(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  前記エッチング工程にて顕在化された前記突起の発生領域が前記シリコンウェーハの面積の3%以上である場合には、後続の前記育成工程における前記シリコン単結晶インゴットの引き上げ速度を低下させることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
  前記エッチング工程においては、前記シリコンウェーハをふっ酸と硝酸を含む水溶液でエッチングし、エッチングされた面に前記反応性イオンエッチングを施すことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
  チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を育成する場合、その結晶に含まれる欠陥の種類や分布は、結晶の引上げ速度Vとシリコン単結晶内の成長方向の温度勾配Gの比に依存する。
【0003】
  図12はV/Gと欠陥の種類及び分布との一般的な関係を示す図である。
【0004】
  図12に示すように、V/Gが大きい場合は空孔が過剰となり、空孔の凝集体である微小ボイド(一般にCOPと呼ばれている欠陥)が発生する。一方、V/Gが小さい場合は格子間シリコン原子が過剰となり、格子間シリコンの凝集体である転位クラスタが発生する。したがって、COPも転位クラスタも含まない結晶を製造するには、V/Gが結晶の径方向と長さ方向で適切な範囲に入るように制御しなければならない。まず、結晶の径方向については、どの位置でもVは一定であるので、温度勾配Gが所定の範囲に入るようにCZ炉内の高温部分(ホット・ゾーン)の構造を設計しなければならない。次に、結晶の長さ方向については、Gは結晶の引き上げ長さに依存するので、V/Gを所定の範囲に保つ為には、結晶の長さ方向にVを変化させなければならない。現在は、直径300mmのシリコン単結晶でも、V/Gを制御する事によって、COPも転位クラスタも含まない結晶が量産されている。
【0005】
  上記のように、V/Gを制御して引き上げたCOPと転位クラスタを含まないシリコンウェーハが量産され、電子デバイスの製造に使われている。しかし、これらのウェーハは決して全面が均質ではなく、熱処理された場合の挙動が異なる複数の領域を含んでいる。
図12に示すように、COPが発生する領域と転位クラスタが発生する領域の間には、V/Gが大きい方から順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。OSF領域とは、as-grown状態(結晶成長後に何の熱処理も行っていない状態)で板状酸素析出物(OSF核)を含んでおり、高温(一般的には1000℃から1200℃)で熱酸化した場合にOSF(Oxidation Induced Stacking Fault)が発生する領域である。Pv領域とは、as-grown状態で酸素析出核を含んでおり、低温及び高温(例えば、800℃と1000℃)の2段階の熱処理を施した場合に酸素析出物が発生し易い領域である。Pi領域とは、as-grown状態で殆ど酸素析出核を含んでおらず、熱処理を施されても酸素析出物が発生し難い領域である。
【0006】
  COPが発生し始めるV/Gと転位クラスタが発生し始めるV/Gの差は極めて小さいので、COPも転位クラスタも含まない結晶を製造するには、Vの厳密な管理が必要である。
【0007】
  従来は、OSF領域を含むように引き上げ速度プロファイルを設定し、引き上げた結晶から切り出したサンプルにCu(銅)デコレーションやOSF評価のための熱処理を行ってOSF領域の広さを評価し、その広さに基づいて後続の引き上げの速度プロファイルを調整していた(特許文献1、2参照)。すなわち、OSF領域が広ければV/Gが大きい(Gが小さい)ので後続の引き上げではVを低めに設定し、逆に、OSF領域が狭ければV/Gが小さい(Gが大きい)ので後続の引き上げではVを高めに設定していた。
【0008】
  これらの方法は、OSF領域の広さや位置を指標として後続の引き上げの速度プロファイルを調整する方法なので、製品として出荷されるウェーハにも必然的にOSF領域が含まれる。今のところ、OSF領域は電子デバイスに影響を与えていないようである。しかし、OSF領域は、as-grown状態でもOSFの核、すなわち、板状の酸素析出物を含む領域であるので、将来の電子デバイスではその特性を劣化させる原因となる可能性が高い。従って、今後は、OSF領域の広さを引上げ速度調整の指標とせずに、OSF領域を含まない結晶を安定的に引き上げる方法を開発することが必要であると考えられる。
【0009】
  OSF領域を引上げ速度調整の指標としない方法として、シリコンの弾性定数の極低温化に伴う減少(ソフト化)の大きさから、結晶中の空孔濃度を推定して後続の引き上げの速度プロファイルを調整する方法が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法を実施するには、シリコン単結晶から切り出したウェーハに、加工歪みを除去する為のエッチングを施し、薄膜振動子となるZnOやAlNを蒸着し、外部磁場を必要に応じて印加した状態で、25K(−248℃)以下の温度域で冷却しながら、超音波パルスを伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出し、この音速変化から、冷却温度の低下に伴う弾性定数の減少量を算出し、この算出した弾性定数の減少量からシリコンウェーハ中に存在する空孔濃度を評価する、といった手順を踏まなければならない。このため、高価な評価設備と複雑な手順が必要となり、シリコン単結晶の製造工程でのルーチン的な検査には到底適用出来ない。
【0010】
  シリコン単結晶中の結晶欠陥を検出する方法として様々な原理に基づく評価方法が提案されている。昔から行われている湿式の選択エッチング法は、シリコンに対して酸化作用を持つ物質と酸化物を溶解する作用を持つ物質の混合液にサンプルを浸漬して結晶欠陥をエッチングされた表面の凹凸(多くの場合はエッチピット)として顕在化する方法である。酸化作用を持つ物質としては硝酸やクロム酸などが用いられ、酸化物を溶解する作用を持つ物質としてはふっ酸が用いられている。用いられる化学物質の種類とその混合比によって、正常なシリコン/欠陥の選択比が異なり、感度や検出可能な欠陥の種類が異なる。湿式の選択エッチング法は、他の方法に比べて感度は低いが、簡便であるので、現在でも結晶欠陥評価に用いられている。代表的なエッチング液として、いずれも考案者の名前を冠した、ライト液、セコ液、ダッシュ液などを挙げることができる。
【0011】
  1990年代から一般的に用いられるようになった赤外トモグラフィー法は、シリコンと欠陥の屈折率の違いを利用した方法である。赤外線はシリコンを透過するので、ウェーハ内部の欠陥を評価することが出来る。この方法は、湿式の選択エッチング法に比べて、酸素析出物やCOPに対する感度が高いのが特長である。
【0012】
  また、特許文献4には、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching: RIE)を利用した欠陥検出方法が記載されている。この方法は、熱処理によりBMDなどの酸素析出物を顕在化させた後、Si/SiO
2の選択比が高い条件でサンプルに対してRIEを行う方法である。これにより、酸素析出物(SiO
2)がエッチングされずに、突起として顕在化する。Si/SiO
2の選択比が高い条件を選べば、赤外トモグラフィー法よりも高感度な欠陥評価が可能だと報告されている。
【特許文献1】特開2005−194186号公報
【特許文献2】国際公開第99/40243号パンフレット
【特許文献3】特開2007−261935号公報
