特許第5668879号(P5668879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5668879-ニッケル粉末 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5668879
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ニッケル粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20150122BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   B22F1/00 M
   B22F1/02 D
   B22F1/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-44922(P2014-44922)
(22)【出願日】2014年3月7日
【審査請求日】2014年3月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】石井 潤志
(72)【発明者】
【氏名】植田 貴広
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−223068(JP,A)
【文献】 特開2011−009759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を吸着させたニッケル粉末を連続的に昇温させて熱脱離させて脱離した二酸化炭素量と脱離温度とを検出する二酸化炭素の昇温脱離測定による、30℃〜600℃での昇温過程において、100℃〜600℃の二酸化炭素の全脱離量が130μmol/g以下であることを特徴とするニッケル粉末。
【請求項2】
前記30℃〜600℃での昇温過程において、200℃〜400℃の二酸化炭素の全脱離量が80μmol/g以下であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉末。
【請求項3】
硫黄含有物質、珪素含有物質、チタン含有物質の内少なくとも1種以上にて表面が被覆されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のニッケル粉末。
【請求項4】
前記硫黄含有物質にて表面が被覆されており、硫黄含有量が0.1〜1.0質量%であることを特徴とする請求項3に記載のニッケル粉末。
【請求項5】
平均粒径が0.05〜1.0μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のニッケル粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉末に関し、さらに詳しくは、ニッケル粉末表面の反応性が制御され、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極に用いられるニッケル粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル粉末は、厚膜導電体を作製するための導電ペーストの材料として、使用されている。厚膜導電体は、電気回路の形成や、積層セラミックコンデンサおよび多層セラミック基板等の積層セラミック部品の電極などに用いられている。
【0003】
積層セラミックコンデンサの内部は、誘電体と内部電極が交互に重なった積層体が配置され、該積層体の外側に対向して外部電極が該積層セラミックコンデンサの両端部に取り付けられた構造をしている。
【0004】
積層セラミックコンデンサの製造方法は、次に示すとおりである。まず、ニッケル粉末とエチルセルロース等の樹脂とターピネオール等の有機溶剤等とを混練した導電ペーストを誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷する。印刷された導電ペーストが交互に重なるように誘電体グリーンシートを積層し、圧着する。
【0005】
積層セラミックコンデンサの製造方法は、その後、積層体を所定の大きさにカットし、有機バインダとして使用したエチルセルロース等の樹脂の燃焼、除去を行う脱バインダ処理を行って、1000℃以上まで高温焼成する。そして、このセラミック体に外部電極を取り付けて積層セラミックコンデンサとなる。
【0006】
積層セラミックコンデンサの製造工程の脱バインダ処理工程では、粉末表面の反応性が制御されていないニッケル粉末を用いた場合、ニッケル粉末近傍で、通常樹脂が分解される温度よりも低温で樹脂が分解される。これは、ニッケル自体に樹脂の加熱分解を促進する作用があるためである。
