特許第5669324号(P5669324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669324
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】四重極型質量分析計
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20150122BHJP
   H01J 41/04 20060101ALI20150122BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   H01J49/42
   H01J41/04
   G01N27/62 V
   G01N27/62 B
   G01N27/62 G
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-500502(P2012-500502)
(86)(22)【出願日】2011年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2011000834
(87)【国際公開番号】WO2011102117
(87)【国際公開日】20110825
【審査請求日】2012年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-32100(P2010-32100)
(32)【優先日】2010年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊昭
(72)【発明者】
【氏名】黒川 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】由利 努
(72)【発明者】
【氏名】田中 領太
【審査官】 石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−533338(JP,A)
【文献】 特開2004−349102(JP,A)
【文献】 特開昭62−150645(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/121173(WO,A1)
【文献】 特開平11−040099(JP,A)
【文献】 特開2006−266854(JP,A)
【文献】 特開平07−272671(JP,A)
【文献】 特表2007−521616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
G01N 27/62
H01J 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体内のガス成分を分析し得る四重極型質量分析計であって、
試験体に着脱自在に装着し得るセンサ部を備え、
この試験体に対するセンサ部の装着方向を上方として、センサ部は、下端に設けられた所定形状の支持体と、この支持体上に設けられた、フィラメント及びグリッドを有して上記ガスをイオン化するイオン源と、このイオン源上に設けられた、4本の柱状電極を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、この四重極部上に設けられた、相対する電極間に直流電圧と交流電圧とを印加することで四重極部を通過した所定のイオンを捕集するイオン検出部と、を備え、
前記イオン源は、前記四重極部と前記支持体との間に配置され、
前記イオン検出部は、前記四重極部の試験体側に配置されることを特徴とする四重極型質量分析計。
【請求項2】
前記イオン検出部の上方に、このイオン検出部を遮蔽する遮蔽手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の四重極型質量分析計。
【請求項3】
前記支持体は、イオン源を囲うようにして、イオン源の上方まで延びる筒状壁を備え、この筒状壁の上端に、試験体に固定可能なフランジが設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の四重極型質量分析計
【請求項4】
記イオン源のフィラメント及びグリッドの自由端は、前記支持体を上下方向に貫通して固定された接続端子に配線なしに接続されていることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の四重極型質量分析計。
【請求項5】
前記四重極部の各電極は絶縁性のホルダで保持され、このホルダが前記支持体に着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の四重極型質量分析計。
【請求項6】
前記イオン検出部は、前記ホルダまたは支持体に着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項記載の四重極型質量分析計。