【特許文献4】特開2000−58509号公報
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
  しかしながら、特許文献4においては、熱処理によって顕在化させたBMDなどの酸素析出物の評価が可能であると報告されているに止まり、as-grown状態のシリコンウェーハに対する評価については述べられていない。特許文献4が出願された当時の技術水準では、as-grown状態のシリコンウェーハに含まれる欠陥として問題視されていたのはOSF核だけであり、OSF核は熱酸化によって容易に顕在化することから、これをas-grown状態で検出する意義は無かったものと考えられる。また、特許文献4が出願された当時の技術水準では、Pv領域がas-grown状態で酸素析出核を含んでいるか否かも不明であった。
【0014】
  しかも、特許文献4が出願された当時の技術水準では、Pv領域はデバイス形成に適したパーフェクト領域であると考えられていた。しかしながら、Pv領域は、as-grown状態でも酸素析出核、すなわち、熱酸化されてもOSFを誘起しない微小な酸素析出物を含む領域であることから、今後電子デバイスのさらなる微細化が進行すると、Pv領域であっても電子デバイスに影響を与える可能性を否定できない。
【0015】
  本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、OSF領域の位置や広さを指標とせずに、引き上げられた結晶に含まれる領域を簡便な方法で特定して、後続の引き上げの速度プロファイルを調整することによって、COP領域も転位クラスタ領域も含まず、且つ、Pv領域も低減されたシリコン単結晶を製造することを目的とする。また、このようにして製造されたシリコン単結晶から切り出されたシリコンウェーハを提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0016】
  本発明者は、as-grown状態のシリコンウェーハに対して反応性イオンエッチングを施した場合に、どのような欠陥を顕在化させることができるか鋭意研究を行った。その結果、as-grown状態のシリコンウェーハに対して反応性イオンエッチングを施すと、OSF領域に含まれるOSF核とPv領域に含まれる酸素析出核が顕在化することが明らかとなった。このことは、Pv領域とPi領域との境界を判別することが可能となることを意味する。したがって、OSF領域の位置や広さを指標とするのではなく、Pv領域の位置や広さを指標とすることによって、ホット・ゾーンの経時変化に応じた引き上げ速度Vのプロファイル変更を行うことができると考えられる。さらには、Pv領域の広さと引き上げ速度Vの関係に基づいて引き上げ速度Vのプロファイル調整を行うことによって、Pv領域が所望の広さのシリコン単結晶を育成することも可能だと考えられる。
【0017】
  本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、このような技術的知見に基づき成されたものであって、チョクラルスキー法によってCOP及び転位クラスタを含まないシリコン単結晶インゴットを育成する育成工程と、シリコン単結晶インゴットからシリコンウェーハを切り出す切り出し工程と、as-grown状態のシリコンウェーハに対して反応性イオンエッチングを施すことにより、酸化シリコンを含むgrown-in欠陥をエッチング面上の突起として顕在化させるエッチング工程とを備え、エッチング工程にて顕在化された突起の発生領域に基づいて、後続の育成工程における育成条件を、前記エッチング工程にて前記突起が発生する領域の面積が前記シリコンウェーハの面積の10%以下となるよう調整することを特徴とする。
【0018】
  本発明によれば、欠陥を顕在化させるための熱処理や、シリコンの弾性定数の極低温化に伴う減少量の測定など、時間のかかる処理を行うことなく、現在のV/Gに応じた結晶状態を速やかに知ることができる。このため、得られた情報を元に、後続の育成条件を調整(フィードバック)すれば、引き上げ速度Vのプロファイルを速やかに変更することが可能となる。また、後続の育成条件をフィードバック調整することにより、突起が発生する領域の面積をシリコンウェーハの面積の10%以下としていることから、Pv領域が少なく、Pi領域が広い高品質なシリコン単結晶インゴットを製造することが可能となる。
【0019】
  本発明において、突起が発生する領域の面積をシリコンウェーハの面積の10%以下としているのは、突起が発生する領域の面積が少なければ少ないほど、シリコン単結晶インゴットの品質が高まるからである。また、10%を超えると、OSF核が含まれる可能性が大幅に高まるからである。突起が発生する領域の面積をシリコンウェーハの面積の10%以下とすれば、OSF核が含まれる可能性がほとんどなくなる。
【0020】
  但し、突起が発生する領域の面積が小さすぎると、指標としての役割を十分に果たすことができなくなるおそれがある。特に、突起が発生する領域の面積がゼロになると、指標が消失してしまうとともに、転位クラスタが発生するおそれが生じる。この点を考慮すれば、突起が発生する領域の面積は、シリコンウェーハの面積の0.1%以上であることが好ましく、1%以上5%以下であることがより好ましい。したがって、突起が発生する領域の面積がシリコンウェーハの面積の1%以上5%以下となるようフィードバック制御を行えば、高品質なウェーハを作製しつつ、正しくフィードバック制御を行うことが可能となる。
【0021】
  本発明においては、前記エッチング工程にて顕在化された前記突起の発生領域が前記シリコンウェーハの面積の3%以上である場合には、後続の前記育成工程における前記シリコン単結晶インゴットの引き上げ速度を低下させることが好ましい。これによれば、Pv領域をより少なくすることが可能となる。
【0022】
  本発明においては、前記エッチング工程にて顕在化された前記突起の発生領域が前記シリコンウェーハの面積の3%未満である場合には、後続の前記育成工程における前記シリコン単結晶インゴットの引き上げ速度を上昇させることが好ましい。これによれば、指標である突起の消滅を防止することが可能となる。
【0023】
  エッチング工程においては、シリコンウェーハをふっ酸と硝酸を含む水溶液でエッチングし、エッチングされた面に反応性イオンエッチングを施すことが好ましい。これによれば、シリコンウェーハに対する処理が非常に簡単であることから、引き上げ速度Vのフィードバックをより速やかに行うことが可能となる。
【0024】
  また、エッチング工程においては、シリコンウェーハを劈開し、劈開面に反応性イオンエッチングを施しても構わない。シリコンウェーハの劈開面は、ふっ酸と硝酸を含む水溶液でエッチングして得られたエッチング面と同等の特性が得られるからである。
【0025】
  さらに、エッチング工程においては、シリコンウェーハを鏡面加工し、鏡面加工された面に反応性イオンエッチングを施しても構わない。シリコンウェーハを鏡面加工すれば、外乱に起因する欠陥がほぼ完全に除去されることから、突起の発生領域をより正確に評価することが可能となる。
【0026】
  また、本発明によるシリコンウェーハは、チョクラルスキー法によって育成されたシリコン単結晶インゴットから切り出され、COP、OSF核及び転位クラスタのいずれも含まないシリコンウェーハであって、as-grown状態で反応性イオンエッチングを施すことによって酸化シリコンを含むgrown-in欠陥をエッチング面上の突起として顕在化させた場合に、顕在化された前記突起の発生領域がディスク状及び/又はリング状となり、前記発生領域の面積が前記シリコンウェーハの面積の10%以下であることを特徴とする。このようなシリコンウェーハは、本発明によるシリコン単結晶の製造方法によって得ることが可能である。
 
