特許第5672132号(P5672132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5672132Znを主成分とするPbフリーはんだ合金およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672132
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】Znを主成分とするPbフリーはんだ合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/28 20060101AFI20150129BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20150129BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   B23K35/28 310D
   C22C18/00
   C22C18/04
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-100199(P2011-100199)
(22)【出願日】2011年4月27日
(65)【公開番号】特開2012-228729(P2012-228729A)
(43)【公開日】2012年11月22日
【審査請求日】2013年4月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】高森 雅人
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩一
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−275921(JP,A)
【文献】 特開2009−125753(JP,A)
【文献】 特開2001−150182(JP,A)
【文献】 特開平04−046695(JP,A)
【文献】 特開平11−288955(JP,A)
【文献】 特開2004−358540(JP,A)
【文献】 特開昭54−032063(JP,A)
【文献】 特開2002−307188(JP,A)
【文献】 特開2010−064296(JP,A)
【文献】 特開2010−069748(JP,A)
【文献】 特開2010−036234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/14,35/22−35/34,35/363,35/40
C22C 18/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを主成分とするPbフリーはんだ合金であって、
前記はんだ合金表面の酸化物層が120nm以下で、
平均表面粗さRa(以下、「表面粗さRa」と略す)が0.60μm以下で、
前記はんだ合金の成分組成が、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなり、
前記はんだ合金の形状がシートであることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金。
【請求項2】
前記はんだ合金の成分組成が、Alを3.0質量%以上、7.0質量%以下含み、Geを0.1質量%以上、3.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、3.0質量%以下の範囲でGe、Mgのいずれか1種以上を含有し残部Znと不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載のZnを主成分とするPbフリーはんだ合金。
【請求項3】
Znを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法であって、
前記はんだ合金の成分組成が、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなり、
前記はんだ合金の形状がシートで、
前記はんだ合金表面を研磨して表面の酸化物層の厚みを120nm以下、表面粗さRaを0.60μm以下とすることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法。
【請求項4】
Znを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法であって、
前記はんだ合金の成分組成が、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなり、
前記はんだ合金の形状がシートで、
前記はんだ合金表面を酸洗浄して表面の酸化物層の厚みを120nm以下とすることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法。
【請求項5】
Znを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法であって、
前記はんだ合金の成分組成が、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなり、
