特許第5672419号(P5672419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5672419タッチパネル用コーティング剤及びそれを用いたタッチパネル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672419
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】タッチパネル用コーティング剤及びそれを用いたタッチパネル
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/16 20060101AFI20150129BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   C09D175/16
   C09D5/02
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-533506(P2014-533506)
(86)(22)【出願日】2013年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2013075127
(87)【国際公開番号】WO2014050656
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2014年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-214106(P2012-214106)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】神成 広義
(72)【発明者】
【氏名】宮宅 潤一
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−138527(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/122519(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/026475(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00〜 10/00
101/00〜201/10
C08G 18/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和二重結合と、親水性基と、脂肪族環式構造とを有するポリウレタン(A)、及び、水性媒体(B)を含有するコーティング剤であって、前記ポリウレタン(A)が、親水性基を有するポリオール(a1−2)を含有するポリオール(a1)、ポリイソシアネート(a2)、及び、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物を含有する重合性不飽和二重結合を有する化合物(a3)を反応させて得られるものであり、さらに脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)及び脂肪族環式構造を有するポリイソシアネート(a2−1)のいずれか一方又は両方を前記ポリウレタン(A)の原料として使用するものであることを特徴とするタッチパネル用コーティング剤。
【請求項2】
前記ポリウレタン(A)が、1.2〜6mmol/gの範囲の脂肪族環式構造を有するものである請求項1に記載のタッチパネル用コーティング剤。
【請求項3】
前記ポリウレタン(A)が、0.5〜5mmol/gの範囲の重合性不飽和二重結合を有するものである請求項1に記載のタッチパネル用コーティング剤。
【請求項4】
前記ポリウレタン(A)が、前記ポリオール(a1−1)由来の脂肪族環式構造を0.01〜4.2mmol/gの範囲で有するものである請求項1に記載のタッチパネル用コーティング剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタッチパネル用コーティング剤の塗膜を有することを特徴とするタッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品表面に耐指紋性を付与することのできるコーティング剤及びそれを用いた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング剤は、各種基材表面へ良好な意匠性を付与し、また、基材表面を保護することを目的として、家電製品や建築部材、自動車をはじめとする様々な用途で使用されている。前記コーティング剤に求められる特性は、前記コーティング剤の適用分野が広範となるのに伴って、多岐にわたるようになってきている。
【0003】
例えば、タッチパネル等の画像表示装置等の表面を被覆する用途で使用するコーティング剤には、指等で触れた際に付着する指紋が目立ちにくく、また、布等で軽く拭くことによって指紋を除去可能な特性が求められる場合が多い。また、前記コーティング剤には、指触の際に爪等が接触した場合であっても、傷等を防止可能なレベルの高硬度を有する塗膜を形成できることが求められる。
【0004】
前記耐指紋性に優れたコーティング剤としては、例えば、不飽和二重結合含有アクリル共重合体及び2官能以上の不飽和二重結合含有モノマーと、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)及び/又は環状構造を有し、少なくとも1つの反応性不飽和二重結合を含む屈折率が1.52以上の(メタ)アクリレートとを含む組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
前記組成物を用いることによって、良好な耐指紋性や硬度を有する塗膜得られるものの、その塗膜表面に一度付着した指紋は、布等を用いて拭き取らない限り、その塗膜表面に残存し、塗膜の外観不良を生じる問題があった。
【0006】
そこで、塗膜表面に指紋が付着しても、外観上目立たず、布等を用いて拭き取りが容易な耐指紋性を有し、かつ高硬度で耐久性に優れた塗膜が得られるコーティング剤を求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−191370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、指紋が付着しても、経時的に指紋が目立たなくなるため外観不良を引き起こしにくく、布等で指紋を容易に拭き取ることが可能な耐指紋性を有し、かつ高硬度で耐久性に優れた塗膜を形成できるコーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のポリウレタンを含有するコーティング剤を用いることで、経時的に指紋が目立ちにくくなり、かつ、布等で指紋を容易に拭き取ることができ、かつ高硬度で耐久性に優れた塗膜が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、重合性不飽和二重結合と、親水性基と、脂肪族環式構造とを有するポリウレタン(A)、及び、水性媒体(B)を含有するコーティング剤であって、前記ポリウレタン(A)が、親水性基を有するポリオール(a1−2)を含有するポリオール(a1)、ポリイソシアネート(a2)、及び、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物を含有する重合性不飽和二重結合を有する化合物(a3)を反応させて得られるものであり、さらに脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)及び脂肪族環式構造を有するポリイソシアネート(a2−1)のいずれか一方又は両方を前記ポリウレタン(A)の原料として使用するものであることを特徴とするタッチパネル用コーティング剤及びそれを用いたタッチパネルに関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のタッチパネル用コーティング剤は、経時的に指紋が目立ちにくくなり、かつ、布等で指紋を容易に拭き取ることができ、かつ高硬度で耐久性に優れた塗膜が得られることから、指触による指紋汚れの付着により、視認性や外観が損なわれる、例えば、スマートフォン、タブレット端末、自動現金預払機、きっぷ券売機等のタッチパネルに好適に用いることができる。