特許第5669152号(P5669152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669152
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】スケルトンナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20150122BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20150122BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20150122BHJP
   A61K 9/48 20060101ALN20150122BHJP
   A61K 47/04 20060101ALN20150122BHJP
   A61K 8/68 20060101ALN20150122BHJP
   A61K 8/25 20060101ALN20150122BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20150122BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALN20150122BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALN20150122BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALN20150122BHJP
   A23L 1/00 20060101ALN20150122BHJP
   A23L 1/03 20060101ALN20150122BHJP
【FI】
   C01B33/18 Z
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   !A61K9/48
   !A61K47/04
   !A61K8/68
   !A61K8/25
   !A61Q19/00
   !A61Q19/02
   !A61Q19/08
   !A61Q19/10
   !A23L1/00 C
   !A23L1/03
【請求項の数】15
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2013-507304(P2013-507304)
(86)(22)【出願日】2012年3月2日
(86)【国際出願番号】JP2012055330
(87)【国際公開番号】WO2012132757
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2013年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-76062(P2011-76062)
(32)【優先日】2011年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504067365
【氏名又は名称】グランデックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】特許業務法人 Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 正督
(72)【発明者】
【氏名】藤本 恭一
(72)【発明者】
【氏名】高井 千加
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−215490(JP,A)
【文献】 特開2010−131592(JP,A)
【文献】 特開2010−105840(JP,A)
【文献】 特開2010−222147(JP,A)
【文献】 特開2009−234854(JP,A)
【文献】 特開2009−107857(JP,A)
【文献】 特開2008−239435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
B82Y 30/00
B82Y 40/00
A23L 1/00
A23L 1/03
A61K 8/25
A61K 8/68
A61K 9/48
A61K 47/04
A61Q 19/00
A61Q 19/02
A61Q 19/08
A61Q 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30nm〜300nmの範囲内の外径を有し、シリカ殻からなるナノ粒子であって、
前記シリカ殻は全体が六面で形成される立方体フレーム状をなしており、前記立方体フレームの内部は空洞で、前記立方体フレームの各面における四辺形状のシリカフレーム間に孔を有することを特徴とするスケルトンナノ粒子。
【請求項2】
前記各孔の占める割合が、前記立方体フレームの各面の表面積に対して、3%〜94%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のスケルトンナノ粒子。
【請求項3】
前記シリカフレームの幅が5nm〜115nmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスケルトンナノ粒子。
【請求項4】
前記スケルトンナノ粒子は、所定の大きさの外径を有し立方体状形態で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆してなる乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を、当該有機酸被覆炭酸カルシウム粒子における有機酸の一部を溶解する有機溶媒に分散させ、更に、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混合し前記炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻を形成して、シリカ形成粒子とし、その後、当該シリカ形成粒子の内部における前記炭酸カルシウムを酸処理によって溶解させてなることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載のスケルトンナノ粒子。
【請求項5】
前記有機酸は、ロジン酸であることを特徴とする請求項4に記載のスケルトンナノ粒子。
【請求項6】
前記有機溶媒は、アルコール系、ケトン系、エーテル系から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のスケルトンナノ粒子。
【請求項7】
媒質中に、更に、シリコーンオイルを添加してなることを特徴とする請求項4乃至請求項6の何れか1つに記載のスケルトンナノ粒子。
【請求項8】
前記シリカ形成粒子を形成する過程において、超音波処理を行ったことを特徴とする請求項4乃至請求項7の何れか1つに記載のスケルトンナノ粒子。
【請求項9】
30nm〜300nmの範囲内の外径を有する立方体フレーム状のシリカ殻からなり、前記立方体フレームの内部は空洞で、前記立方体フレームの各面における四辺形状のシリカフレーム間に孔を有するナノ粒子の製造方法であって、
所定の大きさの外径を有し立方体状形態で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆して乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子とする有機酸被覆炭酸カルシウム形成工程と、
前記有機酸被覆炭酸カルシウム粒子における有機酸の一部を溶解する有機溶媒に、前記有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を分散させ、更に、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混同し前記炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻を形成してシリカ形成粒子とするシリカ形成工程と、
前記シリカ形成粒子の内部における前記炭酸カルシウムを酸処理によって溶解させる炭酸カルシウム溶解工程と
を具備することを特徴とするスケルトンナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記各孔の占める割合が、前記立方体フレームの各面の表面積に対して、3%〜94%の範囲内であることを特徴とすることを特徴とする請求項9に記載のスケルトンナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記シリカフレームの幅が5nm〜115nmの範囲内であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のスケルトンナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記有機酸は、ロジン酸であることを特徴とする請求項9乃至請求項11の何れか1つに記載のスケルトンナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
前記有機溶媒は、アルコール系、ケトン系、エーテル系から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9乃至請求項12の何れか1つに記載のスケルトンナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
前記シリカ形成工程において、媒質中に、更に、シリコーンオイルを混合したことを特徴とする請求項9乃至請求項13の何れか1つに記載のスケルトンナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
前記シリカ形成工程において、超音波処理を行ったことを特徴とする請求項9乃至請求項14の何れか1つに記載のスケルトンナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、30nmから300nmまでの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるスケルトンナノ粒子及びその製造方法に関するもので、特に、多用途に使用可能なスケルトンナノ粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジー研究の一環として、数百ナノメートル以下の粒子径を有する粒子についての応用研究が盛んに行われている。特に、ナノテクノロジーに代表される超微細化技術の流れに対応すべく、シリカ等を使用した中空粒子についてもナノサイズのものが嘱望されている。中空粒子は、内部が空洞であることから、例えば、有効成分を内包した徐放性医薬品や徐放性化粧品としての活用や、外環境との接触により分解あるいは劣化してしまう物質の保護、ドラッグデリバリーシステムのための担体などとして活用しようとする研究が行われており、多方面に亘る応用が期待されている。
【0003】
シリカを使用した中空粒子の一例としては、特許文献1に記載の高分散シリカナノ中空粒子及びそれを製造する方法の発明がある。特許文献1の記載によれば、このナノ中空粒子は、緻密なシリカ殻からなるナノ中空粒子であって、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nm、静的光散乱法による粒子径が30〜800nm、水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm〜20nmの細孔が検出されないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−263550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載の発明においては、実施例1に、炭酸カルシウム表面に厚さ5〜10nmのシリカ殻が確認されたと記載されていることから、炭酸カルシウムの表面全体にシリカ殻が被覆され、かかる炭酸カルシウムを溶解してなる粒子は、炭酸カルシウムの形状が転写されてシリカ殻の面で囲まれた形状をなしていると考えられる。このため、例えば、炭酸カルシウムが立方体状形態である場合、図11に示されるように、得られる中空粒子は、立方体状形態の表面全体がシリカ殻で形成されたものと推察される。
【0006】
