【実施例1】
【0015】
〔ガラス基板収納容器10の構成〕
図1は本発明によるガラス基板収納容器の一実施例を示す分解斜視図である。
図1に示されるように、ガラス基板収納容器10は、複数のガラス基板が収納される収納容器本体20と、製造ラインの検査工程で使用される第1の蓋30と、出荷時に使用される第2の蓋40と、底部蓋50とを有する。尚、収納容器本体20、第1の蓋30、第2の蓋40、底部蓋50は、樹脂材(例えば、ポリプロピレン:Polypropylene等)により成形されている。ガラス基板の製造ラインの検査工程では、第1の蓋30を収納容器本体20に装着し、検査終了後の出荷時に第2の蓋40を収納容器本体20に装着する。このように、作業内容に応じて第1の蓋30と第2の蓋40とを選択的に装着することにより、後述する係止部112と被係止部45との摺接回数を削減できる。
【0016】
また、検査工程としては、後述する光散乱方式表面観察機によるガラス基板の主平面に付着した異物数を調べる検査工程1と、ガラス基板の主平面を検査員の目視により検査を行う検査工程2とがある。そして、検査工程1、2により合格(異物数が規定値以下のもの)したガラス基板は、収納容器本体20に収納される。検査工程1、2では、発塵の少ない第1の蓋30が使用される。その後の出荷工程では、所定数のガラス基板が収納された収納容器本体20には、第2の蓋40が使用され、第2の蓋40が収納容器本体20に係止された状態で出荷される。
【0017】
本実施例において、ガラス基板は、例えば磁気記録媒体用として用いられるもので、主平面部に磁気記録層が形成される前段階として、前述した技術背景の欄で説明したように各製造工程(工程1〜工程7)が行われた後、製品として出荷される。ガラス基板は、例えば、フロート法により形成されたSiO
2を主成分としており、例えば外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmの寸法形状に形成される。
【0018】
また、ガラス基板を磁気記録用媒体として使用する場合、主平面部に異物があると、磁気ヘッドが異物に接触してしまうので、ガラス基板の製造ラインにおいては、異物が主平面に付着することを防止することは重要である。
〔収納容器本体20の構成〕
図2Aは収納容器本体20の平面図である。
図2Bは収納容器本体をX方向からみた正面図である。
図2Cは収納容器本体をY方向からみた側面図である。
【0019】
図2A〜
図2Cに示されるように、収納容器本体20は、複数のガラス基板を収納する収納室60と、収納室60の上部に開口する上部開口70と、収納室60の下部に開口する下部開口80とを有する。収納室60のX方向の両側内壁には、所定間隔毎に複数の突部90が設けられている。隣り合う突部90間には、各ガラス基板Wが垂直状態に係合する収納溝92が形成されている。
【0020】
上部開口70の上側周縁部には、第1の蓋30又は第2の蓋40が嵌合することで隙間なく密閉される段部72が形成されている。また、下部開口80を囲む下側周縁部82は、底部蓋50が嵌合することで隙間なく密閉される。
【0021】
収納容器本体20は、収納室60のY方向側に対向する一対の側壁部62を有し、当該一対の側壁部62には、収納室60に収納されたガラス基板の主平面部を貫通するセンタ孔が露出する位置までほぼU字状に開口された側面開口110を有する。側面開口110は、上方の開口幅が下方の開口幅よりも大きい寸法に形成されたテーパ状傾斜面110aと、円弧形状に湾曲する湾曲面110bとを有し、第1の蓋30、第2の蓋40の側面閉塞部が上方から嵌合しやすい形状に形成されている。また、側面開口110の内周面は、後述するように第1の蓋30、第2の蓋40により密閉されるシール面として作用する。
【0022】
さらに、側面開口110の下方には、第2の蓋40を係止する蓋係止部112が下方に延在するように突出している。尚、蓋係止部112は、収納容器本体20のY方向の両側に設けても良いし、あるいは何れか一方の側壁部62に設ける構成としても良い。
【0023】
図3は収納容器本体10の縦断面図である。
図3に示されるように、複数の突部90は、収納容器本体20のX方向の両側内壁に沿うように形成されており、各内壁の湾曲部分には、ガラス基板Wの外径に応じた曲線を有する円弧形状の載置部100が設けられている。そして、収納室60に収納されたガラス基板W(
図3中、一点鎖線で示す)は、外周の下側端部の一部が収納室60のX方向の両側に配された載置部100に支持される。
【0024】
収納室60に収納されたガラス基板を取り出す際は、側面開口110を利用すると、ガガラス基板の主平面部に接触せずに、ガラス基板のセンタ孔に治具または指を差し込んで容易にガラス基板を上部開口70から取り出すことが可能になる。
【0025】
図4は収納室60の片側内壁を拡大して示す平面図である。
図4に示されるように、複数の突部90は、夫々横断面形状が台形に形成されており、隣り合う突部90間にはガラス基板W(