また、本発明のタッチパネル用コーティング剤は、これらのタッチパネルの部材として用いられるガラス板、フィルムに耐指紋性を付与する材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のタッチパネル用コーティング剤は、重合性不飽和二重結合と、親水性基と、脂肪族環式構造とを有するポリウレタン(A)、及び、水性媒体(B)を含有するコーティング剤であって、前記ポリウレタン(A)が、親水性基を有するポリオール(a1−2)を含有するポリオール(a1)、ポリイソシアネート(a2)、及び、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物を含有する重合性不飽和二重結合を有する化合物(a3)を反応させて得られるものであり、さらに脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)及び脂肪族環式構造を有するポリイソシアネート(a2−1)のいずれか一方又は両方を前記ポリウレタン(A)の原料として使用するものである。
【0013】
前記ポリウレタン(A)は、耐指紋性や耐久性に優れた塗膜を形成するため、重合性不飽和二重結合を有するものである。
【0014】
前記重合性不飽和二重結合は、本発明のタッチパネル用コーティング剤を後述する基材の表面に塗布し、硬化させる際にラジカル重合し、架橋構造の形成された塗膜を形成する。これにより、前記ポリウレタン(A)としては、0.5〜5mmol/gの範囲の重合性不飽和二重結合を有するものを使用することが、より一層優れた耐指紋性とともに、高硬度で優れた耐久性を有する塗膜を形成できるので好ましい。
【0015】
前記重合性不飽和二重結合は、ポリウレタン(A)の分子末端に存在してもよいが、ポリウレタン(A)のウレタン結合が主に存在する主鎖に対し、その側鎖に存在することが、より一層、耐久性や耐指紋性に優れた塗膜を形成できるので好ましい。
【0016】
また、本発明で使用するポリウレタン(A)は、水性媒体(B)中に安定して溶解又は分散するため、親水性基を有する。
【0017】
前記親水性基としては、アニオン性基、カチオン性基又はノニオン性基が挙げられる。
【0018】
前記アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、それらの一部又は全部が後述する塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基、スルホネート基等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基やカルボキシレート基を使用することが、良好な水分散性を付与できるので好ましい。
【0019】
また、前記カチオン性基としては、例えば、3級アミノ基等が挙げられる。前記3級アミノ基は、その一部又は全てが酢酸やプロピオン酸等の有機酸や、リン酸等の無機酸で中和されたものであっても良い。
【0020】
また、前記ノニオン性基としては、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン基等が挙げられる。
【0021】
前記アニオン性基等の親水性基は、水性媒体(B)中におけるポリウレタン(A)の良好な水分散安定性を付与することができることから、ポリウレタン(A)中に0.05〜1mmol/gの範囲で存在することが好ましい。
【0022】
また、前記ポリウレタン(A)としては、耐指紋性に優れた塗膜を形成するため、脂肪族環式構造を有するものを使用する。
【0023】
前記脂肪族環式構造としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、プロピルシクロヘキシル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、ビシクロ[4.3.0]−ノニル基、トリシクロ[5.3.1.1]ドデシル基、プロピルトリシクロ[5.3.1.1]ドデシル基、ノルボルネン基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基等が挙げられる。なかでもシクロヘキシル基、ノルボルネン基、イソボルニル基、アダマンチル基であることが、より一層優れた耐指紋性を有する塗膜を形成できるため好ましく、シクロヘキシル基がより好ましい。
【0024】
前記脂肪族環式構造は、前記ポリウレタン(A)中に1.2〜6mmol/gの範囲で存在することが、より一層、耐指紋性に優れた塗膜を形成できるので好ましく、2.4〜6mmol/gの範囲で存在することがより好ましく、3〜5mmol/gの範囲で存在することがさらに好ましい。なお、前記脂肪族環式構造の含有量は、ポリウレタン(A)1g中に存在する脂肪族環式構造の物質量を表し、ポリウレタン(A)の製造に使用した原料の仕込み量に基づいて算出した値である。
【0025】
前記ポリウレタン(A)は、より一層優れた耐指紋性を付与できるので10,000〜500,000の範囲の重量平均分子量を有するものを使用することが好ましく、20,000〜200,000の範囲の重量平均分子量を有するものを使用することがより好ましく、20,000〜100,000の範囲の重量平均分子量を使用することが特に好ましい。
【0026】
また、前記ポリウレタン(A)としては、形成する塗膜の耐指紋性を低下させることなく、耐久性や基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できるので、ウレア結合を有するものを使用することが好ましい。
【0027】
前記ポリウレタン(A)としては、500〜50,000の範囲のウレア結合当量を有するものを使用することが、密着性や耐久性に優れた塗膜を形成できるので好ましい。
【0028】
前記ポリウレタン(A)は、例えば、親水性基を有するポリオール(a1−2)を含有するポリオール(a1)、ポリイソシアネート(a2)、及び、重合性不飽和二重結合を有する化合物(a3)を組み合わせ反応させることによって製造することができる。その際、前記ポリウレタン(A)に脂肪族環式構造を導入するため、脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)及び脂肪族環式構造を有するポリイソシアネート(a2−1)のいずれか一方又は両方を使用することが好ましく、それらを両方使用することが、より一層、耐指紋性に優れた塗膜を形成できるのでより好ましい。
【0029】
前記ポリウレタン(A)は、具体的には、前記ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)とを反応させることによって、末端にイソシアネート基を有するポリウレタン(A’)を製造する工程〔1〕、及び、前記ポリウレタン(A’)と、前記重合性不飽和二重結合を有する化合物(a3)とを反応させる工程〔2〕とを経ることによって製造することができる。
【0030】
また、前記化合物(a3)として2以上の水酸基を有する化合物を使用する場合、前記ポリウレタン(A)は、前記ポリオール(a1)と、ポリイソシアネート(a2)と、前記化合物(a3)に包含される2以上の水酸基を有する化合物とを混合し反応させることによって製造することができる。
【0031】
前記ポリウレタン(A)の製造に使用可能なポリオール(a1)としては、前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)や親水性基を有するポリオール(a1−2)や、必要に応じてその他のポリオールを組み合わせ使用することができる。
【0032】