【請求項7】
前記支持体上に、イオン源のグリッドを挟んでイオン検出部に対向配置された板状のイオンコレクタを更に備え、試験体内の全圧を測定可能としたことを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の四重極型質量分析計。
【請求項8】
前記支持体上に、フィラメント及びグリッドを有するイオン源を囲繞するように配置された筒状のイオンコレクタを更に備え、試験体内の全圧を測定可能としたことを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の四重極型質量分析計。
【請求項9】
大気圧から、前記フィラメントから熱電子を放出し得るまでの圧力範囲内で圧力測定できる真空計を更に備えることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の四重極型質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器等の試験体内のガス成分を分析(分圧測定)するために用いられる四重極型質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばスパッタリングや蒸着による成膜等の真空プロセスにおいては、プロセス時の圧力だけでなく、処理室たる真空チャンバ内に残留する気体の組成が膜質等に大きな影響を与える場合がある。このような残留する気体の組成(ガス成分)を分析するために、四重極型質量分析計が従来から用いられている。
【0003】
四重極型質量分析計は、試験体に着脱自在に装着されるセンサ部と、制御ユニットとから構成されている。試験体に対するセンサ部の装着方向を上方として、センサ部は、下端に設けられた円板状の支持体と、支持体上に設けられ、イオンを捕集するイオン検出部と、このイオン検出部上方に設けられ、4本の円柱状の電極を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、この四重極部上に設けられ、フィラメント及びグリッドを有して上記ガスをイオン化するイオン源とを備えたものが従来から使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
通常、イオン源のフィラメント及びグリッドや四重極部等は、フィラメント及びグリッド間でイオン化電圧を印加したり、四重極部にて電場を形成したりするため、支持体に設けられた接続端子との間で配線により接続され、この接続端子を介して制御ユニットから電力供給されるようになっている。フィラメント、グリッドや四重極部と、接続端子との間の配線としては、絶縁を確保するために銅等の金属素線をセラミック製カバーで被覆したものが用いられる。このため、上記従来例のように、支持体側からイオン検出部、四重極部、そしてイオン源と順に配置されていると、長い配線が複数本必要になり、製造コストが高くなる。その上、センサ部の組付も面倒になるという不具合がある。
【0005】
ところで、上記フィラメントとしては、近年、Ir線の表面を酸化イットリウムで覆ってなるものがタングステン製のものに代えて用いられており、フィラメント寿命が大幅に延びている。このようにフィラメント寿命が延びたことで、真空雰囲気中の分子や原子が付着してグリッドが汚染され、この汚染に起因して感度低下を起こすことが顕在化してきた。
【0006】
汚染されたグリッドをクリーニングする方法としては、フィラメントとグリッドとの間に電圧(300V程度)を印加してグリッド表面に電子を衝突させてその表面に付着した分子、原子を除去する電子衝突方式と、グリッドに電流を流してジュール熱にてその表面に付着した分子、原子を蒸発除去する所謂通電加熱方式とが一般に知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
通電加熱方式を採用する場合、通電加熱用の直流電源からの正負の出力とグリッドとの間で閉回路をつくる必要がある。この場合、支持体に設けた接続端子との間で更に別個の配線により接続することになるが、上記従来例では、グリッドまでの配線が長くなる。このため、電力損失が大きくて通電加熱に適さず、また、四重極型質量分析計の構造が更に複雑になってその組付が一層困難となる。結果として、従来においては通電加熱方式が殆ど採用されていない。
【0008】
他方、電子衝突方式を採用する場合、グリッド表面に電子を衝突させる間、質量分析計による質量分析(測定)ができず、しかも、高電圧で電子を衝突させるときの圧力が高いと、放電を引き起こす虞があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−349102号公報
