(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。また、活性エネルギー線は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等を意味する。また、微細凹凸構造は、凸部または凹部の平均間隔が可視光波長以下、つまり400nm以下の構造を意味する。また、透明基材は、可視光を透過できる基材を意味する。
【0014】
<モールド>
本発明のモールドは、純度99.5質量%以上のアルミニウム基材の表面を陽極酸化することによって、微細凹凸構造が形成されたモールドである。微細凹凸構造は、通常、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の複数の細孔からなる。
【0015】
(アルミニウム基材)
アルミニウム基材の形状としては、ロール状、円管状、平板状、シート状等が挙げられる。
アルミニウムの純度は、99.5質量%以上であり、99.8質量%以上が好ましく、99.9質量%以上がより好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した時に、不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがある。
【0016】
(光沢度)
本発明のモールドの、微細凹凸構造が形成された側の表面の60度光沢度は、750%以上であり、780%以上が好ましい。60度光沢度が750%以上であれば、モールドの微細凹凸構造が形成された側の表面に白筋の発生がないか、または目視できない状態であり、モールドの微細凹凸構造を透明基材の表面に転写して得られた物品は、ヘイズが低く、可視光透過率が高い。
60度光沢度は、JIS Z8741に準拠した光沢計を用いて測定される。また、白筋の有無による光沢度の差が顕著に現れることから、光沢度の測定角は60度とする。
【0017】
(作用効果)
以上説明した本発明のモールドにあっては、微細凹凸構造が形成された側の表面の60度光沢度が750%以上であるため、モールドの微細凹凸構造を透明基材の表面に転写して得られた物品の表面における光の散乱が少ない。そのため、ヘイズが低く、可視光透過率が高い、微細凹凸構造を表面に有する物品を得ることができる。
【0018】
<モールドの製造方法>
本発明のモールドは、下記の工程(a)〜(f)を有する方法で製造される。
(a)切削加工された、純度99.5質量%以上のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化してアルミニウム基材の表面に酸化皮膜を形成する工程。
(b)工程(a)の後、アルミニウム基材をクロム酸−リン酸混液に浸漬して酸化皮膜を除去する工程。
(c)工程(b)の後、アルミニウム基材を電解液中で再度陽極酸化して細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)工程(c)の後、アルミニウム基材を、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して細孔の径を拡大させる工程。
(e)工程(d)の後、アルミニウム基材を電解液中で再度陽極酸化する工程。
(f)工程(d)と工程(e)を繰り返し行い、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナがアルミニウム基材の表面に形成されたモールドを得る工程。
【0019】
工程(a):
図1に示すように、切削加工されたアルミニウム基材10を定電圧下、電解液中で陽極酸化すると、細孔12を有する酸化皮膜14が形成される。
アルミニウム基材の形状としては、ロール状、円管状、平板状、シート状等が挙げられる。
また、アルミニウム基材は、表面状態を平滑化にするために、機械研磨、羽布研磨、化学的研磨、電解研磨処理(エッチング処理)等で研磨されることが好ましい。また、アルミニウム基材は、所定の形状に切削加工する際に用いた油が付着していることがあるため、陽極酸化の前にあらかじめ脱脂処理されることが好ましい。
【0020】
アルミニウムの純度は、99.5質量%以上であり、99.8質量%以上が好ましく、99.9質量%以上がより好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した時に、不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがある。
電解液としては、硫酸、シュウ酸、リン酸等が挙げられる。
【0021】
シュウ酸を電解液として用いる場合:
シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
化成電圧が30〜60Vの時、間隔が100nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0022】
硫酸を電解液として用いる場合:
硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
化成電圧が25〜30Vの時、間隔が63nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向がある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0023】
工程(b):
図1に示すように、酸化皮膜14を一旦除去し、これを陽極酸化の細孔発生点16にすることで細孔の規則性を向上することができる。
【0024】
酸化皮膜の除去は、アルミニウムを溶解せず、酸化皮膜を選択的に溶解するクロム酸−リン酸混液を用いて行われる。また、本発明においては、該工程(b)を以下のような条件下で行うことにより、60度光沢度が750%以上であるモールドを得ることができる。
クロム酸−リン酸混液中のクロム酸の濃度は、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5.0%がより好ましく、1.0〜2.5%が更に好ましい。また、クロム酸−リン酸混液中のリン酸の濃度は、0.1〜20質量%が好ましく、1.0〜10%がより好ましく、2.0〜8.0%が更に好ましい。クロム酸およびリン酸の濃度が該範囲内であれば、白筋の発生を抑えつつ、酸化皮膜の除去を行うことができる。
