特許第5672224号(P5672224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5672224溝付きローラー及びこれを用いたワイヤーソー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672224
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】溝付きローラー及びこれを用いたワイヤーソー
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20150129BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20150129BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   B24B27/06 Q
   B28D5/04 C
   H01L21/304 611W
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-277227(P2011-277227)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-126704(P2013-126704A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2013年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】奥田 修
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−146968(JP,A)
【文献】 米国特許第03525145(US,A)
【文献】 特開2010−110865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B28D 5/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に複数の固定砥粒型ワイヤー張設用の溝が所定のピッチで形成された固定砥粒式のワイヤーソー用の溝付きローラーであって、
前記溝の断面形状は、V字形の底部と、該底部の上端から外周表面に向かって等幅に形成され、前記外周表面まで到達しない等幅部と、該等幅部の上端から前記外周表面に向かって溝幅が広くなるとともに前記外周表面に達する導入部と、を有する形状であり、
前記等幅部の溝幅は、ワイヤー直径の1.1〜1.5倍であることを特徴とする溝付きローラー。
【請求項2】
前記導入部の溝角度は、60〜90°であることを特徴とする請求項に記載の溝付きローラー。
【請求項3】
前記底部の溝角度は、45〜90°であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溝付きローラー。
【請求項4】
前記溝の前記底部の上端までの深さは、ワイヤー直径の3〜5倍であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の溝付きローラー。
【請求項5】
前記溝が形成された部分が、ウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の溝付きローラー。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の溝付きローラー
表面に固定砥粒が固着して設けられた固定砥粒型ワイヤーと、
前記溝付きローラーに前記固定砥粒型ワイヤーを巻き付けて前記固定砥粒型ワイヤーを移動させるワイヤー移動機構と、
被加工対象物を固定支持する固定支持部材と、を有することを特徴とするワイヤーソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝付きローラー及びこれを用いたワイヤーソーに関し、特に、外周面に複数のワイヤー張設用の溝が所定のピッチで形成された溝付きローラー及びこれを用いたワイヤーソーに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や発光ダイオード(Light Emitting Diode)の製造用材料として用いられる半導体ウェハは、半導体単結晶をウェハ状にスライスすることにより、製造される。
【0003】
従来から、半導体単結晶をウェハ状にスライスする方法として、マルチワイヤーソーを用いた切断加工方式が知られており、広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
マルチワイヤーソーは張力を与えた多数のワイヤーを往復運動させることにより半導体単結晶等の被切断材料をスライスする方法であり、平行に配置された一定の間隔でワイヤー位置固定用の溝が刻まれた2つの駆動用のローラー(溝付きローラー)の間にループ状のワイヤーを多数張り、ローラーを回転させることにより、ワイヤーを往復運動させながら、ワイヤーに被切断材料を押圧させることにより、ワイヤーと被切断材料の摩擦により被切断材料を加工するものである。