しかしながら、この立方体状形態のシリカナノ粒子においては、内部が空洞(中空)であるものの、立方体状形態の表面全体がシリカ殻で形成されていて、空洞はシリカ殻で囲まれているため、内部(中空部分)に有効成分等を導入したり、内包させた成分を放出したりするのを容易にできるものではない。また、中空粒子の表面全体が緻密なシリカ殻で形成されているため、流体等の通過抵抗が高く、例えば、中空構造を利用した触媒担体としての用途等には不向きである。このため、応用範囲の拡大には限界があり、応用分野を広げるためには、更なる別形態の中空粒子の製造の確立が望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、かかる不具合を解決すべくなされたものであって、シリカ殻からなるナノ粒子の応用分野を更に広げることができ、多用途に使用可能なスケルトンナノ粒子及びその製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係るスケルトンナノ粒子は、30nm〜300nmの範囲内の外径を有し、シリカ殻からなるナノ粒子であって、前記シリカ殻は全体が六面で形成される立方体フレーム状をなしており、前記立方体フレームの内部は空洞で、前記立方体フレームの各面における四辺形状のシリカフレーム間に孔を有するものである。
【0009】
ここで、「スケルトンナノ粒子」とは、前記シリカ殻の立方体フレーム状をなす前記立方体フレームの内部が空洞のものを意味する。
また、「立方体フレーム状」には、フレーム形状が立方体のみならず、6つの略四辺形状で構成される立方体に似た形状のものも含まれる。即ち、全体が六面で形成される立方体フレーム状とは、必ずしも正六面体で形成される立方体のフレームを意味するものではなく、立方体のフレーム状を意味するものであり、六面体のシルエットライン以外の個所を問題とするものではない。
【0010】
なお、「30nm〜300nmの範囲内の外径を有する」とは、本明細書及び特許請求の範囲においては、顕微鏡法により測定される一次粒子径が30nm〜300nmの範囲内であることを意味し、ここでいう顕微鏡法とは、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子を実際に観察して、粒子の各部分の大きさを求める方法である。なお、上記数値は、臨界値、境界値として当該値が出てきたものではなく、その数値は大凡の値として捉えているものである。
【0011】
請求項2の発明に係るスケルトンナノ粒子は、前記各孔の占める割合が、前記立方体フレームの各面の表面積に対して、3%〜94%の範囲内であるもの、より好ましくは、10%〜87%の範囲内であるものである。
【0012】
請求項3の発明に係るスケルトンナノ粒子は、前記シリカフレームの幅が5nm〜115nmの範囲内であるもの、より好ましくは、10nm〜100nmの範囲内であるものである。
【0013】
請求項4の発明に係るスケルトンナノ粒子は、所定の大きさの外径を有し立方体状形態で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆してなる乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を、当該有機酸被覆炭酸カルシウム粒子における有機酸の一部を溶解する有機溶媒に分散させ、更に、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混合し、前記炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻を形成してシリカ形成粒子とし、その後、当該シリカ形成粒子の内部における前記炭酸カルシウムを酸処理によって溶解させてなるものである。
【0014】
ここで、「立方体状形態」とは、立方体に限らず、略四辺形状の6面で囲まれた立方体に似た形態をいう。
そして、「有機酸」としては、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子を被覆できるものであればよく、例えば、ロジン酸、脂肪酸等のアルカリ性石鹸等が挙げられる。
また、「有機溶媒」としては、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子における有機酸の一部を溶解でき、かつ、シリコンアルコキシドと水に対して溶解性があるものであればよく、有機酸に対する溶解性が小さく、炭酸カルシウム粒子やシリコンアルコキシドとの相互作用性(親和性・反応性)が小さい、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系や、メチルエチルケトン等のケトン系や、ジオキサン等のエーテル系等の溶媒が挙げられる。これらは1種単独であってもよいし、または2種以上を組みわせることも可能である。
【0015】
更に、「シリコンアルコキシド」としては、その加水分解によりシリカを析出させることができるものであればよく、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリブトキシシラン等を用いることができる。
加えて、「塩基触媒」としては、例えば、アンモニア、アミン類等が挙げられる。
【0016】
請求項5の発明に係るスケルトンナノ粒子は、請求項4の構成において、前記有機酸がロジン酸であるものである。
【0017】
請求項6の発明に係るスケルトンナノ粒子は、請求項4または請求項5の構成において、前記有機溶媒が、アルコール系、ケトン系、エーテル系から選ばれる少なくとも1種であるものである。
「アルコール系」としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられ、「ケトン系」としては、メチルエチルケトン等が挙げられ、「エーテル系」としてはジオキサン等が挙げられる。
【0018】
請求項7の発明に係るスケルトンナノ粒子は、請求項4乃至請求項6の構成において、媒質中に、更に、シリコーンオイル、好ましくは、変性シリコオイール、より好ましくは、モノアミン(NH2)変性シリコーンオイルを混合してなるものである。
【0019】
請求項8の発明に係るスケルトンナノ粒子は、請求項4乃至請求項7の構成において、前記炭酸カルシウム粒子の表面にシリカ殻を形成する過程において超音波処理を行ったものである。
【0020】
請求項9の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法は、30nm〜300nmの範囲内の外径を有する立方体フレーム状のシリカ殻からなり、前記立方体フレームの内部は空洞で、前記立方体フレームの各面における四辺形状のシリカフレーム間に孔を有するナノ粒子の製造方法であって、
所定の大きさの外径を有し立方体状形態で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆して有機酸被覆炭酸カルシウム粒子とする有機酸被覆炭酸カルシウム形成工程と、前記有機酸被覆炭酸カルシウム粒子における有機酸の一部を溶解する有機溶媒に、前記有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を分散させ、更に、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混同し前記炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻を形成してシリカ形成粒子とするシリカ形成工程と、前記シリカ形成粒子の内部における前記炭酸カルシウムを酸処理によって溶解させる炭酸カルシウム溶解工程とを具備するものである。
【0021】
請求項10の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法は、請求項9の構成において、前記各孔の占める割合が、前記立方体フレームの各面の表面積に対して、3%〜94%の範囲内であるもの、より好ましくは、10%〜87%の範囲内であるものである。
【0022】
請求項11の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法は、請求項9または請求項10の構成において、前記シリカフレームの幅が5nm〜115nmの範囲内であるもの、より好ましくは、10nm〜100nmの範囲内であるものである。
【0023】
請求項12の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法は、請求項9乃至請求項11の構成において、前記有機酸が、ロジン酸であるものである。
【0024】
請求項13の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法は、請求項9乃至請求項12の構成において、前記有機溶媒が、アルコール系、ケトン系、エーテル系から選ばれる少なくとも1種であるものである。
【0025】
請求項14の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法は、請求項9乃至請求項13の構成において、前記シリカ形成工程において、媒質中に、更に、シリコーンオイル、好ましくは、変性シリコオイール、より好ましくは、モノアミン(NH2)変性シリコーンオイルを混合したものである。
【0026】
請求項15の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法は、請求項9乃至請求項14の構成において、シリカ形成工程において、超音波処理を行ったものである。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の発明に係るスケルトンナノ粒子によれば、前記シリカ殻は立方体フレーム状をなしており、前記立方体フレームの内部は空洞で、前記立方体フレームの各面における四辺形状のシリカフレーム間に孔を有することから、係る孔より内部の空洞に有効成分等の物質を容易に挿入でき、また、内包させた物質の放出も容易にできる。しかも、その外径は30nm〜300nmの範囲内と極めて小さいものである。このため、例えば、デリバリーシステムとして活用が容易であり、その応用範囲を広げることができる。
また、このように内部が空洞の立方体フレーム状構造でシリカフレーム間に孔を有することによって、液体・気体等が通過しやすくて通過抵抗性が低く、孔を介して内包させた物質と外部の物質との接触も可能であることから、触媒担持体としての用途に用いることができるようになる。更には、孔によって、選択的に流体等を通過させることができることから、フィルタや電解液保持体としての使用も可能である。加えて、光を透過させることも可能で(光透過性)、孔を介して入射した光の一部をシリカフレームによって屈折・散乱させることもできることから(光拡散性)、LED等の照明へ応用して発光効率の増大を図ることも可能である。
その他にも、スケルトンナノ粒子の凝集性によって基板上にスケルトンナノ粒子を塗布した際に凹凸を形成でき、このとき、スケルトンナノ粒子が立方体フレーム状構造であることで、基板上に近づく物質に対しての接触がスケルトンナノ粒子のシリカフレーム部分のみとなり、接触面積を少なくすることができることから、超撥水性膜・超親水性膜としての応用も可能となる。
【0028】
このようにして、シリカ殻からなるナノ粒子の応用分野を更に広げることができ、多用途に使用可能なスケルトンナノ粒子となる。
【0029】
請求項2の発明に係るスケルトンナノ粒子によれば、前記各孔の占める割合が、前記立方体フレームの各面の表面積に対して、3%〜94%の範囲内であるから、様々な大きさの有効成分等の物質をより容易に挿入・放出できる。また、外部の物質とも接触し易かったり、液体・気体等が通過し易かったりする。よって、請求項1に記載の効果に加えて、様々な用途に使用し易い。
【0030】
請求項3の発明に係るスケルトンナノ粒子によれば、前記シリカフレームの幅が5nm〜115nmの範囲内であるから、外部環境によって容易に破壊されることがなく、また、透明性が高い。したがって、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、シリカ殻の高い強度や、高い透明度が要求される用途にも対応可能である。
【0031】
請求項4の発明に係るスケルトンナノ粒子は、立方体状形態で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆してなる乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を、当該有機酸被覆炭酸カルシウム粒子における有機酸の一部を溶解する有機溶媒に分散させ、更に、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混合し前記炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻を形成してシリカ形成粒子とし、その後、当該シリカ形成粒子内部の前記炭酸カルシウムを酸処理によって溶解させてなる。