【特許文献2】特開2000−39375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、グリッドの通電加熱が実現でき、感度低下を防止して高精度なガス成分の分析が可能な低コストの四重極型質量分析計を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様の四重極型質量分析計は、試験体内のガス成分を分析し得る四重極型質量分析計であって、試験体に着脱自在に装着し得るセンサ部を備え、この試験体に対するセンサ部の装着方向を上方として、センサ部は、下端に設けられた所定形状の支持体と、この支持体上に設けられた、フィラメント及びグリッドを有して上記ガスをイオン化するイオン源と、このイオン源上に設けられた、4本の柱状電極を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、この四重極部上に設けられた、相対する電極間に直流電圧と交流電圧とを印加することで四重極部を通過した所定のイオンを捕集するイオン検出部と、を備え、前記イオン源は、前記四重極部と前記支持体との間に配置され、前記イオン検出部は、前記四重極部の試験体側に配置されることを特徴とする。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、イオン源を支持体側に位置させたことで、イオン源用の高価な配線の長さを短くできる。この場合、イオン検出部への配線は、従来例のものとは逆に長くなるが、イオン電流検知用の配線は1本あれば済む。このため、上記従来例のものと比較して、その構造を簡単にできて組付が容易になるだけでなく、低コスト化を図ることができる。
【0013】
ところで、上記第1の態様のように、イオン検出部が、支持体から最も離れた位置、つまり、ガス分析しようとする試験体内の雰囲気に接する位置に存すると、試験体内に存在するガス成分のイオンまでもがイオン検出部にて検出される虞があり、試験体によっては、高精度の分析ができない虞がある。このため、前記イオン検出部上に、このイオン検出部を遮蔽する遮蔽手段を更に備える構成を採用することが好ましい。
【0014】
また、本発明の第1の態様においては、イオン源を囲うようにして、イオン源の上方まで延びる筒状壁を備え、この筒状壁の上端に、試験体に固定可能なフランジが設けられている構成を採用することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の第2の態様の四重極型質量分析計は、試験体内のガス成分を分析し得る四重極型質量分析計であって、試験体に着脱自在に装着し得るセンサ部を備え、この試験体に対するセンサ部の装着方向を上方として、このセンサ部は、下端に設けられた所定形状の支持体と、この支持体上に配置された、フィラメント及びグリッドを有して上記ガスをイオン化するイオン源と、支持体上でイオン源に隣接配置された、4本の円柱状電極を上下方向に対して直交する方向に平行にかつ周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、支持体上で四重極部に隣接配置された、相対する電極間に直流電圧と交流電圧とを印加することでこの四重極部を通過した所定のイオンを捕集するイオン検出部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の態様によれば、支持板上にイオン源、四重極部及びイオン検出部を並設して構成したため、上記第1の態様と同様に、イオン源用の高価な配線の長さを短くでき、しかも、イオン検出部への配線の長さは上記従来例と同じにできる。このため、上記従来例のものと比較して、その構造を簡単にできて組付が容易になるだけでなく、更なる低コスト化を図ることができる。
【0017】
ここで、上記センサ部を試験体に装着する際、このセンサ部を管体内に収容し、この状態で試験体に装着することがある。このような場合、上記第2の態様の構成を採用すれば、第1の態様のものと比較して管体の長さを短くでき、ひいては、試験体に装着したときのこの試験体からの突出量が少なくなり、有利である。
【0018】
上記第1及び第2の両態様においては、前記イオン源のフィラメント及びグリッドの自由端は、前記支持体を上下方向に貫通して固定された接続端子に配線なしに接続されていることが好ましい。これによれば、フィラメント及びグリッドの両自由端を支持体の接続端子に所謂直付けすることで、イオン源用の高価な配線は不要にでき、その上、配線ロスがなくなることで効率よくグリッドの通電加熱を行う構成が実現できる。結果として、イオン源用の配線を不要にできて配線からの脱ガスの影響が少なくなることと、通電加熱により効率よくグリッドの汚染を防止できることとが相俟って、高感度にて精度よくガス成分の分析(分圧測定)を行うことが可能になる。
【0019】
また、センサ部の組付や取扱を容易にするためには、前記四重極部の各電極は絶縁性のホルダで保持され、このホルダが前記支持体に着脱自在に取り付けられていることが有利である。
【0020】