前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)としては、例えば、シクロブタンジオール、シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘプタンジオール、シクロオクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキシプロピルシクロヘキサノール、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−ジメタノール、ビシクロ[4.3.0]−ノナンジオール、ジシクロヘキサンジオール、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカンジオール、ビシクロ[4.3.0]ノナンジメタノール、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカン−ジエタノール、ヒドロキシプロピルトリシクロ[5.3.1.1]ドデカノール、スピロ[3.4]オクタンジオール、ブチルシクロヘキサンジオール、1,1’−ビシクロヘキシリデンジオール、シクロヘキサントリオール、水素添加ビスフェノ−ルA、1,3−アダマンタンジオール等の、100〜500程度の低分子量の脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1−1)を使用することが好ましい。なかでも、シクロヘキサンジメタノールを使用することが、より一層優れた耐指紋性を有する塗膜を形成できるので好ましい。なお、上記脂肪族環式構造を有するポリオールの分子量は、式量に基づくものである。
【0033】
前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)としては、前記した低分子量の脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1−1)と他の成分とを反応させて得られる脂肪族環式構造を有するポリカーボネートポリオール、脂肪族環式構造を有するポリエステルポリオール、脂肪族環式構造を有するポリエーテルポリオール等を使用することができる。
【0034】
前記脂肪族環式構造を有するポリカーボネートポリオールとしては、例えば、前記低分子量の脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1−1)と、ジメチルカーボネートやホスゲン等と、必要に応じてネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等とを反応させて得られたものを使用することができる。
【0035】
前記脂肪族環式構造を有するポリカーボネートポリオールを使用することによって、耐指紋性とともに、滑り性に優れた塗膜を形成することができる。前記滑り性は、例えば、タッチパネル等の表面に形成する塗膜に求められる特性である。
【0036】
前記脂肪族環式構造を有するポリカーボネートポリオールとしては、500〜3,000の数平均分子量を有する脂肪族環式構造を有するポリカーボネートポリオールを使用することが好ましく、800〜2,500の数平均分子量を有するものを使用することがより好ましい。
【0037】
また、前記脂肪族環式構造を有するポリエステルポリオールとしては、例えば、前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1−1)とポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるものや、各種ポリオールと脂肪族環式構造を有するポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるものを使用することができる。
【0038】
前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1−1)とエステル化反応しうるポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、及びこれらの無水物又はエステル形成性誘導体等を使用することができる。
【0039】
また、前記脂肪族環式構造を有するポリカルボン酸と反応し得るポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール等の脂肪族ポリオールや、ビスフェノールAやビスフェノールF等のビスフェノール化合物又はそのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0040】
前記ポリオールとエステル化反応しうる脂肪族環式構造を有するポリカルボン酸としては、例えば、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらの無水物等が挙げられる。
【0041】
また、前記脂肪族環式構造を有するポリエーテルポリオールとしては、例えば、前記した低分子量の脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1−1)を開始剤として、例えば、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合させたもの等が挙げられる。
【0042】
前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)の使用量は、前記ポリオール(a1)の全量に対して、0.1〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0043】
また、前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)は、前記ポリウレタン(A)全体に対する、前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)由来の脂肪族環式構造の割合が、0.01〜4.2mmol/gとなる範囲で使用することが、より一層優れた耐指紋性を付与するとともに、良好な基材追従性や密着性を有する塗膜を形成できるので好ましい。
【0044】
また、前記ポリオール(a1)に使用可能な親水性基を有するポリオール(a1−2)としては、前記脂肪族環式構造を有するポリオール(a1−1)以外の、親水性基を有するポリオールを使用することができ、例えば、アニオン性基を有するポリオール、カチオン性基を有するポリオール及びノニオン性基を有するポリオールを使用することができる。なかでも、アニオン性基を有するポリオールを使用することがより好ましい。
【0045】
前記アニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、カルボキシル基を有するポリオール、スルホン酸基を有するポリオール等が挙げられる。
【0046】
前記カルボキシル基を有するポリオールとしては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸等が挙げられ、これらの中でも2,2−ジメチロールプロピオン酸が好ましい。また、前記カルボキシル基を有するポリオールと各種ポリカルボン酸とを反応させて得られるカルボキシル基を有するポリエステルポリオールも前記カルボキシル基を有するポリオールとして使用することができる。
【0047】
前記スルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、5−[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等のジカルボン酸又はそれらの塩と、エチレングリコールやプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の低分子ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0048】
前記アニオン性基は、それらの一部又は全部が塩基性化合物等によって中和されていることが、良好な水分散性を発現できるので好ましい。
【0049】