【発明の効果】
【0027】
  このように、本発明によれば、欠陥を顕在化させるための熱処理や、シリコンの弾性定数の極低温化に伴う減少量の測定など、時間のかかる処理を行うことなく、現在のV/Gに応じた結晶状態を速やかに知ることができる。これにより、より直近のバッチに対してフィードバックすることができることから、COPも転位クラスタも含まず且つPv領域が低減された結晶を精度良く量産することが可能となる。しかも、OSF領域を指標としていないことから、COP及び転位クラスタだけでなく、OSF領域を含まない結晶を得ることも可能となる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0029】
  以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
 
【0030】
  図1は、本発明の好ましい実施形態によるシリコン単結晶の製造方法に適用可能な引き上げ装置の構成を示す模式図である。
 
【0031】
  図1に示すシリコン単結晶引き上げ装置10は、チャンバー11と、チャンバー11の底部中央を貫通して鉛直方向に設けられた支持回転軸12と、支持回転軸12の上端部に固定されたグラファイトサセプタ13と、グラファイトサセプタ13内に収容された石英るつぼ14と、グラファイトサセプタ13の周囲に設けられたヒーター15と、支持回転軸12を昇降及び回転させるための支持軸駆動機構16と、種結晶を保持するシードチャック17と、シードチャック17を吊設する引き上げワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るためのワイヤー巻き取り機構19と、ヒーター15及び石英るつぼ14からの輻射熱によるシリコン単結晶インゴット20の加熱を防止すると共にシリコン融液21の温度変動を抑制するための熱遮蔽部材22と、各部を制御する制御装置23とを備えている。
 
