【文献】
Takayoshi Nakamura et al.,A molecular metal with ion-conducting channels,Nature,英国,1998年 7月 9日,vol.394/No.6689,pp.159-162
【文献】
中村貴義 他,クラウンエーテルを含むNi(dmit)2錯体の構造と物性(3)15-crown-5および18-crowm-6を含むLi塩の構造、導電性、磁性,日本化学会第69春季年会講演予稿集I,日本,1995年,p.438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のイオン伝導性結晶は、陽イオン(リチウムイオン)を包接したクラウンエーテル(18−クラウン−6)とジチオレートニッケル錯体(Ni(dmit)
2)とが電気的
引き合った構造を有するものである。
【0023】
より具体的には、本発明のイオン伝導性結晶は、全体として1価のカチオンであるリチウムイオンを包接したクラウンエーテル(Li
+(18−クラウン−6))と、1価のアニオンであるジチオレートニッケル錯体(Ni(dmit)
2)とがクーロン力によって電
気的に引き合い、結びつけられることにより(即ち、イオン結合することにより)形成されている。
【0025】
図1に式(3)で表されるイオン伝導性結晶の構造図を示す。
図1に示すように、本発明のイオン伝導性結晶1は、2つのリチウムイオン2に対し、3つのクラウンエーテル3と、2つのジチオレートニッケル錯体4と、4つの水分子5により構成され、以下の化学式により表される。
【0026】
【化4】
(式中、dmitは1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレートを示す。)
【0027】
そして、
図1に示すように、3つのクラウンエーテル3を1つのユニットとし、これが一次元的に積層することにより、結晶内にイオンチャネル9が形成されており、クラウンエーテル3に包接されたリチウムイオン2が、クラウンエーテル3からなるイオンチャネル9内を移動することができる。従って、上記式(4)で表される結晶は、イオン伝導性を有することになる。
【0028】
また、このイオン伝導性結晶内のジチオレートニッケル錯体は完全電荷移動状態であるため、固体では電気伝導性はない。従って、上記式(4)で表されるイオン伝導性結晶を使用することにより、リチウムイオンのみを輸送し、電子の輸送を行わない絶縁性に優れたリチウムイオン電池用の固体電解質を提供することが可能になる。
【0029】
従って、本発明のイオン伝導性結晶からなる固体電解質を、リチウムイオン電池用の電解液及びセパレータとして機能させ、
図2に示すように、この固体電解質6を、正極シート7と負極シート8との間に介在させ、固体電解質6を正極シート7と負極シート8とにより狭持させることにより、電子の輸送を伴うことなく正極シート7と負極シート8との間をリチウムイオン2が移動することができることになる。
【0030】
従って、上記従来のリチウムイオン電池とは異なり、正極と負極の間に電解液を設ける必要がなくなるため、リチウムイオン電池の容積を小さくすることが可能になり、結果として、電池の小型化に対応することが可能になる。
【0031】
また、電解液を使用する必要がないため、電池本体の損傷、劣化等による液漏れの発生を防止することが可能になる。
【0032】
なお、ここで言う「固体電解質」とは、外部からの電場によりイオン(ここでは、リチウムイオン)を移動させることができるとともに、イオンの移動を利用して電力を取り出すこともできる固体であって、絶縁性に優れているものを言う。
【0033】
また、イオン伝導性結晶を構成するジチオレートニッケル錯体は磁性を有する(S=1/2スピンを有する)ため、イオン伝導性結晶は磁性を有することになる。従って、結晶内の内部磁場を外場(磁場など)によって変化させ、これによってイオン伝導率の制御を行うことが可能となる。
【0034】
例えば、リチウムイオンの伝導方向と垂直に磁場をかけることにより、リチウムイオンにローレンツ力が作用し、イオン伝導を阻害する(または、イオン伝導を促進する)ことが可能になる。
【0035】
次に、本実施形態におけるイオン伝導性結晶の製造方法の概略を以下の反応スキーム1に示す。
【0037】
<反応スキーム1>
式(6)で表される、全体として1価のカチオンであるリチウムイオンを包接したクラウンエーテル(Li
+(18−クラウン−6))と、1価のアニオンであるジチオレートニッケル錯体とからなるイオン伝導性結晶を得るには、まず、式(5)の18−クラウン−6と過塩素酸リチウム(LiClO
