特許第5673545号(P5673545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許5673545リチウムイオン二次電池負極及びリチウムイオン二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5673545
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20150129BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20150129BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20150129BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20150129BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150129BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150129BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20150129BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150129BHJP
【FI】
   H01M4/133
   H01M4/134
   H01M4/1393
   H01M4/1395
   H01M4/36 E
   H01M4/62 Z
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-533006(P2011-533006)
(86)(22)【出願日】2010年9月22日
(86)【国際出願番号】JP2010066421
(87)【国際公開番号】WO2011037142
(87)【国際公開日】20110331
【審査請求日】2013年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2009-220362(P2009-220362)
(32)【優先日】2009年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 康尋
(72)【発明者】
【氏名】小林 佳
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−357515(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/075446(WO,A1)
【文献】 特開2006−164952(JP,A)
【文献】 特開2000−299108(JP,A)
【文献】 特開2006−107767(JP,A)
【文献】 特開2008−287932(JP,A)
【文献】 特開2007−115671(JP,A)
【文献】 特開2006−339093(JP,A)
【文献】 特開2002−319402(JP,A)
【文献】 特開平11−354125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13− 4/1399
H01M 4/36− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極活物質及びバインダーを含有するリチウムイオン二次電池負極用スラリーであって、
前記負極活物質が、合金系活物質及び炭素系活物質を含み、かつ
記合金系活物質と前記炭素系活物質との重量比が、20:80〜50:50の比率であり、
前記バインダーが、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1〜15重量%含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー
【請求項2】
物質100重量部に対して1〜20重量部の導電材をさらに含有する請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー
【請求項3】
前記バインダーのガラス転移温度が、25℃以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー
【請求項4】
集電体と、前記集電体上に請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリーを塗布、乾燥して形成された活物質層とを備え、
前記活物質層の密度が1.6〜1.9g/cmであるリチウムイオン二次電池負極。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリーを集電体の少なくとも片面に塗布、乾燥して活物質層を形成することを含む、リチウムイオン二次電池負極の製造方法。
【請求項6】
正極、負極、セパレーター及び電解液を有し、前記負極が、請求項に記載の製造方法で製造されたリチウムイオン二次電池負極である、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極及びそれを備えるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコン、携帯電話、PDAなどの携帯端末の普及が著しい。これら携帯端末の電源に用いられている二次電池には、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池(以下、単に「電池」ということがある。)が多用されている。携帯端末は、より快適な携帯性が求められ、小型化、薄型化、軽量化、高性能化が急速に進んでいる。その結果、携帯端末は様々な場で利用されるようになっている。利用範囲の拡大に伴って電源として用いられている電池に対しても、携帯端末に対するのと同様に、小型化、薄型化、軽量化、高性能化が要求されており、電池の高容量化が求められている。
このため、リチウム二次電池の各種の部材や材料の高性能化も活発に試みられ、中でも負極活物質による電池の高容量化は重要度を増している。
【0003】
現在、負極活物質としては、黒鉛などの炭素系活物質が主流であり、放電容量が350〜360mAh/g程度と、黒鉛の理論容量の372mAh/gに近い値のものまで実用化されているが、黒鉛の理論容量を超えることは不可能である。こうした黒鉛の理論容量の限界を踏まえて、Li吸蔵が可能な金属の探索が行われた結果、ケイ素、スズ、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、銅、銀、ゲルマニウム、インジウム等の合金系活物質において高い理論容量が得られる事がこれまでに分かってきている。その中でもケイ素は、理論容量が4200mAh/gと桁違いに大きいが、充放電に伴う膨張収縮により、電極の密着強度が低下し、その結果負極材が劣化し、電池のサイクル寿命が短くなる問題があった。そこで放電容量を高め、かつサイクル特性も改善する目的で、ケイ素と黒鉛粉末を混合したものや、炭素粉末や黒鉛粉末とケイ素粉末とを混合することにより、炭素粉末や黒鉛粉末の表面にケイ素粉末を付着させ、さらにその表面にピッチをコーテングした合金系活物質が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ケイ素化合物と炭素材料とをポリエステル等のバインダー中に分散させて得られたスラリーを用いて得られた負極電極を用いることが提案されている。特許文献1では、リチウムのドープ・脱ドープ時のケイ素化合物負極の体積変化を上記バインダーが吸収し、負極活物質層全体としての体積変化が抑制されて、サイクル劣化が抑えられている。