この場合、前記イオン検出部は、前記ホルダまたは支持体に着脱自在に取り付けられていることが有利である。
【0021】
さらに、前記支持体上に、イオン源のグリッドを挟んでイオン検出部に対向配置された板状のイオンコレクタを更に備え、試験体内の全圧を測定可能とする構成を採用することができる。
【0022】
他方、前記支持体上に、フィラメント及びグリッドを有するイオン源を囲繞するように配置された筒状のイオンコレクタを更に備え、試験体内の全圧を測定可能とした構成を採用することもできる。
【0023】
上記によれば、1個の四重極型質量分析計にて、ガス成分の分析に加えて試験体の全圧をも測定でき、しかも、イオンコレクタを支持体に設けた接続端子に直付けすれば、イオン電流検知用の高価な配線が不要となり、低コストで全圧測定用の構成を実現できる。また、上記第1の態様の構成を採用し、四重極部やイオン検出部が支持体に着脱自在な構成を採用すれば、これらの部品を離脱するだけで、試験体の全圧を測定するための真空計として構成でき、用途に応じて真空計として、または、真空計を備えた四重極型質量分析計として使い分けることができる。
【0024】
なお、イオンコレクタを板状に形成した場合、その表面が汚染され易く、感度の低下を招き易い一方で、イオンコレクタを円筒状に形成した場合、軟X線の影響等により低い圧力まで高精度で全圧を測定できない虞がある。このため、イオンコレクタの種類は、用途に応じて適宜選択する必要がある。
【0025】
さらに、本発明においては、大気圧から、前記フィラメントから熱電子を放出し得るまでの圧力範囲内で圧力測定できる真空計を更に備える構成を採用するのがよい。これによれば、試験体を真空排気した後、ガス分析を開始するまでの試験体の圧力を測定するために、ピラニ真空計等の測定手段が不要になり、本発明の四重極型質量分析計を真空計のない試験体に装着して分析を行うときに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施形態に係る四重極型質量分析計の構成を説明する図。
図2図1に示す四重極型質量分析計の変形例の構成を説明する図。
図3】(a)は、図1に示す四重極型質量分析計の他の変形例の構成を説明する図、(b)は、他の変形例に係る四重極型質量分析計を分離した状態を示す図。
図4】四重極型質量分析計の制御ユニットの変形例の構成を説明する図。
図5】本発明の第2の実施形態に係る四重極型質量分析計の構成を説明する図。
図6図5のVI−VI線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、試験体TPを真空チャンバとし、この試験体TPのテストポートTP1に装着して試験体TP内のガス成分を分析する場合を例に本発明の第1の実施形態の四重極型質量分析計を説明する。
【0028】
図1を参照して、MA1は四重極型質量分析計であり、この四重極型質量分析計MA1は、センサ部M1と制御ユニットCとをから構成される。センサ部M1は円板状の支持体1を有する。支持体1は、アルミやステンレス等の金属製であり、その上面外周縁部にはOリング(シール手段)11が設けられている。以下、試験体TPに対するセンサ部M1の装着方向を上方として説明する。
【0029】
支持体1上にはイオン源2が設けられている。イオン源2は、支持体1の中央部上方に配置されたらせん状のグリッド21と、このグリッド21の周囲に配置された、Ir線の表面を酸化イットリウムで覆ってなるフィラメント22とから構成されている。グリッド21とフィラメント22との両自由端は、支持体1を上下に貫通して立設したグリッド用の接続端子23a、23b及びフィラメント用の接続端子24a、24bにそれぞれ接続(直付け)されている。
【0030】
イオン源2上には、4本の円柱状の電極31が周方向に所定間隔で配置され、相対する電極31が電気的に結合された四重極部3が設けられている。各電極31は、絶縁材料からなる筒状のホルダ32にてその各電極31の上部がホルダ32から上方に突出するように支持されている。ホルダ32の下面には、配線33を介して電極31にそれぞれ接続された2個のソケット式コネクタ34が設けられている。そして、支持体1に立設した2本の接続端子35a、35bに対して、上方からホルダ32の各ソケット式コネクタ34に嵌着することで、接続端子35a、35bにて、ひいては支持体1にホルダ32が着脱自在に支持されると共に電気的に接続される。これにより、センサ部M1の構造が簡素化される。なお、ホルダ32の支持体1での支持方法は、上記に限定されるものではなく、支持体1に別個の支持部材(図示せず)を設けて、これにホルダ32が支持されるようにしてもよい。
【0031】