前記アニオン性基を中和する際に使用可能な塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の沸点が200℃以上の有機アミンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含む金属水酸化物等を使用することができる。前記塩基性化合物は、得られるコーティング剤の水分散安定性を向上させる観点から、塩基性化合物/アニオン性基=0.5〜3(モル比)となる範囲で使用することが好ましく、0.7〜1.5(モル比)となる範囲で使用することがより好ましい。
【0050】
また、前記カチオン性基を有するポリオールとしては、例えば、3級アミノ基を有するポリオールを使用することができ、具体的にはN−メチル−ジエタノールアミンや、1分子中にエポキシを2個有する化合物と2級アミンとを反応させて得られるポリオールなどを使用することができる。
【0051】
前記カチオン性基は、その一部又は全部が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酒石酸、アジピン酸等の酸性化合物で中和されていることが好ましい。
【0052】
また、前記カチオン性基としての3級アミノ基は、その一部又は全部が4級化されていることが好ましい。前記4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、メチルクロライド、エチルクロライド等を使用することができ、ジメチル硫酸を使用することが好ましい。
【0053】
また、前記ノニオン性基を有するポリオールとしては、エチレンオキサイド由来の構造単位を有するポリアルキレングリコール等を使用することができる。
【0054】
前記親水性基を有するポリオール(a1−2)は、前記ポリオール(a1)の全量に対して、0.1〜30質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0055】
また、前記ポリオール(a1)として、必要に応じて使用可能なその他のポリオールとしては、例えば、脂肪族環式構造や親水性基を有さないポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等を使用することができ、ポリエステルポリオールを使用することが好ましい。
【0056】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールと、ポリカルボン酸とを反応して得られるものや、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルや、これらの共重合ポリエステル等を使用することができる。
【0057】
前記低分子量のポリオールとしては、例えば、分子量が50〜300程度である、エチレングリコールやプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ポリオールや、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族環式構造を有するポリオール、ビスフェノールAやビスフェノールF等のビスフェノール化合物等の芳香族構造を有するポリオールを使用することができる。これらの中でも1,6−ヘキサンジオールやネオペンチルグリコールを使用することが好ましい。
【0058】
前記ポリエステルポリオールの製造に使用可能な前記ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸や、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸、及びそれらの無水物又はエステル形成性誘導体等を使用することができる。
【0059】
また、前記ポリウレタン(A)の製造に使用するポリイソシアネート(a2)としては、例えば、脂肪族環式構造含有ポリイソシアネート(a2−1)や、必要に応じてその他のポリイソシアネートを使用することができる。
【0060】
前記脂肪族環式構造を有するポリイソシアネート(a2−1)としては、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を使用することができる。なかでもジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートを使用することが、より一層優れた耐指紋性に優れた塗膜を形成できるので好ましい。
【0061】
前記その他のポリイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0062】
前記ポリイソシアネート(a2)としては、より一層優れた耐指紋性を付与できるので、前記脂肪族環式構造を有するポリイソシアネート(a2−1)を、前記ポリイソシアネート(a2)の全量中に90質量%以上の範囲で使用することが好ましく、95〜100質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0063】
前記工程〔1〕における前記ポリオール(a1)と前記ポリイソシアネート(a2)との反応は、例えば、無溶剤下又は有機溶剤の存在下で、前記ポリオール(a1)と前記ポリイソシアネート(a2)とを混合し、反応温度50〜150℃程度の範囲で行うことができる。
【0064】
前記ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)との反応は、例えば、前記ポリイソシアネート(a2)のイソシアネート基と、前記ポリオール(a1)の水酸基との当量比[イソシアネート基/水酸基]が、0.8〜2.5の範囲で行うことが好ましく、0.9〜1.5の範囲で行うことがより好ましい。
【0065】
また、前記工程〔1〕で製造する末端にイソシアネート基を有するポリウレタン(A’)を製造する際には、塗膜の耐久性を向上できるので、前記ポリオール(a1)及び前記ポリイソシアネート(a2)の他に、必要に応じて鎖伸長剤を使用することができる。
【0066】
前記ポリウレタン(A’)を製造する際に使用できる鎖伸長剤としては、ポリアミン、ヒドラジン化合物、その他活性水素原子含有化合物等を使用することができる。
【0067】
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどが挙げられる。
【0068】
前記ヒドラジン化合物としては、例えば、ヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビスヒドラジン;コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0069】
前記その他活性水素含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール、及び水等を、本発明のタッチパネル用コーティング剤の保存安定性が低下しない範囲内で単独で使用又は2種以上を併用することができる。
【0070】
前記鎖伸長剤は、例えば、前記ポリアミンを使用する場合であれば、前記ポリアミンが有するアミノ基と、前記ポリオール(a1)及びポリイソシアネート(a2)を反応させて得られたウレタンプレポリマーのイソシアネート基との当量比が、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.3〜1(当量比)の範囲で使用することがより好ましい。鎖伸長剤を前記した範囲で使用することにより、ポリウレタン(A)の前記した所定量のウレア結合を導入することができ、その結果、耐指紋性を低下させることなく、耐久性に優れた塗膜を形成することが可能となる。
【0071】
前記鎖伸長剤と前記ウレタンプレポリマーとの鎖伸長反応は、例えば、前記方法で得たウレタンプレポリマー又はその中和物の水分散体と鎖伸長剤とを混合することによって行うことができる。前記鎖伸長反応は、前記ウレタンプレポリマーの親水性基を中和する工程の前に行っても良い。
【0072】
また、前記ポリウレタン(A)を製造する際には、耐候性や耐久性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成できるので、前記ポリオール(a1)及び前記ポリイソシアネート(a2)や前記鎖伸長剤のほかに、必要に応じて加水分解性シリル基含有アミンを使用することができる。
【0073】
