン、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン、1,5−ペンチレンが挙げられ、3価又は4価のものとしては下記のものが挙げられる。
【化45】
(式中、破線は結合手を示し、それぞれグリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールから派生した部分構造である。)
【0118】
これらの中で好ましく用いられるのは、1,4−ブチレン又は2,2−ジメチル−1,3−プロピレンである。Rfはトリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を示し、好ましくはトリフルオロメチル基である。mは0〜3の整数、nは1〜4の整数であり、nとmの和はRの価数を示し、2〜4の整数である。Aは1、Bは2〜25の整数、Cは0〜10の整数を示す。好ましくはBは4〜20の整数、Cは0又は1である。また、上記構造の各構成単位はその並びを規定したものではなくブロック的でもランダム的に結合してもよい。部分フッ素化オキセタン開環重合物系の界面活性剤の製造に関しては米国特許第5650483号明細書などに詳しい。
【0119】
水不溶又は難溶でアルカリ現像液可溶な界面活性剤は、ArF液浸露光においてレジスト保護膜を用いない場合、スピンコート後のレジスト表面に配向することによって水のしみ込みやリーチングを低減させる機能を有し、レジスト膜からの水溶性成分の溶出を抑えて露光装置へのダメージを下げるために有用であり、また露光後、ポストベーク後のアルカリ現像時には可溶化し欠陥の原因となる異物にもなり難いため有用である。この界面活性剤は水不溶又は難溶でアルカリ現像液可溶な性質であり、疎水性樹脂とも呼ばれ、特に撥水性が高く滑水性を向上させるものが好ましい。このような高分子型の界面活性剤は下記に示すことができる。
【0120】
【化46】
(式中、R114はそれぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基、R115はそれぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、又は炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基又はフッ素化アルキル基を示し、同一単量体内のR115はそれぞれ結合してこれらが結合する炭素原子と共に環を形成してもよく、その場合、合計して炭素数2〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基又はフッ素化アルキレン基を示す。R116はフッ素原子又は水素原子、又はR117と結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数の和が3〜10の非芳香環を形成してもよい。R117は炭素数1〜6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基で、1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。R118は1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基で、R117とR118が結合してこれらが結合する炭素原子と共に非芳香環を形成していてもよく、その場合、R117、R118及びこれらが結合する炭素原子とで炭素数の総和が2〜12の3価の有機基を表す。R119は単結合又は炭素数1〜4のアルキレン基、R120は同一でも異なってもよく、単結合、−O−、又は−CR114114−である。R121は炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、同一単量体内のR115と結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数3〜6の非芳香環を形成してもよい。R122は1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、又は1,4−ブチレン基を示し、Rfは炭素数3〜6の直鎖状のパーフルオロアルキル基、又は3H−パーフルオロプロピル基、4H−パーフルオロブチル基、5H−パーフルオロペンチル基、又は6H−パーフルオロヘキシル基を示す。X2はそれぞれ同一でも異なってもよく、−C(=O)−O−、−O−、又は−C(=O)−R123−C(=O)−O−であり、R123は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基である。また、0≦(a’−1)<1、0≦(a’−2)<1、0≦(a’−3)<1、0<(a’−1)+(a’−2)+(a’−3)<1、0≦b’<1、0≦c’<1であり、0<(a’−1)+(a’−2)+(a’−3)+b’+c’≦1である。)
より具体的に上記単位を示す。
【0121】
【化47】
【0122】