4)とをアセトニトリルに溶解した溶液を準備する。
【0038】
また、TBA・Ni(dmit)
2(ビス(1,3-ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)ニッケル(III)酸テトラブチルアンモニウム)を合成し、このTBA・Ni(dmit)
2をアセトニトリルに溶解して、ジチオレートニッケル錯体を含有する溶液を
準備する。なお、TBA・Ni(dmit)
2は、公知の方法(例えば、Steinmecke, G.; Sieler, H. J.; Krimes, R.; Hoyer, E. Phosphorus Sulfur 1979, 7, 49を参照)により
合成することができる。
【0039】
次いで、過塩素酸リチウムとクラウンエーテル(18−クラウン−6)が溶解したアセトニトリル溶液(以下、「溶液A」という。)をサンプル管に流し込み、ジチオレートニッケル錯体が溶解したアセトニトリル溶液(以下、「溶液B」という。)を、溶液Aと溶液Bとが急激に混合しないように、サンプル管に流し込む。
【0040】
次いで、サンプル管に蓋をせず、室温で3〜4日、暗所にて静置することにより、上述の式(3)に示すように、式(6)に示すリチウムイオンを包接したリチウム−クラウンエーテル(Li
+(18−クラウン−6))とジチオレートニッケル錯体とが電気的引き合い、式(4)で表されるイオン伝導性結晶を得ることができる。
【0041】
なお、本発明のイオン伝導性結晶は、陽イオン(リチウムイオン)を包接するクラウンエーテルとして、15−クラウン−5を使用したものであってもよい。即ち、リチウムイオンを包接し、全体として1価のカチオンであるリチウムイオン−クラウンエーテル(Li
+(15−クラウン−5))を使用したものであってもよい。
【0042】
この場合、イオン伝導性結晶の製造方法は、上述の18−クラウン−6を使用する場合と同様であり、上述の18−クラウン−6を15−クラウン−5に置き換えて製造することにより、下記式(7)で表されるイオン伝導性結晶を得ることができる。
【0044】
そして、式(7)で示されるイオン伝導性結晶を使用することにより、上述の式(4)で示されるイオン伝導性結晶と同様に、リチウムイオンのみを輸送し、電子の輸送を行わない絶縁性に優れたリチウムイオン電池用の電解質を提供することが可能になる。
【0045】
なお、これらのクラウンエーテルのうち、環サイズの大きいクラウンエーテル(即ち、18−クラウン−6)を使用することにより、クラウンの空孔サイズ(即ち、上述のイオンチャネル9のサイズ)が大きくなるため、リチウムイオンがクラウンエーテルからなるイオンチャネル内を移動し易くなり、イオン伝導性が向上する。
【0046】
次に、本実施形態におけるリチウムイオン電池について説明する。リチウムイオン電池の形状としては、円筒型と角型があり、いずれの形状の場合も、正極と負極がセパレータを介して捲回された捲回電極体(極板群)により構成されている。そして、この捲回電極体を電池ケース内へ挿入して、捲回電極体を封口した構造が採用されている。
【0047】
図3は、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池の捲回電極体を構成する正負極及び電解液とセパレータとしての機能を有する固体電解質を示す断面図である。
【0048】
図3に示すように、捲回電極体10は、正極集電体11に正極活物質12を形成した正極シート7と、負極集電体13の表面に負極活物質14を形成した負極シート8と、正極シート7と負極シート8との間に設けられ、正極シート7と負極シート8とにより狭持された固体電解質6とを備えている。
【0049】
なお、本実施形態においては、単結晶であるイオン伝導性結晶からなる固体電解質6に正極シート7及び負極シート8を貼り付ける、または、イオン伝導性結晶を粉末状にし、これを正極シート7及び負極シート8により狭持させて、薄く押し固めることにより、捲回電極体10が形成されている。
【0050】
そして、この捲回電極体10を捲回して電池ケースに挿入し、正極シート7に接続された正極リードと、負極シート8に接続された負極リードを設けることにより、捲回電極体10により構成されたリチウム二次電池が形成されている。
【0051】
また、本実施形態においては、固体電解質6が、上述のイオン伝導性結晶により形成される構成となっている。即ち、上述のイオン伝導性結晶は、リチウムイオン電池において、電解質およびセパレータとして機能し、充電反応および放電反応等の電極反応に直接寄与する構成となっている。