前記はんだ合金の形状がシートで、
表面粗さRaが0.3μm以下の圧延ロールを用い、はんだ合金を圧延し、前記はんだ合金の形状をシートとし、前記はんだ合金の表面粗さRaを0.60μm以下、前記はんだ合金表面を酸洗浄して表面の酸化物層の厚みを120nm以下とすることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法。
【請求項6】
前記はんだ合金の成分組成が、Alを3.0質量%以上、7.0質量%以下含み、Geを0.1質量%以上、3.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、3.0質量%以下の範囲でGe、Mgのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載のZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pbを含まないZnを主成分とするはんだ合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタ用素子のダイボンディングを始めとして、各種電子部品の組立工程に用いるはんだ付けでは、高温はんだ付けが行われ、300℃程度の比較的高温の融点を有するはんだ合金(高温用はんだ合金)が使用されている。このような高温用はんだ合金としては、Pb−5質量%Sn合金に代表されるPb系はんだ合金が従来から主に用いられている。
しかし、近年では環境汚染に対する配慮からPbの使用を制限する動きが強くなってきており、例えばRohs指令などで規制対象物質になっている。その為、電子部品などの組立の分野においても、Pbを含まない(無鉛)はんだ合金、即ちPbフリーはんだ合金が求められている。
【0003】
中低温用(約140℃〜230℃)のはんだ合金に関しては、Snを主成分とするPbフリーのはんだ合金が既に実用化されている。
例えば特許文献1には、Snを主成分とし、Agを1.0〜4.0質量%、Cuを2.0質量%以下、Niを0.5質量%以下、Pを0.2質量%以下含有するPbフリーのはんだ合金が記載されている。また、特許文献2には、Agを0.5〜3.5質量%、Cuを0.5〜2.0質量%含有し、残部がSnからなるPbフリーのはんだ合金が記載されている。
【0004】
一方、高温用のはんだ合金に関しても、Pbフリーを実現するため、さまざまな開発が行われている。
しかしながら、従来のPb−5質量%Sn合金に代表されるPb系はんだ合金を代替できる高温用はんだ合金はまだ提案されていない現状である。
例えば、Bi系はんだ合金では、特許文献3に、Biを30〜80質量%含み、溶融温度が350〜500℃であるBi/Ag系のろう材が開示されている。しかし、このBi/Ag系ろう材の液相線温度は400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測される。一般的な電子部品や基板の材料として多用されている熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの作業温度は400℃未満、望ましくは370℃以下であることから、上記の作業温度は接合される電子部品や基板が耐えうる温度を超えている。
【0005】
また、特許文献4には、Biを含む共昌合金に2元共昌合金を加え、更に添加元素を加えることによって、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能な生産方法が開示されている。
しかしながら、この方法では液相線の温度調整のみで4元系以上の多元系はんだになるうえ、Biの脆弱な機械的特性については有効な改善がされていない。
【0006】
Zn系はんだ合金についても、同様に実用的な高温用のPbフリーはんだ合金は提供されていない。例えば、特許文献5には、ZnにAlを添加することにより融点を下げたZn−Al合金を基本とし、これにGe又はMgを添加した高温用Zn系はんだ合金が記載され、更にSn又はInの添加により融点を一層下げる効果があることが記載されている。
しかし、Zn系はんだ合金は、Zn自身の還元性が強く自ら酸化してしまうため、濡れ性が非常に悪いことなどが大きな問題となっている。
【0007】
具体的に特許文献5には、Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金と、Alを5〜9質量%、Mgを0.01〜0.5質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金と、Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Mgを0.01〜0.5質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金と、Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Sn及び/又はInを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金と、Alを1〜9質量%、Mgを0.01〜0.5質量%、In及び/又はnを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金と、Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Mgを0.01〜0.5質量%、Sn及び/又はInを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金が記載されている。