これら水不溶又は難溶でアルカリ現像液可溶な界面活性剤は特開2008−122932号公報、特開2010−134012号公報、特開2010−107695号公報、特開2009−276363号公報、特開2009−192784号公報、特開2009−191151号公報、特開2009−98638号公報、特開2011−250105号公報、特開2011−42789号公報も参照できる。
【0123】
上記高分子型の界面活性剤の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜50,000、より好ましくは2,000〜20,000である。この範囲から外れる場合は、表面改質効果が十分でなかったり、現像欠陥を生じたりすることがある。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値を示す。添加量は、レジスト材料のベース樹脂100質量部に対して0.001〜20質量部、好ましくは0.01〜10質量部の範囲である。これらは特開2010−215608号公報に詳しい。
【0124】
(F)有機酸誘導体及び/又はフッ素置換アルコール等を含有することができる。
本発明のレジスト材料に、酸により分解し酸を発生する化合物(酸増殖化合物)を添加してもよい。これらの化合物については、特開2009−269953号公報又は特開2010−215608号公報を参照できる。
本発明のレジスト材料における酸増殖化合物の添加量としては、レジスト材料中のベース樹脂100質量部に対し2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。添加量が多すぎる場合は拡散の制御が難しく、解像性の劣化、パターン形状の劣化が起こる。
更に、有機酸誘導体、酸の作用によりアルカリ現像液への溶解性が変化する重量平均分子量3,000以下の化合物(溶解阻止剤)の添加は任意であるが、上記各成分と同様に特開2009−269953号公報又は特開2010−215608号公報に記載の化合物を参照できる。
【0125】
本発明では、更に上述したレジスト材料を用いたパターン形成方法を提供する。
本発明のレジスト材料を使用してパターンを形成するには、公知のリソグラフィー技術を採用して行うことができ、例えば、集積回路製造用の基板(Si,SiO2,SiN,SiON,TiN,WSi,BPSG,SOG,有機反射防止膜等)にスピンコーティング等の手法で膜厚が0.05〜2.0μmとなるように塗布し、これをホットプレート上で60〜150℃、1〜10分間、好ましくは80〜140℃、1〜5分間プリベークする。次いで目的のパターンを形成するためのマスクを上記のレジスト膜上にかざし、マスクとレジスト膜の間を液浸するImmersion法(液浸露光法)を採用し、ArFエキシマレーザーを露光量1〜200mJ/cm2、好ましくは10〜100mJ/cm2となるように照射する。
この場合には水に不溶な保護膜をレジスト膜状に用いることも可能である。次いで、ホットプレート上で、60〜150℃、1〜5分間、好ましくは80〜140℃、1〜3分間ポストエクスポージャーベーク(PEB)する。更に、0.1〜5質量%、好ましくは2〜3質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ水溶液の現像液を用い、0.1〜3分間、好ましくは0.5〜2分間、浸漬(dip)法、パドル(puddle)法、スプレー(spray)法等の常法により現像して、基板上に目的のパターンが形成される。
【0126】
上述した水に不溶な保護膜はレジスト膜からの溶出物を防ぎ、膜表面の滑水性を上げるために用いられ、大きく分けて2種類ある。1種類はレジスト膜を溶解しない有機溶剤によってアルカリ現像前に剥離が必要な有機溶剤剥離型と、もう1種類はアルカリ現像液に可溶でレジスト膜可溶部の除去と共に保護膜を除去するアルカリ可溶型である。
後者は、特に水に不溶でアルカリ現像液に溶解する1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール残基を有する高分子化合物をベースとし、炭素数4以上のアルコール系溶剤、炭素数8〜12のエーテル系溶剤、及びこれらの混合溶剤に溶解させた材料が好ましい。
上述した水に不溶でアルカリ現像液に可溶な界面活性剤を炭素数4以上のアルコール系溶剤、炭素数8〜12のエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤に溶解させた材料とすることもできる。
【0127】
また、パターン形成方法の手段として、フォトレジスト膜形成後に、純水リンス(ポストソーク)を行うことによって膜表面からの酸発生剤などの抽出、あるいはパーティクルの洗い流しを行ってもよいし、露光後に膜上に残った水を取り除くためのリンス(ポストソーク)を行ってもよい。
【0128】