四重極部3の各電極31の内側上方には、イオン検出部4が設けられている。イオン検出部4は、イオン源2によりイオン化され、四重極部3の各電極31間を通ってその上方に到達するガス分子を捕集するファラデーカップから構成されている。そして、イオン検出部4からの配線41もまた、ホルダ32の下面に設けたソケット式コネクタ42に接続され、上記と同様、支持体1に立設した接続端子43に接続されるようになっている。なお、配線33、41としては、銅等の金属素線をセラミック製カバーで被覆したものが用いられる。
【0032】
他方、制御ユニットCは、コンピュータ、メモリやシーケンサ等を備えた制御部51を備え、制御部51は、後述の各電源の作動、電源回路中のスイッチング素子の切換や電流計にて測定された電流値の図示省略のディスプレイへの出力等を統括制御する。また、制御ユニットCは、フィラメント用の電源E1と、試験体TP内のガスをイオン化するイオン化用の電源E2とを備える。電源E1からの出力(正)の一方はフィラメント用の接続端子24bに接続され、電源E2からの出力(正)の一方はグリッド用の一方の接続端子23aに接続されている。そして、両電源E1、E2からの他方(負)の出力が相互に接続されていると共に、この負の出力に、フィラメント用の他の接続端子24aからの配線が接続されている。また、制御ユニットCは、グリッド21の通電加熱用の電源E3とスイッチング素子SW1とを備える。電源E3からの一方(負)の出力は接続端子23bに接続され、その他方の出力(正)は、スイッチング素子SW1を介して電源E2からの出力の他方に接続されている。
【0033】
さらに、制御ユニットCは、電気的に結合された電極31それぞれに直流電圧と高周波電圧とを印加するDC+RF電源E4を備え、DC+RF電源E4の出力が、相対する電極31のうちいずれか一方にそれぞれ接続されている(図1中、一方のみを表示)。また、制御ユニットCは、イオン加速用の電源E5と中心電場形成用の電源E6とを直列に備え、電源E5からの一方の出力が、電源E2からの一方(正)の出力に接続され、その他方の出力がアース接地されている。さらに、制御ユニットCには、イオン検出部4に捕集されてアースへと流れるイオン電流値を測定する電流計52が付設されている。
【0034】
上記第1の実施形態の四重極型質量分析計MA1は、試験体内の全圧をも測定できるようになっている。即ち、支持体1上に、グリッド21を挟んでイオン検出部4に対向配置されるように、板状のイオンコレクタ61が設けられている。イオンコレクタ61は、支持体1に上下に貫通して設けた接続端子62に直付けされている。また、制御ユニットCには、イオンコレクタ61に捕集されてアースへと流れるイオン電流値を測定する電流計63が付設されている。
【0035】
次に、上記四重極型質量分析計MA1の使用例を説明する。四重極型質量分析計MA1の使用に際しては、センサ部M1の周囲に、両端にフランジP1、P2を備えた管体Pを取り付ける。即ち、センサ部M1の上方から管体Pを外挿し、管体Pの下側のフランジP2を支持体1の上面外縁部に面接触させ、この状態でクランプ等により固定する。これにより、Oリング11により真空シールされる。この状態で、管体Pの上側のフランジP1を、Oリング12を介して試験体TPのテストポートTP1のフランジTP2に面接触させ、この状態でクランプ等により固定することでセンサ部M1の取付が完了する。なお、管体Pを用いることなく、センサ部M1を直接テストポートTP1に装着することもできる。そして、試験体TP内を真空ポンプにより真空引きし、所定真空圧に達すると、ガス分析を開始する。
【0036】
先ず、電源E1によりフィラメント22に直流電流を流してこのフィラメント22を赤熱させ、熱電子を放出させる。そして、電源E2により、グリッド21に正電圧を印加することで、放出された熱電子を引き込む。このとき、熱電子と衝突したフィラメント22周辺の気体原子、分子から正イオンが生じる。そして、グリッド21と電極31との間に電源E5から所定電圧を印加することで、イオン化されたガス成分のイオンがグリッド21側から四重極部3へと引き込まれる。上記状態では、スイッチング素子SW1はオフ(遮断)に保持されている。また、イオンコレクタ61を通って流れるイオン電流値が電流計63で測定され、そのときの全圧をも測定できる。
【0037】
四重極部3の4本の電極31には、DC+RF電源E4によって、アース電位より電源E6による中心電場電圧だけ浮上した直流電圧を重畳した所定の交流電圧が印加される。これにより、四重極部3中をイオン群が通過する時、これらが振動しながら通過し、交流電圧や周波数に応じて、一定のイオンのみが安定振動して通過することで、イオン検出部4へと到達する。そして、イオン検出部4に付設された電流計52にてイオン電流が測定され、そのときのイオン電流値が制御部51に出力される。また、上記直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちつつ交流電圧を直線的に変化させることでスペクトルがとられ、イオン電流値から試験体内のガス成分が分析される。この場合、特定のガス成分についてイオン電流値から算出した指示値を表示することもできる。