【0007】
しかしながら、ニッケル粉末を用いていない誘電体層などの樹脂は、この低温では分解されないため、部分的な樹脂分解にて発生したガスがコンデンサ内部に閉じ込められ、部分的に内部電極の不連続性や誘電体層と内部電極層との剥離が発生する。従って、脱バインダ処理工程での不具合を防止するために、ニッケル粉末表面の反応性を制御することが重要である。
【0008】
また、携帯電話やデジタル機器に代表される電子機器では、年々、使用される電子部品の軽量、薄型、短小化が進んでいる。チップ部品である積層セラミックコンデンサについても、小型化、大容量化が進んでいる。これに伴って、内部電極層を薄膜化しているため、内部電極層の強度が下がっている。したがって、脱バインダ工程での上記不具合を防止することが一層重要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−157563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のような脱バインダ工程での不具合を防止するために、様々な方法が検討されている。特許文献1では、ニッケル粉末の酸素含有量、炭素含有量、硫黄含有量を制御している。この方法は、ニッケル粉末表面の反応性を抑制しているため、脱バインダ工程での不具合の発生防止に効果的である。しかしながら、この方法は、樹脂分解性を測定するためにペースト化する必要があり、ニッケル粉末表面の反応性を評価するのに時間がかかってしまう。
【0011】
また、特許文献1では、ニッケル粉末表面に結合した水酸基の量ができるだけ少ないことが好ましいと記載されており、この記載から酸素含有量だけでなくその存在形態も影響するといえる。すなわち、ニッケル粉末に含有する元素及びその存在形態がニッケル粉末表面の反応性に影響し、酸素、炭素、硫黄の各元素含有量と水酸基として存在する酸素について開示されている。しかしながら、ニッケル粉末表面の反応性自体の強度と量については触れられていない。従って、ニッケル粉末表面の反応性がどの程度の強度と量であれば、樹脂の分解挙動に影響を与えるかが不明確である。
【0012】
そこで、本発明は、脱バインダ工程での樹脂の分解挙動に影響するニッケル粉末表面の反応性を定量化し、その値を基準値以下とすることで、部分的な内部電極の不連続性や誘電体層と内部電極層との剥離などの不具合を防止することができるニッケル粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、ニッケル粉末表面の反応性はニッケル粉末表面の塩基強度と塩基量が大きく影響し、二酸化炭素をニッケル粉末に付着させ、その後連続的に昇温させて熱脱離する二酸化炭素量を検出する二酸化炭素の昇温脱離測定(以降、CO−TPDと記載することがある)にて定量化できることを突き止め、かかる知見に基づき本発明を完成させたものである。
【0014】
すなわち、本発明に係るニッケル粉末は、二酸化炭素を吸着させたニッケル粉末を連続的に昇温させて熱脱離させて脱離した二酸化炭素量と脱離温度とを検出する二酸化炭素の昇温脱離測定による、30℃〜600℃での昇温過程において、100℃〜600℃の二酸化炭素の全脱離量が130μmol/g以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、二酸化炭素の昇温脱離測定にて100℃〜600℃の範囲での二酸化炭素の全脱離量が130μmol/g以下となるようにニッケル粉末表面の反応性を低下させることで、昇温時の樹脂の急激な分解を抑制することができる。また、本発明では、更に200℃〜400℃の範囲での二酸化炭素の全脱離量が80μmol/g以下となるように反応性を低下させることで、樹脂の急激な分解の抑制を促進することができる。したがって、本発明では、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極層にニッケル粉末を用いても、脱バインダ工程で不具合が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1〜3および比較例1、2における、CO−TPD測定の温度−CO脱離量との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を適用したニッケル粉末について説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。本発明を適用したニッケル粉末について、以下の順序で説明する。
【0018】
1.ニッケル粉末
2.ニッケル粉末の製造方法
3.ニッケル粉末の表面処理