【0025】
クロム酸−リン酸混液の温度は、10〜65℃であり、15〜55℃が好ましい。クロム酸−リン酸混液の温度が10℃以上であれば、酸化皮膜の除去に時間がかかりすぎることがない。クロム酸−リン酸混液の温度が65℃以下であれば、白筋の発生を抑えつつ、酸化皮膜の除去を行うことができる。
【0026】
クロム酸−リン酸混液に浸漬する時間は、0.5〜10時間であり、1〜8時間が好ましく、3〜6時間がさらに好ましい。浸漬時間が0.5時間以上であれば、酸化皮膜を十分に除去できる。浸漬時間が10時間以下であれば、白筋の発生を抑えつつ、酸化皮膜の除去を行うことができる。
【0027】
工程(c):
図1に示すように、酸化皮膜を除去したアルミニウム基材10を再度陽極酸化すると、細孔発生点16に、円柱状の細孔12を有する酸化皮膜14が形成される。
陽極酸化は、工程(a)と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0028】
工程(d):
図1に示すように、細孔12の径を拡大させる処理(以下、細孔径拡大処理と記す。)を行う。細孔径拡大処理は、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。
細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0029】
工程(e):
図1に示すように、再度陽極酸化すると、円柱状の細孔12の底部から下に延びる、直径の小さい円柱状の細孔12がさらに形成される。
陽極酸化は、工程(a)と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0030】
工程(f):
図1に示すように、工程(d)の細孔径拡大処理と、工程(e)の陽極酸化を繰り返すと、テーパー状の細孔12を有する酸化皮膜14が形成され、アルミニウム基材10の表面に陽極酸化アルミナ(アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト))を有するモールド18が得られる。最後は工程(d)で終わることが好ましい。
【0031】
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を有する陽極酸化アルミナを用いて形成されたモスアイ構造の反射率低減効果は不十分である。
【0032】
細孔12の形状としては、略円錐形状、角錐形状、円柱形状等が挙げられ、円錐形状、角錐形状等のように、深さ方向と直交する方向の細孔断面積が最表面から深さ方向に連続的に減少する形状が好ましい。
細孔12間の平均間隔は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下である。細孔12間の平均間隔は、20nm以上が好ましい。
細孔12間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する細孔12間の間隔(細孔12の中心から隣接する細孔12の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0033】
細孔12の深さは、平均間隔が100nmの場合は、80〜500nmが好ましく、120〜400nmがより好ましく、150〜300nmが特に好ましい。
細孔12の深さは、電子顕微鏡観察によって倍率30000倍で観察したときにおける、細孔12の最底部と、細孔12間に存在する凸部の最頂部との間の距離を測定した値である。
細孔12のアスペクト比(細孔の深さ/細孔間の平均間隔)は、0.5〜5.0が好ましく、0.8〜4.5がより好ましく、1.2〜4.0が特に好ましい。
以上のような工程により得られた本発明のモールドは、表面の60度光沢度が750%以上となる。また、モールド上に白筋が発生することが抑制されているため、該モールドを用いてヘイズが低く、全光線透過率の高い物品を得ることができる。
【0034】
モールドの微細凹凸構造が形成された側の表面を離型剤で処理してもよい。
離型剤としては、アルミニウム基材の陽極酸化アルミナと化学結合を形成し得る官能基を有するものが好ましい。
【0035】
離型剤としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フッ素化合物等が挙げられ、加水分解性シリル基を有するフッ素化合物が特に好ましい。加水分解性シリル基を有するフッ素化合物の市販品としては、フルオロアルキルシラン、KBM−7803(信越化学工業社製)、MRAF(旭硝子)、オプツールHD1100、HD2100シリーズ、AES4、AES6、DSX(ダイキン工業社製)、ノベックEGC−1720(住友3M社製)、FS‐2050シリーズ(フロロテクノロジー社製)等が挙げられる。
【0036】
離型剤による処理方法としては、下記の方法(1)または方法(2)が挙げられ、モールドの微細凹凸構造が形成された側の表面をムラなく離型剤で処理できる点から、方法(1)が特に好ましい。
(1)離型剤の希釈溶液にモールド本体を浸漬する方法。
(2)離型剤またはその希釈溶液を、モールドの微細凹凸構造が形成された側の表面に塗布する方法。
【0037】
方法(1)としては、下記の工程(g)〜(l)を有する方法が好ましい。
(g)モールドを水洗する工程。
(h)工程(g)の後、モールドにエアーを吹き付け、モールドの表面に付着した水滴を除去する工程。
(i)加水分解性シリル基を有するフッ素化合物をフッ素系溶媒で希釈した希釈溶液に、モールドを浸漬する工程。
(j)浸漬したモールドをゆっくりと溶液から引き上げる工程。
(k)必要に応じて、工程(j)よりも後段にてモールドを加熱加湿させる工程。
(l)モールド本体を乾燥させる工程。
【0038】
工程(g):
モールドには、微細凹凸構造を形成する際に用いた薬剤(細孔径拡大処理に用いたリン酸水溶液等)、不純物(埃等)等が付着しているため、水洗によってこれを除去する。
【0039】
工程(h):
モールドの表面に水滴が付着していると、工程(i)の希釈溶液が劣化するため、モールドにエアーを吹き付け、目に見える水滴はほぼ除去する。