【0038】
次に、例えば、感度が低下して特定のガス成分における指示値が所定範囲を超えて変動(低下)してくると、制御部51によりグリッド21が汚染されたと判断される。グリッド21の汚染が判断されると、制御部51によりスイッチング素子SW1がオン(接続)され、電源E3により2A程度の電流がグリッド21に供給されて所定時間だけ通電加熱が行われる。これにより、グリッド21の表面に付着した分子、原子が蒸発除去される。
【0039】
以上説明したように、第1の実施形態の四重極型質量分析計MA1によれば、イオン源2を支持体1側に位置させ、フィラメント22及びグリッド21の両自由端を支持体1に立設した接続端子23a、23b、24a、24bに直付けすることで、高価な配線は不要にできる。この場合、イオン検出部4への配線は、従来例のものとは逆に長くなるが、イオン電流検知用の配線は1本あれば済む。このため、上記従来例のものと比較してその構造を簡単にできてその組付が容易になるだけでなく、低コスト化をも図ることができる。その上、配線ロスがなくなることで効率よくグリッド21の通電加熱を行う構成が実現できる。結果として、イオン源2用の配線を不要にできて配線からの脱ガスの影響がなくなることと、通電加熱により効率よくグリッドの汚染を防止できることとが相俟って、高感度にて精度よく残留ガス成分の分析を行うことが可能になる。
【0040】
また、上記第1の実施形態においては、四重極部3の各電極31をホルダ32で保持させ、イオン検出部4をホルダ32に着脱自在に取付けると共に、このホルダ32にソケット式コネクタ34、42を設けておき、支持板1に立設した接続端子35a、35b、43に嵌着すれば、組付けられる構造を採用したため、その組付や取扱を一層容易にでき、有利である。さらに、1個の四重極型質量分析計MA1にて、ガス成分の分析(分圧測定)に加えて試験体の全圧をも測定でき、しかも、イオンコレクタ61を支持板1に設けた接続端子62に直付けしたため、イオン電流検知用の高価な配線が不要となり、低コストで全圧測定用の構成を実現できる。
【0041】
以上、上記第1の本実施形態の四重極型質量分析計MA1について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態のものでは、センサ部3と制御ユニットCとを別体としているが、同一の筐体に一体に組み込んで構成することもできる。また、上記実施形態のものでは、イオン検出部4が支持体1側から最も離れた位置、つまり、ガス分析しようとする試験体内の雰囲気に接する位置に存することとなる。このような場合、試験体内に存在するイオンまでもがイオン検出部4にて検出される虞があり、試験体TPによっては、高精度のガス成分の分析ができない場合がある。
【0042】
そこで、第1の実施形態の変形例の四重極型質量分析計のセンサ部M2は、図2に示すように、試験体内に存在するイオンからこのイオン検出部4を遮蔽するようにイオン検出部4の上部を覆う板状の遮蔽部材7を更に備える。なお、遮蔽部材7の形状は、板状のものに限定されるものではなく、半球状のもの等を用いることもできる。
【0043】
また、上記第1の実施形態のものにおいては、板状のイオンコレクタ61を設けて試験体の全圧を測定し得るものを説明したが、板状のものとした場合、その表面が汚染され易く、感度の低下を招き易い。そこで、上記変形例のセンサ部M2は、図2に示すように、筒状のイオンコレクタ610を備える。それに加えて、センサ部M2は、大気圧から、熱電子がフィラメント22から放出され得る圧力までの圧力範囲内で圧力測定できるようにピラニ真空計8を更に備える。これにより、試験体を真空排気した後、ガス分析を開始するまでの試験体の圧力を測定するために、他の真空計が不要になり、上記センサ部M2を、真空計を持たない試験体に装着してガス成分の分析を行うときに有利である。なお、ピラニ真空計8の作動を制御する回路は制御ユニットCに内蔵される。
【0044】
さらに、上記実施形態のものにおいては、支持体1が円板状のものを例に説明したが、これに限定されるものではない。上記第1の実施形態の他の変形例に係るセンサ部M3では、図3(a)及び(b)に示すように、支持板10が、平板からなる中央の基部10aと、この基部10aの外周に立設した筒状壁部10bと、この筒状壁部10bの上端に形成したフランジ10cとから構成されている。
【0045】
基部10aには、グリッド用の接続端子23a、23bやフィラメント用の接続端子24a、24bが設けられる。また、フランジ10c上面は、接続端子23a、23bに接続されたグリッド21や接続端子24a、24bに接続されたフィラメント22より上方に位置する。これにより、四重極部3やイオン検出部4を離脱させれば、試験体の全圧を測定するための真空計(電離真空計)として構成される(図3(b)参照)。
【0046】