更に、ArFリソグラフィーの32nmまでの延命技術として、ダブルパターニング法が挙げられる。ダブルパターニング法としては、1回目の露光とエッチングで1:3トレンチパターンの下地を加工し、位置をずらして2回目の露光によって1:3トレンチパターンを形成して1:1のパターンを形成するトレンチ法、1回目の露光とエッチングで1:3孤立残しパターンの第1の下地を加工し、位置をずらして2回目の露光によって1:3孤立残しパターンを第1の下地の下に形成された第2の下地を加工してピッチが半分の1:1のパターンを形成するライン法が挙げられる。
【0129】
なお、本発明のパターン形成方法の現像液には上述のように0.1〜5質量%、好ましくは2〜3質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ水溶液の現像液を用いることができるが、有機溶剤を用いて未露光部を現像/溶解させるネガティブトーン現像の手法を用いてもよい。
【0130】
この有機溶剤現像には現像液として2−オクタノン、2−ノナノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸ブテニル、酢酸イソアミル、酢酸フェニル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、蟻酸イソアミル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸アミル、乳酸イソアミル、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル、2−ヒドロキシイソ酪酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、フェニル酢酸メチル、蟻酸ベンジル、蟻酸フェニルエチル、3−フェニルプロピオン酸メチル、プロピオン酸ベンジル、フェニル酢酸エチル、酢酸2−フェニルエチルから選ばれる1種以上を用いることができる。
【実施例】
【0131】
以下、合成例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例中Meはメチル基を示す。
【0132】
[合成例1−1]1−(4−ヒドロキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウムクロリドの合成
【化48】
1−ナフトール10g(0.069モル)、テトラメチレンスルホキシド7.2g(0.069モル)をメタノール50gに溶解させ、−16℃に冷却した。20℃を超えない温度で塩化水素の過剰量をフィードした。窒素をバブリングして過剰量の塩化水素ガスを追い出した後に反応液を濃縮し、水及びジイソプロピルエーテルを加えて水層を分取し、目的物の1−(4−ヒドロキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウムクロリドの水溶液を得た。これ以上の単離操作をせずに水溶液のまま次の反応に用いた。
【0133】
[合成例1−2]1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ナフタレンの合成
【化49】
窒素雰囲気下、1−ナフトール34g、p−トルエンスルホン酸 2,2,2−トリフルオロエチル40g、炭酸カリウム33g、ジメチルスルホキシド80gの懸濁溶液を100℃で12時間加熱撹拌を行った。冷却後に水100gとトルエン200gを加えて有機層を分取し、5質量%水酸化ナトリウム水溶液100gで5回洗浄した。次いで水100gで4回洗浄した後に有機層を濃縮し、油状物36gを得た。これを減圧蒸留し(75℃/13Pa)、目的物1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ナフタレンを28g得た(収率76%)。
【0134】
[合成例1−3]1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム メタンスルホネートの合成
【化50】
合成例1−2で調製した1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ナフタレン3g(0.0127モル)をアルドリッチ社製Eaton’s試薬(五酸化二燐−メタンスルホン酸溶液)6gに分散させ、テトラメチレンスルホキシド2.6g(0.0253モル)を滴下混合した。室温で一晩熟成を行い、水30gとジイソプロピルエーテル30gを加えて水層を分取した。水層を再度ジイソプロピルエーテル30gで洗浄し、1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム メタンスルホネートの水溶液を得た。これ以上の単離操作をせずに水溶液のまま次の反応に用いた。
【0135】
[合成例1−4]1−(2−メトキシエトキシ)−ナフタレンの合成
【化51】
1−ナフトール50.0g(0.0347モル)、2−メトキシエチルクロリド34.4g(0.0364モル)、水酸化ナトリウム14.6g(0.0364モル)、ヨウ化ナトリウム2.6g(0.017モル)をエタノール100gに溶解させ、80℃で8時間加熱撹拌を行った。冷却後に水100gとトルエン200gを加えて有機層を分取し、5質量%水酸化ナトリウム水溶液100gで5回洗浄した。次いで水100gで4回洗浄した後に有機層を濃縮し、油状物45gを得た。これを減圧蒸留し(110℃/13Pa)、目的物1−(2−メトキシエトキシ)−ナフタレンを41g得た(収率58%)。