【0032】
  チャンバー11の上部には、Arガスをチャンバー11内に導入するためのガス導入口24が設けられている。Arガスはガス管25を介してガス導入口24からチャンバー11内に導入され、その導入量はコンダクタンスバルブ26により制御される。
 
【0033】
  チャンバー11の底部には、チャンバー11内のArガスを排気するためのガス排出口27が設けられている。密閉したチャンバー11内のArガスはガス排出口27から排ガス管28を経由して外へと排出される。排ガス管28の途中にはコンダクタンスバルブ29及び真空ポンプ30が設置されており、真空ポンプ30でチャンバー11内のArガスを吸引しながらコンダクタンスバルブ29でその流量を制御することでチャンバー11内の減圧状態が保たれている。
 
【0034】
  さらに、チャンバー11の外側には磁場供給装置31が設けられている。磁場供給装置31から供給される磁場は、水平磁場であっても構わないし、カスプ磁場であっても構わない。
 
【0035】
  図2(a)は、シリコン単結晶インゴット20の引き上げ速度Vと欠陥の種類及び分布との関係を示す図であり、
図2(b)〜(d)はそれぞれ
図2(a)に示すB1−B1線、C1−C1線及びD1−D1線に沿った断面図である。
図2の引き上げ条件は、OSF領域42がディスク状に現れる引き上げ条件であり、結晶の外周部よりも中心付近のV/Gが大きい(Gが小さい)ケースである。
 
【0036】
  図2の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをB1−B1線に相当する速度に設定すると、
図2(b)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40にはOSF領域42及びPv領域43がディスク状に現れる。より具体的には、シリコンウェーハ40の中心にはOSF領域42が現れ、その外側にはPv領域43が現れ、その外側は全てPi領域44となる。OSF領域42の径は径D0であり、Pv領域43の径は径D1である。このように、引き上げ速度VをB1−B1線に相当する速度に設定した場合、COP41及び転位クラスタ45を含まないシリコン単結晶インゴット20が得られるが、中心軸部分にディスク状のOSF領域42が形成される。したがって、COP41及び転位クラスタ45だけでなく、OSF領域42をも含まない結晶を得るためには、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要がある。
 
【0037】
  また、
図2の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをC1−C1線に相当する速度に設定すると、
図2(c)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40の中心に径D2のPv領域43が現れ、その外側は全てPi領域44となる。ここで、Pv領域43の径D2は、
図2(b)に示したPv領域43の径D1よりも小さい(D2<D1)。このように、引き上げ速度VをC1−C1線に相当する速度に設定した場合、COP41、OSF領域42及び転位クラスタ45のいずれも含まないシリコン単結晶インゴット20を得ることができる。しかしながら、Pv領域43の面積はシリコンウェーハ40の面積の10%超であることから、Pv領域43の面積を10%以下とするためには、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要がある。引き上げ速度Vをどの程度低下させるべきかは、Pv領域43の面積に基づいて判断すればよい。
 
【0038】
  さらに、
図2の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをD1−D1線に相当する速度に設定すると、
図2(d)に示すように、シリコンウェーハ40の中心に径D3のPv領域43が現れ、その外側は全てPi領域44となる。ここで、Pv領域43の径D3は、
図2(c)に示したPv領域43の径D2よりもさらに小さくなる(D3<D2)。このように、引き上げ速度VをD1−D1線に相当する速度に設定した場合、COP41、OSF領域42及び転位クラスタ45のいずれも含まないシリコン単結晶インゴット20を得ることができる。しかも、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の10%以下であることから、非常に良質なシリコン単結晶インゴット20を得ることが可能となる。
 
【0039】
  図2(d)に示すように、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の10%以下となった場合には、制御装置23による引き上げ速度Vの変更を行うことは必須ではない。しかしながら、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の10%以下であっても、Pv領域43の面積をより低減するためには、制御装置23によって引き上げ速度Vをさらに低下させることが好ましい。その一方で、Pv領域43の面積が小さすぎると、指標としての役割を十分に果たすことが難しくなる。この点を考慮すれば、Pv領域43の面積が小さすぎる場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを上昇させることが好ましい。
 
【0040】
  より具体的には、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%以上である場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを僅かに低下させることが好ましい。これは、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%以上あれば、指標としての役割を十分に果たすことができるため、その範囲においてPv領域43をより少なくすることが好ましいからである。
 
【0041】
  これに対し、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%未満である場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを僅かに上昇させることが好ましい。これは、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%未満になると、指標としての役割を十分に果たすことが難しくなるからである。
 
【0042】
  以上の点を考慮すれば、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%程度、例えば、1%以上5%以下となるよう、フィードバック制御することが特に好ましい。
 
【0043】
  このように、
図2に示す引き上げ条件においては、ディスク状のPv領域43の径に基づいて、引き上げ速度Vの制御方向を判断することが可能である。また、当該シリコン単結晶インゴット20に含まれるPv領域43の広さを引き上げ速度Vによって制御することも可能となる。
 
【0044】
  図3(a)は、
図2とは温度勾配Gの径方向分布が異なる条件下における、シリコン単結晶インゴット20の引き上げ速度Vと欠陥の種類及び分布との関係を示す図であり、
図3(b)〜(e)はそれぞれ
図3(a)に示すB2−B2線、C2−C2線、D2−D2線及びE2−E2線に沿った断面図である。
図3の引き上げ条件は、OSF領域42がディスク状及びリング状に現れる引き上げ条件であり、結晶の中心付近と外周部でV/Gが大きい(Gが小さい)ケースである。
 
