(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モールドの表面の状態が不良と判定された際には、モールドの表面の微細凹凸構造の物品本体の表面への転写を停止する、請求項1に記載の微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法。
判定手段においてモールドの表面の状態が不良と判定された際には、モールドの表面の微細凹凸構造の物品本体の表面への転写を停止する制御手段をさらに有する、請求項3に記載の微細凹凸構造を表面に有する物品の製造装置。
【背景技術】
【0002】
可視光波長以下のピッチの微細凹凸構造を表面に有する物品は、超親水性、超撥水性、低反射等の機能を発現することから、その有用性が注目されている。特に、モスアイ(Moth−Eye)構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から材料の屈折率に連続的に屈折率が変化していくことで優れた反射防止機能を発現することが知られている。
【0003】
微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法としては、下記の方法が知られており、生産性、経済性の点から、(ii)の方法が優れている。
(i)透明基材等の物品本体の表面を直接加工して微細凹凸構造を表面に有する物品を製造する方法。
(ii)微細凹凸構造に対応した反転構造(微細凹凸構造)を有するモールドを用いて、透明基材等の物品本体の表面にモールドの微細凹凸構造を転写する方法(例えば、特許文献1)。
【0004】
(ii)の方法において、モールドの微細凹凸構造を物品本体の表面に繰り返し転写するうちに、モールドの微細凹凸構造の形状(細孔の深さ等)が徐々に変化することがある。モールドの微細凹凸構造の形状が変化すると、物品本体の表面に転写された微細凹凸構造の形状(突起の高さ等)も変化し、所望する超親水性、超撥水性、低反射等の機能が発現しなくなる。
そこで、モールドの微細凹凸構造の形状の変化を物品の製造中にリアルタイムで検出し、歩留まりの低下を抑えることが求められている。
【0005】
ところで、モールドの微細凹凸構造の形状(細孔の深さ等)を非破壊、被接触で評価する方法としては、例えば、下記の方法が提案されている。
複数の細孔(微細凹凸構造)を表面に有するモールドについて、表面の正反射率を測定することによって、あらかじめ作成した正反射率と細孔深さとの検量線から、細孔の平均深さを見積もる方法(特許文献2)。
【0006】
しかし、特許文献2の方法では、下記の問題があるため、モールドの微細凹凸構造の形状の変化を物品の製造中にリアルタイムで正確にモニタリングできない。
・モールドと物品本体との間に挟持された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線照射装置から活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させることによって、物品本体の表面に微細凹凸構造を転写させる場合、活性エネルギー線照射装置から発せられる光が外乱となり、モールドの表面からの正反射率を正確に測定できない。
・モールドの表面の微細凹凸構造を物品本体の表面に転写する製造装置において、稼動状態を目視で監視できるように製造装置に監視窓を設けた場合、装置が設置された室内の照明(蛍光灯等)の光が監視窓から入り込んで外乱となり、モールドの表面からの正反射率を正確に測定できない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の要旨は、モールドの表面における微細凹凸構造が物品本体の表面に転写される転写領域および微細凹凸構造が物品本体の表面に転写されない非転写領域に光を照射し、転写領域からの反射光および非転写領域からの反射光を測定し、転写領域からの反射光の測定データおよび非転写領域からの反射光の測定データに基づいてモールドの表面の状態の良否を判定するものである。ここで、反射光を測定して得る測定データとしては、例えば、その強度、波長等が挙げられる。
以下に、強度を測定する例を示して本発明を説明する。
<微細凹凸構造を表面に有する物品の製造装置>
本発明の、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造装置は、微細凹凸構造を表面に有するモールドと、微細凹凸構造を物品本体の表面に転写し、該物品本体から分離した後のモールドの表面の微細凹凸構造を有する領域のうち、微細凹凸構造が物品本体の表面に転写される転写領域および微細凹凸構造が物品本体の表面に転写されない非転写領域に光を照射する照射手段と、転写領域からの反射光の強度を測定する第1の測定手段と、非転写領域からの反射光の強度を測定する第2の測定手段と、転写領域からの反射光の強度および非転写領域からの反射光の強度に基づいてモールドの表面の状態の良否を判定する判定手段とを有するものである。