【0005】
従来は、ワイヤーと被切断材料の間に砥粒を懸濁させた液体を連続供給しながら加工する遊離砥粒方式の加工方法が多かったが、近年、発光ダイオード用のウェハに用いられるサファイアやSiC等の高硬度材料を加工するために、ワイヤーにダイヤモンドの砥粒を固着したワイヤーを用いて加工する固定砥粒方式が増加してきている。
【0006】
溝付きローラーとしては、円柱状の溝付きローラー表面に、ウェハ加工に用いる際のワイヤーの直径より最大で20%太いワイヤーで、U字形状の溝を形成した溝付きローラーが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
特許文献2に記載の溝付きローラーにおいては、U字形の溝形状とすることにより、溝付きローラーの軸方向の溝間隔が狭く、ウェハ加工時にワイヤーが溝から外れにくく、かつ細径ワイヤーを使用する事ができるという効果を奏している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−320521号公報
【特許文献2】特開2008−126341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載された溝付きローラーを用いた場合でも、サファイアやSiC等の高硬度材料を固定砥粒方式で切断加工を行うと、ワイヤーとワイヤーに固着されたダイヤモンドとの密着力が大きく、高硬度材料との摩擦力が強くなり、ワイヤーのブレが大きく、切断後のウェハにソーマークと呼ばれる、切断による表面凹凸形状が大きく残るという問題が生じていた。
【0010】
そこで、本発明は、固定砥粒ワイヤーソーを用いた高硬度材料の切断において、ワイヤーのブレを抑制してソーマークの発生を低減するとともに、溝からのワイヤー外れを防止することができる溝付きローラー及びこれを用いたワイヤーソーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る溝付きローラーの一態様は、
外周面に複数の固定砥粒型ワイヤー張設用の溝が所定のピッチで形成された固定砥粒式のワイヤーソー用の溝付きローラーであって、
前記溝の断面形状は、V字形の底部と、該底部の上端から外周表面に向かって等幅に形成され、前記外周表面まで到達しない等幅部と、該等幅部の上端から前記外周表面に向かって溝幅が広くなるとともに前記外周表面に達する導入部と、を有する形状であり、
前記等幅部の溝幅は、ワイヤー直径の1.1〜1.5倍であることを特徴とする。
【0014】
また、前記導入部の溝角度は、60〜90°であることが好ましい。
【0015】
また、前記底部の溝角度は、45〜90°であることが好ましい。
【0016】
また、前記溝の前記底部の上端までの深さは、ワイヤー直径の3〜5倍であることが好ましい。
【0018】
また、前記溝が形成された部分が、ウレタン樹脂からなることが好ましい。
【0019】
また、本発明の他の一態様に係るワイヤーソーは、前記溝付きローラー
表面に固定砥粒が固着して設けられた固定砥粒型ワイヤーと、
該溝付きローラーに前記固定砥粒型ワイヤーを巻き付けて前記固定砥粒型ワイヤーを移動させるワイヤー移動機構と、
被加工対象物を固定保持する保持機構と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、切断時におけるワイヤーのブレ及びワイヤーが溝から外れることを抑制することができ、ワイヤーのピッチ精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1に係るマルチワイヤーソーの概略構成を示す図である。
図2】実施例1に係るマルチワイヤーソーの溝付きローラー部分の拡大図である。
図3】実施例1に係る溝付きローラーの一例を示した図である。
図4図3に示された溝付きローラー10のB部断面拡大図である。
図5】実施例1に係る溝付きローラーの溝の寸法比率の一例を示した図である。
図6】本発明の実施例2に係る溝付きローラーの一例の断面構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1に係るマルチワイヤーソーの概略構成を示す図である。図1において、実施例1に係るマルチワイヤーソー100は、溝付きローラー10と、ワイヤー40と、リール50と、ガイドローラー60と、切断用ブロック70と、ダミー材80と、供給ノズル90とを有する。また、図1において、関連構成要素として、被加工物110が示されている。
【0024】
図1において、被加工物110がダミー材80を介して、被加工物110をマルチワイヤーソー100本体に固定するための切断用ブロック70に取り付けられている。被加工物110の斜め下方には、被加工物110の切断時にワイヤー40へ切削用の液を供給するための供給ノズル90が設けられている。そして、供給ノズル90の下方には加工用のワイヤー40を装着するための溝付きローラー10が平行に2本設けられており、ワイヤー40は被加工物110の切断時に片側のリール50から巻き出されることにより、新しいワイヤー40が供給される。被加工物110の加工を終えたワイヤー40は反対側のリール50で巻き取られる構成となっている。