【0008】
しかし、ここに記載されたZn系はんだ合金は、その組成の範囲内では合金の加工性が十分とは言えず、最も加工性が要求されるワイヤへの加工は困難な場合が多い。しかも、前述のごとくZnは酸化し易く濡れ性が悪いため、CuやNiなどに容易に接合できない。
例えば、Cu基板やNiを最上層に有するCu基板などに接合した場合、車載用などのように厳しい環境下で使用し続けることは困難である。そして、GeやSnが添加されても酸化したZnは還元できず、濡れ性を向上させることはできない。
【0009】
特許文献6には、Znを主成分とする材料の表面における酸化膜を除去した後に、又は酸化膜が存在しない状態で、その酸化膜よりもその酸化物が還元され易い金属を主成分とする被覆層を表面に設けた、Znを主成分とするはんだ材料について記載されている。つまり、酸化膜の無い状態のZnを主成分とする材料に被覆金属層を設けることによって、耐熱性が高く、接合体を緻密に接合できるはんだ材料となることが示されている。
【0010】
しかし、被覆材としては具体的に挙げられているCuは、一般的に濡れ性が悪いとされている。つまり、電子部品等を接合する基板はほとんどの場合、Cuであるが、CuにSiチップやSiCチップなどの電子部品を接合しようとする場合、濡れ性や接合性が十分でない場合あり、その際、濡れ性等を向上させるためにAgやAuのメタライズ層を設けることが一般的に行われている。
【0011】
すなわち、Cuの濡れ性等を補うためにCu基板に敢えて製造工程が増え、値段も高いAgやAuのメタライズ層を設けているのが実情であり、このような対応を取らなければならないほどCuは濡れ性に劣るのである。従って、Znを主成分とするはんだに、Cuなどの被覆層を設けたところで、濡れ性や接合性の悪いZn系はんだの濡れ性や、接合性が上がるとは考えづらく、当然、緻密な接合も難しいと推測される。加えて、酸化膜除去工程、被覆形成工程が加わり、製造工程が長くなって生産性が悪く、大きなコストアップにも繋がってしまう。
【0012】
以上、述べたように高温用のPbフリーはんだ合金、特にZnを主成分とするPbフリーはんだ合金については、濡れ性をはじめとして改善すべき課題が多いため、未だ実用化されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開1999−077366号公報
【特許文献2】特開平08−215880号公報
【特許文献3】特開2002−160089号公報
【特許文献4】特開2006−167790号公報
【特許文献5】特許第3850135号公報
【特許文献6】特開2009−125753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、電子部品の組立などで用いるのに好適な300℃〜400℃程度の融点を有し、濡れ性、接合性、加工性、信頼性に優れ、Pbを含まず且つZnを主成分とする高温用のはんだ合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の発明は、Znを主成分とするPbフリーはんだ合金であって、そのはんだ合金表面の酸化物層が120nm以下で、表面粗さRaが0.60μm以下で、そのはんだ合金の成分組成が、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなり、そのはんだ合金の形状がシートであることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金である。
【0016】
本発明の第2発明は、第1の発明におけるはんだ合金の成分組成が、Alを3.0質量%以上、7.0質量%以下含み、Geを0.1質量%以上、3.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、3.0質量%以下の範囲でGe、Mgのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金である。
【0017】
本発明の第3の発明は、Znを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法であって、そのはんだ合金の成分組成が、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなり、そのはんだ合金の形状がシートで、そのはんだ合金表面を研磨して表面の酸化物層の厚みを120nm以下、表面粗さRaを0.60μm以下とすることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法である。
【0018】