【0019】
<1.ニッケル粉末>
本発明を適用したニッケル粉末は、表面の塩基強度と塩基量に基づいて、表面の反応性を制御したものである。ニッケル粉末は、表面の反応性を定量化し、その値を所望の基準値以下とすることで、表面の反応性を抑制する。
【0020】
ニッケル粉末は、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いられる。積層セラミックスコンデンサの内部電極層に使用する場合には、脱バインダ処理の際に、樹脂の分解を抑制し、更には分解の促進を抑制できる程度の表面の反応性とする必要がある。したがって、分解を抑制できる反応性を定量化し、それを基準とすることでその基準以下であれば樹脂の分解を抑えることができる。即ち、予め、樹脂の分解が抑えられるニッケル粉末表面の反応性を定量化できれば、樹脂分解性を測定するためにペースト化する必要がなくなり、ニッケル粉末表面の反応性を評価する時間を短縮することができる。
【0021】
表面の反応性の定量化は、二酸化炭素の昇温脱離法(CO−TPD法)により行う。具体的には、ニッケル粉末表面の反応性は、二酸化炭素を吸着させたニッケル粉末を連続的に昇温させて熱脱離させて脱離した二酸化炭素量を検出する二酸化炭素の昇温脱離測定による、30℃〜600℃での昇温過程において、100℃〜600℃の二酸化炭素の全脱離量を130μmol/g以下とする。
【0022】
(CO−TPD法による測定)
樹脂の分解反応には、樹脂への求電子反応または求核反応が関与しており、それぞれ中間化合物を経由して分解が進行する。金属表面におけるこの反応は、表面自由エネルギー以外に、求核置換反応であれば金属表面の塩基度が、求電子置換反応であれば金属表面の酸度が影響している。したがって、金属表面の反応性は、塩基度や酸度の高さが指標になる。
【0023】
金属表面の塩基度や酸度は、金属表面に吸着されたガスの量や昇温させた時にガスが脱離する温度により測定することができる。即ち、金属表面にガスを吸着させ、昇温過程で脱離したガスの量を測定すれば、塩基度や酸度の量(吸着点=反応点の数)を測定することができる。また、吸着したガスの脱離温度を測定すれば、塩基度や酸度の強度を測定することができる。塩基度は、酸性ガスの吸着及び昇温脱離を測定し、酸度は、塩基性ガスの吸着及び昇温脱離を測定すればよい。塩基度の測定には、二酸化炭素(CO)が用いられ、酸度の測定には、アンモニア(NH)が用いられる。
【0024】
樹脂に対するニッケル粉末表面の反応性は、樹脂の分解が求核置換反応で行われるため、ニッケル粉末の二酸化炭素の昇温脱離測定(Temperature Programmed Desorption、CO−TPD)を用いる。
【0025】
基準値は、ニッケル粉末に二酸化炭素を吸着させ、30℃から600℃まで昇温させた時の100℃から600℃までの全脱離量130μmol/gとする。したがって、ニッケル粉末は、100℃から600℃までの全脱離量が130μmol/g以下となるようにする。より好ましくは、200℃から400℃までの全脱離量を80μmol/g以下とする。全脱離量が130μmol/gを超えると、求核置換反応による樹脂の分解が促進され、内部電極が不連続となったり、積層セラミックコンデンサの脱バインダ処理にて誘電体層と内部電極層との剥離が生じ、それによるクラックが発生することがある。
【0026】
ニッケル粉末は、塩基度が高いほど、また塩基の強度が強いほど、酸性の化合物との反応性が高くなる。
【0027】
特に金属粉末で見られる表面と有機化合物との分解反応においては、その反応性と金属粉末のアンモニアガスあるいは二酸化炭素ガスの吸脱着特性との間には相関があることを見出している。実際の分解反応では、前述のように、表面自由エネルギー以外に、求核置換反応であれば金属表面の塩基度が影響している。塩基度が高いと、反応性も高くなる。
【0028】
このような分解反応では、一旦、反応中間体が形成される。そして、反応中間体の中で電荷や電子が移動し、反応中間体が変異して脱離し、次の有機化合物との反応に移行することで、金属粉末表面での触媒作用を発現することになる。しかしながら、反応中間体と金属粉末表面との相互作用が強い場合には、電荷や電子が脱離できず、分解反応が止まり、かえって触媒として作用しなくなる。
【0029】
この相互作用の強さには、二酸化炭素ガスあるいはアンモニアガスの脱離温度と相関がある。200℃付近から400℃付近の温度域での脱離量は、分解反応が進行することを意味することを見出している。また、400℃以上の温度域での脱離量は、反応中間体と金属粉末表面との相互作用が強く、分解反応が進行しないことを意味することを見出している。