【0005】
また、特許文献2では、ケイ素粒子及び複数種の炭素質物質を含み、かつ空隙を有するリチウム二次電池用負極材料が提案されている。複数種の炭素質物質として、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバーなどから選択される比較的高い電子伝導性を有する炭素質材料Aと、ピッチ系材料、タール系材料及び樹脂系材料などから選択される非結晶性炭素である炭素質材料Bが開示されている。特許文献2では、炭素質材料B又は炭素質材料Bの前駆体と、ケイ素粒子と、炭素質材料Aとを二軸加熱ニーダー等を用いて混合し、その後熱処理をすることにより得られた複合粒子を負極活物質として用いることで、ケイ素の充放電時の膨張収縮を緩和し、上記サイクル特性の課題を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−299108号公報
【特許文献2】特開2008−277231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1では、ケイ素化合物に対する炭素材料の混合比率が高く、ポリエステル等のバインダーを用いると炭素材料が十分に分散されずに電極中で偏在化する。そのため、電極内で局在化したケイ素化合物の膨張・収縮をバインダーが吸収する事ができず、ケイ素化合物の微粉化が起こり、電極内の抵抗が増大するため、サイクル特性が悪化する。さらにケイ素系の合金系活物質では粒子形状が角張ったものが多く、極板の圧延工程において粒子間の接着力が低下する傾向にある。とくに活物質層の密度が1.6g/cm以上の電極では顕著にこの傾向が見られる。
特許文献2では、ケイ素粒子と炭素質材料とからなる複合粒子が空隙を有することにより、サイクル特性を発揮しており、サイクル特性は向上するものの、体積あたりの電池容量が低くなる傾向にある。また、特許文献2では、ケイ素粒子と炭素質材料を混合、熱処理して複合粒子を作成し、その後ふるいをかけ更に塩酸で不純物を除去し、ろ過・真空乾燥することによって負極材料を得ており、生産工程が増加し、製造コストが増大する。
さらに電極用スラリー作製の際に、複合粒子からサブミクロンの炭素材料が脱離することがあり、この炭素材料がバインダーを通じてスラリー中で構造体を形成し、スラリーの粘度が上昇するという問題がある。
従って、本発明の目的は、活物質を複合化することなく、電極の密着強度の低下を抑制し、かつ寿命劣化の少ないリチウムイオン二次電池を提供可能なリチウムイオン二次電池負極、およびそれに用いるリチウムイオン二次電池負極用スラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、集電体上に、負極活物質及びバインダーを含有する活物質層を含有するリチウムイオン二次電池負極を製造するにあたり、電極活物質として、合金系活物質と炭素系活物質とを所定の比率で混合したものを用い、バインダーとして特定の官能基を持たせたものを用いることにより、スラリー配合中でのバインダーの安定性を向上させることでスラリーの粘度上昇を抑制することができることを見出した。また、炭素系活物質が系内に存在することで合金系活物質粒子同士の接着点を減らすことができ、さらにバインダーに特定官能基が所定量存在することにより、活物質層内部の密着性及び活物質層と集電体との密着性、すなわち電極の密着強度の低下が抑制され、また電池内部における合金系活物質の膨張収縮が緩和され、さらに負極の内部抵抗が低減されることで得られるリチウムイオン二次電池の寿命特性が向上することを見出した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
(1)集電体、及び前記集電体上に設けられた、負極活物質及びバインダーを含有する活物質層を有するリチウムイオン二次電池負極であって、前記負極活物質が、合金系活物質及び炭素系活物質を含み、かつ前記活物質層における前記合金系活物質と前記炭素系活物質との重量比率が、20:80〜50:50の比率であり、前記バインダーが、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1〜15重量%含むリチウムイオン二次電池負極。
(2)前記活物質層が、活物質100重量部に対して1〜20重量部の導電材をさらに含有する上記(1)に記載のリチウムイオン二次電池負極。
(3)前記バインダーのガラス転移温度が、25℃以下である上記(1)又は(2)に記載のリチウムイオン二次電池負極。
(4)前記活物質層の密度が1.6〜1.9g/cmである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極。
(5)負極活物質、バインダー、及び溶媒を含有し、前記負極活物質が合金系活物質及び炭素系活物質を含み、かつ、前記合金系活物質と炭素系活物質との重量比率が、20:80〜50:50であり、前記バインダーがエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1〜15重量%含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー。
(6)正極、負極、セパレーター及び電解液を有し、前記負極が、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極である、リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、合金系活物質と炭素系活物質とを20:80〜50:50(重量比)の比率で混合した活物質、またエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1〜15重量%含むバインダー、及び溶媒とを配合して得たスラリーを用いることにより、合金系活物質および炭素系活物質が活物質層内で均一に分布する結果、合金系活物質粒子同士の接着点が減少することにより、さらにバインダーがエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を含むことにより、活物質層内部の密着強度、及び活物質層と集電体との密着強度、すなわち電極の密着強度が向上する。さらに合金系活物質の膨張収縮が炭素系活物質によって緩和されるとともに負極の内部抵抗が低減されるため、寿命劣化の少ない電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を記述する。
【0012】
(リチウムイオン二次電池負極用スラリー)
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリーは、負極活物質、バインダー及び溶媒を含有し、前記負極活物質として合金系活物質と炭素系活物質を含有する。
【0013】
(合金系活物質)
本発明で用いる合金系活物質とは、リチウムの挿入可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の重量あたりの理論電気容量が500mAh/g以上(当該理論電気容量の上限は、特に限定されないが、例えば5000mAh/g以下とすることができる。)である活物質をいい、具体的には、リチウム金属、リチウム合金を形成する単体金属およびその合金、及びそれらの酸化物や硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物等が用いられる。
リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn等の金属を含有する化合物が挙げられる。それらの中でもケイ素(Si)、スズ(Sn)または鉛(Pb)の単体金属若しくはこれら原子を含む合金、または、それらの金属の化合物が用いられる。
本発明で用いる合金系活物質は、さらに、一つ以上の非金属元素を含有していてもよい。具体的には、例えばSiC、SiO(以下、「Si−O−C」と呼ぶ)(0<x≦3、0<y≦5)、Si、SiO、SiO(0<x≦2)、SnO(0<x≦2)、LiSiO、LiSnO等が挙げられ、中でも低電位でリチウムの挿入脱離が可能なSiOが好ましい。例えば、SiOは、ケイ素を含む高分子材料を焼成して得ることができる。SiOの中でも、容量とサイクル特性の兼ね合いから、0.8≦x≦3、2≦y≦4の範囲が好ましく用いられる。
【0014】
酸化物や硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物としては、リチウムの挿入可能な元素の酸化物や硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物等が挙げられ、その中で酸化物が特に好ましい。具体的には酸化スズ、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化バナジウム等の酸化物、Si、Sn、PbおよびTi原子よりなる群から選ばれる金属元素を含むリチウム含有金属複合酸化物材料が用いられている。ケイ素の酸化物としてはシリコンカーバイド(Si−O−C)のような材料も挙げられる。
リチウム含有金属複合酸化物としては、更にLiTiで示されるリチウムチタン複合酸化物(0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、ZnおよびNb)が挙げられ、中でもLi4/3Ti5/3、Li1Ti、Li4/5Ti11/5が用いられる。
これらの中でもケイ素を含む材料が好ましく、中でもSi−O−Cがさらに好ましい。この化合物では高電位でSi(ケイ素)、低電位ではC(炭素)へのLiの挿入脱離が起こると推測され、他の合金系活物質よりも膨張・収縮が抑制されるため、本発明の効果がより得られ易い。
本発明に用いる合金系活物質の体積平均粒子径は、0.1〜50μmであることが好ましく、0.5〜20μmがさらに好ましく、1〜10μmが最も好ましい。合金系活物質の粒子径がこの範囲内であれば後述する電極用スラリーの作製が容易となる。
【0015】
(炭素系活物質)
本発明に用いる炭素系活物質とは、リチウムが挿入可能な炭素を主骨格とする活物質をいい、具体的には、炭素質材料と黒鉛質材料が挙げられる。炭素質材料とは一般的に炭素前駆体を2000℃以下(当該処理温度の下限は、特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる)で熱処理(炭素化)された黒鉛化の低い(結晶性の低い)炭素材料を示し、黒鉛質材料とは易黒鉛性炭素を2000℃以上(当該処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以上とすることができる)で熱処理することによって得られた黒鉛に近い高い結晶性を有する黒鉛質材料を示す。
【0016】
炭素質材料としては、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素が挙げられる。
易黒鉛性炭素としては石油や石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられ、例えば、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。MCMBとはピッチ類を400℃前後で過熱する過程で生成したメソフェーズ小球体を分離抽出した炭素微粒子であり、メソフェーズピッチ系炭素繊維とは、前記メソフェーズ小球体が成長、合体して得られるメソフェーズピッチを原料とする炭素繊維である。
難黒鉛性炭素としては、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)などが挙げられる。
【0017】
黒鉛質材料としては天然黒鉛、人造黒鉛があげられる。人造黒鉛としては、主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などがあげられる。
【0018】
炭素系活物質の中でも黒鉛質材料が好ましい。黒鉛質材料を用いることで負極の活物質層の密度を上げやすくなり、活物質層の密度が1.6g/cm以上(当該密度の上限は、特に限定されないが、2.2g/cm以下とすることができる。)の負極の作製が容易となる。前記範囲の密度の活物質層を有する負極であれば本発明の効果が顕著に現れる。
【0019】
本発明に用いる炭素系活物質の体積平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜50μmがさらに好ましく、1〜30μmが最も好ましい。炭素系活物質の粒子径がこの範囲内であれば後述する電極用スラリーの作製が容易となる。
【0020】
合金系活物質と炭素系活物質の混合方法としては、乾式混合、湿式混合が挙げられるが、バインダーが特異的に一方の活物質に吸着するのを防ぐことができる点で乾式混合が好ましい。
ここでいう乾式混合とは、合金系活物質の粉体と炭素系活物質の粉体同士を混合機を用いて混合することをいい、具体的には混合時の固形分濃度が90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは97重量%以上で混合することをいう。混合時の固形分濃度が、前記範囲であれば粒子形状を維持したまま均一に分散させることができ、活物質の凝集を防ぐことができる。
乾式混合の際に用いる混合機としては、乾式タンブラー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、フラッシュミキサー、エアーブレンダー、フロージェットミキサー、ドラムミキサー、リボコーンミキサー、パグミキサー、ナウターミキサー、リボンミキサー、スパルタンリューザー、レディゲミキサー、プラネタリーミキサーがあげられ、スクリュー型ニーダー、脱泡ニーダー、ペイントシェーカー等の装置、加圧ニーダー、二本ロールなどの混練機を例示できる。
上述した方法の中で比較的容易にできるものとして、攪拌による分散が可能なプラネタリーミキサーなどのミキサー類が挙げられ、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサーが特に好ましい。
【0021】
合金系活物質と炭素系活物質との混合比は、重量比で、20:80〜50:50、好ましくは20:80〜40:60である。合金系活物質と炭素系活物質とを上記範囲で混合することにより、従来の炭素系活物質のみを用いて得られた電極よりも容量の大きい電池を得ることができ、かつ電極の密着強度、サイクル特性の低下といった問題も解決することができる。
【0022】
(バインダー)
本発明に用いるバインダーは、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1〜15重量%含む。本発明に用いるバインダーが、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1〜15重量%含むことにより、バインダーの安定性が保持され、経時でのスラリーの粘度上昇が抑制され、さらに電極の密着強度が向上する。
