特許第5671854号(P5671854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671854
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】付加硬化型シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20150129BHJP
   C08L 83/14 20060101ALI20150129BHJP
   C08G 77/50 20060101ALN20150129BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/14
   !C08G77/50
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-151741(P2010-151741)
(22)【出願日】2010年7月2日
(65)【公開番号】特開2011-38084(P2011-38084A)
(43)【公開日】2011年2月24日
【審査請求日】2012年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2009-168785(P2009-168785)
(32)【優先日】2009年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】入船 真治
(72)【発明者】
【氏名】板垣 明成
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−523980(JP,A)
【文献】 特開平01−306471(JP,A)
【文献】 特開平09−208702(JP,A)
【文献】 特開2003−105089(JP,A)
【文献】 特表平06−502677(JP,A)
【文献】 西独国特許出願公開第03126343(DE,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0155089(US,A1)
【文献】 特開2005−343984(JP,A)
【文献】 特開2005−344102(JP,A)
【文献】 特開2011−038083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00− 83/16
C09D183/00−183/16
C09J183/00−183/16
C08G 77/00− 77/62
C07F 7/02− 7/21
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)成分
(A)直鎖状又は分岐状であり、分子封鎖末端が(R23SiO−基及び/又はH(R22SiO−基(R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基である。)で封鎖され、下記式(2)で示される構造単位の繰り返しよりなり、下記式(1)で表される構造単位を一分子中に少なくとも2個以上持ち、該構造単位相互がSiH基を含有しないシルアルキレン構造単位により連結されたオルガノハイドロジェンポリシロキサン(I)
0.1〜100質量部、
【化1】
(式中、R1は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、aは2以上の整数である。)
【化2】
(式中、R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、R3は非置換の炭素数2〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、bは1、2又は3である。R1,aは前記の通りである。)
(B)一分子中にアルケニル基を2個以上含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(II) 100質量部、
(C)付加反応触媒 触媒量
を含有することを特徴とする付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項2】
上記(B)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(II)が下記式(3)で示されることを特徴とする請求項1記載の付加硬化型シリコーン組成物。
【化3】
(式中、R5は非置換又は置換の炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基もしくはアリール基、又は炭素数8以下のアルケニル基であり、それぞれは異なってもよいが、少なくとも2個はアルケニル基である。また、n、m、pは正数、qは0≦q≦10の範囲にあり、かつ、n、m、p、qは25℃における(B)成分の粘度が10〜1,000,000mPa・sとなる数である。)
【請求項3】
(C)成分の付加反応触媒が白金族金属よりなる錯体であることを特徴とする請求項1又は2記載の付加硬化型シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤として有用な付加硬化型シリコーン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
付加硬化型シリコーン組成物は、硬化後の硬化物の特徴として耐熱性、耐候性、耐薬品性があり、電気絶縁性、低温特性、ガス透過性などにも優れた性質を示す。また、離型性、消泡性、撥水性において他の樹脂に見られない特異な性質を有しており、その界面特性を活かしてコーティング剤として幅広い分野で使用されている。
【0003】
この付加硬化型のシリコーン組成物は、通常、アルケニル基を含有したオルガノポリシロキサンをベースとし、架橋剤としてSiH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用し、付加反応を触媒化する金属錯体を硬化触媒として実用化されている。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造としては種々のものが提案されているが、直鎖状、分岐状に関わらず、側鎖のポリシロキサン単位としては、