【0052】
以下、固体電解質6に、上述のイオン伝導性結晶を使用する場合を例に挙げて説明する。
【0053】
正極集電体11としては、例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金、チタン等の導電性が良好な金属により形成されたものが使用される。
【0054】
正極活物質12としては、リチウムを含有した化合物(遷移金属とリチウムとの複合酸化物)を使用することができ、例えば、LiCoO
2等のリチウムコバルト系複合酸化物、LiNiO
2等のリチウムニッケル系複合酸化物、LiMnO
2等のリチウムマンガン系複合酸化物等が使用される。正極活物質12は、単独で使用してもよく、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
負極集電体13としては、例えば、銅、ニッケル、銀等の導電性が良好な金属により形成されたものが使用される。
【0056】
負極活物質14としては、天然黒鉛、人工黒鉛、高結晶黒鉛等の黒鉛系の物質、石油コークス、炭素繊維、有機高分子焼成物などの炭素材料、金属化合物、金属酸化物、リチウム金属化合物、リチウム−金属複合酸化物等を用いることができる。負極活物質14は、単独で使用してもよく、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
また、正極活物質12及び負極活物質14には、導電剤、結着剤、フィラー、分散剤、イオン導電剤及びその他の各種添加剤が含有されていてもよい。
【0058】
そして、正極シート7は、例えば、LiCoO
2等の正極活物質12に、アセチレンブラックやカーボンブラック等の導電剤や、ポリビニルアルコールやポリフッ化ビニリデン等の結着剤を添加して混合し、これを加圧成形、または溶剤に分散させてペーストを調製し、このペーストをアルミニウム箔等からなる正極集電体11上に塗布して、乾燥させることにより形成することができる。
【0059】
また、負極シート8は、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛等からなる負極活物質14に、上述した結着剤を添加して混合し、これを加圧成形するか、または溶剤に分散させてペーストとし、このペーストを銅箔等の負極集電体13上に塗布して、乾燥させることにより形成することができる。
【0060】
また、固体電解質6は、上述の方法により、例えば、全体として1価のカチオンであるリチウムイオンを包接したクラウンエーテル(Li
+(18−クラウン−6))と、1価のアニオンであるジチオレートニッケル錯体とからなるイオン伝導性結晶を製造した後、イオン伝導性結晶の単結晶を、そのまま使用する、または結晶を粉末状にして正極シート7及び負極シート8により挟んで、薄く押し固めることにより、形成することができる。
【0061】
そして、
図2、
図3に示すように、この固体電解質6を、正極シート7と負極シート8との間に介在させ、固体電解質6を正極シート7と負極シート8とにより狭持させることにより、正極シート7と負極シート8との間をリチウムイオン2が移動することができることになる。
【0062】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。
【0063】
上記実施形態においては、ジチオレート金属錯体としてジチオレートニッケル錯体(Ni(dmit)
2)を使用したが、ジチオレート金属錯体はこれに限定されず、電荷を中性に保つためのアニオンであってもよい。即ち、本発明のイオン伝導性結晶においては、直接、イオン伝導に寄与するのは、リチウム−クラウンエーテル部分であるため、必ずしも磁性を有する必要はなく、アニオンであればよい。例えば、ジチオレートパラジウム錯体(Pd(dmit)
2)やジチオレート白金錯体(Pt(dmit)
2)を使用する構成としてもよい。
【0064】
そして、この場合も上述のジチオレートニッケル錯体を使用する場合と同様に、小型化に対応することができ、電解液の液漏れを防止することができるリチウムイオン電池の電解質として有用なイオン伝導性結晶を提供することができる。
【0065】
また、上記実施形態においては、シート形状を有する捲回電極体10を例に挙げて説明したが、捲回電極体10の形状は、特に限定されない。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0067】
(イオン伝導性結晶の合成)