【0016】
図1は、本発明の、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造装置の一例を示す概略構成図である。該製造装置は、表面に微細凹凸構造(図示略)を有するロール状のモールド20と;モールド20の回転に同期してモールド20の下側半分の表面に沿って移動する帯状のフィルム42(物品本体)とモールド20との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を供給するノズル22と;モールド20との間でフィルム42および活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をニップするニップロール26と;ニップロール26のニップ圧を調整する空気圧シリンダ24と;モールド20の下方に設置され、フィルム42を通して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置28と;表面に硬化樹脂層44が形成されたフィルム42をモールド20から剥離する剥離ロール30と;モールド20の上側半分の表面に光を照射する照明装置32(照明手段)と;モールド20の表面からの反射光の強度を測定する測定器34(測定手段)と;測定器34からの反射光の強度に基づく信号を処理する信号処理装置36(判定手段)と;製造装置の運転を制御する制御装置38(制御手段)と;モールド20、ノズル22、空気圧シリンダ24、ニップロール26、活性エネルギー線照射装置28、剥離ロール30および照明装置32を収納し、モールド20の表面からの反射光を外部に透過させる監視窓52が形成されたケース50とを有する。
【0017】
該製造装置においては、
図2に示すように、モールド20の表面の微細凹凸構造を有する領域(モールド20の外周面の全面)のうち、微細凹凸構造がフィルム42の表面に転写される転写領域20aおよび微細凹凸構造がフィルム42の表面に転写されない非転写領域20bが形成されるように、モールド20とフィルム42との位置関係、モールド20の大きさ、フィルム42の幅等が調整される。
【0018】
(照明手段)
照明装置32は、製造装置のケース50外に設けられた光源本体31と光ファイバ33で接続された光ファイバ照明である。
照射される光は、ライン状であってもよく、面状であってもよく、スポット状であってもよい。
【0019】
照明装置32から照射される光は、転写領域20aにおける反射ポイント35aと非転写領域20bにおける反射ポイント35bとが、モールド20の軸方向に一直前上に並ぶようにすることが好ましい。反射ポイント35aと反射ポイント35bとがモールド20の軸方向に一直前上に並ぶことによって、回転するモールド20において常に同じ2点からの反射光の強度を同じ条件にて測定器34で測定でき、かつ信号処理装置36で比較できるため、モールド20の表面の状態をより正確にモニタリングできる。
【0020】
(測定手段)
測定器34は、転写領域20aにおける反射ポイント35aにて反射し、監視窓52を透過してきた反射光の強度を測定する第1の測定器34a(第1の測定手段)と、非転写領域20bにおける反射ポイント35bにて反射し、監視窓52を透過してきた反射光の強度を測定する第2の測定器34b(第2の測定手段)とを有する。
【0021】
測定器34としては、特許文献2のように正反射率によって微細凹凸構造の細孔の深さを見積もる場合は、光の強度を単に測定できればよいため、モノクロの光センサで十分であり、微細凹凸構造の細孔の形状をより詳しく見積もる場合は、反射光の強度の波長分布(スペクトル)が必要であるため、分光光度計が適している。
【0022】
測定器34が分光光度計の場合、測定器34は、例えば、モールド20の表面を反射した光を受光、分光する分光器(図示略);分光器で分光された光を検出して分光スペクトルを得る検出器(図示略)と;検出器で得られた分光スペクトルの信号を信号処理装置36に伝達するインターフェイス部(図示略)とを有する。
【0023】
(判定手段)
信号処理装置36は、測定器34がモノクロの光センサの場合は、転写領域20aからの反射光と非転写領域20bからの反射光との強度差または強度比が、あらかじめ設定された閾値以上のときに、モールド20の表面の状態を不良と判定するものであり、測定器34が分光光度計の場合は、転写領域20aからの反射光と非転写領域20bからの反射光との差スペクトルまたは比スペクトルが、あらかじめ設定された閾値以上のときに、モールド20の表面の状態を不良と判定するものである。
【0024】