【0025】
溝付きローラー10は、外周面に形成されたワイヤー張設用の溝に加工用のワイヤー40を収容し、ワイヤー40を所定ピッチで配列するとともに、その状態でワイヤー40を移動させ、被加工物110を切断加工するための円筒状部材である。図1においては示されていないが、円筒形状の曲面(周面)上に溝が形成され、ワイヤー40を溝内に収容できる構造を有している。そして、被加工物110にワイヤー40が押し付けられた状態で、溝付きローラー10が時計回り、反時計回りと順次回転することにより、ワイヤー40が左右に交互に移動し、のこぎりと同じような往復運動の動作で被加工物110を切断する。なお、溝の構成については、後述する。
【0026】
ワイヤー40は、被加工物110を切断加工するための加工手段であり、上述のように、溝付きローラー10に装着されて位置決めされ、被加工物110に押し当てられた状態で、横方向(水平方向)に向きを変えて交互に移動することにより、被加工物110を切断加工する。
【0027】
リール50は、ワイヤー40が巻回され、一方のリール50からワイヤー40を送り出して供給するとともに、他方のリール50でワイヤー40を巻き取ることにより回収するための部材である。
【0028】
ガイドローラー60は、ワイヤー供給側のリール50から供給されたワイヤー40と、ワイヤー回収側のリール50に巻き取られて回収されるワイヤー40の方向をガイドするための部材である。つまり、供給側のワイヤー40を溝付きローラー10に導き、溝付きローラー10から送られてきたワイヤー40を回収側のリール50に導く。
【0029】
なお、溝付きローラー10、リール50は、モータ等の回転駆動機構を備えてよく、全体として、ワイヤー移動機構を構成してよい。
【0030】
切断用ブロック70は、被加工物110を切断加工するために、被加工物110を固定支持するための固定支持部材である。
【0031】
ダミー材80は、切断用ブロック70と被加工物110との間に設けられ、被加工物110の切断加工の際、被加工物110とともに切断される部材である。
【0032】
供給ノズル90は、被加工物110の切断時にワイヤー40へ切削用の液を供給するための手段であり、固定砥粒方式の切断加工の場合には、ワイヤー40を冷却するためのクーラントが供給される。一方、遊離砥粒方式の場合には、砥粒を含んだスラリが供給される。
【0033】
被加工物110は、半導体単結晶の他、サファイアやSiC等の高硬度材料であってもよい。実施例1に係るワイヤーソーは、高硬度材料の加工に用いられる固定砥粒方式に十分対応できるので、そのような切断加工が困難な高硬度材料を被加工物110とすることができる。
【0034】
図2は、実施例1に係るマルチワイヤーソー100の溝付きローラー10部分の拡大図である。溝付きローラー10は、円筒状の形状をなし、中心部がSUS304等のステンレス鋼からなる芯金で構成され、芯金の外周に各種鋼材(SUS304、316)、セラミック材、ウレタン樹脂などから成るローラー基体が嵌め込まれ、ローラー基体表面にワイヤー40を装着するための複数本の溝20が設けられる。
【0035】
芯金とローラー基体を別部品として、ローラー基体表面に形成した溝20が磨耗したり破損したりした際に、ローラー基体のみを交換することで、溝付きローラー10のランニングコストを抑える事が可能になる。
【0036】
ローラー基体の材質は上記の材質であれば特に制限が無いが、固定砥粒方式を用いる場合には、ダイヤモンドが固着されたワイヤーが磨耗しにくいようにするため、ウレタン樹脂製のローラー基体が適している。よって、固定砥粒方式の場合には、ウレタン樹脂製のローラー基体を用い、その表面に溝20を形成するようにしてもよい。
【0037】
図3は、実施例1に係る溝付きローラー10の一例を示した図である。図3に示すように、実施例1に係る溝付きローラー10は、円筒形状の曲面をなす外周面の表面に、溝20が形成された構成を有する。溝20は、所定のピッチを有し、円筒形状の軸と垂直に、外周面に沿って、複数形成されている。
【0038】
図4は、図3に示された溝付きローラー10のB部断面拡大図である。なお、断面は、溝付きローラー10の軸に平行な、径方向で切った断面を示している。図4において、溝付きローラー10の外周面の断面構成が示され、ワイヤー40をガイドする溝20の詳細な断面構成が表されている。
【0039】
溝20の断面形状は、底部21と、等幅部22と、導入部23とを有する形状となっている。底部21は、溝20の底面をなし、V字形状の断面形状を有する。つまり、溝20が深くなる程溝幅が狭くなり、先が尖ったV字形に形成されている。底部21の傾斜面は、曲線的な断面ではなく、直線的な断面となっている。つまり、U字形の形状ではなく、V字形の形状を有する。かかるV字形の斜面を有することにより、ワイヤー40に引っ張られる力が加わると、ワイヤー40は、傾斜面に沿って底部の最も深い部分に向かう力が働くので、高精度にワイヤー40の位置決めを行うことができる。