本発明の第4の発明は、Znを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法であって、そのはんだ合金の成分組成が、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなり、そのはんだ合金の形状がシートで、はんだ合金表面を酸洗浄して表面の酸化物層の厚みを120nm以下とすることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法である。
【0019】
本発明の第5の発明は、Znを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法であって、そのはんだ合金の成分組成が、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなり、そのはんだ合金の形状がシートで、表面粗さRaが0.3μm以下の圧延ロールを用い、はんだ合金を圧延して、前記はんだ合金の表面粗さRaを0.60μm以下とし、そのはんだ合金表面を酸洗浄して表面の酸化物層の厚みを120nm以下とすることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法である。
【0020】
本発明の第6の発明は、第3から第5の発明おけるはんだ合金の成分組成が、Alを3.0質量%以上、7.0質量%以下含み、Geを0.1質量%以上、3.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、3.0質量%以下の範囲でGe、Mgのいずれか1種以上を含有し、残部Znと不可避不純物からなることを特徴とするZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、濡れ性、接合性、加工性、信頼性等に優れると同時に、300℃程度のリフロー温度に十分耐えることができ、パワートランジスタ用素子のダイボンディングなど各種電子部品の組立工程でのはんだ付に好適な高温用のPbフリーはんだ合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】はんだ表面からの酸化物層の厚みを定義する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明であるZnを主成分とするPbフリーはんだ合金は、Pbを含まず、Znを主成分とし、酸化物層が120nm以下であり、表面粗さRaが0.60μm以下である。
Znは酸化し易く、電子部品等を接合する際、はんだ表面に形成された酸化物(酸化物層)によって、濡れ性や接合性が大きく低下してしまう。このため、本発明のはんだ合金は、はんだ表面の酸化物層を薄くするとともに表面粗さを小さくすることによってはんだ表面積を小さくし、はんだ単位量当り(例えば単位重量、単位体積)の酸化物量を少なくして濡れ性や接合性が格段に優れるように改良したものである。
【0024】
さらに、はんだ組成として好ましくは、Alを含有し、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有してよく、残部Znと不可避不純物から構成されている。とくに、Zn−Al共晶組成とすることにより、良好な加工性、応力緩和性が得られ、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含有することにより濡れ性等、はんだ材料に求められる諸特性を調整することができる。
【0025】
以下、本発明におけるはんだ合金の酸化物層、表面粗さ、ロール表面粗さ、はんだ組成等について詳しく説明する。
【0026】
<はんだ合金表面の酸化物層>
本発明において、はんだ合金表面の酸化物層を120nm以下にすることは必須条件である。Znは419℃という高温用はんだの主成分として適した融点を持っていたり、熱伝導性がPbの3倍程度あったり、安価な原料であったりするなど多くの利点を持つ。一方でZnは酸化し易いことに起因し、濡れ性が非常に悪いという欠点がある。この欠点を克服するための重要な条件が酸化物層を薄くすることである。
【0027】
つまり、濡れ性や接合性を低下させる最も大きな原因は、基板や電子部品の接合面とはんだ母相との間に存在するはんだ合金表面の酸化物である。通常、金属同士は適当な選択をすれば、合金化する。
【0028】
例えば、基板のCuまたは最上層に設ける場合があるNiなどとZnは溶融状態で容易に固溶し合う。一方でZn等の酸化物は接合温度(例えば350℃〜450℃)では当然固体であり、基板等の金属面とは反応せず、はんだ金属(Zn等)と基板面金属(Cu等)とは接触できず、その結果、接合ができないことになる。逆に、Zn系はんだ合金を基板等に接合する際、はんだ合金表面に酸化物が存在しなければ、金属同士が接することができ接合が可能となるのである。以上より、はんだ表面に極力、酸化物層を存在させないことがZn系はんだ合金にとっては最も重要な条件の一つになる。
【0029】
Zn系はんだ合金表面の酸化物層は、濡れ性等を大きく下げるが、全く存在させないことは困難であり、さらにある程度の厚みであれば、接合条件等でカバーできるので、酸化物層の厚みは、120nm以下であれば良い。Zn系はんだの場合、含有元素にも左右されるものの概ね120nm以下の厚みの酸化物層であれば、接合時に酸化物層が破れ、はんだ溶融金属が酸化物層内部から出てきて基板等の金属面と直接接することが可能となり、接合できるものである。
【0030】