前記加水分解性シリル基含有アミンとしては、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−γ−トリメトキシシリルプロピル−m−フェニレンジアミン、N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N−(2−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、p−[N−(2−アミノエチル)アミノメチル]フェネチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0074】
前記加水分解性シリル基含有アミンを使用することによって、ポリウレタン(A)に加水分解性シリル基を付与することができる。
【0075】
前記ポリウレタン(A’)を製造する際に使用可能な有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル;アセトニトリル等のニトリル;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドを、単独で使用又は2種以上を使用することができる。前記ポリウレタン(A’)を製造する際に前記有機溶剤を使用した場合には、環境負荷低減等の観点から、前記ポリウレタン(A)の製造途中や製造後に、必要に応じて蒸留法等によって前記有機溶剤を除去することが好ましい。
【0076】
前記方法で得られた末端にイソシアネート基を有するポリウレタン(A’)と、重合性不飽和二重結合を有する化合物(a3)とを反応させる工程〔2〕は、前記工程〔1〕に引き続いて行うことができる。
【0077】
前記工程〔2〕は、例えば、前記工程〔1〕で得たポリウレタン(A’)又はその有機溶剤溶液と、前記化合物(a3)とを混合し、50〜100℃で2〜10時間程度、反応させる工程である。前記反応は、前記化合物(a3)がイソシアネート基と反応し得る官能基[X]を有する場合であれば、前記ポリウレタン(A’)が有するイソシアネート基と、前記化合物(a3)が有する官能基[X]との反応を指す。
【0078】
前記化合物(a3)としては、例えば、前記官能基[X]が水酸基であれば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、(メタ)アクリレート基とエポキシ基とを有する化合物及び(メタ)アクリル酸の反応物等を使用することができる。なお、前記「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの一方又は両方を意味する。
【0079】
また、前記化合物(a3)のうち前記水酸基を2以上有する化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等を使用することができる。前記2以上の水酸基を有する化合物は、前記工程〔1〕及び〔2〕による多段階ではなく、前記ポリオール(a1)や前記ポリイソシアネート(a2)と一括して混合し反応させることが好ましい。
【0080】
また、前記化合物(a3)として使用可能な2以上の水酸基を有する化合物としては、例えば、エポキシ化合物とカルボン酸とを反応させることによって得られるものを使用することができる。
【0081】
前記エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0082】
また、前記カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸や、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等を使用することができる。
【0083】
前記化合物(a3)としては、2以上の水酸基を有する化合物を使用することが、ポリウレタン(A)の側鎖に重合性不飽和二重結合を導入でき、その結果、耐久性や耐指紋性に優れた塗膜を形成できるため好ましい。具体的には、前記化合物(a3)としては、前記エポキシ化合物とカルボン酸との反応物を使用することが好ましい。
【0084】
前記方法で得られたポリウレタン(A)又はその有機溶剤溶液は、例えば、前記ポリウレタン(A)の有する親水性基の一部又は全部を中和し、次いで、該中和物と水性媒体(B)とを混合することができる。これにより、前記水性媒体(B)中に前記ポリウレタン(A)が溶解又は分散したポリウレタン組成物からなるコーティング剤を得ることができる。前記混合の際には、必要に応じてホモジナイザー等の機械を用いてもよい。
【0085】
前記水性媒体(B)としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0086】
前記方法で得られた本発明のタッチパネル用コーティング剤は、前記ポリウレタン(A)が有する重合性不飽和二重結合によるラジカル重合を進行させるうえで、重合開始剤を使用することが好ましい。
【0087】
前記重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーケトン、チオキサントン、アントラキノン、ベンゾイン、ジアルコキシアセトフェノン、アシルオキシムエステル、ベンジルケタール、ヒドロキシアルキルフェノン、ハロゲノケトン等を使用することができる。前記光重合開始剤は、必要に応じてメチルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリブチルアミン等の第三アミンと組み合わせ使用してもよい。
【0088】
また、重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4‘−アゾビス(4−シアノ)吉草酸、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物等の熱重合開始剤を使用することもできる。
【0089】
前記重合開始剤は、ポリウレタン(A)の固形分に対して0.5〜5質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0090】
前記方法で得られた本発明のタッチパネル用コーティング剤には、前記したものの他に必要に応じて、例えば、成膜助剤、充填材、チキソトロピー付与剤、粘着性付与剤、顔料、抗菌剤等の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で添加することができる。
【0091】
前記成膜助剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤(ジオクチルスルホコハク酸エステルソーダ塩等)、疎水性ノニオン系界面活性剤(ソルビタンモノオレエート等)、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0092】
前記チキソトロピー付与剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、パラフィン、樹脂酸、界面活性剤、ポリアクリル酸等で表面処理された前記充填材、ポリ塩化ビニルパウダー、水添ヒマシ油、微粉末シリカ、有機ベントナイト、セピオライト等が挙げられる。
【0093】
前記顔料としては、公知の無機顔料や有機顔料を用いることができる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、アンチモンレッド、ベンガラ、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。
【0094】
前記有機顔料としては、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、アゾ系顔料等が挙げられる。これらの顔料は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの顔料が表面処理されており、水性媒体に対して自己分散能を有しているものであってもよい。
【0095】
前記抗菌剤としては、例えば、塩化銀、トリフルアニド、ジクロルフルアニド、フルオロフォルペット、ジンクピリチオン、2−ベンゾイミダゾールカルバン酸メチル、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0096】