図4中、一点鎖線で示す)を1枚ずつ収納するための収納溝92が形成される。
【0026】
また、互いに隣接された一対の突部90は、所定の傾斜角度α(例えば、α=30°〜35°)を有する傾斜面94が形成されており、ガラス基板Wが各収納溝92に挿入される際、あるいはガラス基板Wを取出す際にガラス基板Wの主平面部に接触しないように形成されている。尚、収納溝92の最小幅(Y方向溝幅の最小値)は、ガラス基板Wの厚さよりも僅かに大きい幅寸法に形成されている。
【0027】
従って、ガラス基板Wは、収納室60の上方から収納溝92に挿入される際、外周縁部が両側の突部90の傾斜面94にガイドされて当該収納溝92の中間位置(最小幅部分)に収納される。
【0028】
図5はガラス基板収納容器の蓋装着状態を示す側面図である。
図5に示されるように、ガラス基板収納容器10は、検査工程でガラス基板を移動する場合又は保管する場合、収納容器本体20の上部開口70及び両側の側面開口110が第1の蓋30によって閉塞されている。また、出荷後は、第2の蓋40により収納容器本体20の上部開口70及び両側の側面開口110が閉塞される。これにより、空気中に浮遊する塵埃が収納室60に侵入することを防止しており、収納室60に収納されたガラス基板Wに塵埃が付着することを防止している。
【0029】
そして、収納室60にガラス基板を挿入する際、あるいは収納室60のガラス基板を取り出す際は、検査工程においては第1の蓋30が外されて収納容器本体20の上部開口70及び側面開口110が開放される。また、出荷後は、第2の蓋40が外されて収納容器本体20の上部開口70及び側面開口110が開放される。
【0030】
収納容器本体20の下部開口80は、下側周縁部82に嵌合された底部蓋50により閉塞されている。
〔第1の蓋30の構成〕
図6Aは第1の蓋の平面図である。
図6Bは
図6A中B−B線に沿う縦断面図である。
図6Cは
図6A中C−C線に沿う縦断面図である。
図6Dは
図6A中D−D線に沿う縦断面図である。
【0031】
図6A〜
図6Dに示されるように、第1の蓋30は、収納容器本体20の上部開口70を閉塞する上部閉塞部32と、側面開口110を閉塞する一対の側面閉塞部34とを有する。上部閉塞部32の周縁部下面側には、収納容器本体20の上部開口70の周縁部72に嵌合する嵌合部36が設けられている。側面閉塞部34は、上部閉塞部32のY方向の両端より下方に延在形成されており、側面開口110の内側に嵌合する側面嵌合部38と、側面開口110の周囲を覆うように延在形成されたフランジ部39とが設けられている。
【0032】
側面嵌合部38は、側面開口110のテーパ状傾斜面110aに対応した形状を有するテーパ状突部38aと、湾曲面110bに対応した形状を有する円弧状突部38bとを有する。側面嵌合部38は、テーパ状突部38aが側面開口110のテーパ状傾斜面110aに当接し、且つ円弧状突部38bが湾曲面110bに密着して収納室60を密閉する。
【0033】
従って、第1の蓋30は、後述する第2の蓋40のような側面開口110の外周に係止される被係止部が設けられていないため、収納容器本体60の上方から下方へかぶせることで、上部閉塞部32の嵌合部36が上部開口70の段部72に嵌合して上部開口70を閉塞すると共に、一対の側面閉塞部34の側面嵌合部38が側面開口110のテーパ状傾斜面110a及び湾曲面110bに密着して側面開口110を閉塞できる。
〔第2の蓋40の構成〕
図7Aは第2の蓋40の縦断面図である。
図7Bは
図7A中F−F線に沿う縦断面図である。
【0034】
図7A及び
図7Bに示されるように、第2の蓋40は、収納容器本体20の上部開口70を閉塞する上部閉塞部42と、側面開口110を閉塞する側面閉塞部44と、側面開口110の外周に形成された蓋係止部112に係止される一対の被係止部45とを有する。上部閉塞部42の周縁部下面側には、収納容器本体20の上部開口70の周縁部72に嵌合する嵌合部46が設けられている。側面閉塞部44は、側面開口110の内側に嵌合する側面嵌合部48と、側面開口110の周囲を覆うように延在形成されたフランジ部49とが設けられている。
【0035】
側面嵌合部48は、側面開口110のテーパ状傾斜面110aに対応した形状を有するテーパ状突部48aと、湾曲面110bに対応した形状を有する円弧状突部48bとを有する。側面嵌合部48は、テーパ状突部48aが側面開口110のテーパ状傾斜面110aに当接し、且つ円弧状突部48bが湾曲面110bに密着して収納室60を密閉する。
【0036】
一対の被係止部45は、側面開口110の湾曲面110bの外周に嵌合するように同じ曲率半径で湾曲している。また、一対の被係止部45と円弧状突部48bとの間には、側面開口110の湾曲面110bの厚さよりも若干小さい隙間43が形成されている。
【0037】
また、一対の被係止部45は、収納容器本体20の側壁62に設けられた蓋係止部112の両側を挟持する隙間47が形成されている。この隙間47は、蓋係止部112のX方向に幅よりも僅かに小さい隙間であり、蓋係止部112の両側に接触するようにフランジ部49の内側に突出している。