【0136】
[合成例1−5]1−[4−(2−メトキシエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム メタンスルホネートの合成
【化52】
合成例1−4で調製した1−(2−メトキシエトキシ)−ナフタレン8.1g(0.04モル)を東京化成工業社製五酸化二燐−メタンスルホン酸溶液16gに分散させ、テトラメチレンスルホキシド4.1g(0.04モル)を滴下混合した。室温で一晩熟成を行い、水100gとジイソプロピルエーテル30gを加えて水層を分取した。水層を再度ジイソプロピルエーテル30gで洗浄し、1−[4−(2−メトキシエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム メタンスルホネートの水溶液を得た。これ以上の単離操作をせずに水溶液のまま次の反応に用いた。
【0137】
[合成例1−6]トリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシプロパン−1−スルホネートの合成
【化53】
特開2007−304490号公報記載の方法に準じて、トリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−(ピバロイルオキシ)プロパン−1−スルホネートを合成した。次いで特開2007−145804号公報記載の方法に準じてピバロイル基の加水分解(加溶剤分解)を行い、トリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシプロパン−1−スルホネートを白色結晶として得た。
【0138】
[合成例1−7]トリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−メタクリロイルオキシ−プロパン−1−スルホネートの合成
【化54】
合成例1−6で調製したトリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシプロパン−1−スルホネート79g(0.16モル)、トリエチルアミン19g(0.19モル)、N,N’−ジメチルアミノピリジン0.10g(0.8ミリモル)、塩化メチレン400gの混合溶液に氷冷下メタクリル酸無水物28g(0.18モル)を滴下し、その後室温で一晩撹拌した。撹拌後希塩酸を加えて反応をクエンチし、有機層を分取後、水洗を行った。水洗後の有機層を濃縮、次いでメチルイソブチルケトンを加えて再び濃縮を行った後、残渣をジイソプロピルエーテルで洗浄することで目的物であるトリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−メタクリロイルオキシ−プロパン−1−スルホネートを油状物として45g得た(収率70%)。
【0139】
[合成例1−8]1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−メタクリロイルオキシ−プロパン−1−スルホネートの合成
【化55】
合成例1−3で調製した1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム メタンスルホネートの水溶液(0.08モル相当)、合成例1−7で調製したトリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−メタクリロイルオキシ−プロパン−1−スルホネート32g(0.08モル)、塩化メチレン150g、水100gの混合溶液を室温下30分撹拌し有機層を分取後、水洗を行った。水洗後の有機層を濃縮、次いでメチルイソブチルケトンを加えて再び濃縮を行った後、残渣にジイソプロピルエーテルを加えて再結晶を行い、これを回収して乾燥させることで目的物である1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−メタクリロイルオキシ−プロパン−1−スルホネートの白色結晶36gを得た(収率75%)。
【0140】
[合成例2−1]高分子化合物(P−1)の合成