本願において、あるモノマーの重合単位とは、当該モノマーが重合反応することにより形成される、重合体中の重合単位を意味する。具体例を挙げれば、ポリアクリル酸における、「アクリル酸の重合単位」は、単位−(CH−CH(COOH))−である。
本発明に用いるバインダー中のエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位が0.1重量%未満であると、前記効果が発現せず、またエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位が15重量%を超えると、バインダー中の水分がカルボン酸基の水和に用いられ、バインダー自身の粘度上昇が顕著に起こり、スラリーの粘度上昇を引き起こし、活物質層と集電体の密着強度が低下してしまう。
本発明に用いるバインダー中のエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位の含有量は、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%である。バインダー中のエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位の含有量が前記範囲であることにより、バインダーの安定性が保持され、経時でのスラリーの粘度上昇をより抑制することができる。また、電極の密着強度がより向上する。
エチレン性不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などが挙げられる。中でも、バインダーの表面に官能基を存在させやすいという点で、アクリル酸やイタコン酸が好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位は、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーを後述するバインダーを構成するモノマーとして用いることにより導入することができる。
【0023】
バインダーは、結着性を有するバインダー(重合体)粒子が水または有機溶媒に溶解または分散された溶液または分散液である(以下、これらを総称して「バインダー分散液」と記載することがある)。バインダー分散液が水系の場合は、通常、重合体粒子分散液であり、例えば、ジエン系重合体粒子分散液、アクリル系重合体粒子分散液、フッ素系重合体粒子分散液、シリコン系重合体粒子分散液などが挙げられる。この中でも、活物質との結着性および得られる負極の強度や柔軟性に優れるため、ジエン系重合体粒子分散液又はアクリル系重合体粒子分散液が好ましい。ジエン系重合体粒子分散液やアクリル系重合体粒子分散液を用いると、活物質との結着性が高い為、負極の剥がれ等を生じにくい。その結果、充放電時の活物質の膨張・収縮に対してバインダーの剥がれが生じにくいため、活物質の集電体からの剥がれを防ぎ、負極の抵抗増加を抑制する。その結果高いサイクル特性を示すことができる。
【0024】
ジエン系重合体粒子分散液とは、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンを重合してなる単量体単位を含む重合体の水分散液である。ジエン系重合体中の共役ジエンを重合してなる単量体単位の割合は、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。ジエン系重合体としては、共役ジエンと、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーと、共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。前記共重合可能な単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物が挙げられる。これらの中でもα,β−不飽和ニトリル化合物やスチレン系モノマーが好ましく、スチレン系モノマーが特に好ましい。これらの共重合可能な単量体由来の重合単位の割合は、5〜70重量%が好ましく、10〜60重量%がさらに好ましい。
【0025】
アクリル系重合体粒子分散液とは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを重合してなる単量体単位を含む重合体の水分散液である。アクリル系重合体中のアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを重合してなる単量体単位の割合は、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。アクリル系重合体としては、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルと、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーとこれと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。前記共重合可能な単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステルモノマー;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;アクリルアミド、N−メチロールアクエイルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物が挙げられる。これらの中でも、α,β−不飽和ニトリル化合物やスチレン系モノマーが好ましく、α,β−不飽和ニトリル化合物が特に好ましい。これらの共重合可能な単量体由来の重合単位の割合は、3〜50重量%が好ましく、5〜40重量%がさらに好ましい。
【0026】
本発明で用いるバインダー分散液のpHは、7〜12であることが好ましく、8〜10であることがさらに好ましい。バインダーのpHが上記範囲であることにより、前記のバインダーの静電反発効果が発現し、バインダーの安定性が保持され、経時でのスラリーの粘度上昇が抑制される。
【0027】
バインダー分散液は、水を分散媒とした水系バインダーであってもよく、また有機溶剤を分散媒とした非水系バインダーであってもよいが環境への負荷の面や導電材の分散性から、水系バインダーが好ましく用いられる。
【0028】
水系バインダーは、例えば、上記単量体を水中で乳化重合することにより製造できる。また、非水系バインダーは、前記水系バインダーを有機溶媒で置換することにより製造できる。バインダー分散液中のバインダー粒子の個数平均粒径は、50nm〜500nmが好ましく、70nm〜400nmがさらに好ましい。バインダー粒子の個数平均粒径がこの範囲であると得られる負極の強度および柔軟性が良好となる。
【0029】
本発明において、バインダーのガラス転移温度は、25℃以下であることが好ましく、より好ましくは−100℃〜+25℃、更に好ましくは−80℃〜+10℃、最も好ましくは−80℃〜0℃である。バインダーのガラス転移温度が、前記範囲であることにより、負極の柔軟性、結着性及び捲回性、活物質層と集電体層との密着性などの特性が高度にバランスされ好適であり、また合金系活物質粒子表面がバインダーに被覆されている状態を保持できるため、極板プレス工程における活物質からのバインダーの剥がれを抑制し、密着強度の低下を抑制することができる。
