特許第5672560号(P5672560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672560
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】高純度硫酸ニッケルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/10 20060101AFI20150129BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20150129BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20150129BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   C01G53/10
   C22B23/00 102
   C22B3/00 Q
   C22B3/00 R
   C22B3/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-77613(P2012-77613)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-203646(P2013-203646A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2013年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】井手上 敦
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佳智
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敬司
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
【審査官】 壺内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−218623(JP,A)
【文献】 特開2009−203082(JP,A)
【文献】 特開昭61−106422(JP,A)
【文献】 特開平02−172829(JP,A)
【文献】 特表2004−516607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
C22B1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含む酸性溶液から浄液工程、溶媒抽出工程の順に、前記浄液工程、溶媒抽出工程を経ることにより硫酸ニッケルを生成する製造工程において、前記製造工程内で得られるニッケルを含有する溶液を、以下の(1)から(3)に示す工程の順に処理する炭酸化不純物除去法に供して、前記ニッケルを含有する溶液に含まれる、少なくともマグネシウム元素を含む不純物元素を前記製造工程外に排除して高純度硫酸ニッケルを生成することを特徴とする高純度硫酸ニッケルの製造方法。
(1)前記ニッケルを含有する溶液に、炭酸化剤を添加し、前記ニッケルを含有する溶液に含まれるニッケルを、ニッケル炭酸化物、或いはニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物からなる混合物の沈殿物とし、前記沈殿物と、炭酸化後液とからなる炭酸化後スラリーを生成する炭酸化工程。
(2)(1)の炭酸化工程で生成した炭酸化後スラリーを、沈殿物のニッケル炭酸化物、或いはニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物の混合物と、炭酸化後液とに分離する固液分離工程。
(3)(2)の固液分離工程を経て、分離した前記炭酸化後液に中和剤を添加して前記炭酸化後液に含有されるニッケルを、ニッケル含有澱物として回収する中和工程。
【請求項2】
前記ニッケルを含有する溶液が、硫酸ニッケル溶液であることを特徴とする請求項1記載の高純度硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項3】
前記ニッケルを含有する溶液が、ニッケル酸化鉱石を硫酸で浸出して生成したニッケルを含む酸性溶液から目的成分以外の不純物を分離した残液に、硫化剤を添加してニッケル硫化物を形成し、前記硫化物を硫酸で浸出して得られた硫酸ニッケル溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度硫酸ニッケルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルを含有する酸性溶液から、不純物、特にマグネシウム、カルシウムが少ない電池材料に使用できる高純度な硫酸ニッケルを得ようとする分野に利用できる。