窒素雰囲気としたフラスコに、合成例1−7で調製したトリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−メタクリロイルオキシ−プロパン−1−スルホネート14g、メタクリル酸1−イソプロピルシクロペンチル44g、メタクリル酸2−オキソテトラヒドロフラン−3−イル17g、メタクリル酸9−メトキシカルボニル−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−5−オン−2−イル25g、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5g、2−メルカプトエタノール0.7gをメチルエチルケトン175gに溶解させ、単量体溶液を調製した。窒素雰囲気とした別のフラスコに、58gのメチルエチルケトンをとり、撹拌しながら80℃まで加熱した後、上記単量体溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、重合液の温度を80℃に保ったまま2時間撹拌を続け、次いで室温まで冷却した。得られた重合液を、ヘキサン1,000g中に滴下し、析出した共重合体を濾別した。共重合体をメチルエチルケトン113gとヘキサン487gの混合溶液で2回洗浄した後、50℃で20時間真空乾燥して87gの白色粉末状の共重合体を得た。共重合体を1H−NMRで分析したところ、共重合組成比は上記の単量体順で8/50/22/20モル%であった。
【化56】
ポリマー1(P−1)
a/b/c/d=8/50/22/20
【0141】
得られた目的物の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR/DMSO−d6)の結果を図1に示す。
【0142】
[合成例2−2]高分子化合物(P−2)の合成
窒素雰囲気としたフラスコに、合成例1−7で調製したトリエチルアンモニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−メタクリロイルオキシ−プロパン−1−スルホネート5.4g、メタクリル酸1−イソプロピルシクロペンチル18g、メタクリル酸2−オキソテトラヒドロフラン−3−イル2.0g、メタクリル酸9−メトキシカルボニル−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−5−オン−2−イル14g、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)2.0g、2−メルカプトエタノール0.26gをメチルエチルケトン77gに溶解させ、単量体溶液を調製した。窒素雰囲気とした別のフラスコに、23gのメチルエチルケトンをとり、撹拌しながら80℃まで加熱した後、上記単量体溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、重合液の温度を80℃に保ったまま2時間撹拌を続け、次いで室温まで冷却した。得られた重合液を、ヘキサン400g中に滴下し、析出した共重合体を濾別した。共重合体をメチルエチルケトン48gとヘキサン192gの混合溶液で2回洗浄した後、50℃で20時間真空乾燥して32gの白色粉末状の共重合体を得た。共重合体を1H−NMRで分析したところ、共重合組成比は上記の単量体順で8/55/7/30モル%であった。
【化57】
ポリマー2(P−2)
a/b/c/d=8/55/7/30
【0143】
得られた目的物の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR/DMSO−d6)の結果を図2に示す。
【0144】
[合成例2−3〜2−10]高分子化合物(P−3〜P−10)の合成
各単量体の種類、配合比を変えた以外は、合成例2−1と同様の手順により、表1に示した樹脂を製造した。
表1中の各単位の構造を表2〜4に示す。なお、表1において、導入比はモル比を示す(以下、同様)。
【0145】
[合成例2−11]高分子化合物(P−11)の合成
合成例2−1で調製した高分子化合物(P−1)を10g、合成例1−1で調製した1−(4−ヒドロキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウムクロリドの水溶液(2.9ミリモル相当)、塩化メチレン100g、水50gを混合し、室温で30分撹拌後、有機層を分取した。分取した有機層に1−(4−ヒドロキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウムクロリドの水溶液(1.9ミリモル相当)と水50gを加えて有機層を分取し、水洗を5度繰り返した後、反応液を濃縮した。これにメチルイソブチルケトンを加えて再び濃縮を行った後、濃縮液にジイソプロピルエーテルを加えて再結晶を行った。回収した固形分をジイソプロピルエーテルで洗浄後、50℃にて減圧乾燥し、目的物である高分子化合物(P−11)を8.9g得た。共重合組成比は上記の単量体順で8/50/22/20モル%であった。
【化58】
ポリマー11(P−11)
a/b/c/d=8/50/22/20
【0146】
得られた目的物の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR/DMSO−d6)の結果を図3に示す。
なお、1H−NMRにおいて微量の溶剤(ジイソプロピルエーテル)が観測されている。図1と比較して明らかなように、トリエチルアンモニウムカチオンのメチル基のピーク(9H、1.2ppm)及びメチレン基のピーク(6H、3.1ppm)が図3においては消失し、新たにアルキルスルホニウム塩を示唆するピーク(例えば7.0ppm〜8.5ppmの芳香族由来のピーク)が検出されていることがわかる。本結果は該高分子化合物のカチオン部がトリエチルアンモニウムからアルキルスルホニウムに置換されたことを示している。
