【実施例】
【0063】
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
(製造例1)
ヒトTRPA1をコードするcDNA〔配列番号:1(GenBankアクセッション番号:NM_007332)に示される塩基配列の63位〜3888位のポリヌクレオチド〕を、哺乳動物細胞用ベクター〔インビトロジェン社製、商品名:pcDNA3.1(+)〕のクローニングサイトに挿入し、ヒトTRPA1発現ベクターを得た。得られたヒトTRPA1発現ベクター1μgと、遺伝子導入用試薬〔インビトロジェン社製、商品名:PLUS Reagent(プラスリージェント)、カタログ番号:11514−015〕6μlとを混合し、混合物Iを得た。また、遺伝子導入用カチオン性脂質〔インビトロジェン社製、商品名:リポフェクタミン(登録商標)、カタログ番号:18324−012〕4μlと、血清使用量低減培地〔インビトロジェン社製、商品名:OPTI−MEM(登録商標)I Reduced−Serum Medium(カタログ番号:11058021)200μlとを混合し、混合物IIを得た。
【0065】
また、5体積%二酸化炭素の雰囲気中、37℃に維持された直径35mmのシャーレ上の10質量%FBS含有DMEM培地中において、5×10
5細胞のHEK293細胞を70%のコンフルエンシーになるまで培養した。
【0066】
得られた細胞培養物に、前記混合物Iと混合物IIとを添加することにより、HEK293細胞に前記ヒトTRPA1発現ベクターを導入し、TRPA1発現細胞を得た。
【0067】
(製造例2)
製造例1において、ヒトTRPA1をコードするcDNAの代わりにヒトTRPV1をコードするcDNA〔配列番号:3(GenBankアクセッション番号:MN_080704.3)に示される塩基配列の276位〜2795位のポリヌクレオチド〕を用いたことを除き、製造例1と同様にしてTRPV1発現細胞を得た。
【0068】
(製造例3)
製造例1において、ヒトTRPA1をコードするcDNAの代わりにヒトTRPM8をコードするcDNA〔GenBankアクセッション番号:NM_024080.4に示される塩基配列の41位〜3355位のポリヌクレオチド〕を用いたことを除き、製造例1と同様にしてTRPM8発現細胞を得た。
【0069】
(製造例4)
製造例1において、ヒトTRPA1をコードするcDNAの代わりにヒトTRPV2をコードするcDNA〔GenBankアクセッション番号:NM_016113.3に示される塩基配列の368位〜2662位のポリヌクレオチド〕を用いたことを除き、製造例1と同様にしてTRPV2発現細胞を得た。
【0070】
(実施例1)
(1)TRPA1発現細胞による評価
前記製造例1で得られたTRPA1発現細胞を、細胞内カルシウムイオン測定用試薬であるFURA 2−AM(インビトロジェン社製)を最終濃度5μMで含む10質量%ウシ胎仔血清含有DMEM培地中、室温で60分間インキュベーションすることにより、前記TRPA1発現細胞にFURA 2−AMを導入し、FURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を得た。
【0071】
得られたFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を循環定温チャンバー付蛍光測定装置〔浜松ホトニクス(株)製、商品名:ARGUS−50〕の各チャンバーに入れた。その後、チャンバー中のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を、溶媒A〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMグルコース、10mMヘペス塩酸緩衝液(pH7.4)〕で洗浄した。
【0072】
つぎに、洗浄後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに、試料として、アルコール水溶液を還流し、FURA 2−AM導入TRPA1発現細胞とアルコール水溶液とを混合した。なお、前記アルコール水溶液として、200mMエタノール水溶液、500mMエタノール水溶液、1Mエタノール水溶液、5Mエタノール水溶液、200mMジプロピレングリコール水溶液、500mMジプロピレングリコール水溶液、1Mジプロピレングリコール水溶液、200mMプロピレングリコール水溶液、500mMプロピレングリコール水溶液、1Mプロピレングリコール水溶液、200mM1,3−ブチレングリコール水溶液、500mM1,3−ブチレングリコール水溶液または1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた。
【0073】
その後、チャンバーにおいて、励起波長340nmにおけるTRPA1発現細胞に導入され、かつ細胞内のカルシウムイオンに結合したFURA 2−AMに基づく蛍光の強度(以下、「蛍光強度
340nm」という)および励起波長380nmにおけるTRPA1発現細胞に導入されたFURA 2−AMに基づく蛍光の強度(以下、「蛍光強度
380nm」という)を測定した。
【0074】
測定された蛍光強度
340nmおよび蛍光強度
380nmから、Δ蛍光強度比
アルコールを算出した。前記Δ蛍光強度比
アルコールは、下記式(IV):
【0075】
【数4】
【0076】
に基づいて算出した。
【0077】
また、アルコール水溶液の代わりにTRPA1に対する既知のアゴニストであるアリルイソチオシアナート(20μMアリルイソチオシアナート水溶液)を用いたことを除き、前記アルコール水溶液を用いた場合と同様にしてΔ蛍光強度比
アゴニストを算出した。前記Δ蛍光強度比
アゴニストは、下記式(V):
【0078】
【数5】
【0079】
に基づいて算出した。
【0080】
算出されたΔ蛍光強度比
アルコールとΔ蛍光強度比
アゴニストとから、Δ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを算出した。
【0081】
実施例1において、各試料とΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストの値との関係を示すグラフを
図1に示す。
【0082】
図1において、試料番号1は200mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号2は500mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号3は1Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号4は5Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号5は200mMジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号6は500mMジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号7は1Mジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号8は200mMプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号9は500mMプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号10は1Mプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号11は200mM1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号12は500mM1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストおよび試料番号13は1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを示す。