【背景技術】
【0002】
ニッケルは、ステンレスや耐蝕合金の材料として広く用いられるほか、最近ではハイブリッド電気自動車、携帯電話、パソコンなどに用いられるニッケル水素電池やリチウムイオン電池の材料としても多く使われている。
このような材料に用いられるニッケルは、硫化物鉱や酸化物鉱として存在する鉱石を採掘し、製錬して製造されている。
【0003】
例えば、硫化鉱石を処理する場合の一つの方法として、鉱石を炉に入れて熔融し、スラグとして不純物を分離してニッケルを濃縮したマットを形成し、このマットを硫酸や塩酸で溶解し、その溶解溶液から不純物を分離してニッケル溶液を得る。次いで、得られたニッケル溶液を中和や晶析等の手段によって硫酸ニッケルや酸化ニッケルなどのニッケル塩類を製造する。あるいは、電解採取等を行ったりしてニッケルメタルを製造する場合がある。
一方、酸化鉱石を処理する場合の一つの方法として、例えばコークスなどの還元剤と共に加熱熔融してスラグと分離し、ニッケルと鉄の合金であるフェロニッケルを得てステンレスの原料とすることが行なわれている。
【0004】
しかし、このような製錬方法は、いずれも多量のエネルギーを必要とし、不純物の分離に多くのコストと手間を要する。
特に、高品質な鉱石が枯渇しつつある近年は、その確保が困難となり、その結果入手できる鉱石中のニッケル品位は低下傾向となり、これらの低品位原料からニッケルを得るのには、さらにコストと手間を要するようになってきた。
【0005】
そこで、最近では従来、原料に用いられなかった低品位の酸化鉱石を高温加圧下で酸浸出し、その浸出溶液を消石灰等のアルカリで中和してニッケル塩類やニッケルメタルを得る方法が開発されてきた。
この方法は、低品位の資源を有効かつ比較的少ないエネルギーで有効に利用できる技術であるが、上記のようなニッケル塩類を得ようとする場合、従来の製錬方法では見られなかった新たな課題も生じてきている。
【0006】
例えば、鉱石に含有されるマグネシウムは、上記の炉を用いた製錬方法では、大部分がスラグに分配され、マットへの分配は少なくなる。その結果、ニッケル塩類への混入はごくわずかな量にとどまり、ほとんど問題にならなかった。
これに対して、上記の高温加圧浸出を用いた製錬方法では、マグネシウムやマンガンは酸によってよく浸出され、その結果ニッケル塩類への混入も増加する。さらに、高温加圧浸出では、得た浸出スラリーに中和剤を添加してpHを調整し目的とする金属以外を沈殿分離する中和操作が行われるが、中和剤として工業的に安価な水酸化カルシウムなどを用いた場合、反応後のカルシウムがニッケル塩へ混入する影響も無視できなかった。
【0007】
特に、ニッケルをリチウムイオン電池やニッケル水素電池の材料に用いる場合、マグネシウムやカルシウムや塩化物イオンが共存すると、製品に仕上げた電池の特性に大きく影響するため、ニッケル塩を製造する段階から混入をできるだけ排除した高純度ニッケル塩が望ましいとされる。
【0008】
ところで、ニッケル塩の一つである硫酸ニッケルを高純度の状態で得るためには、例えばニッケルを電解採取などの方法によって一度メタルとして得て、このメタルを再度硫酸に溶解し、次いで溶解した液を濃縮するなどして硫酸ニッケルを晶析させる方法も考えられる。しかし、メタルを得るには相当な電力と相応の規模の設備を必要とし、エネルギー効率やコストを考えると有利な方法ではない。
【0009】
さらに、ニッケルを含む鉱物には同時にコバルトも含有する場合が多い。コバルトも有価金属であり、ニッケルと共存する必要はないので、分離してそれぞれを回収することが行なわれる。
その硫酸溶液中のニッケルとコバルトとを分離する効率的かつ実用的な方法として、溶媒抽出が用いられることが多い。例えば、特許文献1には、商品名PC88A(大八化学株式会社製)を抽出剤に用いた溶媒抽出によってコバルトを抽出し、ニッケルとコバルトとを分離する例が示されている。
【0010】
この抽出剤にPC88Aを用いた場合、マグネシウムやカルシウムの抽出挙動も、ニッケルの挙動に類似するため、ニッケルが高濃度で含有される溶液を溶媒抽出に付した場合、マグネシウムやカルシウムの抽出率が低下するなどマグネシウムやカルシウムを分離する効率が低下する問題を生じてしまう。
【0011】
一方、特許文献2には、カルシウム、マグネシウム、コバルト等を不純物として含むニッケル水溶液から、ニッケルを含有するアルキルホスホン酸エステルまたはアルキルホスフィン酸を抽出剤として用い、ニッケル水溶液中の不純物を抽出分離し、かつナトリウムやアンモニアを含まない高純度ニッケル水溶液を製造する方法が示されている。
【0012】