【化1】
(式中、Rは炭素数1以上の有機基である。)
から構成されるのが最もよく使用されており、両末端基以外が式(4)のみで構成されるホモポリマー構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、式(4)と式(5)の基本単位がランダムに存在するコポリマー構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンに大別できる。
【0004】
この2種類のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの特徴として、硬化性においてはコポリマー構造を持つオルガノハイドロジェンポリシロキサンが優れており、一方、コーティング剤として使用する場合の基材への密着性はホモポリマー構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが優れており、それぞれの架橋剤には一長一短があり、性能を両立できる高機能な架橋剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3167874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたもので、密着性と硬化性とが両立し、プラスチック基材等に対するコーティング剤として好適な付加硬化型シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、付加硬化型のコーティング組成物中の架橋剤成分として、ブロック単位のSiH基が分子中に点在していると共に、分子中にシルアルキレン結合を持つあるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することにより、プラスチック基材に対する優れた密着性と硬化性を両立することができることを見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
即ち、本発明は下記付加硬化型シリコーン組成物を提供する。
請求項1:
下記(A)〜(C)成分
(A)直鎖状又は分岐状であり、分子封鎖末端が(R23SiO−基及び/又はH(R22SiO−基(R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基である。)で封鎖され、下記式(2)で示される構造単位の繰り返しよりなり、下記式(1)で表される構造単位を一分子中に少なくとも2個以上持ち、該構造単位相互がSiH基を含有しないシルアルキレン構造単位により連結されたオルガノハイドロジェンポリシロキサン(I)
0.1〜100質量部、
【化2】
(式中、R1は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、aは2以上の整数である。)
【化3】
(式中、R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、R3は非置換の炭素数2〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、bは1、2又は3である。R1,aは前記の通りである。)
(B)一分子中にアルケニル基を2個以上含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(II) 100質量部、
(C)付加反応触媒 触媒量
を含有することを特徴とする付加硬化型シリコーン組成物。
請求項2:
上記(B)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(II)が下記式(3)で示されることを特徴とする請求項1記載の付加硬化型シリコーン組成物。
【化4】
(式中、R5は非置換又は置換の炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基もしくはアリール基、又は炭素数8以下のアルケニル基であり、それぞれは異なってもよいが、少なくとも2個はアルケニル基である。また、n、m、pは正数、qは0≦q≦10の範囲にあり、かつ、n、m、p、qは25℃における(B)成分の粘度が10〜1,000,000mPa・sとなる数である。)
請求項3:
(C)成分の付加反応触媒が白金族金属よりなる錯体であることを特徴とする請求項1又は2記載の付加硬化型シリコーン組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の付加硬化型シリコーン組成物をコーティング剤として使用すると、プラスチック基材に対する優れた密着性と硬化性を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の付加硬化型シリコーン組成物は、(A)〜(C)成分を主成分としており、以下、各成分に関して詳しく説明する。
【0011】
本発明における(A)成分は、下記式(1)で表される構造単位を一分子中に少なくとも2個以上持ち、該構造単位相互がSiH基を含有しない構造単位により連結されたオルガノハイドロジェンポリシロキサン(I)である。
【0012】
【化5】
【0013】
式中、R1は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換した基、例えば、ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等から選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、硬化性の点からアルキル基又はアリール基であることが望ましい。aは2以上の整数であり、好ましくは2〜50であり、より好ましくは3〜30である。
【0014】
また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサン(I)の構造は、好ましくは直鎖状又は分岐状で、分子封鎖末端が(R23SiO−基及び/又はH(R22SiO−基(R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、R1と同様のものが例示される。)で封鎖されるものであればよい。