例えば、Cu基板にZn系はんだワイヤを供給する際、フォーミングガス(水素と窒素の混合ガス)を使用し、Cu基板を水素で還元しながら、ワイヤを高速で供給すれば、ワイヤ先端の酸化物層は破れ、かつ、還元されて実質的に酸化物層の無いCu面に溶融はんだを直接供給でき、接合が可能となるのである。このように酸化物層を介さず、はんだと基板等が接合されれば、接合強度は高く、過酷な環境下でも十分に耐え得る優れた信頼性を得ることができるのである。
【0031】
<はんだ合金の表面粗さ>
本発明において、はんだ合金の酸化物層と同様に必須条件となるのは、はんだ合金の表面粗さである。
はんだ合金の酸化物層を120nm以下にするとともに表面粗さRaが、0.60μm以下にすることによって、本発明の効果を有することとなる。
【0032】
すでに述べたように、はんだの濡れ性や接合性を低下させる大きな原因は酸化物層である。さらに詳しくは、はんだ合金表面近傍に存在する酸化物量なのである。つまり、酸化物層がいくら薄くても表面が粗く、凹凸が多ければ、表面積が増えるためにはんだ合金表面(表面近傍)に存在する酸化物量は多くなってしまい、実質的に酸化物層が厚い場合と同じ現象が起き、濡れ性や接合性を大きく低下させてしまう。
【0033】
表面粗さが大きい場合、つまり表面が粗い場合は単に酸化物量が多いだけではなく、さらに悪いことには接触面積が小さくなってしまう。例えば、シート状のはんだで電子部品と基板を接合しようとした場合、実質的な接触面積が濡れ性等に非常に大きく影響する。
逆に、はんだシートの表面粗さが非常に小さい場合は、電子部品の接合面積が実質的な接合面積になる。一方で表面粗さが極端に大きい場合、はんだと電子部品は点で接することになり、非常に接合面積が小さくなってしまい、このような場合、いくら酸化物層が薄くても接合が困難になってしまう。
【0034】
はんだ合金の表面粗さRaは、0.60μm以下が好ましいとこは、実験的に得られた結果であり、定性的には既に説明したとおりである。実験の結果、表面粗さRaが0.60μmを超えてしまうと酸化物層やはんだ組成を調整しても接合は困難であった。さらに接合時にフォーミングガスを使用して基板を還元しながらはんだ供給しても接合はできなかった。このため、はんだ合金の表面粗さRaは0.60μm以下とする。
【0035】
<製造方法>
原料の溶解方法は、抵抗加熱法、還元拡散法、高周波溶解法などで行ってよく、とくに高周波溶解法は高融点の金属でも短時間で効率よく溶解できるために好ましい。
はんだをシート状に加工する場合、圧延方法は冷間圧延、温間圧延、熱間圧延、プレス圧延などで行ってよい。とくにZn系はんだは、Pb系はんだやSn系はんだに比較して硬いため、はじめに熱間圧延である程度の厚みまで薄く圧延し、その後、冷間圧延を行うことが好ましい。
このように2種類の圧延を組み合わせることにより、圧延中にクラックやバリが入りづらくなり品質が向上するうえ、圧延速度を上げるなど生産効率を高めることができる。
【0036】
圧延に使用するロールは、表面粗さRaを0.60μm以下とすることが好ましい。
熱間圧延、冷間圧延など2種類以上の圧延を行う際は、最終圧延の際に用いる圧延ロールのみ、その表面粗さRaを0.60μm以下にするとよい。
このように小さい表面粗さの圧延ロールを用いる理由は、当然、製品の表面粗さを小さくするためである。表面粗さRaが0.60μmを超える表面粗さの圧延ロールを使用してしまうと、酸化物層の厚みを120nm以下に制御したとしても濡れ性や接合性が非常に悪くなってしまうためである。
【0037】
はんだ合金表面の酸化物層を薄くし、表面粗さを小さくするために、シートやワイヤの加工前、加工中、加工後に研磨や酸洗浄を行ってもよい。
酸洗浄は酸の種類に限定はないが、弱酸を用いることが好ましい。強酸を用いて洗浄を行ってもよいが、条件によってははんだ合金を構成する金属の酸溶液への溶解速度が速く、部分的に溶解が進み、表面粗さが大きくなってしまう可能性が高い。したがって、弱酸を用いて、状況に応じて、時間を長めに調整して洗浄することが好ましい。
【0038】
はんだの研磨についても、特に限定はされない。例えば、はんだシートやワイヤを研磨紙で適度な力で挟み、引っ張りながら巻き取っていくことで研磨してもよい。さらにははんだの研磨方向(巻取方向)と垂直方向に研磨紙を往復運動させ、研磨してもよい。
以上のようにはんだを研磨したり、酸洗浄したり、表面粗さRaが0.60μm以下のロールで圧延したり、さらにこれらの方法を組み合わせることによって、酸化物層が薄く、表面粗さの小さいはんだ合金を製造する。
【0039】
<はんだ組成>
本発明が提供するZnを主成分とするPbフリーはんだ合金は、Alを0.01質量%以上、9.0質量%以下含み、Geを0.01質量%以上、8.0質量%以下、Mgを0.01質量%以上、5.0質量%以下、Agを0.1質量%以上、4.0質量%以下、Pを0.5質量%以下の範囲で、Ge、Mg、Ag、Pのいずれか1種以上を含み残部Znと不可避不純物から構成されている。
次に、これらの元素の効果について説明する。
【0040】
<Zn>
Znは本発明のはんだ合金における主成分である。