さらに、本発明のタッチパネル用コーティング剤に添加可能な上記以外の添加剤としては、例えば、反応促進剤(金属系、金属塩系、アミン系等)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤等)、水分除去剤(4−パラトルエンスルフォニルイソシアネート等)、吸着剤(生石灰、消石灰、ゼオライト、モレキュラーシーブ等)、接着性付与剤、消泡剤、レベリング剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0097】
本発明のタッチパネル用コーティング剤は、例えば、各種物品の表面保護、意匠性付与、視認性向上等の機能性を付与する際に用いることができる。特に、本発明のタッチパネル用コーティング剤は、経時的に指紋が目立ちにくくなり、かつ、布等で指紋を容易に拭き取ることができる塗膜が得られることから、指触による指紋汚れの付着により、視認性や外観が損なわれるタッチパネルに好適に用いることができる。
【0098】
本発明のタッチパネルは、本発明のタッチパネル用コーティング剤の塗膜を有するものであるが、このようなタッチパネルとしては、例えば、スマートフォン、タブレット端末、自動現金預払機、きっぷ券売機等のタッチパネルが挙げられる。これらのタッチパネルは、特に耐指紋性の要求が高いことから、本発明のタッチパネル用コーティング剤は好適に用いることができる。また、本発明のタッチパネル用コーティング剤は、これらのタッチパネルの部材として用いられるガラス板、フィルムに耐指紋性を付与する材料として好適に用いることができる。
【0099】
前記フィルムとしては、フィルム状でもシート状でもよく、その厚さは、20〜500μmの範囲が好ましい。また、前記基材フィルムの材質としては、透明性の高い樹脂が好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン−1等のポリオレフィン系樹脂;セルロースアセテート(ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等)、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートフタレート、硝酸セルロース等のセルロース系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリビニルアルコール;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリスチレン;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリイミド、ポリエーテルイミド等のポリイミド系樹脂;ノルボルネン系樹脂(例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア」)、変性ノルボルネン系樹脂(例えば、(JSR株式会社製「アートン」)、環状オレフィン共重合体(例えば、三井化学株式会社製「アペル」)などが挙げられる。さらに、これらの樹脂からなる基材を2種以上貼り合わせたものを用いても構わない。
【0100】
また、本発明の物品として、金属製の基材も用いることができ、例えば、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金鋼板等のめっき鋼板、鉄板、アルミ板、アルミ合金板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等が挙げられる。
【0101】
前記基材は前記材質からなる平面状のものであっても曲部を有するものであってもよく、また、不織布のような繊維からなる基材であってもよい。
【0102】
本発明のタッチパネル用コーティング剤は、上記の物品表面に直接塗布しても、予め物品表面にプライマーを塗布してプライマー層を設けられた物品表面に塗布してもよい。本発明のタッチパネル用コーティング剤を塗布して乾燥した後、前記ポリウレタン(A)が有する重合性不飽和二重結合のラジカル重合を進行させることによって、物品表面にその塗膜を形成することができる。
【0103】
また、離型紙上に前記コーティング剤を塗布し、次いで乾燥、硬化させることによって離型紙の表面に塗膜を形成し、さらに塗膜上に接着剤もしくは粘着剤を塗布したものを、不織布のような繊維からなる基材に貼り合わせ、離型紙を剥離することによって、その表面に耐指紋性を有する層を形成することができる。
【0104】
本発明のタッチパネル用コーティング剤を物品表面に塗布する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、コンマコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、フローコーター、キスコーター、シャワーコーター、ホイーラーコーター、スピンコーター、スクリーン印刷、アプリケーター、バーコーター等の塗布(印刷)機を用いた塗布方法が挙げられる。また、浸漬(ディッピング)、スプレー、刷毛塗りによる塗布方法でもよい。
【0105】
また、前記コーティング剤を硬化する方法としては、加熱する方法や、紫外線等の活性エネルギー線を照射する方法が挙げられる。
【0106】
前記加熱は、使用するラジカル重合開始剤の種類によって異なるが、例えば、100〜150℃程度の温度で10〜30分程度行うことで、前記ラジカル重合を進行させ硬化させることができる。
【0107】
また、前記活性エネルギー線を照射する方法としては、例えば、紫外線であればキセノンランプ、キセノン−水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、LEDランプ等の公知のランプを使用する方法が挙げられる。
【0108】
前記活性エネルギー線の照射量は、0.05〜5J/cmの範囲であることが好ましく、0.1〜3J/cmの範囲であることがより好ましく、0.1〜1J/cmの範囲であることが特に好ましい。なお、上記の紫外線照射量は、UVチェッカーUVR−N1(日本電池株式会社製)を用いて300〜390nmの波長域において測定した値に基づく。
【0109】
本発明のタッチパネル用コーティング剤を用いて形成する塗膜の厚さは、用いる物品の種類、用途等に応じて適宜調整可能であるが、通常は0.1〜20μm程度であることが好ましい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
【0111】
[実施例1]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,4−シクロヘキサンジメタノールと1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール(ポリカーボネートポリオール中の脂肪族環式構造量11.7質量%、数平均分子量2,000)300質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール40質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸40質量部、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとアクリル酸との反応物102質量部、及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート320質量部を、メチルエチルケトン312質量部に混合し、前記反応容器中の温度80℃の条件下で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0112】
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液と、ペンタエリスリトールトリアクリレートの53質量部とを混合し、反応させることで、アクリレート基と、親水性基とを有するポリウレタン(A’−1)の有機溶剤溶液を得た。
【0113】