【0040】
等幅部22は、V字形の底部21の上端から連続して、等幅の溝幅を有して、外周表面側に向かって延びた断面形状を有している。等幅部22は、溝付きローラー10の外周表面に向かって延びるが、外周表面までは到達しておらず、溝20の中間部として設けられる。等幅部22は、ワイヤー40に対しては壁のような役割を果たし、ワイヤー40が溝20からはみ出すことを防止するように機能する。また、ワイヤー40が横方向(溝幅方向)に移動するのを防止し、ワイヤー40の切断時のブレを抑制する。等幅部22により、ワイヤー40は、縦方向(深さ方向)及び横方向(幅方向)に関して移動が制約され、溝20の内部からはみ出したり、溝20の内部で横方向にブレたり振動したりするような移動ができなくなる。これにより、ワイヤー40の位置決めが高精度に行われる。
【0041】
導入部23は、等幅部22の上端と溝付きローラー10の外周表面との間を繋ぐ溝部分であり、等幅部22の上端から、外周表面に接近するにつれて溝幅が広くなる直線的なラッパ形、チューリップ形の断面形状を有する。導入部23は、ワイヤー40が溝20に入り易くするために設けられている。つまり、等幅部22が溝付きローラー10の外周表面までそのまま等幅で到達した溝形状であると、溝20にワイヤー40を入れるのが困難になるおそれがあるので、ワイヤー40の溝20への収容を容易にすべく、外周表面の開口面積を大きくした外側に向かって溝幅が大きくなる断面形状を有する。
【0042】
このように、実施例1に係る溝付きローラー10においては、溝幅の異なる3つの部分を有する溝20を外周面に形成することにより、ワイヤー40の位置決めが正確になされるとともに、ワイヤー40が溝20から外れたり溝20内でぶれたりすることを抑制し、かつ、溝20へのワイヤー40の装着を容易に行うことができる構成を有する。
【0043】
なお、溝20の断面形状を、外周表面側から表現すると、溝20は断面形状が溝付きローラー10の外周表面から中心部に向かい幅狭となる導入部と、導入部と連続し、等幅で形成された等幅部と、等幅部と連続して中心部に向かい幅狭となる底部からなっていることになる。
【0044】
なお、導入部23の溝角度θ1は、60度〜90度であることが望ましい。導入部23の溝角度が60度以下の場合は、溝付きローラー表面の開口幅が狭くなり、ワイヤー40を溝付きローラー10へ巻き付ける際に、ワイヤー40の位置がずれた場合、溝20にワイヤーが収まらなくなるおそれがある。一方、導入部23の溝角度θ1が90度以上の場合は、溝20の導入部23に入ったワイヤー40の滑りが悪く、導入部23でワイヤー40が止まってしまい、溝20にワイヤー40が収まりにくくなるおそれがある。
【0045】
等幅部22は、断面形状が導入部23から底部21に接続されるまで等幅であり、溝幅がワイヤー直径の1.1〜1.5倍で、かつ溝深さtがワイヤー直径の3〜5倍であることが好ましい。ここで、溝深さtは、等幅部22の下端の深さ、言い換えれば底部21の上端の深さを指す。つまり、等幅部22の下端部又は底部21の上端部とローラー10の外周表面までの距離が、溝深さtとなる。また、等幅部22の溝幅がワイヤー直径の1.1倍乃至1.5倍であることが好ましいのは、等幅部22の溝幅がワイヤー直径の1.1倍より小さくなると、ワイヤー40が等幅部22内で引っかかって底部23に収まりにくくなるおそれがあり、1.5倍よりも大きくなると被加工物110を切断する際にワイヤー40が溝幅内で振幅し、ワイヤー40の平面状態に悪影響を及ぼすようになるおそれがあるからである。また、溝部深さtがワイヤー直径の3倍より小さくなると、ワイヤー40が溝20から外れやすくなり、5倍より大きくしてもワイヤー40が外れにくい効果は変わらず、溝加工が困難になるためメリットがない。よって、溝深さtは、ワイヤー直径の3乃至5倍であることが好ましい。
【0046】
底部の溝角度θ2は、45°〜90°であることが好ましい。溝角度θ2が45°〜90°の範囲を外れると、ワイヤー40の収まりが悪くなるおそれがあり、被加工物110を切断する際のワイヤー40のブレが大きくなり、被加工物110の加工精度に悪影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0047】
実施例1に係るマルチワイヤーソー100においては、実施例1に係る溝付きローラー10を用いて、固定砥粒型ワイヤー40をガイド溝20に捲回し、一方向に移動、もしくは往復移動させるとともに、切削液を供給ノズル40に設けた供給孔から吐出させるようにしている。微調整テーブルに仕掛けた被加工体110を、溝付きローラー10に捲回した数百本から成る、ワイヤー40群に押し当てることにより、被加工体110の切断加工が行える。
【0048】