Znは419℃という融点を有し、300〜400℃での接合されることが望まれる高温用はんだの主成分としては非常に適している。加えて、熱伝導性がPbの3倍あるため、放熱性に優れ、接合材としては非常に好ましい性質も有する。コスト的にも安価でどこでも入手できるなど多くの利点を持っているが、その一方でZnは酸化し易いことに起因する、濡れ性が非常に悪いという欠点がある。
【0041】
そこで、本発明では主として、酸化物層を薄くし、表面粗さを小さくすることで濡れ性等の改善を行っているが、組成調整でもある程度の改善ができ、加えて、加工性等を改善するためにも他の元素を含有させることが必要となる。本発明におけるZnの含有量は、このように加工性や応力緩和性等、はんだに求められる諸特性を向上させるために含有させる元素に依存している。
【0042】
<Al>
AlはZnと共晶合金を形成し、Znの加工性や応力緩和性を格段に向上させる。
このため、はんだ中に含有させることが好ましく、Alの含有量は0.01質量%以上、9.0質量%以下とするとよい。
0.01質量%以下で含有量が少なすぎて効果が現れない。9.0質量%を超えてしまうと液相線温度が420℃程度となり、接合温度としてやや高めであることに加え、他の元素と生成する脆い金属間化合物の割合が多くなってしまい、接合性や信頼性を低下させてしまう可能性が高く、さらに、AlはZnより酸化し易いため、強固な酸化物層を厚く形成してしまう場合がある。
以上の理由により、Alの含有量は0.01質量%以上、9.0質量%以下とすることがよく、さらに好ましくは3.0質量%以上、7.0質量%以下である。この理由はZn−5質量%Alが共晶組成であるため、その近傍の組成範囲では非常に優れた加工性や応力緩和性を示すからである。
【0043】
<Ge>
Geは本発明のPbフリーはんだ合金において含有されることによって、加工性向上の効果を発揮するとともに濡れ性の向上にも寄与するものである。
即ち、GeはZnやAlには、わずかにしか固溶せず、はんだ溶融後に冷却されて固まる際に、まず溶融はんだ中のGeが析出し、これが核となって、はんだの微結晶化に寄与して、その加工性を向上させる。さらにGeはZnと共晶合金を作り、特にZn−Geの共晶組成(Zn−6質量%Ge)付近において結晶を微細化し、加工性を向上させる効果を持つものである。
【0044】
このようなGeの効果は、加工性向上だけに留まらず、濡れ性を向上させる効果もある。Geを含有させることにより濡れ性が格段に向上するわけであるが、この理由は以下のように考えられる。
すなわち、GeがZnよりも比重が小さいため(比重:Ge=5.4、Zn=7.1)、溶融時にはんだ表面に表出し易く、少量の含有量で還元効果を発揮できるからである。
【0045】
このような濡れ性や加工性を向上させる効果を有するGeの含有量は、具体的には0.01質量%以上、8.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上、3.0質量%以下である。
既に述べたようにGeの役割は、溶融はんだ表面に表出しやすい性質と還元効果による濡れ性の向上であったり、はんだの微結晶化の核であったりする。このため、多量に添加する必要がない場合が多く、Geの含有量が0.01質量%未満では、含有量が少なすぎてこれらの効果が得られない。また、含有量が8.0質量%より多くなると、Ge自身の核が大きくなって微結晶化しなかったり、Geの酸化膜が厚くなり過ぎたりするため好ましくない。さらに好ましくは0.1質量%以上、3.0質量%以下であり、この範囲内であればGeの優れた効果を発揮しやすい。
【0046】
<Mg>
Mgは本発明のZnを主成分とするPbフリーはんだ合金の諸特性を目的に合わせて調整する際に適宜含有させる元素である。
Mgを含有することよって得られる効果は、以下のとおりである。
MgはZnとの共晶合金を2つの組成で作り、それらの共晶温度は341℃と364℃である。このようにZn−Al合金よりも低い共晶温度を2点有するため、はんだ合金の融点をさらに下げたい場合に含有させる。
【0047】
さらに、MgはZn、Alよりも酸化し易いため、少量の含有量で濡れ性を向上させる効果も有する。ただし、Mgが多量に含有されるとはんだ表面に強固な酸化膜を形成してしまうため、その添加量には注意を要する。
接合条件は様々であるものの、融点低下効果と濡れ性向上効果を考慮し、その含有量は0.01質量%以上、5.0質量%以下が好ましく、さらに好ましくは3.0質量%以下である。この含有量が0.01質量%未満では少なすぎてMgの効果を十分発揮させることができない。一方、5.0質量%を超えると、逆に濡れ性が低下したり液相線温度が高くなりすぎたりするなどの問題を起こしてしまう。
【0048】
<Ag>
Agは必要に応じて添加することによって、はんだ合金の濡れ性及び接合性を更に向上させることができる。
Agは電子部品やCu基板の最上層に形成されることからも分かるように濡れ性向上の効果が大きく、本発明においてもAgの添加は濡れ性の向上を目的としている。即ち、Agは酸化し難く、はんだ表面の酸化を防ぐことによって濡れ性を向上させる。従って、濡れ性が不足する場合、Agの添加により濡れ性を向上させることができる。
【0049】
Agの含有量は、0.1質量%以上4.0質量%以下とすることが好ましい。
Agの含有量が4.0質量%を超えると、ZnやAlなどと脆い金属間化合物を生成し、その量が許容範囲を超えてしまう恐れがある。一方、Agの含有量が0.1質量%より少なくなると、期待する効果が得られない場合がある。