【0030】
本発明の負極用スラリーにおける、合金系活物質、炭素系活物質及びバインダーの合計含有量は、スラリー100重量部に対して、好ましくは10〜90重量部であり、さらに好ましくは30〜80重量部である。また合金系活物質と炭素系活物質との総量に対するバインダーの含有量(固形分相当量)は、合金系活物質と炭素系活物質との総量100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部であり、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。負極用スラリーにおける合金系活物質、炭素系活物質及びバインダーの合計含有量およびバインダーの含有量が、前記範囲であると得られる負極用スラリーの粘度が適正化され、塗工を円滑に行えるようになり、また得られた電極に関して抵抗が高くなることなく、十分な密着強度が得られる。その結果、極板プレス工程における活物質からのバインダーの剥がれを抑制することができる。
【0031】
(溶媒)
溶媒としては、上記固形分(合金系活物質、炭素系活物質、バインダー、導電材、増粘剤、後述する任意の成分)、を均一に分散し得るものであれば特に制限されない。
負極用スラリーに用いる溶媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用できる。有機溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン、ジソプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのケトン類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素など塩素系脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類があげられる。
これらの溶媒は、単独で使用しても、これらを2種以上混合して混合溶媒として使用してもよい。これらの中でも沸点が低く揮発性が高い溶媒が、短時間でかつ低温で除去できるので好ましい。具体的には、アセトン、トルエン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、キシレン、水、若しくはN−メチルピロリドン、またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0032】
(増粘剤)
本発明の負極用スラリーは、さらに増粘剤を含有してもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられ、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩が好ましく用いられる。これは上記増粘剤がスラリー作製時に活物質の表面を均一に覆いやすいため、活物質間の接着を向上させる効果があるためである。
【0033】
増粘剤の配合量は、合金系活物質と炭素系活物質の総量100重量部に対して、0.5〜2.0重量部が好ましい。増粘剤の配合量がこの範囲であると、塗工性、集電体との密着性が良好である。本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。
【0034】
(導電材)
本発明の負極用スラリーは、導電材を含有することが好ましい。導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を含有することにより、活物質同士の電気的接触を向上させることができ、リチウムイオン二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善することができる。負極用スラリーにおける導電材の含有量は、合金系活物質と炭素系活物質の総量100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部である。
【0035】
本発明の負極用スラリーには、上記成分のほかに、さらに補強材、分散剤、レベリング剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の、任意の成分が含まれていてもよく、後述の二次電池負極中に含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0036】
補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより強靭で柔軟な負極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を示すことができる。負極用スラリーにおける導電材や補強剤の含有量は、合金系活物質と炭素系活物質の総量100重量部に対して通常0.01〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。前記導電材や補強剤の含有量が前記範囲であることにより、高い容量と高い負荷特性を示すことができる。
【0037】
分散剤としてはアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が例示される。分散剤は、用いる負極活物質や導電材の種類に応じて選択される。負極用スラリー中の分散剤の含有量は、合金系活物質と炭素系活物質の総量100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましい。前記分散剤の含有量が上記範囲であることによりスラリーの安定性に優れ、平滑な負極を得ることができ、高い電池容量を示すことができる。
【0038】
レベリング剤としては、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。前記レベリング剤を混合することにより、塗工時に発生するはじきを防止したり、負極の平滑性を向上させることができる。負極用スラリー中のレベリング剤の含有量は、合金系活物質と炭素系活物質の総量100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。前記レベリング剤の含有量が上記範囲であることにより負極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。
【0039】
電解液添加剤としては、負極用スラリー中及び電解液中に使用されるビニレンカーボネートなどを用いることができる。負極用スラリー中の電解液添加剤の含有量は、合金系活物質と炭素系活物質の総量100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。前記電解液添加剤の含有量が、上記範囲であることによりサイクル特性及び高温特性に優れる。その他には、フュームドシリカやフュームドアルミナなどのナノ微粒子が挙げられる。前記ナノ微粒子を混合することにより負極用スラリーのチキソ性をコントロールすることができ、さらにそれにより得られる負極のレベリング性を向上させることができる。負極用スラリー中のナノ微粒子及の含有量は、合金系活物質と炭素系活物質の総量100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。前記ナノ微粒子の含有量が上記範囲であることによりスラリー安定性、生産性に優れ、高い電池特性を示す。
【0040】
(リチウムイオン二次電池負極用スラリーの製造方法)