【0015】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記式(2)で示される構造単位の繰り返しによりなるものが好ましい。
【化6】
【0016】
式中、R2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換した基、例えば、ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等から選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、R3は非置換又は置換の炭素数2以上の2価炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であればよい。bは1、2又は3であり、従って、式(2)は下記式(2)−1〜3で示される。R1及びaは上記の通りである。
【0017】
【化7】
【0018】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの製造方法としては、本発明の構造が維持されている限り限定はないが、下記一般式(6)〜(9)
【化8】
(式中、R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基を示す。)
で示されるいずれかのシロキサンモノマーと両末端アルケニル基含有化合物を付加反応させて、上記両末端アルケニル基含有化合物の両末端アルケニル基に、上記式(6),(7)のいずれかのシロキサンモノマーのSiH基を付加させた後、この付加物とSiH基含有環状シロキサンを酸平衡化反応させる方法が好適に採用される。例えば、下記式(10)
【化9】
(Meはメチル基を示す。以下、同様。)
で示されるシロキサンモノマーと両末端アルケニル基含有化合物との反応により一分子中にシロキサン単位とシルアルキレン結合を持つ付加物1を合成し、更に1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン等のSiH基含有環状シロキサンと付加物1の酸平衡化反応により付加物1中のシロキサン部分に前出の式(1)を導入し、
【化10】
(式中、R1は上記の通り。)
がブロック単位で存在するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを得ることができる。
【0019】
なお、上記両末端アルケニル基含有化合物としては、1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、ノルボルナジエン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等が挙げられる。
【0020】
また、上記SiH基含有環状シロキサンとしては、下記式(11)
【化11】
(式中、R1は上記の通り。nは3以上の整数、好ましくは3〜10、より好ましくは3〜7の整数である。)
で示されるものが挙げられ、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、1,3,5,7,9,11−ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン等が例示される。
【0021】
ここで、上記式(6)〜(9)で示されるシロキサンモノマーと両末端アルケニル基含有化合物とのモル比は、上記式(6)〜(9)のSiHのモル数に対して、両末端アルケニル基含有化合物のアルケニル基のモル数が0.8〜1.2とすることが好ましい。付加反応は常法に従って行うことができ、白金、白金化合物等の付加反応触媒を使用するアルケニル基含有化合物の総量に対して白金量が1〜200ppm程度となるような量を用いて30〜150℃、特に50〜120℃の反応温度で行うことができる。なお、反応時間は通常30分〜24時間である。
【0022】
また、上記付加物とSiH基含有環状シロキサンとのモル比は、例えば、上記付加物の1モルに対してSiH基含有環状シロキサンが0.1〜50モルとなるような比率が好ましい。酸平衡化反応も常法によって行うことができ、酸としても酸平衡化反応で通常使用される酸を使用することができるが、酸として硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。酸の使用量は上記付加物とSiH基含有環状シロキサンの総量に対して0.01〜10質量%であればよい。酸平衡化反応の温度は5〜100℃、特に20〜70℃とすることが好ましく、反応時間は通常1〜48時間である。
【0023】
上記したオルガノハイドロジェンポリシロキサン(I)の配合量としては、(B)成分のアルケニル基含有ポリシロキサンの100質量部に対して、0.1〜100質量部であればよく、好ましくは1〜30質量部であればよい。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(B)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのアルケニル基のモル数に対する、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基のモル数が0.8〜3.5の範囲になるようにしてもよく、更に好ましくは1.2〜2.5である。
【0024】
本発明の(B)成分は、一分子中にアルケニル基を2個以上含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(II)であり、好ましくは下記式(3)で示されるものであればよい。
【0025】
【化12】
【0026】