〔第1の蓋30を収納容器本体20に装着した状態について〕
図8Aは第1の蓋30を収納容器本体20に装着した状態を示す一部切断した正面図である。
図8Bは第1の蓋30の側面嵌合部38が収納容器本体の側面開口110に嵌合した状態を示す側断面図である。
【0038】
図8A及び
図8Bに示されるように、第1の蓋30は、上部閉塞部32が収納容器本体20の上部開口70を閉塞すると共に、側面嵌合部38が側面開口110の内側に密着して収納容器本体20の側面開口110を閉塞する。すなわち、第1の蓋30が上方から収納容器本体20に装着されると共に、嵌合部36が上部開口70の周縁部72に嵌合し、さらに側面嵌合部38のテーパ状突部38aが側面開口110のテーパ状傾斜面110aに当接し、且つ円弧状突部38bが湾曲面110bに密着する。そのため、第1の蓋30が収納容器本体20に係止されず、上方から第1の蓋30をかぶせるようにして収納室60を密閉できる。
【0039】
従って、第1の蓋30を収納容器本体20に装着する際は、係止部112との摺接による発塵がないため、収納室60に収納された複数のガラス基板Wに対し、第1の蓋30の装着に伴う塵埃(異物)付着を防止できる。
〔第2の蓋40を収納容器本体20に装着した状態について〕
図9Aは第2の蓋40を収納容器本体20に装着した状態を示す一部切断した正面図である。
図9Bは第2の蓋40の側面嵌合部48が収納容器本体20の側面開口110に嵌合した状態を示す側断面図である。
【0040】
図9A及び
図9Bに示されるように、第2の蓋40は、上部閉塞部42が収納容器本体20の上部開口70を閉塞すると共に、側面嵌合部48が側面開口110の内側に密着して収納容器本体20の側面開口110を閉塞する。さらに、フランジ部49を側方から押圧してフランジ部49の内側に突出する被係止部45を側面開口110の外周に形成された係止部112に係止させる。すなわち、第2の蓋40が上方から収納容器本体20に装着されると共に、嵌合部46が上部開口70の周縁部72に嵌合し、さらに側面嵌合部48のテーパ状突部48aが側面開口110のテーパ状傾斜面110aに当接し、且つ円弧状突部48bが湾曲面110bに密着する。
【0041】
この後、第2の蓋40のフランジ部49が押圧操作されることで、フランジ部49に設けられた被係止部45が収納容器本体20の係止部112に係止される。すなわち、一対の被係止部45と円弧状突部48bとの間に形成された隙間43には、側面開口110の湾曲面110bが嵌合され、一対の被係止部45の隙間47には、収納容器本体20の側壁62に設けられた蓋係止部112が嵌合する。従って、一対の被係止部45は、蓋係止部112を挟持すると共に、側面開口110の湾曲面110bの外周面114に密着して確実に係止される。
【0042】
これにより、第2の蓋40のフランジ部49は、収納容器本体20の側壁62に係止され、運搬中に外れることがなく、収納室60を密閉状態に保持できる。検査工程終了後は、この第2の蓋40が収納容器本体20に装着されて、収納容器本体20が密閉状態に保持された状態で出荷される。尚、第2の蓋40を収納容器本体20に装着して蓋係止部112に被係止部45を係止させる際に、発塵が1回発生することになるが、従来のように出荷されるまでの各工程の各作業毎に第2の蓋40を収納容器本体20に装着又は脱着させることにより発塵が発生する場合よりも、ガラス基板Wに付着する異物の数を大幅に削減できる。
【0043】
【表1】
表1に、(工程1)〜(工程7)を含むガラス基板の製造方法により造られた磁気記録媒体用ガラス基板を光散乱方式表面観察機(KLA Tencor社製、製品名:Candela6100)を用いて検査し、ガラス基板の主平面に付着している異物(0.2μm〜1.5μmのサイズの異物)の数をカウントした結果を示す。表1に示されるように、5個のガラス基板収納容器を検査用サンプルとし、各収納容器本体20に収納されたガラス基板Wを収納容器(表1では「カセット」と表記する)の右端部、中央部、左端部の3箇所から取出し、各ガラス基板Wに付着した異物の個数を光散乱方式表面観察機を用いて検査した結果、検査工程では第1の蓋30を収納容器本体20に装着し、検査後の出荷時に第2の蓋40を収納容器本体20に装着した場合(例1)は、収納容器No.(カセットNo.)1〜5の異物付着数の平均値が、「40個、50個、75個、53個、55個」であった。一方、第2の蓋40のみを使用した従来の場合(例2)は、収納容器No.(カセットNo.)1〜5の異物付着数の平均値が、「151個、240個、176個、102個、80個」であった。
【0044】
この検査結果により、従来に比べて検査工程では、第1の蓋30を収納容器本体20に装着し、検査終了後の出荷時に第2の蓋40を収納容器本体20に装着することにより、係止部112と被係止部45との摺接回数が減少し、収納容器本体20に収納されたガラス基板に付着する異物の数を削減することが確認された。