【0045】
  図3の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをB2−B2線に相当する速度に設定すると、
図3(b)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40にはOSF領域42及びPv領域43がディスク状及びリング状に現れる。より具体的には、シリコンウェーハ40の中心にはOSF領域42が現れ、その外側には同心円状にPv領域43、Pi領域44、Pv領域43、OSF領域42、Pv領域43、Pi領域44がこの順に現れる。ここで、ディスク状のPv領域43の径はD4である。また、OSF領域42及びPv領域43からなるリングの幅はW1である。このように、引き上げ速度VをB2−B2線に相当する速度に設定した場合、COP41及び転位クラスタ45を含まないシリコン単結晶インゴット20が得られるが、ディスク状のOSF領域42とリング状のOSF領域42が形成される。したがって、COP41及び転位クラスタ45だけでなく、OSF領域42をも含まない結晶を得るためには、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要がある。
 
【0046】
  また、
図3の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをC2−C2線に相当する速度に設定すると、
図3(c)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40にはPv領域43がディスク状及びリング状に現れる。ここで、ディスク状のPv領域43の径はD5であり、
図3(b)に示したディスク状のPv領域43の径D4よりも小さい(D5<D4)。また、リング状のPv領域43の幅はW2であり、
図3(b)に示したリングの幅W1よりも狭い(W2<W1)。このように、引き上げ速度VをC2−C2線に相当する速度に設定した場合、COP41、OSF領域42及び転位クラスタ45のいずれも含まないシリコン単結晶インゴット20を得ることができる。しかしながら、Pv領域43の面積はシリコンウェーハ40の面積の10%超であることから、Pv領域43の面積を10%以下とするためには、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要がある。引き上げ速度Vをどの程度低下させるべきかは、Pv領域43の面積に基づいて判断すればよい。
 
【0047】
  さらに、
図3の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをD2−D2線に相当する速度に設定すると、
図3(d)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40にはPv領域43がディスク状に現れ、リング状のPv領域43は消滅する。ここで、ディスク状のPv領域43の径D6は、
図3(c)に示したPv領域43の径D5よりも小さい(D6<D5)。このように、引き上げ速度VをD2−D2線に相当する速度に設定した場合、COP41、OSF領域42及び転位クラスタ45のいずれも含まないシリコン単結晶インゴット20を得ることができる。しかも、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の10%以下であることから、非常に良質なシリコン単結晶インゴット20を得ることが可能となる。
 
【0048】
  Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の10%以下である場合には、制御装置23による引き上げ速度Vの変更を行う必要はない。しかしながら、上述の通り、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%以上である場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを僅かに低下させることが好ましく、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%未満である場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを僅かに上昇させることが好ましい。これによって、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%程度、例えば、1%以上5%以下となるよう、フィードバック制御することが特に好ましい。
 
【0049】
  さらに、
図3の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをE2−E2線に相当する速度に設定すると、
図3(e)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40は全てPi領域44となり、Pv領域43は消滅する。このように、引き上げ速度VをE2−E2線に相当する速度に設定すれば、COP41、OSF領域42、Pv領域43及び転位クラスタ45のいずれも含まない高品質なシリコン単結晶インゴット20を得ることができる。
 
【0050】
  図3(e)に示すシリコンウェーハ40は、最も高品質なウェーハである。しかしながら、指標であるPv領域43が存在しないことから、制御装置23によって引き上げ速度Vを上昇させればよいことは分かるものの、引き上げ速度Vをどの程度上昇させればよいのか判断できなくなってしまう。しかも、引き上げ速度Vが遅すぎる場合には、転位クラスタ45が含まれている可能性もある。したがって、
図3(e)に示すようにPv領域43が消滅した場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを上昇させることが好ましい。さらには、Pv領域43が消滅しないようあらかじめフィードバック制御することが特に好ましい。
 
【0051】
  このように、
図3に示す引き上げ条件においては、ディスク状のPv領域43の径や、リング状のPv領域の幅(または有無)に基づいて、引き上げ速度Vの制御方向を判断することが可能である。また、当該シリコン単結晶インゴット20に含まれるPv領域43の広さを引き上げ速度Vによって制御することも可能となる。
 
【0052】
  図4(a)は、
図2及び
図3とは温度勾配Gの径方向分布が異なる条件下における、シリコン単結晶インゴット20の引き上げ速度Vと欠陥の種類及び分布との関係を示す図であり、
図4(b)〜(d)はそれぞれ
図4(a)に示すB3−B3線、C3−C3線及びD3−D3線に沿った断面図である。
図4の引き上げ条件は、OSF領域42がリング状に現れる引き上げ条件であり、結晶の外周部でV/Gが大きい(Gが小さい)ケースである。
 
【0053】
  図4の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをB3−B3線に相当する速度に設定すると、
図4(b)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40にはOSF領域42及びPv領域43がリング状に現れる。より具体的には、2つのリング状のPv領域43の間にリング状のOSF領域42が現れ、その他の領域はPi領域44となる。OSF領域42及びPv領域43からなるリングの幅はW3である。このように、引き上げ速度VをB3−B3線に相当する速度に設定した場合、COP41及び転位クラスタ45を含まないシリコン単結晶インゴット20が得られるが、リング状のOSF領域42が形成される。したがって、COP41及び転位クラスタ45だけでなく、OSF領域42をも含まない結晶を得るためには、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要がある。
 