式中、R5は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換した基、例えば、ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等から選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、又は、炭素数8以下の−(CH2r−CH=CH2(rは0〜6)で表されるアルケニル基であればよく、それぞれは異なってもよいが、少なくとも2個はアルケニル基である。また、n、m、pは正数、qは0≦q≦10の範囲にあり、かつ、n、m、p、qは25℃における(B)成分の粘度が10〜1,000,000mPa・sとなる数である。なお、粘度はB型回転粘度計のローターNo.1からNo.7を使用し、回転数0.5から100rpmの範囲で測定した値である。
【0027】
また、このアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(II)の配合量としては、(A)成分の配合基準となるため、100質量部であればよい。
【0028】
(C)成分は、触媒量の付加反応を触媒化するものであり、より好ましくは白金族金属よりなる錯体であればよい。この白金族金属系錯体としては公知の付加反応触媒が使用できる。このような白金族金属系触媒としては、例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系、ルテニウム系等の触媒が挙げられ、これらの中で特に白金系触媒が好ましく用いられる。この白金系触媒としては、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液又はアルデヒド溶液、塩化白金酸の各種オレフィン又はビニルシロキサンとの錯体等が挙げられる。これら白金族金属系触媒の添加量は触媒量であるが、経済的な点を考慮して(A),(B)成分のオルガノポリシロキサンの総量に対して、白金系金属量として5〜1,000ppmの範囲とすればよく、50〜200ppmとすることがより好ましい。
【0029】
本発明の付加硬化型シリコーン組成物は、上記成分の所定量を配合することによって得られるが、上記の各成分以外に、任意成分として、例えば白金族金属系触媒の触媒活性を制御する目的で、(D)成分として、各種有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン系化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等の反応制御剤がある。任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0030】
上記反応の制御剤として公知のものが使用できる。例えば、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−3−オール、フェニルブチノール等のアセチレン系アルコール、1−エチニル−1−シクロヘキサノール等のアセチレン系化合物、これらのアセチレン系化合物とアルコキシシラン又はシロキサンあるいはハイドロジェンシラン又はシロキサンとの反応物、テトラメチルビニルシロキサン環状体等のビニルシロキサン、ベンゾトリアゾール等の有機窒素化合物及びその他の有機リン化合物、オキシム化合物等が挙げられる。
【0031】
(D)成分の配合量は、組成物安定性が得られる量であればよく、一般に(A)〜(C)成分の総計に対して0.01〜10質量%とすればよく、好ましくは0.05〜5質量%使用される。
【0032】
本発明の付加硬化型シリコーン組成物には、必要に応じて、その他の任意成分を添加することができる。例えば、希釈溶剤、安定剤、耐熱向上剤、充填剤、顔料、レベリング剤、基材への密着性向上剤、帯電防止剤、消泡剤、非反応性オルガノポリシロキサンなどを添加してもよい。
【0033】
本発明の付加硬化型シリコーン組成物を塗布し、硬化皮膜を形成する基材としては、グラシン紙、クラフト紙、クレーコート紙等の紙基材、ポリエチレンラミネート上質紙、ポリエチレンラミネートクラフト紙等のラミネート紙、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド等の合成樹脂から得られるプラスチックフィルム、シート、アルミニウムなどの金属箔が挙げられる。
【0034】
上記基材に本発明の付加硬化型シリコーン組成物を塗布するには、ロール塗布、グラビア塗布、ワイヤードクター塗布、エアーナイフ塗布、ディッピング塗布等の公知の方法を用いることができる。塗布量としては0.01〜1,000g/m2とすればよく、塗膜の厚さとしては0.01〜1,000μm程度で、基材の全面又はコーティングが必要な箇所に部分的に塗布する。なお、上記シリコーン組成物の硬化は、50〜200℃で行うことが好ましく、この場合加熱時間が1秒〜10分とすることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、下記例において、表中の物性は、下記の試験法により測定されたものである。
【0036】
[硬化性]
シリコーン組成物を調製直後、ポリエチレンラミネート紙にシリコーン組成物を1.0g/m2となるように塗布し、120℃の熱風式乾燥機中で所定時間加熱し、形成された硬化皮膜を、指で数回擦り、くもり及び脱落の有無を目視にて判断し、硬化に要した時間(秒)で硬化性を示した。
【0037】
[密着性]
シリコーン組成物を調製直後、ポリエチレンラミネート紙にシリコーン組成物を1.0g/m2となるように塗布し、120℃の熱風式乾燥機中で30秒間加熱し、形成された硬化皮膜を室温で1日間保存した後、指で数回擦り、くもり及び脱落の有無を目視にて判断してこれを初期密着性とした。更にこの硬化皮膜を温度40℃、湿度90%の恒温恒湿糟中で7日間保存した後、硬化皮膜を指で数回擦り、くもり及び脱落の有無を目視にて判断してこれを経時密着性とした。
【0038】
[剥離力]
シリコーン組成物を調製直後、ポリエチレンラミネート紙にシリコーン組成物を1.0g/m2となるように塗布し、120℃の熱風式乾燥機中で30秒間加熱し、形成された硬化皮膜を室温で1日間保存した後、アクリル系粘着剤(BPS−5127(東洋インキ株式会社製))を塗布して100℃で3分間加熱処理した。次に、粘着剤を塗布して処理した面に、64g/m2上質紙を貼り合せ、5cm幅に切断し、更に室温で1日間エージングさせたものを試料とし、64g/m2上質紙を引っ張り試験機を用いて180°の角度で剥離速度0.3m/分で剥がし、剥離するのに要した力を測定して剥離力とした。