【0083】
図1に示された結果から、エタノール水溶液(試料番号1〜4)、ジプロピレングリコール水溶液(試料番号5〜7)、プロピレングリコール水溶液(試料番号8〜10)および1,3−ブチレングリコール水溶液(試料番号11〜13)のいずれのアルコール水溶液を用いた場合であっても、アルコール水溶液におけるアルコールの濃度に依存して、TRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストが大きくなっていることがわかる。これらの結果から、TRPA1を活性化させて細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることが知られているアリルイソチオシアナートと同様に、エタノール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールは、TRPA1を濃度依存的に活性化させ、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることがわかる。
【0084】
(2)TRPV1発現細胞による評価
前記(1)において、製造例1で得られたTRPA1発現細胞の代わりに製造例2で得られたTRPV1発現細胞を用い、アゴニストとして、TRPV1に対する既知のアゴニストであるカプサイシン(1μMカプサイシン水溶液)を用いたことを除き、前記(1)と同様にして、Δ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを算出した。
【0085】
実施例1において、各試料とΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストの値との関係を示すグラフを
図2に示す。
【0086】
図2において、試料番号1は200mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号2は500mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号3は1Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号4は5Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号5は200mMジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号6は500mMジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号7は1Mジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号8は200mMプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号9は500mMプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号10は1Mプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号11は200mM1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号12は500mM1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストおよび試料番号13は1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを示す。
【0087】
図2に示された結果から、エタノール水溶液(試料番号1〜4)、ジプロピレングリコール水溶液(試料番号5〜7)、プロピレングリコール水溶液(試料番号8〜10)および1,3−ブチレングリコール水溶液(試料番号11〜13)のいずれのアルコール水溶液を用いた場合であっても、濃度に依存して、TRPV1発現細胞におけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストが大きくなっていることがわかる。これらの結果から、TRPV1を活性化させて細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることが知られているカプサイシンと同様に、エタノール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールは、TRPV1を濃度依存的に活性化させ、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることがわかる。
【0088】
(比較例1)
実施例1の(1)において、製造例1で得られたTRPA1発現細胞の代わりに、製造例3で得られたTRPM8発現細胞を用い、アゴニストとして、TRPM8に対する既知のアゴニストであるメントール(1mMメントール水溶液)を用いたことを除き、前記(1)と同様にしてΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを算出した。
【0089】
比較例1において、各試料とΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストの値との関係を示すグラフを
図3に示す。
【0090】
図3において、試料番号1は1Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号2は1Mジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号3は1Mプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号4は1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを示す。
【0091】
図3に示された結果から、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれにおけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト(
図1および2)と比べて、TRPM8発現細胞におけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストは、エタノール水溶液、ジプロピレングリコール水溶液、プロピレングリコール水溶液および1,3−ブチレングリコール水溶液のいずれのアルコール水溶液を用いた場合であっても、著しく小さいことがわかる。これらの結果から、エタノール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールは、TRPM8をほとんど活性化させず、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させないことがわかる。
【0092】
(比較例2)
実施例1の(1)において、製造例1で得られたTRPA1発現細胞の代わりに、製造例4で得られたTRPV2発現細胞を用い、アゴニストとして、TRPV2に対する既知のアゴニストであるリソフォスファチジルコリン(30μMリソフォスファチジルコリン水溶液)を用いたことを除き、前記実施例1の(1)と同様にして、Δ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを算出した。
【0093】
比較例2において、各試料とΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストの値との関係を示すグラフを