【0050】
<P>
Pは、本発明のPbフリーはんだに含まれることによって、より濡れ性を格段に向上させることができるのである。その理由は、Pは還元性が強く、はんだ表面や電子部品等の接合面を還元して酸化膜を除去し金属同士が直接接して反応しやすくするためである。
【0051】
さらにPは、接合時にボイドの発生を低減させる効果がある。
すなわち、Pには強い還元性があり自らが酸化しやすいため、接合時にはんだの主成分であるBiよりも優先的に酸化が進むうえ、はんだを還元しはんだ表面の酸化膜を除去する。そして、電子部品等の接合面においても同様に還元効果を発揮する。その結果、酸化膜を介することなく金属同士が直接接することになるためボイドが発生しにくいのである。
【0052】
Pは、微量の添加でも濡れ性向上の効果を発揮するが、その理由は還元性が非常に強いためである。そのため、Pの含有させる場合の量は0.001質量%以上、0.500質量%以下である。逆にある量以上含有していても濡れ性向上の効果は飽和して変わらず、過剰に含有するとP化合物がはんだ表面に生成されたり、Pが脆弱な相を作り脆化したりする恐れがある。Pがこの上限値を超えると、その酸化物がはんだ表面を覆い、逆に濡れ性を落とす恐れがある。
さらに、PはZnと金属間化合物を生成する。一般的に金属間化合物は転移が進展しづらいため脆く、P−Zn合金においても同様のことが言える。従って、Pの含有量が多くなると金属間化合物の割合が増し、さらには偏析するなどして信頼性を低下させる原因となってしまう。とくにワイヤなどに加工する場合に、断線の原因になり易いことを本発明者は実験的に確認している。
以下、実施例を用いてさらに説明する。
【実施例】
【0053】
原料として、それぞれ純度99.9質量%以上のZn、Al、Ge、Mg、Ag及びPを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく、均一になるように留意しながら、切断及び粉砕などにより3mm以下の大きさに細かくした。
【0054】
次に、これら原料から所定量を秤量し、高周波溶解炉用のグラファイト製坩堝に入れ、その各原料の入った坩堝を高周波溶解炉に装入し、酸化を抑制するために窒素ガスを原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかに坩堝を取り出し、坩堝内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型は、はんだ母合金の製造の際に一般的に使用している形状と同様のものを使用した。
【0055】
このようにして、各原料の混合比率を変えることにより、試料1〜30のZnを含有するはんだ母合金を作製した。
得られた試料1〜30の各はんだ母合金について、その成分組成をICP発光分光分析器(株式会社島津製作所製「SHIMAZU S−8100」)を用いて分析し、得られた分析結果をはんだ組成として表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、表1に示す試料1〜30の各はんだ母合金を、表2に示す条件により圧延機でシート状に加工し、各試料の加工性を評価した。また、シート状に加工した各試料について、下記の方法によりシート加工性の評価、濡れ性(接合性)の評価及びヒートサイクル試験による信頼性の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
なお、はんだの濡れ性、および接合性等の評価は、はんだ形状に依存しないためワイヤ、ボール、ペーストなどの形状で評価してもよいが、本実施例においてはシートの形状で評価した。
【0058】
<加工性評価>
表1に示した試料1〜30の各はんだ母合金(厚み5mmの板状インゴット)を、4インチのワークロールを有する熱間圧延機を用いて、230℃に加熱しながら400μmの厚みまで粗圧延した。
次に、試料1〜30の各試料を表2に示す条件で表面の酸化膜の除去や表面粗さを調整した。
【0059】
試料の研磨は研磨紙を用い、目の粗い番数#150から、#240、#360、#700、#1000、#2500、#6000と順番に目の細かい研磨紙を行いて研磨を行っていき、表2には最後に使用した研磨紙の番号を示した。最終研磨後、試料を純水できれいに洗い、さらにアルコールで洗浄した後に真空オーブンを用いて常温での真空乾燥を1時間行った。
【0060】
試料の酸洗浄は酢酸を用いて行い、表2に酢酸洗浄時間を示した。酸洗浄後、純水を用いて水洗を3回行い、さらにアルコール洗浄して、ウエスで液分をきれいに拭き取った後、真空オーブンを用いて常温での真空乾燥を1時間行った。
【0061】
試料を研磨、または/および酸洗浄後、3インチのワークロールを有する冷間圧延機を用いて厚み50μmまで仕上げ圧延を行った。
仕上げ圧延に用いたロールには、表面粗さの異なる3種類のロールを用いた。各試料の仕上げ圧延に用いたロールの表面粗さ(Ra)を表2に示す。その後、スリッター加工により25mmの幅に裁断した。
【0062】
このようにしてシート状に加工した後、得られたシート状の各試料を観察して、その加工性を以下のように評価し、その結果を表3に示した。