特許文献2に提案される予め高いpHでニッケルを有機溶媒中へ抽出し、このニッケルを抽出した有機溶媒と不純物を含むニッケル溶液を接触させる方法によって、ニッケルより抽出されやすい元素が有機相へ、有機中のニッケルが水相側へ移行する交換反応が起こり、ニッケル溶液中の不純物を除去することができる。
また、pH調整剤に含まれるNaなどの不純物元素がニッケル溶液へ混入し、製品を汚染することを防止する方法としても有効である。
【0013】
しかしながら、特許文献2に提案される硫酸ニッケルの浄液工程においても、溶液中のマグネシウムは、ニッケルと似た挙動を持ち、マグネシウムを電池原料への利用レベルまで除去することは困難であった。
また、原料となるニッケル含有物に鉄やアルミニウムなどの不純物が大量に含有されている場合、これらを中和などの方法で分離するには大量の中和剤を必要とし、さらに不純物が沈澱する際にニッケルやコバルトなどの有価物も共沈してロスとなるなどの可能性もあり、効率的な操業を行なうことは容易でなかった。
【0014】
このような理由により、マグネシウムなどの金属イオンや塩化物イオンが多く含有される硫酸酸性溶液からマグネシウムや塩化物品位が低く、電池原料に使用できる高純度な硫酸ニッケルを効率よく得られる実用的な方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−310437号公報
【特許文献2】特開平10−30135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このような状況の中で、本発明は、ニッケルを含む酸性溶液からマグネシウムを選択的に除去する不純物元素除去方法と、この不純物元素除去方法を用いて高純度の硫酸ニッケルを得る製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するための本発明の第1の発明は、ニッケルを含む酸性溶液から浄液工程、溶媒抽出工程の順に、浄液工程、溶媒抽出工程を経ることにより硫酸ニッケルを生成する製造工程において、その製造工程内のニッケルを含有する溶液を、以下の(1)から(3)に示す工程の順に処理する炭酸化不純物除去法に供して、前記ニッケルを含有する溶液に含まれる、少なくともマグネシウム元素を含む不純物元素を前記製造工程外に排除して高純度硫酸ニッケルを生成することを特徴とする高純度硫酸ニッケルの製造方法である。
(1)ニッケルを含有する溶液に、炭酸化剤を添加し、そのニッケルを含有する溶液に含まれるニッケルを、ニッケル炭酸化物若しくはニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物からなる混合物の沈殿物とし、その沈殿物と炭酸化後液とから構成される炭酸化後スラリーを生成する炭酸化工程。
(2)(1)の炭酸化工程で生成した炭酸化後スラリーを、沈殿物のニッケル炭酸化物又はニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物の混合物と、炭酸化後液とに分離する固液分離工程。
(3)(2)の固液分離工程を経て、分離した炭酸化後液に中和剤を添加して、炭酸化後液に含有されるニッケルを、ニッケル澱物として回収する中和工程。
【0018】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるニッケルを含有する溶液が、硫酸ニッケル溶液であることを特徴とする高純度硫酸ニッケルの製造方法である。
【0019】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明におけるニッケルを含有する溶液が、ニッケル酸化鉱石を硫酸で浸出して生成したニッケルを含む酸性溶液から目的成分以外の不純物を分離した残液に、硫化剤を添加してニッケル硫化物を形成し、この硫化物を硫酸で浸出して得られた硫酸ニッケル溶液であることを特徴とする高純度硫酸ニッケルの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下に示す顕著な効果を奏するものである。
(1)マグネシウムを選択的に分離除去することで、高純度の硫酸ニッケルを製造できる。
(2)炭酸化工程で発生したニッケル炭酸化物およびニッケル水酸化物の混合物を中和剤として系内で処理でき、中和剤コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の高純度硫酸ニッケルの製造フロー図である。
図2】ニッケルを含む酸性溶液からの不純物元素除去方法のフロー図である。
図3】炭酸ナトリウム添加量とMg、Ca残留率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明では、ニッケルを含む酸性溶液から高純度硫酸ニッケルを得る製造方法において、下記(1)〜(3)に示す一連の工程を、その順番に製造工程中に組み込むことによって、ニッケルを含む酸性溶液から、不純物の少ない高純度硫酸ニッケルを製造することを特徴とするものである。