次いで、前記ポリウレタン(A’−1)の有機溶剤溶液と、トリエチルアミン30質量部とを混合することで前記ポリウレタン(A’−1)が有するカルボキシル基の一部又は全部を中和した後、さらに水2128質量部を加え十分に攪拌し、10質量%のピペラジン水溶液を95質量部加え鎖伸長反応させ、更に減圧蒸留することによって、不揮発分が33質量%であるポリウレタン(A−1)の水分散体からなるコーティング剤(1)を得た。
【0114】
[実施例2]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,4−シクロヘキサンジメタノールと1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール(ポリカーボネートポリオール中の脂肪族環式構造量11.7質量%、数平均分子量2,000)300質量部、1,6−ヘキサンジオール33質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸40質量部、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとアクリル酸との反応物102質量部、及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート320質量部を、メチルエチルケトン309質量部に混合し、前記反応容器中の温度80℃の条件下で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0115】
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液と、ペンタエリスリトールトリアクリレートの53質量部とを混合し、反応させることで、アクリレート基と、親水性基とを有するポリウレタン(A’−2)の有機溶剤溶液を得た。
【0116】
次いで、前記ポリウレタン(A’−2)の有機溶剤溶液と、トリエチルアミン30質量部とを混合することで前記ポリウレタンが有するカルボキシル基の一部又は全部を中和した後、更に水2110質量部を加え十分に攪拌し、10質量%のピペラジン水溶液を95質量部加え鎖伸長反応させ、更に減圧蒸留することによって、不揮発分が33質量%であるポリウレタン(A−2)の水分散体からなるコーティング剤(2)を得た。
【0117】
[実施例3]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,6−ヘキサンジオールとネオペンチルグリコールとアジピン酸とを反応させて得られるポリエステルポリオール(数平均分子量2,000)300質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール40質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸40質量部、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物102質量部、及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート320質量部を、メチルエチルケトン312質量部に混合し、前記反応容器中の温度80℃の条件下で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0118】
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液と、ペンタエリスリトールトリアクリレートの53質量部とを混合し、前記ウレタンプレポリマーとペンタエリスリトールトリアクリレートとを反応させることで、アクリレート基と、親水性基とを有するポリウレタン(A’−3)の有機溶剤溶液を得た。
【0119】
次いで、前記ポリウレタン(A’−3)の有機溶剤溶液と、トリエチルアミン30質量部とを混合することで前記ポリウレタン(A’−3)が有するカルボキシル基の一部又は全部を中和した後、更に水2128質量部を加え十分に攪拌し、10質量%のピペラジン水溶液を95質量部加え鎖伸長反応させ、更に減圧蒸留することによって、不揮発分が33質量%であるポリウレタン(A−3)の水分散体からなるコーティング剤(3)を得た。
【0120】
参考例4]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,4−シクロヘキサンジメタノールと1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール(ポリカーボネートポリオール中の脂肪族環式構造量11.7質量%、数平均分子量2,000)300質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール32質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸31質量部、及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート192質量部を、メチルエチルケトン216質量部に混合し、前記反応容器中の温度80℃の条件下で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0121】
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液と、ペンタエリスリトールトリアクリレートの76質量部とを混合し反応させることで、アクリレート基と、親水性基とを有するポリウレタン(A’−4)の有機溶剤溶液を得た。
【0122】
次いで、前記ポリウレタン(A’−4)の有機溶剤溶液と、トリエチルアミン23質量部とを混合することで前記ポリウレタン(A’−4)が有するカルボキシル基の一部又は全部を中和した後、更に水1608質量部を加え十分に攪拌し、更に減圧蒸留することによって、不揮発分が30質量%であるポリウレタン(A−4)の水分散体からなるコーティング剤(4)を得た。
【0123】
[実施例5]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,4−シクロヘキサンジメタノールと1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール(ポリカーボネートポリオール中の脂肪族環式構造量11.7質量%、数平均分子量2,000)300質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール40質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸40質量部、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物102質量部、及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート320質量部を、メチルエチルケトン312質量部に混合し、前記反応容器中の温度80℃の条件下で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0124】
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液と、ペンタエリスリトールトリアクリレートの53質量部とを混合し反応させることで、アクリレート基と、親水性基とを有するポリウレタン(A’−5)の有機溶剤溶液を得た。
【0125】
次いで、前記ポリウレタン(A’−5)の有機溶剤溶液と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート96質量部と、トリエチルアミン30質量部とを混合することで前記ポリウレタン(A’−5)が有するカルボキシル基の一部又は全部を中和した後、更に水2441質量部を加え十分に攪拌し、10質量%のピペラジン水溶液を95質量部加え鎖伸長反応させ、更に減圧蒸留することによって、不揮発分が30質量%であるポリウレタン(A−5)の水分散体からなるコーティング剤(5)を得た。
【0126】