傷やクラックが全くなかった場合を「○」、シート長さ10m当たり割れやクラックが1〜3箇所ある場合を「△」、4箇所以上ある場合を「×」とした。
【0063】
次に、試料1〜30の酸化物層の厚みと表面粗さを測定した。
酸化物層の厚みは、電界放射型オージェ電子分光装置(ULVAC−PHI製、型式:SAM−4300)を用いて測定した。
表面粗さは、表面粗さ測定装置(東京精密株式会社製、型式:サーフコム470A)を用いて測定を行った。
なお、酸化物層の厚みについては、以下のように定義した。
すなわち、図1に示すようにはんだ表面から深さ方向(はんだ表面に対して垂直)に、酸化物(ここではZnO)組成の酸素量を経て酸素量が減少し、1000nm入った部分の酸素量が固溶した状態における酸素量を示す場合に酸素濃度0%とし、さらにはんだ表面から深さ1000nmの間の最高酸素濃度を100%とし、その酸素濃度が10%まで低下したはんだ表面からの進入深さを酸化物層の厚みと定義した。 表2には試料1〜30の製造条件(研磨条件、酸洗条件、ロール表面粗さ)に加え、酸化物層の厚み、表面粗さ(Ra)を示した。
【0064】
【表2】
【0065】
<濡れ性(接合性)の評価>
シート状に加工した各試料を、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を用いて評価した。
即ち、濡れ性試験機のヒーター部に2重のカバーをして、ヒーター部の周囲4箇所から窒素を12リットル/分の流量で流しながら、ヒーター設定温度を410℃にして加熱した。設定したヒーター温度が安定した後、Cu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセッティングして25秒間加熱した。
【0066】
次に、各試料のはんだ合金をCu基板の上に載せ、25秒加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げ、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却した。十分に冷却した後、大気中に取り出して接合部分を観察した。
各試料のはんだ合金とCu基板の接合部分を目視観察し、接合されていなかった場合を「×」、接合されているが濡れ広がりが悪い場合(はんだが盛り上がった状態)を「△」、接合され、且つ濡れ広がりが良い場合(はんだが薄く濡れ広がった状態)を「○」と評価した。
【0067】
<ヒートサイクル試験>
ヒートサイクル試験によりはんだ接合の信頼性を評価した。
なお、この試験は、上記の濡れ性の評価において、はんだ合金がCu基板に接合できた試料(濡れ性の評価が「○」及び「△」の試料)を用い、各試料2個ずつ用いて試験した。試験条件は、はんだ合金が接合されたCu基板2個を用い、「−40℃の冷却」と「+150℃の加熱」を1サイクルとするヒートサイクル試験を実施し、各試料のうち1個は途中確認のため300サイクルまで、他の1個は500サイクルまでヒートサイクル試験を繰り返した。
【0068】
その後、300サイクル及び500サイクルのヒートサイクル試験を実施した各試料について、はんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、デジタル走査型電子顕微鏡(日立協和エンジニアリング株式会社製SEM、装置名:HITACHI S−4800)により接合面の観察を行った。
接合面に剥がれが生じるか又ははんだにクラックが入った場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。
以上の加工性、濡れ性、ヒートサイクル(接合の信頼性)の結果を纏めて表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表2、表3から明らかなように、本発明における本発明品である試料1〜22の各はんだ合金は、全ての評価項目において良好な特性を示しているのが分かる。
即ち、シートに加工しても傷やクラックの発生が無く、濡れ性及び信頼性も良好であった。このシート加工性が良好であった理由ははんだ組成範囲が適切でありZn−Al共晶組成、またはZn−Ge共晶組成付近を基本としており、微結晶化による加工性向上効果が現れていると考えられる。
濡れ性が良好であった理由は、はんだ組成範囲が適切な範囲であるとともにはんだ表面の酸化膜が薄く、加えて表面粗さが小さいため、電子部品と基板の接合を妨げる酸素の存在が極力抑えられているためだと考えられる。
更に、ヒートサイクル試験においても500回まで割れなどが発生せず、良好な接合性と信頼性を示した。
この高い信頼性は酸素の存在を極力抑えた条件の下で接続されことに起因し、はんだ合金の研磨や酸洗浄、表面粗さの小さいロールで圧延した結果によるものである。
【0071】
一方、本発明の範囲から外れる比較品である試料23〜30の各はんだ合金は、製造条件や含有元素量が適正でないことに起因して、はんだの酸化物層の厚みや表面粗さが本発明の請求範囲を外れてしまい、満足すべき特性が得られていない。
つまり、その加工性は試料26〜30で傷やクラックが発生し、濡れ性については全ての試料において良好な濡れ性が得られていない。特にヒートサイクル試験においては300回までに全ての試料(接合できなかった試料23〜28を除く)で不良が発生していた。
図1