図4に示す。
【0094】
図4において、試料番号1は1Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号2は1Mジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号3は1Mプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号4は1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを示す。
【0095】
図4に示された結果から、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれにおけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト(
図1および2)と比べて、TRPV2発現細胞におけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストは、エタノール水溶液、ジプロピレングリコール水溶液、プロピレングリコール水溶液および1,3−ブチレングリコール水溶液のいずれのアルコール水溶液を用いた場合であっても、著しく小さいことがわかる。これらの結果から、エタノール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールは、TRPV2をほとんど活性化させず、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させないことがわかる。
【0096】
以上説明したように、エタノールおよび炭素数2〜6の多価アルコールは、TRPA1およびTRPV1の両方を活性化させるが、TRPM8およびTRPV2を活性化させないことがわかる。したがって、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞の両方を用いて、エタノールまたは炭素数2〜6の多価アルコールによりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象と、エタノールまたは炭素数2〜6の多価アルコールによりTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象とを測定することにより、エタノールおよび炭素数2〜6の多価アルコールによる刺激を抑制する物質を評価することができることが示唆される。
【0097】
(実施例2)
実施例1の(1)において、前記溶媒Aで洗浄した後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに、アルコール水溶液の代わりに、被験物質と1Mジプロピレングリコール水溶液との混合物を還流したことを除き、実施例1の(1)と同様にして蛍光強度
340nmおよび蛍光強度
380nmを測定した。なお、前記被験物質として、TRPチャネルに対する既知のアンタゴニストであるルテニウムレッド〔シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製〕、TRPA1に対してブロッカーとして作用し、かつTRPV1を活性化させる物質であるカンファー〔シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製〕、TRPV1に対するアンタゴニストであるカプサゼピン〔シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製〕およびマルチトール〔(株)林原生物化学研究所製〕を用いた。各混合物中における被験物質の濃度は、それぞれ、ルテニウムレッドが10μM、カンファーが5mM、カプサゼピンが10μM、マンニトールが5mMとした。測定された蛍光強度
340nmおよび蛍光強度
380nmから、Δ蛍光強度比
aを算出した。前記Δ蛍光強度比
aは、下記式(VI):
【0098】
【数6】
【0099】
に基づいて算出した。
【0100】
また、実施例1の(1)において、前記溶媒Aで洗浄した後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに、アルコール水溶液の代わりに、1Mジプロピレングリコール水溶液を還流したことを除き、実施例1の(1)と同様にして、蛍光強度
340nmおよび蛍光強度
380nmを測定した。測定された蛍光強度
340nmおよび蛍光強度
380nmから、Δ蛍光強度比
bを算出した。前記Δ蛍光強度比
bは、下記式(VII):
【0101】
【数7】
【0102】
に基づいて算出した。
【0103】
算出されたΔ蛍光強度比
aおよびΔ蛍光強度比
bを用い、ジプロピレングリコールによるTRPA1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する被験物質による抑制率を、式(VIII):
【0104】
【数8】
【0105】
に基づき算出した。実施例2において、各試料と抑制率との関係を示すグラフを
図5に示す。
【0106】
図5において、試料番号1はルテニウムレッドを用いた場合の抑制率、試料番号2はカンファーを用いた場合の抑制率、試料番号3はカプサゼピンを用いた場合の抑制率、試料番号4はマンニトールを用いた場合の抑制率を示す。
【0107】
一方、前記FURA 2−AM導入TRPA1発現細胞の代わりに、FURA 2−AM導入TRPV1発現細胞を用いたことを除き、前記と同様にして、Δ蛍光強度比
aおよびΔ蛍光強度比
bそれぞれを算出した。算出されたΔ蛍光強度比
aおよびΔ蛍光強度比
bを用い、ジプロピレングリコールによるTRPV1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する被験物質による抑制率を、前記式(VIII)に基づき算出した。実施例2において、各試料と抑制率との関係を示すグラフを
図6に示す。
【0108】
図6において、試料番号1はルテニウムレッドを用いた場合の抑制率、試料番号2はカンファーを用いた場合の抑制率、試料番号3はカプサゼピンを用いた場合の抑制率、試料番号4はマンニトールを用いた場合の抑制率を示す。
【0109】
図5および
図6に示された結果から、ルテニウムレッドを用いた場合、ジプロピレングリコールによるTRPA1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する抑制率およびジプロピレングリコールによるTRPV1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する抑制率がいずれも40%以上となっていることがわかる。これに対して、カンファー、カプサゼピンまたはマンニトールを用いた場合には、ジプロピレングリコールによるTRPA1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する抑制率およびジプロピレングリコールによるTRPV1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する抑制率のいずれかまたは両者が20%以下となっていることがわかる。
【0110】
したがって、これらの結果から、被験物質のうち、ルテニウムレッドは、エタノールまたは炭素数2〜6の多価アルコールによる刺激に対して最も高い抑制効果を示すことが示唆される。
【0111】