【0023】
(1)ニッケルを含有する溶液に、炭酸化剤を添加し、その溶液に含まれるニッケルを、ニッケル炭酸化物、或いはニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物からなる混合物の沈殿物と、それ以外の沈殿物化されなかった成分からなる炭酸化後液とが混在する炭酸化後スラリーを生成する炭酸化工程。
(2)(1)の炭酸化工程で生成した炭酸化後スラリーを、沈殿物(ニッケル炭酸化物、或いはニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物との混合物)と、炭酸化後液とに分離する固液分離工程。
(3)(2)の固液分離工程を経て、分離した炭酸化後液に中和剤を添加して炭酸化後液に含有されるニッケルをニッケルの澱物として分離し回収する中和工程。
【0024】
以下、図1に示す本発明の高純度硫酸ニッケルの製造フロー図、及び図2に示すニッケルを含む溶液からの不純物元素除去方法のフロー図を参照して、本発明の高純度硫酸ニッケル溶液の製造方法を説明する。
【0025】
[浸出工程]
この工程は、出発原料となる、ニッケルおよびコバルト混合硫化物、粗硫酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、ニッケル粉などから選ばれる一種、または複数の混合物から成る工業中間物などのニッケル含有物を、鉱酸(塩酸、硫酸など)により溶解して、ニッケルを浸出させて浸出後液(ニッケルを含む酸性溶液)を生成する工程で、例えば特開2005−350766号公報などに開示されたような公知の方法を用いて行うことができる。
【0026】
[浄液(中和)工程]
なお、上記の出発原料にニッケル酸化鉱石を浸出して得た溶液から製造した硫化物などの中間品を使用した場合、目的とするニッケル以外にコバルトなどの有価物、さらに回収対象としない不純物も多く含まれてくるため、これらの分離が必要となる(図1のA経路)。
【0027】
具体的には、浸出後液中の鉄、クロム、アルミニウム濃度が高い場合は、浄液(中和)工程を行ない、溶媒抽出前にこれらの元素を除去する。
また有価で回収対象とされるコバルトは、溶媒抽出法を用いると効率よく分離し回収できる。しかし、溶媒抽出に際してはニッケルと似た挙動をとるマグネシウムの影響も大きいが、以下の本発明の不純物元素除去方法である炭酸化不純物除去を用いることで、容易に分離することができる。
【0028】
さらに、一般的な硫酸ニッケルの製造工程において使用する元液は、ニッケルが高濃度に含有されるのに対して不純物濃度は低いが、極力マグネシウム濃度、即ち不純物濃度が高く、ニッケル濃度が低い溶液に本発明を適用するほうが、ニッケルを炭酸化物および水酸化物の混合物として沈殿させるための炭酸化剤の使用量を低減でき、経済的である。その点、溶媒抽出工程では、有機相と水相の混合比率を適正化することにより、簡単に水溶液中の元素濃度を調整することができるため、該当する溶液が容易に得られる(図1のB経路、白抜き矢印方向への反応)。
【0029】
ここで、図2のフロー図を参照して本発明の不純物除去方法である炭酸化不純物除去法を説明する。
[工程内の溶液からの不純物元素の除去]
(1)炭酸化工程
炭酸化工程では、工程内のニッケル含有物、特にニッケルを含有する溶液(例えば、粗硫酸ニッケル液)に炭酸化剤を添加し、ニッケルをニッケル炭酸化物、或いはニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物の混合物として沈殿させる。
このとき、ニッケルが炭酸化もしくは水酸化するpHよりも低い領域で炭酸化物もしくは水酸化物を形成するコバルト、亜鉛、銅、マンガン、クロムなどの元素は、ニッケルと共に沈殿し、分離されない。これらは上記溶媒抽出や中和沈殿などの方法により分離する。
【0030】
一方、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどはニッケルよりも炭酸化物および水酸化物を形成し難く、これらの元素は炭酸化後液中に残留するため、ニッケルと分離できる。
このとき使用する炭酸化剤は、特に限定はされないが、炭酸ナトリウムが工業的に広く用いられており、大量かつ容易に入手できる点で望ましい。
【0031】
炭酸化工程における処理温度は、特に限定はされないが、40〜80℃が好ましい。
40℃未満では反応時間が長くなりすぎ、設備規模が大きくなり投資コストがかさむ。一方、80℃以上では、設備に樹脂系の材料が使用できないため、設備の材質が制限され、コストが上昇してしまう。
【0032】
(2)分離工程(固液分離工程)