【0030】
つまり、例えば、求核置換反応であれば、塩基から電子を供与し、反応中間体を形成し、その塩基度が適度な強さであれば、反応中間体から変異して分解され、金属表面から脱離することができる。したがって、塩基度および塩基の強さを分析することにより、金属粉末と樹脂との分解反応性を、金属ペーストを作製することなく、評価することが可能となる。
【0031】
したがって、ニッケル粉末では、30℃〜600℃での昇温過程において、100℃〜600℃の二酸化炭素の全脱離量が130μmol/g以下、より好ましくは200℃〜400℃の二酸化炭素の全脱離量が80μmol/g以下とすることで、金属ペーストを作製することなく、樹脂との分解反応が抑制されたものとすることができる。
【0032】
(表面被覆)
ニッケル粉末は、樹脂との分解反応を基準値以下とするため、後述する表面処理が施されている。ニッケル粉末は、表面処理により、粒子表面に硫黄含有物質、珪素含有物質、チタン含有物質のうち少なくとも1種以上にて表面が被覆されている。ニッケル粉末は、硫黄含有物質が被覆されていることが好ましく、硫黄含有量は、0.1〜1.0質量%であることが好ましい。
【0033】
(形状、平均粒径)
ニッケル粉末は、球状であり、かつその平均粒径が0.05〜1.0μmであることが好ましい。これによって、電気回路の形成や積層セラミックコンデンサ用の導電ペースト材料として、好適に用いることができる。
【0034】
即ち、ニッケル粉末を球状とすることで、導電ペーストを用いて内部電極層となる厚膜導電体を得たとき、厚膜導電体中のニッケル粒子を均一に分散させることができるとともに、ニッケル粒子の密度を向上させることができる。
【0035】
また、平均粒径が0.05μm未満では、凝集が激しく、導電ペースト中でニッケル粒子を十分に分散させることができない場合があり、かつニッケル粉末の取扱いも容易でなくなるため、好ましくない。一方、平均粒径が1.0μmを超えると、導電ペーストを用いて得た厚膜導電体の表面の凹凸が大きなリ、積層セラミックコンデンサなどに用いて内部電極として積層したときに、電極間が短絡するおそれがある。
【0036】
ニッケル粉末は、平均粒径が0.05〜0.3μmであることがより好ましい。平均粒径が0.05〜0.3μmであるニッケル粉末は、内部電極層が薄膜化された積層セラミックコンデンサに好適である。なお、ニッケル粉末の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から各粒子の直径を求め、その平均値より求めることができる。
【0037】
<2.ニッケル粉末の製造方法>
上述したニッケル粉末は、湿式法、PVD法、CVD法、プラズマ法等、公知の方法で製造することができる。一例として、以下に湿式法でのニッケル粉末を製造する方法を述べる。
【0038】
湿式法とは、まず、水溶性のニッケル塩を水中に溶解させ、ヒドラジン等の還元剤にてニッケル塩をニッケル粒子に還元する。そして、還元後、残留反応液を取り除くためにニッケル粒子を洗浄し、その後固液分離を行い、ニッケル粒子を乾燥することで、ニッケル粉末を得る方法である。
【0039】
また、還元剤は、特に限定されるものではないが、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、水素化ホウ素ナトリウム、ポリオール、糖類等から選ばれる少なくとも1種類を用いることが好ましい。これらの還元剤の中では、特に不純物が少ないという点で、ヒドラジンが最も好ましい。また、ヒドラジン等を用いる場合は、pHが10以上になると、還元反応速度が速くなるため、アルカリ性物質も添加するのが好ましい。
【0040】
さらに、球状で単分散のニッケル粉末を得るために、ニッケルよりも貴な金属塩、錯化剤、コロイド剤等を添加することが好ましい。
【0041】
ニッケルよりも貴な金属塩の一例として、水溶性の金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩、銅塩が挙げられる。錯化剤の一例としては、アンモニウム、若しくはカルボキシル基を有する蟻酸、酢酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸が挙げられる。コロイド剤の一例としては、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0042】
<3.ニッケル粉末の表面処理>
ニッケル粉末は、表面の反応性を低下させるために表面処理が施される。表面処理方法やそれに用いられる物質は、公知のものを利用すればよい。
【0043】