【0040】
工程(i):
希釈用のフッ素系溶媒としては、ハイドロフルオロポリエーテル、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、ジクロロペンタフルオロプロパン等が挙げられる。
加水分解性シリル基を有するフッ素化合物の濃度は、希釈溶液(100質量%)中、0.01〜0.5質量%が好ましい。
浸漬時間は、1〜30分が好ましい。
浸漬温度は、0〜50℃が好ましい。
【0041】
工程(j):
浸漬したモールドを溶液から引き上げる際には、電動引き上げ機等を用いて、一定速度で引き上げ、引き上げ時の揺動を抑えることが好ましい。これにより塗布ムラを少なくできる。
引き上げ速度は、1〜10mm/secが好ましい。
【0042】
工程(k):
工程(j)よりも後段にて、モールドを加熱加湿させてもよい。モールドを加熱加湿下に放置することによって、フッ素化合物(離型剤)の加水分解性シリル基が加水分解されてシラノール基が生成し、該シラノール基とモールドの表面の水酸基との反応が十分に進行し、フッ素化合物の定着性が向上する。加湿方法としては、飽和塩水溶液を用いた飽和塩法、水を加熱して加湿する方法、加熱した水蒸気をモールドに直接吹付ける方法等が考えられる。この工程は恒温恒湿器中で行えばよい。
加熱温度は、30〜150℃が好ましい。
加湿条件は、相対湿度60%以上が好ましい。
放置時間は、10分〜7日が好ましい。
【0043】
工程(l):
モールドを乾燥させる工程では、モールドを風乾させてもよく、乾燥機等で強制的に加熱乾燥させてもよい。
乾燥温度は、30〜150℃が好ましい。
乾燥時間は、5〜300分が好ましい。
【0044】
モールドの表面が離型剤で処理されたことは、モールドの表面の水接触角を測定することによって確認できる。離型剤で処理されたモールドの表面の水接触角は、60゜以上が好ましく、90゜以上がより好ましい。水接触角が 60゜以上であれば、モールドの表面が離型剤で十分に処理され、離型性が良好となる。
【0045】
モールドの微細凹凸構造が形成された側の表面をモールドと化学結合を形成し得る離型剤で処理することで、モールドの微細凹凸構造を透明基材の表面に転写する場合に、初期の離型性が良好となる。また、繰り返し転写した場合であっても、離型性が低下しにくくなるため、微細凹凸構造を表面に有する物品を生産性よく製造できるようになる。
【0046】
(作用効果)
以上説明した本発明のモールドの製造方法にあっては、工程(b)におけるクロム酸−リン酸混液の濃度、温度、浸漬時間を特定の範囲内としているため、白筋の発生を抑えることができる。そのため、モールドの微細凹凸構造を透明基材の表面に転写して得られた物品の表面における光の散乱が少なくなり、ヘイズが低く、可視光透過率が高い、微細凹凸構造を表面に有する物品を得ることができる。
【0047】
<物品の製造方法>
本発明の、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法は、本発明のモールドの表面の微細凹凸構造を、透明基材の表面に転写する方法である。具体的には、本発明のモールドと透明基材との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を充填し、これに活性エネルギー線を照射して硬化させて、モールドの微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層を透明基材の表面に形成し、硬化樹脂層が表面に形成された透明基材をモールドから剥離する方法(いわゆる光インプリント法)が挙げられる。
【0048】
(透明基材)
基材の形状としては、フィルム、シート、射出成形品、プレス成形品等が挙げられる。
基材の材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリオレフィン、ガラス等が挙げられる。
【0049】
(製造装置)
微細凹凸構造を表面に有する物品は、例えば、
図2に示す製造装置を用いて、下記のようにして製造される。
表面に微細凹凸構造(図示略)を有するロール状モールド20と、ロール状モールド20の表面に沿って移動する帯状のフィルム42(透明基材)との間に、タンク22から活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を供給する。
【0050】
ロール状モールド20と、空気圧シリンダ24によってニップ圧が調整されたニップロール26との間で、フィルム42および活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をニップし、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、フィルム42とロール状モールド20との間に均一に行き渡らせると同時に、ロール状モールド20の微細凹凸構造の凹部内に充填する。
【0051】
ロール状モールド20の下方に設置された活性エネルギー線照射装置28から、フィルム42を通して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させることによって、ロール状モールド20の表面の微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層44を形成する。
剥離ロール30により、表面に硬化樹脂層44が形成されたフィルム42をロール状モールド20から剥離することによって、
図3に示すような物品40を得る。
【0052】
活性エネルギー線照射装置28としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が好ましく、この場合の光照射エネルギー量は、100〜10000mJ/cm
2が好ましい。
【0053】
フィルム42は、光透過性フィルムである。フィルムの材料としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ポリエステル、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリオレフィン、脂環式ポリオレフィン等が挙げられる。