式(5)の18−クラウン−6(東京化成工業(株)製、商品名18-crown-6-Ether)130mgと過塩素酸リチウム(無水)(関東化学(株)製、商品名Lithium perchlorate,anhydrous)10mgとをアセトニトリル(ナカライテスク(株)製)5mlに溶解し、
溶液Aを得た。
【0068】
また、公知の方法により、TBA・Ni(dmit)
2を合成し、次いで、このTBA・
Ni(dmit)
27mgをアセトニトリル(ナカライテスク(株)製)5mlに溶解して
、ジチオレートニッケル錯体を含有する溶液Bを得た。
【0069】
次いで、5mlの溶液Aを10mlのサンプル管に流し込んだ後、5mlの溶液Bを、溶液Aと溶液Bとが急激に混合しないように(溶液Aの界面を乱さないように)、サンプル管にゆっくりと流し込んだ。
【0070】
次いで、溶液Aと溶液Bが流し込まれたサンプル管に蓋をせず、室温で3〜4日、暗所にて静置した。そうすると、サンプル管の底に黒色(濃緑色)の板状結晶が沈殿し、式(4)で表されるイオン伝導性結晶を得た。
【0071】
また、15−クラウン−5(東京化成工業(株)製、商品名15-crown-5-Ether)100mgと過塩素酸リチウム(無水)(関東化学(株)製、商品名Lithium perchlorate,anhydrous)10mgとをアセトニトリル(ナカライテスク(株)製)5mlに溶解し、溶液
Cを得た。
【0072】
次いで、5mlの溶液Cを10mlのサンプル管に流し込んだ後、5mlの溶液Bを、溶液Cと溶液Bとが急激に混合しないように(溶液Cの界面を乱さないように)、サンプル管にゆっくりと流し込んだ。
【0073】
次いで、溶液Cと溶液Bが流し込まれたサンプル管に蓋をせず、室温で3〜4日、暗所にて静置した。そうすると、サンプル管の底に黒色(濃緑色)の板状結晶が沈殿し、式(7)で表されるイオン伝導性結晶を得た。
【0074】
(単結晶X線解析)
次に、得られた板状結晶の単結晶X線解析を行い、板状結晶が式(4)で表されるイオン伝導性結晶、及び式(7)で表されるイオン伝導性結晶であることを確認した。
【0075】
なお、単結晶X線解析は、測定装置(Bruker社製、CCD APEX)を使用し、Mo Kα0.71Åを使用することにより行った。得られた式(4)で表されるイオ
ン伝導性結晶の結晶構造を
図4に示す。
【0076】
また、得られたイオン伝導性結晶の単位格子パラメータを以下に示す。
【0077】
単位格子の寸法:a=11.4822Å、b=12.8414Å、c=13.8207Å、V=1906.18Å
3、α=82.596°、β=88.053°、γ=70.614°
結晶構造:R
1=0.0417、wR
2=0.1160、GOF=1.002
【0078】
また、得られた式(7)で表されるイオン伝導性結晶の結晶構造を
図5に示す。
【0079】
また、得られたイオン伝導性結晶の単位格子パラメータを以下に示す。
【0080】
単位格子の寸法:a=10.4783Å、b=12.5798Å、c=13.1637Å、V=1693.55Å
3、α=84.735°、β=78.647°、γ=87.558°
結晶構造:R
1=0.0419、wR
2=0.1164、GOF=1.034
【0081】
上述の
図1において説明したように、
図4、
図5から、式(4)及び式(7)で表されるイオン伝導性結晶においては、3つのクラウンエーテルを1つのユニットとし、これが一次元的に積層することにより、結晶内にイオンチャネルが形成されており、クラウンエーテルに包接されたリチウムイオンが、クラウンエーテルからなるイオンチャネル内を移動することができる構造となっていることが判る。
【0082】
(交流抵抗測定)
次に、イオン伝導性結晶の交流抵抗を測定し、上記式(4)及び式(7)で表される結晶がイオン伝導性を有することを確認した。
【0083】
なお、交流抵抗は、測定装置(Agilent Technologies社製、E4980A Precision LCR Meter)を使用することにより行った。
【0084】
また、測定は、まず、上述の合成により得られた板状結晶に金ペーストを用いて金線を2本張り(2端子法)、端子と銅線が接続された基板の上に単結晶を載置し、銅線と金線とを金ペーストで接続した。次いで、測定装置を使用して、周波数の範囲を20Hz〜2MHzに設定し、室温におけるインピーダンスの実数部(Z’)と虚数部(Z’’)とを測定した。
【0085】
なお、式(4)で表されるイオン伝導性結晶の測定においては、縦0.25mm、横0.3mm、厚さ9μmの板状結晶を使用した。また、式(7)で表されるイオン伝導性結晶については、縦0.3mm、横0.3mm、厚さ9μmの板状結晶を使用した。