【0054】
  また、
図4の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをC3−C3線に相当する速度に設定すると、
図4(c)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40にはPv領域43がリング状に現れる。ここで、リング状のPv領域43の幅はW4であり、
図4(b)に示したリングの幅W3よりも狭い(W4<W3)。このように、引き上げ速度VをC3−C3線に相当する速度に設定した場合、COP41、OSF領域42及び転位クラスタ45のいずれも含まないシリコン単結晶インゴット20を得ることができる。しかしながら、Pv領域43の面積はシリコンウェーハ40の面積の10%超であることから、Pv領域43の面積を10%以下とするためには、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要がある。引き上げ速度Vをどの程度低下させるべきかは、Pv領域43の面積に基づいて判断すればよい。
 
【0055】
  さらに、
図4の引き上げ条件下において、引き上げ速度VをD3−D3線に相当する速度に設定すると、
図4(d)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40にはPv領域43がリング状に現れるが、リング状のPv領域43の幅W5は、
図4(c)に示したPv領域43の幅W4よりもさらに狭くなる(W5<W4)。このように、引き上げ速度VをD3−D3線に相当する速度に設定した場合、COP41、OSF領域42及び転位クラスタ45のいずれも含まないシリコン単結晶インゴット20を得ることができる。しかも、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の10%以下であることから、非常に良質なシリコン単結晶インゴット20を得ることが可能となる。
 
【0056】
  Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の10%以下である場合には、制御装置23による引き上げ速度Vの変更を行う必要はない。しかしながら、上述の通り、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%以上である場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを僅かに低下させることが好ましく、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%未満である場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを僅かに上昇させることが好ましい。これによって、Pv領域43の面積がシリコンウェーハ40の面積の3%程度、例えば、1%以上5%以下となるよう、フィードバック制御することが特に好ましい。
 
【0057】
  このように、
図4に示す引き上げ条件においては、リング状に現れるPv領域43の幅(または有無)に基づいて、引き上げ速度Vの制御方向を判断することが可能である。また、当該シリコン単結晶インゴット20に含まれるPv領域43の広さを引き上げ速度Vによって制御することも可能となる。
 
【0058】
  以上説明したように、OSF領域42がディスク状に現れる引き上げ条件(
図2)、OSF領域42がディスク状及びリング状に現れる引き上げ条件(
図3)、OSF領域42がリング状に現れる引き上げ条件(
図4)のいずれの引き上げ条件においても、Pv領域43の位置や広さ(具体的には、ディスク状であればその径、リング状であればその幅)を観察すれば、現在の引き上げ速度Vが最適な引き上げ速度Vよりも速いか遅いかを判断することが可能となる。ここで、最適な引き上げ速度Vとは、COP41、OSF領域42及び転位クラスタ45のいずれも含まないシリコン単結晶インゴット20を得ることが可能であり、且つ、十分にマージンを確保できる引き上げ速度をいう。
 
【0059】
  次に、Pv領域の位置及び広さを観察する方法について説明する。
 
【0060】
  Pv領域の位置及び広さは、RIE法によって酸化シリコンを含むgrown-in欠陥をエッチング面上の突起として顕在化させることにより、観察することができる。具体的には、チョクラルスキー法によってCOP及び転位クラスタを含まないシリコン単結晶インゴットを育成し(育成工程)、シリコン単結晶インゴットからシリコンウェーハを切り出し(切り出し工程)、as-grown状態のシリコンウェーハに対して反応性イオンエッチングを施すことにより、酸化シリコンを含むgrown-in欠陥をエッチング面上の突起として顕在化させる(エッチング工程)。これにより、Pv領域の位置及び広さを観察することができる。上述の通り、観察されたPv領域の位置及び広さは、現在の引き上げ速度Vが最適な引き上げ速度Vよりも速いか遅いかを判断する指標となることから、これに基づいて、後続の育成工程における育成条件にフィードバックすれば、所望の品質を持ったシリコン単結晶インゴットを安定的に量産することが可能となる。所望の品質を持ったシリコン単結晶インゴットとは、例えばas-grown状態で酸素析出物を含む領域の面積が単結晶横断面積の10%以下であるシリコン単結晶インゴットである。
 
【0061】
  RIEによって酸化シリコンを突起として顕在化させるためには、SiO
2よりもSiの方がエッチングされやすい条件、つまり、Si/SiO
2の選択比が高い条件でRIEを行う必要がある。これにより、酸素析出物(SiO
2)がほとんどエッチングされずに、突起として顕在化する。
 
【0062】
  ここで、OSFが発生する領域とRIE法で突起が検出される領域の関係について説明する。
 
【0063】
  図5は、OSFが発生する領域とRIE法で突起が検出される領域の関係を説明するための図であり、(a)は熱処理によってOSFを顕在化させたシリコンウェーハを示す図、(b)はRIE法によって突起を顕在化させたシリコンウェーハを示す図である。
 