【0032】
ここで、乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を有機溶媒に分散させると、立方体状形態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子におけるエッジ部分の有機酸が溶解し(有機酸の一部が溶解し)、更に、シリコンアルコキシド及び塩基触媒が混合されると、シリコンアルコキシドの加水分解と重縮合によって生じたSiO2 分子が、有機酸の溶解によって表出した立方体状形態の炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻を形成し、シリカ形成粒子となる。最後に、酸処理によって、シリカ形成粒子内部の炭酸カルシウムが溶解し、30nm〜300nmの範囲内の外径を有するスケルトンナノ粒子となる。
かかるスケルトンナノ粒子は、立方体形状態の炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻が形成されてなるものであることから、シリカ殻は立方体フレーム状をなして、立方体フレームの各面における四辺形状のシリカフレーム間に孔を有することになる。また、シリカ殻が形成された後に炭酸カルシウムが溶解されてなるものであることから、立方体フレームの内部は空洞となる。
【0033】
このように、本発明に係るスケルトンナノ粒子によれば、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆してなる乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を用いたことから、即ち、コア粒子としての炭酸カルシウム粒子の表面が有機酸で被覆されていることから、シリカ殻をコーティングする過程において、コア粒子としての炭酸カルシウム粒子が水分を吸収して互いに凝集するのが防止される。このため、凝集が防止された状態のシリカ形成粒子内部の炭酸カルシウムを溶解することによって得られるスケルトンナノ粒子は、凝集が少なくて分散性が高いものとなる。
また、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆した乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を用いることで原料の変質が起こりにくくなるため、品質管理にコストが掛からず低コスト化が可能であり、量産性を向上させることもできる。
【0034】
したがって、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、低コスト化及び生産効率の向上を図ることができ、かつ、二次粒子への凝集が少なくて分散性が高いスケルトンナノ粒子となる。
【0035】
請求項5の発明に係るスケルトンナノ粒子によれば、前記有機酸は、ロジン酸であるから、確実に前記乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子を被覆してコア粒子同士の凝集を防止することができる。したがって、請求項4に記載の効果に加えて、確実に二次粒子への凝集が少なくて分散性が高いものとすることができる。
【0036】
請求項6の発明に係るスケルトンナノ粒子によれば、前記有機溶媒は、アルコール系、ケトン系、エーテル系から選ばれる少なくとも1種であるから、確実に、有機酸の一部を溶解するものの、有機酸に対する溶解性が小さく、また、炭酸カルシウム粒子やシリコンアルコキシドとの相互作用性(親和性・反応性)が弱く、それ故、有機酸の溶解によって表出した炭酸カルシウムのエッジ部分のみにシリコンアルコキシドの加水分解によって生成したシリカ殻が吸着されやすい。また、アルコール系、ケトン系、エーテル系の溶媒は入手が容易であり、かつ比較的安価である。したがって、請求項4または請求項5に記載の効果に加えて、反応効率を高めて生産効率の向上を図ることができる。また、低コスト化を図ることも可能である。
【0037】
請求項7の発明に係るスケルトンナノ粒子によれば、媒質中に、更にシリコーンオイルを混合してなることから、シリコーンオイルによってシリカ形成粒子の表面が保護され、シリカ殻の炭酸カルシウム粒子表面への付着が安定化される。したがって、請求項4乃至請求項6の何れか1つに記載の効果に加えて、より反応効率を高めて生産効率を向上させることができる。また、シリカ形成粒子の表面が保護されることから、シリカ殻形成の反応液中において、シリカ形成粒子同士の凝集が防止されると共に、炭酸カルシウムを溶解して得られるシリカ殻からなるナノ粒子においてもシリコーンオイルによってその表面が保護されるため、凝集が防止される。このため、二次粒子への凝集が一段と少なくて分散性がより高いものとなる。
より好ましくは、アミノ変性シリコーンオイルであり、アミノ変性シリコーンオイルはシリカ形成粒子表面との反応性が高いことから、アミノ変性シリコーンオイルを混合してなるスケルトンナノ粒子によれば、回収率が高く、かつ、粒度分布が低いものとなる。
【0038】
請求項8の発明に係るスケルトンナノ粒子によれば、前記シリカ形成粒子を形成する過程において、超音波処理を行ったことから、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子が分散され易く互いの凝集が防止され、かかる粒子が分散されている状態でシリカ殻が形成されたシリカ形成粒子においても互いの凝集が防止される。したがって、請求項4乃至請求項7の何れか1つに記載の効果に加えて、二次粒子への凝集がより少なくて分散性がより高いものとなる。加えて、超音波によって、炭酸カルシウム表面へシリカ殻が付着されやすくなっていることから、更に反応効率を高めて生産効率を向上させることができる。
【0039】
請求項9の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、有機酸被覆炭酸カルシウム形成工程において、立方体状形態で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆して乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子とし、続いて、シリカ形成工程において、前記有機酸被覆炭酸カルシウム粒子における有機酸の一部を溶解する有機溶媒に、前記有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を分散させ、更に、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混合し前記炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻を形成してシリカ形成粒子とし、その後、炭酸カルシウム溶解工程において、前記シリカ形成粒子の内部における前記炭酸カルシウムを酸処理によって溶解させてスケルトンナノ粒子とする。
【0040】
ここで、有機酸被覆炭酸カルシウム形成工程において作製した乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を有機溶媒に分散させると、立方体状形態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子におけるエッジ部分の有機酸が溶解し(有機酸の一部が溶解し)、更に、シリコンアルコキシド及び塩基触媒が混合されると、シリコンアルコキシドの加水分解と重縮合によって生じたSiO2 分子が、有機酸の溶解によって表出した立方体状形態の炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻を形成し、シリカ形成粒子となる。かかるシリカ形成粒子は、その後、炭酸カルシウム溶解工程において、酸処理によって、内部の炭酸カルシウムが溶解され、30nm〜300nmの範囲内の外径を有するスケルトンナノ粒子となる。
【0041】
そして、このように本発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、立方体形状態の炭酸カルシウム粒子のエッジに沿ってシリカ殻が形成され、またシリカ殻が形成された後に炭酸カルシウムが溶解されることから、立方体フレーム状のシリカ殻からなり、前記立方体フレームの内部は空洞で、前記立方体フレームの各面における四辺形状のシリカフレーム間に孔を有するスケルトンナノ粒子が得られる。
【0042】
このようにして得られたスケルトンナノ粒子は、孔より内部の空洞に有効成分等の物質を容易に挿入することができ、また、内包させた物質の放出も容易にできる。しかも、その外径は30nm〜300nmの範囲内と極めて小さいものである。このため、例えば、デリバリーシステムとして活用が容易であり、その応用範囲を広げることができる。
また、このように内部が空洞の立方体フレーム状構造でシリカフレーム間に孔を有することによって、液体・気体等が通過しやすくて通過抵抗性が低く、孔を介して内包させた物質と外部の物質との接触も可能であることから、触媒担持体としての用途に用いることができるようになる。更には、孔によって、選択的に流体等を通過させることができることから、フィルタや電解液保持体としての使用も可能である。加えて、光を透過させることも可能で(光透過性)、孔を介して入射した光の一部をシリカフレームによって屈折・散乱させることもできることから(光拡散性)、LED等の照明へ応用して発光効率の増大を図ることも可能である。
その他にも、スケルトンナノ粒子の凝集性によって基板上にスケルトンナノ粒子を塗布した際に凹凸を形成でき、このとき、スケルトンナノ粒子が立方体フレーム状構造であることで、基板上に近づく物質に対しての接触がスケルトンナノ粒子のシリカフレーム部分のみとなり、接触面積を少なくすることができることから、超撥水性膜・超親水性膜としての応用も可能となる。
【0043】
このようにして、シリカ殻からなるナノ粒子の応用分野を更に広げることができ、多用途に使用可能なスケルトンナノ粒子の製造方法となる。
【0044】
更に、本発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆してなる乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を用いたことから、即ち、コア粒子としての炭酸カルシウム粒子の表面が有機酸で被覆されていることから、シリカ殻をコーティングする過程において、コア粒子としての炭酸カルシウム粒子が水分を吸収して互いに凝集するのが防止される。このため、凝集が防止された状態のシリカ形成粒子内部の炭酸カルシウムを溶解することによって得られるスケルトンナノ粒子も、凝集が少なくて分散性が高いものとなる。
加えて、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子の表面を有機酸で被覆した乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子を用いることで原料の変質が起こりにくくなるため、品質管理のコストが掛からず低コスト化が可能であり、量産性を向上させることができる。
したがって、低コスト化及び生産効率の向上を図ることができ、かつ、二次粒子への凝集が少なくて分散性が高いスケルトンナノ粒子を得ることができる。
【0045】
請求項10の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、前記スケルトンナノ粒子の各孔の占める割合が、前記立方体フレームの各面の表面積に対して、3%〜94%の範囲内であるから、様々な大きさの有効成分等の物質をより容易に挿入・放出できるスケルトンナノ粒子となる。また、係るスケルトンナノ粒子は、外部の物質とも接触し易かったり、液体・気体等が通過し易かったりする。よって、請求項9に記載の効果に加えて、様々な用途に使用し易いスケルトンナノ粒子となる。
【0046】
請求項11の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、前記シリカフレームの幅が5nm〜115nmの範囲内であるから、外部環境によって容易に破壊されることがなく、また、透明性が高いスケルトンナノ粒子となる。したがって、請求項9または請求項10に記載の効果に加えて、シリカ殻の高い強度や、高い透明度が要求される用途にも対応可能なスケルトンナノ粒子となる。
【0047】