信号処理装置36は、例えば、第1の測定器34aから送られてきた反射光の強度に基づく信号および第2の測定器34bから送られてきた反射光の強度に基づく信号から、強度差または強度比、もしくは差スペクトルまたは比スペクトルを算出する算出部(図示略)と;算出部で得られた強度差または強度比、もしくは差スペクトルまたは比スペクトルがあらかじめ設定された閾値以上のときにモールド20の表面の状態を不良と判定する判定部(図示略)と;外部から入力された閾値等を記憶する記憶部(図示略)と;判定部がモールド20の表面の状態を不良と判定した場合に、その情報を制御装置38に伝達するインターフェイス部(図示略)とを有する。
【0025】
なお、信号処理装置36は専用のハードウエアによって実現されるものであってもよく、また、信号処理装置36はメモリおよび中央演算装置(CPU)によって構成され、信号処理装置36の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによってその機能を実現させるものであってもよい。
また、信号処理装置36には、周辺機器として、入力装置、表示装置等が接続されるものとする。ここで、入力装置とは、ディスプレイタッチパネル、スイッチパネル、キーボード等の入力デバイスのことをいい、表示装置とは、CRT、液晶表示装置等のことをいう。
【0026】
第1の測定器34aから送られてきた反射光の強度に基づく信号および第2の測定器34bから送られてきた反射光の強度に基づく信号は、等しく外乱の影響を受けているため、信号処理装置36においてこれら信号を相対的に比較することにより、外乱の影響を排除できる。
【0027】
また、第1の測定器34aから送られてきた反射光の強度に基づく信号は、モールド20の微細凹凸構造をフィルム42の表面に繰り返し転写するうちに、モールド20の微細凹凸構造の形状(細孔の深さ等)が徐々に変化する転写領域20aからの反射光の強度に基づく信号であるため、微細凹凸構造の形状の変化に応じて徐々に変化する。一方、第2の測定器34bから送られてきた反射光の強度に基づく信号は、モールド20の微細凹凸構造をフィルム42の表面に繰り返し転写しても、モールド20の微細凹凸構造の形状(細孔の深さ等)が変化することがない非転写領域20bからの反射光の強度に基づく信号であるため、ほとんど変化しない。よって、信号処理装置36においてこれら信号を相対的に比較することにより、転写領域20aにおける微細凹凸構造の形状の相対的な変化を見積もることができる。
【0028】
(制御手段)
制御装置38は、信号処理装置36からの判定情報等に基づいて前記各機器等の運転等を制御するものである。例えば、信号処理装置36においてモールド20の表面の状態が不良と判定された際には、フィルム42の移動、モールド20の回転、ノズル22からの活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の供給等を停止し、モールド20の表面の微細凹凸構造のフィルム42の表面への転写を停止するものである。
【0029】
制御装置38は、例えば、処理部(図示略)とインターフェイス部(図示略)と記憶部(図示略)とを有する。
インターフェイス部は、製造装置を構成する各機器等と処理部との間を電気的に接続するものである。
処理部は、記憶部に記憶された各種設定、信号処理装置36からの判定情報等に基づいて前記各機器等の運転等を制御するものである。
【0030】
なお、処理部は専用のハードウエアによって実現されるものであってもよく、また、処理部はメモリおよび中央演算装置(CPU)によって構成され、処理部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによってその機能を実現させるものであってもよい。
また、制御装置38には、周辺機器として、入力装置、表示装置等が接続されるものとする。ここで、入力装置とは、ディスプレイタッチパネル、スイッチパネル、キーボード等の入力デバイスのことをいい、表示装置とは、CRT、液晶表示装置等のことをいう。
【0031】
(活性エネルギー線照射装置)
活性エネルギー線照射装置28としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、フュージョンランプ等が挙げられる。
【0032】
(モールド)
モールドは、モールド基材の表面に微細凹凸構造を有するものである。
モールド基材の材料としては、金属(表面に酸化皮膜が形成されたものを含む。)、石英、ガラス、樹脂、セラミックス等が挙げられる。
モールド基材の形状としては、ロール状以外に、円管状、平板状、シート状等が挙げられる。
【0033】
モールドの製造方法としては、例えば、下記の方法(α)、方法(β)が挙げられ、大面積化が可能であり、かつ製造が簡便である点から、方法(α)が特に好ましい。
(α)アルミニウム基材の表面に、複数の細孔(凹部)を有する陽極酸化アルミナを形成する方法。
(β)モールド基材の表面にリソグラフィ法等によって微細凹凸構造を直接形成する方法。
【0034】