【0054】
硬化樹脂層44は、後述の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる膜であり、表面に微細凹凸構造を有する。
陽極酸化アルミナのモールドを用いた場合の物品40の表面の微細凹凸構造は、陽極酸化アルミナの表面の微細凹凸構造を転写して形成されたものであり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の凸部46を有する。
【0055】
微細凹凸構造としては、略円錐形状、角錐形状等の突起(凸部)が複数並んだ、いわゆるモスアイ構造が好ましい。突起間の間隔が可視光の波長以下であるモスアイ構造は、空気の屈折率から材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0056】
凸部間の平均間隔は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下が好ましい。陽極酸化アルミナのモールドを用いて凸部を形成した場合、凸部間の平均間隔は100nm程度となることから、200nm以下がより好ましく、150nm以下が特に好ましい。
【0057】
凸部間の平均間隔は、凸部の形成のしやすさの点から、20nm以上が好ましい。
凸部間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する凸部間の間隔(凸部の中心から隣接する凸部の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0058】
凸部の高さは、平均間隔が100nmの場合は、80〜500nmが好ましく、120〜400nmがより好ましく、150〜300nmが特に好ましい。凸部の高さが80nm以上であれば、反射率が十分低くなり、かつ反射率の波長依存性が少ない。凸部の高さが500nm以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
凸部の高さは、電子顕微鏡によって倍率30000倍で観察したときにおける、凸部の最頂部と、凸部間に存在する凹部の最底部との間の距離を測定した値である。
【0059】
凸部のアスペクト比(凸部の高さ/凸部間の平均間隔)は、0.5〜5.0が好ましく、0.8〜4.5がより好ましく、1.2〜4.0が特に好ましい。凸部のアスペクト比が0.5以上であれば、超親水性膜や超撥水性膜として充分に使用できる。凸部のアスペクト比が5.0以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
【0060】
凸部の形状は、高さ方向と直交する方向の凸部断面積が最表面から深さ方向に連続的に増加する形状、すなわち、凸部の高さ方向の断面形状が、三角形、台形、釣鐘型等の形状が好ましい。
【0061】
低反射物品を作製する場合、硬化樹脂層44の屈折率とフィルム42の屈折率との差は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。屈折率差が0.2以下であれば、硬化樹脂層44とフィルム42との界面における反射が抑えられる。
【0062】
表面に微細凹凸構造を有する場合、その表面が疎水性の材料から形成されていればロータス効果により超撥水性が得られ、その表面が親水性の材料から形成されていれば超親水性が得られることが知られている。
【0063】
硬化樹脂層44の材料が疎水性の場合の微細凹凸構造の表面の水接触角は、90゜以上が好ましく、110゜以上がより好ましく、120゜以上が特に好ましい。水接触角が90゜以上であれば、水汚れが付着しにくくなるため、十分な防汚性が発揮される。また、水が付着しにくいため、着氷防止を期待できる。
【0064】
硬化樹脂層44の材料が親水性の場合の微細凹凸構造の表面の水接触角は、25゜以下が好ましく、23゜以下がより好ましく、21゜以下が特に好ましい。水接触角が25゜以下であれば、表面に付着した汚れが水で洗い流され、また油汚れが付着しにくくなるため、十分な防汚性が発揮される。該水接触角は、硬化樹脂層44の吸水による微細凹凸構造の変形、それに伴う反射率の上昇を抑える点から、3゜以上が好ましい。
【0065】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、重合性化合物および重合開始剤を含む。
重合性化合物としては、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。
【0066】
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、単官能モノマー、多官能モノマーが挙げられる。
単官能モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート誘導体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0067】
多官能モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等の三官能モノマー;コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の四官能以上のモノマー;二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられ、エポキシ基を有するモノマーが特に好ましい。
【0069】
オリゴマーまたは反応性ポリマーとしては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物等の不飽和ポリエステル類;ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独または共重合ポリマー等が挙げられる。
【0070】
光硬化反応を利用する場合、光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
電子線硬化反応を利用する場合、重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