【0147】
[合成例2−12]高分子化合物(P−12)の合成
合成例2−2で調製した高分子化合物(P−2)を27g、合成例1−5で調製した1−[4−(2−メトキシエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム メタンスルホネートの水溶液(13ミリモル相当)、塩化メチレン250g、水120gを混合し、室温で30分撹拌後、有機層を分取した。分取した有機層に1−[4−(2−メトキシエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム メタンスルホネートの水溶液(3ミリモル相当)と水100gを加えて有機層を分取し、水洗を5度繰り返した後、反応液を濃縮した。これにメチルイソブチルケトンを加えて再び濃縮を行った後、濃縮液にジイソプロピルエーテルを加えて再結晶を行った。回収した固形分をジイソプロピルエーテルで洗浄後、50℃にて減圧乾燥し、目的物である高分子化合物(P−12)を25g得た。共重合組成比は上記の単量体順で8/55/7/30モル%であった。
【化59】
ポリマー12(P−12)
a/b/c/d=8/55/7/30
【0148】
得られた目的物の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR/DMSO−d6)の結果を図4に示す。
なお、1H−NMRにおいて微量の溶剤(ジイソプロピルエーテル)が観測されている。図2と比較して明らかなように、トリエチルアンモニウムカチオンのメチル基のピーク(9H、1.2ppm)及びメチレン基のピーク(6H、3.1ppm)が図4においては消失し、新たにアルキルスルホニウム塩を示唆するピーク(例えば7.0ppm〜8.5ppmの芳香族由来のピーク)が検出されていることがわかる。本結果は該高分子化合物のカチオン部がトリエチルアンモニウムからアルキルスルホニウムに置換されたことを示している。
【0149】
[合成例2−13〜2−22]高分子化合物(P−13〜P−22)の合成
各単量体の種類、配合比を変えた以外は、合成例2−11と同様の手順により、表1に示した樹脂を製造した。
【0150】
[合成例2−23〜2−30]高分子化合物(P−23〜P−30)の合成
各単量体の種類、配合比を変えた以外は、合成例2−1と同様の手順により、表1に示した樹脂を製造した。
【0151】
[比較合成例1]高分子化合物(P−31)の合成検討
窒素雰囲気としたフラスコに、合成例1−8で調製した1−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−ナフタレニル]テトラヒドロチオフェニウム 1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−メタクリロイルオキシ−プロパン−1−スルホネート3.2g、メタクリル酸3−エチル−3−exo−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカニル2.4g、メタクリル酸1−イソプロピルシクロペンチル6.8g、メタクリル酸2−オキソテトラヒドロフラン−3−イル4.4g、メタクリル酸9−メトキシカルボニル−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−5−オン−2−イル3.4g、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.9gをメチルエチルケトン35gに溶解させ、単量体溶液を調製した。窒素雰囲気とした別のフラスコに、12gのメチルエチルケトンをとり、撹拌しながら80℃まで加熱した後、上記単量体溶液を滴下した。ところが、滴下中に不溶分が析出し始め撹拌不能となったため、途中で反応を停止した。
【0152】
反応液から回収した不溶分の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR/DMSO−d6)の結果を図5に示す。
図5より、残溶剤であるメチルエチルケトンのピークがメインであるが、その他に多くのピークが観測されていること、12.3ppmの高磁場側に酸の存在を示唆するピークが大きく観測されていることがわかる。また、反応液のpHは酸性を示していたことから、この結果は、アルキルスルホニウムの分解及びそれにともなう酸不安的基の脱保護反応が進行してしまい、所望の高分子化合物(下記組成の化合物)が得られなかったことを示唆している。一方、合成例2−11や合成例2−12で示したように、本発明の製造方法では、目的のアルキルスルホニウム塩含有高分子化合物を分解することなく安定に製造することに成功した。
【化60】
ポリマー31(P−31)
【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
【表3】
【0156】
【表4】