方法(α)としては、鏡面化されたアルミニウム基材の表面に、開口部から深さ方向に徐々に径が縮小するテーパ形状の細孔が周期的に形成され、その結果、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたモールドを得ることができる点から、下記の工程(a)〜(f)を有する方法が好ましい。
【0035】
(a)鏡面化されたアルミニウム基材を電解液中、定電圧下で陽極酸化してアルミニウム基材の表面に酸化皮膜を形成する工程。
(b)酸化皮膜を除去し、アルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成する工程。
(c)細孔発生点が形成されたアルミニウム基材を電解液中、定電圧下で再度陽極酸化し、細孔発生点に対応した細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)細孔の径を拡大させる工程。
(e)工程(d)の後、電解液中、定電圧下で再度陽極酸化する工程。
(f)工程(d)と工程(e)を繰り返し行い、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナがアルミニウム基材の表面に形成されたモールドを得る工程。
【0036】
工程(a)の前に、アルミニウム基材の表面の酸化皮膜を除去する前処理を行ってもよい。酸化皮膜を除去する方法としてはクロム酸/リン酸混合液に浸漬する方法等が挙げられる。
また、細孔の配列の規則性はやや低下するが、モールドの表面を転写して得られる物品の用途によっては、工程(a)を行わず、工程(c)から行ってもよい。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0037】
工程(a):
図3に示すように、鏡面化されたアルミニウム基材10の表面を電解液中、定電圧下で陽極酸化することによって、アルミニウム基材10の表面に細孔12を有する酸化皮膜14を形成する。
電解液としては、酸性電解液、アルカリ性電解液が挙げられ、酸性電解液が好ましい。
酸性電解液としては、シュウ酸、硫酸、これらの混合物等が挙げられる。
【0038】
シュウ酸を電解液として用いる場合、シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、陽極酸化時の電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
また、陽極酸化時の電圧を30〜60Vとすることにより、ピッチが100nm程度の規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたモールドを得ることができる。陽極酸化時の電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向にあり、ピッチが可視光の波長より大きくなることがある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象が起こる傾向にあり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0039】
硫酸を電解液として用いる場合、硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、陽極酸化時の電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
また、陽極酸化時の電圧を25〜30Vとすることにより、ピッチが63nm程度の規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたモールドを得ることができる。陽極酸化時の電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向があり、ピッチが可視光の波長より大きくなることがある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象が起こる傾向にあり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0040】
工程(a)では、陽極酸化を長時間施すことで形成される酸化皮膜が厚くなり、細孔の配列の規則性を向上させることができるが、その際、酸化皮膜の厚さを30μm以下とすることにより、結晶粒界によるマクロな凹凸がより抑制され、光学用の物品の製造により適したモールドを得ることができる。酸化皮膜の厚さは、1〜10μmがより好ましく、1〜3μmがさらに好ましい。酸化皮膜の厚さは、電界放出形走査電子顕微鏡等で観察できる。
【0041】
工程(b):
図3に示すように、工程(a)により形成された酸化皮膜14を除去することによって、除去された酸化皮膜14の底部(バリア層と呼ばれる。)に対応する周期的な窪み、すなわち細孔発生点16を形成する。