熱硬化反応を利用する場合、熱重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;前記有機過酸化物にN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等のアミンを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。
【0073】
重合開始剤の量は、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。重合開始剤の量が0.1質量部未満では、重合が進行しにくい。重合開始剤の量が10質量部を超えると、硬化膜が着色したり、機械強度が低下したりすることがある。
【0074】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、非反応性のポリマー、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物、帯電防止剤、防汚性を向上させるためのフッ素化合物等の添加剤、微粒子、少量の溶媒を含んでいてもよい。
【0075】
非反応性のポリマーとしては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン、セルロース系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物としては、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物等が挙げられる。
【0076】
アルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン等が挙げられる。
【0077】
アルキルシリケート化合物としては、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケート等が挙げられる。
【0078】
(疎水性材料)
硬化樹脂層の微細凹凸構造の表面の水接触角を90°以上にするためには、疎水性の材料を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物として、フッ素含有化合物またはシリコーン系化合物を含む組成物を用いることが好ましい。
【0079】
フッ素含有化合物:
フッ素含有化合物としては、フッ素含有モノマー、フッ素含有シランカップリング剤、フッ素含有界面活性剤、フッ素含有ポリマー等が挙げられる。
【0080】
フッ素含有モノマーとしては、フルオロアルキル基置換ビニルモノマー、フルオロアルキル基置換開環重合性モノマー等が挙げられる。
フルオロアルキル基置換ビニルモノマーとしては、フルオロアルキル基置換(メタ)アクリレート、フルオロアルキル基置換(メタ)アクリルアミド、フルオロアルキル基置換ビニルエーテル、フルオロアルキル基置換スチレン等が挙げられる。
【0081】
フルオロアルキル基置換開環重合性モノマーとしては、フルオロアルキル基置換エポキシ化合物、フルオロアルキル基置換オキセタン化合物、フルオロアルキル基置換オキサゾリン化合物等が挙げられる。
【0082】
フッ素含有シランカップリング剤としては、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリアセトキシシラン、ジメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0083】
フッ素含有界面活性剤としては、フルオロアルキル基含有アニオン系界面活性剤、フルオロアルキル基含有カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0084】
フッ素含有ポリマーとしては、フルオロアルキル基含有モノマーの重合体、フルオロアルキル基含有モノマーとポリ(オキシアルキレン)基含有モノマーとの共重合体、フルオロアルキル基含有モノマーと架橋反応性基含有モノマーとの共重合体等が挙げられる。フッ素含有ポリマーは、共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0085】
シリコーン系化合物:
シリコーン系化合物としては、(メタ)アクリル酸変性シリコーン、シリコーン樹脂、シリコーン系シランカップリング剤等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸変性シリコーンとしては、シリコーン(ジ)(メタ)アクリレート等が挙げられ、例えば、信越化学工業社製のシリコーンジアクリレート「x−22−164」「x−22−1602」等が好ましく用いられる。
【0086】
(親水性材料)
硬化樹脂層の微細凹凸構造の表面の水接触角を25°以下にするためには、親水性の材料を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物として、少なくとも親水性モノマーを含む組成物を用いることが好ましい。また、耐擦傷性や耐水性付与の観点からは、架橋可能な多官能モノマーを含むものがより好ましい。なお、親水性モノマーと架橋可能な多官能モノマーは、同一(すなわち、親水性多官能モノマー)であってもよい。さらに、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、その他のモノマーを含んでいてもよい。
【0087】
親水性の材料を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、4官能以上の多官能(メタ)アクリレート、2官能以上の親水性(メタ)アクリレート、必要に応じて単官能モノマーを含む組成物を用いることがより好ましい。
【0088】