【0157】
レジスト材料の調製
[実施例1−1〜1−12及び比較例1−1〜1−8]
上記合成例で示した高分子化合物、更に光酸発生剤、アミンクエンチャー及びアルカリ可溶型界面活性剤(F−1)を表5に示す組成で界面活性剤(F−2)(オムノバ社製)0.01質量%を含む溶剤中に溶解してレジスト材料を調合し、更にレジスト材料を0.2μmのテフロン(登録商標)製フィルターで濾過することにより、レジスト液をそれぞれ調製した。
なお、表5において、光酸発生剤、溶剤、アミンクエンチャー、アルカリ可溶型界面活性剤(F−1)、界面活性剤(F−2)は下記の通りである。
【0158】
【表5】
【0159】
[酸発生剤]
PAG−1:トリフェニルスルホニウム ノナフルオロ−1−ブタンスルホネート
PAG−2:トリフェニルスルホニウム 2−(アダマンタン−1−カルボニルオキシ)−1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパン−1−スルホネート(特開2007−145797号公報記載の化合物)
[有機溶剤]
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
GBL:γ−ブチロラクトン
CyHO:シクロヘキサノン
[アミンクエンチャー]
Q−1:2,6−ジイソプロピルアニリン
[界面活性剤]
F−1:下記ポリマー1(特開2008−122932号公報記載の化合物)
ポリ(メタクリル酸=3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−2−トリフルオロメチルプロピル・メタクリル酸=1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−6−メチル−2−トリフルオロメチルヘプタ−4−イル)
重量平均分子量(Mw)=7,300、分散度(Mw/Mn)=1.86
【化61】
F−2:3−メチル−3−(2,2,2−トリフルオロエトキシメチル)オキセタン・テトラヒドロフラン・2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール共重合物(オムノバ社製)(構造式を以下に示す。)
【化62】
【0160】
レジスト材料の評価
[実施例2−1〜2−12及び比較例2−1〜2−8]
シリコン基板上に反射防止膜溶液(日産化学工業(株)製、ARC−29A)を塗布し、200℃で60秒間ベークして作製した反射防止膜(100nm膜厚)基板上にレジスト溶液をスピンコーティングし、ホットプレートを用いて100℃で60秒間ベークし、90nm膜厚のレジスト膜を作製した。これをArFエキシマレーザースキャナー((株)ニコン製、NSR−S610C、NA=1.30、二重極、6%ハーフトーン位相シフトマスク)を用いて液浸露光し、任意の温度で60秒間ベーク(PEB)を施し、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液で60秒間現像を行った。
【0161】
(評価方法)
レジストの評価は、40nmの1:1ラインアンドスペースパターンを対象とし、電子顕微鏡にて観察、ライン寸法幅が40nmとなる露光量を最適露光量(Eop、mJ/cm2)とした。最適露光量におけるパターン形状を比較し、以下の基準により良否を判別した。
良好:パターンが矩形であり、側壁の垂直性が高い。
不良:パターン側壁の傾斜が大きいテーパー形状、又はトップロスによるトップラ
ウンディング形状。
更に、該最適露光量において、転写後のラインパターンが36nmから44nmまで2nm刻みとなるように作製したパターンピッチ80nmのラインアンドスペースパターンのライン幅をSEMで測長した。マスクのライン幅に対するレジストに形成されたライン幅をプロットし、直線近似により傾きを算出し、これをマスクエラーエンハンスメントファクター(MEEF)とした。MEEF値が小さいほど、マスクパターンの仕上がり誤差の影響を抑えることができるため、良好である。更に40nmの1:1ラインアンドスペースのライン部の線幅変動をSEMにより測定し、ラインウィズスラフネス(LWR)とした。LWR値が小さいほど、ラインパターンの揺らぎがなく、良好である。
また、露光量を大きくすることでライン寸法を細らせた場合に、ラインが倒れずに解像する最小寸法を求め、倒れ限界(nm)とした。数値が小さいほど倒れ耐性が高く、好ましい。
(評価結果)
上記表5に示した本発明のレジスト材料及び比較レジスト材料の評価結果を下記表6に示す。
【0162】
【表6】
【0163】
上記表6に示した結果より本発明のアルキルスルホニウム塩含有高分子化合物を有するレジスト材料が、トリアリールスルホニウム塩含有高分子化合物や、スルホニウム塩非含有高分子化合物を有するレジスト材料よりも良好なパターン形状でMEEF、LWRの値も小さく、更に倒れ耐性があり解像性に優れていることが確認できた。
【0164】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5