【0064】
  既に説明したように、OSF領域とは、as-grown状態で板状酸素析出物を含んでいる領域であるが、この板状酸素析出物は、1000℃〜1200℃程度の高温で熱酸化しなければ顕在化しない。
図5(a)に示すOSF領域42は、このような熱処理によって顕在させたOSF領域の位置及び広さを示しており、本例では、シリコンウェーハ40の中心に径D0のOSF領域42が現れている。一方、このような熱処理を行うことなく、as-grown状態のシリコンウェーハに対してSi/SiO
2の選択比が高い条件でRIEを行うと、
図5(b)に示すように、シリコンウェーハ40の中心に径D1の突起発生領域46が現れる。ここで、突起発生領域46の径D1は、OSF領域42の径D0よりも広い(D1>D0)。
 
【0065】
  突起発生領域46は、
図2(b)に示したOSF領域42とPv領域43の合成領域である。つまり、as-grown状態のシリコンウェーハに対してRIEを行うと、OSF領域42及びPv領域43にて突起が発生し、Pi領域44においてはほとんど突起が発生しない。このことは、RIEを行えばPv領域43とPi領域44の境界が判別可能であることを意味する。したがって、突起発生領域46の位置及び広さに基づいて、後続の育成工程における育成条件を調整すれば、as-grown状態で酸素析出物を含む領域の面積が単結晶横断面積の10%以下であるシリコン単結晶インゴットを安定的に量産することができる。
 
【0066】
  RIE(エッチング工程)は、切り出したシリコンウェーハをふっ酸と硝酸を含む水溶液でエッチングし、そのエッチング面に対して行っても構わないし(ケース1)、切り出したシリコンウェーハを劈開し、劈開面に対して行っても構わないし(ケース2)、切り出したシリコンウェーハを鏡面加工し、鏡面加工された面に対して行っても構わない(ケース3)。このことは、RIEによる突起の顕在化は、シリコンウェーハのいかなる面に対してもほぼ同等であることを意味する。
 
【0067】
  以上説明したように、本実施形態によれば、簡便な方法でas-grown状態で酸素析出物を含む領域の面積を評価して当該結晶の合否判定及び当該結晶以降に育成される結晶の育成条件を決めることが出来るので、将来の電子デバイスへの影響が予想されるas-grown状態で酸素析出物を含む領域の面積が制御された単結晶シリコンウェーハを安定的に製造することが出来る。
 
【0068】
  以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
 
【0069】
  以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
 
【実施例1】
【0070】
  実施例1では、結晶の外周部よりも中心付近のV/Gが大きい(Gが小さい)ホット・ゾーンをセットしたCZ炉で引き上げた結晶で、RIE法で突起が検出される領域の面積と引き上げ速度の関係について調査した。
【0071】
  まず、多結晶シリコン塊を石英坩堝に投入し、アルゴン雰囲気中で多結晶シリコン塊を加熱してシリコン融液とした。その後、直径305mm、結晶方位が(100)の単結晶を、引き上げ速度を0.475mm/minから0.515mm/minまで徐々に変化させながら引き上げることにより、COPと転位クラスタを含まない直径305mmのシリコン単結晶インゴットを育成した。引き上げ速度の下限を0.475mm/minとしたのは、引き上げ速度をこれ以上に遅くすると転位クラスタが含まれるおそれがあるからである。格子間酸素濃度をFT−IR法(ASTM  F121−79)で測定したところ、9×10
17atoms/cm
3〜11×10
17atoms/cm
3であった。
【0072】
  次に、育成したシリコン単結晶インゴットの引き上げ速度が異なる位置から10枚のウェーハを切り出し、鏡面加工を施した。この10枚のウェーハに、as-grown状態で、Si/SiO
2の選択比が高い(すなわちSiO
2がエッチングされ難い)条件の反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)を施した。RIEの雰囲気はHBr/Cl
2/He+O
2混合ガスとし、Si/SiO
2の選択比が100以上になるように条件を設定して約10μmエッチングを行った。RIE後にふっ酸水溶液で洗浄を行ってRIE時に付着した反応生成物を除去し、RIEでエッチングされた面に生じた突起の径方向分布を光学顕微鏡観察によって評価した。突起の個数を計測体積(観察視野の面積とエッチング量の積)で割って、微小酸素析出物の体積密度を算出し、その体積密度が1×10
5/cm
3以上の領域をRIE法で突起が検出される領域と定義して、この領域がウェーハの全面積に占める割合と引き上げ速度との関係をグラフ化したのが、
図6である。この図から、0.475mm/minから0.485mm/minまでの速度で引き上げれば、as-grown状態で酸素析出物を含む領域の広さをウェーハ全面積の10%以下に制御できることが判明した。
 
【実施例2】
【0073】
  実施例2では、結晶の中心付近と外周部でV/Gが大きい(Gが小さい)ホット・ゾーンをセットしたCZ炉で引き上げた結晶で、RIE法で突起が検出される領域の面積と引き上げ速度の関係について調査した。
【0074】
  本実施形態では、引き上げ速度を0.450mm/minから0.500mm/minまで徐々に変化させながら単結晶を引き上げたこと以外は、実施例1と同様の方法でサンプルを作製し、評価を行った。引き上げ速度の下限を0.450mm/minとしたのは、引き上げ速度をこれ以上に遅くすると転位クラスタが含まれるおそれがあるからである。RIE法で突起が検出される領域がウェーハの全面積に占める割合と引き上げ速度との関係をグラフ化したのが、
図7である。この図から、0.450mm/minから0.465mm/minまでの速度で引き上げれば、as-grown状態で酸素析出物を含む領域の広さをウェーハ全面積の10%以下に制御できることが判明した。また、引き上げ速度を0.455mm/min以下にすると、as-grown状態で酸素析出物を含む領域が消滅することも判明した。
 