【0039】
[残留接着率]
シリコーン組成物を調製直後、ポリエチレンラミネート紙にシリコーン組成物を1.0g/m2となるように塗布し、120℃の熱風式乾燥機中で30秒間加熱し、形成された硬化皮膜を室温で1日間保存した後、得られたシリコーンセパレーターの表面に、ポリエステルテープ(ニットー31B(日東電工株式会社製商品名))を貼り合せ、1976Paの荷重をかけ、70℃で20時間加熱処理してから、このテープを剥がし、これをステンレス板に貼り付け、この処理したテープを、引っ張り試験機を用い、ステンレス板から剥離するのに要した力を初期剥離力試験と同様の方法で測定し、接着力(A)とした。
【0040】
同様に、このポリエステルテープ(ニットー31Bテープ)をテフロン(登録商標)板に貼り合せ、1,976Paの荷重をかけ、70℃で20時間加熱処理してから、このテープを剥がし、これをステンレス板に貼り付け、この処理したテープを、引っ張り試験機を用い、ステンレス板から剥離するのに要した力を初期剥離力試験と同様の方法で測定し、シリコーン硬化表面に触れていないブランクの接着力(B)とした。残留接着率は次の式から求めた。
残留接着率 = 接着力(A)/ ブランクの接着力(B)×100
【0041】
[実施例1]オルガノハイドロジェンポリシロキサン1の合成方法
撹拌装置,温度計,還流冷却器,滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、下記式(12)で示されるシロキサンモノマー1(186質量部)
【化13】
と溶媒としてのトルエン(100質量部)、白金触媒としてPtの含有率が0.5質量%トルエン溶液(0.5質量部)を混合し、65℃まで昇温し、次いで下記式(13)で示されるシロキサンモノマー2(326質量部)
【化14】
を少量ずつ添加し、添加終了後70℃で3時間反応させ、活性炭(3.0質量部)を添加して室温で8時間撹拌した後、活性炭をろ過し、反応溶液を90℃、30mmHgで、トルエン、揮発成分を留去して、シロキサンオリゴマー1(437質量部)を得た。次いで、撹拌装置,温度計,還流冷却器,滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコにこのシロキサンオリゴマー1(56質量部)と1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(103質量部)を仕込み、混合しながら、トリフルオロメタンスルホン酸(0.1質量部)を添加し、室温で10時間撹拌し、その後キョーワード500SH(0.9質量部)を添加し、更に、室温で4時間撹拌し、キョーワード500SHをろ過し、反応液を120℃、20mmHgで、未反応物を留去して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン1(135質量部)を得た。これは淡黄色透明の液体で、粘度22mm2/s、水素ガス発生量が245mL/gであった。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサン1はNMR分析により下記式(14)で表される構造のポリマーであることを確認した。
【化15】
(n1+n2+n3≒15)
【0042】
[付加硬化型シリコーン組成物の調製]
本発明の(A)成分に該当する上記により合成したオルガノハイドロジェンポリシロキサン1を3.4質量部、下記式(15)で表される本発明の(B)成分に該当する25℃における粘度が400mPa・sであり、かつアルケニル基量が0.02mol/100gであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン1を100質量部、
【化16】
エチニルシクロヘキサノール0.2質量部を均一に混合し、シリコーン混合物1を得た。この混合物1の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を2質量部(白金換算100ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物1を得た。このシリコーン組成物1を、前記の方法にて硬化性、密着性、剥離力及び残留接着率を測定した。その結果を表1に示した。
【0043】
[実施例2]オルガノハイドロジェンポリシロキサン2の合成方法
撹拌装置,温度計,還流冷却器,滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、1,5−ヘキサジエン(82質量部)と溶媒としてのトルエン(100質量部)、白金触媒としてPtの含有率が0.5質量%トルエン溶液(0.5質量部)を混合し、65℃まで昇温し、次いで下記式(13)で示されるシロキサンモノマー2(326質量部)
【化17】
を少量ずつ添加し、添加終了後70℃で3時間反応させ、活性炭(3.0質量部)を添加し、室温で8時間撹拌した後、活性炭をろ過し、反応溶液を90℃、30mmHgで、トルエン、揮発成分を留去して、シロキサンオリゴマー2(302質量部)を得た。次いで、撹拌装置,温度計,還流冷却器,滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコにこのシロキサンオリゴマー2(56質量部)と1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(103質量部)を仕込み、混合しながら、トリフルオロメタンスルホン酸(0.1質量部)を添加し、室温で10時間撹拌し、その後キョーワード500SH(0.9質量部)を添加し、更に、室温で4時間撹拌し、キョーワード500SHをろ過し、反応液を120℃、20mmHgで、未反応物を留去して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン2(132質量部)を得た。これは淡黄色透明の液体で、粘度21mm2/s、水素ガス発生量が248mL/gであった。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサン2はNMR分析により下記式(16)で表される構造のポリマーであることを確認した。