[比較例1]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,6−ヘキサンジオールとネオペンチルグリコールとアジピン酸とを反応させて得られるポリエステルポリオール(数平均分子量2,000)300質量部、1,6−ヘキサンジオール20重量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸30質量部、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物77質量部、及びヘキサメチレンジイソシアネート154質量部を、メチルエチルケトン226質量部に混合し、前記反応容器中の温度80℃の条件下で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0127】
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液と、ペンタエリスリトールトリアクリレートの39質量部とを混合し反応させることで、アクリレート基と、親水性基とを有するポリウレタン(X’−1)の有機溶剤溶液を得た。
【0128】
次いで、前記ポリウレタン(X’−1)の有機溶剤溶液と、トリエチルアミン23質量部とを混合することで前記ポリウレタン(X’−1)が有するカルボキシル基の一部又は全部を中和した後、更に水1579質量部を加え十分に攪拌し、20質量%のエチレンジアミン水溶液を25質量部加え鎖伸長反応させ、更に減圧蒸留することによって、不揮発分が35質量%であるポリウレタン(X−1)の水分散体からなるコーティング剤(6)を得た。
【0129】
[比較例2]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,6−ヘキサンジオールとネオペンチルグリコールとアジピン酸とを反応させて得られるポリエステルポリオール(数平均分子量2,000)300質量部、1,6−ヘキサンジオール44重量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸30質量部、及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート240質量部を、メチルエチルケトン239質量部に混合し、前記反応容器中の温度80℃の条件下で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するポリウレタン(X’−2)の有機溶剤溶液を得た。
【0130】
次いで、前記ポリウレタン(X’−2)の有機溶剤溶液と、トリエチルアミン23質量部とを混合することで前記ウレタンプレポリマー樹脂が有するカルボキシル基の一部又は全部を中和した後、更に水1494質量部を加え十分に攪拌し、10質量%のピペラジン水溶液を128質量部加え鎖伸長反応させ、更に減圧蒸留することによって、不揮発分が35質量%であるポリウレタン(X−2)の水分散体からなるコーティング剤(7)を得た。
【0131】
[耐指紋性の評価]
上記の実施例1〜5及び比較例1〜2で得られたコーティング剤(1)〜(7)の固形分100質量部に、光重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンとベンゾフェノンの混合物)3質量部を混合して均一な液にした後、塗膜の膜厚が1μmとなるように、下記の2種類の基材表面に、バーコーターもしくはアプリケーターを用いてそれぞれ塗工し、熱風乾燥機を用いて150℃で10分間乾燥させた後、23℃で24時間放冷し、さらに高圧水銀灯(照射量0.5J/cm)で照射することによって、各基材表面に塗膜が形成した試験板を得た。
【0132】
〔基材〕
PET基材:二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)
ガラス基材:JIS R3202(エンジニアリングテストサービス株式会社製)
【0133】
<外観による耐指紋性の評価>
黒紙の上に、上記で得られた試験板を、形成した塗膜が上面となるように置き、塗膜表面に指紋を付着させた。指紋を付着した直後の試験板の外観を目視で確認するとともに、指紋を付着してから1分後の試験板の外観を目視で観察し、下記の基準にしたがって、外観による耐指紋性評価を行った。
A:指紋を付着した直後には目視で指紋を確認できたものの、指紋を付着させて1分後には、目視で指紋を確認できなかった。
B:指紋を付着させた直後は目視で指紋を確認できた。指紋を付着して1分後には、目視により指紋を明確に確認できなかったが、その一部が塗膜表面に残存しており、指紋の痕跡が確認できた。
C:指紋を付着させて1分後であっても、指紋を付着した直後と同様に目視で指紋を確認できた。
【0134】
<親油性による耐指紋性の評価>
上記で得られた試験板の塗膜表面に、オレイン酸を1μL付着させた。付着から1分後に、そのオレイン酸の接触角を、全自動接触角計(協和海面科学株式会社製)を用いて測定し、親油性による耐指紋性評価を行った。接触角が10度未満であるものは、親油性に優れるため、指紋が付着した場合であっても経時的に目立たなくなり、耐指紋性に優れるものと評価し、5度未満であるものは特に耐指紋性に優れるものであると評価した。
A:接触角が5度未満であった。
B:接触角が5度以上10度未満であった。
C:接触角が10度以上であった。
【0135】
<指紋の拭き取り性による耐指紋性の評価>
黒紙の上に、上記で得られた試験板を、形成した塗膜が上面となるように置き、塗膜表面に指紋を付着させた。次いで、紙製ウエス(日本製紙クレシア株式会社製「キムワイプ S−200」)を用いて、指紋を付着した面に対して垂直方向に200gの力で10往復することによって指紋を拭き取った。その後、前記拭き取り後の試験板の外観を、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製「NDH5000」)を用いて算出されたヘイズ値から、下記の基準にしたがって、指紋の拭き取り性による耐指紋性評価を行った。
A:塗膜表面に指紋や、指紋に起因した油分が残存しておらず、ヘイズ値が2.0%未満であった。
B:塗膜表面に指紋を確認できなかったものの、その拭き取った部分には指紋に起因した油分が若干残存しており、ヘイズ値が2.0%以上5.0%未満であった。
C:塗膜表面に指紋を確認できなかったものの、その拭き取った部分には指紋に起因した油分が明らかに残存しており、ヘイズ値が5.0%以上であった。
【0136】
[塗膜表面の滑り性の評価]
上記で得られた試験板の塗膜表面に、ステンレス製(直径10mm)の金属球を置き、加重200g、移動速度4mm/秒、移動距離40mmの条件でその動摩擦係数を測定し、塗膜表面の滑り性を評価した。動摩擦係数が0.4未満であったものを滑り性に優れると評価し、特に0.2未満であったものを特に滑り性に優れるものと評価した。
A:動摩擦係数が0.2未満であった。
B:動摩擦係数が0.2以上0.4未満であった。
C:動摩擦係数が0.4以上であった。
【0137】
[塗膜の表面硬度の評価方法]
上記で得られた試験板のうち、基材がガラスのものを用いて、基材上の塗膜の表面硬度をJIS試験法 K−5600−5−4 ひっかき硬度(鉛筆法)に基づいて測定した。
【0138】
【表1】
【0139】
上記の結果から、実施例1〜5の本発明のタッチパネル用コーティング剤の塗膜は、優れた耐指紋性を有し、塗膜表面の滑り性も優れ、塗膜の表面硬度も十分に高いことが確認できた。したがって、本発明のタッチパネル用コーティング剤の塗膜は、指紋付着により画像の視認性を低下させることなく、指の滑りが良好で、かつ高い表面光により傷つきも防止できるため、スマートフォン等のタッチパネルに好適に用いることができる。
【0140】
一方、比較例1のコーティング剤は、重合性不飽和二重結合を有するが、脂肪族環式構造を有しないポリウレタンを用いた例であるが、耐指紋性及び滑り性が不十分であることが確認できた。
【0141】
比較例2のコーティング剤は、脂肪族環式構造を有するが、重合性不飽和二重結合を有しないポリウレタンを用いた例であるが、耐指紋性及び滑り性は不十分であり、塗膜の表面硬度も不十分であることが確認できた。