図5は、実施例1に係る溝付きローラー10の溝20の寸法比率の一例を示した図である。なお、ワイヤー40の表面には、模式的にダイヤモンド等からなる固定砥流41が固着して設けられている。図5に示すように、例えば、ピッチ幅Pを0.95としたときに、溝幅を0.30、溝20の最深部の深さを0.50、等幅部22のみの深さ(深さ方向の長さ)を0.30、底部21の溝角度を90°、導入部の溝角度を60°、導入部21の開口幅を0.54としてもよい。図5において、溝20の等幅部22の下端の深さは特に示されていないが、ワイヤー直径との関係で、上述の関係を満たし得る。また、上述の関係を満たしていなくても、底部21、等幅部22及び導入部23を有する断面形状となっており、ワイヤー40のブレや外れを防止できる構成となっている。なお、図5は、あくまで溝20の各部のサイズ比率と溝角度の一例を示した図であり、これらの値は、用途に応じて種々設定してよいことは言うまでも無い。
【実施例2】
【0049】
図6は、本発明の実施例2に係る溝付きローラー11の一例の断面構成を示した図である。なお、断面は、実施例1と同様に、溝付きローラー11の軸に平行で、半径方向に切った断面を示している。実施例2に係る溝付きローラー11は、外周面に溝30を備えているが、溝30の断面形状が、底部31と等幅部32のみであり、導入部を有しない点で、実施例1に係る溝付きローラー10と異なっている。なお、溝30の内部には、ワイヤー40が設置され、ワイヤー40の表面には、ダイヤモンド等からなる固定砥流41が模式的に示されている。
【0050】
図6に示すように、導入部を設けず、V字形状を有する底部31と、底部31の上端から溝付きローラー11の外周表面に向かって延び、そのまま外周表面に到達する等幅部32とを有する断面形状を有する溝30を溝付きローラー11の外周面に形成してもよい。
【0051】
図6において、例示的な溝30の各部のサイズ比率及び溝角度が示されているが、例えば、図6に示すような寸法比率の構成としてもよい。つまり、溝30同士の底部31の最深部同士のピッチPを0.95mmとし、溝30の最深部の深さを1.0mmとし、溝30の開口部同士の間隔を0.26mmとする。また、等幅部32の下端又は底部31の上端までの溝深さtは0.68mmとして、底部31の溝角度は90°とする。
【0052】
かかる構成においても、底部31の断面形状は、V字形状に構成されているため、ワイヤー40に力が加えられると、ワイヤー40は底部31の最深部に向かって位置決めされ、正確な位置決めを行うことができる。また、底部31の上端部までの溝深さtをワイヤー直径の3〜5倍とし、等幅部32の溝幅をワイヤー直径の1.1〜1.5倍とすれば、等幅部32が壁として機能し、実施例1と同様に、ワイヤー外れを防止することができるとともに、ワイヤーブレを抑制することができる。
【0053】
なお、実施例2に係る溝付きローラー11は、溝30が導入部を有しないため、実施例1に係る溝付きローラー10よりもワイヤー40の装着が困難になることが予測されるが、例えば、等幅部32の溝幅を上限のワイヤー直径の1.5倍付近に設定することにより、ワイヤー40の装着自体も容易に行うことができる。
【0054】
このように、V字断面形状の底部31と、等幅断面形状の等幅部32のみで構成された溝30を有する溝付きローラー11であっても、溝30の各部の寸法と形状を適切に構成することにより、ワイヤー外れを抑制し、位置決めを高精度に行うとともに、ワイヤー40の溝30への装着を困難無く行うことができる。
【0055】
また、実施例2に係る溝付きローラー11は、図1で示したマルチワイヤーソー100にそのまま適用することができる。
【0056】
このように、実施例2に係る溝付きローラー11及びこれを用いたワイヤーソーによれば、簡素な溝30の構成を採用しつつ、ワイヤー外れを低減し、ワイヤー40の位置決めを高精度に行うことができる。また、溝幅を適切に設定することにより、ワイヤー40の溝30への巻き付けも実施例1と同様に容易に行うことができる。
【0057】
このように、実施例1及び実施例2に係る溝付きワイヤー及びこれを用いたワイヤーソーによれば、ワイヤーブレが抑制されてワイヤーのピッチ精度が確保されるとともに、ワイヤーが溝から外れることを防止することができる。また、ガイド溝へのワイヤー挿入が容易であることから、溝へのワイヤーの装着がし易い。更に、切断加工後に得られたウェハの厚さのバラツキ、およびウェハ面内の平行度等の加工精度に優れるため、作業者の工数削減やウェハ加工精度不良やウェハ製造コストを低減させることができる。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、半導体結晶、サファイア結晶等のインゴットを切断加工するワイヤーソーに利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 溝付きローラー
20、30 溝
21、31 底部
22、32 等幅部
23 導入部
40 ワイヤー
41 固定砥流
50 リール
60 ガイドローラー
70 切断用ブロック
80 ダミー材
90 供給ノズル
100 マルチワイヤーソー
110 被加工物
図1
図2
図3
図4
図5
図6