表面処理方法としては、例えば次のような方法がある。ニッケル粉末を硫黄含有物質、珪素含有物質、チタン含有物質のうち少なくとも1種以上を溶解させた溶液に添加して表面被覆処理を施す。または、硫黄含有物質、珪素含有物質、チタン含有物質のうち少なくとも1種以上を含む蒸気、ガスをニッケル粉末の表面に接触させて表面被覆処理を施す。更には、酸化もしくは還元雰囲気下にニッケル粉末を晒し、ニッケル粉末表面の酸化状態を制御する。このような方法により、ニッケル粉末に表面処理を施し、表面の反応性を制御する。
【0044】
具体的には、硫黄含有物質としては、硫化水素ナトリウム、硫化水素アンモニウム、硫化ナトリウム、硫化アンモニウム、硫化水素などの無機硫化物、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、トリアジンチオール、チオ尿素などの有機硫黄化合物が好ましい。
【0045】
珪素含有物質としては、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラエトキシシラン等のアルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤などが好ましい。
【0046】
チタン含有物質としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート等のチタネートカップリング剤などが好ましい。
【0047】
ニッケル粉末表面における二酸化炭素の全脱離量を基準値以下とするためには、ニッケル粉末に表面処理を施す必要があるが、表面処理方法及び表面に吸着させる物質により、表面への吸着量が同一であっても表面の分解反応の抑制効果が異なり、表面の反応性が異なるようになる。このため、硫黄含有物質、珪素含有物質、チタン含有物質の内少なくも1種以上をどのような表面処理方法で処理するかによって、吸着させる量を変える必要がある。したがって、ニッケル粉末の表面処理は、基準値以下となるように適宜、表面処理方法や吸着させる物質、吸着量を決定する。
【0048】
例えば、ニッケル粉末を一硫化水素ナトリウム水溶液で表面処理する場合には、表面処理後のニッケル粉末中の硫黄含有量が0.15質量%以上となるように一硫化水素ナトリウム濃度を調整して表面処理を行う。
【0049】
ニッケル粉末に硫化水素ガスを接触させて表面処理をする場合には、表面処理後のニッケル粉末中の硫黄含有量が0.1質量%以上となるように硫化水素ガス濃度を調整して表面処理を行う。
【0050】
したがって、硫黄含有物質で表面被覆処理を行う場合には、CO−TPD測定において、100℃から600℃までのCOの全脱離量や、200℃から400℃までのCOの全脱離量が上述した基準値以下となるようにし、かつニッケル粉末への硫黄含有量は0.1〜1.0質量%とすることが好ましい。より好ましくは、硫黄含有量は、0.1〜0.5質量%である。
【0051】
ニッケル粉末の硫黄含有量が0.1質量%より少ないと、ニッケル粉末表面の反応性を抑制できず、積層セラミックコンデンサ製造時に脱バインダ工程にてクラックが発生することが多くなる。一方、硫黄含有量が1.0質量%を超えると、ニッケル粉末表面の反応性を抑制する効果が向上しなくなることと、積層セラミックコンデンサ製造時に硫黄過多による別の不具合を生じる可能性や、脱バインダ工程やその後の焼成工程にて発生する硫黄含有ガスがコンデンサ製造装置を腐食する可能性がある。
【0052】
以上のようなニッケル粉末は、二酸化炭素の昇温脱離測定による、30℃〜600℃での昇温過程において、100℃〜600℃の二酸化炭素の全脱離量を130μmol/g以下とし、樹脂に対するニッケル粉末の反応性を定量化している。これにより、実際に金属ペーストを作製して不具合の発生を確認しなくても、不具合を発生しないニッケル粉末とすることができる。したがって、このニッケル粉末を使用した場合には、樹脂との反応性を評価するための時間が必要ないため、積層セラミックスコンデンサ等の製造時間を短縮化することができる。また、このような基準値以下のニッケル粉末を積層セラミックスコンデンサの内部電極に使用した場合には、内部電極の不連続性や誘電体層と内部電極との剥離によるクラックの発生を防止できる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたニッケル粉末の平均粒径、ニッケル粉末のCO−TPD測定およびニッケル粉末の触媒活性の評価方法は、以下の通りである。
【0054】
(1)ニッケル粉末の平均粒径
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−5510)を用いて、倍率20,000倍の写真(縦19.2μm×横25.6μmの範囲に相当)を撮影し、写真中の粒子形状の全様が見える粒子の面積を測定し、面積から各粒子の直径を求め、その平均値により定めた。