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物、ウレタンアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL220、EBECRYL1290、EBECRYL1290K、EBECRYL5129、EBECRYL8210、EBECRYL8301、KRM8200)、ポリエーテルアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL81)、変性エポキシアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL3416)、ポリエステルアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL450、EBECRYL657、EBECRYL800、EBECRYL810、EBECRYL811、EBECRYL812、EBECRYL1830、EBECRYL845、EBECRYL846、EBECRYL1870)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、5官能以上の多官能(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0089】
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの割合は、10〜90質量%が好ましく、20〜90質量%がより好ましく、30〜90質量%が特に好ましい。4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの割合が10質量%以上であれば、弾性率が高くなって耐擦傷性が向上する。4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの割合が90質量%以下であれば、表面に小さな亀裂が入りにくく、外観不良となりにくい。
【0090】
2官能以上の親水性(メタ)アクリレートとしては、アロニックスM−240、アロニックスM260(東亞合成社製)、NKエステルAT−20E、NKエステルATM−35E(新中村化学社製)等の長鎖ポリエチレングリコールを有する多官能アクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリエチレングリコールジメタクリレートにおいて、一分子内に存在するポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位の合計は、6〜40が好ましく、9〜30がより好ましく、12〜20が特に好ましい。ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位が6以上であれば、親水性が十分となり、防汚性が向上する。ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位が40以下であれば、4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとの相溶性が良好となり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が分離しにくい。
【0091】
2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの割合は、3〜90質量%が好ましく、3〜70質量%がより好ましい。2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの割合が3質量%以上であれば、親水性が十分となり、防汚性が向上する。2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの割合が90質量%以下であれば、弾性率が高くなって耐擦傷性が向上する。
【0092】
単官能モノマーとしては、親水性単官能モノマーが好ましい。
親水性単官能モノマーとしては、M−20G、M−90G、M−230G(新中村化学社製)等のエステル基にポリエチレングリコール鎖を有する単官能(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のエステル基に水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート、単官能アクリルアミド類、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート等のカチオン性モノマー類等が挙げられる。
また、単官能モノマーとして、アクリロイルモルホリン、ビニルピロリドン等の粘度調整剤、物品本体への密着性を向上させるアクリロイルイソシアネート類等の密着性向上剤等を用いてもよい。
【0093】
単官能モノマーの割合は、0〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。単官能モノマーを用いることにより、基材と硬化樹脂との密着性が向上する。単官能モノマーの割合が20質量%以下であれば、4官能以上の多官能(メタ)アクリレートまたは2官能以上の親水性(メタ)アクリレートが不足することなく、防汚性または耐擦傷性が十分に発現する。
【0094】
単官能モノマーは、1種または2種以上を(共)重合した低重合度の重合体として活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に0〜35質量部配合してもよい。低重合度の重合体としては、M−230G(新中村化学社製)等のエステル基にポリエチレングリコール鎖を有する単官能(メタ)アクリレート類と、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェートとの40/60共重合オリゴマー(MRCユニテック社製、MGポリマー)等が挙げられる。
【0095】
(用途)
物品40の用途としては、反射防止物品、防曇性物品、防汚性物品、撥水性物品、より具体的には、ディスプレイ用反射防止、自動車メーターカバー、自動車ミラー、自動車窓、有機または無機エレクトロルミネッセンスの光取り出し効率向上部材、太陽電池部材等が挙げられる。
【0096】
(作用効果)