形成された酸化皮膜14を一旦除去し、陽極酸化の細孔発生点16を形成することで、最終的に形成される細孔の規則性を向上させることができる(例えば、益田、「応用物理」、2000年、第69巻、第5号、p.558参照。)。
酸化皮膜14を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、アルミナを選択的に溶解する溶液によって除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等が挙げられる。
【0042】
工程(c):
図3に示すように、工程(b)で細孔発生点16が形成されたアルミニウム基材10を電解液中、定電圧下で再度陽極酸化し、再び酸化皮膜を形成することによって、円柱状の細孔12が形成された酸化皮膜14を形成できる。
工程(c)では、工程(a)と同様の条件(電解液濃度、電解液温度、化成電圧等)下で陽極酸化すればよい。
工程(c)においても、陽極酸化を長時間施すほど、深い細孔を得ることができるが、例えば反射防止物品等の光学用の物品を製造するためのモールドを製造する場合には、工程(c)においては0.01〜0.5μm程度の酸化皮膜を形成すればよく、工程(a)で形成するほどの厚さの酸化皮膜を形成する必要はない。
【0043】
工程(d):
図3に示すように、工程(c)で形成された細孔12の径を拡大させる孔径拡大処理を行って、細孔12の径を拡径する。
孔径拡大処理の具体的方法としては、アルミナを溶解する溶液に浸漬して、工程(c)で形成された細孔の径をエッチングにより拡大させる方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。工程(d)の時間を長くするほど、細孔の径は大きくなる。
【0044】
工程(e):
図3に示すように、再度陽極酸化すると、工程(d)で拡径された細孔12の底部から下に延びる、直径の小さい細孔12がさらに形成される。
陽極酸化は、工程(c)と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0045】
工程(f):
図3に示すように、工程(d)と工程(e)を繰り返すことによって、細孔12の形状を開口部から深さ方向に徐々に径が縮小するテーパ形状にでき、その結果、周期的な複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたモールド18を得ることができる。
工程(d)および工程(e)の条件、例えば、陽極酸化の時間および孔径拡大処理の時間を適宜設定することにより、様々な形状の細孔を形成することができる。よって、モールドから製造しようとする物品の用途等に応じて、これら条件を適宜設定すればよい。また、このモールドが反射防止膜等の反射防止物品を製造するものである場合には、このように条件を適宜設定することによって、細孔のピッチや深さを任意に変更できるため、最適な屈折率変化を設計することも可能となる。
【0046】
こうして製造されたモールドは、多数の周期的な細孔が形成された結果、微細凹凸構造を表面に有するものとなる。
細孔のピッチは、可視光の波長以下、すなわち400nm以下が好ましい。細孔のピッチが400nm以下であれば、モールドの表面の転写によって得られた物品の表面(転写面)において可視光の散乱が起こりにくくなり、十分な反射防止機能が発現するため、反射防止膜等の反射防止物品の製造に適する。
細孔のピッチは、細孔の中心からこれに隣接する細孔の中心までの距離である。
【0047】
モールドが反射防止膜等の反射防止物品を製造するものである場合には、細孔のピッチが可視光の波長以下であるとともに、細孔の深さは、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。細孔の深さが50nm以上であれば、モールドの表面の転写により形成された光学用途の物品の表面(転写面)の反射率が低下する。
細孔の深さは、細孔の開口部から最深部までの距離である。
【0048】
細孔のアスペクト比(深さ/ピッチ)は、1.0〜4.0が好ましく、1.3〜3.5が好ましく、1.8〜3.5がさらに好ましく、2.0〜3.0が最も好ましい。アスペクト比が1.0以上であれば、反射率が低い転写面を形成でき、その入射角依存性や波長依存性も十分に小さくなる。アスペクト比が4.0より大きいと転写面の機械的強度が低下する傾向がある。
【0049】
モールドの微細凹凸構造が形成された表面は、離型が容易になるように、離型処理が施されていてもよい。離型処理の方法としては、例えば、シリコーン系ポリマーやフッ素ポリマーをコーティングする方法、フッ素化合物を蒸着する方法、フッ素系またはフッ素シリコーン系のシランカップリング剤をコーティングする方法等が挙げられる。
モールドはロール状であっても、平板状であっても構わないが、連続的に微細凹凸を表面に有する物品を製造する観点から、ロール状であることが好ましい。
【0050】
<微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法>