請求項12の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、前記有機酸は、ロジン酸であるから、確実に前記乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子を被覆してコア粒子同士の凝集を防止することができる。したがって、請求項9乃至請求項11の何れか1つに記載の効果に加えて、確実に二次粒子への凝集が少なくて分散性が高いスケルトンナノ粒子を得ることができる。
【0048】
請求項13の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、前記有機溶媒は、アルコール系、ケトン系、エーテル系から選ばれる少なくとも1種であるから、確実に、有機酸の一部を溶解するものの、有機酸に対する溶解性が小さく、また、炭酸カルシウム粒子やシリコンアルコキシドとの相互作用性(親和性)が弱く、それ故、有機酸の溶解によって表出した炭酸カルシウムのエッジ部分のみにシリコンアルコキシドの加水分解によって生成したシリカ殻が吸着されやすい。また、アルコール系、ケトン系、エーテル系の溶媒は入手が容易であり、かつ比較的安価である。したがって、請求項9乃至請求項12の何れか1つに記載の効果に加えて、反応効率を高めて生産効率の向上を図ることができる。また、低コスト化を図ることも可能である。
【0049】
請求項14の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、媒質中に、更にシリコーンオイルを混合したことから、シリコーンオイルによってシリカ形成粒子の表面が保護され、シリカ殻の炭酸カルシウム粒子表面への付着が安定化される。したがって、請求項9乃至請求項13の何れか1つに記載の効果に加えて、より反応効率を高めて生産効率を向上させることができる。また、シリカ形成粒子の表面が保護されることから、シリカ殻形成の反応液中において、シリカ形成粒子同士の凝集が防止されると共に、炭酸カルシウム粒子を溶解して得られるシリカ殻からなるナノ粒子においてもシリコーンオイルによってその表面が保護されるため、凝集が防止される。このため、二次粒子への凝集が一段と少なくて分散性がより高いもスケルトンナノ粒子を得ることができる。
より好ましくは、アミノ変性シリコーンオイルであり、アミノ変性シリコーンオイルはシリカ形成粒子表面との反応性が高いことから、アミノ変性シリコーンオイルを混合することによって、回収率が高く、かつ、粒度分布が低いスケルトンナノ粒子を得ることができる。
【0050】
請求項15の発明に係るスケルトンナノ粒子の製造方法によれば、シリカ形成工程において、超音波処理を行ったことから、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子が分散され易く互いの凝集がより防止され、かかる粒子が分散されている状態でシリカ殻が形成されたシリカ形成粒子においても互いの凝集がより防止される。したがって、請求項9乃至請求項14の何れか1つに記載の効果に加えて、二次粒子への凝集がより少なくて分散性がより高いスケルトンナノ粒子を得ることができる。加えて、超音波によって、炭酸カルシウム表面へシリカ殻が付着されやすくなっていることから、更に反応効率を高めて生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子の製造方法を示すフローチャートである。
図2図2(a)は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子の製造工程を示す模式図であり、図2(b)は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子の四辺形状のシリカフレーム部分を示す模式図である
図3図3(a)は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)であり、図3(b)は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図4図4は本発明の実施例1乃至実施例7に係るスケルトンナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)を、比較例1及び比較例2と比較して示す模式図である。
図5図5は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子のデリバリーシステムへの応用を説明するための説明図である。
図6図6(a)は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子をLEDに使用した一例を示す模式図であり、(b)はその拡大図である。
図7図7は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子の触媒担持体への応用を説明するための説明図である。
図8図8は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子をフィルタに使用した一例を示す模式図であり、(a)は浄化フィルタへの使用例を示す模式図、(b)はマスクへの使用例を示す模式図である。
図9図9は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子の電解質保持体への応用を説明するための説明図である。
図10図10は本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子の超撥水性膜・超親水性膜への応用を説明するための説明図である。
図11図11は従来の立方体状形態の表面全体がシリカ殻で形成されているシリカナノ中空粒子を説明するための模式図である。
図12図12(a)はシリカ形成工程における反応時間を15分とした比較例3の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)、図12(b)はシリカ形成工程における反応時間を30分とした比較例4の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)である。
図13図13(c)はシリカ形成工程における反応時間を60分とした実施例8の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)、図13(d)はシリカ形成工程における反応時間を90分とした実施例9の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)である。
図14図14(e)はシリカ形成工程における反応時間を120分とした実施例10の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)、図14(f)はシリカ形成工程における反応時間を240分とした実施例11の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)である。
図15図15(a)は有機溶媒としてエタノールを使用した実施例12の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)、図15(b)は有機溶媒として1‐プロパノールを使用した実施例13の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)である。
図16図16(c)は有機溶媒として2‐プロパノールを使用した実施例14の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)、図16(d)は有機溶媒として1‐ブタノールを使用した実施例15の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)である。
図17図17(a)は有機溶媒としてメタノールを使用した比較例5の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)、図17(b)は有機溶媒として1‐オクタノールを使用した比較例6の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)である。
図18図18(a)は有機溶媒としてメチルエチルケトンを使用した実施例16の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)、図18(b)は有機溶媒としてアセトンを使用した比較例7の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)である。
図19図19は有機溶媒としてジオキサンを使用した実施例17の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像、及びSTEM:走査透過像)である。
図20図20は有機溶媒としてジエチレングリコールを使用した比較例9の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(SEI:走査二次電子像)である。
図21図21は異なる有機溶媒によって製造されたスケルトンナノ粒子の粒子形態を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 スケルトンナノ粒子
2 炭酸カルシウム粒子
3 有機酸
4 有機酸被覆炭酸カルシウム粒子
5 エタノール(有機溶媒)
6 シリコンアルコキシド
7 アンモニア水(塩基触媒)
9 変性シリコーンオイル
10 シリカ形成粒子
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味するものであるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0054】
[実施の形態]
まず、本発明の実施の形態に係るスケルトンナノ粒子及びその製造方法について、図1乃至図4を参照して説明する。
図1のフローチャートに示されるように、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1の製造方法においては、最初に、有機酸被覆炭酸カルシウム形成工程にて、乾燥粉末状態(乾燥状態の固体微粉末状)の炭酸カルシウム(CaCO3 )粒子2の表面を有機酸3で被覆して乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4を形成する(ステップS1)。
ここで、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2は、立方体状形態となっており、この炭酸カルシウム粒子2に有機酸3が被覆されてなる有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4も、図2に示されるように、立方体状形態である。
【0055】
乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2には、市販の炭酸カルシウム粒子を購入して使用することができ、例えば、林化成株式会社の粒子炭酸カルシウムや、白石工業株式会社の合成炭酸カルシウム等を使用することができる。
また、例えば、水系で炭酸カルシウム結晶を成長させた後に熟成して脱水する方法で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2を製造し、これを用いることも可能である。この方法で生成する炭酸カルシウムの結晶はカルサイトであり六方晶系であるが、合成条件を制御することにより、あたかも立方晶系であるかのような形状、即ち「立方体状形態」に成長させることができる。なお、水系で結晶を成長させる方法は、特段に限定されるものではなく、水酸化カルシウムのスラリーに炭酸ガスを導入して炭酸カルシウムを沈殿させる方法や、塩化カルシウムなどの可溶性カルシウム塩の水溶液に炭酸ナトリウムなどの可溶性炭酸塩を添加して炭酸カルシウムを沈殿させる方法などが適用できる。この際、後述するように目的とする外径が8nm〜200nmの範囲内である炭酸カルシウム粒子2を得るには、比較的低温でかつ炭酸カルシウムの沈殿反応の速度を速めることが望ましい。例えば、水酸化カルシウムスラリーに炭酸ガスを導入する方法においては、炭酸ガスを導入する際の液温を30℃以下とし、また炭酸ガスを導入する速度を、水酸化カルシウム100g当り、1.0L/min以上とすることが好適である。
なお、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2の大きさは、顕微鏡法により測定した外径が8nm〜200nmの範囲内であることが好ましい。これによって、最終的に得られるスケルトンナノ粒子1の顕微鏡法により測定した外径を30nm〜300nmの範囲内とすることができる。