リチウムイオン二次電池負極用スラリーは、上記バインダー、合金系活物質と炭素系活物質の混合物、および必要に応じ用いられる増粘剤、導電材等とを溶媒中で混合して得られる。
混合法は特に限定はされないが、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられる。
【0041】
(負極)
本発明のリチウムイオン二次電池負極は、集電体、及び前記集電体上に設けられた、負極活物質及びバインダーを含有する活物質層を有するリチウムイオン二次電池負極であって、前記負極活物質が、合金系活物質及び炭素系活物質を含み、かつ前記活物質層における前記合金系活物質と前記炭素系活物質との重量比が、20:80〜50:50の比率であり、前記バインダーが、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1〜15重量%含む。
好ましい態様において、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体上に、本発明の負極用スラリーを塗布乾燥してなる活物質層を有する。
本発明の負極の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記負極用スラリーを集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に塗布、乾燥し、活物質層を形成する方法が挙げられる。
負極用スラリーを集電体上に塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。
乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5〜30分であり、乾燥温度は通常40〜180℃である。
【0042】
本発明の負極を製造するに際して、集電体上に上記負極用スラリーを塗布乾燥後、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5%〜30%、より好ましくは7%〜20%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難く、活物質層が集電体から剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。
さらに、バインダーとして硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0043】
本発明において、リチウムイオン二次電池用負極の活物質層の厚みは、正極、負極とも、通常5〜300μmであり、好ましくは30〜250μmである。負極厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びサイクル特性共に高い特性を示す。
【0044】
本発明において、負極の活物質層における、合金系活物質と炭素系活物質の合計の含有割合は、好ましくは85〜99重量%、より好ましくは88〜97重量%である。負極の活物質層における合金系活物質と炭素系活物質の合計の含有割合を、前記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0045】
本発明において、リチウムイオン二次電池用負極の活物質層の密度は、好ましくは1.6〜1.9g/cmであり、より好ましくは1.65〜1.85g/cmである。負極の活物質層の密度が上記範囲にあることにより、高容量の電池を得ることができる。
【0046】
(集電体)
本発明で用いる集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、リチウムイオン二次電池の負極用としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、合剤の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0047】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレーター及び電解液を有し、負極が、前記二次電池用負極である。
【0048】
(電解液)
本発明に用いられる電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、また通常は30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0049】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
また前記電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0050】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、硫化リチウム、LiI、LiNなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0051】
(セパレーター)
セパレーターは気孔部を有する多孔性基材であって、使用可能なセパレーターとしては、(a)気孔部を有する多孔性セパレーター、(b)片面または両面上に高分子コート層が形成された多孔性セパレーター、または(c)無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレーターがあり、これらの非制限的な例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレーター、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの固体高分子電解質用またはゲル状高分子電解質用の高分子フィルム、ゲル化高分子コート層がコートされたセパレーター、または無機フィラー、無機フィラー用分散剤からなる多孔膜層がコートされたセパレーターなどがある。
【0052】
(リチウムイオン二次電池正極)
リチウムイオン二次電池正極用電極は、正極活物質及びバインダーを含む正極活物質層が、集電体上に積層されてなる。
【0053】
(正極活物質)
非水電解質二次電池正極用の電極活物質(正極活物質)は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な活物質が用いられ、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。
【0054】
遷移金属酸化物としては、MnO、MnO、V、V13、TiO、Cu、非晶質VO−P、MoO、V、V13等が挙げられ、中でもサイクル安定性と容量からMnO、V、V13、TiOが好ましい。
遷移金属硫化物としては、TiS、TiS、非晶質MoS、FeS等が挙げられる。
リチウム含有複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0055】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。
スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはマンガン酸リチウム(LiMn)やMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn3/21/2]O(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはLiMPO(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0056】