本発明の、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法は、微細凹凸構造を物品本体の表面に転写し、該物品本体から分離した後のモールドの表面の微細凹凸構造を有する領域のうち、微細凹凸構造が物品本体の表面に転写される転写領域および微細凹凸構造が物品本体の表面に転写されない非転写領域に光を照射し、転写領域からの反射光の強度および非転写領域からの反射光の強度を測定し、転写領域からの反射光の強度および非転写領域からの反射光の強度に基づいてモールドの表面の状態の良否を判定し、物品への凹凸構造の転写の良否を判断する方法である。
【0051】
モールドの表面の微細凹凸構造を物品本体の表面に転写する方法としては、例えば、下記の工程(I)〜(III)を有する方法が挙げられる。
(I)微細凹凸構造を表面に有するモールドと、物品本体との間に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を挟持する工程。
(II)活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、該活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて微細凹凸構造を有する硬化樹脂層を形成する工程。
(III)物品本体の表面の硬化樹脂層からモールドを分離し、微細凹凸構造を表面に有する物品を得る工程。
【0052】
物品本体の材料としては、物品本体を介して活性エネルギー線の照射を行うため、透明性の高い材料が好ましく、例えば、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
物品本体の形状としては、フィルム、シート、射出成形品、プレス成形品等が挙げられる。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、例えば、特許文献1の段落[0060]〜[0102]に記載された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が挙げられる。
活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等が挙げられる。
【0053】
(製造方法の具体例)
図1および
図2に示す製造装置を用いた、本発明の微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法の具体例を説明する。
【0054】
モールド20は、外周面の全面に微細凹凸構造(図示略)を有するものであり、かつ微細凹凸構造がフィルム42の表面に転写される転写領域20aと、微細凹凸構造がフィルム42の表面に転写されない非転写領域20bとを有する。
モールド20の転写領域20aと、モールド20の回転に同期してモールド20の下側半分の表面に沿って移動する帯状のフィルム42(物品本体)との間に、ノズル22から活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を供給する。
【0055】
モールド20と、空気圧シリンダ24によってニップ圧が調整されたニップロール26との間で、フィルム42および活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をニップし、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、フィルム42とモールド20との間に均一に行き渡らせると同時に、モールド20の微細凹凸構造の細孔内に充填する。
【0056】
モールド20の下方に設置された活性エネルギー線照射装置28から、フィルム42を通して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させることによって、モールド20の表面の微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層44を形成する。活性エネルギー線照射装置28からの光照射エネルギー量は、100〜10000mJ/cm
2が好ましい。
剥離ロール30によって、表面に硬化樹脂層44が形成されたフィルム42をモールド20から剥離することによって、
図4に示すような物品40を得る。
【0057】
ついで、照明装置32によって、フィルム42が剥離されたモールド20の上側半分の表面における転写領域20aおよび非転写領域20bに光を照射すると同時に、第1の測定器34aによって、転写領域20aにおける反射ポイント35aにて反射し、監視窓52を透過してきた反射光の強度を測定し、第2の測定器34bによって、非転写領域20bにおける反射ポイント35bにて反射し、監視窓52を透過してきた反射光の強度を測定する。測定器34で測定されたる反射光の強度は、信号処理装置36に送られる。