【0056】
また、有機酸3としては、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2を被覆することによって、シリカ殻を形成する過程において、炭酸カルシウム粒子2同士の凝集を防止できるものであればよく、例えば、ロジン酸等のアルカリ性石鹸等が使用される。
【0057】
そして、乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4は、例えば、市販の乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2に有機酸3を混合したり、水酸化カルシウム懸濁液に炭酸源を添加(吹き込み)後、有機酸3を添加したりすること等によって作製(形成)することができる。
【0058】
続いて、シリカ形成工程にて、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4における有機酸3の一部を溶解可能な有機溶媒としてのエタノール5に、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4を分散させて(ステップS2a)、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4における有機酸3の一部を溶解し、更に、シリコンアルコキシド6、塩基触媒としてのアンモニア(NH4OH)水8、水7、及びシリコーンオイルとしての変性シリコーンオイル9を混合して(ステップS2b)、ゾル−ゲル法により炭酸カルシウム粒子2にシリカ(SiO2 )殻1aを形成し、シリカ形成粒子10とする(ステップS2)。
なお、本実施の形態においては、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4(有機酸3の一部が溶解したものも含む)を十分に分散させながらゾルーゲル法によるシリカ殻1aの形成を行うため、超音波(周波数:20KHZ〜40KHZ)をかけながら反応させた。
【0059】
このとき、有機溶媒としてのエタノール5への有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4の分散によって、図2(a)に示されるように、立方体状形態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4におけるエッジ部分の有機酸3が溶解し(有機酸の一部が溶解し)、更に、シリコンアルコキシド6、塩基触媒としてのアンモニア水8、及び水7の混合によって、シリコンアルコキシド6の加水分解によって生じたSiO2 分子が重縮合したシリカ殻1aが、有機酸3の溶解によって表出した炭酸カルシウム粒子2におけるエッジ部分に形成されて、シリカ形成粒子10となる。
なお、本実施の形態においては、変性シリコーンオイル9を混合していることから、シリカ形成粒子10の表面は変性シリコーンオイル9によって保護されることになる。
【0060】
ここで、本実施の形態においては、有機溶媒としてエタノール5を使用したが、本発明を実施する場合には、有機溶媒としては、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4における有機酸3を一部溶解でき、かつ、シリコンアルコキシド6及び水7に対して溶解可能なものであればよい。なお、有機溶媒としてより好ましくは、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4における有機酸3に対して10%〜60%の溶解性があるものである。
【0061】
そして、炭酸カルシウム粒子2の表面に、ゾル−ゲル法でシリカ殻1aをコーティングするためのシリコンアルコキシド6としては、テトラエトキシシラン(TEOS)を始めとする種々のシリコンアルコキシドを用いることができ、より具体的には、例えば多摩化学工業株式会社のエチルシリケート(製品名「高純度正珪酸エチル」:テトラエトキシシラン(TEOS))、信越化学工業株式会社の機能性シランの中のアルコキシシラン(製品名「KBE−04」:テトラエトキシシラン(TEOS))、等を使用することができる。
【0062】
また、本実施の形態においては、塩基触媒としてアンモニア水8を使用したが、本発明を実施する場合には、塩基触媒としてその他にも、例えば、アミン類等を使用することも可能である。しかし、反応効率の良さ、価格面、入手しやすさ、扱いやすさ等を考慮すると、塩基触媒としてはアンモニアが最適であり、塩基触媒としてアンモニアを使用することで、確実にしかも効率よく、シリコンアルコキシド6と水7とを反応させてSiO2 分子が重縮合したシリカを析出させ、炭酸カルシウム粒子2にシリカ殻1aを形成させることが可能である。
【0063】
更に、変性シリコーンオイル9としては、ポリエーテル基、エトキシ基、カルボキシル基等の親水性有機基が導入された変性シリコーンオイルや、モノアミン基、アミノ基、アルキル基等の親油性有機基が導入された変性シリコーンオイル等が用いられる。中でも、変性シリコーンオイル9として、入手が容易で、シリカ形成粒子10の表面を保護する反応性が高いモノアミン変性シリコーンオイルを用いるのが好ましい。因みに、変性シリコーンオイル9として、モノアミン基、アミノ基、アルキル基、等の親油性有機基が導入された変性シリコーンオイルを用いた場合には、親油性のスケルトンナノ粒子1となって有機溶媒や溶剤系塗料への分散が容易となる。一方、ポリエーテル基、エトキシ基、カルボキシル基等の親水性有機基が導入された変性シリコーンオイルを用いた場合には、親水性のスケルトンナノ粒子1となって水や水性塗料の分散が容易となる。
【0064】
なお、超音波照射に使用する装置としては、溶液に超音波ホーンを直接入れる形式(UH−600S 周波数 20KHZ/(株)エスエムテー、SONIFIER 4020−800 周波数 40KHZ/BRANSON)のものや、溶液を循環させる形式(UH−600SR 周波数 20KHZ/(株)エスエムテー)のものや、溶液を入れた容器を外から間接的に照射するバス型(超音波洗浄機型)形式のもの等が使用できる。
【0065】
次に、このようにして形成されたシリカ形成粒子10を洗浄した(ステップS3a)後に、水に分散させる(ステップS3b)。そして、炭酸カルシウム溶解工程にて、酸処理として塩酸11を添加して(ステップS3c)内部の炭酸カルシウム2を溶解させて残りの有機酸3と共に流出させる(ステップS3)。最後に、水洗浄(ステップS4a)を行った後、乾燥(ステップS4b)させる。これによって、スケルトンナノ粒子1が製造される。
なお、上記炭酸カルシウム溶解工程(ステップS3)においては、酸処理による分散系の水素イオン濃度指数をpH5以下とすることが好まししい。分散系の水素イオン濃度指数がpH5を上回った状態においては、内部の炭酸カルシウム2を完全に溶解させることが困難だからである。因みに、本発明を実施する場合には、酸処理としてその他にも、例えば、硝酸、酢酸、クエン酸等の酸を用いることも可能である。
【0066】
このようにして製造されたスケルトンナノ粒子1は、上述の如く、立方体状形態の炭酸カルシウム粒子2のエッジに沿ってシリカ殻1aが形成されたことから、図2(a)に示されるように、シリカ殻1aは立方体フレーム状をなして、立方体フレームの各面における略四辺形状のシリカフレーム間に孔1bを有している。そして、シリカ殻1aが形成された後に炭酸カルシウム2が溶解されてなるものであることから、立方体フレームの内部は空洞となっている。念のため、スケルトンナノ粒子1の走査型電子顕微鏡(SEM:JSM-7600F/日本電子(株)により測定)による写真を図3(a)に示す。
【0067】
そして、このスケルトンナノ粒子1は、顕微鏡法による測定(ここではSEM観察)で、その外径R(図2(b)参照)が30nm〜300nmの範囲内となっており、各面の孔1bが略四辺形状をなしていて、その開口径A(図2(b)参照)は5nm〜290nmの範囲内となっている。よって、立方体フレームの各面の表面積に対して各孔1bの占める割合(開口率)は3%〜94%の範囲内となる。また、立方体フレームの各面の表面積に対して各孔1bの占める割合(開口率)が3%〜94%の範囲内であるとき、略四辺形状のシリカフレームの幅W(図2(b)参照)は3nm〜115nmの範囲内となっている。なお、強度や使用し易さ等の観点からすると、スケルトンナノ粒子1の開口径Aが10nm〜280nmの範囲内で、立方体フレームの各面の表面積に対して各孔1bの占める割合(開口率)が10%〜87%の範囲内、また、シリカフレームの幅Wが5nm〜100nmの範囲内であるものが好ましい。
因みに、ここでは「孔(1b)の占める割合(開口率)」は、下記の式によって算出したものである。
孔の占める割合(開口率)(%)={A(開口径)}2/{R(外径)}2・100
また、シリカフレームの幅Wは、顕微鏡法による測定(SEM観察)の他、下記の式によって、算出することも可能である。
シリカフレームの幅W={R(外径)ーA(開口径)}/2
【0068】
なお、シリカ殻1aは炭酸カルシウム粒子2のエッジに沿って形成されたものであり、本実施の形態1においては、コア粒子としての炭酸カルシウム粒子2の外径(コア径)が8nm〜200nmの範囲内であることから、シリカフレームの厚さt(図2(b)参照)は1nm〜10nmの範囲内、厚くても10nm〜30nmの範囲内となっており、顕微鏡法による測定(ここではTEM観察)においても確認されている。念のため、スケルトンナノ粒子1の走査型電子顕微鏡(TEM:JEOL JEM 2000 FX/日本電子(株)により測定)による写真を図3(b)に示す。
【0069】
ここで、乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4とシリコンアルコキシド6の重量比や、塩基触媒の量がスケルトンナノ粒子1の粒子形態に及ぼす影響について調べるため、係る配合比や量を様々変えて実施例1乃至実施例7とし、製造試験を実施した。また、比較のために、比較例1及び比較例2の各配合による製造試験も実施した。実施例1乃至実施例7、比較例1及び比較例2の各配合内容を表1に示す。
なお、ここでは、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4として、白石工業(株)のロジン酸被覆炭酸カルシウム粒子(製品名「ホモカルD(一次粒子径:80nm)」)、また、シリコンアルコキシド6として、テトラエトキシシラン(TEOS)(製品名「KBE−04」)、さらに、塩基触媒としてアンモニア水8を使用した。配合比は、いずれも重量部で表されている。また、これらの各配合内容で図1のフローチャートにしたがって製造されたものについて、走査型電子顕微鏡(SEM:JSM-7600F/日本電子(株)により測定)による写真を図4に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
図4に示されるように、実施例1乃至実施例6から、テトラエトキシシラン(TEOS)/ロジン酸被覆炭酸カルシウムの配合比が、1.2〜0.6の範囲内においては、確実にシリカ殻が立方体フレーム状の粒子形態となることがわかる。また、実施例7から、テトラエトキシシラン(TEOS)/ロジン酸被覆炭酸カルシウムの配合比が、0.4であっても、塩基触媒としてのアンモニア水8の量が多いときには、シリカ殻が立方体フレーム状の粒子形態となる。
これに対し、比較例1及び比較例2から、塩基触媒としてのアンモニア水8の量が少ないと、テトラエトキシシラン(TEOS)/ロジン酸被覆炭酸カルシウムの配合比が、0.5以下においては、シリカ殻が立方体フレーム状の粒子形態とならない場合がある。
なお、本発明者らの実験研究によれば、テトラエトキシシラン(TEOS)/ロジン酸被覆炭酸カルシウムの配合比が1.3以上であると、未反応のテトラエトキシシラン(TEOS)が多くなって回収に手間がかかるようになったり、また、シリカ形成後の洗浄(ステップS3a)の際に、シリカ形成粒子10が凝集しやすくなったりすることが確認されている。一方、テトラエトキシシラン(TEOS)/ロジン酸被覆炭酸カルシウムの配合比が0.3以下であると、塩基触媒としてのアンモニア水8の量が多いときでも、シリカフレームに必要なテトラエトキシシラン(TEOS)の量が不足してシリカ殻1aが立方体フレーム状をなさないことが確認されている。
【0072】