有機化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。
電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を共存させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これら化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。リチウムイオン二次電池用の正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。
【0057】
正極活物質の平均粒子径は、通常1〜50μm、好ましくは2〜30μmである。粒子径が上記範囲にあることにより、後述するスラリーを調製する際のバインダー量を少なくすることができ、電池の容量の低下を抑制できると共に、スラリーを、塗布するのに適正な粘度に調製することが容易になり、均一な電極を得ることができる。
【0058】
正極の正極活物質層における正極活物質の含有割合は、好ましくは90〜99.9重量%、より好ましくは95〜99重量%である。電極中における正極活物質の含有量を、前記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0059】
(リチウムイオン二次電池正極用バインダー)
リチウムイオン二次電池正極用バインダーとしては、特に制限されず公知のものを用いることができる。例えば、前述のリチウムイオン二次電池負極用に使用される、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などの樹脂や、アクリル系軟質重合体、ジエン系軟質重合体、オレフィン系軟質重合体、ビニル系軟質重合体等の軟質重合体を用いることができる。これらは単独で使用しても、これらを2種以上併用してもよい。
【0060】
リチウムイオン二次電池用正極には、上記成分のほかに、さらに前述の二次電池用負極中に使用される分散剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の任意の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0061】
リチウムイオン二次電池正極用電極は、正極活物質とバインダーからなる正極活物質が、集電体上に形成されてなる。
集電体は、前述の二次電池負極用に使用される集電体を用いることができ、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、リチウムイオン二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましい。
【0062】
リチウムイオン二次電池用正極活物質層の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。正極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0063】
リチウムイオン二次電池用正極は、前述のリチウムイオン二次電池用負極と同様に製造することができる。
【0064】
(電池の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り重量基準である。
実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価した。
【0066】
(スラリー粘度変化率)
電極用スラリー作製1時間後のスラリー粘度(η1h)と5時間後のスラリー粘度(η5h)とから、下記式によりスラリー粘度変化率を求め、以下の基準で判定した。
スラリー粘度変化率(%)=100×(η5h−η1h)/η1h
A:5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上15%未満
D:15%以上20%未満
E:20%以上25%未満
F:25%以上
なお、スラリーの粘度は、JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計(25℃、回転数=60rpm、スピンドル形状:4)により測定した。
【0067】
(電極の密着強度)
負極を、それぞれ、幅1cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とし、電極活物質層面を上にして固定した。試験片の電極活物質層表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、下記基準にて判定を行った。ピール強度が大きいほど、電極の密着強度が大きいことを示す。
A:6N/m以上
B:5N/m以上〜6N/m未満
C:4N/m以上〜5N/m未満
D:3N/m以上〜4N/m未満
E:2N/m以上〜3N/m未満
F:2N/m未満
【0068】
(初期充電容量)
得られたコインセル型電池を用いて、それぞれ25℃で0.1Cの定電流定電圧充電法という方式で、0.02Vになるまで定電流で充電し、得られた容量を初期充電容量とした。
【0069】
(充放電サイクル特性)
得られたコインセル型電池を用いて、それぞれ25℃で0.1Cの定電流定電圧充電法という方式で、0.02Vになるまで定電流で充電、その後定電圧で充電し、また0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルは50サイクルまで行い、初期放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、下記の基準で判定した。この値が大きいほど繰り返し充放電による容量減が少ないことを示す。
A:80%以上
B:75%以上80%未満
C:70%以上75%未満
D:65%以上70%未満
E:60%以上65%未満
F:60%未満
【0070】
(実施例1)
(負極用スラリーの製造)
カルボキシメチルセルロース(CMC)として、第一工業製薬株式会社製「ダイセル2200」を用い、1.0%のCMC水溶液を調製した。
【0071】
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、炭素系活物質として体積平均粒子径24.5μmの人造黒鉛を70部、合金系活物質として体積平均粒子径10μmのSi−O−C系の活物質を30部、導電材としてアセチレンブラックを5部加えて低速羽根のみを用いて20分間攪拌した。
その後、上記1%のCMC水溶液を固形分基準で1.0部となるように加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分間混合した。
次に、バインダーとして、ブタジエンの重合単位を49%、スチレンの重合単位を47%、アクリル酸の重合単位を4%を含み、固形分濃度が40%、ガラス転移温度が−17℃、個数平均粒子径が100nm、pHが8.5であるスチレン−ブタジエン重合体粒子水分散液を固形分基準で1.0部となるように入れ、さらにイオン交換水を入れて最終固形分濃度48%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリーを得た。
負極用スラリーの粘度変化率の評価結果を表2に示す。
【0072】
(電池の製造)