以上の結果から、被験物質と、エタノールまたは多価アルコールとを、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれに接触させ、該エタノールまたは多価アルコールによりTRPA1およびTRPV1それぞれを介して引き起こされる生理学的事象を測定することにより、簡便な操作で、当該被験物質がアルコール刺激抑制物質であるか否かを評価することができることがわかる。また、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞を用いることの代わりに、TRPA1およびTRPV1を共発現するTRPA1−TRPV1共発現細胞を用いた場合であっても、エタノールまたは多価アルコールによりTRPA1およびTRPV1それぞれを介して引き起こされる生理学的事象を測定することができるため、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞を用いる場合と同様に、簡便な操作で、当該被験物質がアルコール刺激抑制物質であるか否かを評価することができることがわかる。
【0112】
(試験例1)
(1)TRPA1発現細胞による評価
実施例1の(1)において、前記溶媒Aで洗浄した後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに、アルコール水溶液として、1mMメタノール水溶液、1mMエタノール水溶液、1mMプロパノール水溶液、1mMブタノール水溶液、1mMペンチルアルコール水溶液、1mMヘキシルアルコール水溶液、1mMヘプチルアルコール水溶液または1mMオクチルアルコール水溶液を還流したことを除き、実施例1の(1)と同様にしてΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを算出した。なお、1mMヘプチルアルコール水溶液は、前記溶媒Aによって、1Mヘプチルアルコールエタノール水溶液を1/1000倍のヘプチルアルコール濃度となるように希釈した溶液である。また、1mMオクチルアルコール水溶液は、前記溶媒Aによって、1Mオクチルアルコール水溶液を1/1000倍のオクチルアルコール濃度となるように希釈した溶液である。
【0113】
試験例1において、各試料とΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストとの関係を示すグラフを
図7に示す。
【0114】
図7において、試料番号1は1mMメタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号2は1mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号3は1mMプロピルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号4は1mMブチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号5は1mMペンチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号6は1mMヘキシルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号7は1mMヘプチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号8は1mMオクチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを示す。
【0115】
図7に示された結果から、炭素数7〜8のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合(試料番号7〜8)、炭素数の増加に伴って、TRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストが大きくなっており、しかも、Δ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストが0を大きく超えていることがわかる。
【0116】
したがって、これらの結果から、炭素数7〜8のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合、TRPA1発現細胞に接触させるアルコールの量が1mMであっても、当該アルコールによるTRPA1の活性化を良好に検出することができることがわかる。
【0117】
(2)TRPV1発現細胞による評価
前記(1)において、製造例1で得られたTRPA1発現細胞の代わりに製造例2で得られたTRPV1発現細胞を用い、アゴニストとして、TRPV1に対する既知のアゴニストであるカプサイシン(1μMカプサイシン水溶液)を用いたことを除き、前記(1)と同様にして、Δ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを算出した。
【0118】
試験例1において、各試料とΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストとの関係を示すグラフを
図8に示す。
【0119】
図8において、試料番号1は1mMメタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号2は1mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号3は1mMプロピルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号4は1mMブチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号5は1mMペンチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号6は1mMヘキシルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号7は1mMヘプチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニスト、試料番号8は1mMオクチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストを示す。
【0120】
図8に示された結果から、炭素数1〜6のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合(試料番号1〜6)、TRPV1発現細胞におけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストがほぼ0であり、当該アルコールによるTRPA1の活性化を検出することが困難であることがわかる。これに対して、炭素数7〜8のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合(試料番号7〜8)、炭素数の増加に伴って、TRPV1発現細胞におけるΔ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストが大きくなっており、しかも、Δ蛍光強度比
アルコール/Δ蛍光強度比
アゴニストが0を大きく超えていることがわかる。
【0121】
したがって、これらの結果から、炭素数7〜8のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合、TRPV1発現細胞に接触させるアルコールの量が1mMであっても、当該アルコールによるTRPV1の活性化を良好に検出することができることがわかる。
【0122】
以上説明したように、炭素数7〜8のアルコールは、低濃度で用いた場合であっても、TRPA1およびTRPV1の両方を活性化させることがわかる。なお、炭素数9〜10のアルコールも、炭素数7〜8のアルコールの場合と同様の傾向を示した。したがって、炭素数7以上のアルコールによる刺激を抑制する物質の評価は、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれに接触させる当該アルコールの量が少なくても、高感度で行なうことができることが示唆される。