照明装置32からの光の照射および測定器34による反射光の強度の測定は、モールド20の微細凹凸構造の形状を常時把握する点から、連続的、または所定間隔をあけて断続的に行うことが好ましい。
【0058】
信号処理装置36において、第1の測定器34aから送られてきた反射光の強度に基づく信号および第2の測定器34bから送られてきた反射光の強度に基づく信号から、強度差または強度比、もしくは差スペクトルまたは比スペクトルを算出し;得られた強度差または強度比、もしくは差スペクトルまたは比スペクトルがあらかじめ設定された閾値以上(場合によっては閾値以下)のときにモールド20の表面の状態を不良と判定し;モールド20の表面の状態を不良と判定した場合、その判定情報を制御装置38に送る。
【0059】
閾値は、例えば、以下のように設定する。
実際の製造に用いるものと同じ製造装置、同じ材料を用いてあらかじめ予備実験を実施し、得られる物品40の性能を確認し、物品40の性能が製品のスペックを下回ったときの強度差(絶対値)または強度比、もしくは差スペクトル(絶対値)の最大値または比スペクトルの最大値を閾値に設定する。
【0060】
制御装置38においては、例えば、信号処理装置28においてモールド20の表面の状態が不良と判定された際には、物品への凹凸構造の転写も不良になると判断し、フィルム42の移動、モールド20の回転、ノズル22からの活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の供給等を停止し、モールド20の表面の微細凹凸構造のフィルム42の表面への転写を停止する。
【0061】
(物品)
図4は、本発明の製造方法で得られる、微細凹凸構造を表面に有する物品40の一例を示す断面図である。
フィルム42は、光透過性フィルムである。フィルムの材料としては、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
【0062】
硬化樹脂層44は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる膜であり、表面に微細凹凸構造を有する。
陽極酸化アルミナのモールドを用いた場合の物品40の表面の微細凹凸構造は、陽極酸化アルミナの表面の微細凹凸構造(細孔)を転写して形成されたものであり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の突起46(凸部)を有する。
【0063】
突起のピッチは、可視光の波長以下、すなわち400nm以下が好ましい。突起のピッチが400nm以下であれば、可視光の散乱が起こりにくくなり、十分な反射防止機能が発現する。
突起のピッチは、突起の中心からこれに隣接する突起の中心までの距離である。
【0064】
突起の高さは、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。突起の高さが50nm以上であれば、反射率が十分低くなる。
突起の高さは、突起の最頂部と、突起間に存在する凹部の最底部との間の距離である。
【0065】
突起のアスペクト比(突起の高さ/ピッチ)は、1.0〜4.0が好ましく、1.3〜3.5が好ましく、1.8〜3.5がさらに好ましく、2.0〜3.0が最も好ましい。アスペクト比が1.0以上であれば、反射率が十分に低くなり、その入射角依存性や波長依存性も十分に小さくなる。アスペクト比が4.0より大きいと転写面の機械的強度が低下する傾向がある。
【0066】
硬化樹脂層44の屈折率とフィルム42の屈折率との差は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。屈折率差が0.2以下であれば、硬化樹脂層44とフィルム42との界面における反射が抑えられる。
【0067】
(用途)
物品40の用途としては、反射防止物品、防曇性物品、防汚性物品、撥水性物品、より具体的には、ディスプレー用反射防止、自動車メーターカバー、自動車ミラー、自動車窓、有機または無機エレクトロルミネッセンスの光取り出し効率向上部材、太陽電池部材等が挙げられる。
【0068】
(作用効果)
以上説明した本発明の、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法および製造装置にあっては、微細凹凸構造を物品本体の表面に転写し、該物品本体から分離した後のモールドの表面からの反射光の強度を測定し、それに基づいてモールドの表面の状態の良否を判定しているため、微細凹凸構造を表面に有する物品を製造しながら、モールドの表面の状態を簡易にモニタリングできる。
また、モールドの表面の微細凹凸構造を有する領域のうち、微細凹凸構造が物品本体の表面に転写される転写領域からの反射光の強度と、微細凹凸構造が物品本体の表面に転写されない非転写領域からの反射光の強度とを測定し、これらに基づいてモールドの表面の状態の良否を判定しているため、これらの反射光の強度を相対的に比較することにより、外乱の影響を排除でき、その結果、モールドの表面の状態を正確にモニタリングできる。