【0055】
(2)ニッケル粉末の硫黄含有量
炭素、硫黄同時分析装置(LECO社製、CS−600)を用いて、ニッケル粉末の硫黄濃度を測定した。
【0056】
(3)ニッケル粉末のCO−TPD測定
全自動昇温脱離スペクトル装置(日本ベル株式会社製、TPD−1−ATw)を用いて、ニッケル粉末にCOを吸着させた後、室温から600℃まで連続的に昇温し、四重極型質量分析計にて、COの脱離温度と脱離量を測定した。得られた結果から、100℃〜600℃のCOの全脱離量(積分値)と200℃〜400℃のCOの全脱離量(積分値)を求めた。
【0057】
(4)クラック有無
各実施例、比較例にて得られたニッケル粉末をペースト化後、BaTiOを主成分とする誘電体シート上に塗布し、100層積層した。その後、積層体を弱酸化性雰囲気で脱バインダ処理、弱還元性雰囲気で焼成を行い、焼結体を得た。得られた焼結体の断面を顕微鏡にて観察することで、クラックの有無を観察した。
【0058】
[実施例1]
実施例1では、湿式法により得たニッケル粉末に、一硫化水素ナトリウムを溶解させた水溶液を用いて表面処理を行った。得られたニッケル粉末の硫黄含有量を測定すると3000質量ppmであった。そして、得られたニッケル粉末の平均粒径、CO−TPD、クラックの有無を評価した。それらの結果を表1と図1に示す。
【0059】
[実施例2]
実施例2では、表面処理に用いた一硫化水素ナトリウムの濃度を変更した以外は、実施例1と同様の反応にて、ニッケル粉末に対して5000質量ppmの硫黄を含有させた。その後、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1と図1に示す。
【0060】
[実施例3]
実施例3では、ニッケル粉末に、硫化水素ガスを用いニッケル粉末に対して1000質量ppmの硫黄を含有させた。その後、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1と図1に示す。
【0061】
[比較例1]
比較例1では、表面処理に用いた一硫化水素ナトリウムの濃度を変更した以外は、実施例1と同様の反応にて、ニッケル粉末に対して1000質量ppmの硫黄を含有させた。その後、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1と図1に示す。
【0062】
[比較例2]
比較例2では、一硫化水素ナトリウムによる表面処理を行わず、用意したニッケル粉末にて、実施例1と同様の評価を行った。表1と図1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1及び図1に示す結果から、実施例1〜3では、ニッケル粉末の100℃から600℃までのCOの全脱離量が130μmol/g以下であり、更に200℃から400℃までのCOの全脱離量は80μmol/g以下である。したがって、ニッケル粉末表面の反応性が抑えられたと考えられ、その結果として焼結体の脱バインダ工程を再現した評価でもクラックは発生しなかった。
【0065】
比較例1、比較例2ではニッケル粉末の100℃から600℃までのCOの全脱離量が130μmol/g超え、更に200℃から400℃までのCOの全脱離量は80μmol/gを超えていた。したがって、比較例1及び比較例2のニッケル粉末表面は、樹脂の分解に適した反応性を有していたと考えられ、その結果として焼結体の脱バインダ工程を再現した評価でもクラックも発生した。
【0066】
さらに、実施例3と比較例1とを比較すると、硫黄含有量では脱バインダ時のクラック発生を制御することはできないが、100℃から600℃までのCOの全脱離量の違いからクラック発生との相関があり、100℃から600℃までのCOの全脱離量が130μmol/gより少ないと、ニッケル粉末表面での樹脂との反応性が低下していることが分かる。さらには200℃から400℃までのCOの全脱離量が80μmol/gより少ないと、樹脂の分解に直結する反応性も低いことが分かる。
【要約】      (修正有)
【課題】積層セラミックコンデンサ等に用いられるニッケル粉末表面の反応性を定量化し、不具合の発生を未然に防ぐことのできるニッケル粉末の提供。
【解決手段】二酸化炭素を吸着させたニッケル粉末を連続的に昇温させて熱脱離させて脱離した二酸化炭素量を検出する二酸化炭素の昇温脱離測定による、30℃〜600℃での昇温過程において、100℃〜600℃の二酸化炭素の全脱離量が130μmol/g以下とするニッケル粉末。
【選択図】図1
図1