また、上記第1の実施形態のものにおいては、1つの制御ユニットCとしたものを例に
説明したが、これに限定されるものではない。図4を参照して説明すれば、変形例に係る
制御ユニットは、試験体内の全圧等を測定する主ユニットC1と、試験体内のガス成分を
分析する従ユニットC2とを連結して構成されている。即ち、主ユニットC1は第1の筐
体C11を有し、第1の筐体C11には、電力供給を行う電源部C12と、制御ユニット
の作動を制御するCPU等の制御部C13と、イオン源2への電供給を行うイオン電源
部C14と、イオンコレクタ61、610に捕集されたイオンの電流値を測定する電流検
出回路C15とを備える。他方、主ユニットC1に通信自在に接続された従ユニットC2
は、第2の筐体C21を有し、第2の筐体C21には、四重極部3の電極31に直流電圧
と高周波電圧とを印加する電源部C22と、イオン検出部4に捕集された、イオンの電流
値を測定する電流検出回路C23とを備える。これにより、四重極型質量分析計MA1の
センサ部M1、M2、M3を真空計として使用する場合には、それに必要な制御ユニット
のみで使用できる。
【0047】
次に、図5及び図6を参照して、第2の実施形態の四重極型質量分析計MA2のセンサ部M4の構成について説明する。なお、同一の部材または要素については同一の符号を用いるものとし、また、制御ユニットCの構成は同一とする。
【0048】
センサ部M4は、円板状の支持体100を有する。支持体100は、アルミやステンレス等の金属製であり、その上面外周縁部にはOリング(シール手段)11が設けられている。以下、試験体TPに対するセンサ部M4の装着方向を上方として説明する。支持体100上にはイオン源2が設けられている。イオン源2は、支持体100径方向一側でこの支持体100に平行に配置されたらせん状のグリッド21と、このグリッド21の中央空間を貫通して配置された、Ir線の表面を酸化イットリウムで覆ってなるフィラメント22とから構成されている。グリッド21とフィラメント22との両自由端は、支持体100を上下に貫通して立設したグリッド用の接続端子23a、23b及びフィラメント用の接続端子24a、24bにそれぞれ接続(直付け)されている。
【0049】
イオン源2に隣接して支持体100の径方向内側には環状のフォーカス電極FPが配置されている。フォーカス電極FPは、支持体100を上下に貫通して立設したグリッド用の接続端子FP1に直付けされ、この接続端子FP1は、制御ユニットCに設けられた電源に接続されている。そして、ガス分析の際にフォーカス電極FPに所定の直流電圧を印加することで、四重極部3に入射するイオンの拡散を抑制するようになっている。
【0050】
フォーカス電極FPに隣接して支持板100の径方向内側には、4本の円柱状の電極31が周方向に所定間隔でかつ支持体100に平行に配置され、相対する電極31が電気的に結合された四重極部300が設けられている(図6参照)。各電極31は、絶縁材料製で下側が開口した箱状のホルダ320にて保持され、このホルダ320が支持体100に着脱自在に取り付けられている。そして、相対する各電極31のうち2本の電極は、支持体100に立設した2本の接続端子35a、35bに配線Wによりそれぞれ電気的に接続されている。
【0051】
四重極部3に隣接して支持体100の径方向他側には、イオン検出部4が設けられている。イオン検出部4は、四重極部300の各電極31間を通ってその上方に到達するガス分子を捕集するファラデーカップから構成されている。イオン検出部4もまた、支持体100に立設した接続端子40に接続(直付け)されている。また、グリッド21を挟んでイオン検出部4に対向配置されるように、板状のイオンコレクタ61が設けられている。イオンコレクタ61は、支持体1に上下に貫通して設けた接続端子62に直付けされている。
【0052】
四重極型質量分析計MA2の使用に際しては、上記と同様に、センサ部M4の周囲に、
両端にフランジP1、P2を備えた管体Pが取り付けられる。これにより、上記センサ部
M4を試験体TPに装着した場合、第1の態様のものと比較して管体Pの長さを短くでき、ひいては、試験体TPに装着したときのこの試験体TPからの突出量が少なくなり、有利である。また、上記第2の実施形態によれば、支持体100上にイオン源2、四重極部300及びイオン検出部4を並設して構成したため、配線が不要となり、その構造を簡単にできて組付が容易になるだけでなく、更なる低コスト化を図ることができる。
【符号の説明】
【0053】
MA1、MA2…四重極型質量分析計、M1〜M4…センサ部、C…制御ユニット、1、10、100…支持体、11…シール手段、2…イオン源、21…グリッド、22…フィラメント、3…四重極部、31…電極、32…ホルダ、4…イオン検出部、35a、35b、43…接続端子、E1〜E6…電源、61、610…イオンコレクタ(全圧測定用)、7…遮蔽部材、8…(ピラニ)真空計
図1
図2
図3
図4
図5
図6