(1)の炭酸化工程で生成した炭酸化後スラリー中の沈殿物(ニッケル炭酸化物、或いはニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物の混合物)と、残液である炭酸化後液とを、固液分離装置を用いて分離回収する。
用いる固液分離装置は、特に限定されるものではなく、加圧濾過装置、吸引濾過装置、デカンターなどを用いることができる。回収されたニッケルを主成分とするニッケル炭酸化物およびニッケル水酸化物の混合物は、浄液工程に中和剤として繰り返すことにより、再利用できる。
【0033】
(3)中和工程
(2)の固液分離工程により沈殿物として分離したニッケル炭酸化物、或いはニッケル炭酸化物とニッケル水酸化物の混合物は、別工程でのpH調整用の中和剤として再使用できる。
一方、固液分離後の不純物を含む炭酸化後液は、中和剤の添加による中和処理により生成するマンガンなどの重金属を含む沈殿物である中和澱物と、中和後液からなる中和溶液を形成した後に、固液分離装置を用いて固液分離し、不純物元素を含む中和澱物(ニッケル含有澱物)と中和後液に分離する。
【0034】
この中和工程で使用する中和剤は、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが安価で、工業的に用いるのに適している。
中和する際に調整するpHは、7.0〜8.5の範囲とすることが望ましい。
pH7.0未満ではマンガンの除去が不十分であり、一方pH8.5を超えると排水基準のpH値を超えるため再調整が必要となるためである。
【0035】
[溶媒抽出工程]
次に、この溶媒抽出工程は、水相と有機相を接触させ、各相中の成分を交換することで、水相中のある成分の濃度を高め、他の異なる成分の濃度を低くするもので、本発明では水相に、不純物元素濃度が高い粗硫酸ニッケル溶液を用い、有機相にホスホン酸やホスフィン酸などの有機溶媒、或いは特許文献2に示されるようなニッケルを含む有機溶媒を用いた溶媒抽出法によって行われ、硫酸ニッケル溶液と逆抽出液を得るものである。
【0036】
この溶媒抽出工程において、その溶媒抽出条件を変更することによって、生成される硫酸ニッケル溶液中の不純物元素濃度の調整が可能である。そこで、不純物元素を濃縮した硫酸ニッケル溶液を溶媒抽出により生成し、再度図2に示す不純物元素除去方法を施すことで、より高純度な硫酸ニッケル溶液を形成することも可能である。
【0037】
以上のように、ニッケルを含む酸性溶液からの不純物元素除去方法を、その製造工程に組み込むことで、製造工程系内からマグネシウムを選択的に排出することができ、したがって系内にこれらの元素が蓄積することがなくなり、高純度硫酸ニッケルを製造することができる。
本発明により製造される硫酸ニッケルは、製品形態として、硫酸ニッケル溶液または、晶析やスプレードライ等の一般的な結晶化方法を用いて硫酸ニッケル結晶にすることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を用いて、本発明をさらに説明する。
表1に示すニッケル含有物としての不純物を含んだ粗硫酸ニッケル液の模擬液を作製し、6つのビーカーにそれぞれ模擬液200mlを分取し、ウォーターバスで40℃に保持した。そこに炭酸ナトリウム溶液を、ニッケルに対して0.08、0.23、0.45、0.68、0.91、1.18当量の炭酸ナトリウムが添加されるように滴下し、表2のNo.1からNo.6の試料を作製した。
なお、ここでいう1当量は、下記(1)式の化学反応式を基に算出している。
【0039】
【数1】
【0040】
滴下に際しては、攪拌しながらpH値が安定し反応が十分に進行したと考えられる30分間保持した。その後真空ポンプを用いて、5Cの濾紙でヌッチェ吸引濾過し、沈殿物であるニッケル炭酸化物およびニッケル水酸化物の混合物と濾液である炭酸化後液とした。
その際に添加した炭酸ナトリウム量、そのニッケル当量、反応温度、pH値、濾液量、澱物量をそれぞれ表2に示す。
また、濾液である炭酸化後液を、ICP発光分光分析法により含まれる各元素の定量分析を行った。結果を表3および図3に示す。図3において、横軸はニッケルに対する薬品添加当量(ニッケル当量)を表し、薬品として炭酸ナトリウムを添加している。縦軸は、濾液に含まれるMg、Ca、及びNiの残留率(%)を示している。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
表3、図3から明らかなように、ニッケルに対して、1.2当量の炭酸ナトリウムを添加した場合、ニッケルの99%以上が澱物側に存在しているのに対し、マグネシウムは42%が澱物側に、58%が濾液側に存在していることから、炭酸化剤を加えることで、ニッケルとマグネシウムを分離可能であることがわかる。
図1
図2
図3