よって、シリカ殻1aが立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子1を確実に製造するためには、テトラエトキシシラン(TEOS)/ロジン被覆炭酸カルシウムの配合比を0.4〜1.2の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは、0.6〜1.2の範囲内である。
【0073】
また、図4の写真に示されるように、テトラエトキシシラン(TEOS)/ロジン被覆炭酸カルシウムの配合比が大きいほど、即ち、テトラエトキシシラン(TEOS)の量が多いほど、シリカフレームの幅Wが大きくなることが明らかとなった。更に、塩基触媒としてのアンモニア水8の量が多いことによっても、シリカフレームの幅Wが大きくなることが確認された。
【0074】
これらのことから、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1によれば、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4やシリコンアルコキシド6や塩基触媒の配合量を変えることによって、スケルトンナノ粒子1の外径R(粒子径)や、シリカフレームの幅Wや、シリカフレームに囲まれた孔1bの大きさ(開口径A)等の粒子形態を制御できることが可能である。勿論、コア粒子となる炭酸カルシウム粒子2の粒子径等を調節することによっても上記粒子形態を制御することが可能である。
【0075】
ところで、上述の如く、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1は、所定の大きさの外径を有し立方体状形態で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2の表面を有機酸3で被覆してなる乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4を、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4における有機酸3の一部を溶解可能な有機溶媒としてのエタノール5に分散させ、更に、シリコンアルコキシド6と塩基触媒としてのアンモニア水8と水7を混合し、炭酸カルシウム粒子2のエッジに沿ってシリカ殻1aを形成してシリカ形成粒子10とし、その後、このシリカ形成粒子10内部の炭酸カルシウム2を酸処理としての塩酸11によって溶解させてなるものである。
【0076】
また、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1の製造方法は、所定の大きさの外径を有し立方体状形態で乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2の表面を有機酸3で被覆して有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4とする有機酸被覆炭酸カルシウム形成工程(ステップS1)と、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4における有機酸3の一部を溶解可能な有機溶媒としてのエタノール5に有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4を分散させ、更に、シリコンアルコキシド6と塩基触媒としてのアンモニア水8と水7を混合して、炭酸カルシウム粒子2のエッジに沿ってシリカ殻1aを形成してシリカ形成粒子10とするシリカ形成工程(ステップS2)と、シリカ形成粒子10内部の炭酸カルシウム2を酸処理としての塩酸11によって溶解させる炭酸カルシウム溶解工程(ステップS3)とを具備するものである。
【0077】
このように本実施の形態においては、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2の表面を有機酸3で被覆してなる乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4を用いたことから、即ち、コア粒子としての炭酸カルシウム粒子2の表面が有機酸3で被覆されていることから、炭酸カルシウム粒子2にシリカ殻1aが形成される過程において、炭酸カルシウム粒子2が剥き出しとなって水分を吸収してしまうことによる炭酸カルシウム粒子2同士の凝集が防止される。このため、凝集が防止された状態のシリカ形成粒子10内部の炭酸カルシウム2を溶解することによって得られるスケルトンナノ粒子1は、凝集が少なくて分散性が高いものとなる。
【0078】
特に、本実施の形態においては、上述の如く、シリカ形成粒子10を形成する過程において超音波処理を行ったことから、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4(有機酸3の一部が溶解された状態のものも含む)が分散され易くて互いの凝集が防止されることになる。また、かかる粒子が分散されている状態でシリカ殻1aが形成されるため、シリカ形成粒子10においても互いの凝集が防止される。このため、凝集が防止された状態のシリカ形成粒子10内部の炭酸カルシウム2を溶解することによって得られるスケルトンナノ粒子1同士の凝集も防止される。
加えて、媒質中に変性シリコーンオイル9が混合されており、この変性シリコーンオイル9でシリカ殻1aの表面が保護されるため、変性シリコーンオイル9によってもシリカ形成粒子10の互いの凝集が防止される。
故に、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1は、二次粒子への凝集が一段と少なくて分散性がより高いものとなる。
【0079】
また、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1及びその製造方法によれば、このように、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2の表面を有機酸3で被覆した乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4を用いていて原料の変質が起こりにくいため、原料の品質管理にコストが掛からない。したがって、低コスト化が可能である。また、原料の変質が起こりにくいため、生産効率や量産性を向上させることが可能である。
【0080】
加えて、本実施の形態においては、超音波処理によって、炭酸カルシウム粒子2の表面へシリカ殻1aが付着されやすくなっている。
更に、変性シリコーンオイル9によって、シリカ殻1aの表面が保護されて、シリカ殻1aの炭酸カルシウム粒子2への付着が安定化している。
したがって、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1及びその製造方法によれば、反応効率を高めて生産効率の向上を図ることができる。
【0081】
ここで、このようなシリカ殻1aが立方体フレーム状のスケルトンナノ粒子1の応用分野(使用用途)について、図5乃至図10を参照して説明する。
【0082】
上述の如く、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1は、30nm〜300nmの範囲内の外径Rを有し、シリカ殻1aからなるナノ粒子であって、シリカ殻1aは立方体フレーム状をなしており、立方体フレームの内部は空洞で、立方体フレームの各面における略四辺形状のシリカフレーム間に孔1bを有するものである。
したがって、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1によれば、孔1bより、ナノ粒子内部の空洞への有効成分等の物質の挿入が容易であり、また、内包させた物質の放出も容易である。
【0083】
このため、まず、スケルトンナノ粒子1の立方体フレーム状構造を利用したデリバリーシステムへの応用が挙げられる。
即ち、スケルトンナノ粒子1によれば、上述の如く、シリカ殻1aが立方体フレーム状で、シリカフレーム間に孔1bが存在することから、フレーム間に存在する孔1bから内部の空洞に有効成分(例えば、触媒、薬剤、ビタミン剤、タンパク質等の外部刺激により劣化する不安定な成分や、そのままでは周囲に悪影響を与える成分や、外部環境から保護する必要がある成分)等の物質を挿入し易い。また、挿入した有効成分等の物質は、シリカフレームによって内包させることができる。更に、内包させた有効成分等の物質は、孔1bより放出させ易い。このため、図5に示すように、スケルトンナノ粒子1内部の空洞に、有効成分等の物質を挿入して内包(封入・保護・貯蔵)させ、内包物を目的細胞や目的組織に運搬して放出(徐放)させるデリバリーシステムとして利用される。
【0084】
殊に、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1によれば、上述の如く、立方体フレームの各面の表面積に対して各孔1bの占める割合が3%〜94%の範囲内であり、更に、コア粒子となる炭酸カルシウム粒子2の孔径、また、有機溶媒やシリコンアルコキシド6や塩基触媒の量を調節することにより、スケルトンナノ粒子1の外径Rやシリカフレーム間の孔径(孔1bの大きさ)やシリカフレームの幅Wを制御可能であることから、タンパク質のような大きな会合分子を含む様々な大きさの有効成分等を挿入させることができ、更には、内包物質を目的用途の経路で運搬させることができる。
また、シリカ殻1aの表面改質によってフレームとフレーム内部に挿入した物質との間の空間を狭める処理等を行うことで、内包性を持たせフレーム内部に挿入した物質を放出し難くすることが可能である。一方、目的の場所への運搬後は、内包物質に反発する処理等を施すことで、徐放性を持たせたり内包物質を放出させたりすることも可能である。更に、シリカ殻1aの表面改質として磁性粒子で被覆することで、磁力で回収することも可能となる。
【0085】
ここで、更に、このスケルトンナノ粒子1によるデリバリーシステムの具体的用途について説明する。スケルトンナノ粒子1によるデリバリーシステムは、医療分野、化粧品分野、食品分野等で利用が可能である。
医療分野においては、スケルトンナノ粒子1の外径Rが30nm〜300nmであることから、ドラッグデリバリーシステムとして、スケルトンナノ粒子1内部の空洞に薬剤(有効成分)等を内包させた場合、かかる薬剤(有効成分)等を内包したスケルトンナノ粒子1は200nm程度に広がっている腫瘍、動脈硬化、リウマチ等の患部付近の血管内皮細胞間隙を通過できることになる。よって、治療薬として有効となる。
特に、体内に滞留させて、内包させた薬剤の効力を発揮させるためには、100nm〜数100nmの外径を有するスケルトンナノ粒子1の使用が好ましい。
なお、本発明者らの実験研究によれば、前立腺がんの治療に使用されるリュ−プリンや、転移性乳がんの治療に使用されるマイオセットを内包したスケルトンナノ粒子1によるドラッグデリバリーシステムが有効であることが確認されている。また、C型肝炎特効薬や糖尿病特効薬(インシュリン)のドラッグデリバリーシステムとしてスケルトンナノ粒子1を使用することで徐放性が改善され患者のQOLが向上することや、末梢動脈閉そく症特効薬のデリバリーシステムとしてスケルトンナノ粒子1を使用することで安定性が向上され、病変部位へのターゲッティングが改善されることが確認されている。
その他にも、医療分野においては、遺伝子等の生理活性物質を封入して目的細胞や目的組織にピンポイントで効率よく導入するピンポイントデリバリーシステムやフラーレンで遺伝子を導入するDNAデリバリーシステムとしても有効である。
【0086】
また、化粧品分野においては、例えば、皮膚における角質細胞間に存在する皮膚の潤い成分であるセラミド分子をスケルトンナノ粒子1内部の空洞に内包させて、50nm〜70nmである角質細胞間へと通過させることができる。このため、保湿対策化粧品として有効である。その他にも、例えば、空気、光、熱により破壊されやすいレチノール(ビタミンA)をスケルトンナノ粒子1の内部(空洞部分)に内包させて、表皮の基底層へ届けることができ、シミ・シワ対策化粧品としても有効である。
更に、食品分野においては、スケルトンナノ粒子1に香料等の食品添加物やビタミン剤を内包させて食品に加えることで、空気等の外部環境の接触による食品添加物やビタミン(抗酸化作用等)の変質が抑制される。
その他、例えば、入浴剤、接着剤、肥料等を内包させて外部環境から保護し、使用時のみに放出させるという使用形態が可能である。
【0087】
次に、スケルトンナノ粒子1の立方体フレーム状構造による光透過性や光拡散性を利用したLEDライト等の照明器具への使用が挙げられる。