【0086】
式(4)で表されるイオン伝導性結晶のインピーダンススペクトルを
図6に示すとともに、式(7)で表されるイオン導電性結晶のインピーダンススペクトルを
図7に示す。なお、
図6、
図7においては、縦軸が虚数部、横軸が実数部を示す。
【0087】
図6、
図7に示すように、イオン伝導性結晶のインピーダンススペクトルは、複素数平面上において、半円を描き、抵抗とキャパシタンスからなる並列回路のインピーダンススペクトルに相当することが判った。
【0088】
また、
図6に示すように、高周波側(6KHz〜2MHz)で、半円の式(Y={r
2−(X−r)
2}
1/2)に従って、フィッティングを行った。この値を元に得られた伝度率Sは、2.4×10
−7S・cm
−1であった(S=1/Ω)。
【0089】
また、
図7に示すように、高周波側(1.6KHz〜2MHz)で、半円の式(Y={r
2−(X−r)
2}
1/2)に従って、フィッティングを行った。この値を元に得られた伝度率Sは、4.2×10
−8S・cm
−1であった(S=1/Ω)。
【0090】
以上より、上記式(4)及び式(7)で表される結晶は、イオン伝導性を有することが判る。
【0091】
(磁化率測定)
次に、式(4)で表されるイオン伝導性結晶の磁化率を測定した。磁化率の測定は、測定装置として、SQUID磁束計(QUANTUM DESIGN社製、QUANTUM DESIGN MPMS5S SQUID)を使用し、薬用のカプセルに測定用の試料を入れた後、そのカプセルをストローの中に入れて固定し、SQUID磁束計に挿入することにより行った。
【0092】
図8に示すように、得られた結晶内に、強い反強磁性的相互作用の存在が示唆された。また、磁化率曲線を、下記数式で示されるsinglet-triplet熱励起モデル(C=0.39
4emu・K/molで計算)で再現したところ、磁気交換相互作用|2J/k
B| /K
=650Kとなった。
【0093】
【数1】
【0094】
(示差熱測定)
次に、式(4)で表されるイオン伝導性結晶の熱的特性を測定した。なお、測定装置として、示差熱熱重量同時測定装置(Rigaku社製、Thermo plus TG8120)を使用した。
【0095】
また、アルミ製の容器(直径5mm、高さ3mm)上にイオン導電性結晶を10mg載置し、窒素雰囲気下で、13℃から80℃まで、昇温速度2℃/分で加熱し、80℃で5時間、放置した後、さらに2℃/分の昇温速度で200℃まで加熱することにより行った
。以上の結果を
図9、
図10に示す。なお、
図9に示す「TG曲線」は、雰囲気温度の上昇(または、下降)によるサンプルの重量変化を、温度に対して記録したものであり、
図10に示す「DTA曲線」は、サンプルホルダーに設けられた熱電対の起電力により、リファレンスとサンプルとの温度差を検出して記録したものである。
【0096】
図9に示すように、50℃から徐々にイオン伝導性結晶の重量が減少し、80℃で−3.8%の重量変化が確認できた。これは、イオン伝導性結晶内に含まれる水分子の重量パ
ーセントの計算値(4.0%)とほぼ一致するため、イオン伝導性結晶内の水分子は、50℃付近から徐々に抜け、80℃では、完全に抜けているものと考えられる。
【0097】
また、
図9に示すように、160℃付近から、重量が大きく減少していることが判る。これは、イオン伝導性結晶自体の溶解が開始しているものと考えられる。このことは、
図10に示すように、160℃付近に大きなピークが表れていることからも判る。即ち、水分子が完全に抜けた状態である80℃以上の温度においては、イオン伝導性結晶のイオン伝導率は大きく上昇するものと考えられ、また、160℃でイオン伝導性結晶自体が溶解することから、イオン伝導性結晶を電池に応用した場合に、異常発熱の発生に伴い、電池の機能が停止する「メルトダウン効果」が発揮されるものと考えられる。
【0098】
なお、式(7)で表されるイオン伝導性結晶の熱的特性も式(4)で表されるイオン伝導性結晶の場合と同様のピークを得ることができるものと考えられる。また、式(7)で表されるイオン伝導性結晶の熱的特性を測定する場合、2℃/分の昇温速度で加熱する際に、80℃における質量減少割合が2%であることが好ましい。この2%という数値は、式(7)で表されるイオン伝導性結晶内に含まれる水分子の重量パーセントの計算値(2.0%)に該当する。この場合も、80℃付近において、水分子が抜けることで、80℃付近からのイオン伝導率の向上が期待できる。