【実施例3】
【0075】
  実施例3では、結晶の外周部でV/Gが大きい(Gが小さい)ホット・ゾーンをセットしたCZ炉で引き上げた結晶で、RIE法で突起が検出される領域の面積と引き上げ速度の関係について調査した。
【0076】
  本実施形態では、引き上げ速度を0.430mm/minから0.465mm/minまで徐々に変化させながら単結晶を引き上げたこと以外は、実施例1と同様の方法でサンプルを作製し、評価を行った。引き上げ速度の下限を0.430mm/minとしたのは、引き上げ速度をこれ以上に遅くすると転位クラスタが含まれるおそれがあるからである。RIE法で突起が検出される領域がウェーハの全面積に占める割合と引き上げ速度との関係をグラフ化したのが、
図8である。この図から、0.430mm/minから0.438mm/minまでの速度で引き上げれば、as-grown状態で酸素析出物を含む領域の広さをウェーハ全面積の10%以下に制御できることが判明した。
 
【実施例4】
【0077】
  実施例4では、RIEを施すサンプルの前処理による差について調査した。
【0078】
  まず、実施例1で引き上げた結晶から
図9に示すように、更に3枚のウェーハ40c〜40eを切り出した。この3枚のウェーハ40c〜40eは隣り合わせの位置から切り出しているので、欠陥分布や欠陥密度は同等と見なすことが出来る。そして、この3枚に、加工歪み除去と表面の平滑化の為に、ふっ酸と硝酸を含む混合液でエッチングを施した。
【0079】
  1枚目のウェーハ(ウェーハ40c)には、SC−1洗浄(アンモニア水+過酸化水素水+水による洗浄)を行い、付着異物を除去した。付着異物を除去する為の洗浄は、SC−1洗浄に限定する必要はなく、付着異物を除去する効果のある洗浄であれば良い。2枚目(ウェーハ40d)は、まず、半分に劈開した。劈開したウェーハの劈開面から約5mmの位置を劈開面に平行にダイシングソーで切って幅5mmの短冊を作製し、更にこの短冊の長さ方向の中央付近をダイシングソーで切って長さ約150mmの短冊50dを作製した。従って、この短冊50dには、結晶の中心から外周までが含まれる。このようにして作製した短冊50dにSC−1洗浄を施して付着異物を除去した。付着異物を除去する為の洗浄は、SC−1洗浄に限定する必要はなく、付着異物を除去する効果のある洗浄であれば良い。劈開面の反対側の面(ダイシングソーで切断した面)を直径300mmの支持基板51にレジストで貼り付けた(
図10参照)。短冊50dの接着に用いる材料は、レジスト以外でも良く、RIE、ふっ酸洗浄、SC−1洗浄などの処理に耐える材料であれば良い。また、本発明では短冊50dを洗浄した後に支持基板51に貼り付けたが、短冊50dを支持基板51に貼り付けた後に支持基板51と共に洗浄を行っても良い。3枚目(ウェーハ40e)には、鏡面加工を行った。
【0080】
  上記の処理を施した3枚のサンプルに対し、Si/SiO
2の選択比が高い(すなわちSiO
2がエッチングされ難い)条件の反応性イオンエッチングを施した。RIEの雰囲気はHBr/Cl
2/He+O
2混合ガスとし、Si/SiO
2の選択比が100以上になるように条件を設定して約10μmエッチングを行った。RIE後にふっ酸水溶液で洗浄を行ってRIE時に付着した反応生成物を除去し、RIEでエッチングされた面に生じた突起の径方向分布を光学顕微鏡観察によって評価した。突起の個数を計測体積(観察視野の面積とエッチング量の積)で割って、微小酸素析出物の体積密度を算出し、その体積密度を結晶の中心からの距離に対してプロットした。
【0081】
  その結果、
図11に示すように、1枚目(ウェーハ40c)、2枚目の短冊状サンプル50d、3枚目(ウェーハ40e)でRIEによって生じた突起の分布は、3サンプル間でほぼ一致した。このことから、鏡面でなくても、ふっ酸と硝酸を含む液でエッチングしてSC−1洗浄を行った面や、劈開してSC−1洗浄を行った面でもRIEによって微小酸素析出物起因の突起が生じる領域の広さを評価できることが明らかになった。
【0082】
  上記の検討の結果、発明者は、引き上げた結晶から所定の間隔で欠陥評価用のウェーハを切り出し、加工歪み除去と平坦化のためのエッチングを施したサンプルまたは劈開したサンプルにRIEを施すことによってas-grown状態で微小酸素析出物を含む領域を光学顕微鏡で観察可能な突起として顕在化することができ、この突起が発生した領域の広さを指標として当該結晶の合否判定及び当該結晶以降に育成される結晶の育成条件を決定すれば、as-grown状態で微小酸素析出物を含む領域を制御した結晶を安定的に製造できることを知見した。