【0044】
【化18】
(n4+n5≒12)
【0045】
[付加硬化型シリコーン組成物の調製]
本発明の(A)成分に該当する上記により合成したオルガノハイドロジェンポリシロキサン2を3.4質量部、下記式(15)で表される本発明の(B)成分に該当する25℃における粘度が400mPa・sであり、かつアルケニル基量が0.02mol/100gであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン1を100質量部
【化19】
エチニルシクロヘキサノール0.2質量部を均一に混合し、シリコーン混合物2を得た。この混合物2の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を2質量部(白金換算100ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物2を得た。このシリコーン組成物2を、前記の方法にて硬化性、密着性、剥離力及び残留接着率を測定した。その結果を表1に示した。
【0046】
[実施例3]オルガノハイドロジェンポリシロキサン3の合成方法
撹拌装置,温度計,還流冷却器,滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、下記式(17)で示されるシロキサンモノマー3(186質量部)
【化20】
と溶媒としてのトルエン(100質量部)、白金触媒としてPtの含有率が0.5質量%のトルエン溶液(0.8質量部)を混合し、65℃まで昇温し、次いで下記式(18)で示されるシロキサンモノマー4(444質量部)
【化21】
を少量ずつ添加し、添加終了後100〜120℃で10時間反応させ、活性炭(3.0質量部)を添加し、室温で8時間撹拌した後、活性炭をろ過し、反応溶液を110℃,30mmHgでトルエン、揮発成分を留去して、シロキサンオリゴマー3(540質量部)を得た。
【0047】
次いで、撹拌装置,温度計,還流冷却器,滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、このシロキサンオリゴマー3(56質量部)と、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(103質量部)を仕込み、混合しながら、トリフルオロメタンスルホン酸(0.1質量部)を添加し、室温で10時間撹拌し、その後キョーワード500SH(0.9質量部)を添加し、更に、室温で4時間撹拌し、キョーワード500SHをろ過し、反応液を120℃,20mmHgで未反応物を留去して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン3(130質量部)を得た。
【0048】
これは淡黄色透明の液体で、粘度33mm2/s、水素ガス発生量が255mL/gであった。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサン3はNMR分析により下記構造のポリマー(19)であることを確認した。
【化22】
(n1+n2+n3+n4+n5≒20)
【0049】
[付加硬化型シリコーン組成物の調製]
本発明の(A)成分に該当する上記により合成したオルガノハイドロジェンポリシロキサン3を3.4質量部、下記式(15)で表される本発明の(B)成分に該当する25℃における粘度が400mPa・sであり、かつアルケニル基量が0.02mol/100gであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン1を100質量部
【化23】
エチニルシクロヘキサノール0.2質量部を均一に混合し、シリコーン混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を2質量部(白金換算100ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物3を得た。このシリコーン組成物3を、前記の方法にて硬化性、密着性、剥離力及び残留接着率を測定した。その結果を表1に示した。
【0050】
[比較例1]
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、下記式(20)で示される水素ガス発生量が340mL/gのオルガノハイドロジェンポリシロキサン2.1質量部、
【化24】
下記式(15)で表される25℃における粘度が400mPa・sであり、かつアルケニル基量が0.02mol/100gであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン1を100質量部、
【化25】
エチニルシクロヘキサノール0.2質量部を均一に混合し、シリコーン混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を2質量部(白金換算100ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物4を得た。このシリコーン組成物4を、前記の方法にて硬化性、密着性、剥離力及び残留接着率を測定した。その結果を表1に示した。
【0051】
[比較例2]
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして下記式(21)で示される水素ガス発生量が252mL/gのオルガノハイドロジェンポリシロキサン3.4質量部、
【化26】
下記式(15)で表される25℃における粘度が400mPa・sであり、かつアルケニル基量が0.02mol/100gであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン1を100質量部
【化27】
エチニルシクロヘキサノール0.2質量部を均一に混合し、シリコーン混合物を得た。この混合物の100質量部に、塩化白金酸とビニルシロキサンの錯塩を2質量部(白金換算100ppm)添加し、よく混合してシリコーン組成物5を得た。このシリコーン組成物5を、前記の方法にて硬化性、密着性、剥離力及び残留接着率を測定した。その結果を表1に示した。
【0052】
【表1】