上述の如く、スケルトンナノ粒子1は、内部が空洞の立方体フレーム状構造でシリカフレーム間に孔1bを有することから、孔1bによって光を透過することができて光透過性・透明性を有する。殊に、本実施の形態においては、その外径Rが30nm〜300nmの範囲内で、立方体フレームの各面の表面積に対して各孔1bの占める割合が3%〜94%の範囲内であり、また、シリカフレーム幅Wも3nm〜115nmの範囲内であることから、光透過性・透明性が高い。更に、孔1bを介して入射した光の一部をシリカフレームによって屈折・散乱させることができることから光拡散性を有している。
【0088】
ここで、従来のLEDライトは、点発光(スポット照射光)であるため、直管型や電球型に隙間なくLEDチップを配列させなければならず、価格や消費電力が高いという問題点があった。
そこで、図6に示すように、LED照明の表面にスケルトンナノ粒子1を塗布することで、スケルトンナノ粒子1の内部が空洞でシリカフレーム間に孔1bが存在することによる光透過性・透明性が発揮され、更に、シリカフレームによって入射した光が拡散反射されて、発光効率が増大し、蛍光等と同等以上の輝度をもつ広域拡散光が得られる。よって、消費電力を低下させることが可能となる。
また、立方体フレームの各面に孔1bが存在することから、LED等の光源を3次元方向(直進方向、垂直方向、上下方向等)に選択的に通過させることが可能であり、例えば、LED等の光源用の導光板等への使用によって、発光効率を増大させ照明用途として必要な広域拡散光を得ることができるようになる。
【0089】
続いて、スケルトンナノ粒子1の立方体フレーム状構造による液体等の通過性(通過低抵抗性)や内包性を利用した触媒担持体としての使用が挙げられる。
具体的には、スケルトンナノ粒子1が立方体フレーム構造でシリカフレーム間に孔1bを有するため、液体等が通過しやすくて通過抵抗性が低く、また、孔1bを介しての内包物質と外部物質との接触が容易である。このため、図7に示されるように、スケルトンナノ粒子1に酸化チタン等の光触媒やガス接触触媒等の不安定な触媒を内包させることで、シリカフレーム間の孔1bによって、内包させた触媒と外部の水・有機溶媒等の溶媒や被触媒物質とが接触することになる。故に、触媒担持体として触媒反応を有効に進めることができる。
特に、従来の、触媒担持体としてのメソポーラスシリカでは、液体等の通過抵抗性が高いために触媒の分解性能の向上に限界があるのに対し、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1においては、立方体フレームの各面の表面積に対して各孔1bの占める割合が3%〜94%の範囲内であることから、通過抵抗性が低くて触媒担持体として触媒の分解性能を向上させることが可能である。更に、被触媒物質がシリカフレームと親和性のある場合には、触媒反応効率の向上が見込める。
【0090】
また、スケルトンナノ粒子1の立方体フレーム状構造による液体等の通過性を利用したフィルタとしての使用が挙げられる。
例えば、浄水濾過フィルタとして、図8(a)に示すように、外側に大きいサイズのスケルトンナノ粒子1(例えば、200nmの外径を有する粒子)を配置し、内側にそれよりも小さいサイズのスケルトンナノ粒子1(例えば、100nmの外径を有する粒子、40nmの外径を有する粒子)を順に配置することで、スケルトンナノ粒子1により細菌等の不純物の通過が阻止され、スケルトンナノ粒子1の孔1bには細菌等の不純物以外の液体がその液圧によって通過することになり、細菌等の不純物が濾過される。
また、マスクや空気フィルタとして、図8(b)に示すように、外側から内側にかけて徐々に粒子径のサイズを小さくしてスケルトンナノ粒子1を配置(例えば、外側から順に、200nm、100nm、40nmの外径を有するスケルトンナノ粒子1を配置)した積層型のフィルタとすることで、スケルトンナノ粒子1により花粉やインフルエンザウィルスの通過を阻止することも可能である。殊に、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1によれば、立方体フレームの各面の表面積に対して各孔1bの占める割合が3%〜94%の範囲内と孔1bの開口率が高いことから、従来の繊維積層の隙間式フィルタやプレートに穿孔したフィルタと比較して、花粉やインフルエンザウィルスの通過を高度に阻止しつつ、外気を十分に通過させることができ、マスク使用時における息苦しさが改善される。また、使用後は焼却処分が可能であり、有機繊維を使用した場合のように焼却時にガスを発生しないので、環境保全への貢献にも繋がる。
【0091】
更に、粒子径サイズによる液体等の通過性の違いを利用した電解液保持体としての使用が挙げられる。
従来のリチウムポリマー電池におけるミクロ相分離ゲル(MPSD)においては、乾燥によって電解質が染み出してしまうという問題点があった。
そこで、例えば、図9に示されるように、200nmの外径を有するスケルトンナノ粒子1の周りに100nmの外径を有するスケルトンナノ粒子1、更にその周りに40nmの外径を有するスケルトンナノ粒子1を配置して、200nmの外径を有するスケルトンナノ粒子1にリチウムイオン電池の電解液を充填することで、イオンの移動量は確保しつつ、100nm及び40nmの外径を有するスケルトンナノ粒子1によって、電解質の外部への流出を抑制し電解質を保持することができる。
【0092】
続いて、スケルトンナノ粒子1の立方体フレーム状構造を利用した超撥水性膜・超親水性膜としての使用が挙げられる。
ここで、スケルトンナノ粒子1を樹脂中に分散させて基板上に塗布(配列)すると、その凝集性により基板上にナノサイズの凹凸を形成させることができる。そして、スケルトンナノ粒子1によって基板上に凹凸を形成した場合、スケルトンナノ粒子1が立方体フレーム状構造であるため、図10に示されるように、基板表面上に近づいた液状物やゲル状物に対しての接触がスケルトンナノ粒子1のシリカフレーム部分のみとなり、接触面積が少なくなる。このため、超撥水性膜・超親水性膜として有効である。殊に、本実施の形態に係るスケルトンナノ粒子1によれば、コア粒子となる炭酸カルシウム粒子2の孔径、また、有機溶媒やシリコンアルコキシド6や塩基触媒の量を調節することにより、スケルトンナノ粒子1の外径を容易に制御できることから、基板上に形成させるナノサイズの凹凸の大きさの制御も簡単であり、容易に超撥水性表面・超親水性表面を形成することができる。
【0093】
また、スケルトンナノ粒子1によって基板上に凹凸を形成することで、基板に対して斜めに入射する可視光線はスケルトンナノ粒子1のシリカフレーム部分で屈折・散乱させることができ、基板に対して略垂直に入射する可視光線はスケルトンナノ粒子1の孔1bによって通過させることができることから、反射防止膜としての利用が挙げられる。
【0094】
その他、スケルトンナノ粒子1のシリカフレーム部分による屈折・散乱の光拡散性を利用してシワを目立たなくしたり、肌の質感の変化をさせて光学的なリフトアップ効果を演出したりする化粧品(例えば、口紅、ファンデーション)としての応用が挙げられる。
また、スケルトンナノ粒子1の孔1bに皮脂等を吸収させるように設計し皮脂吸収材としての応用や、更には、シリカ殻1aの表面改質によって親水性・疎水性を持たせて肌の皮脂のみを吸収し水分を残すことができる化粧品(例えば、油取紙)としての応用が挙げられる。
更に、スケルトンナノ粒子1の内包性を利用し、磁性・香料・インク・温度応答・発色・紫外線発光等を内包して運搬するマイクロカプセルとしての応用も可能であり、例えば、インク内包カプセルの場合には、レジスターの印字衝撃でカプセルを崩壊させ、内包インクを発色させるといった使用形態がある。
【0095】
このように、本実施の形態のスケルトンナノ粒子1及びその製造方法によれば、シリカ殻からなるナノ粒子の応用分野を更に広げることができ、多用途に使用可能である。
殊に、本実施の形態のスケルトンナノ粒子1によれば、上述の如く、シリカフレームの幅Wが3nm〜115nmの範囲内であることから、外部環境によって容易に破壊されることがなく、また、透明性が高い。よって、シリカ殻の高い強度や、高い透明度が要求される用途にも対応可能である。また、立方体フレームの各面の表面積に対して各孔1bの占める割合が3%〜94%の範囲内であることから、様々な用途に使用し易い。
【0096】
ここで、本発明者らは、更に、生産の効率化を図るために、即ち、シリカ形成工程における反応時間(処理時間)がスケルトンナノ粒子1の回収率等の諸性質に及ぼす影響について調べるために、シリカ形成工程における反応時間(処理時間)を様々変えて実施例8乃至実施例11並びに比較例3及び比較例4とし、製造試験を実施した。
【0097】
各実施例及び比較例においては、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2の表面を有機酸3で被覆してなる有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4として、ロジン酸被覆炭酸カルシウム粒子(白石カルシウム(株)の製品名「ホモカルD(立方体状形態,平均一次粒子径:80nm)」)を用い、このロジン酸被覆炭酸カルシウム粒子2.50gを、39.96ml(31.53g)の有機溶媒としてのエタノール5に超音波ホモジナイザーを用いて5分間分散させ、更に、シリコンアルコキシド6としてのテトラエトキシシラン(TEOS)(信越化学工業(株)製の「KBE−04」)1.61ml(1.50g)を添加して振とう器(150rpm、25℃)で10分間分散させ、これに、塩基触媒としての28%試薬アンモニア(NH4OH)水8を0.86gと蒸留水7を8.43ml(8.43g)加え、振とう器(150rpm、25℃)において後述の表2に示す各反応時間でゾル‐ゲル反応を進行させ、シリカ形成工程(ステップS2)を実施した。
【0098】
続いて、反応懸濁液を遠心分離(3000rpm、10分間)して上澄みを除去した後、エタノール洗浄を行い、再び遠心分離(3000rpm、10分間)し、蒸留水で洗浄、更に遠心分離(3000rpm、10分間)を行った後、3N塩酸水溶液4.71mlと蒸留水188.40mlを加えて、炭酸カルシウム2を溶解させ、炭酸カルシウム溶解工程(ステップS3)を実施した。
その後は、遠心分離(3000rpm、10分間)を行い、蒸留水で洗浄後、エタノール置換して80℃で一晩乾燥させた。
そして、このようにして得られた生成物の回収量の測定及び顕微鏡観察を行った。
【0099】
以上説明した実施例8乃至実施例11並びに比較例3及び比較例4における配合内容を表2に纏めて示す。また、実施例8乃至実施例11並びに比較例3及び比較例4における各反応時間で製造実験を行った結果を纏めて表3に示し、得られた生成物の顕微鏡写真を図12乃至図14に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
表3及び図12乃至図14に示したように、比較例3及び比較例4において、シリカ形成工程における反応時間が30分以下では、立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子が生成されなかったのに対し、実施例8乃至実施例11において、係る反応時間を60分以上にすると、立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子1が生成された。そして、実施例8と実施例9乃至実施例12の比較から、シリカ形成工程における反応時間を90分以上にすると、スケルトンナノ粒子1の回収率が顕著に高くなった。
また、図13乃至図14に示した実施例8乃至実施例12に係るスケルトンナノ粒子1の顕微鏡写真から、反応時間によって生成されるスケルトンナノ粒子1の粒子形態、具体的には、シリカフレームの幅Wや、シリカフレームに囲まれた孔1bの大きさ(開口径A)等が変化することはなかった。
これより、シリカ形成工程における反応時間は、スケルトンナノ粒子1の粒子形態に影響を与えることはなく、回収率に影響を与え、反応時間を90分以上にすることで、スケルトンナノ粒子1の回収率が高くなることが確認された。故に、スケルトンナノ粒子1の生産性を高めるためには、シリカ形成工程における反応時間を90分以上とすることが望ましい。
【0103】
ところで、上記実施の形態及び実施例においては、有機溶媒としてエタノール5を使用したが、シリカフレーム間に孔をする立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子を形成可能な有機溶媒について検討した結果を説明する。
本発明者らは、鋭意実験研究を重ねた結果、有機溶媒の種類によってシリカ形成粒子10の粒子形態が変化することを見出し、種々の有機溶媒を使用して実施例12乃至実施例17並びに比較例5及び比較例11とし製造実験を行った。なお、ここでの実施条件も、上述の各実施例及び比較例と同様に行った。