以上説明した本発明の、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法にあっては、本発明のモールドの表面の微細凹凸構造を、透明基材の表面に転写しているため、ヘイズが低く、可視光透過率が高い物品を製造できる。また、白筋のような筋状の欠陥が発生した光学フィルムを液晶等の電子表示装置に用いると、その他の光学フィルムの構造ピッチや液晶表示パネルの画素ピッチ等との相互作用により、モアレと呼ばれる干渉斑が発生してしまうことがある。しかしながら、本願発明に基づくモールド用いて製造された光学フィルムは、白筋の発生が抑制されるために、電子表示装置に用いた際にモアレの発生を抑制することが可能となる。
【0097】
なお、微細凹凸構造を表面に有する物品は、図示例の物品40に限定はされない。例えば、微細凹凸構造は、硬化樹脂層44を設けることなく、熱インプリント法によってフィルム42の表面に直接形成されていてもよい。ただし、ロール状モールド20を用いて効率よく微細凹凸構造を形成できる点から、硬化樹脂層44の表面に微細凹凸構造が形成されていることが好ましい。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0099】
(陽極酸化アルミナの細孔)
陽極酸化アルミナの一部を削り、断面にプラチナを1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて、断面を観察し、細孔の間隔、細孔の深さを測定した。各測定は、それぞれ50点について行い、平均値を求めた。
【0100】
(60度光沢度)
光沢計(コニカミノルタ社製、GM−268)を用いて60度光沢度を10回測定し、その平均値を求めた。
【0101】
(全光線透過率、ヘイズ)
物品の全光線透過率およびヘイズは、JIS K7361−1に準拠したヘイズメーター(スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0102】
(活性エネルギー線硬化性組成物Aの組成)
コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物の45質量部、
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学社製)の45質量部、
ラジカル重合性シリコーンオイル(信越化学工業社製、X−22−1602)の10質量部、
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア184)の3質量部。
【0103】
(活性エネルギー線硬化性組成物Bの組成)
コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物の65質量部、
ポリエチレングリコールジアクリレート(東亞合成社製、アロニックスM260)の35質量部、
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア184)の3質量部。
【0104】
(活性エネルギー線硬化性組成物Cの組成)
コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物の65質量部、
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学社製)の25質量部、
ラジカル重合性シリコーンオイル(信越化学工業社製、X−22−1602)の10質量部、
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア184)の3質量部。
【0105】
〔実施例1〕
純度99.99%のアルミニウムインゴットを、外径:200mm、内径:155mm、長さ:350mmの円筒状に切断し、被加工面の算術平均粗さRaが0.03μm以下となるように表面に鏡面切削加工を行い、円筒状のアルミニウム基材を得た。この表面の60度光沢度を測定したところ896%であった。
【0106】
工程(a):
アルミニウム基材について、0.3Mシュウ酸水溶液中で、浴温:16℃、直流:40Vの条件下で30分間陽極酸化を行い、酸化皮膜(厚さ:3μm)を形成した。
工程(b):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材を、50℃に調整した6質量%のリン酸と1.8質量%のクロム酸との混合水溶液に2時間浸漬し、形成された酸化皮膜を溶解除去した。
工程(c):
該アルミニウム基材について、再び工程(a)と同一条件下において、45秒間陽極酸化を行い、酸化皮膜を形成した。
【0107】
工程(d):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材を、5質量%リン酸水溶液(30℃)中に9分間浸漬して、酸化皮膜の細孔を拡径する孔径拡大処理を行った。
工程(e):
該アルミニウム基材について、再び工程(a)と同一条件下において、45秒間陽極酸化を行った。
工程(f):
前記工程(d)および工程(e)を合計で4回繰り返し、最後に工程(d)を行い、平均間隔:100nm、深さ:170nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたロール状モールドを得た。
【0108】
ついで、離型剤(ダイキン工業社製、オプツールDSX)の0.1質量%溶液にロール状モールドを10分間浸漬し、24時間風乾して離型剤処理を行った。この表面の60度光沢度を測定したところ808%であった。
【0109】
〔実施例2〕
純度99.97%のアルミニウムインゴットを、外径:200mm、内径:155mm、長さ:350mmの円筒状に切断し、被加工面の算術平均粗さRaが0.02μm以下となるように表面に鏡面切削加工を行い、円筒状のアルミニウム基材を得た。この表面の60度光沢度を測定したところ899%であった。
【0110】
工程(a):
アルミニウム基材について、0.3Mシュウ酸水溶液中で、浴温:16℃、直流:40Vの条件下で30分間陽極酸化を行い、酸化皮膜(厚さ:3μm)を形成した。
工程(b):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材を、35℃に調整したクロム酸−リン酸混液(6質量%のリン酸と1.8質量%のクロム酸とを含む水溶液)に4時間浸漬し、形成された酸化皮膜を溶解除去した。
工程(c):
該アルミニウム基材について、再び工程(a)と同一条件下において、40秒間陽極酸化を行い、酸化皮膜を形成した。