そして、判定結果に基づいて、モールドの表面の微細凹凸構造の物品本体の表面への転写を停止することも可能となるため、スペック外の物品を無駄に製造することが抑えられ、その結果、物品の歩留まりの低下を抑えることができる。
尚、上記説明では反射光の強度を測定する例を示したが、本発明はこれに限られない。例えば、波長データを測定しても良い。即ち、波長のシフト変化(色変化)を比較することによって微細凹凸構造の形状(深さ)の状態の良否を判定することもできる。また、強度や波長等の複数種の要件を測定してもかまわない。
【0069】
(他の形態)
なお、本発明の、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造装置は、図示例の製造装置に限定はされない。
例えば、照明手段としては、図示例のような、光源本体31が外部に設けられた照明装置32(光ファイバ照明)に限定はされず、高周波点灯の蛍光灯点灯装置、ロッド照明、LED照明等であってもよい。ただし、小型であり、かつ照明効率が良い点から、図示例のような、照明装置32(光ファイバ照明)が好ましい。
【0070】
また、照明手段は、製造装置のケース内に設けてもよく、製造装置のケース外に設けてもよい。製造装置のケース内が防爆エリアの場合、製造装置のケース外に照明手段を設けることによって、安価な非防爆タイプの照明手段を用いることができる。また、図示例のように、光源本体31を製造装置のケース50外に設け、照明装置32を製造装置のケース50内に設け、これらを光ファイバ33で接続してもよい。
【0071】
また、測定手段は、製造装置のケース内に設けてもよく、製造装置のケース外に設けてもよい。製造装置のケース内が防爆エリアの場合、製造装置のケース外に測定手段を設けることによって、安価な非防爆タイプの測定手段を用いることができる。
【0072】
また、図示例では、転写領域20aにおける反射ポイント35aおよび非転写領域20bにおける反射ポイント35bは1箇所ずつであるが、それぞれ複数箇所としてもよい。
また、測定器34において測定される反射光は、正反射光に限定されず、照射角と測定角を異なった角度に設定して乱反射光としてもよい。
また、制御手段として、判定手段の機能を兼ね備えたものを用い、図示例において制御装置38とは別に設けられていた信号処理装置36を省略してもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
〔実施例1〕
図1および
図2に示す製造装置を用意した。
モールド20としては、上述の工程(a)〜(f)を有する方法によって、ピッチ:100nm、深さ:180nmの複数の略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたロール状のモールド20を用意した。
照明装置32としては、光ファイバ照明を用いた。照明装置32は、モールド20の反射ポイント35aおよび反射ポイント35bの表面(接平面)の法線に対して、照明装置32の光軸の角度が70°となるように設置した。
第1の測定器34aおよび第2の測定器34bとしては、高感度分光放射輝度計(大塚電子社製、HS−1000)を用いた。測定器34は、モールド20の反射ポイント35aおよび反射ポイント35bの表面(接平面)の法線に対して、測定器34の光軸の角度が70°となるように設置した。
【0075】
転写領域20aにおける反射ポイント35aおよび非転写領域20bにおける反射ポイント35bの大きさは、約10mmφとした。
閾値は、転写領域20aにおける反射ポイント35aにて反射し、監視窓52を透過してきた反射光の分光スペクトルと、非転写領域20bにおける反射ポイント35bにて反射し、監視窓52を透過してきた反射光の分光スペクトルとの差スペクトルの絶対値の最大値として、15%とした。
【0076】
図1および
図2に示す製造装置を用いて、微細凹凸構造を表面に有する物品40を製造した。物品40の製造中、第1の測定器34aによって、転写領域20aにおける反射ポイント35aにて反射し、監視窓52を透過してきた反射光の分光スペクトルを測定し、第2の測定器34bによって、非転写領域20bにおける反射ポイント35bにて反射し、監視窓52を透過してきた反射光の分光スペクトルを測定した。また、信号処理装置36において、第1の測定器34aから送られてきた反射光の分光スペクトルの信号および第2の測定器34bから送られてきた反射光の分光スペクトルの信号から、差スペクトルを算出した。
【0077】
物品40を約1万m製造した時点で、差スペクトルの絶対値の最大値が閾値を超えた。このときの差スペクトルを
図5に示す。また、このときの物品40の裏面を黒塗りして、表面(微細凹凸構造側)の反射率を測定したところ、反射率がスペックの値より高くなっていた。