【0104】
即ち、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム(CaCO3 )粒子2の表面を有機酸3で被覆してなる有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4としてロジン酸被覆炭酸カルシウム粒子(白石カルシウム(株)の製品名「ホモカルD(立方体状形態,平均一次粒子径:80nm)」)を用い、このロジン酸被覆炭酸カルシウム粒子を、後述の表4に示す各種有機溶媒に超音波ホモジナイザーを用いて5分間分散させ、更に、シリコンアルコキシド6としてのテトラエトキシシラン(TEOS)(信越化学工業(株)の製品名「KBE−04」)を添加して振とう器(150rpm、25℃)で10分間分散させ、これに、塩基触媒としての28%試薬アンモニア(NH4OH)水8と蒸留水7を加え、振とう器(150rpm、25℃)において90分間反応(ゾル‐ゲル反応)させシリカ形成工程(ステップS2)を実施した。
【0105】
続いて、反応懸濁液を遠心分離(3000rpm、10分間)して上澄みを除去した後、エタノール洗浄を行い、再び遠心分離(3000rpm、10分間)し、蒸留水で洗浄、更に遠心分離(3000rpm、10分間)を行った後、3N塩酸水溶液4.71mlと蒸留水188.40mlを加えて、炭酸カルシウム2を溶解させ、炭酸カルシウム溶解工程(ステップS3)を実施した。
その後は、遠心分離(3000rpm、10分間)を行い、蒸留水で洗浄後、エタノール置換して80℃で一晩乾燥させた。
そして、このようにして得られた生成物の顕微鏡観察を行った。
【0106】
以上説明した実施例12乃至実施例17における各配合内容と各有機溶媒を使用して製造実験を行った結果を纏めて表4に、また、比較例5及び比較例11における各配合内容と各有機溶媒を使用して製造実験を行った結果を纏めて表5に示す。さらに、得られた生成物の顕微鏡写真等を図15乃至図21に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
表4、並びに、図15図16図18及び図19に示したように、実施例12乃至実施例17において、有機溶媒として、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノールのアルコール系、ケトン系のメチルエチルケトン、水への溶解性が高いエーテル系のジオキサンを使用することで、シリカフレーム間に孔をする立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子1を形成できることが明らかとなった。
これに対し、表5及び図17に示したように、比較例5及び比較例6において、同じアルコール系でもメタノールや1‐オクタノールでは、シリカ殻が立方体フレーム状の粒子形態とならず、シリカ殻の面で囲まれた立方体状形態の中空粒子が形成された。また、表5や図20に示したように、比較例7乃至比較例11において、ケトン系のアセトン、グリコールやジエチレングリコールのエチレングリコール系、水への溶解性が低いエーテル系のジエチルエーテル、極性非プロトン溶媒系のN,N‐ジメチルホルムアルデヒド(DMF)では、シリカフレーム間に孔を有する立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子1を形成できないことが確認された。
【0110】
さらに、図21に示したように、実施例12、実施例13及び実施例15の比較から、同じアルコール系でも形成されたスケルトンナノ粒子1において孔が占める割合(%)に違いがみられ、特に、1‐プロパノールを使用して形成された実施例13のスケルトンナノ粒子1は、エタノールを使用した実施例12のスケルトンナノ粒子1や1‐ブタノールを使用した実施例15のスケルトンナノ粒子1と比較して、孔1bが大きく、フレームが細い粒子形態であった。即ち、有機溶媒の種類によってスケルトンナノ粒子1の粒子形態が変化することが確認された。故に、有機溶媒の種類によっても、シリカフレームの幅Wや、シリカフレームに囲まれた孔1bの大きさ(開口径A)等の粒子形態を制御できることが可能である。
【0111】
なお、これらのことから、立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子1の形成には、有機溶媒の極性等が有機酸被覆炭酸カルシウム及びTEOSとの相互作用性(親和性・反応性)に関係していると考えられる。
そして、このように有機溶媒として、エタノール、1‐プロパノール、1‐ブタノールのアルコール系や、ケトン系のメチルエチルケトンや、エーテル系のジオキサンを使用した実施例12乃至実施例17においては、それらの有機溶媒によって有機酸3の一部が確実に溶解されるものの、それら有機溶媒の有機酸3に対する溶解性が小さく、また、炭酸カルシウム粒子2やシリコンアルコキシド6との相互作用性(親和性・反応性)が弱く、このため、有機酸3の溶解によって表出した炭酸カルシウム2のエッジ部分のみにシリコンアルコキシド6の加水分解によって生成したシリカ殻1aが吸着されやすく、シリカフレーム間に孔をする立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子1が形成されたと思われる。
これに対し、有機溶媒としてメタノール、1-オクタノールを使用した比較例5、比較例6においては、有機溶媒の有機酸3に対する溶解性が大きく、また、炭酸カルシウム粒子2やシリコンアルコキシド6との相互作用性(親和性・反応性)が強く、有機酸3の溶解によって表出した炭酸カルシウム粒子2の表面と有機溶媒の相互作用により、炭酸カルシウム粒子2の表面の大部分が有機溶媒に覆わる。そして、有機溶媒とシリコンアルコキシドとの相互作用によりシリコンアルコキシドの加水分解が促進され、炭酸カルシウム-有機溶媒、有機溶媒-シリコンアルコキシドの錯体形成によって炭酸カルシウム粒子2の表面全体にシリコンアルコキシド6の加水分解によって生じたシリカ殻1aの形成が促進され、シリカ殻の面で囲まれた立方体状形態の中空粒子が形成されたと思われる。
【0112】
これより、本発明を実施する場合においては、有機溶媒としてエタノール5の他にも、プロパノール、ブタノール等のアルコール系、メチルエチルケトン等のケトン系、ジオキサン等のエーテル系を使用することができる。特に、アルコール系、ケトン系、エーテル系の溶媒では、上記実施例12乃至実施例17に示したようにシリカ形成工程において短い反応時間でも炭酸カルシウムのエッジ部分のみにシリカ殻1aを形成できることから、反応効率が高く生産効率の向上を図ることができる。また、アルコール系、ケトン系、エーテル系の溶媒はいずれも入手や取扱いが容易であり、かつ、比較的安価である。したがって、低コスト化を図ることも可能である。
【0113】
なお、シリカ殻の面で囲まれた立方体状形態の中空粒子と比較して、立方体フレーム状をなすスケルトンナノ粒子1においては、シリカフレーム間に孔1bを有することから透明性や光透過性がより高く、入射する光がシリカフレームによって高頻度で屈折・散乱して光拡散性・光散乱性が高い。このため、例えば、スケルトンナノ粒子1のLEDライト等への照明器具への使用において、シリカ殻の面で囲まれた立方体状形態の中空粒子を使用した場合より、発光効率の向上が期待できる。
【0114】
ところで、上記実施の形態においては、シリカ殻1aの表面を保護して生産効率の向上や分散性の向上を図るために変性シリコーンオイル9を混合しているが、本発明者らの鋭意実験研究の結果、シリカ殻1aの表面を保護するシリコーンオイルとして、アミノ変性シリコーンオイル(シリコーンオイルのメチル基の一部をアミノアルキル基に置換えた構造をもつもの)を使用することで、スケルトンナノ粒子1において回収率が高くなり、かつ、低い粒度分布が得られることが確認されている。
【0115】
即ち、本発明者らの実験研究によって、アミノ変性シリコーンオイルは、シリカ形成粒子10の表面(シリカ殻1a)への反応性がよく、アミノ変性シリコーンオイルを使用することで、シリカ形成粒子10形成後の洗浄処理において、フィルタリングしたり、凝集剤を用いたりすることなく、遠心分離によって目的とするシリカ形成粒子10のみを沈降分離させ、ゾル‐ゲル法により生成された目的とするシリカ形成粒子10以外の中実シリカ粒子等の副産物を容易に除去することができ、さらに、炭酸カルシウム2溶解後の洗浄処理においても、フィルタリングしたり、凝集剤を用いたりすることなく、遠心分離によって目的とするスケルトンナノ粒子1のみを沈降分離させ、塩酸処理による炭酸カルシウム2の溶解で生じた塩酸カルシウム(残留カルシウム塩)等を容易に除去することができ、スケルトンナノ粒子1のみが効率よく回収されて、高い回収率でスケルトンナノ粒子1が得られることが確認されている。
【0116】
また、アミノ変性シリコーンオイルはシリカ形成粒子10表面(シリカ殻1a)への反応性が高く、アミノ変性シリコーンオイルによってシリカ殻1aの表面が高度に保護されることから、シリカ形成粒子10同士の凝集が防止され、このシリカ形成粒子10内部の炭酸カルシウム2を溶解することによって得られるスケルトンナノ粒子1においてもその凝集が防止されて、粒度分布が低く、分散性が高いものとなる。
さらに、このアミノ変性シリコーンオイルは、シリカ形成工程におけるシリカ殻1a形成の反応(ゾル‐ゲル反応)と同時の混合により、シリカ形成粒子10のシリカ殻1aの表面を保護できることから、製造効率もよい。
【0117】
これより、シリコーンオイルとしては、アミノ変性シリコーンオイルが好ましい。より好ましくは、側鎖型モノアミン変性シリコーンオイルである。
【0118】
ところで、本発明を実施する場合には、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2として、市販の炭酸カルシウム粒子、例えば、白石工業株式会社の合成炭酸カルシウム(製品名「Brilliant(一次粒子径:150nm)」)等を購入し、これにロジン酸等の有機酸3を被覆処理して乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4とすることもできるが、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4として、市販の有機酸被覆炭酸カルシウム粉末を用いることも可能である。このような市販の有機酸被覆炭酸カルシウム粉末としては、例えば、白石工業(株)のロジン酸被覆炭酸カルシウム粒子(製品名「ホモカルD(一次粒子径:80nm)」、「白艶華DD(一次粒子径:50nm)」、「白艶華O(一次粒子径:30nm)」等)がある。
そして、乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4の大きさは、顕微鏡法により測定した外径が26nm〜280nmの範囲内であることが好ましい。これによって、最終的に得られるスケルトンナノ粒子1の顕微鏡法により測定した外径を30nm〜300nmの範囲内とすることができる。
【0119】
このように、本発明においては、乾燥粉末状態の炭酸カルシウム粒子2の表面を有機酸3で被覆した乾燥粉末状態の有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4が使用されるため、原料の変質が少なくて長期間安定しており、品質管理にコストがかからない。特に、有機酸被覆炭酸カルシウム粒子4としてのロジン酸被覆炭酸カルシウムは安価に入手できる。さらに、アルコール系、ケトン系、エーテル系等の有機溶媒も、長期間安定しており、品質管理にコストがかからないうえ、低価格で入手できる。
故に、原料が安価であり、製造コストもかからないことから、低コストで製造でき、さらに、原料の変質も少ないことから生産効率の向上を図ることができる。
【0120】
なお、本発明を実施するに際しては、スケルトンナノ粒子の製造方法における各成分の配合量・配合比、反応時間、反応温度等についても、スケルトンナノ粒子の製造方法のその他の工程についても、上記各実施の形態及び各実施例に限定されるものではない。
また、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
図1
図2
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図3
図4
図12
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図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21