【0111】
工程(d):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材を、5質量%リン酸水溶液(30℃)中に8分間浸漬して、酸化皮膜の細孔を拡径する孔径拡大処理を行った。
工程(e):
該アルミニウム基材について、再び工程(a)と同一条件下において、40秒間陽極酸化を行った。
工程(f):
前記工程(d)および工程(e)を合計で4回繰り返し、最後に工程(d)を行い、平均間隔:100nm、深さ:170nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたロール状モールドを得た。
【0112】
ついで、離型剤(ダイキン工業社製、オプツールDSX)の0.1質量%溶液にロール状モールドを10分間浸漬し、24時間風乾して離型剤処理を行った。この表面の60度光沢度を測定したところ819%であった。
【0113】
〔実施例3〕
工程(b)の温度を23℃とした以外は、実施例2と同様にしてロール状モールドを得た。結果を表1に示す。
【0114】
〔実施例4〕
工程(b)においてクロム酸−リン酸混液(8質量%のリン酸と1.1質量%のクロム酸とを含む水溶液)を用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状モールドを得た。結果を表1に示す。
【0115】
〔実施例5〕
工程(b)においてクロム酸−リン酸混液(4質量%のリン酸と2.3質量%のクロム酸とを含む水溶液)を用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状モールドを得た。結果を表1に示す。
〔実施例6〕
工程(b)においてクロム酸−リン酸混液(5質量%のリン酸と1.5質量%のクロム酸とを含む水溶液)を用い、温度を65℃、浸漬時間を1時間とした以外は、実施例2と同様にしてロール状モールドを得た。結果を表1に示す。
〔実施例7〕
工程(b)においてクロム酸−リン酸混液(9質量%のリン酸と2.0質量%のクロム酸とを含む水溶液)を用い、温度を15℃、浸漬時間を8時間とした以外は、実施例1と同様にしてロール状モールドを得た。結果を表1に示す。
【0116】
〔比較例1〕
工程(b)の温度を70℃とした以外は、実施例1と同様にしてロール状モールドを得た。結果を表1に示す。
〔比較例2〕
工程(b)の温度を70℃とした以外は、実施例2と同様にしてロール状モールドを得た。結果を表1に示す。
〔比較例3〕
工程(b)の温度を5℃とし浸漬時間を0.5時間とした以外は、実施例2と同様にしてロール状モールドを得た。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
〔実施例8〕
実施例1で得られたロール状モールドを
図2に示す製造装置に設置し、以下のようにして物品を製造した。
図2に示すように、ロール状モールド20を、冷却水用の流路を内部に設けた機械構造用炭素鋼製の軸芯21にはめ込んだ。ついで、活性エネルギー線硬化性組成物Aをタンク22から室温で供給ノズルを介して、ニップロール26とロール状モールド20との間にニップされているフィルム42(ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、東洋紡社製、A4300)上に供給した。この際、空気圧シリンダ24によりニップ圧が調整されたニップロール26によりニップされ、ロール状モールド20の細孔(凹部)内にも活性エネルギー線硬化性組成物Aが充填された。
毎分7.0mの速度でロール状モールド20を回転させながら、活性エネルギー線硬化性組成物Aがロール状モールド20とフィルム42との間に挟まれた状態で、活性エネルギー線照射装置28(240W/cmの紫外線照射装置)から紫外線を照射し、活性エネルギー線硬化性組成物Aを硬化させ、硬化樹脂層44を形成した後、剥離ロール30により、表面に硬化樹脂層44が形成されたフィルム42をロール状モールド20から剥離して、微細凹凸構造を表面に有する物品40を得た。結果を表2に示す。
【0119】
〔実施例9〕
フィルム42として、アクリルフィルム(三菱レイヨン社製、HBK−002)を用いた以外は、実施例6と同様にして微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。結果を表2に示す。
【0120】
〔実施例10〕
活性エネルギー線硬化性組成物Bを用いた以外は、実施例7と同様にして微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。結果を表2に示す。
【0121】
〔実施例11〕
実施例2で得られたロール状モールドを用いた以外は、実施例7と同様にして微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。結果を表2に示す。
【0122】
〔実施例12〕
実施例3で得られたロール状モールドを用いた以外は、実施例7と同様にして微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。結果を表2に示す。
【0123】
〔実施例13〕
実施例4で得られたロール状モールドを用いた以外は、実施例7と同様にして微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。結果を表2に示す。
【0124】
〔実施例14〕
実施例5で得られたロール状モールドを用いた以外は、実施例6と同様にして微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。結果を表2に示す。
【0125】
〔実施例15〕
活性エネルギー線硬化性組成物Cを用いた以外は、実施例12と同様にして微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。結果を表2に示す。
【0126】
〔比較例4〕
比較例1で得られたロール状モールドを用いた以外は、実施例7と同様にして微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。結果を表2に示す。
【0127】
【表2】