上記負極用スラリーを、コンマコーターで、厚さ20μmの銅箔の片面に、乾燥後の膜厚が200μm程度になるように塗布し、0.5m/minの速度で60℃で2分間乾燥、120℃で2分間加熱処理して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延して活物質層の厚みが80μm、密度が1.7g/cmの負極用電極を得た。
【0073】
前記負極用電極を直径12mmの円盤状に切り抜いた。この円盤状の負極の活物質層側の面上に直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、正極として用いる金属リチウム、エキスパンドメタルを順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのハーフセルを作製した。
【0074】
なお、電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。
このコイン型電池の性能の評価結果を表2に示す。負極の評価結果も表2に示す。
【0075】
(実施例2)
Si−O−C系の活物質のかわりに体積平均平均粒子径約20μmのケイ素粒子を活物質として使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例3)
人造黒鉛の配合量を50部、Si−O−C系の活物質の配合量を50部としたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
(実施例4)
導電材を使用しないこと以外は実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
(実施例5)
バインダーとして、ブタジエンの重合単位を49%、スチレンの重合単位を50.5%、アクリル酸の重合単位を0.5%含み、固形分濃度が40%、ガラス転移温度が−10℃、個数平均粒子径が105nm、pHが8.5のスチレン−ブタジエン重合体粒子水分散液を1.0部(固形分基準)用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
(実施例6)
バインダーとして、ブタジエンの重合単位を47%、スチレンの重合単位50.5%、アクリル酸の重合単位を2.5%を含み、固形分濃度が40%、ガラス転移温度が−8℃、個数平均粒子径が97nm、pHが8.5のスチレン−ブタジエン重合体粒子水分散液を1.0部(固形分基準)用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
(実施例7)
バインダーとして、ブタジエンの重合単位を44%、スチレンの重合単位を46%、アクリル酸の重合単位を10%含み、固形分濃度が40%、ガラス転移温度が−5℃、個数平均粒子径が150nm、pHが8.5のスチレン−ブタジエン重合体粒子水分散液を1.0部(固形分基準)用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
(実施例8)
バインダーとして、ブタジエンの重合単位を32%、スチレンの重合単位を64%、アクリル酸の重合単位を4%含み、固形分濃度が40%、ガラス転移温度が10℃、個数平均粒子径が98nm、pHが8.5のスチレン−ブタジエン重合体粒子水分散液を1.0部(固形分基準)用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
(実施例9)
負極用スラリーを塗布、乾燥後の膜厚が80μm程度になるように、銅箔の片面に塗布し、この電極原反をロールプレスで圧延して厚さ140μm、密度1.3g/cmの負極用電極を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0083】
(実施例10)
バインダーとして、ブタジエンの重合単位を49%、スチレンの重合単位を47%、イタコン酸の重合単位を4%含み、固形分濃度が40%、ガラス転移温度が−15℃、個数平均粒子径が98nm、pHが8.5のスチレン−ブタジエン重合体粒子水分散液を1.0部(固形分基準)用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
(比較例1)
活物質として、人造黒鉛を用いず、Si−O−C系の活物質を100部用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
(比較例2)
バインダーとして、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を含まず、ブタジエンの重合単位を50%、スチレンの重合単位を50%含み、固形分濃度が40%、ガラス転移温度が−12℃、個数平均粒子径が150nm、pHが8.0のスチレン−ブタジエン重合体粒子水分散液を1.0部(固形分基準)用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
(比較例3)
バインダーとして、ブタジエンの重合単位を45%、スチレンの重合単位を37%、メタクリル酸の重合単位を18%含み、固形分濃度が40%、ガラス転移温度が5℃、個数平均粒子径が130nm、pHが8.0のスチレン−ブタジエン重合体粒子水分散液を1.0部(固形分基準)用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、負極用スラリー、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
(比較例4)
人造黒鉛の配合量を20部、Si−O−C系の活物質の配合量を80部としたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、電極及びハーフセルを作製し、これらの評価を行った。結果を表2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
表1及び表2の結果から、以下のことがいえる。
本発明によれば、実施例1〜10に示すように、電極活物質及びバインダーを含む電極活物質層中に合金系活物質及び炭素系活物質を含み、かつ前記合金系活物質と炭素系活物質との重量比が20:80〜50:50で、バインダーがエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1〜15重量%含むことにより、スラリー安定性、電極の密着強度、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、実施例の中でも、合金系活物質としてSi−O−C系の活物質を用い、合金活物質と炭素系活物質の重量比で20:80〜40:60の範囲にあり、バインダーが、ガラス転移温度が−80℃〜0℃の範囲にあり、かつアクリル酸またはイタコン酸の重合単位を1〜5重量%の範囲で含むものであり、導電材を1〜20重量部の範囲で含む実施例1、実施例6や実施例10が、スラリー安定性、電極の密着強度、サイクル特性の全てに最も優れている。
一方、電極活物質層に合金系活物質を単独で用いた場合(比較例1)、バインダーとしてエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を含まないものを用いた場合(比較例2)、バインダーとしてエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位が15重量%を超えるものを用いた場合(比較例3)、合金系活物質と炭素系活物質の重量比を80:20としたものを用いた場合(比較例4)は、特にピール強度、充放電サイクル特性が著しく劣る。